家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第25回】 「家族信託の活用事例〈不動産編⑥〉 (認知症が懸念される親の相続税対策として 子へ不動産や金銭を信託する事例)」 弁護士 荒木 俊和 今回は、今後認知症が懸念される親の不動産や金銭について子に対する信託を設定し、親に代わって子が相続税対策を実行する事例を解説する。 - 相談事例 - 私には今年87歳になる父がいます。父は市街地に多数の不動産を所有し、現預金も多く保有しているため、このまま亡くなってしまうと多額の相続税が発生することが見込まれます。 父は現在のところは十分な判断能力があると思いますが、最近では足腰が弱り外に出なくなってきたため、認知症になってしまうことを懸念しています。 父の不動産には減価償却の終わった古いアパートも多く含まれているため、建替えを検討していた時期もありましたが、最近では父自身が無気力になってきたこともあり、自身で建替えを行うことは難しそうです。 このような場合、私が父に代わって建替えを行うようなことはできないでしょうか。また、できればローンを組んで建替えを行いたいのですが、そのようなことはできないのでしょうか。 1 家族信託活用のポイント (1) 相続税対策としての建物建設 現預金が多い場合の相続税対策として、建物を建設したり、不動産を購入するなどして現預金を減らし、資産に占める不動産の割合を増やすことが行われる。これは、相続税の評価の上で不動産が時価よりも低く評価されるためである。 特に土地を所有している人の場合であれば、土地上に建物を新築するという相続税対策が行われることが多い。 (2) 建物の明渡請求、取壊し 既存物件の建替えの場合には、既存賃借人に明渡しを求めた上で取壊しを行い、新しい物件を建設する必要がある。 このとき、スムーズに明渡しが進めばよいが、既存賃借人との間の賃貸借契約を解除するためには信頼関係が破壊されたと認められるに足りる事情が必要となり、更新拒絶による賃貸借契約の終了を求めたり、6ヶ月間の期間を定めた解約の申入れをしたりする場合には、契約の終了や解約を認めるべき「正当の事由」(借地借家法第28条)が必要となる。 このため、既存賃借人が居住の継続を求める場合には、立退料を提供するなどの交渉が必要となり、容易に解決しない場合もありうる。 賃貸人が高齢になっている場合には、このような明渡請求が困難な場合も想定される。 また、建物の取壊しにあたっては所有者の承諾が必要になるため、所有者が認知症になって意思表示ができない場合には取壊しはできないものと考えられる。 (3) 信託財産内での建替え 建替えにあたっては上記のような観点から、建物の所有者が意思能力を維持している必要があるが、建替えが完了するまでには長期間を要することが多く、意思能力の維持に不安が生じている状況で建替えをするのには、途中で頓挫するリスクを伴う。 このため、取壊し予定の建物とその敷地、建替えに要する金銭を信託し、受託者の下で明渡請求、取壊し、新築の一連の行為を行うことが考えられる。 こうすることで財産の所有者は委託者兼受益者として信託契約を結ぶ一時点において意思能力を有していれば足りることになり、建替えの途中で意思能力を失ってしまったとしても、受託者において相続税対策を進めることができる。 ここで受託者が行った対策は信託財産の評価を通じて受益権の評価となり、受益権の評価額が下がることによって受益者の財産の相続税評価額が下がることになる。 (4) 信託内借入れの可否 また本件のように、建物の建替えにあたって借入れを行いたいというニーズも存在する。 相続税が問題になりうるような高額の財産を保有していたとしても、金銭の割合が少ない場合や修繕等に備えた余裕資金として借入れが必要になる場合等がある。 この場合、財産の所有者自身が借入れを行い、借り入れた金銭を信託する方法も考えられるが、高齢等を理由に金融機関の審査を通すことができないことがある。このように資金が調達できないときには、受託者が信託内で借入れを行うことで、信託財産内での建替えを可能にするような方法も考えられる。 ただし、債務のみを信託することは認められていないことや、信託内借入れが受益者の相続税の評価に組み入れられるのかについて疑義のある場合も存在することから、スキーム検討の段階で留意が必要である。 2 本件におけるスキーム (1) スキームの概要 以上のことから、本件では大要、以下のような家族信託のスキームが考えられる。 (2) 信託の目的 本件の場合、受託者が単に管理運用を行うだけでなく、信託財産の大幅な入替えが想定されている。 受託者は、本来的には信託財産の管理処分の一切を行うことができるとされているため、受託者の権原として建替えを行うことができる。しかし、信託の目的から逸脱した行為を行うことはできないため、このような一連の建替えの目的があることを信託の目的として明示しておくべきであろう。 また、受託者が善管注意義務違反に問われないようにするためにも、可能な限り具体的な建替えの内容を信託契約上に定めておくべきであると考えられる。 (3) 信託の終了 信託終了時の帰属権利者については、遺言と同様に、基本的に父の希望を優先するべきと考えられるが、子が相続税対策を実際に実行していることによる負担に報いるという観点を持つことが公平感につながると考えられる。 また、相続税対策を行っても相続税が発生することが想定される場合には、信託財産内の金銭を納税資金として考慮し、帰属権利者を決定しておくことも必要となる。 (了)
