海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第2回】 「観察眼を持ち、一歩前に出よ」 中小企業診断士 西田 純 1 問題の根幹は常に「人」 突然ですが、海外に限らず、ビジネスの最前線で情報収集にあたる役割を担ったとして、あなたが最も重要視する情報ソースは次のどれですか? ① インターネット ② 新聞 ③ 口コミ 段階によっても違うのですが、見知らぬ土地で会社の損益に関わるオペレーションをするという地に足の着いたビジネスをするうえでは、当然ですが③の占める比重が大きくなります。 特に海外駐在員にとっては、ビジネスパートナーとの打ち合わせ、見込み客へのプレゼン、役所への相談など、そのすべてが「人」を相手にしたやりとり、すなわち「口コミ」に分類される活動です。 英語など、言葉の問題はあるかもしれません。また国民性の違いもあって、国によっては前言を簡単に翻したり、明快に否定すべきところをそうしなかったり、大前提となる事実を隠したりする場合さえあったりします。 そのような落とし穴に簡単に引っかかってしまう人がいるかと思うと、観察眼鋭く危険因子を見抜く人もいて、資質の違いが及ぼす影響は計り知れません。 海外でのオペレーションを現場から離れた本社で担当していて、最もコントロールしにくいのが「現地における地元関係者とのコミュニケーション」ですが、それは上で述べた通り、その大半が駐在員の「口コミ」によるものだからです。 本社としては駐在員の報告を信じるしかありませんし、肝心の駐在員も本人が気づいていないことは報告できないので、口コミを通じて確認できるチャンスのあった情報をみすみす見逃し、後からトラブルが発生することもよくあります。 2 みておくべき点 ① 早とちりの多い「あわてもの」は要注意 いわゆる「せっかち」な性格が典型的に表れるのが「会話」です。相手が話し終わるのを待てない、やたら早口で話す、相槌が速い、話している時に何かと気ぜわしい等の特徴を持った人が、あなたの周りにもいませんか? こういうタイプは、得てして相手の言うことのうち、明らかに重要なポイントだけを押さえてあとは捨象する、という対応を取りがちです。 そうしないと、人より回転の速い頭の中の情報処理に、耳から入ってくる情報が間に合わない、ということではないかと思いますが、これは性格に起因するものなので、かなりしっかりした対策を講じない限り、大きなリスクを抱えて赴任することになりかねません。 ② ゆっくりとした会話のリズムはハンデにならない 流ちょうな英語で会話する人には、相手も聞きやすく自分も話しやすいリズムがあります。特に英語を使う国では、会話を相手に合わせようとすると、どうしてもそのリズムは速くなりがちです。 そうすると、聞き取ることや自分の発言を考えることで精いっぱいになってしまい、プラスアルファを考えたり、見極めたりする余裕は失われてしまいます。 逆に、周囲をやきもきさせるくらい発言の遅い人がいたりします。会議などでは発言のチャンスを的確に確保できないこともあり、見ている方を不安にさせることもありますが、一対一の交渉では必ずしも不利になるばかりとは限りません。 むしろこちらのリズムに相手を引き込み、言うべきことを言い、見るべきものを見るためには必要な資質だと言えます。 ③ 細かい観察眼は、自らが気をつける部分に現れる ざっくり言って、人のうわさ話が好きな人は、観察眼も細かい場合が多いようです。そういう人は、男女にかかわらず身なりもこざっぱりとしている場合が多いので、気をつけて見ているとよくわかります。 逆に、自分の着るものやヘアスタイルにあまり気を使わない人は、細かい観察眼を持っているとは言い難いように思います(ドラマの探偵や刑事には、あえてこのような役を演じ犯人を油断させるというパターンもありますが、日々の仕事は刑事ドラマではないので、どんでん返しが無くても大丈夫です)。 3 人材選抜上のポイント ① 細かい観察眼を持つ人は女性に多い? 上でも触れましたが、「人のうわさ話」は観察眼の鋭さを見る一つの手がかりです。でもそれだけに注目していると、候補者は女性ばかりになってしまうかもしれません。一般的に女性は男性に比べて対人観察眼が優れている場合が多いようです。 御社では、派遣候補者が女性となることに不都合はありますか? むしろ女性の特性を生かすために、海外派遣は良い機会となるかもしれません。 ② 一歩引く人、ではなく一歩出る人を 観察眼が鋭くても、話をしていて一歩引いてしまう人は要注意です。なぜなら対人コミュニケーションは、常に双方向でなくてはならないからです。 ゆっくり会話をするだけなら良いのですが、終わってみれば当方は一言も発言しなかった、ではビジネスが成り立ちません。 それでは本末転倒なので、むしろ一歩出る人が望ましいと言えます。 