税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第7回】 「管理者による『預金の使い込み』(その2)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問07] 私は【設問06】で、妹から父の預金を使い込んだと主張されている姉です。 妹は私に対して一方的に疑いの目を向けていますが、それは妹の思い込みなのです。 ◆ ◆ ◆ 父が入院する際に私が管理を任された銀行口座には、そもそも700万円ほどの残高しかありませんでした。 この中から、父の手術費用である約50万円をはじめとした病院代や入院費用をすべて支出したのです。 また、戦災孤児であった父は、幼いころに自分を育ててくれた地元の福祉施設に大変感謝しており、成人して働き始めてからは毎年少しずつ寄付を続けてきたそうです。そのような中で、今回、福祉施設の建物を全面的に建て直すという計画が持ち上がり各方面に寄付を募っていましたので、父はこれに応じて300万円の寄付を申し出たのです。その手続も、父から依頼されて、私が行いました。 なお、入院中の父の世話をするために、私はパートの仕事を辞めなければなりませんでした。父はそのことを不憫に思い、月額数万円程度ではありますが、私の生活費の一部として援助してくれました。これは父から持ちかけてくれたことです。 ◆ ◆ ◆ 以上のように、私が管理していた間の預金の支出はすべて正当であり、父も了解済みのものです。不正を疑われるようなことは一つもありません。 父の最期に何も面倒をみず、遺産を欲しがってばかりの妹のことを考えると、非常に悔しく思います。 私は、今後の妹との交渉において、どのようにしていけばよいでしょうか。 1 「預金の使い込み」を疑われた側の対処方法とは? 「預金の使い込み」事案の多くは親族内での紛争であり、その根底には、長年にわたる親族間での人間関係(嫁・舅姑関係、きょうだい関係等)が存在しているケースが非常に多い。 そのため、一部の親族から「預金の使い込み」を指摘された場合、その内容の当否そのものとは別に、激しい感情的な対立を招くこともままある。その結果、冷静な話合いが難しく、解決に向けた道筋がまったくつかなくなるケースも多い。 今回は、前回述べた【設問06】における姉の、すなわち高齢者本人の「財産を管理していた者」の立場から、この問題を考えてみたい。 なお、「預金の使い込み」が争点となる訴訟は増加傾向にあるにもかかわらず、これまで裁判実務の指針となるような解説書や論文がほとんど存在しない状況にあった。 そのような中で、近時、裁判官のグループによる共同研究の成果が下記の論文として公表された。必要に応じてご参照いただきたい。 2 財産管理者側での対応(1)-領収書・レシート等の証憑書類の精査 【設問06・07】において、姉が一番はじめにやらなければならないことは、本人である父のために支出し、あるいは父から指示を受けて支出した内容に関し、領収書等の証憑書類をすべて収集し、確認することである。 この点、筆者が過去に取り扱った事件では、日々の出来事や入出金の詳細を、数十年にわたり専用ノートにその都度記録し、あわせて重要な証憑もほとんどを保存している方がおられた。このケースでは、それが功を奏し、「使い込み」との疑いを堂々と払拭し、反証に成功した。 このように証憑書類を普段からどの程度保管しているかは管理者各人の性格等にもよるところであり、いざ時間が経ってしまってからでは如何ともしがたい場合もある。 仮に、証憑書類が手元に保存されていない場合は、金額が大きな支出については、支払先に対して領収書の再発行を依頼する等の手段が考えられる。例えば、【設問07】では、父の指示で福祉施設に寄付したということであれば、仮に寄付金の払込をした振込票を廃棄していた場合でも、施設側に寄付金受領の証明書等の発行を依頼すれば入手できるであろう。 なお、証憑書類を入手した後は、各支出について、時系列で、①支出日、②支出先、③支出金額、④支出内容、⑤対応する証拠の説明等を一覧表に整理していくとわかりやすい。 一例であるが、裁判で争われる場合等は、次のような形で一覧表に整理したうえで、お互いの主張・反論を記載していくやり方が通常取られる。 〈支出内容一覧表(例)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 3 財産管理者側での対応(2)-領収書等がない費目の精算 本人のために支出した費目の中には、こまごまとした日用品や飲食代、少額の交通費等といったように、必ずしも証憑書類を残していないものも存在するかもしれない。あるいは、菩提寺へのお布施や知人の葬儀に持参した香典代等、その性質上、領収書等がもともと発行されない費目もあろう。 これらについては、支出の時期や金額、支出先・支出内容等につき思い出せる限りで記憶を喚起し、すべて書き出して前記の一覧表に反映すべきである。そのうえで、これら費目については、他の親族・関係者に対して内容の正当性を説明し、理解を得ていくということになる。 以上のような整理を経て請求者と協議を重ねていくと、自ずと支出の正当性につき問題のない項目は争点から外れ、次第に争点が絞られてくる。あとは、その金額をめぐっていくらを返金するのか/しないのかを、双方で交渉していくことになる。 4 トラブルを未然に防ぐための予防策 「預金の使い込み」トラブルを2回にわたって取り上げた『まとめ』として、この種のトラブルを防ぐため、管理者としてなすべき予防策につき説明しておこう。 以上のような工夫をすることで財産管理の透明性を高めれば、深刻なトラブルへの発展は回避できるであろう。 (了)
役員インセンティブ報酬の分析 【第2回】 「株式交付信託①」 -平成28年度の状況- 弁護士・公認会計士 中野 竹司 1 役員報酬のための株式交付信託の概要 コーポレートガバナンス・コード原則が中長期的な業績と連動する報酬の割合や現金報酬と自社株報酬の割合を適切に設定すべきとしたこともあり、自社株報酬の制度の一つとして株式交付信託制度の導入が増加している。 実際、株式交付信託導入に関する平成28年度中の企業の適時開示事例を見ると、制度導入目的として、中長期的な業績向上と企業価値の増大を挙げる企業が多かった(株式会社丸井グループ、伊藤忠商事株式会社など)。 ここで、株式交付信託(株式給付信託など様々な名称で呼ばれることがある)とは、会社が信託銀行等と信託契約を結び信託を設定したうえで、委託者たる会社が受託者たる信託銀行等に金銭を交付し、受託者たる信託銀行が株式を取得し、受益者たる役員等が受託者から会社の株式の交付を受けるという制度である。 信託は、信託契約により、様々な制度設計ができるが、株式交付信託の大まかな流れを図示すると以下のようになる。 2 ガバナンス面から見たメリット・デメリット 平成28年度中において、株式報酬として上場企業が導入している制度としては、株式交付信託の他、特定譲渡制限付株式又はストックオプションのいずれかであることがほとんどであると思われる。 株式交付信託は、税法上の制約はあるものの、制度設計の自由度が高いため、他の制度と比べると、以下のようなメリット・デメリットがある。 