《速報解説》 監査上の主要な検討事項(KAM)に関する実務指針として 「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の新設を含む改正(公開草案)が公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年10月19日、日本公認会計士協会は、「監査基準の改訂に関する意見書」(平成30年7月5日、企業会計審議会)の公表に伴い、国際監査基準を踏まえて、以下の監査基準委員会報告書等の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 なお、監査基準の改訂に対応する「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」の一部改正(案)などは、平成30年9月26日に、金融庁が意見募集している。 意見募集期間は平成30年11月30日までである。 参考資料として「監査基準委員会報告書(公開草案)改正の概要」が公表されており、改訂監査基準の適用時期、監査上の主要な検討事項の決定などが分かりやすく記載されている。 本稿では、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の新設が、他の監査基準委員会報告書の改正に関連するので、上記の①と②について解説を行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の主な内容 1 監査上の主要な検討事項の決定 「監査上の主要な検討事項」とは、当年度の財務諸表監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう(7項)。国際監査基準では、KAM(Key Audit Matters)として規定されているものである。 監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(7項)。 上場企業の監査では、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項の中には、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項が1つは存在していると考えられている(A59項)。 監査人は、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、監査を実施する上で監査人が特に注意を払った事項を決定しなければならない。その際、監査人は以下の項目を考慮しなければならない(8項)。 監査人は、上記に従い決定した事項の中からさらに、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定しなければならない(9項)。 なお、監査役等とコミュニケーションを行った事項には、上記(8項)の①から③に該当しない事項が含まれ、それらが監査人が特に注意を払った事項となることがある。また、監査人が特に注意を払った事項には、財務諸表に明記されていない事項が含まれることがある(新しいITシステムの導入など。A18項)。 2 監査上の主要な検討事項の報告 「監査上の主要な検討事項」区分の冒頭に以下を記載しなければならない(10項)。 監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分において、以下を記載しなければならない(12項)。 監査人は、監査上の主要な検討事項の記載に当たって、以下について留意することが適切である(A47項)。 3 監査役等とのコミュニケーション 監査人は、以下に関して監査役等とコミュニケーションを行わなければならない(16項)。 4 比較情報 財務諸表に比較情報が含まれる場合、監査人は、比較情報にかかる監査意見の表明方式が比較財務諸表方式か対応数値方式かにかかわらず、過年度の財務諸表監査に関連する監査上の主要な検討事項について、監査報告書において改めて記載する必要はない(A10項)。 ただし、当年度の財務諸表監査には比較情報に対する監査手続が含まれるため、監査人は、比較情報に対する監査手続を含めた当年度の財務諸表監査において特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項と決定する(A10項、A33項)。 また、監査人は、前年度の監査報告書に記載された監査上の主要な検討事項の内容を当年度の監査報告書において更新することは求められていない(A11項)。 ただし、前年度の財務諸表監査における監査上の主要な検討事項が、当年度の財務諸表監査においても引き続き監査上の主要な検討事項であるかどうかを検討することは有用なことがある(A11項)。 Ⅲ 「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」の主な改正内容 監査人は、適用される財務報告の枠組みにより要求される事項に基づき、特に以下を評価しなければならないとされている。当該事項に関して、次の改正を行う(11項)。 また、監査報告書には、「監査意見」区分に続けて「監査意見の根拠」という見出しを付した区分を設け、以下を記載しなければならない(26項)。 そのほか、「財務諸表の監査における監査人の責任」(36項)における「継続企業の前提の評価」、「表示及び注記事項の検討」などの項目や、「財務諸表が適正表示を達成しているかどうかに関する評価」(12項、A7~A9項)、「我が国における職業倫理に関する規定」(26項(3)、A34項、A35項)、《付録 財務諸表に対する監査報告書の文例》など多くの項目が改正される。 Ⅳ 適用時期等 「監査上の主要な検討事項」に関する改正は、平成33(2021)年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。 ただし、平成32(2020)年3月31日(米国証券取引委員会に登録している会社においては平成31(2019)年12月31日)以後終了する事業年度に係る監査から早期適用することができる。 これ以外の改正は、平成32(2020)年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する(違法行為に関連する事項など、別途、規定されているものがある)。 (了)
