フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第43回】 「単独株式移転」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、単独株式移転について解説する。「単独株式移転」とは、1つの株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。例えば、親会社を純粋持株会社にする場合に用いる組織再編である。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 株式移転設立完全親会社は、設立に伴い受け入れる株式移転完全子会社の株式を計上し、合わせて株主資本を計上する。 (1) 株式移転完全子会社の取得原価の算定 ① 原則 株式移転の「株式移転日の前日」における株式移転完全子会社の適切な帳簿価額による株主資本の額により算定する(企業会計基準適用指針第 10 号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下、「指針」という)」258、239(1)①ア)。 ② 簡便的な取り扱い 株式移転完全子会社の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日において算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合(※)には、株式移転完全子会社株式の取得原価は、株式移転完全子会社の「直前の決算日」に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができる(指針258、239(1)①イ)。 (※) 株式移転完全子会社の直前の決算日後に、多額の増資、自己株式の取得等の資本取引、重要な減損損失の認識がないなど、株式移転日の前日までの間に適正な帳簿価額による株主資本の額に重要な変動が生じていないと認められる場合をいう(指針404-3)。 (2) 株式移転設立完全親会社の株主資本の金額 株式移転設立完全親会社の株主資本は、会社計算規則52条に従い、株式移転完全子会社の財産の帳簿価額をもとに計上する。具体的には、株式移転計画で、資本金と資本準備金を定め、株式移転完全子会社の株主資本と資本金及び資本準備金の差額をその他資本剰余金として計上する。したがって、株式移転完全子会社の利益剰余金の金額は、株式移転設立完全親会社において利益剰余金として計上されない。 【留意点】 株式移転完全子会社の株主資本がマイナスの場合、そのマイナス額を、その他利益剰余金として計上する(会社計算規則52②ただし書)。 この場合、子会社株式をマイナスとすることはできないため、負債に特別勘定として計上する(会社計算規則12)。 なお、株式移転完全子会社は、株主が変わるだけであるため、会計処理は不要である。 株式移転完全子会社に対する投資と資本を相殺消去する。また、株式移転設立完全親会社の株主資本の額は、株式移転直前の連結財務諸表の株主資本とするため、株式移転完全子会社の利益剰余金について、【STEP1】で計上した資本剰余金から振り替える(指針259、240)。 《設例》 X社は単独で株式移転を行い、当期末に純粋持株会社P社を設立した。 株式移転計画では、資本金5,000とし、残りはその他資本剰余金とすると定められている。 X社の株式移転日前日の貸借対照表は以下のとおりである。 〈会計処理〉 1 株式移転設立完全親会社P社の会計処理 (※1) 株式移転計画に基づく (※2) (資本金5,000+その他資本剰余金5,000+その他利益剰余金10,000)-資本金5,000=15,000 (※3) (※1)+(※2) 2 連結財務諸表における会計処理 (1) 投資と資本の相殺消去 (※4) X社の帳簿価額 (2) 株主資本項目の調整 (※5) X社のその他利益剰余金を引き継ぐため、その他資本剰余金から振り替える。 企業結合年度において、共通支配下の取引等に係る重要な取引がある場合には、以下の(1)及び(2)を注記する。なお、個々の共通支配下の取引等についての重要性は乏しいが、企業結合年度における複数の共通支配下の取引等全体では重要性がある場合には、当該企業結合全体で注記する。 また、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」52)。 なお、計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、3のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第154回】 固定資産に関する会計処理① 「公共施設等運営権に関する会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 〔公共施設等運営権の取得時の会計処理〕 ◆X0年4月1日 〔公共施設等運営権の減価償却〕 ◆X1年3月31日 〔公共施設等運営権に係る負債のワンイヤー・ルールの適用〕 ◆X1年3月31日 〈会計処理の解説〉 1 公共施設等運営権制度の概要 公共施設等運営権制度とは、簡単に言うと、公共施設の所有権を国や自治体といった公的主体に残したまま、民間事業者に対して公共施設等の運営権を設定する制度のことをいいます。 【公共施設等運営権制度のイメージ】 (※) 実務上、民間事業者が運営権を取得する際、金融機関等から資金を調達することが考えられますが、制度を理解しやすくするため、上記の図表には記載していません。 