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家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第14回】「信託契約作成上の留意点①」-事前コンサルティングの実施-

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第14回】 「信託契約作成上の留意点①」 -事前コンサルティングの実施-   弁護士 荒木 俊和   家族信託は極めて柔軟性の高い仕組みであることから、事案に適した家族信託を設定するためには信託契約の内容を十分に吟味する必要がある。 逆の言い方をすれば、信託契約の内容いかんで家族信託がうまく進むかどうかが決定されることになる。 このため、信託契約の内容は極めて重要であるが、その作成にあたっては専門的な見地からの意見が求められる部分がある。 今回から数回に分けて、信託契約作成上の留意点について述べたい。   1 事前コンサルティングの必要性 信託契約は非定型的な契約であり、信託の目的、委託者・受託者・受益者の設定、対象とする財産(信託財産)、信託の終了事由、信託終了後の財産の帰属等、変則的な要素が相当程度多く存在する。 信託契約のうち、家族信託に係るものであっても、家族構成、財産の状況、本人(委託者)の希望は事案によって異なるのであり、必ずしも定型的な処理はできない。 また、実務的には、想定外の課税がなされるおそれがないか、受託者が信託財産を処分する際に障害になるようなことはないか、信託終了時のオペレーションで躓くことはないか等についても考慮に入れておく必要がある。 このため、信託契約の作成に先立って家族構成、財産の状況、本人(委託者)の希望等を整理しておくとともに、信託開始後のトラブルの種がないか、ある場合にはどのように対処すべきかを事前に検討しておく必要がある。 家族信託の依頼に対応する専門家としては、事前にコンサルティングの形で十分なスキーム検討を行っておく必要があろう。   2 コンサルティングの内容 (1) 委託者の財産の種類・金額 家族信託の内容を決定するにあたり、「何を対象財産にするか」を決める必要がある。「何を対象財産にするか」は、「信託の目的がどこにあるのか」による。 代表的な家族信託の目的としては、以下のようなものがある。 これらの目的は必ずしも背反するものではなく、複数の目的を持つ信託も考えられる。 一般的に家族信託の対象とすることが望ましいとされるのは、①本人の手元に置いておいたほうがよい資産以外で、②子らに引き継いでおく予定があり、③相続時にトラブルになりやすい不動産や自社株等の処分が容易ではない資産であるとされている。 (2) 本人の健康状態・意向 家族信託の設定にあたっては信託契約を結ぶ必要があるのであるから、本人(委託者)が意思能力を保有している必要がある。意思能力を失っていると認められる場合には契約行為を行うことはできず、家族信託の設定はできない。 専門家としては、本人の子らから相談を受けることも多いと思われるが、本人が高齢(概ね80歳以上)の場合には、認知能力を含めた本人の健康状態を事前に確認しておく必要がある。また、本人の健康状態を確認した際にいかなる場合であれば意思能力があると判断するか、判例等を参考にして基準を設けておくべきであろう。 意思能力に問題がないと認められる場合であっても、本人が資産承継対策について明確な希望を持っておらず、子らが主導的に進めているような場合には、本人の意向に反しないか明確に確認しておくことが必要である。 さらにスキームの策定にあたっては、関係者が死亡したり、認知症になるリスクがどの程度あるのか、また、それらの時系列的な順序はどうかを見積もっておく必要もあろう。 (3) 家族構成 家族信託は必ずしも家族内だけで完結させなければならないものではないが、多くの場合、家族が受託者となるため、受託者の適任者を探しておく必要がある。受託者が委託者よりも先に死亡するリスクを避ける場合には、次の受託者候補者も検討する必要がある。 また、信託財産は相続の対象にならないものの、信託によって移転した財産は遺留分減殺請求の対象になるとするのが多数説であるとされている(【第9回】参照)。このため、委託者の死亡により信託を終了する場合で、帰属権利者を特定の者とするときには、遺留分減殺請求を受ける可能性がないのか、遺留分減殺請求を受けた場合でも問題なく対処できるかについては検討しておく必要がある。 さらに、信託契約は契約である以上、委託者と受託者の合意が成立すれば他の者に告知する義務はないが、委託者と受託者の間で合意されたことを他の家族が知らなかった場合、委託者の死亡時に感情の対立が起こり、トラブルとなる可能性がある。 このため、信託契約の内容を事前に家族に説明するかどうかを検討しておく必要がある。 (4) 信託の終了時点 「信託をいつ終了させるか」という点については、上述したような信託の目的に依存する部分が大きい。 すなわち、資産管理、認知症対策、遺言代用の目的であれば委託者死亡時に終了させることが通常であると考えられるが、二次相続対策、福祉型信託の目的の場合には、委託者の死亡によっても終了させないとしておく必要がある。 また、不慮の事情により思わぬタイミングで早期に信託が終了してしまわないように留意しておく必要がある。 (5) 課税関係 受益権の移転や信託の終了に伴う信託財産の移転等により、思わぬところで課税がなされないように検討しておく必要がある。 特に弁護士や司法書士等が単独で信託契約を作成するような場合には、税務関係を意識してスキーム作りを行うよう心掛ける必要がある。 本来的にはコンサルティング段階から税理士が関与し、税務面の検討も万端にしておくことが望ましいといえる。   3 まとめ 以上のように、信託契約の内容については個別性が高く、検討すべき事項が多い。 このことから、信託契約のひな型を入手し、それを安易に流用することは絶対に避けるべきである。 家族信託の設定にあたっては、スキーム策定が家族信託の成否の大きな部分を占めること意識して対応する必要があろう。 (了)