《速報解説》 会計士協会、違法行為対応指針を受け 「財務諸表監査における法令の検討」等を改正 ~違法行為の疑いが監査報告書に及ぼす影響等を規定、 2019.4.1以後開始事業年度に係る監査等から~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2018(平成30)年10月19日、日本公認会計士協会は、以下のものを公表した。これにより、2017(平成29)年10月6日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)の倫理規程の改正を受けて、倫理規則の改正及び新たに策定された「違法行為への対応に関する指針」を公表しており、これに合わせて、関連する監査基準委員会報告書等の改正について検討を行ったものである。 ①監査基準委員会報告書250「財務諸表監査における法令の検討」の改正に伴って②から⑥までが改正されているので、以下では主に①の改正について解説する。 なお、「監査基準委員会報告書の公開草案に対するコメントの概要及び対応について」も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査基準委員会報告書250「財務諸表監査における法令の検討」の主な改正内容 1 範囲及び定義 監査人は、企業の違法行為について、法令や職業倫理に関する規定による追加の責任を有することがある。例えば、「違法行為への対応に関する指針」の要求事項について規定している(9項)。 「違法行為」には、委託先業者等の企業の指示の下で働く者によって行われる法令違反となる行為も含まれることを明示している(11項、A8項)。 2 違法行為の例示 次の法令の例を追加している(A6項)。 違法行為には、企業の事業活動に関連する個人の違法行為が含まれる(A9項)。 例えば、重要な管理職が、個人の立場で、企業の仕入先から賄賂を受領し、見返りに企業への業務提供や契約締結のために当該仕入先を選定することを確約する場合がある(A9項)。 「財務諸表監査における法令の検討」(監査基準委員会報告書250)のA17項では、違法行為の兆候の例を示している。 当該規定に関して、「企業から会計処理について相談を受けたこと」を違法行為の兆候となる具体事例(監基報250第A17項)の1つとして加えることを提案するコメントが寄せられている(コメントNo.3)。 当該コメントに対しては、企業から会計処理の相談を受けること自体は、監査において日常的に行われることであるため、違法行為又は不正の兆候の事例としては追加しないとの対応が示されている。 3 違法行為又はその疑いが監査報告書に及ぼす影響 監査人が25項から27項に従って除外事項付意見を表明する場合、違法行為又はその疑いが監査報告書において報告される(A25項)。 特定の他の状況において、例えば、以下の場合、監査人が違法行為又はその疑いを報告することがある。 4 監査契約の解除 監査人は監査契約の解除が適切であると判断する場合でも、監査契約の解除により違法行為又はその疑いに対応するための法令や職業倫理に関する規定に基づくすべての責任を果たしたことにはならないと規定されている(A24項)。 さらに、「監査人の交代」(監査基準委員会報告書900)では、職業倫理に関する規定に基づき、前任監査人に対して、監査人予定者の要請により、違法行為に関する情報を監査人予定者に提供することを求めている(A24項、監基報900 第9項)。 5 適切な規制当局への違法行為又はその疑いの報告 監査人は、識別された違法行為又はその疑いがある場合、以下に該当するかどうかを判断しなければならない(28項)。 上記に関して、適用指針では、適切な規制当局に違法行為又はその疑いを報告することが、以下の理由により、要求されている、又は適切である場合があると規定している(A27項からA32項)。 Ⅲ 監査基準委員会報告書900「監査人の交代」の主な改正内容 前任監査人は、前任監査人が監査契約の締結の辞退又は契約の解除を行った場合、監査人予定者の要請に基づいて、監査人予定者が監査契約の締結の可否を判断する前に知っておく必要があると前任監査人が判断した違法行為又はその疑いに関するすべての事実と情報を監査人予定者に提供しなければならない(13-2項、「違法行為への対応に関する指針」30項)。 また、前任監査人は、監査人予定者及び監査人と協議することについて会社から同意を得られない場合、その事実を監査人予定者及び監査人に開示しなければならない(16項)。 Ⅳ 適用時期等 2019(平成31)年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。 (了)