まず、特定譲渡制限付株式はパフォーマンス・シェア型の制度設計も可能ではあるものの、税務上の制約もあり、欧米で導入されているパフォーマンス・シェアに比べると、業績向上のインセンティブ報酬という性格が弱められている。これに対して、株式交付信託はパフォーマンス・シェア型の制度設計が可能である。 また、ストックオプションを利用した場合と比べて、株式交付信託は、株式の希薄化が生じず、また、当該企業の株価水準によっては、費用対効果がより高いケースもあるというメリットがある。 一方、株式交付信託は、制度設計によっては、自己株式取得規制の潜脱となりガバナンスを歪める可能性もありうるため、受託者が議決権の行使を行わないという設計となっていることが上場企業においては通常である。 また、制度導入に当たって、決定プロセスの透明化や客観性を確保するため、諮問委員会としての報酬委員会等の検討を経ている旨を適時開示で明らかにしている事例もある(アステラス製薬株式会社、株式会社リクルートホールディングス、戸田建設株式会社など)。 3 取締役に交付する株式数の決定方法 (1) 付与ポイントの決定方法 取締役等を対象とした株式交付信託においては、まず、対象となる取締役に対し、職位や業績に応じて計算期間を定めポイントを付与するといった計算方法がとられることほとんどである。 そして、各対象者に付与されるポイントの計算方法には各種バリエーションがあるが、 により各対象者に付与されるポイントが決定されるという事例が多くみられる(アステラス製薬株式会社、伊藤忠商事株式会社、ブルドックソース株式会社など)。 この際、業績連動係数には様々な経営指標が用いられており、例えば、売上高、コア営業利益率、ROE、EBITDAなどを用いている例が見られた。 (2) 付与株式数の決定方法 各対象者別の付与ポイントが決定されると、これを基に交付株式数等が決定される。 この際、株式付与が確定した時点での累積ポイントに対して、1ポイント=1株(ただし、希薄化調整計算を予定するのが一般的)などという条件で付与される株式数が決定されるケースが多い。 もっとも、付与ポイントを株式数に換算し累積ポイントの一定割合を株式で交付し、残りの部分は信託内で換金処分した金銭相当額を付与するという方法をとる企業も少なくない(ブルドックソース株式会社、株式会社リクルートホールディングス、伊藤忠商事株式会社、アステラス製薬株式会社、日本郵船株式会社など)。 4 会社法上の視点 取締役を対象とした株式交付信託は、信託設定時に役員報酬を目的とした金銭の支払いが発生するため、株主総会の決議が必要となる。その際、株式交付信託は、確定報酬額、不確定報酬額及び非金銭報酬の性格をいずれも有していることから、他の役員報酬とは別枠で株主総会決議することが望ましく、実際に株式交付信託制度を導入する際には、役員報酬決議による承認を得ることが通常である。 また、付与対象範囲は、取締役と執行役を制度導入対象とするが、社外取締役、監査役と国外居住者を除いた事例が多く見受けられた。このように、取締役に対する株式交付信託は、受益権者として取締役の他、執行役や子会社取締役等を支給対象に含める場合もあるが、この場合の承認関係をどのように考えるかは慎重な配慮が必要である(倉橋雄作「経営陣の報酬をめぐる新たな問題―執行役員・子会社役員の報酬水準・報酬体系の変容を踏まえて―」商事法務No.2116(2016.11.15)参照)。 さらに、自己株式取得規制の潜脱とならないように制度設計する配慮が必要であり、一般的に信託管理人が受託者に対して、議決権不行使の指図を行うスキームがとられている。 5 税法上の視点 (1) 法人税法上の視点 株式交付信託が「受益者等課税信託」となるか「法人課税信託」となるかは、制度設計次第であるが、通常、会社が受益者となる受益者等課税信託として設計されている。このため、信託の受益者である会社が信託財産及び信託財産に帰せられる損益の帰属主体となる。 なお、株式交付信託の税務上の検討を行う際に重要な資料となる、2012年4月17日付の東京国税局による事前照会に対する文書回答事例「従業員持株会を利用した信託型インセンティブプランに係る税務上の取扱いについて」(以下「文書回答」という)においても、受益者等課税信託であることが前提の照会となっている。 株式交付信託が受益者等課税信託である場合、会社が金銭を信託した段階においては、特段の課税関係は生じない。 そこで、法人税法上は、一定の要件を満たして、取締役等が株式交付信託の受益者となった時、すなわち株式(場合によっては金銭)の交付権を取得した時の処理が問題となる。 この点、株式交付信託を役員インセンティブ報酬として用いた場合、役員への株式交付時点を、役員在任中と設計することも、役員退任時と設計することも可能である。 もっとも、役員在任中に株式が交付されるタイプの株式交付信託の場合、「定期同額給与」、「事前確定届出給与」、「利益連動給与」のいずれにも該当せず、法人税法上損金算入が認められない。 一方、役員退任時に株式が交付されるタイプの株式交付信託の場合は、交付時における時価総額相当額を、退職慰労金の支払いとして損金算入できる可能性があると考えられるが、明確な条文や通達の根拠があるわけではない。 なお、平成28年中に株式交付信託を導入した企業では、信託期間で定めた一定の時期に役員等が在任中であっても付与する制度(アステラス製薬株式会社、日本郵船株式会社など)もあれば、退任時に株式を交付することとしている制度(伊藤忠商事株式会社、興研株式会社、株式会社リクルートホールディングス)もあった。 なお、平成29年度税制改正は、株式交付信託を用いた役員インセンティブ報酬の損金算入に関する点に大きく影響する可能性があり、制度の見直し等が必要になる場合が考えられ、今後の実務の動きが注目される。 (2) 所得税法上の視点 株式交付信託により、役員に株式の交付が行われる場合、受益権の権利確定日の収入として申告すべきように思われる(文書回答参照)。 また、収入として計上すべき金額は、権利確定日の価額(所得税法36条2項)に基づいて算定されると考えられる(文書回答参照)。 6 会計上の視点 取締役等を対象とした株式交付信託については、本稿執筆現在、会計基準は公表されていない。 これに対して、従業員を対象とした株式交付信託(日本版ESOP)については、企業会計基準委員会から「実務対応報告第30号 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(以下「実務対応報告」という)がすでに公表されており、一般に公正妥当な企業会計の基準が明らかになっている。 日本版ESOPと役員向けの株式交付信託では、報酬に関する株主総会決議の要否といった点など異なる制度設計となっている面はあるものの、会計処理に相違をもたらすような制度設計の違いはほとんどない。そこで、取締役等を対象とした株式交付信託についても、日本版ESOPについて定めた実務対応報告第30号に従った会計処理が、一般的になされているようである。 具体的には、以下のような会計処理がなされる制度設計となるのが一般的であろう。 信託設定時には、実務対応報告10項、15項の規定により総額法又は純額法で処理され、信託設定時に拠出した現預金は信託口として計上される。そして、信託での株式取得が、自己株式処分により行われる場合は、自己株式処分益(損)を認識しその他資本剰余金に計上する(実務対応報告11項)。 信託設定後、役員に対するポイントの付与時には、ポイントに応じた株式数に株式の価額を乗じた金額を基礎として、費用の引当金計上を行う(実務対応報告12項)。そして、実際に取締役等に株式を交付する時点でポイントの割当時に計上した引当金を取り崩す(実務対応指針14項)。 なお、会社の保有する自己株式を信託に譲渡した場合は、第三者への譲渡と同様に扱われ、信託からの対価の払込期日に自己株式処分差損を認識する(実務対応指針44項)。 (了)
