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連結会計を学ぶ 【第10回】「投資と資本の相殺消去・非支配株主持分」

連結会計を学ぶ 【第10回】 「投資と資本の相殺消去・非支配株主持分」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 連結貸借対照表は、親会社及び子会社の個別貸借対照表における資産、負債及び純資産の金額を基礎とし、子会社の資産及び負債の評価、連結会社相互間の投資と資本及び債権と債務の相殺消去等の処理を行って作成する(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)18項)。 今回は、投資と資本の相殺消去及び非支配株主持分について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 投資と資本の相殺消去 資本連結とは、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本を相殺消去し、消去差額が生じた場合には当該差額をのれん又は負ののれんとして計上するとともに、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分を非支配株主持分に振り替える一連の処理をいう(連結会計基準59項)。 支配獲得時における資本連結の手続には次のものがある(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)3項)。 1 基本的な考え方 連結貸借対照表は、親会社及び子会社の個別貸借対照表における資産、負債及び純資産の金額を基礎にしてこれらの数値を合算し、さらに二重計上になっている部分を調整することにより作成される。 支配獲得日において算定した子会社の資本のうち親会社に帰属する部分を投資と相殺消去し、支配獲得日後に生じた子会社の利益剰余金及び評価・換算差額等のうち親会社に帰属する部分は、利益剰余金及び評価・換算差額等として処理する(連結会計基準注解(注6))。 作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。 【図表:連結貸借対照表の作成プロセスのイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 連結精算表の作成 【設例1】   Ⅲ 投資と資本の相殺消去に関する留意点 1 相殺消去される子会社の資本 連結会計基準は、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本は相殺消去するものとし、相殺消去される子会社の資本は、子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における株主資本及び評価・換算差額等と評価差額からなると規定している(連結会計基準23項)。 具体的には、資本連結手続において相殺消去の対象となる子会社の資本の額は、以下の①及び②に③の項目を加えた額となる(以下の金額はいずれも税効果会計適用後の金額である。資本連結実務指針9項)。 なお、子会社の資本の額には、新株予約権は含まれない(「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)5項)。 2 支配獲得日までに生じた子会社の利益剰余金 支配獲得日までに生じた子会社の利益剰余金は投資と相殺される(資本連結実務指針21項)。 一方、支配獲得日後に生じた親会社の持分に帰属する子会社の損益は、親会社株主に帰属する当期純利益として処理され、取得後利益剰余金となる。 子会社に係るその他の包括利益累計額(その他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額など)については、支配獲得日までの持分額(投資と相殺消去)とその後に生じた持分額(連結株主資本等変動計算書上のその他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額の区分等に計上)とに分けて処理されることとなる。 子会社のその他有価証券評価差額金の増減額に関する連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書上の取扱いについては、「金融商品会計に関するQ&A」Q73が参考となる。   Ⅳ 非支配株主持分 1 非支配株主持分の概要 子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は、非支配株主持分とする(連結会計基準26項)。 支配獲得日の子会社の資本は、親会社に帰属する部分と非支配株主に帰属する部分とに分け、前者は親会社の投資と相殺消去し、後者は非支配株主持分として処理する(連結会計基準注解(注7)(1))。 支配獲得日後に生じた子会社の利益剰余金及び評価・換算差額等のうち非支配株主に帰属する部分は、非支配株主持分として処理する(連結会計基準注解(注7)(2))。 2 連結精算表の作成 設例を用いて、非支配株主持分を説明すると次のようになる。 【設例2】 3 非支配株主持分に関する留意点 非支配株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分であり、支配獲得時に子会社の資本のうち非支配株主に帰属する部分について、議決権を有する株式の持分比率に基づいて計上する(資本連結実務指針23項)。 株式を段階的に取得している場合であっても非支配株主持分を計上するのは支配獲得時である。 支配獲得後においては、子会社の損益のうち非支配株主に帰属する部分を、持分比率に基づき算定して連結損益計算書の非支配株主に帰属する当期純利益に計上するとともに、非支配株主持分に加減する(資本連結実務指針24項)。 非支配株主持分の増減は、このほか、株式の追加取得、一部売却及び時価発行増資等による非支配株主持分比率の変動、子会社における支払配当金の発生、連結会社間の債権債務の相殺消去に伴う子会社における貸倒引当金の減額、子会社における未実現損益の消去などによっても生じる(資本連結実務指針24項)。 (了)