4 人材育成上のポイント ① 「あわてもの」を落ち着かせるには 性格的な欠点を改善できれば素晴らしいのですが、ここでは訓練によって観察眼を養うことができれば良しとすべきでしょう。 報告書における5W1Hから始まり、どうしてそう思ったのか、さらにそれはなぜなのかなど、洞察力を要求するような報告を繰り返し求めることを通じて、本人の「期待に応えたい」というモチベーションを高めてやることがポイントになります。 ② 「一歩引く人」を前に出させるには 会議や報告などで発言者の役割を当て、予行演習などの機会を通じて準備をさせるプロセスが重要になります。その際まず、事業概要の説明など、定型的に行える要素について、アドリブではなく、「金型」のように決まりきったセリフをしっかりと言えるようになるところから始めてください。 次に、報告など非定型の発言についても、文章の構成や冒頭の挨拶、語尾など比較的定型化しやすい部分を取り出して定型化し、パーツのセットとして身につけることで、非定型部分に集中しやすくなります。 これと並行して、積極的な発言など「一歩前に出る」ことを顕彰するインセンティブを通じたモチベーションの維持向上を図ることが効果的です。 会社が目指す人材育成の方向性について、この「一歩前に出る」ことを重要視していることを明示するのもよいでしょう。 「あわてもの」は、もしかしたら完治は難しいかもしれませんが、「一歩引く人」は教育訓練を通じて、かなりの積極性を身につけさせることができるはずです。 5 終わりに 観察眼が重要視されるのは、何も海外赴任に限ったことではありません。 むしろ国内の定型業務で、日ごろ見逃されている小さな改善点に気づくことでその力が発揮される場面が多いのかもしれません。 本社のコントロールが届きにくい海外では、より一層重要な力になると御認識ください。 (了)
《速報解説》 金融庁、多様な株式報酬の活用に向け 有価証券取引府令・企業開示府令の改正案を公表 ~特定譲渡制限付株式、パフォーマンスシェア等の割当時の開示手続を軽減~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年5月17日、金融庁は、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」及び「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 政府によってコーポレートガバナンスの強化に関する施策の一環として、経営陣に中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを付与することができるよう株式による報酬、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とするための仕組みの整備等を図る取組みが進められている。 その取組みの一環として、①特定譲渡制限付株式、②パフォーマンスシェア、③株式報酬(所定の時期に確定した数の株式を報酬として付与するもの)等による株式の割り当てを行う場合に、(a)売買報告書の提出制度及び短期売買利益の返還請求制度の適用除外とする改正と(b)有価証券届出書における「第三者割当の場合の特記事項」の記載を不要とする改正を提案するものである。 意見募集期間は平成29年6月16日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の改正案 上場会社等の役員等による特定有価証券等の売買等の報告の提出(金融商品取引法163条)について、報告書の提出を要しない場合(金融商品取引法163条1項ただし書)に関する「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」30条1項13号として、次の規定を新設する。 Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案 「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条(臨時報告書の記載内容等)について、同府令19条2項1号ヲ(3)を次のように改正する。 Ⅳ 適用時期等 改正後の規定は、平成29年6月下旬以降に公布・施行する予定である。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告 ~非財務情報に焦点を当てた検討~」を公表 ~長期志向の機関投資家のニーズを満たす開示情報とポイントを整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年5月15日、日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」(経営研究調査会研究報告第59号)を公表した。 