《速報解説》 経済産業省、コーポレート・ガバナンス・システム研究会報告に基づき 実務指針(CGSガイドライン)を策定 ~経営者人材育成・ダイバーシティ2.0のガイドラインも同時公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月31日、経済産業省は次のものを公表した。 これは、平成29年3月10日に公表された「CGS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-」(CGSレポート)を踏まえ、我が国企業のコーポレートガバナンスの取組の深化を促す観点から、各企業において検討することが有益と考えられる事項を盛り込んだものである。 以下では主な内容について述べるが、CGSガイドラインは多岐にわたる事項を取り上げているので、詳細な理解のためには同ガイドラインをお読みいただきたい。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ CGSガイドライン CGSガイドラインは、コーポレートガバナンス・コードにより示された実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を企業が実践するに当たって考えるべき内容について、コーポレートガバナンス・コードと整合性を保ちつつ示すことでこれを補完するとともに、「稼ぐ力」を強化するために有意義と考えられる具体的な行動を取りまとめたものである。 表紙などを含めて90ページのものであり、基本的に、CGSレポートと同様の内容となっている。 Ⅲ 経営人材育成ガイドライン 経営リーダー人材の育成を戦略的に推し進めていくために、経営トップが試行錯誤を繰り返しつつも覚悟をもって着実に取り組みを進められるための「道しるべ」となるガイドラインが有益であるとし、経営人材育成ガイドラインの意義を述べている。 経営人材育成ガイドラインは、経営リーダー人材の育成を進めていく上で、先進的な取り組みを行っている事例を整理・分析し、様々な制度や施策を運用する上で企業が直面する課題と、それらの課題を乗り越えるための処方箋を具体的な事例により述べている。 経営リーダー人材育成のためのガイドラインとして、次の4つのフェーズで構成されるものと整理している。 例えば、「仕事上の経験」を通じた育成を行う代表的なものとして、困難な課題を割り当てる「タフ・アサインメント」を通じた成長を促す取り組みを紹介し、新事業の立ち上げやベンチャー企業や投資先への出向、不採算事業の再建、海外子会社のトップ、あるいは、本人がそれまで経験したことのない業務分野など、あえて困難なポストにつけることによって、経営者としての知見や経験の幅を広げることにつなげることが述べられており、特に、グループ会社や投資先のベンチャー企業、海外子会社の社長などへのアサインを通じて、これまでの「事業」や「部門」のマネジメントから「企業」を経営する機会を得るとしている。 Ⅳ ダイバーシティ2.0行動ガイドライン 「ダイバーシティ2.0」とは、「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、 付加価値を生み出し続ける企業を目指して、 全社的かつ継続的に進めていく経営上の取組」であるとし、次の4つのポイントを示して、「アクション」や「具体的な取組事例」について述べている。 実践のための7つのアクションとして、次のものを示している。 (了)
《速報解説》 金融庁、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項」等を公表 ~平成29年度レビューは繰延税金資産の回収可能性等に着目~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月31日、金融庁は次のものを公表した。 平成29年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について 平成29年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として、次のことを述べている。 1 新たに適用となる開示制度・会計基準に係る留意すべき事項 ①は「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(平成29年2月14日、内閣府令第2号)による有価証券報告書等の改正であり、次のように【対処すべき課題】から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】へ改正されている。 ②は「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成28年12月27日、内閣府第66号)であり、「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第33号)などに対応するものである。 2 平成28年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項 平成28年度の有価証券報告書レビューに関して、平成29年3月31日時点までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき点を述べている(「別紙1」参照)。 平成28年3月期以降の法令改正関係審査及び重点テーマ審査は、以下のとおりである。 本稿では、「審査結果」において確認された事例について、「適切ではない事例」として紹介する。 重点テーマ審査等に関しては、各事項において、「有価証券報告書における他の項目の記載内容等と整合していない場合には、その理由」が審査内容となっているので、有価証券報告書の開示を検討する際には、開示の整合性について注意が必要と考えられる。 なお、「別紙1」では「留意すべき事項」として具体的な財務諸表等規則などの根拠規定が紹介されているので、実際に有価証券報告書を作成する際にお読みいただきたい。 Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(平成29年度) 平成29 年度の有価証券報告書レビューについては、次のテーマに着目し、平成29 年3月31 日以降を決算期末とする有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