《速報解説》 大阪局、遺伝子検査等により遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)と診断された者が受ける手術費用等の医療費控除の適用に関し文書回答事例を公表 ~海外事例では女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが同手術を受けたケースも~ 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 大阪国税局は平成29年9月21日付(ホームページ公表は平成29年11月6日)で、遺伝子検査等により遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)と診断された者が受ける手術費用等の医療費控除の適用に関し、次の文書回答事例を公表した。 以下ではそのポイントを解説したい。 ▷照会の趣旨 遺伝カウンセリング及び遺伝子検査を行い、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer)(以下「HBOC」という)と確定診断された者が、乳房切除手術又は両側卵巣卵管切除手術を受けた場合の当該手術費用等については、保険診療の対象ではないが、所得税法第73条第2項(医療費控除)に規定する医療費に該当するか。 ▷事実関係 HBOCは、BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子(以下「本件遺伝子」という)に生まれつきの病的変異があり、細胞に含まれる遺伝子が傷ついた時にこれを正常に修復する機能が失われているため、乳がん又は卵巣がん(以下「乳がん等」という)を発症しやすい遺伝性疾患である。 HBOCと診断された患者は、本件遺伝子に変異がない者と比べてがんの発症リスクが乳がんの場合6~12倍、卵巣がんの場合8~60倍高いとされている。現状において本件遺伝子の変異を直接治療する方法は存在しないものの、がんを発症していない乳房切除手術又は両側卵巣卵管切除手術(以下、これらの手術を「本件手術」という)を受けることにより、乳がん等を発症するリスクをほぼ確実に減少させることができるとされている。 当事前照会を行った病院では、HBOCの患者に対して本件手術を行うに当たり、本件手術の安全性や有効性を評価するため、医療従事者、法律の専門家及び外部の有識者等で構成される「医の倫理審査委員会」において、HBOCと診断された者の乳がん等の発症リスク、本件手術を実施した場合の乳がん等の発症リスクの変化、及び手術の合併症などについての審理及び承認を受けており、本件手術を行う場合には次の手順によることとしている。 ▷結論 医師による診療又は治療の対価のうち、その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額は、医療費として医療費控除の対象とされている。また、いわゆる人間ドックその他の健康診断のための費用については、単なる診断だけで治療が伴わないことからその対価は医療費に該当しないが、健康診断の結果、重大な疾病が発見され、かつ、その健康診断に引き続きその疾病の治療を行った場合には、健康診断のための費用は医療費に該当するものとして扱われる(所得税基本通達73-4)。 本件手術についてみると、HBOCに罹患している患者においては乳がん等の発症リスクが高いことから行われるものであり、本件手術を行うことにより、乳がん等の発症リスクが低減される。 よって、本件手術は、HBOCの治療の一環として行われるものと認められることから、その費用について医師による診療又は治療の対価として、医療費控除の対象として差し支えないと考えられる。 また、本件遺伝子検査等は、その患者がHBOCであるか否かを診断するために行われるものであるため、その費用は原則としていずれも医療費控除の対象とはならないが、本件遺伝子検査等の結果、HBOCであることが判明し、本件手術が行われる場合には、所得税基本通達73-4に定める場合と同様に、いずれも医療費控除の対象として差し支えないと考えられる。 今回の照会事例を読み、アメリカの女優アンジェリーナ・ジョリーさんが2013年5月、遺伝性のがんを予防する措置として両乳房切除手術を受けたと公表したこと思い出されたかもしれない。 彼女は乳がんと卵巣がんの発症率が高くなる「BRCA1」遺伝子の変異の診断を受けており、2015年3月には卵管と卵巣も摘出している。 今回は彼女のようにHBOCと診断されたことに伴い手術を受けた場合には、当該手術及び遺伝子検査等の費用が医療費控除の対象となるかの質疑応答である。 (了)
2017年11月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.242を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.58- 「「加熱式たばこ」への課税と税収減」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 平成29年(2017年)度税制改正で、長年の懸案であった「ビール」「発泡酒」「新ジャンル」の税率を一本化する税制改正が行われたことは周知のとおりである。平成32年(2020年)10月から一本化に向けた税率の見直しが始まり、平成38年(2026年)10月にそろうことになる。 この税制改正の趣旨は、間接税の基本原則に沿って「同種・類似商品には同じ税率」にそろえたということだが、背景には「酒税の減少」という事実がある。 これから述べる「加熱式たばこ」の税率の見直しも、その目的は、基本的には同じ論理、つまり「同種・類似商品には同じ税率」と「税収減を防ぐ」ことにある。おそらく来年度税制改正の1つとして、淡々と処理されていくのであろう。 * * * すでに宮沢洋一自民党税制調査会長は、新聞各紙のインタビューで、「加熱式たばこ」について、通常の紙巻たばこに比べて税負担が軽いことの問題を指摘し、その税負担の増加を年末にかけて議論し手直しする方針を明らかにしており、来月にも議論が始まるであろう。 たばこ税法は第2条2項1号で、喫煙用の製造たばこを次の4つに区分している。 