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連結会計を学ぶ 【第18回】「子会社株式の一部売却②」-支配の喪失-

連結会計を学ぶ 【第18回】 「子会社株式の一部売却②」 -支配の喪失-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は子会社株式の売却により、支配を喪失するケースについて、「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)にしたがって解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社から関連会社となるケース(支配の喪失) 1 子会社株式の売却損益の修正 子会社株式の売却により支配を喪失して関連会社となる場合には、資本連結実務指針45項及び45-2項に従って会計処理を行う(資本連結実務指針41項)。 子会社株式の一部を売却し連結子会社が関連会社となった場合、当該会社の個別貸借対照表はもはや連結されない。 このため、連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表上に計上している当該関連会社株式の帳簿価額は、当該会社に対する支配を喪失する日まで連結財務諸表に計上した取得後利益剰余金(時価評価による簿価修正額に係る償却及び実現損益累計額を含む)及びその他の包括利益累計額並びにのれん償却累計額の合計額等(以下「投資の修正額」という)のうち売却後持分額を加減し、持分法による投資評価額に修正することが必要となる(資本連結実務指針45項)。 個別財務諸表上、子会社株式の売却損益は、売却価額と売却した分の帳簿価額(個別財務諸表上の帳簿価額)の差額として算定される。 一方、連結財務諸表上は、売却した分の帳簿価額(個別財務諸表上の帳簿価額)を、連結財務諸表上の帳簿価額に修正する必要がある。 このため、売却前の投資の修正額とこのうち売却後の株式に対応する部分との差額(その他の包括利益累計額を除く)について、個別財務諸表で計上した子会社株式売却損益の修正として処理することとなる(資本連結実務指針45項)。 2 その他の包括利益累計額の取扱い その他の包括利益累計額に関する処理については、連結財務諸表上、子会社に係るその他の包括利益累計額(その他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額など)のうち一部売却に係る部分については、子会社株式の売却により連結上の実現損益となるため、個別財務諸表上の子会社株式売却損益(当該部分が既に含まれている)の修正に含めないとされている(資本連結実務指針45項)。 当該実現損益は当期純利益を構成するため、組替調整額(「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)9項)の対象となる。 3 取得関連費用の取扱い 資本連結実務指針8項のとおり、連結財務諸表上、子会社株式の取得関連費用は、発生した連結会計年度の費用として処理されるが、個別財務諸表においては、付随費用は、取得価額に含めることとなる。支配獲得後において、子会社株式を追加取得した際に発生した取得関連費用(連結財務諸表)及び付随費用(個別財務諸表)も同様である(資本連結実務指針46-2項、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)26項、「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)56項)。 このため、子会社株式の売却時において、付随費用は個別財務諸表上の売却簿価に含まれるが、連結財務諸表上の売却持分には含まれないことから、個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用のうち売却した部分に対応する額については、連結財務諸表上、個別財務諸表に計上した子会社株式売却損益の修正として取り扱う(資本連結実務指針46-2項)。 また、引き続き保有する部分に対応する額については、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当せず連結範囲から除外される際に、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)等その内容を示す適当な名称をもって計上することとなる(資本連結実務指針46-2項)。 支配を喪失して子会社から関連会社となり、持分法を適用することとなった場合には、連結財務諸表上、関連会社株式の投資原価には支配喪失以前に費用処理した支配獲得時の付随費用を含めないとされている(資本連結実務指針46-2項、66-7項)。 4 のれんの未償却額の取扱い 支配獲得後に追加取得や一部売却等が行われた後に、子会社株式を一部売却し、支配を喪失して関連会社になった場合、支配獲得後の持分比率の推移等を勘案し、適切な方法に基づいて、関連会社として残存する持分比率に相当するのれんの未償却額を算定する(資本連結実務指針45-2項)。 支配を喪失して関連会社になった場合におけるのれんの未償却額の算定に当たっては、いくつかの考え方があり得るが、支配獲得後の持分比率の推移等を勘案し、のれんの未償却額のうち、支配獲得時の持分比率に占める関連会社として残存する持分比率に相当する額を算定する方法や支配喪失時の持分比率に占める関連会社として残存する持分比率に相当する額を算定する方法などの中から、適切な方法に基づいて、関連会社として残存する持分比率に相当するのれんの未償却額を算定することとなる(資本連結実務指針66-6項)。   Ⅲ 子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなるケース(支配の喪失) 1 子会社株式の売却損益の修正 「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)29項は、子会社株式の一部を売却し、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなった場合、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとしている。 この場合の子会社株式売却損益の修正額は、関連会社になった場合(資本連結実務指針45項及び45-2項)に準じて算定する(資本連結実務指針46項)。 売却後の投資の修正額の取崩額は、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に、連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)等その内容を示す適当な名称をもって計上することになる(資本連結実務指針46項)。 2 取得関連費用の取扱い 前述のように、子会社株式の一部を売却し、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなった場合には、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとされており、当該個別貸借対照表上の帳簿価額には付随費用が含まれることになる(資本連結実務指針46項、46-2項)。 子会社株式の売却時において、付随費用は個別財務諸表上の売却簿価に含まれるが、連結財務諸表上の売却持分には含まれないこととなるので、個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用のうち売却した部分に対応する額については、連結財務諸表上、個別財務諸表に計上した子会社株式売却損益の修正として取り扱い、引き続き保有する部分に対応する額については、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当せず連結範囲から除外される際に、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)等その内容を示す適当な名称をもって計上することとなる(資本連結実務指針46-2項)。 (了)

