空き家をめぐる法律問題 【事例1】 「立木の侵入や擁壁の崩壊等した場合の法的責任」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、現在、関西で暮らしていますが、東北の実家で一人暮らしであった母が亡くなったため、母名義の実家の土地と建物を相続しました。実家は、現在は空き家となっています。 私の実家の土地は、隣家より少し高い位置にあるため、隣家との法面をブロック塀で補強しており、ブロック塀に沿って木を植えています。ある日、私が実家に立ち寄った際に、ポストに隣家の方からの手紙が届いていました。手紙には、主として次の2つの事項が書かれていました。 このような場合、どのように対応すればよいでしょうか。 1 空き家の類型と管理責任について 近年、空き家に関する議論は、空き家の取壊し関するものから有効活用に関するものまで、広がりを見せている。 もっとも、ひと言に「空き家」と言っても、 など様々な状態の空き家がある。 このため、空き家の管理に関する法律問題を考えるに当たっては、その空き家がどのような状態の空き家であるかを意識して検討することが有益である。 本件のように、空き家に関する相続が発生した場合、相続人が被相続人から遠方で生活しており、時間的・距離的制約のため、相続人による空き家の管理が適切に行われず、隣家とトラブルになることがある。上記①~③の空き家の類型でいえば、②の類型に生じやすい法律問題である。 2 隣地の権利関係の調整 一般に、所有権者は、自由に、その所有物の使用、収益及び処分をすることができる(民法第206条)。一方で、土地は物理的には連続しているため、土地の所有権者間の相互の利用を調整する必要が生じる。 そこで、民法は、第209条から第238条において、各種の利用調整に係る条項を規定している。これらの規定は「相隣関係」と呼ばれている。 土地の所有権は、その土地を十分に利用する範囲で上下に及び、境界付近に樹木を植えることは可能である。しかしながら、成長した樹木の枝や根が空中や地中を経て隣地に侵入することがあるため、隣地との権利関係を調整する必要が生じる。 このような場合を想定して規定されたのが、民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)である。 上記のとおり、民法は、隣地から枝が侵入してきた場合と、根が侵入してきた場合とで、侵入された所有権者がとりうる手段に差を設けている。 このような差があるのは、①枝の方が根よりも高価であることや、②枝が侵入した場合は、竹木の所有権者が自らの土地の中からその枝を切除できるのに対して、根が侵入した場合は、隣地に入らなければ切除できないことによるものと考えられている。 まず、竹木の枝が境界線を越えた場合は、所有権者は隣地の所有権者に対して、その枝を切除することを請求することができ、この請求に応じない場合は、裁判所を通じて、隣地の所有者の負担において、第三者に枝の伐採を実現させることができる。 もっとも、このような請求が無制限に認められるわけではなく、何らの害悪も生じていない状況において、枝の切除を請求することは、権利の濫用と評価されることもある。 また、侵入してきた根を自らの判断で切除する場合でも、枝の場合と同様に、根の侵入による影響がほとんどないにもかかわらず、根を切除して高価な竹木を枯らしてしまったような場合は、権利の濫用と評価される可能性があるため、留意が必要である。 3 流出した土砂の処理について 所有権者は、物権を侵害されたり、そのおそれがある場合に、所有権に基づく物権的請求権を行使することができる。 物権的請求権は、侵害の態様に応じて、 の3種類が認められている。 この物権的請求権の法的性質は、積極的行為請求権、すなわち、その相手方が侵害状態を作出したか否かにかかわらず、費用を負担させて、侵害状態やそのおそれがある状態を取り除くことを請求する権利と解されている。 しかしながら、過去の大審院判決によれば、不可抗力によって第三者の土地を侵害する状態が生じているような場合には、物権的請求権の発生や行使が制限されると解する余地がある。また、学説においても、所有権者は、自らの費用負担で侵害状態を除去することができ、これを相手方に認容させることができるに留まるとする見解など、積極的行為請求権を修正する見解が有力に主張されている。 その他、裁判例の中には、妨害予防請求権が行使された事案において、隣地所有者間双方に便益が生じることや、工事に多額の費用が生じること等を理由に、費用の分担を命じているものもあり、このような場合には個別の検討を要する。 4 本件の対応 (1) 隣家からの要望【1】について 空き家の敷地所有者は、枝を切除するなど適宜対処し、根の切除については、隣地に入って作業をする必要がある場合には、隣地の所有者と協議をして隣地に入る同意を得たうえで切除を行うことになろう。 (2) 隣家からの要望【2】について ブロック塀が崩れて、その隙間から土砂が流出しており、隣地の所有権を侵害することになるため、原則として、空き家の敷地所有者は、自らの負担で土砂を除去し、ブロック塀を補修する等適宜工事を行う必要がある。この場合も、隣地に入って作業をする必要があるときは、事前に隣地の所有者から同意を得ておく必要がある。 (3) その他留意事項 ブロック塀が崩れて土砂が流出した先に、隣家の花壇等があり、これらを損壊したような場合には、別途不法行為に基づく損害賠償請求をされる可能性があるので留意が必要である。 (了)