「加熱式たばこ」は、たばこ税法取扱通達の第3条で「パイプたばこには、紙巻たばこ、葉巻たばこ及び刻みたばこ以外の製造たばこを含む」とされているので、第二種のパイプたばこに分類されることになる。 たばこ税の課税標準は、たばこ税法第10条で、製造たばこの本数となっている。第二種に当たる加熱式たばこなどは、重量1グラムをもって紙巻たばこ(製造たばこ)の1本に換算して税負担を決める方式になっている。これは、製造たばこの重量が税負担の基準とされることを示している。 現在市販されている「加熱式たばこ」は、フィリップモリス社の販売しているIQOS(アイコス)がほとんどである。タバコスティック(粉末にした葉たばこに保湿剤(グリセリン等)や香料を加え、スティック状に成形したもの)を専用の器具に差し込み加熱して喫煙する。40秒ほどすると、たばこの味や香りを含んだ蒸気が発生するので、それを楽しむということのようだ。 小売定価は460円で、製造たばこであるスティックの重量は20本当たり15.7グラムとされている。これを基にたばこ税を計算すると、15.7本と換算されるので、紙巻たばこに比べて、78.5%(15.7÷20)の税負担ということになる。 これを440円で販売されている紙巻たばこの「メビウス」と比べてみると、メビウスのたばこ税負担割合は245円、アイコスは192円と、相当規模の税負担の差があることがわかる。 * * * 紙巻たばこから加熱式たばこに切り替える(シフトする)人が増えいけば、今後税収減につながる。すでに、2014年に認可されて以降、全国展開が始まり、2017年7月で見ると、たばこ全体に占めるシェアはおおよそ1割となっている。 これに対し、「加熱式たばこ」は紙巻きたばこに比べて健康への悪影響が少ないので、税負担が軽くてもよいのではないかという反論がある。ただし、わが国では、たばこ税は健康への悪影響を防ぐための税(シンタックス:sin tax)という哲学ではなく、財政収入を稼ぐ財政物資という位置づけであり、また、健康への影響については、必ずしも独立した研究機関によって実証されていないということから、そのような論理は通らないだろう。 年末にかけて、淡々と議論が進んでいくのではないかと予想される。 (了)
〈平成29年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「注意しておきたい改正事項」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 今年も年末調整に向けた準備を始める時期となった。年末調整に係る業務は1年に一度のものであり、かつ短期間に多くの処理が必要となるため、早目に準備をしておきたい。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。なお、この3回分に加え、論末の連載目次に掲載された平成24年分からの拙稿(年末調整のポイント)もご参照いただきたい。 また、各書類の記載方法や理解しておくべき用語の解説等を行った次の拙稿については、ぜひおさえていただきたい。 (注) 上記拙稿の内容については、掲載後の税制改正等により、記事の内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。今後、過年度の記事内に順次コメントを入れる予定である。 平成29年分の所得税から適用される改正事項のうち、今回の年末調整に関係するものは少ない。しかし、平成28年分の年末調整では、マイナンバー制度の導入をはじめ、いくつかの重要な改正事項があった。 そこで、【第1回】は、平成29年分の年末調整から適用される改正事項と、平成28年分から適用されている改正事項のうち再確認しておきたいものについて解説を行う。 【1】 平成29年分の年末調整から適用される改正事項 (1) 給与所得控除額の上限の引下げ 平成26年度税制改正により、給与所得控除額の上限が段階的に引き下げられることとなった。平成29年分以後の所得税については、給与等の収入金額1,000万円超に適用される220万円が上限となる(所法28②、別表第五)。 改正内容の詳細については、平成26年公開の下記拙稿をご参照いただきたい。 (2) 災害を受けた住宅の住宅借入金等特別控除(継続適用、重複適用) ① 平成29年度改正の全体像 (a) 改正前の取扱い 住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除)の適用を受けている住宅が災害により居住の用に供することができなくなった場合には、特別控除の適用は被災した年が最後となり、残存控除期間が残っていても翌年以降の適用は認められていなかった。 また、被災後、借入金で新たな住宅を取得等した場合には、被災した住宅分の特別控除と新たに取得等した住宅分の特別控除を重複して適用することもできないとされていた。 これらの原則的な取扱いに対し、東日本大震災等の甚大な災害が発生したときには、特例法等により特別な取扱い(継続適用や重複適用)が措置されてきた。 (b) 改正の概要 平成29年度税制改正では、災害により住宅を居住の用に供することができなくなった場合の住宅借入金等特別控除について、特別控除の継続適用と重複適用の取扱いが恒久化された。 本改正は、災害により平成28年1月1日以後に住宅を居住の用に供することができなくなった場合に平成29年分以後の所得税について適用される(改正法附則55、56①)。 ② 改正の概要(継続適用) ①(a)に記載のとおり、改正前は、住宅借入金等特別控除の適用を受けている住宅が災害により居住の用に供することができなくなった場合には、災害により居住の用に供することができなくなった年まで同制度の適用を受けることができるとされていた。 平成29年度税制改正では、災害により住宅を居住の用に供することができなくなった場合には、居住の用に供することができなくなった年以後も継続して特別控除を適用することができることとされた(措法41[24項])。 