#No. 252(掲載号)
#阿部 光成
2018/01/18

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q9】「企業が合併した場合、合併前に学生に出した内定は合併後も有効か」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q9】 企業が合併した場合、合併前に学生に出した内定は合併後も有効か   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 新卒採用の学生に出す内定は、一般的には、始期付・解約権留保付労働契約が成立していると解されるため、合併により包括的に承継される権利義務の1つにあたり、合併後は存続会社又は新設会社の内定として取り扱われる。    内定とは 新卒採用の場合、「内定」とは、一般的には、卒業後の4月1日から労働契約を開始することを、10月1日等、労働契約開始の一定期間前に約束するもので、卒業できない等の一定の場合には労働契約を取り消すことがあるとする制約が付された労働契約となる。 つまり、労働契約の始期が付いており、一定の場合には解約できることから、「始期付・解約権留保付労働契約」が成立していると解されている。    合併の場合 合併の場合は、すべての権利義務が包括的に承継されるため、消滅会社のすべての従業員の労働契約は、吸収合併の場合は存続会社に、新設合併の場合は新設会社に自動的に承継される。この承継される権利義務には、学生に出した内定である「始期付・解約権留保付労働契約」も含まれるため、合併前に消滅会社が出した内定は、合併後は存続会社又は新設会社の内定として取り扱われる。    内定の取り消し 内定の取り消しは、労働契約の解除となり、解雇にあたる。解雇は、労働契約法16条により「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされているため、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合でなければ、内定を取り消すことはできないと解されている。 最高裁においても、採用内定期間中の留保解約権の行使について、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」としている。    事前の説明を 合併前に消滅会社が出した内定は、合併後は存続会社又は新設会社の内定として取り扱われることになるが、内定を通知された学生からすれば、社名等が変わる等して別の会社に就職するイメージを持つかもしれない。また、合併により内定が取り消されるかもしれない等の不安を抱くこともあるだろう。 よって、法的には包括的に承継される労働契約にあたるものの、入社前の内定を通知した学生に対しても、事前に、合併の経緯や新会社の概要等を丁寧に説明する機会を設けて積極的にコミュニケーションを図るべきだといえる。 (了)