《速報解説》 合併等を無効とする判決が確定した場合の連帯納付義務制度に係る 「国税通則法基本通達(徴収部関係)」が一部改正 ~合併等の新設法人は連帯納付義務者に該当しないことを明記~ 弁護士 羽柴 研吾 1 はじめに 国税庁は、平成29年3月3日付(HP公表は3月24日)で「『国税通則法基本通達(徴収部関係)』の一部改正について(法令解釈通達)」(以下「本件通達」という)を公表した。 この一部改正は、平成28年度の税制改正における法人の合併又は分割(以下「合併等」という)の無効判決に係る連帯納付義務の創設により、国税通則法(以下「通則法」という)等が改正されたことに伴い、所要の整備を図ったものである。 2 一部改正の内容等 平成28年度の税制改正によって、会社法第843条第1項と同様の責任負担とする観点から、通則法第9条の2として、合併等を無効とする判決が確定した場合の連帯納付義務について、以下の規定が新設された。 上記の通則法の改正を受け、本件通達第9条の2関係は、同法第9条の2によって連帯納付義務を負う者について、以下のとおり定めている。 以上のとおり、本件通達第9条の2関係は、通則法第9条の2に規定する連帯納付義務を負う「当該合併等をした法人」には、会社法と同様に、当該合併等をした法人が該当し、当該合併により新設された法人が該当しないことを明らかにした。 通則法第9条の2によって納付義務を負う主体は、以下のとおり整理できる。 3 その他 通則法第9条の2は、平成29年1月1日以後に行われる合併等から適用されているので留意されたい。なお、本件通達には、平成28年度の税制改正前の通則法第9条の2に相当する現行の同法第9条の3に係る法令解釈が新設されたほか、その他所要の改正が行われている。 (了)
2017年4月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.213を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.51- 「トランプ法人税改革における国境調整税の本質と障壁」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 オバマケア代替案のとん挫で、共和党内の亀裂が明らかになった。トランプ政権の次なる改革は、国境調整税(ボーダータックス)を含む税制改革である。国境調整税は、個人、法人税の減税と異なり、大幅な税制の変更を伴うだけに、共和党内のコンセンサスは極めて難しそうだ。この部分だけ切り離される可能性もある。 そういう状況の中、3月24日、IMFシニアエコノミストで、国境調整税の論文の共同著者であるMichael Keen 氏と直接話す機会があったので、それを踏まえていろいろ考えてみた。 * * * この税制は、正式名称を国境調整キャッシュフロータックス(BACFT)といい、欧州やわが国で導入しているVAT・消費税と同様の国境調整(輸入時課税、輸出時免税)を行う、つまり仕向地課税である。 WTO違反にならないように、税の中身(課税ベース)を、所得課税からキャッシュフローベースに置き換える。VATの課税ベースには賃金が含まれているが、国境調整税では除かれる。賃金部分は、個人段階で課税する(現行の所得税と同様)ので、国全体として税制が消費課税となる、これが国境調整税の基本的な考え方である。 国境調整は税関で行うのかどうかなど、未だ詳細については分からない部分が多いが、論理は極めて明快である。 この税体系の下では、わが国や欧州諸国のように、「所得税課税後に消費すると消費税が課税される、貯蓄から生み出す利子などが課税される、配当は法人段階と個人段階で二度課税される」というようなことは起きない。 また、投資は全額即時控除されるので、資本からの通常利潤は課税されず、超過利潤のみ課税されることになる。税率は立地に影響されないので、消費地に近いところ(つまり米国)への立地となる。その意味で、経済効率・経済成長に沿う税制といえる。 20%の国境調整税は、計算をすると、25%のVATと同じ機能を果たす。つまりスウェーデンのVATを、キャッシュフローをベースにして米国で導入する、と考えればよい。一見輸入品だけに課税されるように見えるが、国内品にも課税されるので、20%の国境調整税と25%のVATは同じ税収・税負担となる。 したがって、国民や企業がこの税制を受け入れるかどうかは、価格転嫁がうまく行われるかどうか、つまり全体としての税負担がどのように消費者や事業者に配分されていくかどうかがポイントだ。 * * * 国境調整税は、一見現行の法人税(直接税)のように見える。事業者も消費者も、VATのように、税負担がスムーズに次の取引段階に転嫁されて、最終的に消費者負担になるとは考えない。そこに国境調整税の問題点、受け入れ難さがある。 WTO違反かどうかということ、この点も重要なポイントとなる。 WTOは、間接税では輸出免税を認めているが、直接税で行うと輸出補助金として禁じている。では、直接税と間接税の区分は何か。「納税義務者と負担者が同じであると法律が予定しているのが直接税、異なる(転嫁する)と法律が予定しているのが間接税」、これが定義であり区分である。 しかしわが国の例でも、代表的な間接税である消費税引上げの際に、事業者がこれだけ反対するのは、間接税といっても実際に事業者も負担するからであろう。つまり、「法律が予定しているかどうか」ということは、現実の経済(転嫁できるかどうか)とは別の話である。 国境調整税は、米国の税制全体を、消費を課税ベースとした「間接税」に入れ替え、それにより国境調整(仕向地課税)が可能になり、輸出競争力が回復する。税率が立地に影響を与えない。輸出還付は、企業の社会保険料負担(ペイロールタックス:payroll tax)と相殺するとも言われており、社会保険料負担の軽減も視野に入っている。 わが国のコンテキストで考えると、究極の租税政策ともいえる、(地方)法人税軽減、消費税増税、社会保険料企業負担軽減、この3つが一挙に行えるという点で、示唆するものは大きい。 * * * いずれせよ、米国で国境調整税を成立させることは困難な状況と言える。 米国民や米国事業者がこの税制を間接税と認識するには、相当の時間がかかること、輸入企業と輸出企業の利害が対立し調整が難航すること、国境調整の具体的詳細(税関が行うのかどうか、など)が不明で、かつ不正還付をどう防止するのかなど課題が山積しているからである。 共和党のライアン下院議長の神話にも陰りが見え始めている。 5月の予算教書までに党内調整がつくとは考え難い。 (了)