《速報解説》 国税庁より改正相続税法基本通達等のあらまし(情報)が公表される ~特例事業承継税制の関連項目ではケースごとの図解も~ Profession Journal編集部 国税庁は10月12日に、本年7月公表の「相続税法基本通達等の一部改正」に関する情報を公表、平成30年度税制改正を受けた改正通達の趣旨を明らかにした。 今回公表されたのは、平成30年度税制改正を受け7月3日付けで公表された「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」(※)で改正・新設された主な項目について、その趣旨を説明したもの。 (※) 「相続税法基本通達」(法令解釈通達)の他、「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて」(法令解釈通達)及び「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」(法令解釈通達)について改正が行われている。 改正通達では、今年度改正で創設された事業承継税制の特例措置について大幅に項目が新設されているが、あらまし(情報)(P75)にもあるとおり、「この特例措置の基本的な仕組みは一般措置と同様であり、特例措置の規定の多くは、一般措置の各規定を準用する形で規定されている」ことから、新設された項目の多くも一般措置の措置法通達を準用する旨の趣旨が示されている。ただし、特例措置では複数の株主から複数(最大3名)の後継者への承継パターンも認められていることから(※)、措置法通達70の7の5-3(特例対象受贈非上場株式等の贈与の意義等)など関連する項目の説明(P80)においては、次のような適用判定に関する図表等が適宜掲載されている。 (※) 一般措置では30年度改正により複数人の株主から1人の後継者への承継が認められるようになった。 「特例経営承継受贈者」の数の判定 (※) 相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)P83より また今年度改正では小規模宅地等特例の見直しが行われ、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供されていた宅地等(相続開始前3年を超えて引き続き一定の貸付事業を行っていた被相続人のその貸付事業の用に供されたものを除く)が貸付事業用宅地等の範囲から除かれることとされた。 ここで、被相続人が行う一定の貸付事業には、事業と称するに至らない「準事業」は含まれないが、この準事業となるか否かの判定において、いわゆる5棟10室基準を定めた所基通26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)及び27の2(有料駐車場等の所得)を用いることなどを定めた措置法通達69の4-24の4(特定貸付事業の意義)の趣旨についても説明されている(P32)。 貸付事業の態様と所得区分 (※) 相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)P33より (了)
2018年10月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.290を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第60回】 「消費税率の引上げに向けた対策」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇安倍首相による表明 10月15日、安倍首相は臨時閣議で、来年(2019年)10月1日に消費税率を、法律で定められたとおり、現行の8%から10%へ引き上げることを表明した。 今回の引上げ幅は2%であるが、前回5%から8%へ3%引き上げた際には、引上げ後の実質GDPが2四半期連続でマイナス成長となり、その大きな要因として、GDPの6割を占める個人消費が4-6月期及び7-9月期に前年同期比で2%以上減少したことが指摘されていた。 今回の引上げにあたっては、「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう、全力で対応する」ことが改めて強調された。そして、来年度、再来年度予算において、消費税対応で臨時・特別の措置を講じて消費税率引上げによる経済的影響を平準化することとした。 〇骨太の方針2018 政府では、すでに6月15日、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる骨太方針)を閣議決定しており、今回の臨時閣議での安倍首相の発言は、これまでの方針を確認し加速するものと考えられる。 骨太方針では、消費税率の引上げに併せて需要変動の平準化について「万全を期す」こととされ、具体的には、①消費税率引上げ分の使い道の見直し、②軽減税率制度の実施、③駆け込み・反動減の平準化策、④耐久消費財(自動車、住宅など)対策が掲げられている。 特に、駆け込み・反動減の平準化策としては、「消費税は消費に広く公平に負担を求める性格のものであることを踏まえた上で、2019年10月1日の消費税率引上げに当たり、税率引上げの前後において、需要に応じて事業者のそれぞれの判断によって価格の設定が自由に行われることで、駆け込み需要・反動減が抑制されるよう、その方策について、具体的に検討する」こととされている。 また、中小企業・小規模事業者に対する消費税の転嫁拒否等が行われないよう、「転嫁拒否等に対する監視、取締りや、事業者等に対する指導、周知徹底等に努め、万全の転嫁対策を講じるとともに、商店街の活性化、中小企業・小規模事業者のIT・決済端末の導入やポイント制・キャッシュレス決済普及を促進する」こととされている。 〇首相発言のポイント 駆け込み・反動減の平準化策に関して、今回の安倍首相の発言では、まず、「消費税引上げ前後に柔軟に価格付けができるよう、ガイドラインを整備」することが明らかになった。 