#No. 252(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2018/01/18

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第22回】「認知症高齢者の刑事責任」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第22回】 「認知症高齢者の刑事責任」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   【設問19】 私の父は、5年前に認知症との診断を受けました。それ以来、私の家に父を引き取り、同居して暮らしています。 昨年あたりから父の症状が悪化し、同じ話題を繰り返したり、外出した際に帰り道がわからなくなるといったことがたびたび起きていました。 そのような中で、先日、父が近所のスーパーマーケットにて、いくつかの食料品をカバンに詰め、会計せずにお店を出ていこうとしたという連絡が入りました。警備員が父を問い詰めても、要領を得ないことを話しているとのことです。 父のような認知症高齢者が罪を犯した場合、どのような刑事責任を問われるのでしょうか。   1 高齢者犯罪の増加とその特徴 高齢社会の進展とともに、高齢者による犯罪件数が年々増加している。 犯罪白書によれば、高齢者の犯罪には次のような特徴が見られるとのことである(データの数値は平成28年版による)。 【高齢者犯罪の特徴】 高齢者が犯罪行為をした場合には、捜査・公判・矯正の各過程において様々な問題が生じる。 今回は、特に高齢犯罪者が認知症であった場合の影響について説明したい。   2 判断能力の減退が刑事責任に与える影響(その1) -心神喪失 一般に、罪を犯した者に対して刑罰を課す場合には、犯罪の行為者が刑法の規範を理解しているとともに、それに適合した行為をなし得る能力を有していることが刑法上の大原則である。これを「責任能力」という。 わかりやすく言えば、責任能力が認められるためには、犯罪行為をした者において、①そもそも「この行為は、しても良いことなのか・悪いことなのか」を判断する能力(是非弁別能力)を備えており、かつ、②してはいけない行為であると認識できた場合でも、その認識に基づいて自身の行動を制御できるだけの能力(制御能力)を備えている必要がある。 このような責任能力が完全に喪失し、あるいは著しく減退している場合がある。これが刑法上、「心神喪失」(しんしんそうしつ)や「心神耗弱」(しんしんこうじゃく)と呼ばれる問題である。 ここで「心神喪失」とは、精神の障害により、上記の①または②の能力を欠いている状態をいう。 このような場合、たとえ犯罪行為をした者であっても責任無能力者として犯罪は不成立となり、処罰されない。 認知症高齢者のケースで言えば、認知症が相当深刻な程度にまで進行している場合には、責任能力を欠く状態に至っている可能性も十分考えられる。実際に、高齢者である被告人が事件当時に認知症であったことを理由として無罪を言い渡している裁判が少なからず存在する。 なお、仮に刑事責任が問われないことになったとしても、民事上の賠償責任も免責されるかは、また別個の問題である。この場合、認知症高齢者自身の賠償責任は免責される可能性も高いが、同人の監督義務者に対する責任追及の余地はある。   3 判断能力の減退が刑事責任に与える影響(その2) -心神耗弱 他方、「心神耗弱」とは、精神の障害により、上記の①または②の能力が著しく低い状態をいう。この場合、限定責任能力者として、犯罪は成立するものの、刑が減軽される。これも心神喪失と同様、認知能力の低下が相当に進んでいる者が犯罪行為をなした場合には、該当する可能性がある。 このように、高齢者の被告人が心神喪失または心神耗弱と認定されるかどうかで、刑事責任上は重大な影響がある。 そこで、その認定に際しては、法律判断の1つとして、鑑定医等の専門家による医学的所見だけではなく、病歴、犯行の動機、犯行の計画性の有無、犯行の態様、犯行時及び犯行後の言動、犯行に関する本人の認識及び記憶の程度、犯行前の日常生活での様子等といった様々な事情に基づき、裁判所が総合的に判断していくことになる。 つまり、医師による医学的な判断のみをもって判定するわけではないことに注意する必要がある。 【設問19】においても、以上の諸要素について、まずは捜査段階において起訴の要否の判断を検察官が検討することになるし、公訴提起後は、公判手続のなかでそれぞれの弁護人が争うことになり、最終的には裁判所が判断することになる。   4 判断能力の減退が刑事責任に与える影響(その3) -訴訟能力 以上とは別の観点から問題となるものに「訴訟能力」という概念がある。 これは、最高裁判例の定義によれば、「被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をすることのできる能力」のことを指す。そして、認知症の影響により意思能力≒判断能力が無ければ、通常は訴訟能力も無いものとされる。 そのため、たとえ犯行時には意思能力が認められるようなケースであっても、その間に認知症が急速に進み、公判の時点で訴訟能力を欠く状態に至っているというような場合には、訴訟能力を欠くものとして取り扱われる。 被告人が訴訟能力を欠く場合には、原則として公判手続を停止して回復を待つことになるが、その後の被告人の状態等により回復がないときは、「公訴棄却」の判決をして公判手続を打ち切ることになる。 具体的には、裁判官からの問いかけの内容を全く理解できず応答できない、精神の障害の程度が著しく、弁護人との意思疎通が全く取れない状態にある等である。   5 高齢者犯罪に対する今後の取組み 以上で取り上げた心神耗弱・心神喪失による犯罪不成立、あるいは訴訟能力を欠く場合の公判停止・打ち切りというものは、これまでは非常に限られた場合の例外的な取扱いであると認識されてきた。 しかし、認知症高齢者が今後ますます増加していく現状にあって、従前同様の限定的なスタンスを取り続けてよいのかという点には疑問が呈されている。 実際、毎日新聞の調査によれば、平成20年から29年の間の全国の刑事裁判で、被告が認知症であることを理由に無罪とされたり減刑されたケースが少なくとも29件(うち無罪は3件で、いずれも万引き)あり、近年増加傾向にあるということである(平成30年1月3日付け毎日新聞webサイトによる)。同様に、訴訟能力を欠くとして裁判を中断したり、打ち切ったりしたケースも少なくとも9件あったとのことである(同1月6日付け同webサイト)。 前述のように高齢者犯罪が増加している傾向に照らせば、心神喪失・心神耗弱を理由とする無罪や減刑、そして訴訟能力の有無が争点とされるケースはますます増加していくものと考えられる。 他方で、刑罰が持つ応報的な意味や国民の素朴な処罰感情を考えると、認知症高齢者の刑事責任を限定的にとらえていくことばかりが正義にかなうとも単純には言い難く、非常に難しい問題といえる。 最後に、犯罪白書が説く高齢者犯罪に対する根本的対策について引用し、本問の解説を終えたい。 (了)