電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第1回】 「電子マネー・仮想通貨等の普及と会計・税務の動向」 公認会計士・税理士 八代醍 和也 A ◆非現金決済の普及と企業実務への影響 ▷進む非現金決済の普及 今に始まったことではないが、昨今の非現金決済の普及には目を見張るものがあり、またその拡がりのスピードは日に日に増しているように感じられる。 総務省が公表している各年度の「通信利用動向調査」によると、インターネットによる物品購入時の決済方法として、最もその割合の高さにおいて群を抜く「クレジットカード払い」が、平成25年末から平成26年末、平成27年末に至るまで年々増加し69.2%に至っているのに対し、代金引換やコンビニエンスストアでの支払等、いわゆる現金決済が軒並み減少していることからも、その傾向を容易に見て取ることができる(下図参照)。 (※) 以下、本連載では、電子マネーや仮想通貨などの現金以外のものについて「非現金」という。 〈インターネットで購入する際の決済方法〉 【通信利用動向調査(平成26年)】 (※) 総務省「通信利用動向調査(平成26年)」別添2の図表2-4 【通信利用動向調査(平成27年)】 (※) 総務省「通信利用動向調査(平成27年)」別添2の図表2-4 ▷企業実務における非現金化の潮流 上記の変化は、企業実務においてはどうであろうか。 ビジネスのさらなる効率化やスピード化が求められる今日、実務面からのこうした非現金決済への期待もまた大きくなっている。 例えば、家電量販店や商業施設におけるポイントカードにはクレジットカード機能が付加されていることがもはや常識となり、企業においても家電や備品を購入する際に、法人としてこれらのポイントカードの会員となり、これらのサービスを利用することが一般的になった。また、クラウドソフトを利用することにより、クレジットカードの利用履歴データを財務会計システムへ取り込むことで、仕訳を自動で起票するようなサービスも始まっている。 こうした高度な機能性・利便性を有する新サービスの登場が、『現金による決済から非現金決済へ』という変化を強く後押ししている側面があると筆者は考える。 一方、このような新たなサービスを利用することで、会計・税務面での処理方法について、経理実務担当者がどのように処理していいか苦慮する場面も増えつつあるのではないかと感じる。 例えば、備品購入の際に、その代金の一部についてポイントカードを利用した場合の値引き額の取扱いをどのようにすればよいか、あるいは、公共交通機関の発行するポストペイ式のカードについて、利用額に応じた値引きを受けた場合の取扱いならどうかといった、何となく普段は定型的に経理処理を行っているが、はたしてそれが正しいのかと疑問に感じるようなことが意外に多くあるのではないだろうか。 各論の詳細な解説は次回以降に委ねるが、非現金決済の普及が進む中で、これらを適切に経理・税務処理するために、企業が検討すべき事項もまた同様に増加してきていると考えている。 ◆仮想通貨をめぐる会計・税務の動向 ▷仮想通貨の今 非現金決済の普及との関連で無視できないのが、ビットコインに代表される仮想通貨の存在であろう。 仮想通貨とは、資金決済法において、 と定義されているが、平たく言えば、インターネット上の帳簿を通じて、通常の通貨と同様、不特定多数の間で物品やサービスの対価に使用できる通貨であると言える。 非常に将来性があるものとして語られることも多い仮想通貨だが、その技術的な理解に高度な知識を必要とすること、また、仮想通貨を物品や役務提供の決済手段として使用できる店舗が未だ我が国においては非常に限られており、実体経済における流通量も未だ決して多いとは言えない状況にあることから、企業実務において処理方法等を検討する場面は、現段階においては非常に限定されたケースになるのではないかと思われる。 ▷仮想通貨に係る会計上の取扱い 平成29年3月28日に開催された第357回企業会計基準委員会において、「仮想通貨に係る会計上の取扱い」が新規テーマとして提言され、当面の取扱いとして、必要最小限の項目について開発することが決定された。 これは、資金決済法が改正されたことに基づき、実際に取引を行う仮想通貨交換業者等の会計処理を明確化することや、仮想通貨交換業者等に対する財務諸表監査を円滑に行う必要があることから決定に至ったものである。 一方、開発にあたっては、今後の仮想通貨の拡がりやビジネス実務における浸透スピードを予測することは非常に困難であるから、まずは上記のような仮想通貨交換業者等の会計処理の明確化や財務諸表監査の円滑化といった基礎的な環境整備を第一に考えることが重要である。このため、第一段階として、「仮想通貨に係る会計上の取扱い」を定めることでスコープを必要最小限に絞って早急な環境整備を進めたうえで、仮想通貨の取引規模の状況を見ながら中長期的には会計基準等の開発を検討していくことになったものである。 ▷平成29年度税制改正においてその譲渡が消費税法上非課税に 税務の面においては、平成29年3月31日に「所得税法等の一部を改正する等の法律」が公布、翌4月1日から施行され、仮想通貨については、平成29年7月1日以後の譲渡等について、消費税が非課税とされることとなった。 これは、改正資金決済法で、我が国の法律において「仮想通貨」が初めて定義されたことを受け、法文上、法規定の対象とされたことや、国際的な課税のバランス、今後の仮想通貨の利用増加の可能性等に考慮して消費税を非課税とすることが要望されたものと考えられるが、これによって直ちに企業による仮想通貨の利用が大きく進展するとは考えにくいものと思われる。あくまでも「仮想通貨」に紙幣や小切手の同様の地位を与えるという環境整備が行われたにすぎないものと考えている。 とはいえ、世間的な注目が高まりつつあり、また将来においては利用できる場面も増えていくことが想定されるところ、その経理・税務処理方法についても、今後各論にて解説する予定である。 ◆本連載の趣旨 本連載では、上記の動向を踏まえ、電子マネーや仮想通貨等の非現金による取引を行った際の会計処理や税務について、想定される様々な切り口により、各原稿執筆時点の制度下において求められるものを分かりやすく解説していきたい。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第20回】 「売上」 ~有料老人ホームの入居一時金を売上に計上しなければならないと判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 -連載再開に当たって- 平成23年12月の税制改正により、課税庁は、原則として国税に関する法律に基づく申請に対する拒否処分や不利益処分を行う場合には、処分の通知書に処分の理由を付記(注1)しなければならないこととなった(国税通則法74条の14第1項、行政手続法8条、14条)。 しかしながら、理由付記に当たり、どの程度の記載をすべきであるかを定める条文は存在しないため、実際の事案において、具体的にどの程度の記載がなされていないと、理由付記が不備であるとして処分が取り消されることになるのかについては、必ずしも明らかではなく、議論や事例の集積が待たれるところである。 『理由付記の不備をめぐる事例研究』は2015年から2016年にかけて、本誌上において全19回にわたり、実際の裁判例・裁決例を素材として、青色申告書に係る法人税の更正の理由付記及び青色申告承認取消処分に係る理由付記についての事例研究を行ったところである。 