8%への引上げの際に制定された「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」では、消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する表示に係る事業者の遵守事項を定め、あたかも消費者が消費税を負担していない又はその負担が軽減されているかのような誤認を消費者に与えないようにするとともに、納入業者に対する買いたたきや、競合する小売事業者の消費税の転嫁を阻害することにつながらないようにするため、事業者が消費税分を値引きする等の宣伝や広告を行うことを禁止しているが、これはあくまでも表示の規制であり、価格設定に係るものではない。一方、今回整備することとされたガイドラインでは、価格設定が対象とされる。 次に、「消費税引上げ後の一定期間に限り、中小小売業に対し、ポイント還元といった新たな手法による支援を行う」ことが明らかになった。「ポイント還元」の具体的イメージはわからないが、骨太方針で示された「中小企業・小規模事業者のIT・決済端末の導入やポイント制・キャッシュレス決済普及を促進する」ことを受けたものと考えられる。 さらに、大型耐久消費財については、来年10月1日以降の購入にメリットが出るように税制・予算措置を講じることとされた。特に、自動車の保有に係る税負担の軽減について、今年末までに結論を出すよう、党の審議を要請している。 これら3点は骨太方針においても一定の記載があったものであるが、これらに加えて、防災・減災、国土強靭化のための緊急対策を講じることが新たに明らかになった。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第3回】 「租税法律主義の厳格さ」 -「自律的」厳格さと「他律的」厳格さ- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、租税法律主義について、これと並んで税法の基本原則とされる租税平等主義との関係を検討したが、今回は、同じく法律による行政を要請する法治主義との関係について検討することにしよう。 租税法律主義が法治主義の一場面、すなわち、租税の賦課・徴収の場面における法治主義の現れであることに、異論はなかろうが(【11】【12】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)、租税法律主義は、一般に、他の行政分野にはみられない独特の厳格な法治主義として、理解されている。租税法律主義の厳格さは、どのような考慮に基づくのであろうか。これが今回の検討課題である。 Ⅱ 租税法律主義の「自律的」厳格さ 旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁は、租税法律主義について、「憲法84条は、課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり、直接的には、租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが、同条は、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。」(下線筆者)と判示した。 この判決は、憲法84条が「国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則」(法治主義のうち法律の留保の原則)を租税について厳格化した形で明文化した理由を、特に明示的には示していない。もっとも、前記の判示が「租税について」の判示であることからすると、前記の判示は、憲法84条は納税の義務が憲法上の義務(30条)、しかも民主主義的租税観(大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁では「およそ民主主義国家にあつては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきもの」とする見地。第1回のⅢ2参照)の下で国民に対して課される義務であることを考慮して、法治主義を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである、という理解を示したものと解される。 そのような理解からすると、租税法律主義の厳格さは、租税法律主義の対象である憲法上の租税概念(前掲旭川市国民健康保険条例事件・最大判では「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付」。前掲大嶋訴訟・最大判も同旨)から導き出され、自律的に獲得されたものといえよう。租税法律主義のこの意味での厳格さ(「自律的」厳格さ)は、とりわけ①課税要件法定主義、②課税要件明確主義及び③合法性の原則において具体化されている。これらはいずれも租税法律主義の内容を構成する憲法原則である。 ①課税要件法定主義は、租税法律の規律事項に関する要請として、課税要件をはじめとして納税者の実体的・手続的権利義務に関わる事項はすべて法律で規定されなければならないとする憲法原則であり(【29】)、特に命令(行政立法)委任の場面で個別的・具体的委任を命ずる(【30】)という形で、厳格さを発揮する。個別的・具体的委任は、法律の委任に基づく行政立法における行政裁量(行政立法裁量)に対する厳格な拘束を意味する。 ②課税要件明確主義は、税法の法文の定め方(書き方)に関する要請として、法文の定めは一義的かつ明確なものでなければならないとする憲法原則であり(【32】)、税法の解釈、特に税法上の不確定法概念の解釈(【33】)の場面で税務行政の裁量(要件裁量)の否定(【34】)という形で、厳格さを発揮する。 ③合法性の原則は、税務行政の合法律性の原則とも呼ばれ、課税要件の充足によって租税法律上当然に成立した納税義務(税通15条1項参照)を租税法律に従って確定し、その確定した税額を租税法律に従って徴収しなければならないとする憲法原則であり(【37】)、納税義務の確定及び履行の場面で税務行政の裁量(効果裁量・行為裁量)の否定(【38】)という形で、厳格さを発揮する。 