#No. 268(掲載号)
#阿部 光成
2018/05/17

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-法務編- 【第1回】「会社組織の調査」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編-   弁護士法人ほくと総合法律事務所 パートナー 弁護士 石毛 和夫   (次回)→   ◇〔法務編〕開始にあたって◇ 本連載は、既に連載されている「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務」の各論・法務編であり、並行して連載されている「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編-」の姉妹編にあたる。 したがって、読者諸賢は、本連載を、法務デューデリジェンスに関する独立の読み物として読んでいただいてもよいが、本誌No.259、No.261、No.264及びNo.266に掲載されている「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-共通編-」と合わせて読み、あるいは〔財務・税務編〕と並行して読み進めていただくことで、総合的・有機的にデューデリジェンスを理解することができる。   《序章》 -はじめに- 〔共通編〕【第1回】にも記載したとおり、法務デューデリジェンスは、M&A取引の実行にあたり、対象会社等について、法的問題点の有無を調査する手続である。 対象会社に関する法的問題点全般を洗い出すことを目的とするものであることから、その調査項目は、会社組織、株式、関係会社、許認可、契約、資産・負債、知的財産権、労務、訴訟・紛争など、広範にわたることが多い。 実施される手続は、〔共通編〕【第2回】・【第3回】でも記載したとおり、主として、①資料の査閲、②マネジメントインタビュー及び③現地調査である。 では、弁護士は、これらの手続により、いったいどのような事項を調査しているのだろうか。 以下、調査項目ごとに概説してみよう。   《第1章》 -会社組織- 【第1回】 「会社組織の調査」   1 精査対象資料 「会社組織」項目調査資料としては、以下のようなものが挙げられる(〔共通編〕【第2回】に掲載した表とも重複するが、ここでは読者の参照の便宜上、再掲載する)。   2 調査手続 一般に、「会社組織」や「会社統治」等と呼ばれている調査項目では、以下のような事項が調査される。 (1) 対象会社の組織の概要 対象会社の定款、登記事項証明書、組織図や役員履歴書等により、対象会社の機関設計、主要な事業所、定款による株式譲渡制限の有無、内部組織図及び役員等の組織概要に関する情報を整理し、報告書に取りまとめる。 M&A実行にあたって株主総会の決議や種類株主総会の決議が必要である場合には、その点も記載しておくべきであろう。 ◆株式会社における機関設計と会社規模・閉鎖性による違い (2) 直近の組織再編行為 直近(ケースにもよるが、過去2~3年程度の間)に合併・事業譲渡(譲受)・会社分割・株式交換(移転)等がなされている場合は、その概要に関する情報を整理し、報告書に記載する。 (3) 定時株主総会 ① 株主総会議事録等により、定時株主総会が法令・定款所定の時期に開催され、法定の決議事項及び報告事項が決議・報告されていることを確認する。 ② 各決議の有効性を確認する。  株主総会議事録により、決議内容の違法(無効事由:会社法830条2項)や定款違反(取消事由:会社法831条1項2号)、特別利害関係株主の議決権行使による著しく不当な決議(取消事由:会社法831条1項3号)の有無を確認する。また、手続の違法、定款違反及び著しい不公正(取消事由:会社法831条1項1号)の有無も確認する。ただし、一般には、手続の調査は、招集通知や株主総会参考書類の記載内容のみから判断できる範囲のものに限られることとなろう。  なお、株主総会議事録があっても、法律上株主総会と評価し得る実態がなかった場合には、決議は不存在(会社法830条1項)とされ、議事録どおりの決議の効力は認められないことには注意を要する。そのような事情の有無は、マネジメントインタビューにより確認すべきこととなる。 (4) 臨時株主総会・種類株主総会 株主総会議事録等により、臨時株主総会の開催状況・決議内容を調査し、登記や定款等との不整合がないかを確認する。また、定時株主総会と同様にして、各決議の有効性を確認する。 対象会社が種類株式発行会社である場合には、種類株主総会の決議についても同様の調査が必要となる。ただし、種類株主総会の決議事項は限定的であること(会社法321条)に注意を要する。 (5) 取締役会 ① 取締役会議事録により、法定の頻度(3ヶ月に1回:会社法363条2項参照)で取締役会が開催されているか否かを確認する。 ② 法令等所定の取締役会決議事項が決議されているかを確認する。  代表取締役の選定(会社法362条3項)や株主総会の招集(会社法298条4項)等は比較的確認しやすいが、重要な職務執行の決定(会社法362条2項各号)に関する決議や、取締役の競業取引・利益相反取引の承認決議(会社法356条1項)等がもれなく履行されているかどうかの確認は難しい。  大規模な投資や事業展開、資金調達がいつなされたか、大口取引先との契約はいつ締結されたか、取締役が役員等を兼任している会社はどこか等、対象会社の社歴や経営実態に関する情報を総動員して、法定決議事項に該当する経営上の意思決定の有無をチェックしていくこととなる。  また、対象会社の中に、「常務会」「経営会議」等の名称で経営上の意思決定を行う会議体があるときは、本来取締役会で決議すべき事項をそちらで決議していることが間々あるので、そちらの議事録からアプローチすることも考えられる。 【取締役会の専決事項】 取締役会設置会社における取締役会の専決事項は、下記のとおりである。なお、これらの事項については、取締役会が決議しなければならず、社長や執行役員等に対して委任することが認められない。 ③ 決議の有効性を確認する。  実務上特に留意を要するのは、特別利害関係取締役の参加(会社法369条2項)である。ただし、特別利害関係取締役が審議・決議に参加していても、当然に決議が無効になるわけではないと考えられる(最高裁平成28年1月22日判決等参照)。 ④ その他、取締役会議事録の内容から、対象会社のリスク情報として指摘すべき事項がないかを確認する。 ⑤ なお、以上では便宜上、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社ではない、いわば「単純な」取締役会設置会社を前提に解説した。監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社の場合には、各委員会議事録の精査等により、各委員会及び委員が適法に職務を遂行しているかどうかの確認も必要となる。 (6) 監査役・監査役会 監査役や監査役会が設置されているときは、監査報告や監査役会議事録等から、監査役監査の実施状況を確認する。監査役監査での指摘事項があったときは、その内容及び是正の状況を調査する。 *  *  * 実務上は、「会社組織」項目の調査によってディール・ブレイクや具体的な減価要因に至る問題点が発見されることは稀であり、どちらかといえば、対象会社に対する基礎情報の収集・整理のための調査という側面が強い。 しかし、経験上、例えば取締役会の開催・決議や監査役の監査等、「会社組織」の領域における法令遵守体制が未整備である会社は、概ね、それ以外の領域においても体制未整備であることが多い。 その意味では、「会社組織」の調査は、対象会社の全般的な法務リスクの程度をはかるバロメータとなるため、なかなかあなどれない調査なのである。 (了)