AIで 士業は変わるか? 【第9回】 「AI等のIT環境の変化が監査人・監査業務にもたらす影響」 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 小池 聖一・パウロ ■はじめに 研究機関の報告で、「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」に会計士が挙げられ、関連報道もあったことから現役の公認会計士の方々が将来に不安を感じているとか、職業の魅力が感じられず受験生が減ったりしないかというような懸念を述べられる方もいらっしゃると聞く。 確かにITの普及に伴う企業の業務変化の影響を我々の業務も受けており、既に手書の仕訳帳を見る機会も減少し、企業から提供される監査関連の資料も紙ではなく電子データになっていることも多い。 前述の情報に対しては既に日本公認会計士協会によるTVや雑誌の取材対応、Web記事やショートビデオの公開など、AIが公認会計士の業務にもたらす影響への説明は行われている。 ここでは、公認会計士の一人として、我々の特徴的な業務である監査業務にIT環境の変化がもたらす影響について考えてみたい。なお、本稿は執筆者の私見であり、所属組織の見解とは関係ないことをご理解頂きたい。 ■IT環境の変化の監査への影響 AI関係の連載への寄稿ではあるが、AIを包含するIT環境から話を進めたい。 監査業務は企業の財務報告やそれに関連する内部統制など、企業が作成したものを保証するための業務である。そのため、会社の業務やそこで利用されている道具や媒体の変化とともに会計士の業務は変化を続けている。 現在はIT環境の進歩により、多くの企業が業務にITを導入している。そして大量のデータを高速かつ正確に処理するというITの特徴を活かし、定型データを反復継続して扱うような単純作業を人手から代替し、処理の信頼性と効率性を高めている。さらに、複数のデータや条件を総合し情報を絞り込むことにより、人間の判断業務の前工程作業の軽減が促進されている。 このような環境では、コンピュータを全く操作できない方だと企業との資料の授受すら障壁と感じられるかもしれないが、ITの導入は企業だけでなく監査人にも効率化や品質の高度化につながるメリットを感じる局面がある。ちょうどフードプロセッサを導入したレストランでは、下ごしらえの時間が短縮されシェフはより高度で重要な調理作業に時間を割くことが可能になった状況に似ているように思える。 このようなIT環境の変化や、監査への初期的なIT導入は、従前は会社が提供した資料や明細書を電卓で検算するような、必要だが手間のかかる作業をコンピュータで再計算したり、経験豊富な監査人が付箋片手に複数の書類を見ながら属人的な能力で異常取引を発見していたのが、データ全体のソートやフィルタリング、全体像の可視化といったコンピュータにより作業対象を大幅に絞り込むなどの、「下ごしらえ」には大いに役立っている。そして下ごしらえ的な監査手続から解放された時間を、顧客の年齢や好みに対応した味付けや焼き加減を微調整するような、より高度で専門的な判断や分析に費やすことが可能となる。 このような状況は、監査人の仕事がコンピュータに代替されたというよりも、環境の変化に適した監査手続とリソースの再配分の変化であろう。 ■AI等の新技術の普及について 企業が反復継続する業務の単純な処理ロジックにITを利用している段階では、監査人は当該処理プログラムの仕様やパラメータの確認、他のコンピュータで同じ処理プログラムを構築して再実施するなどの方法により、企業の処理内容の正確性を検証することは可能であり、適切な監査証拠を入手するための監査手続は計画できる。 しかしながら、本格的にAIが導入された企業のIT環境では何が生じることになるのだろうか。AI(人工知能)、機械学習、ディープラーニング等、専門家が厳密な定義をしているが、いずれにせよ人間が予め設定した基準に従うのではなく、コンピュータが入手した情報を基礎に統計的な処理を行い、その処理結果に基づく判断・処理の基準を創り出すような利用方法が普及する可能性がある。 例えば売上債権に対する貸倒引当金の見積もり金額の計算は、自社の貸倒実績率のような内部データにとどまらず、与信先の信用調査情報やインターネットで公開されている業界の指標などの数値も用いて導き出すことも考えられる。このような状況では、AIの学習に使われるデータ自体の信頼性が確保されない場合、不適切な判断基準が設けられるリスクについても対応が必要となろう。 監査人が刻々と変化するビッグデータを参照したAIの判断結果を、監査証拠としてどのように検証するかは大きな課題となろう。その一方で、監査人も不正事例等のデータベースを構築し、不正の兆候をプログラムを利用して把握するようなアイディアもある。ただし、そのような分析に役立つ情報の収集には、守秘義務という監査の根幹に関わる観点からの慎重な議論が必要になるであろう。 ■これからの監査人について このように企業がITを活用している中での監査環境に対して、IAASB(国際監査・保証基準審議会)からは「データに焦点を当てた監査に、分析技術の探求」というテーマで、データ分析を監査手続としてどのように取り入れるかという議論が始まっている。 既に多くの監査業務で監査人は企業データを利用する機会が増えており、それらを統計的に分析し、適切な結論を導くために統計的な知識やロジカルシンキングなどが基礎的な素養として重要性を増しているし、監査に利用するデータが作成されるプロセスについてより深い知見が求められている。 特にIT環境下ではデータの正確な作成の阻害要因こそが大きなリスクとなるため、企業の情報システムに対して、プログラムのロジックの適切性や、情報セキュリティについてもプログラムの設定値や詳細なアクセスコントロールの検証も必須である。このようなITに関する分野でも適切な計画を策定し、専門家からの報告を理解するレベルの基礎知識は必要であろう。 このような状況では、AIの普及は監査人に求められる知見の変化や「働き方」には影響を持つものの、業務の代替が直ちに生じるかは疑問な部分があるし、「機械的に」監査が実施され、評価される状況が到来するとすれば、それは人がコンピュータに裁かれるような意味合いを持つことになるかもしれない。 また、企業が利用する情報が企業独自による作成・保管から、例えばブロックチェーンにシフトするような状況となった場合には、会計記録や監査に構造変革が生じる可能性がある。ブロックチェーンの情報を監査証拠として扱うための方法については喫緊の課題となるが、その反面、記録の偽造が困難になるため、監査人が会計情報の正確性を評価する必要性や監査の社会的意義に変化が生じるかもしれない。 ■終わりに 日本に公認会計士制度が出来てから70年、我々の先人は企業の環境変化に常に対峙し、新たな知見と経験を蓄積するのと同時に学ばぬ者は淘汰されてきた。今回のIT環境の変化についても、AIという1つの技術に会計士が仕事を奪われるというよりも、ダーウィンの進化論的に監査環境に応じて変化する監査人だけが生き残るという状況なのかもしれない。