租税法律主義の厳格さについて更なる検討を要するのは、前記②課税要件明確主義に関して税法の解釈の場面で論じられる要件裁量の否定である。というのも、他の法分野におけると同様、税法の解釈においても、ある法規(特に不確定法概念をもって規定される法規)について複数の合理的な解釈の可能性が存在する場合があり得るが、その場合には税務行政に要件裁量を認めても、直ちに、租税法律主義の目的(第1回のⅡ参照)に反する恣意的・不当な課税につながることになるわけではないからである(【34】)。 Ⅲ 租税法律主義の「他律的」厳格さ では、要件裁量否定論は税法において成り立たないのであろうか。 確かに、租税法律主義(課税要件明確主義)の観点だけからは、前述のとおり、税法の解釈上複数の合理的な解釈の可能性が存在する余地を完全に排除することはできないであろう。しかし、その観点に加えて、租税債務関係説の観点をも加味すると、要件裁量否定論は成り立つように思われる(【12】)。 租税債務関係説は、国家と国民との租税法律関係(租税に関する権利義務の関係。【87】)を公法上の債権債務の関係として性格づけ、とりわけ納税義務を、その義務内容を定める法律要件(課税要件)の充足によって法律上当然に成立する一種の法定債務として、構成する考え方である。租税債務関係説は、ドイツにおいて、同説の登場前は支配的見解の地位を占めてきた租税権力関係説、すなわち、租税法律関係を権力関係(国家の優越的地位に基づく国民に対する一方的支配関係)として性格づけ、国家を代表する税務官庁の行政行為(財政下命)によって納税義務が賦課されるとする考え方に対するアンチテーゼとして、第一次世界大戦後ヘンゼル(Albert Hensel)らによって唱えられた考え方である(【13】【88】)。 わが国の現行税法は、租税債務関係説を基礎にして納税義務の成立を観念していると解される。というのも、国税通則法15条1項は、「国税を納付する義務(・・・・・・)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。」(下線筆者)と定めているが、これは、納税義務の成立について特段の要件を定めることなく、納税義務の成立をいわば「所与の前提」(法律上当然の前提)として、納税義務の確定について定めた規定であると解されるからである。 課税要件は、これに該当する具体的事実(課税要件事実)が発生し当該課税要件に包摂されることによって、充足されるとともに、その充足によって納税義務が法律上当然に成立することから、1個の具体的事実に対して課税要件と納税義務とが1対1の対応関係にあると考えられる(「1個の事実に対する課税要件と納税義務との1対1対応の考え方」。【12】)。納税義務の内容が金額(税額)で表示される以上、1個の具体的事実に対する1つの課税要件規定の適用により納税義務の内容として複数の異なる税額が生ずる余地はない(当然のことながら、金額には解釈の余地はなく〇円は〇円以上でも以下でもない)。このことは、私法上の契約において、両当事者の意思表示が合致し契約が成立した場合、その債務内容として複数の異なる金額が生ずる余地がないのと同じである。課税要件は約定債務における意思表示に相当するものである(【88】)。要するに、課税要件規定について複数の解釈可能性が存在する余地はあり得ないのである。 このように、租税法律主義は、租税債務関係説と結びつくことによって、課税要件規定について複数の解釈可能性の余地を認めず要件裁量を否定するという意味での厳格さを獲得することになる。租税法律主義のこのような厳格さは、租税債務関係説という別の(租税法律主義外在的な)考え方との結びつきによって獲得されるものであり、その意味で「他律的」厳格さということができよう。 Ⅳ まとめ 以上において、租税法律主義の厳格さには、憲法上の租税概念及び納税義務の考慮に基づく「自律的」厳格さと、債務関係説との結びつきによる「他律的」厳格さがあり、両者が重なり合うのは課税要件法の解釈の場面であることを明らかにした。その場面において租税法律主義の厳格さは要件裁量否定論に帰結する。 要件裁量否定論によれば、課税要件法の解釈は、不確定法概念を用いる課税要件規定の解釈も含め、法律問題として全面的に裁判所の審査に服するものとされるのである。このこと(全面的司法審査)こそが、要件裁量否定論の要諦である。 ※今回の検討に関する「補論」については第34回参照。 (了)
相続税の実務問答 【第28回】 「死後認知があった場合の更正の請求」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書を提出した後に、A氏の認知の裁判が確定したことにより法定相続人の数が増えたことで、相続税額が減少することとなった場合には、認知があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができます(参考図の①)。 また、認知により相続人となったA氏に対して価額弁償金を支払ったことにより相続税の課税価格が減少することとなった場合には、そのことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができます(参考図の②)。 なお、価額弁償金が確定した段階で、認知により相続人が増えたことに伴う更正の請求と、価額弁償金が確定したことに伴う更正の請求とを併せて行うこともできます(参考図の③)。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死後認知 民法は、子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができると定めており(民法787)、父が死亡した場合には、認知の訴えを提起することができるのは、その死亡の日から3年を経過する日までとされています(民法787ただし書き)。 