ただし、次に掲げる年以後は、継続適用できないので注意が必要である。 〈継続適用が認められない場合〉 (ア) 被害を受けた家屋やその敷地、又はその敷地に新たに建築した建物等を、事業の用、賃貸の用、生計を一にする親族等に対する無償の貸付けの用に供した場合(次の③に該当する場合は除く) ➡事業の用、賃貸の用、貸付けの用に供した日の属する年以後 (イ) 被害を受けた家屋又はその敷地を譲渡し、その譲渡について居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除又は特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用を受ける場合 ➡譲渡日の属する年以後 (ウ) 新たに取得等した家屋について、住宅借入金等特別控除又は認定住宅の新築等をした場合の所得税額の特別控除の適用を受ける場合(次の③に該当する場合は除く) ➡適用を受けた年以後 ③ 改正の概要(重複適用) 災害によりそれまで住んでいた住宅(以下、従前家屋という)に居住できなくなり、新たな居住用住宅(以下、再取得家屋という)を借入金等により取得した場合、従前家屋の借入金等が残っているときには、いわゆる二重ローンの問題が生ずる。 この場合、原則的には、再取得家屋に係る住宅借入金等は特別控除の適用対象となるが、従前家屋に係る住宅借入金等は(年末まで引き続き当該家屋に居住していないため)同制度の対象とはならない(措法41①)。 平成29年度税制改正により、再建支援法適用者(※)が住宅の再取得等をした場合には、従前家屋に係る住宅借入金等と再取得家屋に係る住宅借入金等について、特別控除を重複して適用できることとされた。 (※) 再建支援法適用者:災害に際し被災者生活再建支援法が適用された市町村内に所在する従前家屋をその災害により居住の用に供することができなくなった者 重複適用する場合の控除額は、2以上の居住年に係る住宅の取得等に係る住宅借入金等の金額を有する場合の控除額の調整措置によることとされている(措法41の2)。 【2】 注意しておきたい平成28年分から適用の改正事項 (1) 通勤手当の非課税限度額の引上げ 平成28年度税制改正により、通勤手当の非課税限度額が10万円から15万円に引き上げられている(所法9①五、所令20の2①③④)。 改正内容と経過措置の詳細は、以下の拙稿をご参照いただきたい。 (2) 源泉徴収票等の様式の改正 マイナンバー制度の導入に伴い、平成28年分以後の源泉徴収票や支払調書には、支払を受ける者の個人番号と支払者の法人番号(又は個人番号)を記載する欄が新たに設けられている。 なお、税務署に提出する源泉徴収票と支払調書並びに市区町村に提出する給与支払報告書には、支払を受ける者の個人番号と支払者の法人番号(又は個人番号)を記載するが、受給者交付用の源泉徴収票と、支払を受ける者に写しを交付する場合の支払調書には、個人番号と法人番号は記載しない。 また、源泉徴収票は、サイズがA6版(横)からA5版(縦)になっており、マイナンバーに関係する部分以外の様式にも変更がある。 (3) 国外居住親族を扶養控除等の対象とするときの取扱い 国外に居住する親族を扶養控除等の対象とするときには、「親族関係書類」と「送金関係書類」を添付又は提示(以下、添付等という)することが必要となった(所令316の2②③)。 年末調整において、国外居住親族について配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除の適用を受けようとする役員や従業員がいる場合には、年末調整のときまでに「送金関係書類」の添付等を受けておかなければならない。 なお、年末調整で配偶者特別控除の適用を受ける場合には、扶養控除等(異動)申告書に配偶者に関する記載がないため、配偶者特別控除申告書を提出するときに「親族関係書類」も添付等することとなる。 本規定の対象となるのは、外国人従業員だけではない点にも注意が必要である。日本人従業員の扶養親族等が1年以上の予定で留学している場合には、当該扶養親族等も国外居住親族に該当する。 * * * 【第2回】は、配偶者控除の改正等により様式や記載事項が変更となった「平成30年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を受け取る際の留意点について解説を行う予定である。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第18回】 「共有で敷地を相続し家屋を取壊して分筆後の敷地の一部を譲渡した場合」 -対象敷地の一部の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q X(姉)とY(妹)は、昨年4月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地200㎡を相続により共有(各1/2)で取得して、その家屋を取り壊し更地にした上で、その敷地を共有のまま分筆して、分筆後の各土地をXとYそれぞれの単独所有としました。 Yは分筆後の100㎡を駐車場として貸し付け、Xは残り100㎡について本年10月に4,000万円で売却しました。 