これは、長期志向の機関投資家を念頭に、投資意思決定及び対話のための情報ニーズや、投資家による企業価値評価と投資家対話に有効な情報開示(非財務情報を含む)の在り方について検討し、取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 目次を含め、51ページに及ぶものである。 主な項目は次のとおりである。 1 企業報告をめぐる近年の動向と課題 投資家と企業対話を通じて相互理解を深める際に、企業報告は重要な役割を担うとし、非財務情報を効果的に用いて中長期的な企業価値を伝達する企業報告の実務に関する課題についても述べている。 2 投資家行動と情報ニーズ 研究報告は、機関投資家としては、ファンダメンタルズ(財務状況や企業業績等の株式の本源的価値を決定付ける基礎的要因)を重視して投資行動を行うものを想定している(15ページ)。 投資家はファンダメンタルズを重視し、企業の将来性を評価して投資を行うという本来の姿に回帰することが必要であり、それによってその責務をより良く果たすことができるとしている(14ページ)。 研究報告は、機関投資家の情報ニーズ及び当該ニーズを満たす開示の特徴を次のように整理している。 3 長期的視点に立った投資家行動における有用性を高める企業報告 長期的視点に立った投資家行動における有用性を高める企業報告に関するポイントとして、次のことをあげている。 4 効果的な企業報告を実現できる環境整備 効果的な企業報告を実現できる環境整備に関する課題と取組について、次のことを述べている。 (了)
《速報解説》 「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」等の公開草案が公表 ~有償ストック・オプションに関する会計処理の取扱いを明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年5月10日、企業会計基準委員会は、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第52号。以下「公開草案」という)及び「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(案)」(企業会計基準適用指針第17号の改正案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、いわゆる有償ストック・オプションに関する会計処理の取扱いを明確化するものである。 公開草案どおりに実務対応報告が確定した場合には、有償ストック・オプションの付与について費用処理が行われることになるので、従来の実務に大きな影響を及ぼすものと思われる。 公開草案の脚注3では、本実務対応報告は、当該取引に関する法律的な解釈を示すことを目的とするものではなく、当該取引が、法的に有効であることを前提としていると記載されている。 第344回企業会計基準委員会(2016年9月9日)の「第90回実務対応専門委員会で聞かれた意見」として、日本監査役協会が公表している監査役監査実施要領における次の記載が紹介されており、会社法における報酬との整合性について検討すべきとの意見が出されていた。 (出所) 公益社団法人 日本監査役協会 監査法規委員会「監査役監査実施要領」(平成28年5月20日)の「Ⅳ-1 ストック・オプションの種類」57ページ 意見募集期間は平成29年7月10日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 公開草案の対象となる権利確定条件付き有償新株予約権を、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号)2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとする(公開草案4項)。 1 範囲 公開草案は、おおむね次の内容で発行される権利確定条件付き有償新株予約権を対象としている(公開草案2項)。 2 会計処理 主な会計処理は次のとおりである(公開草案5~8項)。 (1) 権利確定日以前の会計処理 (2) 権利確定日後の会計処理 (3) 権利確定日 権利確定日は、次のとおりとする(公開草案7項)。 3 開示 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する注記は、ストック・オプション会計基準16項及びストック・オプション適用指針24項から35項に従って行う(公開草案9項)。 Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告の適用にあたっては、本実務対応報告の公表日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引に係る会計処理を遡及的に適用することが、企業間の比較可能性の向上に資すると考えられるため、遡及適用を原則としたとのことである(公開草案10項(1)、31項)。 Ⅳ 「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(案)」 「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(案)」では、当該適用範囲(2項)について、「本適用指針は、これに関連する新株予約権及び自己新株予約権の会計処理についても取り扱っている。ただし、新株予約権については、現金のみを対価として受け取り、付与されるものに限る。」と改正することを提案しており、「現金を対価として受け取り」の記載から「現金のみを対価として受け取り」と記載している。 (了)
《速報解説》 取引相場のない株式等の評価見直し含む 改正財産評価基本通達、パブコメを経て正式公表 ~経過措置なく原案通り、H29.1.1以後取得の財産評価より適用 Profession Journal編集部 平成29年度税制改正では大綱に類似業種比準方式の評価方法の見直し等が明記され、既報の通り3月1日付けで財産評価基本通達の一部改正案がパブリックコメントに付されていたが(意見募集は3月30日まで)、5月15日付けでこの改正通達及び改正を受けた評価明細書様式等が正式に公表された。 改正内容は原案通りで、平成29年1月1日以後に相続等により取得した財産の評価から適用される。 〇近年の経済状況に基づいた評価方法の見直し 今回の改正通達では取引相場のない株式等の評価のうち類似業種比準方式における3つの比準要素(配当金額、利益金額、簿価純資産価額)の比重割合を1:3:1から1:1:1としたほか、類似業種の株価について課税時期の属する月以前2年間の平均株価を選択可能とし、類似業種の比準要素の数値に連結決算を反映させることとするなど、近年の経済(株価)状況に基づいた見直しが行われている。 また会社規模の判定基準のうち大会社及び中会社の総資産価額、従業員数、直前期末以前1年間の取引金額についても、近年の上場会社の実態に合わせて見直されている。 その他、森林の主要樹種の立木の評価について適正化を図る見直しが行われた。 なお、改正通達公表に合わせて株式等の評価明細書の様式及び記載方法も変更され、改正内容と趣旨を説明した「「財産評価基本通達の一部改正について」通達等のあらましについて(情報)」も公表されている。 〇経過措置は設けられず 今回の改正内容は大綱及び改正案において「平成29年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用する」ことが示されており遡及適用となるためケースによっては不利益を被る納税者も出ることから、経過措置が設けられるのか注目されていたが、経過措置は設けられず上記原案通りの適用となった。 この点に関し、改正案のパブリックコメントページに掲載された「意見募集結果」では、 といった意見が寄せられていたが、これらの意見に対し との国税庁の考え方が示されている。 (了)
《速報解説》 役員報酬に係る平成29年度税制改正に対応した 『インセンティブプラン導入の手引』が経産省から公表 ~昨年のRS導入手引よりQ&Aを大幅追加 Profession Journal編集部 日本再興戦略やコーポレートガバナンス・コードなど政府の方針として国際標準化が求められている役員報酬の多様化については、昨年度の譲渡制限付株式報酬の損金算入要件の明確化に続き、今年度においては次のように、より大幅な制度の見直しが行われ、多様な役員報酬の設計に対する税制上の取扱いが整備されたところだ。 上記の改正に伴い、昨年公表された『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』(以下、RS導入手引)の今年度改正版ともいえる『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』(以下、手引)が、このほど経済産業省ホームページにて公表された。 手引の前半部分(Ⅰ 「攻めの経営」を促す役員報酬の概要)は本改正に至る経緯や概要などがまとめられており、後半部分(Ⅱ 株式報酬、業績連動報酬に関するQ&A~平成28年度・平成29年度税制改正を踏まえて~)は次のとおり、全72問のQ&Aで構成されている(Q17~47(Q36除く)はRS導入手引掲載のQ&Aをアップデートしたもの)。 