また、認知の裁判があった場合には、その子の出生の時に遡って認知の効力が生じることとされています(民法784)ので、認知があった時に、その認知に係る親が死亡していた場合には、その死亡した親の相続人になります。しかしながら、認知された子は、第三者が既に取得した権利を害することはできないこととされています(民法784ただし書き)。そのため、認知の裁判が確定したときに、父の遺産が既に他の共同相続人によって分割されていた場合には、認知された子は、価額のみによる支払いの請求をすることとなります(民法910)。 2 申告書の提出期限内に死後認知があった場合の相続税の課税 被相続人の死亡後に認知の裁判を受けた子は、その被相続人の相続人となります。その結果、相続税の基礎控除額を計算する場合の相続人の数が増え又は減り(注)、また、相続税の総額を計算する場合の各相続人の相続分の割合が変わることとなり、さらに、死亡保険金や退職手当金等に係る非課税限度額が変わることとなります。相続税の申告書の提出期限内に、認知があった場合には、認知された子を相続人に含めて、上記の基礎控除額の計算等を行うこととなります。 (注) 例えば、配偶者及び2名以上の被相続人の兄弟姉妹(甥姪を含みます)が相続人である場合において、子が認知された場合には、相続人は配偶者と認知された子の2名のみとなりますから、認知があったことにより相続人の数は減ることとなります。 また、認知された子があるにもかかわらず、その認知された子を除いて行われた遺産分割協議は無効となりますので、遺産は分割されていない状態(未分割の状態)にあることになります。したがって、相続税の申告期限までに、あらためて認知された子を含めて遺産分割協議が行われない場合には、相続税法第55条の規定により、民法の規定に基づく相続分及び包括遺贈の割合に従って相続税の課税価格を計算し、申告を行うこととなります。 3 申告書の提出期限後に死後認知があった場合の相続税の課税 (1) 相続税の申告書の提出期限後に認知の裁判があった場合には、それにより相続税の基礎控除額、相続税の総額を計算する場合の相続分の割合及び死亡保険金や退職手当金等の非課税限度額が変わり、その結果、各相続人・受遺者の相続税額が減少することとなる場合が多いと思われます。認知があったことに伴い既に申告した相続税額が過大となったときには、認知があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、納税地の所轄税務署長に対して更正の請求をすることができます(相法32①二)。 (2) また、遺産分割後に認知された子は、他の相続人に対して、価額弁償を請求することができますが、当該請求に対して弁済すべき額が確定したときは、価額弁償をすることとなった相続人等は、そのことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、納税地の税務署長に対して更正の請求をすることができます(相法32①六、相令8②二)。 (3) 上記(1)の更正の請求と(2)の更正の請求は、異なった更正の請求の理由に基づくものであり、更正の請求をすることができる期限も異なります。したがって、認知された子が価額弁償を請求し、その金額が確定した段階で、更正の請求を行うとしたときに、既に(1)の理由に基づく更正の請求を行うことができる期限が徒過していることもあり得ます。 しかしながら、認知の裁判が確定した後、価額による弁償額の決定を経て一連の相続に関する手続きが終了することからすれば、当該弁償額が決定した段階で一括して更正の請求を行うことも納税者の常識的な判断として無視できないと思われます。 また、認知の裁判が確定したならば、通常、引き続いて認知された子から遺産の一定割合に相当する額が請求されることとなるため、2段階で更正の請求の手続きを取らなければならないことは、相続人に煩瑣な手続きを強いることとなります。 そこで、被相続人の死亡後に民法787条の規定による認知の裁判が確定し、その後に価額による弁償の額が確定した場合において、認知に関する裁判が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をせず、価額による弁償すべき金額が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に上記2つの事由を併せて更正の請求が行われたときには、いずれの事由についても更正の請求の期限内に更正の請求があったものとして取り扱われています(相基通32-3)。 4 ご質問の場合 A氏の認知の裁判が確定したことにより、お父様の相続人の数が2名から3名に増加しますので、これに伴い相続税の基礎控除額は4,200万円から4,800万円に増加し、また相続税の総額を計算する場合の相続人の相続分も変わることとなり、さらに死亡保険金や退職手当金等がある場合にはそれらに係る非課税限度額が増えることとなるため、A氏を相続人に加えないで相続税額を計算した場合(期限内申告)に比べてA氏を相続人に加えて相続税の総額を計算した場合の方が相続税額の総額は小さくなります。 こうして計算した相続税の総額を基にあなたとお母様の相続税額を計算した結果、それぞれの相続税額が減少することとなるときは、更正の請求を行うこととなります。 A氏が認知されたことを理由に更正の請求を行うことができるのは、あなた方がA氏の認知の裁判が確定したことを知った日が平成30年10月1日であるとすれば、その翌日から4ヶ月以内ということになります。 ただし、この期間内に更正の請求をせず、A氏が請求している価額による弁償金額が確定した段階で、あなた及びお母様が当該金額の確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、まとめて更正の請求を行うことも可能です。