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第7話】 「所得税法121条1項の趣旨」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「お昼休み中にすいません・・・統括官、所得税法121条の規定について質問がありまして・・・」 浅田調査官は税務六法を広げたまま、中尾統括官の机の前にやって来る。 昼食を終えたばかりでウトウトしていた中尾統括官は、浅田調査官の声で顔を上げた。 「・・・?」 「所得税法121条1項1号の規定なのですが・・・」 浅田調査官は税務六法を机の上に置く。 中尾統括官は眠そうな目で条文をたどる。 「この条文の・・・どこが問題なの?」 「居住者で・・・給与等の金額が2,000万円以下の場合、その他の所得が20万円以下であれば・・・申告をしなくてもよいと・・・」 浅田調査官は遠慮がちに質問する。 「そうだよ。」 中尾統括官は答える。 「この『20万円以下であれば申告不要』という根拠は・・・金額が小さい(重要性の原則)から、申告をしなくても良いということなのですか?」 浅田調査官は尋ねる。 「そうだろう・・・それに、この条文では、給与所得の全部について、毎月の源泉徴収(所法183)又は年末調整(所法190)が適用されていることが求められている・・・これは、源泉徴収制度の下で、その他所得が20万円以下の場合には申告を不要にしている、ということだよ。」 中尾統括官はすっかり目が覚めたようだ。 「給与所得者は、原則として源泉徴収制度の下で税金を納めるということなので、少額の申告は省略させようと法律は考えている。それによって給与所得者は、申告の煩わしさから解放される・・・そのような理由から、このような規定が設けられている。・・・もっとも、税務署側にとっても『納税者からの申告数が少なくなるので大いに助かる』・・・これが本当の理由かもしれないけどね。」 そう言うと、中尾統括官は苦笑する。 「なるほど。・・・・ところで所得税法121条1項に『ただし、不動産その他の資産をその給与所得に係る給与等の支払者の事業の用に供することによりその対価の支払を受ける場合その他の政令で定める場合は、この限りでない』と規定しているのですが・・・これって、どのようなケースを想定しているのですか?」 浅田調査官が再び尋ねる。 「これは、例えば、同族会社の役員やその家族がその同族会社から賃貸料を受け取る場合などには・・・たとえその所得が20万円以下であっても、確定申告をする必要がある、ということだ。」 中尾統括官は、浅田調査官の税務六法を手にとってめくる。 「同族会社の場合、税金を逃れるためにいろいろな操作が可能であることから、このような規定が設けられたのだろうね。」 中尾統括官は所得税法施行令262条の2を見せる。 「そうですね。」 浅田調査官は納得した様子で頷く。 「ところで住民税ですが・・・地方税法には所得税法121条のような規定がないので・・・したがって、給与所得者で給与所得以外の所得が20万円以下であっても、住民税の申告をしなければならないのですね。」 浅田調査官はさらに中尾統括官に確認する。 「住民税の申告義務については地方税法317条の2に規定しているが・・・確かに、所得税法121条のような申告不要の規定はない・・・」 中尾統括官は、税務六法をめくって確認する。 「・・・住民税について、給与所得以外の所得が20万円以下の場合にも申告不要としないのは、もともと住民税は、所得税と違って源泉徴収制度を採用していないから・・・『市町村民税・道府県民税申告書(法規則第5号の4様式)』の提出が必要となる・・・その他に、一定の配当所得や特別徴収されなかった退職所得についても、住民税の申告は必要だ。」 中尾統括官は浅田調査官の顔を見る。 「そうすると、給与所得以外の所得がある場合には、たとえその所得金額が僅少であっても、住民税の申告は必要だということですね。」 浅田調査官の言葉に、中尾統括官は満足そうに頷く。 (つづく)
《速報解説》 「収益認識に関する会計基準」及び同適用指針が正式公表される ~H33.4.1以後開始事業年度から適用、本年からの早期適用・経過措置も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年3月30日、企業会計基準委員会は次の会計基準等を公表した。これにより、平成29年7月20日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、収益認識に関する包括的な会計基準である。 国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic 606)を公表しており、IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から、Topic 606は平成29年(2017年)12月15日より後に開始する事業年度から適用される。 公表に際して、次の別紙が公表されているので、公開草案の理解に資すると考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 範囲 次の①から⑥を除いて、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用する(収益認識会計基準3項)。 2 定義 契約、顧客、履行義務、契約資産、契約負債、債権、原価回収基準などについて定義されている(収益認識会計基準5項~15項)。 3 会計処理 基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することである。 次の5つのステップからなる。 ステップ1 顧客との契約(次の①から⑤の要件のすべてを満たすもの)を識別する。 ステップ2 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する。 ステップ3 取引価格を算定する。 ステップ4 契約における履行義務に取引価格を配分する。 ステップ5 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。 次の事項に関する設例も設けられている。 4 特定の状況又は取引における取扱い 次の特定の状況又は取引に適用する指針を定めている。 5 重要性等に関する代替的な取扱い 収益認識会計基準等では、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、次の個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めている。 (1) 契約変更(ステップ1) ◆ 重要性が乏しい場合の取扱い (2) 履行義務の識別(ステップ2) ① 顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い ② 出荷及び配送活動に関する会計処理の選択 (3) 一定の期間にわたり充足される履行義務(ステップ5) ① 期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア ② 船舶による運送サービス (4) 一時点で充足される履行義務(ステップ5) ◆ 出荷基準等の取扱い (5) 履行義務の充足に係る進捗度(ステップ5) ◆ 契約の初期段階における原価回収基準の取扱い (6) 履行義務への取引価格の配分(ステップ4) ◆ 重要性が乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用 (7) 契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分(ステップ1、2及び4) ① 契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分 ② 工事契約及び受注制作のソフトウェアの収益認識の単位 (8) その他の個別事項 ◆ 有償支給取引 次の事項に関して代替的な取扱いを設けるように、公開草案に対するコメントが寄せられたが、代替的な取扱いは設けられなかった(収益認識適用指針185項~188項)。 6 認められなくなる従来の日本基準又は日本基準における実務の取扱い 収益認識会計基準等によると、主に、次の従来の日本基準又は日本基準における実務の取扱いが認められないこととなる。 なお、今後、収益認識会計基準等の実務への適用を検討する過程で、収益認識会計基準等における定めが明確であるものの、これに従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況が市場関係者により識別され、その旨が企業会計基準委員会に提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否を当委員会において判断することとしているとのことである。 7 表示 企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示する。契約資産と債権を貸借対照表に区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記する(収益認識会計基準79項。88項の経過措置に注意する)。 契約資産は、金銭債権として取り扱い、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)に従って処理する(収益認識会計基準77項)。 財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債を貸借対照表に計上する(収益認識会計基準78項)。 8 収益の表示科目 審議の過程では、サービスの提供による収益や企業が代理人に該当する場合など、収益認識会計基準に従って認識される収益の表示科目を明確化すべきであるという意見があったとのことである(収益認識会計基準155項)。 現在、表示科目として一般的に用いられている売上高は、他の関連する法令等においても広く用いられているものであり、仮にその名称を変更する場合には影響が広範に及ぶこと等から、収益の表示科目については、注記事項と合わせて収益認識会計基準が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む)に検討することとしている。 なお、収益認識会計基準を早期適用する場合には、我が国の実務において現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いることができる(収益認識会計基準155項)。 9 注記 顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記する(収益認識会計基準80項)。 当該注記は、重要な会計方針の注記には含めず、個別の注記として開示する(収益認識会計基準80項)。これは、当該注記を重要な会計方針の注記として開示すべきか否かについては、収益認識会計基準が適用される時までに他の注記事項の検討と合わせて整理するが、実務の混乱を避けるため、早期適用時においては個別の注記として開示することとしたためである(収益認識会計基準156項)。 企業が履行義務を充足する通常の時点とは、例えば、商品又は製品の出荷時、引渡時、サービスの提供に応じて、あるいはサービスの完了時をいう(収益認識会計基準156項)。 Ⅲ 適用時期等 経過措置が定められている(収益認識会計基準84項~89項)。 収益認識会計基準47項の定めに従って、収益認識会計基準の適用初年度において、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。この場合、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができる(収益認識会計基準89項)。 * * 以下、追補部分 * * Ⅳ 主なコメント対応の内容 4月11日、企業会計基準委員会は、公開草案に対する「主なコメントの概要とそれらに対する対応」(120ページ)を公表している。 (了) ↓お薦め連載記事↓