本改正については大綱における記載から改正法令に至るまで、改正の全体像が見えづらいものであったが、例えばQ2では株式交付信託のうち在任時交付型と退任時交付型で適用時期に差異がある点が示されており、またQ59・Q60では業績連動給与(改正前:利益連動給与)の算定指標の範囲として加えられた「株式の市場価格の状況を示す指標」「売上高の状況を示す指標」がそれぞれ具体例と共に説明されるなど、報酬の種類とその留意点が整理されており損金算入の可否も明記されていることから、有用な資料としてぜひ目を通しておきたい。 なお、今後内容が更新される可能性もあるため、実務で使用する際には改めてホームページで取扱いを確認する必要があろう。 【参考図】 (※) 手引Q1より (了)
《速報解説》 特定資産の買換え特例、買換資産が土地等の場合に係る 改正通達パブコメが公表 ~プロジェクト大規模化に伴い建物等の建設期間が3年超となるケースに対応~ 税理士 内山 隆一 平成29年4月25日、「租税特別措置法関係通達(法人税編)の制定について」(法令解釈通達)ほか3件の一部改正(案)(特定の資産の買換え特例の場合の課税の特例の適用について)に対する意見公募が行われた(意見募集締切日は同年5月24日)。 この通達改正の背景、及び改正案の要旨は次のとおりである。 1 現行制度の内容 租税特別措置法第65条の7(特定の資産の買換えの場合の課税の特例)(以下「本特例」という)は、同法に定める所定の譲渡資産を譲渡して、一定期間内に同法に定める買換資産を取得して、その買換資産を原則としてその取得日から1年以内に事業供用することを要件としている。 この場合、買換資産が土地等であり、その上に建物等を建設等する場合には、その建物等の事業供用日にその土地等についても事業供用したものすることとされている(措置法通達65の7(2)-2(1)イ)。 また、実際問題としては建物等の建設工事が長期間にわたることもあるため、そのような場合には、その建設等の着手日から3年以内に完成して事業供用することか確実であると認められる場合には、その建設等の着手日にその土地等を事業供用したものとすることとされている(措置法通達65の7(2)-2(1)イ括弧書)。 2 改正の背景及び改正案の要旨 近年においては、プロジェクト規模の非常に大きい開発も多く、建設等の着手日から完成までの期間が3年を超えるようなものも増えてきたこと、また、都市再開発法に基づく第1種市街地開発事業では、建物の建設等に係る事業の遂行が困難となるおそれがある場合には、都道府県知事が職権で事業を代行することを決定できる旨の規定がおかれていることから、仮に建設期間が3年を超えるようなものであっても確実に建設事業を継続できるようになっておりその建設等が確実に完了できると見込めることから、その建設期間が3年を超えたものについて本特例の適用を認めても課税上弊害はなく、より実情に即していると考えられる。 今回の改正では、建物等の建設は一般的には5年以内に完了することが多く、また、国税の更正の期間的制限を考慮すると建物等の建設期間については5年を限度にする必要があると考えられることから、建物等の建設期間が3年超5年以内で、その建物等の建設等に係る事業の継続が困難となるおそれがある場合には、国又は地方公共団体がその事業を代行することによりその事業の継続が確実であるものに限り、その建設等の着手日にその土地等を事業供用したものとし、本特例の適用を認めることとしている。 なお、この改正と併せて、買換資産を事業の用に供しない場合の取戻し課税(措置法通達65の7(3)-10)についても改正される。 また本特例に係る法人税申告書別表13(5)の様式改正案も公表されている。 3 適用開始時期 この通達改正の取扱いは、平成29年3月31日以後に終了する事業年度分の法人税について適用される予定となっている。 (了)
2017年5月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.217を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.52- 「法人税率引下げ競争はわが国に波及するのか?」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 トランプ政権が4月26日、法人税率(連邦税)を35%から15%に引き下げることなどを内容とした減税案を公表した。引下げに伴う財源などは不明で、今後財政赤字の拡大を懸念する共和党(とりわけ右派)からの突っ込んだ議論が予想され、その前途は多難である。 一方わが国の新聞論調を見ると、「先進国で法人税率の引き下げ競争が始まる」というものが多い(例えば日経新聞4月28日朝刊)。 