ところが、【第19回】掲載後においても、青色申告書に係る法人税の更正の理由付記の十分性が争われた注目すべき裁判例等を目の当たりにすることがあり(注2)、理由付記をめぐる議論を整理し、進展させることの必要性を痛感した。 理由付記の十分性は、関係する法令等の内容や納税者が保存している帳簿書類の記載内容に応じて、個別の判断が求められるものである。このことから、議論すべき論点の洗い出しやその検討に当たっては、理由付記をめぐる個別の事例の集積及び整理が有用である。 そこで、理由付記をめぐる議論や争訟の発展に資するべく、実際の裁判例・裁決例を素材として、更正の理由付記の不備についての事例研究を行う趣旨である本連載を引き継ぐ形で、再開することとしたい。 (注1) 本連載では、判決文等の引用部分を除き、「理由附記」ではなく「理由付記」と表記する。 (注2) 本連載【第45回】で取り扱う予定の「法人税法上のリース取引に該当せず、減価償却費の損金算入は認められない」とする法人税更正処分に係る理由付記の十分性を認めた松山地裁平成27年6月9日判決(判タ1422号199頁)や、【第51回】で取り扱う予定の「過去の事業年度に係る外注費の損金算入は認められない」とする法人税更正処分に係る理由付記の十分性を認めた東京地裁平成27年9月25日判決(判例集未登載)などがある。 ◆ ◆ ◆ 今回は、青色申告法人である財団法人Xに対して行われた「有料老人ホームの入居一時金に係る売上計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁平成22年4月28日判決(訟月57巻3号693頁。以下「本判決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 本件理由付記は、素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工して作成したものである。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、本件理由付記は本件更正処分における課税庁自らの判断過程を逐一検証することができるなどとして、理由付記に不備はないと判断した(この判断は、控訴審である東京高裁平成23年3月30日判決・税資261号順号11657においても維持されている。上告審である最高裁平成24年8月15日第一小法廷決定・税資262号順号12021は上告申立てを不受理)。 (1) 理由付記の趣旨目的と記載の程度 (2) 理由付記の十分性 4 検討 (1) 関係法令等の確認 法人の収益をどの年度において計上すべきかという収益の計上時期(年度帰属)の議論を簡単に確認しておこう。 法人税法22条2項は、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」と規定している。 ここでいう「当該事業年度の収益の額」における「当該事業年度の」とは、当該該事業年度に「帰属する」という意味であり、同項は収益の計上時期を規律する規定として定められたものであるといわれている。もっとも、法人税法22条2項は、収益の計上時期についてその具体的な決定基準を定めていない。 そこで、いわゆる大竹貿易事件の最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決(民集47巻9号5278頁)は、法人税法22条2項に規定する当該事業年度の収益の額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」ことを規定する同条4項を媒介として、「ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべき」であるという解釈を示している。 この判示は、法人税法上の収益の計上基準として、財貨又は役務の提供とその対価としての現金等の受領をメルクマールとする企業会計上の実現主義と、収益の原因たる法的な権利の確定をメルクマールとする権利確定主義をイコールで結んでいるものであると読むことも可能である。 他方、違法な行為によって得た利得等のように法的な権利の確定自体を観念できないケースでは、利得が納税者における現実のコントロールの下に入ったことをメルクマールとする管理支配基準を、収益の計上基準として適用することが妥当であると解されている。 これらのことは、収益や所得の計上時期のみならず、そもそも収益や所得というものが生じているか否かという論点にも関わってくる。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、Xが受領した終身契約の会員費(入居者が、Xに対し、入居一時金を支払う一方、Xが、入居者に対し、原則として入居者の死亡まで、施設を利用させ、介護等の役務を提供することを主たる内容とする終身入居契約に基づいて、Xがその運営する有料老人ホームの入居者から入居に際して受領する金員の一種)のうち、当事業年度に入居者への返済が不要となる部分について、売上に計上すべきであるとするものである。したがって、Xが、その帳簿上、売上として計上していないことの否認という広い意味において、Xの帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 ア 信憑力のある資料の摘示の有無 本件理由付記は、Xが受領した終身契約の会員費のうち、当事業年度に入居者への返済が不要となる部分を当事業年度の売上として益金の額に算入すべきであるとする本件更正処分を行うに当たり、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、 を更正処分の根拠として摘示している。 したがって、本件理由付記は、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示していると考える。 イ 理由付記の趣旨目的との適合性 本件更正処分においては、終身契約の会員費の売上計上時期が問題となっている。とりわけ、事実関係よりも、法人税法上の収益計上時期に係る各基準の内容、適用場面又は本件における当てはめに対する理解の相違が争いの原因となっている。 この点、素材とした本判決に係る訴訟において、Xは、要旨次のとおり主張している。 なるほど、「事実から結論に至る理由付けの記載」という点からすれば、本件理由付記には、課税庁が採用する法人税法上の収益の計上基準のことは少なくとも明記されていない。 この点、Xの上記主張に対して、本判決は、要旨次のとおり述べて、これを排斥している。 筆者も、下線部分の判示におおむね賛同する。 そうすると、本件理由付記は、更正処分に係る法律上及び事実上の根拠を示すものであって、結論に至る判断過程並びに判断の前提となる事実及びその証拠資料を記載するものであると考える。したがって、本件理由付記は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであり、法の求める理由付記として十分なものであるといえる。 もっとも、課税庁は、本判決に係る訴訟において、収益の計上時期に関する議論として、実現主義、権利確定主義、管理支配基準に関する解釈等を詳細に主張していることにも目を向けておきたい。 