#No. 252(掲載号)
#栗田 祐太郎
2018/01/18

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第10回】「地元からの期待を正しく理解する」

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第10回】 「地元からの期待を正しく理解する」   中小企業診断士 西田 純   海外赴任というと、日本企業の場合は特に、『「任期」があって、その間だけをその土地で過ごす』というイメージがついて回ります。実際に、ほとんどの場合は数年を過ごすと一度日本へ帰国する、というパターンになるものと思います。中には日本へ戻らず次の任地へと異動する場合もあるようですが、やはり稀な例だと言えるでしょう。 他方で、海外赴任者を受け入れる地元にとって、その会社が続ける事業について期限付きで受け入れるという場合は、工事などの例を除くと必ずしも多くはないでしょう。会社にとってもまた、事業の中身に関わらず地元との関係を良好かつ永続的なものとするに越したことはないはずです。 このような、海外赴任者の任期意識と地元や本社の考え方のギャップが、思わぬトラブルの素になることがあったりします。今回はそこに焦点を当てて、任期付きの海外赴任であっても地元に受け入れられる努力が重要であることについてお伝えしたいと思います。   1 地元が日本企業に期待すること (1) 雇用の創出 海外勤務の多くは、赴任先の国で何らかの事業を行っていることに伴うものであると思われます。そのために雇用されている地元の労働力は、製造業の場合、特に人数的にも一定規模以上のものとなります。 サービス業・流通小売業であっても、雇用規模は同業の地元資本が提供するものに比べて大きくなる例が多いです。そのような企業は受け入れ先の国にとっても、長期間にわたって地元経済に貢献してくれる存在であるはずです。 (2) 商品・製品の供給 雇用の創出に加え、多くの企業が進出先の国において日本ブランドあるいは日本製の優秀な商品や製品を供給する役割を果たしています。部品供給の場合でも、日本製部品がサプライチェーンの中で重要な位置を占めるという例は少なくありません。地元市場あるいはサプライチェーンも、進出している日本企業に対して安定的な貢献を期待しているのです。 (3) その他便益の創出 雇用面、供給面での貢献以外にも、進出先にはありとあらゆる側面で日本経済とのつながりへの期待があります。今日、それは日本経済のほぼすべての分野にわたると言っても過言ではないほどに広く、深いものになっています。 金融からメディア、病院など医療サービスあるいは農林水産業やさらに文化交流を通じて伝統産業に至るまで、さまざまなセクターで海外進出の事例が出てきています。その中には建設工事や技術指導など、比較的短期で決着する事例も含まれますが、工事や技術指導でも終了後のフォローアップなどを通じた地元との関係は長期間にわたって継続します。 (4) 赴任者への期待 海外赴任者の任期が数年に限られるものであったとしても、地元経済やサプライチェーンは日本あるいは進出企業との関係を長期的なものとして認識していることに留意いただく必要があります。 つまり、業者選び、スタッフの雇用、地元政府との関係など、先方の期待は2年や3年で変わるものではないということです。「ダメなら変える」というソリューションが通じる国もありますが、全てがそうだとは限らないという点を、まずは認識いただきたいと思います。   2 日本企業のスタンス (1) 地元との共存共栄 いわゆる建前の世界でいうと、日本企業にとって地元との共存共栄は、ほぼ例外なく正しい考え方とされていることと思います。特に地元政府との関係については、外国企業として後ろ指をさされることのないように、コンプライアンスを重視して対応する、というように明確な整理がなされていると思います。 (2) トラブルへの備え その反面で、地元との関係作りについてトラブルを未然に防止する、というところまで目配りができている例は必ずしも多くないのではないでしょうか。人を変えればトラブルが収まる、という程度の認識では、後々禍根を残すことになりかねません。   3 「地元に受け入れられる」ということ (1) 相互の期待と満足 地元からすると、上述したように、雇用やサプライチェーンの発展など、事業面での期待が満足されることを通じて、長期的な視点から日本企業の進出が役に立ってくれることが何よりの満足につながります。他方で日本企業としても、成長性ある市場への取り組みが実現することは、大いに期待を満足させることにつながります。 しかしながら、長期的な視点で「期待と満足」を考えたとき、それだけでは不十分なのです。 (2) トラブルを未然に予防することの意味 日常の、ちょっとした隙が原因で様々なトラブルが起きがちなのが海外事業の難しさです。仕事上のミスに起因する小さなものから、現地側の対応の不備で余計な追加コストが生じたり、果ては営業秘密の漏洩あるいは業務上横領に近い深刻なものまで、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。 現地で起きてしまったトラブルについて、日本側の責任者としては現地側にトラブルの原因や責任を求めたくなるのは分かりますが、現地側としても本来的にはそういったトラブルを歓迎しているわけでは全くありません。むしろ日本側に「もうちょっと緊張感を持ってトラブルを未然に防止してほしかった・・・」というのが本音ではないかと思います。 本当に現地に受け入れられる企業は、自律的にトラブルを未然に予防できる会社であり、そういう企業であれば、トラブルの発生確率も自然に下がるのです。   4 候補者選定のポイント (1) 丁寧な仕事ぶり トラブルへの備えがしっかりできる人間を見極めるのは簡単ではないかもしれませんが、何より仕事に隙がないことが第一です。常に丁寧な仕事ぶりが評価されている、というような人材は、トラブル遭遇の確率も低くなるはずです。 (2) 長期的視点でものを考える 安かろう悪かろうの業者を平気で選ぶ、あるいは短期的利得を優先して意思決定をする、という傾向がある人は、トラブルを自ら招きかねない要素を抱えていると言えます。地元の有力者や企業との貸借関係の管理や雇用計画など、長期的な視点でものを考えられる人材を充当できれば、この点の懸念材料は大きく軽減されます。 (3) ローカルスタッフ・地元社会とのコミュニケーション トラブルの予防には、ローカルスタッフとのコミュニケーションを円滑にすることが第一です。公私にわたってローカルスタッフと積極的なコミュニケーションをとることで、情報が日本側に上がってくるチャネルを複数担保することができ、結果的にトラブル発生を抑止することにつながります(これは絶対的に重要な点です)。 信頼して任せた仕事で汚職が発生したり、業者と結託して横領やキックバックが発生するということも、残念ながら珍しいことではありません。逆に日本人スタッフ側でも、セクハラやパワハラは言うに及ばず、プライベートのギャンブルや交通事故など、思わぬ原因でトラブルを引き起こす側になってしまうことがあります。 そういう場合の備えとして、現地に深く受け入れられていることが“目に見えない資産”となって会社を守ってくれるのです。社内外で日常のコミュニケーションを重視する姿勢こそが、地元に受け入れられて安定的な操業を継続していくうえでのカギと言えます。   5 まとめ 先月お伝えした、生活者としてのコミュニティとの関わりもさることながら、地元経済との関係作りにおいて社内外とのコミュニケーションを重視できること、そして長期的視点で仕事ができることの重要性は、海外勤務の適任者を選ぶうえで大変重要な視点となります。 海外勤務というと、とりあえず任期いっぱいを無事で勤め上げることに、本人も周りも目が行きがちですが、本当に海外事業を成功させるためには、頭を切り替えて長期の視点で仕事ができる人を選ぶようにされると良いでしょう。 (了)