《速報解説》 「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」、 パブコメを経て正式公表 ~6つの原則で不祥事の発生そのものを予防する取組みを示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2018年3月30日、日本取引所自主規制法人は、「「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」の策定について」を公表した。これにより、2018年2月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、近年、業種を超え、また、規模の大小にかかわらず、上場会社において多くの不祥事が表面化し報道されていることから、不祥事の発生そのものを予防する取組みについてプリンシプルを策定するものである。 日本取引所自主規制法人は、2016年2月に「不祥事対応のプリンシプル」を策定し、不祥事発生後の事後対応に重点を置いた指針を示していたが、今回は、これに加えて、事前対応としての「不祥事予防のプリンシプル」を策定するものである。 公開草案に対して寄せられたコメントについては、「提出された意見とそれに対する考え方」も公表されているので、本プリンシプルの理解に資するものと考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 本プリンシプルにおける各原則は、各上場会社において自社の実態に即して創意工夫を凝らし、より効果的な取組みを進めていくためのプリンシプル・ベースの指針となっている。 仮に本プリンシプルの充足度が低い場合であっても、上場規則等の根拠なしに、日本取引所自主規制法人が上場会社に対する不利益処分等を行うものではないとのことである。 「上場会社における不祥事予防のプリンシプル~企業価値の毀損を防ぐために~」として、次の6つの原則とその解説及び不祥事につながった問題事例が記載されている。 (了)
《速報解説》 平成30年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する法律」が 3月31日付官報:特別号外第7号にて公布 ~施行日は原則4月1日~ Profession Journal編集部 財務省の決裁文書の書換えをめぐり平成30年度税制改正関連法案の国会での審議の遅れが懸念されていたが、3月28日の参議院本会議で可決・成立され、3月31日(土)の官報特別号外第7号にて「所得税法等の一部を改正する法律」が公布された(法律第7号)。施行日は原則平成30年4月1日(法附則第1条)。地方税関係の改正法である「地方税法等の一部を改正する法律」も官報同号にて公布されている(法律第3号)。ただし、平成31年1月7日から適用予定の国際観光旅客税について規定された国際観光旅客税法案は参議院での審議が続いている。 また、創設された事業承継税制の特例制度に合わせパブコメに付されていた経営承継円滑化法省令の一部改正省令も公布・施行された。 * * * 平成30年度税制改正では上記の通り中小企業の事業承継を強く後押しするため現行の事業承継税制の要件を大幅に緩和した10年間限定の特例制度を創設、合併・分割等による承継時の税負担を軽減する措置も織り込まれた。資産税関係では他に小規模宅地等特例や一般社団法人等を使った課税逃れへの対策が講じられることから、こちらは今国会で法案審議が行われている民法(相続法制)の見直しと合わせ相続対策を再構築する契機になるといえる。 また企業の賃上げ・生産性向上を推進する観点から所得拡大促進税制の要件を大企業・中小企業ごとに見直し大幅に改組。賃上げ・設備投資に消極的な大企業に対しては研究開発税制等の適用が認められない措置も加わる。新たな設備投資減税としてIoT等の革新的情報産業活用設備を取得等した場合の特別償却・税額控除制度が創設される。 なお、大企業については平成32年4月1日以後開始事業年度から法人税等の電子申告が義務化されるほか、ペーパレス化に向けた環境整備が行われる。1年半後にせまる消費税の軽減税率導入、さらに会計基準の動向を受けた法人税における収益認識等に係る措置を含め、社内の会計・税務システムの見直しを行う際は数年先を見据えた制度設計が必要といえよう。 個人所得課税については基礎控除の引上げとともに給与所得控除、公的年金等控除には年収による一定の控除額の制限が設けられる。これらは平成32年分以後からの適用となるが、昨年度改正による配偶者控除・配偶者特別控除の見直しが本年分から適用されたばかりであり、さらなる源泉等実務への負担は避けられない。 * * * 以下では主な法律、政令、省令の官報該当ページへのリンクを紹介する。 なお本誌では例年同様、主要な改正事項については4月以降、毎週木曜日公開号において、専門家による解説記事を順次掲載するとともに、各府省庁・主な団体等より公表された平成30年度税制改正関連の情報については「平成30年度税制改正に関する《資料リンク集》」及び「新着情報」を随時更新していくので、そちらを参照いただきたい。 また、税制改正大綱を受けた主な改正情報については、すでに本誌掲載済みの「平成30年度税制改正大綱」に関する《速報解説》 をご覧いただきたい。 官報:平成30年3月31日付(特別号外第7号)で公布された主な税制改正関連法令 法令のあらまし ◆所得税法等の一部を改正する法律 附則:施行期日・経過措置など 所得税法の一部改正(第1条関係) 所得税法施行令等の一部を改正する政令 所得税法施行規則の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第2条関係) 法人税法施行令等の一部を改正する政令 法人税法施行規則の一部を改正する省令 地方法人税法の一部改正(第3条関係) 地方法人税法施行令の一部を改正する政令 地方法人税法施行規則の一部を改正する省令 相続税法の一部改正(第4条関係) 相続税法施行令の一部を改正する政令 相続税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第5条関係) 消費税法施行令等の一部を改正する政令 消費税法施行規則等の一部を改正する省令 たばこ税法の一部改正(第6条関係) たばこ税法施行令の一部を改正する政令 たばこ税法施行規則の一部を改正する省令 揮発油税法の一部改正(第7条関係) 揮発油税法施行令の一部を改正する政令 揮発油税法施行規則の一部を改正する省令 石油ガス税法の一部改正(第8条関係) 石油ガス税法施行令の一部を改正する政令 石油ガス税法施行規則の一部を改正する省令 石油石炭税法の一部改正(第9条関係) 石油石炭税法施行令の一部を改正する政令 印紙税法の一部改正(第10条関係) 印紙税法施行令の一部を改正する政令 国税通則法の一部改正(第11条関係) 国税通則法施行令の一部を改正する政令 国税通則法施行規則の一部を改正する省令 国税徴収法の一部改正(第12条関係) 国税徴収法施行令の一部を改正する政令 国税徴収法施行規則の一部を改正する省令 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律の一部改正(第13条関係) 