#No. 221(掲載号)
#荒木 俊和
2017/06/08

税理士業務に必要な『農地』の知識 【第8回】「市民農園とその税制」

税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第8回】 「市民農園とその税制」   税理士 島田 晃一   今回は市民農園について、その概略を説明する。市民農園は特に都市部に住む人の農業体験の場として近年需要が高まっている。以下では、市民農園の概略に加え、市民農園として提供した土地の相続税評価などの税務についても解説していく。   1 市民農園とその開設方法 市民農園とは、サラリーマンなどが、レクリエーションとしての自家用野菜・果樹などの栽培、農業体験学習などの目的で利用する区割りされた小規模農地をいう。 市民農園を開設するのは、主として地方公共団体や各地域のJAである。ただし、農地所有者が自ら開設したり、農地を所有していない法人やNPOが開設する場合もある。 市民農園の開設形態は、「特定農地貸付法」による開設、「市民農園整備促進法」による開設、「農園利用方式」による開設の3つがある。平成28年度末の段階では、特定農地貸付法による開設件数は約3,700件、市民農園整備促進法による開設件数は約500件である。   2 特定農地貸付法による開設 特定農地貸付法による開設は、開設者が「地方公共団体又はJAの場合」、「農業者(農地所有者)の場合」又は「企業・NPOの場合」の3つに分けられる。 開設手続きは、地方公共団体又はJAが開設者となる場合は、開設者が農園利用者に対する貸付規定を作成し、農業委員会に特定貸付けの承認を受ける。また、市民農園となる農地については、開設者が農地所有者(JAの場合は組合員)から借り受ける。 一方、農業者(農地所有者)が開設する場合、「適正な農地利用を確保する方法等を定めた貸付協定」を市町村との間で締結したうえで、農業委員会に特定貸付けの承認を受ける。企業・NPOが開設する場合は、地方公共団体・農地中間管理機構等から農地を借り受け、開設者、市町村、農地借受先との3者間による貸付協定を締結する形になる。 【参考図】 (※) 農林水産省ホームページより 特定貸付けとは、次の要件を満たす農地の貸付けをいう。 特定貸付けの承認を受けた場合、農地所有者(JAの場合は組合員)から農地を借り入れる際の権利設定について、農地法第3条の許可は不要になる。なお、市民農園を開設する場所は、後述する市民農園整備促進法による場合と異なり、特に制限はない。   3 市民農園整備促進法による開設 市民農園整備促進法による場合は、まず各都道府県が「市民農園整備基本方針」を策定する。市民農園を開設する者はその基本方針に沿った整備運営計画を作成し、各市町村の認定を受け市民農園を開設する。また、市民農園を開設する区域は各市町村が指定する。ただし、その農地が市街化区域内にあるときは、開設区域の指定は不要である。 市町村が整備運営計画を認定した場合、農地の貸付けについて「特定農地貸付法」に基づく特定貸付の承認を受けたものとみなされる。また、農地を農園施設(休憩所や駐車場など)用地に転用する場合は農地法の転用許可は不要になるとともに、施設の建設に伴う開発許可も不要になる。 単に区画割りされた農地のみを貸し付けるのではなく、農園施設用地を併設する場合には、市民農園整備促進法による方式が採用される。   4 農園利用方式による開設 農園利用方式とは、農家等が相当数の人を対象として同条件で農園利用契約を締結し、利用者は営利目的以外で農作業を行う方式である。ただし、利用者は観光ぶどう園などのように収穫だけを行うのではなく、農家のアドバイスや管理のもと、種まきなど年に複数回農作業を行う。 この場合、日常の農作業は農園開設者である農業者が行うため、農地に対して賃借権や使用収益権などの権利の設定はされない。   5 市民農園の相続税評価 農地所有者が市民農園の開設者に農地を賃貸したときは、農地法における法定更新の対象外になるため、その農地については耕作権の目的となっている農地に該当しない。そのため農地評価の際には、「1-耕作権割合」を乗じるのではなく、生産緑地の利用制限に係る斟酌と賃貸借契約の制限期間に係る斟酌を行う。 ただし、農園利用方式による市民農園については農地に対して賃借権や使用収益権などの権利の設定はされないため、賃貸借契約の制限期間に係る斟酌は行われない。 具体的な計算方法は、当該農地の価格に生産緑地の買取申出可能時点までの期間に応じた減額割合及び賃貸借契約の制限期間の減額割合を乗じる。賃貸借契約の制限期間の減額割合は、原則として賃貸借の残存期間に応じ、その賃借権が地上権であるとした場合に適用される法定地上権の2分の1に相当する割合となる。 なお、当該農地が所在する地方公共団体の条例により定められた市民農園(契約期間が20年以上など一定の要件を満たすもの)である場合については、賃貸借契約の制限期間に係る斟酌を適用するのではなく、生産緑地の減額割合を乗じた金額から2割相当が減額される。 さらに、「特定市民農園」といい次の要件を満たす市民農園については、生産緑地の減額割合を乗じた金額から3割相当が減額される。 地方公共団体の条例により定められた市民農園の2割減額又は特定市民農園に係る3割減額を受ける際には、相続税・贈与税の申告書に一定の書類を添付する必要がある。   6 市民農園と納税猶予 市民農園として地方公共団体等に賃貸している農地は、農業経営を行っているとされないため納税猶予の対象にならない。相続税又は贈与税の納税猶予を受けている農地を市民農園として地方公共団体等に賃貸したときは、納税猶予は打ち切られ、猶予されている税額及び利子税を賃貸した日から2ヶ月以内に納税する必要がある。 一方、農園利用方式により市民農園を開設した場合は、農地所有者が主体として農業経営を行っているとされるため納税猶予の対象になり、納税猶予を受けている農地を市民農園にしても納税猶予の打ち切りの対象にはならない。 *  *  * 以上、市民農園の概要とその税制について見てきた。現段階(平成29年6月現在)においては、前述したように市民農園として地方公共団体等に賃貸している農地は納税猶予の対象にならないが、将来の改正において、このような農地についても納税猶予の対象になる可能性がある。 そのため、各年度の税制改正については常に注意を払っておきたいところである。 (了)