#No. 268(掲載号)
#石毛 和夫
2018/05/17

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第1回】「プロローグ:事業承継対策と密接な関係にある経営者の老後資金問題」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第1回】 「プロローグ:事業承継対策と密接な関係にある 経営者の老後資金問題」   税理士法人トゥモローズ   1 経営者が引退後に必要となる資金 平均寿命が男性80.98歳、女性87.14歳と過去最長となった日本の長寿時代、人生100年時代といわれている昨今、引退後も豊かな老後生活を送るためには、いったい、いくら位の資金が必要となるのか、ご存知だろうか。 65歳で引退した夫婦2人が、その後30年暮らしたときにかかるであろう支出は、実に1億円近くである。 【高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の実支出】 (出典) 弊法人著『歯科医院の上手なたたみ方・引き継ぎ方』(清文社)p25 上記の各支出状況を見て分かるとおり、これらは決して贅沢をしすぎているとはいえないが、それでも1億円近くの資金が必要となるのである。この老後資金を引退までの給与と引退時の退職金、引退後の年金収入と投資収入などによって賄っていかなければならない。 場合によっては、不動産や有価証券、保険積立金といった個人資産を売却・整理することによって、資金を確保しなければならない事態も生じてくるであろう。 このような中で、中小企業経営者にフォーカスを絞って見てみると、これが事業を成功させてきた中小企業経営者である場合には、必然的にさらに多くの資金を要することは明らかであり、中小企業の経営者であるがゆえの様々な問題点が見えてくる。 例えば、中小企業経営者は、社長個人の給与収入は一般的には従業員よりも多く得ているため、生活の水準も高くなりがちである。しかし、その給与は、会社の経営状況に応じて大きく左右され、場合によっては会社が儲かっている時にしか給与が取れないなど不安定な状況にある。また、資金繰り次第では、会社に対して自己資金の貸付けを行っている経営者も少なくないだろう。 その他にも、会社の事業資金や設備投資のための借入に際して、金融機関からは個人保証や担保の提供を求められることもある。また、引退時においても、自己の退職金を支給できるか不透明な状況なども想定される。 そして、中小企業経営者の老後資金を考える上で切り離せない問題として、会社の株式の問題が挙げられる。 詳細は本連載の中で解説をしていく予定であるが、中小企業経営者の多くは「経営者=株主」として、自己資産に占める会社株式の割合が高い傾向にある。そして、この会社株式こそが、個人の相続に関する遺産分割や相続税の問題、会社の事業承継の問題となってくる。 この会社株式をいかに老後資金へと結びつけることができるかが、中小企業経営者の老後資金を構築する1つの大きなポイントといえる。   2 コンサルタント、アドバイザーとして押さえておくべきポイント 中小企業経営者の抱える悩みは、会社の経営から個人財産や、その両方に絡み合う相続、事業承継など多岐にわたる。これら多岐にわたる悩みに対応していくには、幅広い分野の知識が必要であり、さらに新たな制度や法改正、国や関係諸機関の動向などを絶えずキャッチアップしていかねばならず、どんなに優秀なコンサルタントであったとしても、1人のコンサルタントがすべての悩みの相談に乗り、問題点の解決ができているわけではなかろう。 そのため、中小企業経営者の周りには、会社の顧問税理士や顧問弁護士、中小企業診断士といった士業をはじめ、ライフプランナー、銀行担当者といった様々なコンサルタント、アドバイザーが集まっている。そこで、本連載では、専門家として、中小企業経営者の良きアドバイザーとして、最低限押さえておくべき項目の解説をしていく。 今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人ともいわれている。多くの中小企業経営者が引退を迎えていく中で、「老後資金の確保」を命題として、我々専門家が果たすべき役割を鑑み、今、このタイミングで論点を整理しポイントを押さえておくことが重要である。 筆者が事業承継のお手伝いをしている創業経営者がこんなこと言っていた。 事業を引き継ぐか悩んでいる後継者候補の娘婿に向けた言葉である。 独立して会社を立ち上げ、なんとか経営してきた中で、寝る間を惜しんで、ときには家庭を後まわしにしながらも会社を大きくしてきた。楽しいことばかりではなかったという。むしろ辛いことの方が多かったかもしれない。そのような中でも、公私において“いいところ探し”を続けポジティブに身を粉にして働き、ようやく迎える引退のとき。 このような経営者が、老後資金に関し不安を抱いているという状況にならないように、側で支える専門家として適切なアドバイスができるように、1人でも多くの中小企業経営のハッピーリタイヤへ向けて、読者の皆様の手助けとなるような有益情報をお伝えしていきたい。   3 今後の連載予定 本連載によって、中小企業経営者の「老後資金の確保」について、経営者としてのステージごとに、今後、以下の項目で体系的に解説をしていく予定である。 ➤導入 ・・・プロローグ、経営者のライフプラン、資産構築等 ➤事業承継前の老後資金準備 ・・・生命保険、共済制度、公的年金、不動産投資等、役員退職給与 等 ➤事業承継時の老後資金準備 ・・・親族内承継、親族外承継、M&A 等 ➤事業承継後の老後資金対策 ・・・投資、引退後給与、資産の組み換え 等 ➤相続対策と老後資金との関係 ・・・生前贈与、納税資金、争続対策 等 (了)