【公共施設等運営権制度のメリット】 ▷ 国・自治体(公的主体) ・事業主体から対価を徴収することにより、施設収入の早期回収を実現 ・事業収支及びマーケットリスクが公的主体から事業者へ移転 ▷ 民間事業者 ・運営権を独立した財産権とすることで、抵当権の設定等が可能となり、資金調達が円滑化 ・自由度の高い事業運営が可能 ・運営権の取得に要した費用は減価償却が可能 ▷ 施設利用者 ・事業者による自由度の高い運営が可能となり、利用者ニーズを反映した質の高い公共サービスが提供 (NPO法人全国地域PFI協会の資料「資料番号:X02AC-PFI-info1040」を一部加工して作成) 2 会計処理の解説 (1) 公共施設等運営権の取得時の会計処理 公共施設等運営権実施契約において定められた公共施設等運営権の対価について、その支出額の総額を無形固定資産の区分に公共施設等運営権などその内容を示す科目をもって計上することになります。 〔公共施設等運営権の取得時の会計処理〕 ◆X0年4月1日 10,000:公共施設等運営権実施契約において定められた公共施設等運営権の対価 なお、運営権の対価が固定額ではなく、将来の業績等の指標に連動する形式で定められる場合は、公共施設等運営権を取得した時に合理的に見積もられた運営権対価の支出額の総額を無形固定資産として計上します。 (2) 公共施設等運営権の減価償却 無形固定資産に計上した公共施設等運営権は、原則として、運営権設定期間を耐用年数として、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、取得原価を各事業年度に配分します。 〔公共施設等運営権の減価償却〕 ◆X1年3月31日 1,000:取得原価10,000÷運営権設定期間10年で算出 なお、公共施設等運営権実施契約において、一定の条件の下で運営権設定期間を延長することができる条項(延長オプション)が定められる場合、運営権者がオプションを行使する意思が明らかな場合を除き、延長可能な期間は公共施設等運営権の耐用年数に含めないため、注意が必要です。 (3) 減損会計との関係 公共施設等運営権は減損会計の対象となり、原則として、公共施設等運営権実施契約に定められた公共施設等運営権の単位を1つの資産グループとします。 ただし、管理会計上の区分、投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位、継続的な収支の把握がなされている単位及び他の単位から生じるキャッシュ・イン・フローとの相互補完性を考慮し、公共施設等運営事業の対象とする公共施設等ごとに合理的な基準で分割した公共施設等運営権の単位でグルーピングすることもできます。 (4) 公共施設等運営権に係る負債のワンイヤー・ルールの適用 運営権対価を分割で支払う場合、貸借対照表日後1年以内に支払期限が到来するものは流動負債の区分に、貸借対照表日後1年を超えて支払期限が到来するものは固定負債の区分に、公共施設等運営権に係る負債などその内容を示す科目をもってそれぞれ計上します。 〔公共施設等運営権に係る負債のワンイヤー・ルールの適用〕 ◆X1年3月31日 1,000:X1年4月1日に支払予定の金額 (了)
特別養子制度の改正ポイントと相続実務への影響 クレド法律事務所 弁護士 栗田 祐太郎 「特別養子制度」は昭和62年(1987年)の民法改正により創設された制度であるが、「民法等の一部を改正する法律」(令和元年法律第34号)によって令和元年(2019年)6月7日に32年ぶりに改正された(同月14日公布)。 施行予定は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日であり、本稿執筆時点では明らかになっていない。 本稿では、改正法の内容を一覧表で整理し、わかりやすく解説するとともに相続実務への影響についても検討したい。 1 特別養子制度の概要 特別養子制度とは、一定の要件を満たすことで、養子と実親との親族関係が消滅し、養子と養親との間で実の親子と同様の親族関係を発生させる制度である。 (注) 普通養子縁組では、養子と実親との親族関係を継続したまま、養子と養親との間で新たに親子関係を発生させる。 手続に裁判所が関与することや、戸籍上も一見すると養親の実子であるかのように記載されるといった点も、普通養子とは異なる。 特別養子は、望まない出産による育児放棄や児童虐待等により児童相談所に保護されている児童に家庭を与え、子供を実子同様に育てたい養親の感情に配慮することで、養子となる児童の福祉を実現することを目指した制度である。 制度創設後の数年間は、年間1,000件前後の利用があったものの、その後は、法が要求する一定の要件を満たすことが難しいとして制度の利用を断念するケースも多くあった。そのため近年は、年間300~500件前後程度で推移し、利用が伸び悩んでいた。 今回の改正は、特別養子制度をより使いやすくし、子の利益への配慮も強化する方向での改正である。 今回の改正法の要点は、①特別養子を利用できる場合の要件の緩和、及び②家庭裁判所の手続合理化の2点にある。 2 特別養子が認められるための要件についての改正点 まず、要件に関する改正事項のポイントを旧法と比較して整理すると、次のとおりとなる。 【改正法のポイント(要件面)】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 従前、特別養子制度の利用が伸び悩んだ原因の1つは、対象となる養子の年齢制限が低いことにあると指摘されていた。特別養子による新たな家庭を得ることを必要としている児童は、6歳未満の者に限られないことは勿論である。そこで、今回の改正では、諸外国並みの15歳未満に年齢制限を拡大した。 