#No. 221(掲載号)
#島田 晃一
2017/06/08

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第3回】「経営陣のリーダーシップ強化の在り方について」~「経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」の概要~

コーポレート・ガバナンス・システムに関する 実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第3回】 「経営陣のリーダーシップ強化の在り方について」 ~「経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」の概要~   PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー 米国公認会計士 阿部 環   本シリーズでは、2017年3月31日に経済産業省から公表された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を取り上げている。CGSガイドラインは、2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」(以下、CGコード)の内容を補完し、企業価値向上のための具体的な行動を示す目的で取りまとめられたものである。 今回は、CGSガイドラインの別添「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」(以下、経営人材育成ガイドライン)を取り上げ、その概要を解説する。 なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りする。   〔経営人材育成ガイドラインの主旨〕 CGSガイドラインでは以下の4つの提言を行っているが、別添の経営人材育成ガイドラインは、このうち提言4を補足するものである。 CGSガイドライン提言4においては、現在のCEOや退任したCEOの役割を説明しているのに対し、経営人材育成ガイドラインにおいては将来のCEO等(いわゆる後継者)の選別、育成、環境整備について具体的に触れている。 経営人材育成ガイドライン作成の発端には、各企業の検討・取り組みにおける課題の1つとして「CEO・経営陣に求められる資質や後継者の育成方針が明確でない。」という声があった。当ガイドラインでは、タイトルが示す通り、社内でいかにして将来の経営トップを育成するかという視点が、全体を貫く問題意識となっている。 当ガイドラインは、社内で適当な人材がいない場合には外部人材を充当するというスタンスをとっている。そして、経営リーダー人材の育成がうまくいけば、経営陣のリーダーシップの強化につながり、延いてはガバナンスの強化となるというロジックである(図1参照)。 図1:「経営リーダー人材の育成」と「コーポレートガバナンス」の関係 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「経営人材育成ガイドライン」p2より)   〔経営人材育成ガイドラインの内容〕 経営人材育成ガイドラインは、コーポレートガバナンスに取り組みたいものの、具体的に何をすれば有益なのか、実務上の参考となるガイダンスが欲しいとの声に応えて、有益と考えられる検討事項や取り組みを紹介すべく取りまとめられたものである。したがって、当ガイドラインの内容は、企業に押し付けられるものではなく、自社に適したガバナンスについて議論する際に参考情報として活用されることが期待されていることに留意が必要である。 1 PDCAサイクルを回す 上場企業の経営者及び人材育成責任者を対象としたアンケートの結果を踏まえ、以下の4つのフェーズに分けて、検討すべきこと・実施すべきことが提示されている。 経営リーダー人材の育成にあたっては、各フェーズにおいて、5つの部門(①経営層、②取締役会、③人材委員会、④人事部門、⑤事業部門等)の関係者が相互に連携しながら、各々の果たすべき役割を十分に果たした上で、PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を回し続けることが重要であるとしている。 当ガイドラインは、経営リーダー人材育成において企業が取り入れるべき施策・制度を各フェーズに分け、図2のように説明している。 図2:経営リーダー人材育成を行うにあたって企業が取り入れるべき施策・制度 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「経営人材育成ガイドライン」p9より) また各フェーズについて、ガイドラインでは具体的な手法や各企業の実際の施策が示されているので、自社が直面している課題があれば参照するとよいだろう。 2 各プレイヤーに求められる役割 上記1では「①経営層、②取締役会、③人材(指名)委員会、④人事部門、⑤事業部門等の関係者が相互に連携しながら」と述べたが、これらのプレイヤーの関係性を整理したのが図3である。 図3:5つのプレイヤーの関係性 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「経営人材育成ガイドライン」p30より) 当ガイドラインではこの5つのプレイヤーに求められる役割についてもフェーズごとに明確にしており、主旨をまとめると図4のようになる。中でも、取締役会における社外取締役のプレイヤーとしての役割が重要視されている。 図4:各フェーズにおけるプレイヤーの役割 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (経済産業省「経営人材育成ガイドライン」を基に筆者作成) CGSレポートと合わせて公表された「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」では、図5のように、次期社長・CEOの育成状況に関し、指名委員会で議論していない、もしくは、議論しても結果が取締役会に報告されていない会社が半数近く(約48%)存在することが示されており、経営人材育成ガイドラインにおける各プレイヤーの役割を明確にした背景を示すものとなっている。 図5:後継者の育成状況についてのアンケート調査 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」p38より)   〔おわりに〕 経営人材育成ガイドラインの冒頭《日本における状況》の章では、日本型雇用システムを「メンバーシップ型」と呼び、日本における「管理職への登用年齢の高さ」を欧米の一部の国と比較している。この2つの特徴は、教育制度や国民の意識の違いからくるものであろう。 欧州の一部を例にとると、入社の時点で出身大学別に職階が決まっているのが通常であり、ある特定の学校を出た者のみがマネージメント枠で採用され、新卒でも部長補佐くらいのポジションから始める。この時点で当ガイドラインのフェーズ2で説明している「人材の把握・評価と経理リーダー人材育成候補者の選抜・確保」の作業はほぼ終了していると捉えることができる。 また欧米では、小学校から飛び級があり、早期に様々なことへの向き・不向きが判断され、本人も周囲も幼い頃より十分に「違い」の意識を持つ。「得意なことを伸ばす」という欧米諸国に見られる考え方は、メンバーシップ型の雇用システムを生み出す基となっている日本の教育システムとは対極にある。生まれた頃より「選抜する・される」ことに慣れている社会と比較すると、日本のシステムの中においては、「選抜する」というフェーズ2の作業は困難を伴うであろう。 こうした背景の違いから、日本型リーダー育成のあるべき姿を追究する手本となるものが海外の事例には少なく、時間を要するのではないか。PwCが実施した「企業取締役調査(2015年/英文)」において、次期CEO候補となる人材が社内で十分に育成されていると答えた取締役は27%であったという結果が出ている。このことから、社内での後継者育成は世界で共通の課題であることがわかる。後継者計画に関する世界の動向については「ガバナンスを考える:CEO後継者計画について」を参照されたい。 よって、海外の事例をある程度参考にしつつ、経営人材育成ガイドラインの《本ガイドラインの意義・狙い》の章にあるように、「我が国で『ベスト・プラクティス』が着実に増え、本ガイドラインで提示する育成サイクルをまわし続け、それを踏まえて将来に渡ってガイドラインが改訂されていく事が望ましい」と考える。 何度もPDCAサイクルを繰り返すことで、日本の企業にしかできない積極的な育成プランが熟成することが期待されているのである。 次号(第4回)では、「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」(競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会)」を取り上げる予定である。 なお、CGSガイドラインの全容については、時系列的な経緯とあわせて本解説シリーズの【第1回】でご紹介しているので、ぜひ参照されたい。 (了)