#No. 268(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2018/05/17

AIで士業は変わるか? 【第14回】「AIの判断ミスに対する法的責任の所在」

AIで 士業は変わるか? 【第14回】 「AIの判断ミスに対する法的責任の所在」   森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士 岡田 淳 近時、主に機械学習を利用したAI技術が急速に発展し、多くの企業がAI技術を利用したソフトウェアの開発や利用に取り組み始めている。今後もAI技術は社会に広く普及していくことが予想されるが、人間の指示を受けずに自律的な判断を行うAIの行為によって事故等が発生した場合、誰がどのような責任を負うのかといった新しい法律問題には、未解決の点も多い。 例えば、AIのコントロールする自動運転車が判断ミスにより衝突する、AIによるがん早期発見システムが検知ミスにより患者のがんの進行を許してしまう、といった例が典型的である。 AIは「人」に該当しない以上、AIによって発生した事故等についてAI自体に法的責任を問うことはできない。それでは、AIの開発や利用に関係する者(自然人や法人)のうち、誰がどのような場合に責任を負うのか、ということが問題となる。 従来であれば、ロボット等の機械を利用して発生した事故については、操縦者や運転者といった人間が判断して機械に指示するプロセスが介在していたため、それら利用者の故意・過失に基づく不法行為が成立するか否か、という点が争点となることも多かった。 しかし、自律的な判断を行うAIが判断ミスをした場合には、これをコントロールする操縦者や運転者が不在となるため、利用者への責任追及が困難となり、製造者等への製造物責任の追及が問題となる局面が増加することが予測される。 具体的には、運転技術の自動化の進展を例にとると、従来の技術では、自動化の段階があくまで運転者の補助をするというレベルに留まっていた。 例えば、単なる車間距離警報装置やモニターカメラの場合であれば、単に運転手に対して一定の情報を提供する又は警告を発するというものにすぎず、最終的な判断は完全に運転者に委ねられている。 また、自動化の次の段階として、車間距離を保ちつつ一定速度で走行するアダプティブ・クルーズ・コントロールのように、一定の範囲で操作支援制御するというものがあるが、このレベルでもなお運転者の判断は相当程度介在する。 したがって、従来の技術では、仮に機械が一定の判断を行うとしても、それを取捨選択するのは最終的には利用者たる人間であり、事故等が発生しても、機械の「欠陥」を証明し、かつ欠陥と事故の「相当因果関係」を証明することは一般に困難であった。 これに対し、自動化の段階が更に進み、AIのコントロールする自動運転装置というレベルにまで達すると、運転手の判断が介在する局面は減少し、AIの判断ミスが直接的に人の生命や身体に危険をもたらすことになる。 自動車の場合には自賠法という特殊な法的枠組みがあるが、その点を捨象して一般化すると、AIの自律的な判断に起因する事故等の場合には利用者への責任追及が困難となり、被害者としては、製造者等に対して製造物責任等を追及できるか、ということが重要な問題となる。 しかし、事故等がAIの自律的な判断に起因するからといって、AIの製造者等が直ちに法的責任を負うかといえば、そのように単純な問題ではない。 むしろ、製造物責任法における「欠陥」とは、製造物が「通常有すべき安全性」を欠く場合に認められるところ、そもそも100%の安全性を保証することは困難であるし、一定の確率で判断ミスが発生するとしても、人間に比べればその発生確率が低いという場合に果たして「通常有すべき安全性」を欠くといえるのか、という問題もある。他方で、AIの性能には限界があるというディスクレーマーさえ記載しておけばいつでも免責になる、という性質の問題でもない。 また、機械学習したAIが、どのような思考過程を経て特定の入力値から特定の出力値を出すようになったかという点はブラックボックス化しており、具体的にどのような原因で問題が生じ、どうすれば被害を防げたのか、という点を検証することは難しい。 また、自動運転の例では、自動車間通信や自動車-道路インフラ間通信といった技術がさらに進化し、装置の内外で多数のシステムが連携するようになると、原因がどのシステムに所在するのかの切り分けも難しくなる。 同様のことは、AIの開発委託契約を締結する局面でも問題となる。新たに学習済みモデルを開発する場合に、学習用データセット以外の未知の入力に対しての挙動は不明確であり、性能保証は極めて困難である。 また、学習済みモデルによる推論結果が、当初期待された精度を達成しない場合、それは学習用データセットの品質の問題であるのか、人為的に設定されたパラメータの問題であるのか、プログラムにバグがあるのか、といった事後的な原因の切り分けも難しい。 そもそも、学習済みモデルの開発は、学習用データセットの統計的な性質を利用して行われるから、モデルの性能もデータセットの品質に依存する。そのため、学習用データセットに含まれるデータに外れ値が混入していたり、統計的なバイアスが含まれていた場合には、学習用モデルの性能に関する責任を開発ベンダに押し付けることは酷である。 *  *  * 以上のように、AIの判断によって生じたミスに対する法的責任をめぐっては、これまで以上に複雑な考慮要素が発生することになる。さらに、現行法の解釈という観点からも、また将来の立法可能性の検討という観点からも、AIの製造者等に対してどの程度容易に責任追及できるようにすべきか、ということは、産業政策的な価値判断も念頭に置きつつ判断されることになろう。 あまりに責任追及が困難ということになれば、被害者保護が果たされず、ひいてはAIに対する社会的評価が低下し、技術の進展が阻害される可能性がある。他方で、安易に責任追及を認めてしまうと、AIの製造者等としては過酷な結果責任を負うのに近い状況となり、やはり技術開発のインセンティブを削ぐ可能性がある。 それぞれの観点のバランスも適切に加味しつつ、AIに関する法的責任についての在るべき制度設計を問い直すことが、求められているように思われる。 (了)