また、特別養子制度を利用できなかったケースのうち、実父母の同意が原因となったケースが多くの割合を占めていた。そのため、改正法では、実父母の同意と撤回についても一定の制限が付された。 3 縁組手続についての改正点 旧法下では、特別養子を実現するための手続においても、実親との対立構造が生じることがあること、また、前述のように、実親による同意の撤回の可能性を抱えながら6ヶ月以上の試験養育等といった相応の負担がかかる手続を進める必要があったこと等の事情が、養親候補者に特別養子縁組の選択を躊躇させる原因ともなっていた。 そこで、養親候補者の不安・負担を軽減するために、特別養子に関する審判手続を次のように2段階に分け、整備し直した。 【改正法のポイント(手続面)】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 4 相続実務への影響 今回の改正法では、特別養子の特別な効果である「実親との親族関係が消滅すること=実親の法定相続人とはならないこと」という点に変更はない。 ただし、今回の改正により、特別養子制度の利用件数は徐々に増加していくものと考えられる。「法定相続人の確定」という相続手続の出発点に関わる事項であり、実親・養親とそれぞれの相続に関して問題となってくるだけに、相続手続のスムーズな進行のためにも、今一度、改正法を含めた特別養子制度の概要を見直しておく必要があろう。 (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第9回】 「配偶者短期居住権に関する留意点」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、配偶者短期居住権に関する留意点について解説する。 1 配偶者短期居住権とは 配偶者が、被相続人の死亡前から被相続人所有建物に居住していた場合、建物に関して、特段の事情がない限り、被相続人と配偶者との間で、被相続人の相続開始時を始期として使用貸借契約が成立しているものと推認されていた(最高裁平成8年12月17日判決)。しかしこのように考えたとしても、被相続人が配偶者以外の者に建物を遺贈した場合などには、被相続人と配偶者との間に使用貸借契約が成立していたとは考えられず、配偶者は直ちに建物を明け渡さなければならないことになる。 そこで、配偶者保護の観点から、配偶者が相続開始時に被相続人所有建物に無償で居住していた場合、一定の期間、配偶者は無償で建物を使用できるとする配偶者短期居住権が定められた(改正後民法1037条)。 改正民法では、配偶者居住権(改正後民法1028条)も定められているが、配偶者居住権は遺贈・遺産分割・審判があってはじめて成立することや、配偶者居住権者が長期間建物を使用することになることから、配偶者居住権が成立することはさほど頻繁ではないと思われる。 しかし配偶者短期居住権成立の要件は、被相続人死亡前に配偶者が被相続人所有建物に居住していることであり、頻繁に成立することが予想される。 なお、配偶者短期居住権に関する条文は2020年4月1日から施行され、特段の経過措置はないため、原則通り2020年4月1日以後に発生する相続に適用される。 2 具体例による検討 〔例①〕 被相続人は、自身が単独所有する建物を、子Aに遺贈した。被相続人の配偶者Bは、被相続人が所有していた建物に、被相続人の生前から居住し、現在も居住している。 BはAとの間で、建物以外の遺産をめぐって遺産分割の話し合いを続けているが、被相続人の死亡から既に2年が経過している。 AはBに対し、遺産分割協議の成立を待たずに建物の明渡しを求めることができるか。 配偶者短期居住権は、居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合には、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日まで存続し(改正後民法1037条1項1号)、これ以外の場合には、居住建物取得者から配偶者短期居住権消滅申入れから6ヶ月を経過する日まで存続する(改正後民法1037条1項2号)。 本件のように、被相続人が単独所有する建物を、子が単独で取得することとなったような場合には、「居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」には当たらないから、その他の場合として、改正後民法1037条1項2号の適用を受けることになる。したがって、BはAに対し配偶者短期居住権消滅申入れを行うことで、その6ヶ月後には明渡しを求めることができることとなる。 「遺産分割成立後6ヶ月」が問題となるのは、建物についての遺産分割をすべき場合に限られるのは、条文の通りである。本件のように相続人間で遺産分割の話し合いがあるような場合、「遺産分割成立6ヶ月後までは配偶者短期居住権が存続する」などと曖昧に記憶することがないよう留意されたい。 〔例②〕 被相続人は、遺言を作成することなく死亡した。被相続人は、被相続人単独名義の建物を所有しており、被相続人の配偶者Bは、この建物に被相続人の生前から居住し、現在も居住している。 Bは子Aとの間で、建物をめぐって遺産分割の話し合いを一応続けているが、Bの不合理な主張により話し合いはまとまらず、被相続人の死亡から既に5年が経過している。 AはBに対し、遺産分割協議の成立を待たずに、A自身の建物の使用を求めることはできるか。 本件は、「居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」であるから、改正後民法1037条1項1号により、遺産分割により建物所有者が確定する日の6ヶ月後まで、配偶者短期居住権が存続するのが原則である。