これらの点に関する解釈等をそのまま定めた税務通達などは存在せず、課税庁の公式の立場は必ずしも明らかではないことを考慮すると、理由付記において、根拠条文として法人税法22条2項や4項の記載を省略するとしても、「Xが受領した終身契約の会員費のうち、当事業年度に入居者への返済が不要となる部分を当事業年度の売上として益金の額に算入するという内容の本件更正処分と、収益の計上基準としての実現主義、権利確定主義、管理支配基準との関係」について、記載すべきではなかったか、という疑問も生じる。 この点の記載を欠く場合には直ちに理由不備となるとはいい難いが、少なくとも、この点を明確に読み取ることができる内容を理由付記に記載してこそ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると評価できるのではないであろうか。更正処分庁の恣意の抑制という点では、更正処分庁が、ケースに応じて御都合主義的に収益の計上基準を使い分けることを防ぐことができるように、理由付記の記載水準を設定すべきではないかとも思われるのである。 (4) 更なる議論① ~帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合か否か~ 上記(2)では、本件更正処分は、Xが、帳簿上、売上として計上していないことの否認という広い意味において、Xの帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考えるという見解を示した。 この点、本判決においては、本件は帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に当たることに当事者間で争いがないことを前提として判断を進めている。終身入居契約書の記載内容自体を否定するものではなく、法人税法上の収益計上時期の各基準の内容、適用場面又は本件における当てはめに対する理解の相違が争点化していることに限定して考えるならば、そのような前提を置くことにも一理ある。 ただし、本判決は要旨次のような判示を補充的に示しており、そのような前提を置くことの適否について、正面からの回答は避けているのかもしれない。 なお、「帳簿」との関係において見れば、本件はXの帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するという上記(2)で示した立場からは、上記(3)アで述べたように、終身入居契約書又はその契約内容を「帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料」として摘示することで足りるであろう。 もっとも、帳簿上、売上として計上していないこと自体が有する「Xが受領した終身契約の会員費は、当事業年度に入居者への返済が不要となる部分も含めて、Xの当事業年度の売上には該当しないこと」に対する証明力(信憑力)を低く見積もれば見積もるほど、上記(2)③のハードル(更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示しなければならないこと)は低いものとなる。この場合には、本件が帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に当たるという立場を採用した場合と理由付記の記載の程度の要求水準が近接することになろう。 ただし、この辺りの議論は、実際の帳簿書類の記載内容や帳簿書類の作成等の状況のほか、理由付記の段階で、理由付記に摘示する資料が「帳簿書類の記載以上に信憑力のあるものであるか否か」をどこまで厳密に判断すべきであるかという論点とも関わる難しいものである。 (5) 更なる議論② ~本件理由付記は、Xが納得する程度のものではないことを課税庁が予見し得たことが与える影響~ 本判決は、Xと課税庁との間で半年以上にわたる折衝があり、Xが、課税庁担当官の「調査結果の税法通達及び判例に基づく説明」等に納得せず、厚生労働省老人保健局長通知に基づく会計処理をしていると反論するなど、両者の議論は平行線を辿っていたことが認められるといった税務調査の経緯からすれば、本件理由付記程度の記載では直ちにXが納得するものではないことを課税庁は予見し得たことを認めている。 その上で本判決は、処分行政庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的に照らせば、更正処分における理由の記載は、それ自体において処分行政庁の判断過程が理解され得るものであれば足り、それ以上に相手方を納得させるものであるまでの必要はないというべきであり、まして、本件のように、事前の折衝でも約半年余にわたり議論の対立が続いていた状況の下では、直ちに相手方を納得させる理由を記載することは困難というべきであるから、上記事情を勘案しても、理由付記の適法性が左右されるものではないと判示している。 * * * 次回は、「開店祝い金の雑収入計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
租税争訟レポート 【第31回】 「架空請求により取得した簿外資金の役員給与該当性 (東京地方裁判所判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 本件は、神奈川税務署長が、ダイレクトメール等の発送代行業務を行う株式会社である原告において、取引先等との間における架空取引により、簿外資金を作出した上、原告の代表者であるAが、簿外資金を利得し、所得税法28条1項に規定する給与等の支払を受けたとして、原告に対し、源泉所得税に係る本件各告知処分及び本件各賦課決定処分をしたところ、原告が、原告においては、Aに対し、簿外資金を貸し付けたにすぎず、上記の給与等の支払をしたものではない旨を主張して、本件各処分の取消しを求める事案である。 争点は、原告が、代表取締役であるAに対し、簿外資金を給与等として支払ったといえるか否か、である。 【架空請求による簿外資金の作出取引】 1 取引の概要 (1) 原告の代表取締役Aは、複数の取引先から発送代行業務を請け負うに際して、発送代行手数料の他に配送費用名目で金員を受け取り、これを「預り金」として処理するとともに、発注先から架空請求を行わせ、架空の仕入高又は販売促進費として、発注先に支払いを行っていた。 (2) 発注先では、一定の手数料を差し引いた後、原告の代表取締役Aに対して現金を引き渡し、または原告の預金口座に振り込む方法により、発注代金を還流させ、これを代表取締役Aが管理することにより、簿外資金を作出していた。 (3) 簿外資金は、代表取締役Aが鞄に入れて管理しており、そのなかから、複数の取引先等に対して貸付が行われたが、原告の取締役会でこれらの貸付が承認された議事録はなく、原告における帳簿等にも貸付の記録はなかった。 (4) 簿外資金のうち、約1,400万円については、代表取締役Aの株取引に充てられているが、簿外資金総額約2億1,500万円の約77%である1億6,500万円については、上記(3)に掲げる取引先への貸付に充てられていた。 