#No. 268(掲載号)
#岡田 淳
2018/05/17

《速報解説》監査役協会、監査等委員会設置会社への移行増加を受け「新任監査等委員ガイド」を作成~就任後の早期実施事項や企業不祥事への対応等をQ&Aで丁寧に解説~

《速報解説》 監査役協会、監査等委員会設置会社への移行増加を受け 「新任監査等委員ガイド」を作成 ~就任後の早期実施事項や企業不祥事への対応等をQ&Aで丁寧に解説~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年5月8日、日本監査役協会は「新任監査等委員ガイド」を公表した。 これは、「新任監査役ガイド(第6版)」の内容をベースにして、監査等委員会における監査に即した内容にすべく必要な修正を行ったものである。 本ガイドは、表紙を含めて256ページの大部なものであるので、以下では主な事項について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 平成27年5月施行の会社法改正により、監査等委員会設置会社が創設されている。 本ガイドは、監査等委員会設置会社について、新任の監査等委員を対象として作成されたものであり、「Q&A 方式」によって丁寧に解説されている。 主な内容は次のとおりである。 そのほか、ミニ知識(例:ミニ知識32「期間計算の基本的な考え方」など)、参考資料、添付資料など、実務において参考となる情報が記載されている。 1 監査等委員である取締役とそれ以外の取締役 監査等委員である取締役とそれ以外の取締役の共通点と相違点について、図表を用いて説明し、次のように解説している。 2 就任後早期に実施すべき事項 本年度及び過年度に関する、監査計画、監査調書、監査報告、その他関係書類の確認など、具体的に説明されている。 3 監査等委員会の運営 「監査等委員会運営に係る会社法等の定め」が一覧として記載されている。 4 監査環境:時間不足 監査時間が足りないときは、まず、監査計画・日程は適切か、監査等委員間の職務分担は適切か、内部監査部門等との連携は適切か、優先順位をつけ効率的に監査できているかなどを見直すことなどが記載されている。 それでも時間が足りず実効的な監査ができない場合は、取締役会に、補助使用人の設置/増強や内部監査部門の増強等を要請することが記載されている。 5 監査の方法 基本的な監査の方法について、監査等委員以外の取締役等との意思疎通等、内部監査部門等との連携、取締役会等への出席、重要な書類の閲覧、本社・事業所等の調査などが説明されている。 6 企業不祥事への対応 監査等委員会としては、不祥事への対応は監査等委員会の中心的職責であることなどを念頭に、取締役等の対応状況を確認し、結果をフィードバックすることなどが説明されている。 (了)

#No. 267(掲載号)
#阿部 光成
2018/05/14

《速報解説》 KAM(監査上の主要な検討事項)記載に対応した「監査基準の改訂」公開草案が公表される

《速報解説》 KAM(監査上の主要な検討事項)記載に対応した 「監査基準の改訂」公開草案が公表される   公認会計士 阿部 光成   平成30年5月8日、企業会計審議会監査部会は、「監査基準の改訂について(公開草案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」を記載することなど、財務諸表利用者に対する監査に関する情報提供を充実させるものである。 意見募集期間は平成30年6月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 「監査上の主要な検討事項」に関する主な改正内容 1 監査上の主要な検討事項 「監査上の主要な検討事項」とは、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項をいう。国際監査基準では、KAM(Key Audit Matters)として規定されているものである。 今回の「監査基準」の改訂に際しても、監査報告書における監査意見の位置付けは、従来と変わりはなく、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は監査意見とは明確に区別されるものである。 監査報告書の記載に際しては、「監査上の主要な検討事項」の区分を設け、関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で、次の事項を記載する。 「監査上の主要な検討事項」のイメージは、企業会計審議会の「資料1「監査報告書の透明化」について」(平成29年10月17日、金融庁)の15ページから17ページが参考になる。 2 「監査上の主要な検討事項」と企業による開示との関係 企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は、経営者による開示を代替するものではないと述べられている。 監査人が「監査上の主要な検討事項」を記載するに当たり、企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切であるとされている。 監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待されている。 3 「監査上の主要な検討事項」と公共の利益 監査人は、「監査上の主要な検討事項」の記載により企業又は社会にもたらされる不利益が、当該事項を記載することによりもたらされる公共の利益を上回ると合理的に見込まれない限り、「監査上の主要な検討事項」として記載することが適切であるとされている。 財務諸表利用者に対して、監査の内容に関するより充実した情報が提供されることは、公共の利益に資するものと推定されており、「監査上の主要な検討事項」と決定された事項について監査報告書に記載が行われない場合は極めて限定的であると考えられている。   Ⅱ 監査報告書の記載区分等に関する主な改正内容 監査報告書の記載区分等に関して次の改訂を行う。 「経営者及び監査役等の責任」として、「監査役等には、財務報告プロセスを監視する責任があること」が記載される。   Ⅲ 実施時期等 (了)