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q12】 (最終回) 「本税制の事前検討事項及び準備事項」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q12] 本税制の適用可否を判定するに当たり事前に検討すべき事項、又は申告時期までに準備すべき事項があれば教えてください。 [A11] 本税制の適用可否を判定するための情報のうち、前事業年度に係るものについては、決算を待つことなく入手することができます。これらの情報を早期に入手し、適用要件を満たすために必要な条件を検討することによって、本税制を確実に適用できるように行動をとることも可能です。 【解説】 本税制の適用実務上、適用要件の判定や控除税額の計算にあたり様々な金額を集計する必要があるが、税額計算の段階でこれらを一気に行おうとすると事務の渋滞が生じ、円滑な決算手続に支障をきたすおそれがある。また、事前に情報を収集することによって、本税制の適用可否について事前検討を行うことも可能となることから、情報収集の時期はできるだけ早いことが望ましい。 (1) 収集が必要となるデータ 本税制の適用を行う上で収集が必要となるデータには、税額控除の計算に必要なものと適用要件の充足性を判定するために必要なものがあり、さらに収集するデータごとに集計対象範囲が異なる。また、データによっては前年度のものをそのまま用いることができるものもあり、それらについては改めて収集する必要はない。 以上の観点から、収集が必要なデータを整理すると下表のようになる。 〔本税制の適用に当たり収集が必要となるデータの種類〕 (2) データ集計の順序 効率的なデータ集計の観点からは、給与等支給額及び教育訓練費の額について集計範囲を確定させるために「国内雇用者」の範囲を確定させることから始めることがよさそうである。これにより、国内雇用者に対する給与等支給額(雇用者給与等支給額)及び教育訓練費の額を集計することが可能となる。次に、国内雇用者から継続雇用者となる者を抽出し(その方法は後述)、継続雇用者に対する適用年度及び前事業年度の給与等支給額を集計する。 給与等支給額及び教育訓練費の額に関する実質的な集計作業は以上である。その他のデータは、前期の申告書のデータをそのまま用いることができるためである。ただし、比較教育訓練費又は中小企業比較教育訓練費の額は、新税制(賃上げ・投資促進税制)で新たに集計が必要とされているから、前期以前のデータについて早期に集計しておくことが望まれる。 このほかに別途、国内設備投資額及び当期償却費総額について集計が必要となるが、特に国内設備投資額については、対象となる国内資産の取得のつど、担当部署から情報の連携を受けて集計しておくことが望まれる。 集計すべきデータと情報源泉(ソースデータ)の関係性についてまとめると下図のようになる。情報収集漏れが生じていないかどうかの検討において参考にされたい。 〔集計すべきデータと情報源泉の関係〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 国内雇用者と継続雇用者 国内雇用者とは、法人の使用人(役員、役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)のうち、その法人の有する国内の事業所に勤務する者であって、労働基準法第108条に定める賃金台帳に記載された者をいう(措法42の12の5③二、措令27の12の5④)。 また、継続雇用者とは、適用年度及びその前事業年度の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた国内雇用者のうち、雇用保険の一般被保険者に該当し継続雇用制度適用対象者を除いた者をいう(措法42の12の5③六、措令27の12の5⑭)。 これらの定義からも明らかなとおり、継続雇用者の範囲は、国内雇用者の範囲を絞り込むことによって得られるという関係にある。 これを踏まえ、人事情報として以下の情報について入手することが必要と考えられる。 そのうえで、国内雇用者のうちこれらに該当する者を除外することによって、継続雇用者の範囲を得ることができる(下図参照)。 〔国内雇用者と継続雇用者の関係〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (4) 継続雇用者の範囲は年度開始時点である程度絞り込める 適用年度において継続雇用者に該当するためには、適用年度及びその前事業年度の期間の各月において給与等の支給を受けている必要があるが、このことは、適用年度開始時点において、継続雇用者に該当する者をある程度特定できることを意味する。 すなわち、前事業年度の期間の各月にわたり給与等の支給を受けていた者が(継続雇用者に該当する可能性のある者の)最大母集団となり、ここから、当事業年度において退職した者、雇用保険一般被保険者資格を喪失した者、継続雇用制度適用対象者及び国内雇用者に該当しなくなった者(役員就任や海外勤務)を除外することによって、最終的な継続雇用者の範囲が確定することとなる。 本税制の適用可否を事前検討する上では、まずは前事業年度のすべての期間在籍していた者を対象として、暫定的な継続雇用者比較給与等支給額を集計することとしておけば十分であろう。上述の通り、実際の継続雇用者の範囲はこれより絞り込まれることによって継続雇用者比較給与等支給額についても同様の絞り込みが生じる(暫定金額≧確定金額)。 本税制の適用可否の事前検討に当たり、暫定的な継続雇用者比較給与等支給額を基礎として、そこから3%以上(中小企業者等は1.5%以上)増加していることが確かめられれば、最終的な継続雇用者比較給与等支給額によっても当然この要件を満たすこととなる。 