#No. 252(掲載号)
#西田 純
2018/01/18

《速報解説》 会計士協会、「公認会計士による中小企業の事業承継支援」について研究報告を公表~「従業員承継」及び「事業継続・廃業」に向けた検討事項・ツール等を紹介~

《速報解説》 会計士協会、「公認会計士による中小企業の事業承継支援」について 研究報告を公表 ~「従業員承継」及び「事業継続・廃業」に向けた検討事項・ツール等を紹介~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年1月15日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これは、中小企業の事業承継支援の重要性が増すなかで、公認会計士として相談企業の事業承継支援に資する情報(従業員承継に焦点を絞る)及び廃業支援に資する情報を提供しようとするものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 従業員承継の支援手法 主な内容は次のとおりである。 基本的に、チェックリストとその解説の形式により、検討内容が説明されている。 「Ⅲ 従業員承継に向けてのチェックリスト」では、理解すべき項目及び具体的な手法や検討方法が一覧になっており、また、活用できる公表ガイドライン、支援ツールが記載されていることから、実務に資するものと考えられる。   Ⅲ 事業継続・廃業に対する早期判断とその支援手法 1 主な内容 主な内容は次のとおりである。 支援先企業の現状分析を行う際のツールとして、(経済産業省が推進する)「ローカルベンチマーク」を活用した現状分析例が紹介されている。 事例の紹介、関連する機関のホームページの記載、「資料1-1 事業承継自己診断チェックシート」など、実務に資するものが多く記載されている。 2 廃業予定企業に対するアンケート結果を踏まえた指摘 廃業予定企業に対するアンケート結果から、次のことが指摘されている(5ページ)。 3 ローカルベンチマーク ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握を行うツール(道具)として、企業の経営者等や金融機関・支援機関等が企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みである(13ページ)。 ローカルベンチマークは、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されており、自社の業界内における位置づけ等を客観的に評価するツールである。 (了)