#No. 267(掲載号)
#阿部 光成
2018/05/14

プロフェッションジャーナル No.267が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年5月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.267を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/05/10

monthly TAX views -No.64-「仮想通貨の税制がFX並みになるには」

monthly TAX views -No.64- 「仮想通貨の税制がFX並みになるには」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   ビットコインなど仮想通貨の税務上の取扱いについては、2016年7月公開の本連載No.42「仮想通貨と税制」で一度取り上げているが、その後の展開を踏まえ、改めて検討してみたい。 *  *  * 「仮想通貨」の譲渡に関する消費税法上の取扱いは、指摘したとおりの議論の展開となり、「支払いの手段」とされている実態を踏まえて、17年度(平成29年度)税制改正で、「他の非課税となる商品券などと同様、消費税法上の非課税取引とされる」こととされた。 誤解なきよう指摘しておきたいが、この取扱いは、消費税法上「仮想通貨」を「通貨」とみなしたり、「通貨」扱いしたわけではない。あくまで「支払い手段」としての実態を踏まえたものである。 つまり、17年4月施行の改正資金決済法で、仮想通貨が「代価の弁済のために」「不特定多数の者に使用することができ」「財産的価値であること」「相互に交換できること」と定義されたためである。 *  *  * では、所得税法上の取扱いはどうか。この点については、17年12月1日付国税庁個人課税課の「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」により、「仮想通貨」の売却や使用による損益は、原則として雑所得に区分され、総合課税の対象となった。この取扱いは、日本円と外貨を交換した際に生じる為替差益と同じ扱いである。 わが国所得税法33条の譲渡所得の対象となる資産にはあたらない、ということでもある。 一方、一定のFXを含む先物取引については、雑所得ではあるが、租税特別措置により20%(国税・地方税)の税率での分離課税が適用されている。その理由を主税局長の国会答弁などからまとめると、次の2つである。 これを筆者なりに「仮想通貨」に当てはめてみよう。 1つ目の条件をクリアするには、公正で透明な価格形成が行われるために、インサイダーや相場操縦などの不公正取引を防止する法的な手当てがある金融商品取引法で、金融商品に位置付けられることが必要ではないか。 2つ目の条件は、租税特別措置の対象として分離課税となるための「政策的な意義」が必要ということである。それは、「仮想通貨」が、広く一般投資家が参加するような金融商品になるということでもある。現在のように一部の者の投機対象では、これには該当しない。 先般、業界団体が統一されたということであるが、今後、この2つのハードルを乗り越えていく努力を積み重ねていくことが必要であろう。 (了)