#No. 221(掲載号)
#阿部 環
2017/06/08

《速報解説》 金融庁、「コンテンツ事業に関するQ&A」を公表~映画製作等のコンテンツ事業における資金調達時の金商法適用関係を明確化~

《速報解説》 金融庁、「コンテンツ事業に関するQ&A」を公表 ~映画製作等のコンテンツ事業における資金調達時の金商法適用関係を明確化~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年5月31日、金融庁は、「コンテンツ事業に関するQ&A」を公表した。 これは、映画製作等のコンテンツ事業における資金調達時の金融商品取引法の適用関係を明確化するために取りまとめたものである。 なお、コンテンツ事業における資金調達に活用可能なスキームについて、「コンテンツ事業における資金調達について」として整理し、併せて公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 「コンテンツ事業に関するQ&A」は(問1)から(問8)までで構成されており、各問の概要は次のとおりである。 回答については、法令の解釈に関係するので、各問の答を直接お読みいただきたい。 (問1) 製作委員会方式によって、映画製作のために出資を募る際の金融商品取引法の適用 (問2) ある映画の製作委員会に出資している企業がその映画とのコラボレーション商品の販売やタイアップCMの放送、映画フェアの開催をする場合の金融商品取引法の適用 (問3) 製作委員会に出資している企業がプロダクト・プレイスメント(自社製品を映画の中で目立つような形で取り上げてもらうことで自社の宣伝を行う手法)を行う場合の金融商品取引法の適用 (問4) ある映画の製作委員会に出資している企業がその映画の前売券の販売を行う場合の金融商品取引法の適用 (問5) 製作委員会に出資している海外の企業(ディストリビューター)が、海外における興行権、放映権、ビデオグラム化権をはじめとした広範にわたる利用権に係る事業(例えば、これらの権利のライセンス付与など)を行う場合の金融商品取引法の適用 (問6) 製作委員会に出資している企業自身ではなく、その親会社もしくは子会社が製作委員会が行うコンテンツ事業に従事している場合の金融商品取引法の適用 (問7) 海外で興行などを行う企業(海外企業)が、製作委員会に出資している企業(国内企業)に対して、その映画から生じる利益を受ける権利を得るために出資する場合の金融商品取引法の適用 (問8) 例えば寄付型・購入型クラウドファンディングなどのように、出資額を超えるリターンを受ける権利がない資金提供(寄付金を含む)を募る場合の金融商品取引法の適用 (了)