#No. 251(掲載号)
#阿部 光成
2018/01/18

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#Profession Journal 編集部
2018/01/17

《速報解説》 有償ストック・オプションに関する会計処理の取扱いを明確化した「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」等が確定~公開草案からの重要な変更なし~

《速報解説》 有償ストック・オプションに関する会計処理の取扱いを明確化した 「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」等が確定 ~公開草案からの重要な変更なし~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年1月12日、企業会計基準委員会は、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(実務対応報告第36号。以下「実務対応報告」という)及び改正「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(企業会計基準適用指針第17号の改正)を公表した。 これは、いわゆる有償ストック・オプションに関する会計処理の取扱いを明確化するものである。 これにより、平成29年5月10日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 公開草案に対しては、相当多数の反対意見が寄せられていたが、基本的に公開草案どおりの内容で確定することとなった。 公開草案に対する主なコメントの概要とそれらに対する対応が公表されており、反対意見に対しては、平成26年12月に基準諮問会議から提言を受けて検討を開始し、平成29年5月の公開草案の公表に至るまで、企業会計基準委員会で9回、実務対応専門委員会で8回、時間をかけ十分な審議を行ってきたことなどをあげ、公開草案に記載したとおりであることが述べられている(論点の項目(2)など)。 また、会社法の報酬との関係に言及したコメントに対しては、資本市場における会計基準は、一般的には、投資家の意思決定に資するより有用な情報を提供することを目的として開発しており、目的が異なる会社法における取扱いとの相違について言及することは適切ではないと考えられると述べられている(論点の項目(69))。実務対応報告の脚注3では、本実務対応報告は、当該取引に関する法律的な解釈を示すことを目的とするものではなく、当該取引が、法的に有効であることを前提としていると記載されている。 そのほか、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)の公表に際してのコメント対応に記載された内容との不整合を問うコメントに対しては、公開草案に寄せられたコメントに対する対応は、特定の取引に関する会計処理を明らかにするものではないとのことである(論点の項目(20))。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 実務対応報告の対象となる権利確定条件付き有償新株予約権を、ストック・オプション会計基準2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとする(4項)。 1 範囲 実務対応報告は、おおむね次の内容で発行される権利確定条件付き有償新株予約権を対象としている(2項)。 2 会計処理 主な会計処理は次のとおりである(5~8項)。 (1) 権利確定日以前の会計処理 (2) 権利確定日後の会計処理 (3) 権利確定日 権利確定日は、次のとおりとする(7項)。 3 開示 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する注記は、ストック・オプション会計基準16項及びストック・オプション適用指針24項から35項に従って行う(9項)。   Ⅲ 適用時期等 実務対応報告の適用にあたっては、実務対応報告の公表日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引に係る会計処理を遡及的に適用することが、企業間の比較可能性の向上に資すると考えられるため、遡及適用を原則としたとのことである(10項(1)、36項)。   Ⅳ 「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」 「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」では、適用範囲(2項)について、「本適用指針は、これに関連する新株予約権及び自己新株予約権の会計処理についても取り扱っている。ただし、新株予約権については、現金のみを対価として受け取り、付与されるものに限る。」と改正し、現行の「現金を対価として受け取り」の記載から「現金のみを対価として受け取り」と記載している。 (了)