この関係を利用して、適用要件を満たすために必要な継続雇用者給与等支給額の総額を把握しておくことは有用であると考えられる。 (5) 国内設備投資額と当期償却費総額 設備投資に係る要件の判定に関し、「国内設備投資額」は固定資産台帳から集計することが確実であるが、仮に固定資産台帳の更新が適時に行われていない場合であっても、残高試算表や総勘定元帳などから国内資産の増加取引を把握し、その取得価額を集計することによって得ることができる。 また、「当期償却費総額」が確定する前であっても、前事業年度末の固定資産台帳に基づいて翌期償却見込額を集計することは比較的容易と考えられる。 そこで、前年度末のデータに基づく翌期償却見込額を「当期償却費総額」とした場合に、適用要件を満たすために必要な国内設備投資額を逆算し、これに適用年度に予定されている設備投資計画と照らし合わせることによって、設備投資に係る要件を満たすかどうかの事前検討を行うことができると考えられる。 (連載了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第7回】 「義務化対象法人が書面で申告した場合の取扱い」 SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 電子申告の義務化は、申告方法をe‐Taxに限定するものですから、書面による申告書の提出は認められません。このため、電子申告の義務化対象法人が、法定申告期限までにe‐Taxにより申告書を提出せず書面により提出した場合には、その申告書は無効なものとして取り扱われることとなり、無申告加算税の対象となりますのでご注意ください。 なお、法定申告期限までに書面により申告書を提出した後、法定申告期限が過ぎた後でe‐Taxにより申告書を提出し直した場合も同様です。 (了)
〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第7回】 「低税率国の子会社に係る課税リスクの検討」 弁護士 木村 浩之 [Q] 日本法人である当社は、海外に子会社を有しています。現地の税率が日本よりも低い場合、子会社の所得が親会社の所属に合算されて課税される制度があると聞きましたが、その概要と留意点について教えてください。 [A] 内国法人が支配する外国子会社については、その所在地国における実効税率が低いなどの一定の要件を満たす場合、当該子会社の所得の全部又は一部が親会社の所得に合算され、日本で課税されることになります。 海外に子会社を有する場合、その適用要件を踏まえて、合算課税の適用の有無について検討することが重要です。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 親会社である日本の内国法人が海外に子会社を有する場合、親会社と子会社はそれぞれ別の法人格を有しており、それぞれの居住地国で課税されるのが原則である。親会社の居住地国である日本が、子会社に対し居住地国として課税することはない。 そこで、子会社において適用される税率が日本よりも低い場合、企業としては、親会社ではなく子会社に、より多くの所得を帰属させようとする誘因が働くことになる。この点、企業が経済的な実態を適切に反映させない態様で、恣意的に多くの所得を税率の低い子会社に帰属させるとすれば、日本としては課税ベースが失われることになる。 このようなことから、一定の場合に子会社の所得を親会社の所得に合算して課税する制度(外国子会社合算税制、いわゆる「タックスヘイブン対策税制」)が設けられている。 この制度は、内国法人が直接又は間接に50%超の支配関係(実質的な支配関係を含む)を有する外国子会社について、適用対象となり得る。50%超の支配関係が認められる限り、直接の子会社のみならず、その子会社(孫会社)が含まれることになる。また、50%:50%の合弁会社であっても、双方の出資者が内国法人であれば適用対象となり得る。 実際に本制度が適用されるかどうかは、それぞれの子会社につき、下記のとおり、複数の異なるテストによって判定する。 ① 現地における税負担(税率テスト) ② 現地における経済活動の実態(経済活動テスト) ③ 取得する所得の性質(所得テスト) なおこの制度は近年の税制改正により、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から、制度の見直しが行われている。 2 税率テスト 子会社の所在地国における実効税率が30%以上の「高税率国」の場合、本制度の適用対象外となる。ここでの実効税率は実際の税負担割合をいうのであり、法定税率とは異なり得ることに注意が必要である。 実効税率が30%未満の場合、本制度の適用対象となり得る。ただし、子会社の所在地国における実効税率が20%以上の「中税率国」の場合、次のいずれにも該当しないことで、適用対象外となることが認められている。 3 経済活動テスト 子会社の所在地国における20%未満の「低税率国」の場合、子会社の事業活動が相応の経済的な実体を伴うものであることが必要であり、具体的には、以下の4基準をすべて満たさなければ、子会社のすべての所得は親会社の所得に合算されることになる(ただし例外として、一定の配当所得は合算の対象外となる)。 4 所得テスト 子会社の所在地国における実効税率が20%未満の「低税率国」の場合、経済活動テストをクリアしたとしても、配当、利子、ロイヤルティ、株式譲渡益(キャピタルゲイン)といった受動的な所得については、なお部分的な合算の対象とされる。 ただし、部分合算を免れるための例外要件が定められており、その要件に該当するかどうかを検討することが重要である。 例えば、以下の所得については、それぞれ次の要件を満たすことで部分合算の対象外となる。 (了)