2 原告に対する犯則調査等 原処分庁による告知処分等が行われる以前に、原告は、以下のように大阪国税局査察部(以下「査察部」と略称する)による犯則調査を受け、原告、代表取締役Aともに有罪判決が確定している。 (1) 査察部は、平成22年9月16日、原告の取引先に係る査察調査の一環として、原告の本店所在地にある事務所の調査を行った。 (2) 原告は、平成22年11月29日、神奈川税務署長に対し、平成20年12月期及び平成21年12月期の法人税及び平成20年12月課税期間の消費税等について、各修正申告書を提出した。 (3) 査察部は、平成23年2月9日から原告に対する国税犯則取締法に基づく犯則調査を実施した。 (4) 大阪地方検察庁検察官は、平成23年12月2日、法人税法違反に係る被疑事件につき代表取締役Aを逮捕し、同月22日、同法違反の罪で、原告及び代表取締役Aを大阪地方裁判所に起訴した。 (5) 大阪地方裁判所は、上記(4)の刑事事件について、原告及び代表取締役Aが、原告の法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するとともに、架空の販売促進費を計上するなどの方法により、その所得の全部を秘匿した上、神奈川税務署長に対し、内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成20年12月期及び平成21年12月期における法人税を免れたとして、法人税法違反により、原告を罰金1,500万円に処し、代表取締役Aを懲役1年に処し、その刑の執行を3年間猶予する旨の判決の宣告をし、同判決は確定した。 【原告・納税者の主張】 原告は、代表取締役Aに対し、本件各簿外資金を貸し付けたにすぎず、所得税法28条1項に規定する給与等の支払をしたものではないとして、以下のように主張した。 1 代表取締役Aは、その陳述書及び本人尋問において、簿外資金が、原告の利益のため、取引先の代表者らに貸付をする目的で作られたものであり、個人的に費消する目的で作られたものではなく、当初から簿外資金を原告に返済する意思であった旨を供述していること。 2 簿外資金のうち、実際に代表取締役Aから重要な取引先の代表者らに貸し付けられた1億6,500万円は、簿外資金の総額約2億1,500万円の約77%にも及ぶものであること。 3 代表取締役Aの遊興費その他、明らかに原告と無関係な目的に費消された事実がないこと、簿外資金は原告の社長室に常時置かれていた鞄の中で保管されており、その鞄が外へ持ち出されたことは一度もないこと。 4 Aは、原告の代表取締役かつ大株主であるから、原告と代表取締役Aとの間では、金銭消費貸借契約書をあえて作成して当事者間の同契約の存在を明確にする必要性がなく、また、取締役会を開催しなくても、実質的には、原告が原告から代表取締役Aに対する貸付けを承認していることは明らかであること。また、取締役会の承認の決議は事後の承認も認められており、原告から代表取締役Aへの貸付について、原告はいつでも事後的に取締役会の承認を経ることで会社法上の暇疵を解消できる立場にあるから、原告が代表取締役Aに貸付けをする際に、同法上要求されている手続を経ていないから貸付金ではなく給与等であるとする理論は成り立たないこと。 【被告・課税庁の主張】 被告は、以下のとおり、代表取締役Aは、原告の代表者である自己の権限を濫用して、原告の事業活動を通じて本件各簿外資金を利得・費消したものであることからすれば、本件各簿外資金は、実質的に、原告が代表取締役Aに対して支給した給与等であるというべきである、と主張した。 1 原告の業務及び経理に関する記録などからは原告が代表取締役Aに対して簿外資金を貸し付けた事実は一切認められないことに加え、原告と代表取締役Aとの間に簿外資金の返済に関する合意をうかがわせる事情も認められないこと 2 簿外資金は、原告に留保されることなく代表取締役Aが個人として管理し、その使途を決定して費消したものと認められること 3 簿外資金が原告の資産から支出されたものであることは明らかであること。 【東京地方裁判所の判断】 東京地方裁判所は、まず、一般論として、給与等の該当性について、過去の判例を引用する形で、こう判示した。 次いで、東京地方裁判所は、原告について、以下のように前提事実を述べる。 そのうえで、本件の架空取引を利用した簿外資金の作出については、代表取締役Aによって行われたもので、原告の業務は、その全てが代表取締役A自身によって、又はその指揮監督の下に行われていたものというべきであり、簿外資金については、原告の業務に係る架空取引を通じて作出され、代表取締役Aが利得したものであるということができる、とした。 そして、以下の事実認定を根拠に、代表取締役Aが利得した簿外資金については、代表取締役Aが原告の代表者として提供した労務又は役務の対価として受けた給付と評価することができるというべきである、と結論づけた。 【解説】 架空取引を通じて得た簿外資金が、代表取締役個人によって管理されている場合における給与認定について、東京地方裁判所は、原告・納税者に厳しい判断を示し、その請求を退けた。 大株主でもあり、実質的に1人で経営全般を取り仕切っていた代表取締役の地位を利用して、簿外資金を利得したとする判断は、簿外資金の使途そのものよりも、そもそも簿外とすることが法律違反行為であり、取締役会における決議や金銭消費貸借契約などが存在しない以上、その地位を濫用した会社資産の私的流用=給与に該当する結論を導き出したものである。 本事件の特徴をいくつかまとめておきたい。 1 原告及び代表取締役Aには法人税法違反での有罪が確定していたこと 前述のとおり、本事件は、大阪国税局査察部が、いわゆる反面調査として原告の調査を行った後、原告に対する国税犯則取締法に基づく犯則調査として、再度調査を行い、原告及び代表取締役Aは法人税法違反の容疑で起訴された後、有罪判決を受けていた。刑事事件においては、架空の請求書を発行していた業者の代表者なども法人税法違反や脱税のほう助の容疑で逮捕されており、悪質性が高いといえよう。 本件は、法人税法違反で、所得隠しとされた発注先への架空仕入高や架空販売促進費の計上という事実のもと、架空取引により還流された資金が簿外化され、代表取締役Aによって管理されていた簿外資金が給与等に該当すると認定されたものである。原告が裁判を通じて主張した、簿外資金の使途が取引先への貸付が中心であり、個人的の費消はなかったという事実はまったく斟酌されることなく、裁判所も給与等の該当性を認めている。 2 会社が簿外資金を貸し付けることは可能か 本件で、代表取締役Aが、還流された資金を簿外としたのは、原告の帳簿に記載すると、架空発注が露見し、所得隠しが簡単に発覚することを恐れ、または、還流された資金が新たな収入として課税されることを避けるためであろうかと推測できる。 そもそも原告の帳簿に乗せることができない資金であり、その簿外資金を原資にした金銭消費貸借契約の締結は不可能であろう。その点、裁判所が、その判事の中で、以下のように述べているところは、少し違和感を持たざるを得ない。 (了)