#No. 220(掲載号)
#阿部 光成
2017/06/01

《速報解説》 経産省、企業経営者と投資家による「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」を公表~ESG投資・非財務情報等の重要性を示す~

《速報解説》 経産省、企業経営者と投資家による 「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」を公表 ~ESG投資・非財務情報等の重要性を示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年5月29日、経済産業省は、「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス-ESG・非財務情報と無形資産投資-(価値協創ガイダンス)」を公表した。 これは、経済産業省に設置された「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」における検討に基づいて策定されたものであり、企業価値向上に向けて、企業経営者と投資家が対話を行い、経営戦略や非財務情報等の開示やそれらを評価する際の手引となるガイダンス(指針)である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ ガイダンスの全体像 ガイダンスの全体像は次のとおりである。 ガイダンスは表紙を含めて27ページあるので、以下では主な内容と思われる事項について解説する。 1 価値観 企業は、企業理念等を示し、その体現方法などの基本的な考え方を示すべきであるとしている。 投資家は、企業の目指すべき方向や優先課題を理解することで、企業の経営戦略や主要なKPI(Key Performance Indicator)、その達成のために必要な取組期間を踏まえた実施計画等を適切に評価することができるとしている。 2 ビジネスモデル ビジネスモデルとは、企業が事業を行うことで、顧客や社会に価値を提供し、それを持続的な企業価値向上につなげていく仕組みであり、「ビジネスモデルがある」とは、中長期で見たときに成長率、利益率、資本生産性等が比較対象企業よりも高い水準であることであるとしている。 投資家にとって、ビジネスモデルは企業の持続的な収益力(すなわち「稼ぐ力」)を評価する上で最も重要な見取図であるとしている。 3 持続可能性・成長性 企業が持続的に価値を高めていくためには、①明確なビジネスモデルが存在すること、②持続可能であること(サステナビリティ)、③成長性を持つものであることが求められるとし、そのためにはまず自社のビジネスモデルを持続・成長させる上で脅威となり得る要素は何かを把握する必要があると述べている。 長期的な視野に立つ投資家が、ESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス))といった要素を重視していることも述べている。 4 戦略 戦略は、想定されるリスクに備え、競争優位の源泉となる経営資源・無形資産やステークホルダーとの関係を維持・強化することで持続的なビジネスモデルを実現するものとしている。 企業は、経営戦略や事業戦略といった様々なレベルでの戦略を実行することで成長性を獲得し、投資家を含むステークホルダーからの信任を得ることで共同利益を拡大し、社会的価値を創造し続けることができるとしている。 投資家には、長期の価値創造ストーリーの中で、社会課題(ESG等)の組み込みやステークホルダーとの関係の構築など、ビジネスモデル及び持続可能性・成長性で示した内容を実現するための戦略を伝えるべきであるとしている。 5 成果(パフォーマンス)と重要な成果指標(KPI) 企業が持続的な企業価値を向上させるためには、まず自社がこれまで経済的価値をどのぐらい創出してきたかを振り返るとともに、経営者が財務的な業績をどのように分析、評価しているかを示すべきであると述べている。 投資家には、企業が事業を通じて自らの価値観を具体化し、企業価値を高めていくための道標として、また、その達成度を測る尺度として、成果を評価する重要指標(KPI:Key Performance Indicator)を予め定め、示しておくことが有益であるとしている。 企業の持続的な企業価値向上は、中長期的に資本コストを上回る財務パフォーマンス(キャッシュリターン)をあげることによって実現され、投資家はそうした価値創造に期待して長期投資を行うことができるとしている。 6 ガバナンス 投資家にとって、企業がビジネスモデルを実現するための戦略を着実に実行し、持続的に企業価値を高める方向で規律付けられるガバナンスの仕組みが存在し、適切に機能していることは不可欠な条件であるとしている。 (了)