相続の開始の直前まで父親は一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、Xの譲渡部分100㎡については相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 被相続人居住用家屋の敷地等の分筆前の全部が未利用となっていないことから、「相続空き家の特例」を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋の取壊し等の後に、被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡する場合(更地の譲渡の場合)には、取り壊した家屋については相続の時から取壊し等の時まで「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」、並びに、その敷地等については相続の時から譲渡の時まで「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」及び取壊し等の時から譲渡の時まで「建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと」の要件を満たすものに限るとされています(措法35③二イロハ)。 そして、その被相続人居住用家屋の敷地等を複数の相続人の共有で取得した個人が、共有に係る一の敷地について、共有のまま分割した上、その一部を譲渡したとき、上記に掲げる要件(措法35③二イロハ)は、その個人が相続又は遺贈により共有で取得したその分筆前の被相続人居住用家屋の敷地等の全部について満たしておく必要があることから、その被相続人居住用家屋の敷地等のうち譲渡していない部分についても、同要件を満たしていない限り、その譲渡は「相続空き家の特例」を受けることができない譲渡となります(措通35-17(被相続人居住用家屋の敷地等の一部の譲渡)(3)ロ)。 したがって、本事例においては、相続の開始の時からXの譲渡の時までの間に、Yが分筆後の一部分を駐車場として貸し付けており、つまり、分筆前の被相続人居住用家屋の敷地等の全部について、未利用の要件を満たしていないことから、Xのこの譲渡は、「相続空き家の特例」が適用できる譲渡に該当しないこととなります。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第50回】 「会社と従業員との間で作成する金銭借用証書等」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は福利厚生の一環として、社内規定を設け従業員へ貸付けを行っています。 貸付けに際しては、従業員から【事例1】の「借入申込書」を提出してもらい、審査において貸付けが認められた場合には、【事例2】の「金銭借用証書」を従業員から提出してもらいます。そして、貸付金を従業員に渡した際には、その従業員から【事例3】の「受取書」の交付を受けます。 これら貸付けに際しての【事例1】から【事例3】の文書は、課税の対象となりますか。 【事例1】 借入申込書 【事例2】 金銭借用証書 【事例3】 受取書 【事例1】の「借入申込書」は、単なる申込書であり、金銭消費貸借契約の成立を証明するものではないため、第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)には当たらないが、これに併記した連帯保証人の事項は、保証人となることを承認した者がその事実を証明するものであり、第13号文書(債務の保証に関する契約書)に該当する。 【事例2】の「金銭借用証書」は、借主である従業員が金銭を借り入れる際に、借入金額等を記載して貸主に差し入れる文書であり、第1号の3文書に該当する。 【事例3】の従業員が作成する「受取書」については、従業員は給与所得者であり、印紙税法上の「営業者」とならず、第17号文書(金銭の受取書)に該当せず、非課税文書となる。 [検討1] 同一法人内で作成する文書には当たらないか 「課税文書」とは、課税事項を証明する目的をもって作成される文書をいう。この「証明する目的」とは自己以外の第三者に対して行うものをいうことから、同一法人のように同一人格の部内で事務の整理上作成される文書は、第3号文書(約束手形、為替手形)及び第9号文書(貨物引換証、倉庫証券、船荷証券)を除いて課税文書には当たらない。 しかし、会社と従業員との間で作成される文書は、それぞれ独立した人格を有する者の間であることから、事例の文書は同一法人内で作成する文書には当たらない。 [検討2] 主たる債務の契約書に併記した契約書とは 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書は、第13号文書から除くとされている。「併記した債務の保証に関する」部分とは、消費貸借契約書に債務者と保証人が署名押印し、「債務者が返済期限までに返済しない場合には、保証人が全額返済します。」というような旨の記載した文書がこれに当たる。 この場合、一の文書に第1号文書と第13号文書の記載がなされているが、例外的に、債務の保証部分は課税事項として取り扱わないこととなっている。 契約の申込書に併記された債務の保証契約については、主たる債務の契約書に併記したものではなく、債務の保証契約のみが記載されており、第13号文書に該当する。 したがって、【事例1】は第13号文書に該当し、【事例2】は第1号の3文書となる。 ▷ まとめ 同一法人等の部内又は本店・支店等の間で、法人の事務の整理上作成する文書は、その作成者の人格が同一であることから課税文書には該当しないが、事例の場合の会社と従業員との関係は消費貸借契約に基づく私法上の関係であることから、同一法人内で作成する文書には当たらない。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第11回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) (ⅲ) 50%超100%未満グループ内の適格合併 平成13年度税制改正直後の法人税法2条12号の8ロでは、50%超100%未満グループ内の適格合併について、以下のように規定されている。 そして、上記のうち、「100分の50を超え、かつ、100分の100に満たない数の株式を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係」については、法人税法施行令4条の2第2項で規定された。 