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律施行令の一部を改正する政令 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第14条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令の一部を改正する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律に基づく租税条約に基づく認定に関する省令の一部を改正する省令 租税特別措置法の一部改正(第15条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・酒税関係 ・たばこ税関係 ・揮発油税・地方揮発油税関係 ・石油石炭税関係 ・自動車重量税関係 ・印紙税関係 ・利子税等関係 租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の一部改正(第16条関係) 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律の一部改正(第17条関係) 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第18条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法の一部改正(第19条関係) 租税特別措置法の一部を改正する法律の一部改正(第20条関係) 所得税法等の一部を改正する法律の一部改正(第21条関係) ※平成17年 所得税法等の一部を改正する法律の一部改正(第22条関係) ※平成28年 地価税法施行規則の一部を改正する省令 登録免許税法施行規則の一部を改正する省令 酒税法施行令等の一部を改正する政令 酒税法施行規則の一部を改正する省令 税理士法施行令の一部を改正する政令 税理士法施行規則の一部を改正する省令 復興特別所得税に関する政令の一部を改正する政令 復興特別所得税に関する省令の一部を改正する省令 復興特別法人税に関する政令の一部を改正する政令 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令の一部を改正する政令 ◆地方税法等の一部を改正する法律 ( 附 則 ) ・第1条関係 ・第2条関係 ・第3条関係 ・第4条関係 ・第5条関係 ・第6条関係 ・地方税法等の一部を改正する法律の一部改正(第7条関係) ・国有資産等所在市町村交付金法の一部改正(第8条関係) ・外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律の一部改正(第9条関係) ・地方法人特別税等に関する暫定措置法の一部改正(第10条関係) ・地方法人特別税等に関する暫定措置法の一部改正(第11条関係) ・地方税法等の一部を改正する等の法律附則第三十一条第二項の規定によりなおその効力を有するものとされた同法第九条の規定による廃止前の地方法人特別税等に関する暫定措置法の一部改正(第12条関係) 地方税法施行令等の一部を改正する政令 地方税法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令 地方税法施行令の一部を改正する政令 地方税法施行規則の一部を改正する省令 ▷その他関係法令 減価償却資産の耐用年数等に関する省令等の一部を改正する省令 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令 (了)
《速報解説》 FASF、一体的開示をより行いやすくするための 「有価証券報告書の開示に関する事項」を公表 ~有価証券報告書と事業報告等の記載共通化に向けた留意点・記載事例を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年3月30日、財務会計基準機構(FASF)は、「有価証券報告書の開示に関する事項- 『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組-」を公表した。 これは、平成29年12⽉28⽇に⾦融庁・法務省が公表した「⼀体的開⽰をより⾏いやすくするための環境整備に向けた対応について」を受けたものであり、有価証券報告書と事業報告等の記載の共通化を図るうえでの留意点や記載事例をまとめたものである。 また、金融庁及び法務省の連名により「『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組について」が公表されており、上記の「有価証券報告書の開示に関する事項」に掲げられた「作成にあたってのポイント」及び「記載事例」の内容は、関係法令の解釈上、問題ないものと考えられ、企業において、有価証券報告書と事業報告等の記載内容の共通化を行う際には、本取組が参考になるものと考えられる旨が示されている。 金融庁では、有価証券報告書と事業報告等の記載内容の共通化や両書類の一体化を希望する企業へのサポートのため、企業からの共通化等に係る相談を受け付ける窓口が設置されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 共通化の内容 「有価証券報告書の開示に関する事項」では、有価証券報告書と事業報告等の記載内容の共通化に関する事項について、「作成にあたってのポイント」と「記載事例」が記載されている。また、「Ⅲ.(参考資料)有価証券報告書及び事業報告等の記載項目の対応表」も記載されている。 このため、有価証券報告書と事業報告等の記載内容の共通化を行おうとする企業にとって役に立つものと考えられる。 共通化の内容は次のとおりである(「施規」は会社法施行規則の略であり、「計規」は会社計算規則の略である)。 本稿では、「作成にあたってのポイント」について解説する(「記載事例」についてはFASFの公表資料をご覧いただきたい)。 