#No. 220(掲載号)
#阿部 光成
2017/06/01

プロフェッションジャーナル No.220が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年6月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.220を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/06/01

monthly TAX views -No.53-「政府税調、今年の課題は「記入済み申告制度」」

monthly TAX views -No.53- 「政府税調、今年の課題は「記入済み申告制度」」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   政府税制調査会の議論が6月から再開される。 昨年の議論では、配偶者控除は、夫婦控除への転換ではなく、控除対象範囲の拡大という「逆方向」で決着がつき、安倍政権のもとでは税収中立ですら「増税は難しい」ことが思い知らされた。「所得控除から税額控除へ」と政府税調は言ってはいるが、実現可能性は低い。 では、今年一年(正確には11月頃まで)、政府税調は何を議論するのだろうか。 *  *  * カギは政府税制調査会委員の海外出張にある。本年1月開催の政府税制調査会では、「納税実務等を巡る近年の環境変化への対応に向けた海外調査」が行われることが決まった。 その趣旨は とされている。 現に政府税調委員は、4月下旬~5月上旬頃にかけて、米国、カナダ、英国、フランス、スウェーデン、韓国などに出張した。 この海外調査で得られた「税務手続の電子化など、納税者の利便性向上に係る諸制度とその運用状況」及び「情報収集のあり方など、適正公平な課税の実現に係る諸制度とその運用状況等」を参考に議論が始まると思われる。 *  *  * 筆者が関心を持っているのは、「記入済み申告制度」である。 この制度は、納税者サービスの一環として行われているもので、税務当局が番号(マイナンバー)を活用して収集した納税者の情報を、納税者の申告利便のために1年に一回、納税者にフィードバックするというものである。 例えば、雇用主や金融機関等から提出された源泉徴収票などに記載されている収入金額や源泉徴収税額などを申告書に記入して納税者に送付し、納税者はその内容を確認、必要に応じ修正して申告する。 税務当局も、申告書の収受後に内容を審査する従来の方式に比べて、申告間違いや記入漏れといった単純なミスを予め防止できるため、申告書収受後の事務が効率化されるというメリットがある。 *  *  * この制度の導入が最も進んでいるスウェーデンをみてみよう。 税務当局から送付されてきた申告書に、給与、利子所得、配当所得などと並んで、支払税額(国税・地方税)、税額控除額などが記入されている。驚くべきことに、納税者の税の過不足額(追加納税額や還付額)まで計算・記入されている。 スウェーデンの記入済み申告書(イメージ) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※1) スウェーデン国税庁からのヒアリングの際に入手した記入済み申告書サンプルより作成 (※2) イメージの中の「矢印」「注書き」は事務局による記載 (出典:金融税制・番号制度研究会作成) わが国でも、マイナンバー制度の一環として本年9月頃から開始されるマイナポータルをe-Taxと結びつけて「日本型記入済み申告制度」が可能になる日も近いかもしれない。 マイナポータルの「情報提供等記録開示システム」や「電子私書箱機能」を活用することにより、保険者からの医療支払情報の入手、生・損保の保険料控除や住宅ローン控除に必要な証明書の電子的受取りが可能となるので、これをe-Taxと連動させれば、簡素な記入済み申告が可能となる。 さらには、クレジットカードなど民間の決済サービスと連動する「電子決済機能」を使って納税まで可能になる。 なお、筆者は、金融税制・番号制度研究会でその具体案を提言している。 詳しくは下記リンク先を参照してほしい。 すでに多くの欧州諸国において導入されているこの制度が日本でも導入されれば、医療費控除なども容易になるし、将来的には、サラリーマンが年末調整の代わりに自らの追加的な経費を自己申告できるような制度も可能になる。 ぜひ海外出張の成果を生かした議論をしてほしいものだ。 (了)

