《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成28年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成29年3月23日、「平成28年7月から9月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは表のとおり、全12件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された事例が6件、棄却又は却下された事例が6件となっている。税法・税目としては、所得税法5件、国税通則法及び相続税法が各2件、法人税法、登録免許税及び消費税法が各1件であった。 【表:公表裁決事例平成28年7月~9月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された12件の裁決事例のうち、重加算税の賦課決定処分と更正期間に関する不服審判所の考え方が示された上記②の裁決事例をはじめ、いずれも棄却事例であるが、所得税と消費税に関する事例をそれぞれ1件、紹介したい。いつものお断りであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 重加算税(隠蔽、仮装の認定)・・・② 本件は、国税不服審判所が、重加算税の要件である「仮装、隠蔽」は認めなかったものの、更正期間を7年とする「偽りその他不正の行為」を認定した事例である。 (1) 争点 (2) 審判所の判断 ① 重加算税の賦課決定処分(国税通則法68条) 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、審判所は、以下の理由から、請求人が本件事業に係る帳簿を作成していなかったことをもって、過少申告等の意図を外部からもうかがい得る特段の行動とまでは評価することができないと結論づけた。 ② 更正期間を7年とすることの是非(国税通則法70条) 一方、国税通則法70条に規定する「偽りその他不正の行為」について、審判所は以下のように定義する。 そのうえで、請求人については、以下のとおり、「偽りその他不正の行為」に該当すると判断した。 2 雑所得(収入すべき時期)・・・⑤ 本件は、外貨建借入金の為替差益の計上時期をめぐって、国税不服審判所が、審査請求人の主張を認めなかった事例である。 (1) 争点 借換えの時点において、既存の外貨建借入金の借入時の円換算額と新規の外貨建借入金により取得した外貨による返済額の円換算額との差額である為替差益を所得として認識すべきか否か。 (2) 審判所の判断 審判所はまず収入金額の計上時期について、最高裁昭和49年3月8日判決を引用して、次のように述べた。 そのうえで、外貨建取引を行った場合の円換算について規定する所得税法第57条の3第1項の規定についても、「所得の実現があったことを前提として、当該所得の金額の計算方法について規定したものであり、未実現の利得について同項の規定による換算を行うことにはならないと解される」として、あくまでも実現した為替差損益を課税の対象とすることを示し、具体的に、為替差損益の認識基準を次のように述べた。 そして、請求人の借換えについては、「同一支店から、同一の通貨、同一の金額で行われたものであり、借入れ及び返済の前後における借入金の内容に実質的な変化が生じたとは認められない」ことから、「計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎず、課税の対象となる収入として認識しないこととなる」と結論づけて、請求人の主張を退けた。 3 非課税取引(住宅の貸付け)・・・⑫ 本件は、再転貸借契約に係る建物の貸付けが消費税法に規定する非課税取引に該当するかどうか、国税不服審判所が判断を示した事例である。 (1) 争点 請求人の行った賃貸借取引(転貸借取引)は、非課税取引である「住宅の貸付け」に該当するか否か。 (2) 消費税法基本通達6-13-7 住宅用建物を転貸する場合の取扱いを定めた消費税法基本通達6-13-7(以下「本件通達」と略称する)の規定は、次のとおりである(下線は引用者による)。 (3) 審査請求人の主張 審査請求人の主張の概要は以下のとおりである。 (4) 審判所の判断 審判所は、住宅の貸付けが消費税法上非課税取引とされている趣旨を「住宅の貸付けを行う事業者が賃借人に対し、消費税相当額を転嫁しないことにより、住宅賃借人を政策的に保護することにある」と述べたうえで、本件通達の取扱いを相当であると認めた。 そして、請求人と賃借人との契約条件を検討したうえで、本件賃貸借契約は、賃借人が本物件を住宅(人の居住の用に供する家屋等)として転貸することが契約書その他において明らかであるから、本件賃貸借取引は、消費税法別表第一第13号に規定する「住宅の貸付け」に該当し、その全額が非課税取引となると結論づけた。 また、審判所は、請求人の主張について、以下のように斥ける見解を示している。 (了)