たしかに、BREXIT(EU離脱)に向け好調な英国メイ首相も4月21日、英国財界幹部らに、「法人税率を主要20ヶ国・地域(G20)の中で最も低い水準に引き下げたい」との意向を示している。 英国が現行の20%から法人税率をさらに引き下げれば、EU諸国からの企業誘致につながる可能性がある。前政権のオズボーン財務相は、EU離脱を前に、企業の英国への投資を維持するために法人税の15%への引下げを提案したことがあった。 では、このような法人税率引下げ競争は、米国、英国に始まり、わが国にも波及するのだろうか。 筆者の見方は、「EUではドイツ・フランスに波及する可能性はなきにしもあらずだが、わが国への波及の可能性はそれほど高くはない」というものである。 その理由は以下のとおりである。 * * * 第1に、財源の問題である。アベノミクスの下でここ数年、「課税ベースを拡大して法人税率を引き下げる」歳入中立型の改革が継続的に行われてきた結果、わが国の法人税率は、20%台(16年度、29.74%)となった。国税の法人税率は23.4%(2018.4.1以後開始事業年度からは23.2%)である。 つまり税率引下げ財源として、課税ベースが拡大されてきた。 とりわけ、資本金1億円超の企業に適用される地方法人課税である外形標準課税の外形割合(付加価値割)は、04年度導入時の4分の1から16年度の8分の5へと拡大された。この結果、労働集約的な企業、あるいはROEの比較的低い企業の中には、一連の法人税改革の結果、負担が増加する企業が出ている。 外形標準課税のように所得を課税標準としない税制は、企業の所得拡大インセンティブを阻害するので、他の先進諸国でも縮小傾向にある。わが国だけが拡大することは、グローバル経済の中でわが国法人税制のガラパゴス化(国際標準からのかい離)を進めることとなった。 そこで経済団体は、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」法人税改革を、平成29年度税制改正要望から落としたというのが現状である。 つまり、これ以上税率を引き下げることになると、外形割合のさらなる拡充が行われることになり、ますますガラパゴス化が進み、企業のインセンティブに悪影響を及ぼすことになるので、税率引下げを要望しない、というのが経済界の現状である。 第2に、消費税増税との関係である。消費増税を国民にお願いしているときに、法人税減税は税収中立でしか行えない、これが財務省だけでなく安倍政権の立場でもある。 * * * 一方で、税率引下げにこだわらないという考え方はプラスも生み出した。 平成29年度改正に税率引下げ要望がなかったことは、税務当局に法人税本法を見直す時間的余裕を与えることになり、スピンオフ税制の導入や研究開発税制のAIへの活用拡大が実現したのである。 経済活性化という観点からは、税率引下げより、組織再編税制などの充実の方がはるかに意義がある。わが国経済界も本音ではそう考えているのではなかろうか。 * * * このように、米国のトランプ税制改革で法人税率が大幅に引き下げられたとしても、わが国が安易に税率引下げ競争に乗る可能性は少ないと思われる。 重要なことは、BEPSの議長国として立派な報告書を取りまとめたわが国が、1998年のOECD合意「有害な税の競争」のプロジェクトのリニューアルを提言・主導することではないか。 (了)
平成29年度税制改正における 『組織再編税制』改正事項の確認 【第4回】 公認会計士 佐藤 信祐 4 支配関係継続要件の見直し 平成29年度税制改正では、支配関係継続要件が見直されている。すなわち、税制適格要件には、①100%グループ内の組織再編、②50%超100%未満グループ内の組織再編、③共同事業を行うための組織再編についてそれぞれ規定されている。 このうち、①②は、合併、分割、現物出資、株式交換等及び株式移転のいずれにおいても、組織再編の直前に完全支配関係(100%の資本関係)又は支配関係(50%超の資本関係)があり、組織再編後に当該完全支配関係又は支配関係が継続することが見込まれているかどうかにより判定を行う(法令4の3)。 したがって、改正前法人税法では、分割型分割を行った後に、支配株主が分割法人株式を譲渡することが見込まれている場合には、100%グループ内の分割型分割、50%超100%未満グループ内の分割型分割を満たすことができなかった。この継続見込みについて、本稿では、「支配関係継続要件」と表記することとする。 平成29年度与党税制改正大綱では、「企業グループ内の分割型分割に係る適格要件のうち関係継続要件について、支配法人と分割承継法人との間の関係(現行:支配法人と分割法人及び分割承継法人との間の関係)が継続することが見込まれていることとする。」