#No. 220(掲載号)
#森信 茂樹
2017/06/01

役員給与等に係る平成29年度税制改正 【第2回】「定期同額給与及び事前確定届出給与に関する改正」

役員給与等に係る平成29年度税制改正 【第2回】 「定期同額給与及び事前確定届出給与に関する改正」   西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子   1  定期同額給与に関する改正 定期同額給与(法人税法34条1項1号)とは、〔図表1〕の1から3のいずれかに該当する給与をいう。平成29年度税制改正による改正点は、下記1及び2・イに関するものである。 〔図表1〕 定期同額給与の類型と平成29年度改正点 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 上記1の改正の趣旨は、従来、月額報酬が定額でも、源泉税等の額の変動により各支給時期の支給額が同額とならない場合に、形式的に、定期同額給与に該当しないと取り扱われてきた点を改めることにある。 実務においては、例えば、外国役員への給与について、日本における所得税や社会保険料等を法人の実質的負担とするべく、当該金額を上乗せして給与を支払う場合が少なくない。当該改正により、これらの控除後の金額が同額である場合についても、定期同額給与として扱うことが可能となる。 また、上記2・イの改正の趣旨は、定期同額給与の改定の期限について、平成29年度税制改正による、確定申告書の提出期限の延長の特例の見直しを反映することにある。 会計監査人設置会社(内国法人)においては、定款等の定めにより各事業年度終了の日の翌日から3ヶ月以内に当該年度に関する定時総会が招集されない常況にあると認められる場合には、特別の事情がない限り、法定申告期限からさらに最長で4ヶ月(各事業年度末から6ヶ月)の申告期限の延長が認められることとなった(法人税法75の2条1項)。 かかる特例の指定を受けた内国法人においては、定期同額給与の改定期限は、当該延長の指定月数に2を加えた月数を経過する日となる。例えば、3月決算の会社において、当該特例により申告期限が7月末とされた場合(つまり、延長の指定に係る月数が「2」である場合)は、4月1日から起算して4ヶ月を経過する日である7月末が改定期限となる。 (※) 上記下線部分につきまして、本稿公開時、改定期限を9月末としておりましたが、正しくは上記の通りです。お詫びの上、訂正させていただきます。   2  事前確定届出給与に関する改正 事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給される給与であり、原則として、法定の届出期限までに納税地の所轄税務署長にその事前確定届出給与に関する定めの内容に関する届出をしているものをいう(法人税法34条1項2号)。 平成29年度税制改正による事前届出確定給与に関する改正の概要は〔図表2〕の通りであるが、主要な改正点は3つある。 第1は、支給対象の拡充(株式及び新株予約権をも支給対象とするよう横断的な整理がなされたこと)、第2は、支給対象の拡充に伴う事前届出の要否の整理、また、第3は、譲渡制限付株式に関する要件の見直し(次稿で検討する)である。 〔図表2〕 事前届出確定給与に関する改正の概要 (※1) ②の「株式」には、譲渡制限付株式が含まれる。 (※2) ②・③における「株式」は、市場価格のある株式又は市場価格のある株式と交換される株式で、役員が在籍する法人又はその関係法人が発行したもの(適格株式)に限られる。また、「新株予約権」は、その行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権で、役員が在籍する法人又はその関係法人が発行したもの(適格新株予約権)に限られる。  また、「関係法人」は、50%超の株式又は持分を保有する関係にある法人が含まれる(法人税法2条12号の7の5)。 主要改正点の第1、支給対象の拡充は、従来、事前確定届出給与には、現物資産により支給するものは含まれないとされ、例外は、平成28年度税制改正で導入された特定譲渡制限付株式のみであった点(法基通9-2-15)を改め、確定した数の株式又は新株予約権(上記1・②)、及び確定した額の金銭債権に係る一定の譲渡制限付株式又は新株予約権(上記1・③)も対象に加えられた。 具体的には、上記の改正により、平成28年度税制改正により事前確定届出給与の対象となった譲渡制限付株式に加え、将来の一定の時期に株式を交付するもの(つまり事後交付型の譲渡制限付株式)や、業績連動要件が付されていない株式交付信託による株式報酬も、事前確定届出給与の対象に含まれることとなった。 なお、事前に報酬額が確定していて、交付直前の株価を参照して交付株式数を決定するような報酬で、端数部分を金銭交付するものも、事前確定届出給与の対象と認められている(法人税法施行令69条8項)。 主要改正点の第2、事前届出の要否の整理は、事前確定届出給与の支給対象として新株予約権も加えられたことに伴い、要件が再整理されたものである。 具体的には、平成28年度税制改正により導入された譲渡制限付株式に関する事前届出を不要とするための要件(将来の役務提供に係るものとして、職務の執行の開始の日から1ヶ月以内に株主総会等の決議により、所定の時期に確定額を支給する旨が定められ、その決議の日から1ヶ月以内に交付されるもの(特定譲渡制限付株式の要件))が、新株予約権による事前確定届出給与にも適用されることとなった(法人税法施行令69条3項)。 実務的には、当該改正に関しては、平成29年度税制改正の適用下(具体的な適用時期については前稿参照)で発行するストック・オプションについて、事前届出の省略のメリットを受けつつ、事前確定届出給与として損金算入を維持したい場合には、ストック・オプション発行スケジュールに上記の要件を組み込む必要がある点に十分に留意が必要である。 また、将来の一定の時期に株式を交付するもの(いわゆる、事後交付型の譲渡制限付株式)については、上記の届出不要の要件を満たさないため、事前届出が必要であることにも留意すべきである。 なお、原則通り事前届出が必要とされる場合にも、その時期については、定期同額給与の改定の期限に関する改正同様に、確定申告書の提出期限の延長の特例の指定を受けた内国法人においては、事前届出の期限は、当該延長の指定月数に3を加えた月数を経過する日となる(法人税法施行令69条4項)との改正がなされている。例えば、3月決算の会社において、当該特例により申告期限が7月末とされた場合(つまり、延長の指定に係る月数が「2」である場合)は、4月1日から起算して5ヶ月を経過する日である8月末が事前届出期限となる。 (※) 上記下線部分につきまして、本稿公開時、事前届出期限を10月末としておりましたが、正しくは上記の通りです。お詫びの上、訂正させていただきます。 (了)

#No. 220(掲載号)
#柴田 寛子
2017/06/01

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる会計処理と税務Q&A 【第6回】「仮想通貨の譲渡の非課税措置」~平成29年度税制改正~