したがって、AはBに対し、A自身の建物使用や損害賠償も求められないのが原則である。 しかし、本件のように、Bが不合理な主張を繰り返し、被相続人死亡から5年も経過しているのに遺産分割協議がまとまらないような場合、配偶者保護という配偶者短期居住権の趣旨からは外れており、いつまでもBを保護すべき必要はない。中間試案補足説明4頁にも、「配偶者が意図的に遺産分割協議を引き延ばしているような場合については、権利濫用等の一般条項による解決もあり得る」との指摘がある。 そこで、Aとしては、Bの権利濫用を主張して、遺産分割協議成立前であっても、建物の共有者(民法898条・改正なし)であることを理由として建物の使用を請求することや、使用が妨げられた場合の損害賠償請求を行うこともあり得る。 当然ではあるが、配偶者短期居住権も権利濫用といった一般条項により制約を受ける場合があることに留意されたい。 〔例③〕 被相続人は、遺言を作成することなく死亡した。被相続人の相続人は、配偶者B、子A、子Cである。被相続人は、被相続人単独名義の建物を所有しており、被相続人の配偶者Bと子Cは、この建物に被相続人の生前から居住し、現在も居住している。 A・B・Cは遺産分割の話し合いを続けてきたが、話し合いがまとまる前にBが死亡し、現在Cが単独で建物を使用している。 AはCに対し、遺産分割協議の成立を待たずに、自身の建物の使用を求めることはできるか。 本件は〔例②〕と同様、遺産分割により建物所有者が確定する日の6ヶ月後まで、Bの配偶者短期居住権が存続するのが原則である。もっとも、遺産分割成立前にBが死亡しており、このような場合、配偶者短期居住権は消滅する(改正後民法1041条、597条3項)。そうすると、AはCに対し、遺産共有者(民法898条・改正なし)であることを理由として建物の使用を請求することができるのが原則であろう。 もっとも、前記最高裁平成8年12月17日判決では、配偶者が被相続人所有建物に居住していた場合、被相続人と配偶者との間で、被相続人の相続開始時を始期として使用貸借契約が成立しているものと推認するとされている。 同最判は配偶者短期居住権の設立により変更されたと考えられるが、個別の事情によっては、子と被相続人の間に使用貸借契約の成立を認めるべき場合もあろう。本件Cは被相続人の子であり、事情によっては、この最判同様、被相続人との間でCが建物を使用することについて合意が成立していたと見る余地がある。 配偶者短期居住権が新設されたとはいえ、前記最判の考え方も念頭に置いておくことが有用であろう。 (了)
《編集部レポート》 プロフェッションジャーナル、TAINS6と連携へ Profession Journal 編集部 本誌プロフェッションジャーナルは、2019年10月30日より一般社団法人日税連税法データベースが運営するTAINS6のシステムに組み込まれ連携を深めることにより、TAINS6からの検索及び記事の閲覧が可能となった。 裁判例や裁決例のデータベースとして、税理士実務になくてはならないTAINS6だが、このたびTAINSの検索の外部連携先として本誌が加えられることが、第46回日税連公開研究討論会の会場で公表されていた。 (会場で行われた外部連携のデモンストレーションの様子) ◆ ◆ ◆ これまでは、TAINS6の検索結果から「雑誌目次」タブを選択することで関連する本誌掲載記事の検索結果のみを確認することができたが、連携開始後は「提携サイト」のタブから「Profession Network」を選択して表示された本誌掲載記事の一覧から、そのまま記事の全文を閲覧することが可能となった(閲覧にはプロフェッションジャーナルのID及びパスワードが必要)。 昨年12月に第6世代へとバージョンアップされ機能面の充実が図られたTAINSだが、本誌との連携によりこれまで以上に利便性が向上することになる。また本誌会員にとっても、TAINS会員であれば、TAINS6の利用から活用の幅が広がることになる。 (了)
《速報解説》 証券取引等監視委員会、令和元年度版の「開示検査事例集」を公表 ~非財務情報の適正性の調査等から課徴金納付命令勧告を行った事例も紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 証券取引等監視委員会事務局は、去る10月23日、「開示検査事例集(以下「事例集」と略称する)」を公表した。 3年前までは、「金融商品取引法における課徴金事例集~開示規制違反編~」という名称で公表されてきた事例集は、平成29年10月に公表された事例集から内容が改変され、本年度公表の事例集については、「開示検査によって開示規制違反が認められ、課徴金納付命令勧告を行った事例のほか、課徴金納付命令勧告は行わなかったものの、開示規制違反の背景・原因を追究した上でその再発防止策を会社と共有した事例、会社に対して訂正報告書等の自発的な提出を促した事例等、さまざまな事例を積極的に紹介」したと説明している(「証券取引等監視委員会からのメッセージ(以下「メッセージ」と略称する)」より)。 本稿では、公表された事例集のうち、最近の開示検査の動向を知るうえで参考になると思われるⅠからⅢまでを中心にその内容をご紹介したい。 とりわけ、「Ⅲ 最新の検査事例」については、最近1年間に開示検査を終了した最新の事例について、開示規制違反の内容、その背景・原因やその是正策の概要がまとめられている(「メッセージ」より)ため、本稿の解説もこの事例を中心としたい。 また、本年度公表の事例集では、新たに「監視委コラム」という読みものが加えられ、「最近の検査事例を通じてクローズアップされた不正会計の実態、業界の特殊性、監査上の問題等について解説」がされている(「メッセージ」より)ので、こちらについても触れておきたい。 