1 「主要な経営指標等の推移」/「直前三事業年度の財産及び損益の状況」 (開示府令第三号様式記載上の注意(5)/施規120条1項6号) 2 「事業の内容」/「主要な事業内容」 (開示府令第三号様式記載上の注意(7)/施規120条1項1号) 3 「関係会社の状況」/「重要な親会社及び子会社の状況」について (開示府令第三号様式記載上の注意(8)/施規120条1項7号) 4 「従業員の状況」/「使用人の状況」 (開示府令第三号様式記載上の注意(9)/施規120条1項2号) 5 「経営上の重要な契約等」/「事業の譲渡」等 (開示府令第三号様式記載上の注意(14)/施規120条1項5号ハからへまで) 6 「主要な設備の状況」/「主要な営業所及び工場」の状況 (開示府令第三号様式記載上の注意(18)/施規120条1項2号) 7 「ストックオプション制度の内容」/「新株予約権等に関する事項」 (開示府令第三号様式記載上の注意(19)/施規123条1号) 8 「大株主の状況」/上位十名の株主に関する事項 (開示府令第三号様式記載上の注意(25)/施規122条1項1号及び2項) 9 「役員の状況」/会社役員の「地位及び担当」並びに「重要な兼職の状況」 (開示府令第三号様式記載上の注意(36)/施規121条2号及び8号) 10 「社外役員等と提出会社との利害関係」/社外役員の重要な兼職に関する事項 (開示府令第三号様式記載上の注意(37)及び開示ガイドライン5-19-2/施規124条1項1号及び2号) 11 「社外取締役の選任に代わる体制及び理由」/「社外取締役を置くことが相当でない理由」 (開示府令第三号様式記載上の注意(37)/施規124条2項) 12 「役員の報酬等」/「会社役員の報酬等」 (開示府令第三号様式記載上の注意(37)/施規121条4号及び5号並びに124条1項5号及び6号) 13 「監査公認会計士等に対する報酬の内容」/「各会計監査人の報酬等の額」及び「株式会社及びその子会社が支払うべき金銭その他の財産上の利益の合計額」 (開示府令第三号様式記載上の注意(38)/施規126条2号及び8号イ) 14 財務諸表及び計算書類の表示科目 (財規17条1項7号等/計規74条3項1号トからヲまで等) 15 財務諸表及び計算書類の1株当たり情報に関する注記 (財規68条の4及び95条の5の2並びに連結財規44条の2及び65条の2/計規113条) (了)
2018年3月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.262を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
これからの国際税務 【第6回】 「EUにおけるデジタル経済課税の検討とPE概念」 早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二 1 なぜOECDの動きを待てなかったのか? 3月22日の日本経済新聞は、EUの欧州委員会(EUの執行機関でかつ唯一の立法提案権保有機関)がデジタル巨大企業に対する新税創設案を加盟国に向けて公表したと伝えた。その中身は、中長期的な課税ルールの提案と併せて、それが国際的に合意されるまでの暫定措置として、EUは売上高の3%の税率を課すデジタル税を導入するという提案である。 2015年10月に成立したG20/OECDによるBEPS最終報告書では、伝統的ルールの下で課税を免れているデジタル産業に対する課税については、移転価格税制や条約濫用防止、さらにはタックスヘイブン税制等の諸勧告の実行により当面十分に対応できると評価し、抜本的な課税制度の設計については2020年までにじっくりと検討すると合意されたはずである。 では、EUはなぜ待てなかったのか、その背景を探る。 2 EUのデジタル単一市場とそれを支える税制 2017年9月21日に欧州委員会が理事会に提出し、今後の立法化に向けた検討方向を示した文書「EUにおけるデジタル単一市場のための公平で効率的な課税システム」がその背景を説明している。 EUは課税問題の前に、既にデジタル化の下で「デジタル単一市場」戦略の実行に着手していた。すなわち、5億人を超えるEU消費者から構成される単一市場において個人と企業にとってのデジタル化のメリットを開放することを目的とし、その達成による経済効果を欧州経済にとって毎年4,150億ユーロ(雇用創出と公共サービスの改良効果を含む)と試算して各方面の施策の統一に取り組んでいる。 そして、このデジタル単一市場を支える不可欠なインフラが、デジタル経済のイノベーションを促進しつつ、市場の分断を防止し、すべてのプレーヤーに公平でバランスのとれた状況下で新市場への参入を許容する方向に沿った、近代的かつ安定的な課税枠組と認識されたのである。 一方、価値乃至利益の創造された場所で課税すべきとの改革理念を色濃く持つBEPSプロジェクトでは、電子産業に関する限り、独自の無形資産に基づきプラットフォームを大規模に提供してBtoBやBtoCの取引(データ収集を含む)を独占するIT巨大企業(主として米国所在)と、それらに大規模市場を提供しているEU等の先進国との間では、それぞれの貢献度の評価に差があり、迅速な合意が難しいという宿命がある。OECDでの税源浸食へのじっくりとした対応に関し、2015年の英国による迂回利益税創設を契機として、これに満足しないEU加盟国による1国限りの独自税制が散見されるようになった。 EUは、この状況を放置しておくと単一デジタル市場が分解するとの懸念に立ち、それらの動きを抑制する方向ではなく、EUとしての統一的な暫定的対応策を含めた形で、税制改革案を提案したものと思われる。 3 暫定措置の内容と課題 欧州委員会が提案した暫定措置は、「一定のデジタル産業の売上に対して、3%の税を課す」とする内容である。内外無差別の間接税であり、国際課税面での理論整理の必要性は少ないと思われる。 すなわち、所得課税に関する本格的な検討に基づく国際合意に達するまでの間の暫定措置であり、課税による中立性かく乱をめぐっての政策の当否に係る議論は別として、課税の仕組みについての新しい発想があるとは思われない。 4 中長期的解決策としての「デジタルPE」 一方、中長期の解決策としては、「PEなければ課税なし」の確立された枠組みの中で、従来は物理的PEに頼りすぎたとの反省に立ち、デジタルプラットフォームが次の3条件の1つを満たす場合には、課税ベースとなる「デジタル拠点」あるいは「バーチャルPE」と位置付けて、共通の所得課税を行うとしている。 この長期的改正案は、2020年に向けた検討を進行中のOECDへの牽制球としての性格も併せ持つものと思われる。すなわち、BEPSの他の勧告の実施でデジタル経済対応は十分とする考え方をとる国に対しては、EUの対応の真剣度を誇示するとともに、暫定案による場合の経済かく乱や課税理論の破壊リスクを危ぶむ国に対しては、国際ルールに関する沿革尊重やOECDでの議論への参加による決着が最も望ましいと考えていることを知らせている意味で、一定の効果を有していると思われるのである。 5 今後の見通し 今回の欧州委員会による税制改革案は、近く共通法の形式である指令案として提案されると期待されるが、全会一致方式をとっているEUでは、アイルランドやルクセンブルク等の反対国の存在もあり、早急な執行への到達は困難と思われる。 欧米に比べて検討が遅れていると思われる我が国も、欧州進出子会社に適用された場合の効果も検討しつつ、デジタル社会におけるPEというNexus概念の再構成につながるOECDでの今後の議論に、官民を挙げて積極的に取り組むべきであろう。 (了)