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第6回】 「仮想通貨の譲渡の非課税措置」 ~平成29年度税制改正~   公認会計士・税理士 八代醍 和也   A 本連載【第1回】で概要を述べたが、平成29年度税制改正では、ビットコインをはじめとする仮想通貨の譲渡取引について、消費税が非課税とされることになった。 今回は施行時期が近づくこの改正について、世間的な注目も相当高まっていることもあり、解説を加えてみたい。   1 改正の概要 【第1回】で述べたとおり、今回の改正は「資金決済に関する法律」(以下「資金決済法」)が改正され、その第2条5項において仮想通貨が定義されたことに加え、国際的な課税のバランス、今後の仮装通貨の利用増加の可能性等に考慮して、これを非課税とすることになったものである。 改正事項をまとめると次の3点である。 以下、これら各項目について説明を加える。   2 平成29年7月1日以後、資金決済法に定める仮想通貨の譲渡について消費税が非課税となる 資金決済法に定義された仮想通貨の譲渡が非課税になるというのは、単純に「消費税がかからなくなる」ということと分かるが、実務面では具体的にどのような場合が想定されるのか。 ビットコイン等の仮想通貨がどのようなものか関心はあるものの、実際の流通量が非常に限られたものであり、未だ一般に馴染みがないことから、そういった疑問も巷にはあるようである。 (1) 譲渡取引の3つのタイプ 実務的な観点で「仮想通貨の譲渡」とは何を指すのかという点については、主に以下の3点が考えられる。 ①の購入は分かりやすいが、②③の売却する場合については、要約すると仮想通貨の取得態様を問わず、仮想通貨そのもの譲渡して換金した場合がこれに該当する。したがって、仮想通貨を単に決済手段として物品の販売や購入を行った場合には、仮想通貨の譲渡を行ったことにはならない。 ちなみに、本稿の論点からは若干ずれるが、上記のような仮想通貨を決済手段とした売買取引を行った場合の課税上の取扱いについて規定する法人課税・所得課税上の明文規定は存在しないため、今後、税務行政上の手当・対応が必要と考えられるところである。 (2) 平成29年7月1日以後の譲渡から適用 適用開始時期にも留意が必要である。仮想通貨の譲渡(取得・売却を含む)について、当然ながら、改正法適用前の平成29年6月30日以前の取引については消費税の課税取引となるため、会計処理や消費税計算において誤りが生じないよう事務処理において留意が必要である。   3 仮想通貨の譲渡取引については、課税売上割合の算定上、資産の譲渡等には含めない 公表された改正消費税法施行令では、事業者が行う仮想通貨の譲渡の対価について、これを課税売上割合の計算から除外されることになった(いわゆる課税対象外取引)。 これも仮想通貨が資金決済法において法律上定義されたことを受け、消費税法上非課税売上高に含めないこととされる「支払手段の譲渡」に類するものと評価して、課税売上割合を算定するように措置したものである。 以下、具体的な計算を設例で紹介する。 設 例 上記課税売上割合の算式に基づき、改正前後の課税売上割合を計算すると、それぞれ次のようになる。 なお、当該改正点も平成29年7月1日以後の仮想通貨の譲渡から適用されるから、平成29年6月30日の属する課税期間においては、平成29年6月30日以前の仮想通貨の譲渡高は課税売上高に含め、平成29年7月1日以後の仮想通貨の譲渡高は上記計算に含めずに計算する必要があることに留意が必要である。   4 一定の経過措置が設けられる 平成29年6月30日現在において、税抜で100万円以上の仮想通貨(国内で譲受けを受けたものに限る)を有する場合、その保有数量が平成29年6月中の平均保有数量に対して増加した場合に、その増加分に係る消費税について仕入税額控除を認めないなどの経過措置が設けられた。 今般の改正に伴い、仮想通貨を平成29年6月中に大量に市場から購入し、これに係る消費税額について仕入税額控除を適用し、これを平成29年7月以後に譲渡することにより、消費税の負担を不当に軽減することに対する一定の制限が加えられた形となる。 (了)

#No. 220(掲載号)
#八代醍 和也
2017/06/01

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第16回】「買い換えた土地の上に親族が家屋を建築して同居した場合」-居住の用の判定-

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第16回】 「買い換えた土地の上に親族が家屋を建築して同居した場合」 -居住の用の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、自己の居住用財産(所有期間が10年超で居住期間は10年以上)を5,000万円で譲渡し、その譲渡代金で新たに土地を取得しましたが、家屋の建築資金がないため、長男が銀行からその資金を借入れし、長男名義で家屋を建築させました。 Xは、長男と共にその家屋に居住していますが、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 「買換えの特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「買換えの特例」は、買換資産を一定の時期までに、その譲渡者が居住の用に供することを要件として適用を受けることができるものですが、買換資産である土地等について、その土地等をその居住の用に供したかどうかは、その土地等の上にあるその譲渡者の所有する家屋をその譲渡者が居住の用に供したかどうかにより判定することとされています(措通36の2-17(買換資産を当該個人の用に供したことの意義))。 したがって、本事例の場合、X所有の家屋ではないことから、つまり、Xが買い換えた家屋でないため、その買い換えた土地はXの居住の用に供したことにはなりませんので、「買換えの特例」の適用を受けることができません。 なお、土地等と家屋の所有者が異なり、これらの所有者が生計を一にする親族である場合において、その家屋と土地等を一体として譲渡し、その譲渡代金でそれぞれ家屋と土地等を取得して、従前と同様に一体として利用してその家屋に、これらの者が居住(同居)した場合には、上記の例外として、その土地等の所有者についても、つまり、その土地等の上にある家屋の所有者が自己以外の者であっても、「買換えの特例」の適用を受けることができることとされています(措通36の2-19(居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い))。 (了)

#No. 220(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/06/01
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