公開日: 2017/11/02 (掲載号:No.242)
文字サイズ

~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第17回】「売買契約書は当事者の真の意思に基づかずに作成されたと推認された事例」

筆者: 佐藤 善恵

~税務争訟における判断の分水嶺~

課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から

【第17回】

「売買契約書は当事者の真の意思に基づかずに作成されたと推認された事例」

 

税理士 佐藤 善恵

 

本連載の趣旨

課税庁の審理室や訟務官室が作成した「判決情報」や「判決速報」は、課税庁が、現場の調査担当者に向けて事例を紹介するための内部文書です。これらで取り上げられる事例には、あまり知られていない判決等も含まれていますが、どれもが税務調査の現場にフィードバックが必要と考えられているという点において重要な事例といえます。

本連載は、課税庁が調査担当者に向けて発信している判決等の要旨をご紹介するとともに、その判断の分水嶺がどこにあったかを検討し、さらに、実務上の留意点や裁判所の考え方を示唆しようとするものです。

なお、「判決情報」等は、TAINSデータベース(※)から取り出すことができますので、毎回、末尾にTAINSコードを記載いたします。

(※) 一般社団法人日税連税法データベースが運営する税務関連情報データベース

 

平成16年4月21日東京地裁[棄却](確定)

(※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。

〔概要等〕

原告(甲社)は、乙に本件土地を平成9年9月30日に譲渡したことにより売却損が生じたとして、その金額を損金の額に算入した。これに対して、原処分庁は、本件土地の売買の事実は存在しないとして更正処分等を行った。

甲社は、乙へ売買予約をし、その間、少しでも高額な売却先を探していたが見つからず、乙へ売却することにした旨を主張した。そして、乙への所有権移転登記をしなかったのは、乙が手付金しか支払わなかったため、及び、乙が転売した場合の中間省略登記による登記手数料の節約をするためであったと主張した。

争点は、甲社の平成9年9月期の法人税について、本件土地に係る売却損が損金の額に算入されるかどうか(つまり、本件土地が平成9年9月30日までに甲社から乙に売り渡されたかどうか)である。

-主な認定事実-

  • 本件土地の売買に関しては、平成9年9月30日付の次の3つの「売買契約書」と題する書面が存在している。

     買主をBとD(以下「」という)とする売買価額8,124万9,000円のもの(「第1契約書」)

     買主を乙とする売買価額8,124万9,000円のもの(「第2契約書」)

     買主を乙とする売買価額8,700万円とするもの(「第3契約書」)

    上記からの各契約書は、金額や買主に関する部分はそれぞれ異なるが、それ以外の条項については、(イ)売買代金の残金は平成9年11月10日までに支払う旨、(ロ)本件土地の所有権は、買主が売買代金全額を支払ったときに、買主又は買主の指定する者に移転する旨等の同じ文言による定めがある。

  • 本件土地は、当初Dが購入することになっていたが、その後、購入者が乙に変更された。
  • 第2契約書は、第1契約書の買主欄の記名押印欄等を修正液で消して、買主を乙と書き換えるなどして作成されたものである。また、第3契約書は、第2契約書の金額を修正液で消して書き換えるなどして作成されたものである。
  • 本件土地は、昭和63年5月31日売買を原因とする甲社への所有権移転登記がされ、平成13年9月28日売買を原因とするE社への所有権移転登記がされている。甲社は、本件土地の購入の際に、購入資金をF信用金庫から借り入れて、本件土地に根抵当権を設定した。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

~税務争訟における判断の分水嶺~

課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から

【第17回】

「売買契約書は当事者の真の意思に基づかずに作成されたと推認された事例」

 

税理士 佐藤 善恵

 

本連載の趣旨

課税庁の審理室や訟務官室が作成した「判決情報」や「判決速報」は、課税庁が、現場の調査担当者に向けて事例を紹介するための内部文書です。これらで取り上げられる事例には、あまり知られていない判決等も含まれていますが、どれもが税務調査の現場にフィードバックが必要と考えられているという点において重要な事例といえます。

本連載は、課税庁が調査担当者に向けて発信している判決等の要旨をご紹介するとともに、その判断の分水嶺がどこにあったかを検討し、さらに、実務上の留意点や裁判所の考え方を示唆しようとするものです。

なお、「判決情報」等は、TAINSデータベース(※)から取り出すことができますので、毎回、末尾にTAINSコードを記載いたします。

(※) 一般社団法人日税連税法データベースが運営する税務関連情報データベース

 

平成16年4月21日東京地裁[棄却](確定)