#No. 267(掲載号)
#森信 茂樹
2018/05/10

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第64回】「新聞報道からみる租税法(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第64回】 「新聞報道からみる租税法(その1)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに インターネットの発達に伴い、近年新聞の売上部数は減少傾向にあるといわれているが、さりとて新聞をはじめとしたメディア報道が、世論形成に与える影響は依然として大きいと考える。 平たく言えば、「景気が良いと思うか悪いと思うか」、「現在の政治についてどう考えるか」、そのような国民の経済感覚、政治感覚は、相当程度メディア報道に依拠して左右されているのではなかろうか。自ら積極的に、国の公開する情報にアクセスして白書等を読み込み、国会審議を逐次チェックして情報を収集し判断している一般の国民はおそらくほんの一握りもいないであろう。 租税法が多分に政治的・経済的な要素を含む法律であることを踏まえれば、メディアがどのように「租税法」の情報を報道するかによって国民の意識は大きく左右されるように思われる。 逆にいえば、メディア報道が世論を形成し、法律の制定や改正に働きかけることも十分にあり得るであろうし、そうであるとすれば、そうして形成された世論が「社会通念」となり、司法判断の材料となることもあり得るであろう。 そこで、今回は、メディア報道のうち、特に新聞による報道を切り口にして租税法を眺めることとしてみたい。   1 メディアと国民と国家 (1) メディアにおけるゲートキーパー機能 メディアはニュースを伝達する装置であるといわれることがあるが、正しくは、メディアとは、「情報を過剰に伝えないための装置」であるといわれている(佐藤卓己『メディア社会』166頁(岩波新書2006))。 このことは、情報を選別し、「不必要なニュース」を排除するために報道機関が存在しているということである。このように、必要なニュースを伝え、不必要なニュースを排除する機能のことを、メディア論では「ゲートキーパー(門番)機能」と説明する(かかるメディアの選択した情報によって世論(せろん)が形成される(輿論(よろん)とセロンの違いについて、佐藤卓己『輿論と世論』(新潮社2016)))。 (※) 新聞の場合、通信社や各支局から日々膨大なニュースが送られてくるが、実際に紙面に掲載されるニュースはその一部に過ぎず、そのことから、新聞の編集過程は「多くのニュースをボツにする作業からなる」と説明されることもある(佐藤・前掲書166頁)。 もっとも、情報化社会において、インターネットが膨大な情報の氾濫を生み出していることからすれば、かかるゲートキーパー機能はウェブサイトにおいては崩壊しているとみることもできる。 しかしながら、新聞報道を念頭におくと、依然として、そこにはゲートキーパー機能が存在しているものと思われる。 大量の情報から新聞が何を選択し、何を排除するかという点は、市民意識に直接働きかける情報の取捨選択を意味するのであるから、非常に重要であるといえよう(新聞の購買量が減少している現在においても(山本泰夫『メディアとジャーナリズム』56頁(産経新聞出版2012))、依然としてこの機能の重要性がなくなったわけでは決してない。)。 他方で、市民の側にも、情報を批判的に読み取るメディアに対するリテラシーを持って臨むことが肝要となろう(菅谷明子『メディア・リテラシー』(岩波書店2000)参照)。 (2) 世論形成とマスコミ報道 やや古い情報ではあるが、電通による「消費実感調査」(平成9年11月発表)では、「経済観察に関して先行きの景気が悪くなる」と回答した理由として、「政府の取り組み・施策」が46.6%であったところ、次いで「マスコミ報道から」が30.3%と高くなっている。 この点、「株価の動きから」が27.4%であったことを踏まえれば、経済状況の評価ではマスコミ報道から受ける影響が大きいことが示唆される(もっとも、かかる調査当時に比較すれば、はるかに市民が取得できる情報量が膨大なものとなっている今日においては、マスコミ報道以外の情報に左右されるケースも増えていることが容易に想定されるが、それでも経済観察に関してマスコミをはじめとするメディアが及ぼす影響は依然として大きいと思われる。)。 そうであるとすると、マスコミがどのような報道をするかという点は、租税制度に対する世論形成においても極めて重要なファクターとなろう。 なお、「世論」の定義については論者により様々であるが、例えば、「メディア革命のもとで注入・吸引された無数の大衆の感情・意向などが新聞、ラジオ・テレビなどのマス・メディアによって凝集・浄化されて集合的に合意化されたもの」と定義づけることができよう(佐藤俊一『政治行政学講義』91頁(成文堂2004))。 (3) メディア報道を意識する国 メディア報道が国民の意識に大きな働きかけを及ぼすものであることから、国サイドもメディア報道には注意を払っているといわれている。 例えば、官僚はメディアの政治的影響力を認識しており、政党や財界団体よりも高い位置付けを与えているといった意見もある(蒲島郁夫『戦後政治の軌跡-自民党システムの形成と変容』135頁(岩波書店2004))。そうした位置付けのレベルは一概にはいい切れないが、少なくとも行政がメディア報道に神経を使っていることは間違いないであろう(真渕勝『行政学』290頁参照(有斐閣2009))(この延長線上において、国によるメディア統制の問題が論じられることもあるが、ここでは、そこまでの議論には踏み込まずに話を進めることとしたい。)。   2 メディア報道と裁判例―興銀事件― このように、メディア報道は、国民の情報源の最も重要な1つといえよう。 このことから、現に、裁判所はしばしばメディア報道、特に新聞報道の有無をもって、社会的に周知されていたか否かといった点の認定判断を行っている。 もっとも、新聞による報道があったことをもって社会的に周知されていたことと同義に理解することができるか否かには議論の余地もあると思われるが、実際に多くの裁判例が、新聞報道の有無に触れて社会的周知の事実を検討している。 例えば、いわゆる興銀事件を確認してみたい。 興銀事件とは,いわゆる「住専」と呼ばれる住宅金融専門会社に対して貸付けを行っていた母体行である原告の債権につき、貸倒処理が認められるか否かが争われた大変有名な事例であるが、バブル経済の崩壊により経営が傾いた住専会社であるJ社に対し、原告が有していた貸付債権の額が約3,760億円と多額であったことや、いわゆる住専問題の解決に公的資金が導入されることに対する世論の反対など、事件当時大変世間の注目を集めた。 ここでは、原告がJ社に対して有していた金銭債権が回収不能な状況に陥っていたといえるか否かが争われたが、第一審東京地裁平成13年3月2日判決(民集58巻9号2666頁)は、次のように「マスコミや世論」につき事実を認定している。 このように、新聞や著名な雑誌による報道の存在をもって判断材料の1つとし、次のように、本件貸付債権が「社会通念上回収不能の状態にあった」として貸倒損失の計上を認めている。 このように、新聞報道等及び一般世論も事件当時の社会通念を探る1つのツールとされており、それが税務上の判断を左右する1つのファクターにもなることが分かる。以下では、新聞報道と予測可能性について、裁判例を通じて確認してみよう。   3 新聞報道と「知ること」―予測可能性― (1) 監査請求に係る「正当な理由」該当性 新聞に掲載されていることが予測可能性を担保するという考え方がある。 例えば、次のような住民訴訟事例をみてみよう。 A市が参加人会社に対し、取水施設に係る固定資産税の賦課及び徴収を怠っていることがいずれも違法であり、市は元市長に対し、市長在任中に行政財産としての管理を怠り続けたことにより、市に損害を与えたとして、損害賠償の支払の請求を市長に対して求めるなどした住民訴訟として、旭川地裁平成28年2月26日判決(判例集未登載)は、次のように判示する。 なお、ここでいう、地方自治法242条《住民監査請求》とは、その見出しのとおり住民監査請求について定めたものである。すなわち、同制度とは、「地方公共団体の住民が当該団体の執行機関又は職員の違法又は不当な財務会計上の行為又は怠る事実について、これを予防し又は是正することで、住民全体の利益を守ることを目的とする制度」をいう(総務省資料「住民監査請求・住民訴訟制度について」)。 住民監査請求は、242条2項本文において、「当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは、これをすることができない。」とされているところ、同項ただし書きにおいて、「正当な理由があるときは、この限りでない。」とされている。 この点について、本件判決は「相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたか否か」をもって判断すべきとしている。 その上で、「知ることができた」の判断に際し、次のように新聞報道の事実を認定する。 本件においては、北海道新聞において本件で問題となっている事実が掲載されていたという。 そして、次のように続け、「知ることができた」か否かにつき判断を下している。 要するに、仮にA市からの公表がなかったとしても、住民は北海道新聞の報道を通じて、問題とする事実の存在及び内容を知ることができたと論じ、住民側の主張を排斥しているのである。 (続く)