Ⅰ 最近の開示検査の取組み 事例集「Ⅰ 最近の開示検査の取組み」では、証券取引等監視委員会(以下「監視委」と略称する)では、開示規制違反の早期発見・早期是正や再発防止・未然防止を確実に推し進めるため、情報収集・分析能力の強化や迅速かつ効果的な開示検査の実施に努めているということであり、その取組みついて、以下の3項目を挙げている。 なお、この3項目については、昨年公表された事例集を踏襲している。 Ⅱ 最近の開示検査の実績とその内容 平成30事務年度(平成30年7月~令和元年6月)に、監視委が行った開示検査は38件であり、前年実績(30件)を8件上回っており、そのうち、開示検査終了件数は22件、そのうち、課徴金納付命令勧告が10件(前年実績は3件)、訂正報告書の自主的提出は3件(前年実績は2件)であった。 監視委によれば、平成30事務年度の開示規制違反10件のうち9件が「売上の過大計上」であり、その中の3件については架空取引による売上計上により、連結財務諸表等に重要な虚偽記載を行っていた。 また、監視委は、最近の開示検査では財務情報だけではなく、非財務情報の内容の適正性についても調査・検査を行っており、平成30事務年度においては、有価証券届出書の重要な事項に変更があったにもかかわらず、訂正届出書を提出せずに募集によって有価証券を取得させた事案1件について課徴金納付命令勧告を行ったということである。 さらに、監視委は、開示規制違反に至った背景・原因の例示として、 を挙げ、さらに、これらの背景・原因は、昨年までと同様、 にあることから、監視委は、開示規制違反の背景・原因について、会社経営陣と議論し、問題意識を共有したうえで、会社自身による適正な情報開示のための体制構築・整備を促すことによって、再発防止に努めているということである。 Ⅲ 最新の検査事例 事例集に記載された「最新の検査事例」のうち、開示書類の虚偽記載により課徴金納付命令勧告事例10件については、下表のとおりである。なお、事例集では、会社名は公表されていないため、本表では、監視委の報道資料をもとに会社名を記している。 【課徴金納付命令勧告事例】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 また、監視委は、上記の表以外の事例(課徴金納付命令勧告の対象とならなかったもの)として、【事例11】「内部統制の不備」、【事例12】「売上の前倒し計上等」、【事例13】「特定関与行為」について、解説を行っている。 最後に、本年度の事例集から記載が始まった「監視委コラム」について、タイトルを引用して、本稿を締め括りたい。いずれのコラムも事例で明らかになった問題点について、より深く解説する形式となっている。 (了)
《速報解説》 金融庁、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第二次報告)」を公表 ~監査法人の交代理由や交代による変化・影響等の実態調査を実施~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年10月25日、金融庁は「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第二次報告)」(以下「第二次報告」という)を公表した。 これは、平成29年7月20日に公表された「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」(以下「第一次報告」という)に続くものであり、主に次のことが記載されている。 また同日、日本公認会計士協会から、「会長声明『監査人の独立性強化に向けて ~「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第二次報告)」の公表を受けて~」が発出され、「新たな視点」(フレッシュ・アイ)での監査と被監査会社に関する「十分な知識と経験」を活かして高品質な監査の実施につなげることが、公益に資するものと考える旨が記載されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ パートナーローテーション等の実態調査 1 パートナーローテーション制度 パートナーローテーション制度とは、監査人の被監査企業からの独立性を確保するため、監査法人の業務執行社員(パートナー)が継続的に同一の被監査会社の監査に従事できる期間(継続監査期間)に上限を設け、当該期間経過後の交代を義務付ける制度である(第二次報告4ページ)。 一方、監査法人の強制ローテーション制度とは、企業が監査契約を締結する監査法人((個人の)監査事務所を含む)を一定期間毎に強制的に交代させる制度のことである(第一次報告2ページ)。 第一次報告では、パートナーローテーションについて、2007年に制度の厳格化が図られた後も依然として重大な不正会計事案が発生していること、また、特に、東芝事案では、同一監査法人が長期にわたって同社の監査を行っていたことと相俟って、結果として制度導入時に期待された効果を発揮していなかったことなどが指摘されている(第二次報告4ページ)。 2 調査結果 第二次報告のパートナーローテーションに関する調査は、大手監査法人についてアンケート及びヒアリング行ったものであり、その結果は、次のとおりである。 調査結果を踏まえ、パートナーローテーションの形式的な運用による問題点の指摘と、独立性の確保や「新たな視点での会計監査」の観点から問題が生じるリスク、被監査会社についての知識・経験の蓄積とのバランスについて述べている(第二次報告11ページ)。 