上記(1)が従業者引継要件と言われているものであり、(2)が事業継続要件と言われているものである。いずれも「見込まれていること」という不確定概念が設けられているが、後発事象に該当するものは考慮しないという点で、【第10回】で解説した資本関係の継続見込みの考え方と変わらない。そして、会社分割と異なり、主要資産等引継要件が定められなかった理由として、「合併においては、税制上、被合併法人の資産等の移転に係る要件を設けるまでもなく、その全部が合併法人に移転するものとなっていることから、被合併法人の資産等の移転に係る要件は設けられていません。」(※1)とされている。 (※1) 『平成13年版改正税法のすべて』140頁(大蔵財務協会、平成13年)。 現在の条文に比べて、2段階組織再編成が考慮されていないことから、極めてシンプルな規定となっているが、平成15年度税制改正、平成29年度税制改正により、2段階組織再編成を考慮した規定に改正がなされている。 従業者引継要件、事業継続要件が定められた趣旨は、【第4回】で解説したように、「組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別する観点から、資産の移転が独立した事業単位で行われること、組織再編成後も移転した事業が継続することを要件とすることが必要である。」という理由によるものである。さらに、従業者引継要件の解釈として、「この従業者には、被合併法人の役員や使用人だけではなく、他の法人から出向して被合併法人の事業に従事している者など、現に被合併法人の事業に従事している者が含まれます。また、この合併法人の業務は、被合併法人から引き継いだものに限られてはいません。」(※2)と解説されている。そして、その後に制定された法人税基本通達1-4-4、1-4-9でも同様の規定が定められている。 (※2) 前掲(※1)140頁。 なお、当時の商法では、3社合併の取扱いが明確ではなかった。そのため、3社合併を行った場合には、2つの合併が行われたと考えずに、全体が適格合併に該当するか否かにより判定を行うこととされていた(※3)。しかし、会社法施行後は、2社以上の法人を被合併法人とする吸収合併は、同日に複数の吸収合併が行われたと考えることとされ(※4)、2社以上の法人を被合併法人とする新設合併は、1つの新設合併が行われたと考えることとされた(※5)。そのため、法人税法上も、文書回答事例「三社合併における適格判定について(照会)」が公表され、平成13年当時とは異なる解釈を行うようになった。 (※3) 『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』109頁(日本租税研究協会、平成13年)。 (※4) 郡谷大輔ほか『会社法の計算詳解』382頁(中央経済社、平成20年、第2版)。 (※5) 郡谷前掲(※4)549頁。 (ⅳ) 共同事業を営むための適格合併 法人税法2条12号の8ハ、法人税法施行令4条の2第3項では、共同事業を営むための適格合併の要件について定められている。【第5回】で解説した柱書に規定された金銭等不交付要件に加え、事業関連性要件、事業規模要件(又は特定役員引継要件)、従業者引継要件、事業継続要件及び株式継続保有要件が定められた。このうち、株式継続保有要件は、被合併法人の株主等が50人以上である場合は除かれている。この理由として、「株主等が多数存在し、株式の売買が普段に行われるものについて、株式の継続保有要件を課すことは適当でないと考えられることによるものです。」(※6)とされている。株式継続保有要件については、平成29年度税制改正で大幅な見直しがなされているが、この点については、本連載でいずれ解説を行うこととする。 (※6) 前掲(※1)140頁。 ヤフー事件(平成28年2月29日最高裁判決TAINSコードZ888-1984)で問題になったように、特定役員を1人以上引き継げば足りることとされたため、特定役員引継要件を満たすことは容易であった。そのため、平成13年3月23日の会員懇談会の質疑応答でも、「法令上、具体的な任期や期間が示される予定はありません。課税の特例の適用を受けるために、短期間だけ役員にするといったような不自然、不合理なものは別として、通常の法人と役員との関係を念頭に置き、判断されるべきものと考えられます。」(※7)との回答がなされている。 (※7) 前掲(※3)90頁。 さらに、事業規模要件については、「合併に係る被合併法人の被合併事業と当該合併に係る合併法人の合併事業(当該被合併事業と関連する事業に限る。)のそれぞれの売上金額、当該被合併事業と合併事業のそれぞれの従業者の数、当該被合併法人と合併法人のそれぞれの資本の金額(出資金額を含む。)若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと」と規定されている。ここで、「若しくは」と規定されていることから、「『準ずるもの』も含めて、いずれかがおおむね5倍以内となっていれば良いことになります。」(※8)と解説されており、その後の法人税基本通達1-4-6(注)でも同様の規定がなされることになる。 (※8) 前掲(※3)101頁。 * * * 次回では、法人税法2条12号の11に規定された適格分割の要件について解説を行う予定である。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第17回】 「売買契約書は当事者の真の意思に基づかずに作成されたと推認された事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 原告(甲社)は、乙に本件土地を平成9年9月30日に譲渡したことにより売却損が生じたとして、その金額を損金の額に算入した。