〔平成30年4月1日から適用〕 改正外国子会社合算税制の要点解説 【第3回】 「会社単位の合算課税」 税理士 長谷川 太郎 1 押さえておきたいポイント 2 会社単位の合算課税 外国子会社合算課税制度の適用の有無を、まず租税負担割合で判定する形は廃止(トリガー税率の廃止)されたが、改正前の制度との継続性を踏まえつつ、企業の事務負担を軽減する観点から、適用免除の基準として租税負担割合が採用されている。 具体的には、ペーパー・カンパニー等の特定外国関係会社については、租税負担割合が30%以上であれば、その事業年度に係る適用対象金額について合算課税の適用を免除するとされている(措法66の6⑤一)。 特定外国関係会社以外の外国関係会社については、租税負担割合が20%以上であれば、その事業年度に係る適用対象金額について合算課税の適用を免除するとされている(措法66の6⑤二、⑩一)。また、特定外国関係会社については、租税負担割合が30%未満であれば、経済活動基準(改正前の適用除外基準)の判定を経ずに会社単位の合算課税が適用され、それ以外の外国関係会社については、租税負担割合が20%未満であり、かつ経済活動基準(次回以降解説)を1つでも充足しない場合には対象外国関係会社として会社単位の合算課税が、経済活動基準を全て充足する場合には部分対象外国関係会社として部分合算課税が適用される。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 特定外国関係会社 ① 特定外国関係会社とは 租税回避リスクが高いと考えられるペーパー・カンパニー等については、租税負担割合が20%以上であっても会社単位で合算課税が適用されることになった。ただし、租税負担割合が30%以上の場合には、合算課税は適用免除となる(措法66の6⑤一)。 具体的な対象法人は以下の3種類に区分される(措法66の6②二)。 (イ) ペーパー・カンパニー その主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の固定施設を有しておらず、かつその本店等の所在する国等において、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていない外国関係会社が該当する(措法66の6②二イ)。 「実体基準」及び「管理支配基準」は経済活動基準(改正前の「適用除外基準」)における「実体基準」及び「管理支配基準」と基本的に同じ内容となっているが、ペーパー・カンパニー等の判定における「実体基準」については、固定施設の所在地が本店所在地国に限定されていないことに留意されたい。 なお、具体的な「実体基準」及び「管理支配基準」の解説は、次回以降の「経済活動基準」の解説の中で行う。 (ロ) 事実上のキャッシュ・ボックス 総資産に比べて受動的所得の占める割合が高い外国関係会社については、「事実上のキャッシュ・ボックス」として特定外国関係会社に該当することとされている。 具体的には、その総資産(その事業年度終了の時における貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額)に対する部分合算課税の対象となる各所得の金額で異常所得の金額を除いた金額の合計額(下記〇の合計額)に相当する金額の割合が30%を超える外国関係会社とされている(措法66の6②二ロ、措令39の14の3③)。 (※) 財務省「平成29年度税制改正の解説」P676より抜粋 ただし、総資産額に対する有価証券、貸付金、固定資産及び無形資産等の合計額の割合が50%を超える外国関係会社に限られるとされている(措法66の6②二ロ、措令39の14の3④)。 よって、実務上は、まずはセーフハーバーである50%判定を行うことになると考えられる。 なお、外国金融子会社等については別段の定めがあるが、本稿では解説を割愛する。 (ハ) ブラック・リスト国所在外国関係会社 情報交換に関する国際的な取組への協力が著しく不十分な国又は地域の所在する外国関係会社は「ブラック・リスト国所在外国関係会社」として特定外国関係会社に該当することとされている(措法66の6②二ハ)。 具体的には、財務大臣が指定し、告示(措法66の6⑭)された国又は地域が該当するが、本稿執筆現在において、指定された国又は地域は存在しない。 ② ペーパー・カンパニーの判定における推定課税 税務当局の職員は、外国関係会社の租税負担割合が30%以上である事実が客観的に確認することができず、ペーパー・カンパニーに該当するかどうかを判定するために必要があるときは、期間を定め、内国法人に対して実体基準及び管理支配基準を充足する事実を明らかにする書類等の提示または提出を求めることができる(措法66の6③)とされている。この場合において、書類等の提示または提出がない時は、当該外国関係会社について、実体基準及び管理支配基準を充足しない(特定外国関係会社に該当する)と推定することとされているため、この場合には会社単位の合算課税が適用されることとなる。 法定税率ベースで30%以上となっている国は限定的であり、推定課税制度の導入により、企業側においては租税負担割合が明らかに20%以上であり、これまで特に何も対応をしていなかった外国法人についても、今後はペーパー・カンパニーに該当しないことを立証するため、実体基準、管理支配基準を充足することを明らかにする書面及び根拠資料を保存しておく必要があり、事務負担が増加することになると考えられる。 (了)