Ⅲ 監査法人の交代に関する実態調査 1 監査法人の交代理由 前述のとおり、実際に監査法人の交代を行った企業へのヒアリング等を実施しており、調査対象企業のうち、①約半数は、グループの組織再編や事業の海外展開等に対応するために監査法人を交代した企業であり、②それ以外は、監査報酬の引上げなどをきっかけとして監査法人を交代した企業であった(第二次報告15ページ)。 次の交代理由について述べられている(第二次報告16ページ)。 2 監査法人間の引継ぎ 次のことが述べられている(第二次報告18ページ)。 3 監査法人の交代による変化・影響 次の監査法人の交代による変化・影響が述べられている(第二次報告18ページ)。 4 監査法人の交代による監査報酬など 次のことが述べられている(第二次報告18~19ページ)。 Ⅳ 英国の監査市場 英国では、2017年の大手建設会社による不正会計を機に、監査市場や監査監督当局の在り方について議論が行われており、2019年4月、競争・市場庁(CMA:Competition and Market Authority)から監査市場に関する調査報告書(Statutory Audit Services Market Study)が公表されている(第二次報告24ページ)。 英国では、2015年に強制入札制度が開始され、2016年に監査法人の強制ローテーション制度が導入されているが、これらの取組みによってもBig4による法定監査市場の寡占状態が改善されないことから、監査市場の在り方があらためて議論されており、次の提案がなされている(第二次報告24、25ページ)。 (了)
2019年10月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.341を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第64回】 「デジタル課税を考える」 税理士 山本 守之 1 問題の所在 各国の税務当局は、米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などの巨大IT企業が国境を越えて事業を展開しているため、従来の税制では法人税をかけるための収益の源泉がどこにあるかを捉えきれず、頭を痛めています。 会社の利益についても、無形固形資産の使用料等であり、その使用料を税率の低い国で課税を受けるという手法で、実体に見合った税負担を免れているとの批判が強いようです。また、各国に所在する施設や、莫大な倉庫についても「恒久的施設(PE)ではない」として課税を受けないというものです。 これらについてOECD日本政府代表部の参事官安倍憲明氏は「見えないものを視る力:OECDが牽引するデジタル税制」という論文の中で次のように述べています。 つまり、見えない形で大量瞬時に資金が移動し、物理的拠点がなくても事業展開できる経済の中では、伝統的な所得課税やPEの有無で課税する租税原則は見直しを迫られているというのです。 このような中で膨大な利益をあげる多国籍企業の税逃れを許している税務当局は、自分自身の不甲斐なさがあるとしています。 また、このようなひと握りの多国籍企業が膨大な利益をあげ、税逃れをしていることに対する無策が国民の信頼を失っているから、「デジタル化に対応する実効的で信頼できる税制を構築する」としていますが、これが可能であろうかと疑われます。 2 DST(デジタルサービス税)の内容 各国ともに所得課税の中では対応できず、オンライン広告等に課税するデジタル税を施行しているに過ぎません。 これらをまとめたのが、国立国会図書館 調査及び立法考査局 財政金融課の佐藤良氏ですが、次のようになっています。 ◎主なデジタルサービス税(DST)案の検討及び進行状況と制度概要(2019年6月14日現在) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 国立国会図書館「調査と情報 ―ISSUE BRIEF― No.1064(2019.7.2) デジタル経済の課税をめぐる動向【第2版】」より一部筆者修正 課税の対象はオンライン広告などで、課税対象となる企業は全世界の売上高が7.5億ユーロ超で、その国の売上高が2,500万ユーロ超など(イタリアは550万ユーロ超、スペインは300万ユーロ超)です。 3 デジタル税は所得課税の代替にはならない デジタル税は、巨大企業で国内の売上高もある程度ある企業が対象ですが、税率が2~3%程度ですから、税収は数億ユーロで、所得課税とはケタが違います。 これは所得課税の中で公平を図ったものではないので、いわゆる「ショバ代」として払う程度にしておこうということです。 つまり、デジタル税は所得課税と違って、巨大な企業の税逃れに対する「ショバ代」として徴収するものですから、課税の公平を保つものにはならないのです。 4 デジタル課税の新案(OECD) 新案としてOECDの考えているデジタル課税の手法は次の通りです(2020年1月の大筋合意を目指す)。なお、2015年の米国の代表的株価指数であるS&P500の構成企業の市場価値割合は「機械・不動産などの有形資産」が13%、「無形資産」が87%となっています。 まず、第一段階では企業利益を①無形資産による利益と②通常の利益に一定の算定率によって分割します。 次の第二段階では、「無形資産による利益」を各国が売上高に応じて分割します。 第三段階では、第二段階で分割した利益に対して各国が課税します。 ただ、この調整は大変難しく、第一段階の無形資産と通常の利益を区分する「一定の算定率」をめぐり米国等の主要国と海外のIT企業への課税に積極的な新興国との合意は難しくなりそうです。 また、税収の配分を決める「売上高」について、拠点を置く国と消費者がいる国をめぐりどのようなルール作りをするかにおいても注目したいものです。 