これに対して、原処分庁は、本件土地の売買の事実は存在しないとして更正処分等を行った。 甲社は、乙へ売買予約をし、その間、少しでも高額な売却先を探していたが見つからず、乙へ売却することにした旨を主張した。そして、乙への所有権移転登記をしなかったのは、乙が手付金しか支払わなかったため、及び、乙が転売した場合の中間省略登記による登記手数料の節約をするためであったと主張した。 争点は、甲社の平成9年9月期の法人税について、本件土地に係る売却損が損金の額に算入されるかどうか(つまり、本件土地が平成9年9月30日までに甲社から乙に売り渡されたかどうか)である。 〔裁判所の判断〕 裁判所は、本件土地が甲社から乙に平成9年9月30日までに売り渡されたかどうかについて、事実関係等(証拠)から、次のような事実を認めて、平成9年9月期の間に甲社と乙との間で売買に関しての確定的な合意は成立しなかったと判断した。 〔判断の分水嶺〕 「売買がなかった」という事実認定が結論に結びついているわけだが、本件でその事実を示す直接証拠はなく、上記(ア)~(オ)のような複数の間接証拠の積上げによって事実が認定されたものである。上記の各証拠に関してコメントを加えておく。 〔本判決が示唆するもの〕 当事者の署名押印のある売買契約があれば、通常は、その契約書に記載どおりの内容の事実が認定されるが、本件のように、税務調査で契約書に不審な点(修正液で修正されているなど)が発見されれば、詳細な事実関係の確認が行われることになる。 仮に、契約が真実のものであったとしても、外形的に不自然な契約書はトラブルの元である。契約書等は形式的な面からも整えておくことが重要である。 なお、課税庁のコメントを一部紹介する。 (了)
収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第11回】 「特定の状況又は取引における取扱い①」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)では、「特定の状況又は取引における取扱い」を規定している。 これは、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)を適用する際の補足的な指針とは別に、特定の状況又は取引について適用される指針である(121項)。 「特定の状況又は取引における取扱い」として規定された次の11項目のうち、今回は①から⑥までをとりあげる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 財又はサービスに対する保証 財又はサービスに対する保証には次の2つがある(収益認識適用指針(案)122項)。 1 基本的な会計処理 次のように会計処理する(収益認識適用指針(案)34項~36項、124項)。 財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスを含むかどうかを判断するにあたっては、例えば、次の①から③の要因を考慮する(収益認識適用指針(案)37項)。 2 財又はサービスに対する保証を単独で購入するオプション 収益認識適用指針(案)34項から37項の定めにかかわらず、顧客が財又はサービスに対する保証を単独で購入するオプションを有している場合(例えば、財又はサービスに対する保証が個別に価格設定される又は交渉される場合)には、当該保証は別個のサービスであり、収益認識会計基準(案)29項から31項に従って履行義務として識別し、取引価格の一部を収益認識会計基準(案)62項から70項に従って当該履行義務に配分する(収益認識適用指針(案)38項、123項)。 Ⅲ 本人と代理人の区分 本人と代理人の区分は、履行義務が異なり、収益の総額表示又は純額表示に関係するので、そのいずれに該当するのかの判定は重要となる(収益認識適用指針(案)125項)。 第348回企業会計基準委員会(2016年11月4日)の審議事項(3)-3で検討されている。 1 基本的な会計処理 次のように整理される(収益認識適用指針(案)39項、40項、125項、127項)。 2 本人と代理人の区分の判定 収益認識適用指針(案)は、本人と代理人の区分の判定に関して、多くの規定を設けているので、実際に適用する際には、これらの規定に準拠するように注意する(収益認識適用指針(案)41項~47項。[設例21] 同一の契約において企業が本人と代理人の両方に該当する場合)。 例えば、収益認識適用指針(案)47項は、43項における企業が本人に該当することの評価に際して、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたっては、例えば、次の①から③の指標を考慮すると規定している(収益認識適用指針(案)126項)。 Ⅳ 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与 1 基本的な会計処理 顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合には、そのオプションが、当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときにのみ、当該オプションから履行義務が生じる(収益認識適用指針(案)48項)。 この場合には、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識する(収益認識適用指針(案)48項)。 第348回企業会計基準委員会(2016年11月4日)の審議事項(3)-4で検討されている。 次のことに注意する(収益認識適用指針(案)48項、49項、128項)。 2 履行義務への取引価格の配分 履行義務への取引価格の配分は、独立販売価格の比率で行う(収益認識会計基準(案)63項、収益認識適用指針(案)50項)。 