#No. 251(掲載号)
#阿部 光成
2018/01/16

《速報解説》給与所得者の特定支出控除、自動車による帰宅旅費の追加等の拡充へ~平成30年度税制改正大綱~

 《速報解説》 給与所得者の特定支出控除、自動車による帰宅旅費の追加等の拡充へ ~平成30年度税制改正大綱~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   平成30年度税制改正大綱では、既報のような給与所得控除の見直しに併せ、給与所得者の特定支出控除についての見直しが示されている。 以下、給与所得者の特定支出控除の制度の概要と、今回の見直しの内容について解説を行う。   【1】 給与所得者の特定支出控除 (1) 制度の概要 給与所得者が、特定支出((2)参照)をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が、給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときには、その年分の給与所得の金額は次の算式で求めた金額とすることができる(所法57の2①)。 給与所得の金額 = 給与等の収入金額 -{給与所得控除額 +(その年中の特定支出の額の合計額 - 給与所得控除額 × 1/2)} (2) 特定支出とは 「特定支出」とは、給与所得者の次に掲げる支出のうち、給与の支払者により証明された一定のものをいう(所法57の2②、所令167の3)。 〈特定支出〉 (※1) 平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士等の資格取得費も対象となる。 (※2) 平成25年分以後、特定支出の範囲に含まれる。   【2】 見直しの概要 給与所得者の特定出控除について、次の見直しを行うことが示された。 (了)

#No. 251(掲載号)
#篠藤 敦子
2018/01/12

プロフェッションジャーナル No.251が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年1月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.251を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/01/11

monthly TAX views -No.60-「改めて、消費税軽減税率は廃止を」

monthly TAX views -No.60- 「改めて、消費税軽減税率は廃止を」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   新年早々、外食産業の依頼で「消費税軽減税率の課題」と題する講演を行うので、そのための準備をしつつ考えたことを述べてみたい。 2019年10月1日に消費税率が10%に引き上げられる際、軽減税率が導入される。軽減税率の対象は、「酒類・外食を除く飲食料品と新聞購読料(週2回以上発行)」である。 軽減税率導入に伴う問題、とりわけ執行上のさまざまな課題については、安倍総理の2度にわたる消費増税の延期もあり、議論が生煮えのままである。また、「新聞」が軽減税率の当事者であることから、軽減税率導入にマイナスとなるような記事はまず掲載されないという特殊な事情も、そのことに輪をかけている。 そこでこの際、改めて軽減税率の課題・問題点を整理してみたい。 *  *  * 第1に、軽減税率は、政策意義の不明な税制であるということだ。飲食費は高所得者ほど額が大きいので、軽減税率は低所得者より高所得者を優遇する制度である。昨年行われたオランダの総選挙では、「高所得者に有利な軽減税率を引き上げて、その財源で所得税減税を行う」ことを主張した政党が勝利した。 第2に、消費者・事業者・税務当局に多大な執行のコストをかけるということだ。それが引いては国民負担につながる。とりわけ、イートインコーナーのあるコンビニなどでの外食と飲食料品の区分は困難で、敏感なわが国の消費者は戸惑ってしまう。外食か飲食料品かの区分は、英国では温度(ホットフード)で、カナダでは個数(ドーナツ)で区分しており、混乱を避けるためには何らかの外形的な基準が必要になる。 ちなみに、わが国の消費税法では、外食(標準税率)の定義は「その場で飲食させるサービスの提供を行う事業を営む者が、テーブル、椅子その他のその場で飲食させるための設備(飲食設備)を設置した場所で行う『食事の提供』その他これに類するもの」となっている。 第3に、財源の問題が未解決のまま残されている。軽減税率導入に必要な財源は1兆円である。4,000億円は総合合算制度の取りやめで確保されるようだが、残りについては「安定的な恒久財源を確保するため、平成30年度末までに歳入及び歳出上の措置を講じる」ことが法律で義務付けられており、年末までに決める必要がある。 最後に、軽減税率の適用拡大を巡って、利権型政治が繰り返される可能性が高いことも付け加えておきたい。 *  *  * 軽減税率導入に対する代替案は、低所得者への給付を、所得に応じて行うことである。低所得者を3つから4つに区分し、その食料支出分を計算し給付する、「簡素な給付付き税額控除」(実質は給付)で対応は可能である。 この案に対して公明党などは、「正確な所得把握ができていないことが問題」というが、教育の無償化、児童手当、介護保険料など、わが国ではすでに数多くの所得基準の給付や負担が存在している。マイナンバーも導入されており、「正確な所得の把握」ができないことが給付付き税額控除導入反対の理由にはならない。 いずれにしても、軽減税率は、「過ちては改むるに憚ること勿れ」(論語)ということだ。 (了)

#No. 251(掲載号)
#森信 茂樹
2018/01/11
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