おわりに 巨大IT多国籍企業の税逃れに、不甲斐ないと考えている各国税務当局によるデジタル税ですが、現状、公平な課税に戻すというよりは、広告料を対象として、全世界の売上高が巨大で国内でもある程度の売上げをあげている企業を対象として、デジタル税を課するというものです。 しかし、これでは課税の公平を取り戻すことはできないという情けなさはあります。 先日、利益を低税率国に移転したとして、フェイスブックジャパンは、5億円の申告漏れを指摘されました。日本国内の広告料収入を税の安いアイルランドに流していることを問題とするのではなく、広告料に連動するべき報酬が「安すぎる」として課税しただけなのです。フェイスブックジャパンとしては「ショバ代」として払ったものに過ぎないのです。 日本国内の広告料がなぜ海外に流れているかなど、所得課税の原則に戻って課税すべきだったのではないでしょうか。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第22回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避の類型- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、租税回避の定義に関連して、課税要件アプローチの意義を検討したが、今回は、行為態様アプローチの意義を検討することにしたい。 行為態様アプローチは、課税要件論を前提にして租税負担の軽減・排除すなわち「課税要件の充足回避」の「手段」に着眼するものであるが、その「手段」は、立法者が課税要件を定めるに当たって想定していなかった法形式(「異常な」法形式)である。 「異常な」法形式の選択は、私法の世界では、私的自治の原則ないし契約自由の原則に照らし、立法者が課税要件を定めるに当たって想定していた法形式(「通常の」法形式)の選択と同じく、公序良俗・強行規定等に反しない限り、原則として問題のない行為である。これに対して、「異常な」法形式の選択も「通常の」法形式の選択も、基本的には同一の経済的成果等をもたらすにもかかわらず、前者は課税要件の充足回避(租税負担の軽減・排除)に、後者は課税要件の充足(租税負担の発生)にそれぞれ帰結するので、前者すなわち「異常な」法形式の選択は、税法の世界では、租税負担公平の原則に照らし、これに反する不公平な行為として問題にされるのである(【66】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)。 「異常な」法形式の選択の結果生ずる租税負担の不公平は、租税回避の定義(包括的定義[【66】]:「課税要件の充足を避け納税義務の成立を阻止することによる、租税負担の適法だが不当な軽減または排除」)の中に「不当性」という概念要素として取り入れられるのであるが、「異常な」法形式の選択は、税法の世界では、そのような「不当」という法的評価の故に、「私法上の形成可能性の濫用」ないし「私法上の選択可能性の濫用」と呼ばれることがある。 なお、ここでいう私法上の形成可能性ないし選択可能性は、多くの場合、法律行為、特に財産行為について問題にされるが、例えば養子縁組のような身分行為についても(相税15条2項・63条参照)、住所の移転のような事実行為についても(東京高判平成20年2月28日判タ1278号163頁等参照。法律行為との組合せによる場合について最判平成23年2月18日判時2111号3頁参照)、問題にされることがある(【66】)。 租税回避の法的評価については改めて第24回で検討することにして、今回は、「異常な」法形式の選択ないし私法上の選択可能性の濫用という、租税回避の「手段」の観点から、租税回避の類型化を検討することにしたい。 Ⅱ 私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避(第1類型) 前回のⅡ2でみたように、金子宏教授は租税回避の意義について、同『租税法』(弘文堂)の第21版(2016年)まで示されていた、「課税要件アプローチと行為態様アプローチとの相互補完による定義」ともいうべき定義(下記①=第21版125頁。下線筆者)を、同書の第22版(2017年)以後は、アプローチ別にいわば「分節」し、まず、行為態様アプローチによる定義(下記②=第22版では126-127頁、第23版(2019年)133-134頁。下線筆者)から解説を始めておられる。 金子教授が『租税法』(弘文堂)の第22版以後このように租税回避の意義に関する解説の仕方を変更されたのは、同版以後、上記②の行為態様アプローチによる定義の直後に、租税回避の「類型」に関する次のⓐの解説(第22版では127頁、第23版では134-135頁。下線筆者)を「明示的に、かつ、まとまった形で」追加されたからであると考えられる(第21版では、租税回避の定義(125頁)とは離れた箇所(130頁)にある次のⓑの解説(下線筆者)の最後の括弧書で、第2類型に言及されていた)。 租税回避の「類型」に関する上記ⓐの解説は、私法上の形成可能性という、租税回避の「手段」に着眼しその観点から租税回避をみて、行われているが、そうであるからこそ、金子教授はその解説の直前に、租税回避の「手段」に着眼する行為態様アプローチによる定義を示されたものと考えられるのである。このことは、行為態様アプローチが租税回避の類型化において重要な意義を有することを示しているということができよう。 なお、金子教授は前記引用中の省略部分(「・・・・・・。」)において、租税回避の「第1類型」の典型的な例として次のような例を挙げておられる。 