追加の財又はサービスを取得するオプションの独立販売価格を直接観察できない場合には、オプションの行使時に顧客が得られるであろう値引きについて、次の①及び②の要素を反映して、独立販売価格を見積る(収益認識適用指針(案)50項、[設例23] カスタマー・ロイヤルティ・プログラム)。 なお、契約更新に係るオプション等、顧客が将来において財又はサービスを取得する重要な権利を有している場合で、当該財又はサービスが契約当初の財又はサービスと類似し、かつ、当初の契約条件に従って提供される場合は、収益認識適用指針(案)50項の定めに基づいたオプションの独立販売価格を見積らず、提供されると見込まれる財又はサービスの予想される対価に基づいて、取引価格を当該提供されると見込まれる財又はサービスに配分することが認められている(収益認識適用指針(案)51項、[設例22] 重要な権利を顧客に与えるオプション(更新オプション))。 Ⅴ 顧客により行使されない権利(非行使部分) 収益認識会計基準(案)75項に従って、将来において財又はサービスを移転する(あるいは移転するための準備を行う)履行義務については、顧客から支払を受けた時に、当該金額で契約負債を認識する(収益認識適用指針(案)52項)。 当該財又はサービスを移転し、履行義務を充足した時に、当該契約負債の消滅を認識し、収益を認識する(収益認識適用指針(案)52項)。 契約負債における非行使部分(顧客により行使されない権利を「非行使部分」という。詳細は収益認識適用指針(案)53項)について、企業が将来において権利を得ると見込む場合には、当該非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識する(収益認識適用指針(案)53項~55項)。 顧客により行使されていない権利に係る顧客から受け取った対価について、法律により他の当事者への支払が要求される場合には、収益ではなく負債を認識する(収益認識適用指針(案)56項)。 第349回企業会計基準委員会(2016年11月18日)の審議事項(4)-6「顧客の未行使の権利(商品券等)」で検討されている。 Ⅵ 返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払 契約において、契約における取引開始日又はその前後に、顧客に返金が不要な支払を課す場合がある(収益認識適用指針(案)130項)。 例えば、スポーツクラブ会員契約の入会手数料、電気通信契約の加入手数料、サービス契約のセットアップ手数料、供給契約の当初手数料等である。 第349回企業会計基準委員会(2016年11月18日)の審議事項(4)-7で検討されている。 1 基本的な会計処理 契約における取引開始日又はその前後に、顧客から返金が不要な支払を受ける場合には、履行義務を識別するために、当該支払が約束した財又はサービスの移転を生じさせるものか、あるいは将来の財又はサービスの移転に対するものかどうかを判断し、次のように会計処理する(収益認識適用指針(案)57項、58項)。 2 注意点 次のことに注意する(収益認識適用指針(案)59項、60項、131項)。 Ⅶ ライセンスの供与 顧客との契約が、財又はサービスを移転する約束に加えて、ライセンスを供与する約束を含む場合には、他の種類の契約と同様に、収益認識会計基準(案)29項から31項を適用して、当該契約における履行義務を識別することになる(収益認識適用指針(案)132項)。 第348回企業会計基準委員会(2016年11月4日)の審議事項(3)-5で検討されている。 1 基本的な会計処理 ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものでない場合には、ライセンスを供与する約束と当該他の財又はサービスを移転する約束を一括して単一の履行義務として処理し、収益認識会計基準(案)32項から37項を適用して、一定の期間にわたり充足される履行義務であるか、一時点で充足される履行義務であるかを判定する(収益認識適用指針(案)61項)。 ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものであり、当該約束が独立した履行義務である場合には、ライセンスを顧客に供与する際の「企業の約束の性質」が、顧客に次の①又は②のいずれを提供するものかを判定する(収益認識適用指針(案)62項、66項、133項~135項)。 2 企業の約束の性質 ライセンスを供与する際の「企業の約束の性質」は、次の①から③のすべてに該当する場合には、顧客が権利を有している知的財産の形態、機能性又は価値が継続的に変化しており、収益認識適用指針(案)62項(1)に定める企業の知的財産にアクセスする権利を提供するものである(収益認識適用指針(案)63項)。 収益認識適用指針(案)63項のいずれかに該当しない場合には、ライセンスを供与する際の企業の約束の性質は、収益認識適用指針(案)62 項(2)に定める企業の知的財産を使用する権利を提供するものである(収益認識適用指針(案)64項)。 3 売上高又は使用量に基づくロイヤルティ 知的財産のライセンス供与に対して受け取る売上高又は使用量に基づくロイヤルティが知的財産のライセンスのみに関連している場合、あるいは当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目である場合には、収益認識会計基準(案)51項及び52項の定めを適用せず、次の①又は②のいずれか遅い方で、当該売上高又は使用量に基づくロイヤルティについて収益を認識する(収益認識適用指針(案)67項、[設例26]フランチャイズ権)。 売上高又は使用量に基づくロイヤルティについて、収益認識適用指針(案)67項に該当しない場合には、収益認識会計基準(案)47項から52項の定め(変動対価)を適用する(収益認識適用指針(案)68項)。 (了)