と記載されていた。そして、実際の法人税法施行令を見てみると、支配株主が法人である場合だけでなく、個人である場合についても、本改正の適用対象になることが明らかにされている(法令4の3⑥二イ・ハ(1)・⑦二、4の2)。 そのため、分割型分割を行った後に、支配株主が分割法人株式を譲渡したとしても、支配関係継続要件を満たすことができると考えられる。 このような改正は、分割型分割を行った場合のみに適用されるため、他の組織再編成には影響を与えない。 なお、【第1回】で解説したように、スピンオフ税制の導入により、「単独新設分社型分割の後にその交付を受けた分割承継法人株式を分配する上記②ロの現物分配を行うことが見込まれている場合には、その単独新設分社型分割に係る適格要件のうち関係継続要件について、その現物分配の直前の時までの関係により判定することとする。(平成29年度与党税制改正大綱70頁より抜粋)」とされたため、改正法人税法施行令が公表される前は、分社型分割を行った場合の支配関係継続要件をどのように解するべきかに興味を持っていた。 この点については、分社型分割+支配株主に対する株式譲渡であれば、平成29年度税制改正の影響を受けないため、分割法人株式の譲渡が見込まれている場合には、非適格分社型分割として取り扱われることになる。 【分社型分割後の株式譲渡】 次に、株式譲渡ではなく、現物分配により株主に分配した場合であるが、分割の日に現物分配が行われるものは、分割型分割として処理されるため(法法2十二の九)、ここでは、分割後、一定期間を経過してから現物分配を行う事案を想定する。 この点につき、法人税法施行令4条の3第6項1号ハでは、「法第2条第12号の15の2に規定する完全子法人とする適格株式分配を行うことが見込まれている場合」と規定されていることから、現物分配が適格株式分配に該当するのであれば、分社型分割も適格分社型分割に該当することになる。しかし、適格株式分配に該当するためには、【第1回】で解説したように、支配株主が存在しないことが要件の1つとされている。したがって、ほとんどのケースでは、分社型分割+現物分配を行ったとしても、非適格分社型分割として処理されることになろう。 ただし、分社型分割+現物分配を行ってしまうと、実質的に分割型分割であるとして、法人税法132条の2に規定されている包括的租税回避防止規定が適用される事案もあり得るため、分社型分割+株式譲渡の手法を採用した方が法的安定性は高いと思われる。 このように、会社分割後に、分割法人株式を譲渡する事案では、適格分割型分割として処理する手法と、非適格分社型分割として処理する手法の2つを選ぶことができるため、M&Aストラクチャーの選択肢が増えたということが言える。 5 株式継続保有要件の見直し 共同事業を営むための株式継続保有要件についても大幅に見直され、まず、「その株主等の数が50人以上である場合」を「他の者との間に当該他の者による支配関係がない場合」と改められた。すなわち、他の者による支配関係がない場合には、株式継続保有要件を満たす必要がないということが言える。 そして、株式継続保有要件の具体的な内容として、「合併により交付される合併法人株式(議決権のないものを除く。)のうち支配株主(支配株主の子会社を含む。以下同じ。)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていること」とされた。すなわち、支配株主に対してのみ株式継続保有要件が課され、それ以外の株主に対しては株式継続保有要件が課されないこととされた。 ただし、2点のみ疑問に思うことがある。 1つは、「直接又は間接に継続して保有されること」と規定せず、「継続して保有されること」と規定した点である。しかし、条文上は、「支配株主により継続して保有されること」としており、「支配株主」の文言には、親族や子会社を含まれていることから、親族や子会社に対する譲渡を行ったとしても、株式継続保有要件に抵触しないと解する余地もある。 もう1つは、議決権のないものについては、株式継続保有要件を課さなかったという点である。合併により交付する合併法人株式のすべてが議決権のない株式であれば、そもそも1株も継続保有していないことから、株式継続保有要件を満たすことができないと解するべきであろう。これに対し、議決権のある株式30株、議決権のない株式70株が交付される場合には、議決権のある株式30株のみを継続して保有することが見込まれていれば良いことになる。 このような、一部の株式を譲渡したとしても、株式継続保有要件に抵触しないようにするために、議決権のない株式を交付する行為について、包括的租税回避防止規定が適用される余地があるかどうかは、事案に応じて、慎重に検討する必要があろう。 (次号(5/18)に続く)