また、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)の別冊「国税通則法の制定に関する答申の説明」12頁で租税回避の「顕著な例」として挙げられている次の事例も、租税回避の第1類型の典型例とみてよかろう。 さらに、裁判例のうちいわゆる岩瀬事件・東京高判平成11年6月21日訟月47巻1号184頁の次の判示からも、租税回避の第1類型の典型例を読み取ることができる。 なお、上記引用判示中の最後の段落で示されている、租税回避の否認に基づく課税(引き直し課税)と租税法律主義との関係に関する考え方は、実質主義の「真骨頂」を租税回避の否認に関して体現する考え方(否認規定不要説。第20回Ⅲ参照)に対抗して展開されてきた租税回避論の「到達点」ともいうべきものであるが、この点については、第27回に租税回避の否認について検討する際に、再度言及することにする。 Ⅲ 税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(第2類型) 既にみたように、金子教授が租税回避の「類型」に関する解説を同『租税法』(弘文堂)の中に追加されたのは第22版以後であるが、その契機となったのはいわゆるヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(以下「ヤフー事件最判」という)であると考えられる。金子教授はこの判決に関して次の理解(第22版では491頁、第23版では525頁)を示しておられる。 ヤフー事件では、適格合併等について未処理欠損金額の引継ぎを認める課税減免規定ないし租税減免規定(法税57条2項)の適用の有無が争われたが(第10回参照)、金子教授は、ヤフー事件最判に関する上記の理解を前提にして、既にみたとおり、「租税減免規定の趣旨・目的に反するにもかかわらず、私法上の形成可能性を利用して、自己の取引をそれを充足するように仕組み、もって税負担の軽減・排除を図る行為」(下線筆者)を、租税回避の「第2類型」として類型化したのである。 ここで注意しなければならないのは、既にⅡでみたとおり、金子教授は「いずれも、私法上の形成可能性を濫用(abuse; Missbrauch)することによって税負担の軽減・排除を図る行為」(下線筆者)とされながら、租税回避の「第1類型」と「第2類型」でその「手段」について異なる法律構成を採用しておられることである。このことは、「第2類型」に関する前記の叙述中の下線部と、既にⅡでみた「第1類型」すなわち「合理的または正当な理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、通常用いられる法形式に対応する税負担の軽減または排除を図る行為」(下線筆者)の下線部とを比較すれば、明らかである。 いずれの下線部も、私法上の形成可能性が租税回避の「手段」であることを示しているが、ただ、私法上の形成可能性が「第1類型」の方では租税回避の「直接的手段」であることを示しているのに対して、「第2類型」の方では租税回避の「間接的手段」であることを示している。「第2類型」の方の「直接的手段」は、「租税減免規定」そのものである(前記の叙述中の「もって」は、「充足された租税減免規定をもって」を意味すると解される)。 このことをヤフー事件最判は、次の判示中の下線部(太字も含め筆者)において、端的に説示している。 すなわち、上記の判示中の下線部では「租税回避の手段」(太字)という文言が2回使われているが、そのうち1つ目は「組織再編成」に係る私法上の形成可能性であり、2つ目は「組織再編税制に係る各規定」(具体的には資産の簿価や未処理欠損金額の引継ぎに係る課税減免規定)である。法人税法132条の2が否認の対象とする租税回避について、前者はその「間接的手段」を、後者はその「直接的手段」をそれぞれ意味していると解される。 そうすると、租税回避の「第2類型」は、租税回避の「直接的手段」の観点からは、「税法上の課税減免規定の濫用による租税回避」と呼ぶのが適切であろう。 なお、ヤフー事件最判の前記引用判示のうち「法132条の2は、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され[る]」(下線筆者)という部分については、引き直し先の「正常な行為又は計算」を明示していないことが問題として指摘されることがあるが(例えば、渡辺徹也「法人税法132条の2にいう不当性要件とヤフー事件最高裁判決〔上〕)」商事法務2112号(2016年)4頁、6頁参照)、租税回避の「直接的手段」の観点からすれば、引き直し先の「正常な行為又は計算」を明示しなくても課税減免規定の適用を受けるための「異常な行為又は計算」を否認しさえすれば、「直接的手段」としての課税減免規定の適用は否定することができる。結論的には、課税減免規定の適用を受けないことが「正常な行為又は計算」といってもよかろう。 Ⅳ おわりに 以上を要するに、租税回避の「直接的手段」に着眼しその観点からみると、租税回避は、①私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避(第1類型)と②税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(第2類型)とに類型化することができよう(【66】)。 租税回避の定義に関する行為態様アプローチによれば、租税回避の「手段」の観点から上記のような類型化が可能になる。その場合、租税回避の「間接的手段」と「直接的手段」との区別は、Ⅲの最後に述べたように、租税回避の否認による引き直し課税の理解にとって重要な意味をもつが、それだけでなく、第28回で検討する租税回避の否認のアプローチについても、重要な意味をもつと考えるところである。 (了)