#No. 267(掲載号)
#酒井 克彦
2018/05/10

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第36回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第36回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第5章》 平成18年度税制改正) (3) 分割型分割その他の組織再編税制に係る所要の整備 ① 分割型分割の定義 平成17年改正前商法では、物的分割と人的分割に分かれていたが、平成18年に施行された会社法では、人的分割が物的分割+現物配当として整理されることになった。その結果、平成18年改正前法人税法における分割型分割と会社法における人的分割の内容が一致することになった。 そのため、「分割型分割」の定義を、分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産(分割承継法人株式その他の資産をいう)のすべてがその分割の日において分割法人の株主に交付される場合の当該分割と定められ(法法2十二の九)、「分社型分割」の定義を、分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産がその分割の日において分割法人の株主に交付されない場合の当該分割と定められた(法法2十二の十)。 なお、『平成18年版改正税法のすべて』289頁では、 と解説されている。 ② 分割型分割の間接交付化に伴う整備 前述のように、会社法上も、「分社型分割+現物配当」を分割型分割として取り扱うこととしたため、平成18年改正前法人税法において規定されていた分割型分割を「分社型分割+現物配当」とみなす旨の規定は削除された。そして、分割承継法人が分割型分割の直前に有していた分割法人株式、分割承継法人が分割法人又は他の分割法人から移転を受けた他の分割法人株式又は分割法人株式に対して株式割当てがなかった場合に、株式割当てがあったものとみなす規定も削除された。 しかしながら、『平成18年版改正税法のすべて』268頁では、 とされているため、従前と同じ取扱いとなる。 さらに、分割型分割により1株に満たない端数が生じた場合には、合併と異なり、分割法人から直接に代わり金が交付されることから、「当該端数に相当する部分は、当該分割型分割により当該株主等に交付される当該分割承継法人の株式に含まれる(平成18年法令123の2)」ものとして、課税所得の計算を行うこととしたため、金銭等不交付要件に抵触しないものとして整理することができるようになった。 このように、分割型分割の間接交付化に伴う整備は、従前の取扱いをそのまま継続するための改正であると考えられる。そのため、条文を読み込む際には、会社法の基本的な理解が重要になってくる。 ③ 移転負債の範囲に含まれる新株予約権交付義務 【第34回】で解説したように、会社法上、組織再編成を行った場合の新株予約権の取扱いについて、引き継ぐことを強制するのではなく、旧新株予約権の消滅と新たな新株予約権の発行として整理されることになった。 そのため、合併又は分割により合併法人又は分割承継法人に移転する負債には、合併又は分割により消滅する新株予約権に代えて新株予約権者に交付すべき資産の交付に係る義務を含むものとされた(平成18年法令123②)。 そして、適格合併又は適格分割の場合には、消滅する新株予約権の帳簿価額をそのまま新しい新株予約権の帳簿価額にすることにより譲渡損益が発生しないものとされた。 ④ 反対株主の株式買取請求 合併、株式交換又は株式移転を行った場合において、反対株主の株式買取請求が行われたとしても、金銭等不交付要件に抵触しないことが明確化された。この趣旨として、 とされている(※1)。 (※1) 『平成18年版改正税法のすべて』291頁。 すなわち、合併、株式交換及び株式移転では、被合併法人、株式交換完全子法人又は株式移転完全子法人がそれぞれ債務者になることから、合併法人、株式交換完全親法人又は株式移転完全親法人が組織再編成の対価として金銭を交付したわけではないということが言える。そう考えると、確認的に規定するにしても、合併だけでよかったとも思われるが、現行法上も、株式交換及び株式移転についても規定されている。 さらに、分割の場合には上記のような規定は存在しないが、分割法人の株主が反対株主の株式買取請求を行ったとしても、分割法人が金銭を交付することから、分割承継法人が金銭を交付するわけではないため、あえてこのような規定を設けなかったと考えられる。 ⑤ 議決権のない株式 株式継続保有要件の判定上、対象から除外される議決権のない株式について以下のように例示された。 この点につき、 と解説されている(※2)。そして、法人税基本通達1-4-2では、1株に満たない端数につき、議決権のない株式に含まれることが明らかにされている。 (※2) 前掲(※1)292頁。 ただし、平成29年度税制改正により、支配株主に対してのみ株式継続保有要件が課されるようになったため、法人税基本通達1-4-2に規定されている1株に満たない端数以外について、議決権のない株式であるかどうかが問題になることはあまり多くはないと思われる。 *   *   * 次回では、株式交換・移転税制について解説を行う予定である。 (了)

#No. 267(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/05/10
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