(※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。

〔概要等〕

原告(甲社)は、乙に本件土地を平成9年9月30日に譲渡したことにより売却損が生じたとして、その金額を損金の額に算入した。これに対して、原処分庁は、本件土地の売買の事実は存在しないとして更正処分等を行った。

甲社は、乙へ売買予約をし、その間、少しでも高額な売却先を探していたが見つからず、乙へ売却することにした旨を主張した。そして、乙への所有権移転登記をしなかったのは、乙が手付金しか支払わなかったため、及び、乙が転売した場合の中間省略登記による登記手数料の節約をするためであったと主張した。

争点は、甲社の平成9年9月期の法人税について、本件土地に係る売却損が損金の額に算入されるかどうか(つまり、本件土地が平成9年9月30日までに甲社から乙に売り渡されたかどうか)である。

-主な認定事実-

  • 本件土地の売買に関しては、平成9年9月30日付の次の3つの「売買契約書」と題する書面が存在している。

     買主をBとD(以下「」という)とする売買価額8,124万9,000円のもの(「第1契約書」)

     買主を乙とする売買価額8,124万9,000円のもの(「第2契約書」)

     買主を乙とする売買価額8,700万円とするもの(「第3契約書」)

    上記からの各契約書は、金額や買主に関する部分はそれぞれ異なるが、それ以外の条項については、(イ)売買代金の残金は平成9年11月10日までに支払う旨、(ロ)本件土地の所有権は、買主が売買代金全額を支払ったときに、買主又は買主の指定する者に移転する旨等の同じ文言による定めがある。

  • 本件土地は、当初Dが購入することになっていたが、その後、購入者が乙に変更された。
  • 第2契約書は、第1契約書の買主欄の記名押印欄等を修正液で消して、買主を乙と書き換えるなどして作成されたものである。また、第3契約書は、第2契約書の金額を修正液で消して書き換えるなどして作成されたものである。
  • 本件土地は、昭和63年5月31日売買を原因とする甲社への所有権移転登記がされ、平成13年9月28日売買を原因とするE社への所有権移転登記がされている。甲社は、本件土地の購入の際に、購入資金をF信用金庫から借り入れて、本件土地に根抵当権を設定した。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

連載目次

~税務争訟における判断の分水嶺~
課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から

筆者紹介

佐藤 善恵

(さとう・よしえ)

税理士
京都大学MBA、京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学、税法学会会員

同志社大学大学院総合政策科学研究科非常勤講師等・近畿税理士会 調査研究部専門委員を経て、2010~2014年大阪国税不服審判所 国税審判官、2016年5月~大阪市行政不服審査会委員(会長代理・税務第1部会部会長)、2019年4月~神戸学院大学法学部教授

HP http://www.yoshie-sato.com/

【主な著書等】
『仮想通貨をめぐる法律・税務・会計』(共著)ぎょうせい
Q&A 実務に役立つ法人税の裁決事例選』清文社
『税制改正のポイント(小冊子)』(共著)清文社
Q&A 税務調査・税務判断に役立つ 裁判・審査請求読本』清文社
『判例裁決から見る加算税の実務(第2版)』税務研究会出版局
社長のギモンに答える法人税相談室』清文社
『税理士のための相続をめぐる民法と税法の理解』(共著)ぎょうせい
『税務訴訟と要件事実論』(共著)清文社

 

関連書籍

徹底解説 課税上のグレーゾーン

辻・本郷税理士法人 監修 辻・本郷税理士法人 関西審理室 編 税理士 山本秀樹 著

【電子書籍版】資産税実務問答集

後藤幸泰 編 信永 弘 編

事例で解説 法人税の損金経理

税理士 安部和彦 著

ここが違う! プロが教える土地評価の要諦

税理士・不動産鑑定士 東北 篤 著

資産税の取扱いと申告の手引

後藤幸泰 編 信永 弘 編

資産税実務問答集

後藤幸泰 編 信永 弘 編

不動産の評価・権利調整と税務

鵜野和夫 著 税理士・不動産鑑定士 下﨑 寛 著 税理士・不動産鑑定士 関原教雄 著

土地・株式等の財産評価

税理士 香取 稔 著

不動産実務百科Q&A

一般財団法人 日本不動産研究所 著

原価計算の税務

税理士 鈴木清孝 著

税法基本判例 Ⅰ

谷口勢津夫 著

路線価による土地評価の実務

公認会計士・税理士 名和道紀 共著 長井庸子 共著

徹底解説 不動産契約書Q&A

官澤綜合法律事務所 著

記事検索

メルマガ

メールマガジン購読をご希望の方は以下に登録してください。

#
#