《速報解説》 東証、「資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~」を公表 ~「自社株買いの合理性」等、6つの検討ポイントで 「想定される質問の例」と投資家の考え方を説明~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月17日、株式会社東京証券取引所は、「資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~」(以下「本報告書」という)を公表した。 これは、上場会社と株主・投資家の相互理解を深め、持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための建設的な対話を促進することを目的とするものであり、リキャップCBと呼ばれるエクイティ・ファイナンスを例にして、中長期的な視点で投資する投資家の目から見た疑問点等を明らかにすることで、投資家の資本政策に関する考え方を解説するものとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 リキャップCB リキャップCBとは、転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行で資金を調達すると同時に自社株買いを行うことで、負債を増やしつつ資本を減らし、資本再構成(リキャピタライゼーション)を行う資本政策である(2頁)。 リキャップCBを発行すると、資本が減少してROE(自己資本利益率)の分母が小さくなるので、計算上、ROEの値が大きくなる効果がある。 2 対話のポイント 国内外の機関投資家等からは、上場会社が資本生産性の改善に取り組むことは評価できるものの、リキャップCBは必ずしも企業価値の向上に寄与せず、既存株主の立場からは歓迎できないという批判的な意見もあるとのことである。 このように、上場会社と投資家との間の資本政策を巡る意見の相違に関して、建設的な対話を促進するために、リキャップCBを題材として、本報告書では、重要な6つのポイントとして、以下の事項を挙げて説明している。 (了)
2017年3月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.211を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第33回】 「パーティー費用と祝金・会費」 税理士 山本 守之 1 パーティー費用とお祝金 裁決例、判決例では祝金控除は否定されていますが、一部の識者の間では祝金を控除すべきであるという主張もあります。 例えば、日税研論集第11号(武田昌輔氏稿)では、「創立何十周年等の祝賀パーティーの費用が交際費等に該当することはいうまでもないが、これに伴い収受した祝金を控除するかどうかである。私見としてはこれを支出交際費等から控除することが妥当であると考えるのである。」として次のような理由を挙げています。 ただ、現実の税務執行では、祝金の支出とパーティーの開催は並列的に行われた2つの交際行為であり、祝金は記念行事の費用の一部に当てられることが予定されていたものではないので、祝金を控除すべきではないと考えられており、裁決例、判決例でもこの考え方は支持されています。 2 技報堂事件 技報堂事件における判決は次のようなものです。 この判決で祝金控除を否定している論拠は次のようなものです。 ① (パーティーという)行事は主催者と祝金を持参した招待客と共同で行われたものではない。 ② パーティーを機会として祝金の支出とパーティーの開催という2つの交際行為があったのだから両者の間に二重課税は存在しない。 ③ 祝金の収受が主催者にとって収益であることを否定する根拠はない。 筆者としては、判決は現行法の解釈としては当然のことを述べていると考えます。 3 嶋根鋼商事件 2と同様に、パーティー費用から祝金を控除できるか否かについて争われた別の事件があります。この事件で裁判所では次のように判示しています。 この事件で裁判所が祝金控除を否定する論拠としたのは次のようなものです。 ① 祝金はパーティー費用の一部に充てられることが予定されていたものではない。 ② 招待客から収受する祝金の有無及びその多寡にかかわらず、パーティー主催者はパーティー費用の全額支出を免れなかったはずである。 ③ 二重課税が生ずるとしても、それは立法政策の問題であり、法解釈上は格別の意義を持つものではない。 二重課税論に対して、国税不服審判所と東京地裁では、パーティーの開催と祝金の支出という2つの交際があったとする考え方であり、浦和地裁は立法方策の問題であるとしているところに興味があります。 この事件は、控訴審(平成3年4月24日東京高裁)でも上告審(平成3年10月11日(※)最高裁第二小法廷)でも祝金控除が否定されています。控訴審では課税の目的、税金と会費の差異等が争われていますが、控訴人と判示とを対比してみると次のようになります。 《課税の目的》 【控訴人主張】 記念行事に要した支出交際費の額から招待者からの祝金を控除した金額をもって交際費等の額としたとしても、招待者側の祝金の支出に課税すれば、措置法62条(現行61条の4)の目的(資本蓄積)を達成できる。 【判 示】 交際費等の損金不算入制度の趣旨・目的は単に資本蓄積の促進に止まらず交際費等の支出自体の抑制にある。 《祝金と会費の差異》 【控訴人主張】 本件記念行事における招待者からの祝金は、慣行上持参することが、義務づけられており、その実質は会費、協賛金と異ならず、両者が費用を分担する関係にあるから、支出交際費の額から控除すべきである。 【判 示】 同祝金は費用分担の同意に基づく会費、協賛金とはその性質を異にし、主催者はその金額の多寡にかかわらず、記念行事の全額の支払いを免れないから、その祝金相当部分のみについて交際費性に欠けるということはできない。 控訴人の主張を検討してみると、交際費課税の目的を制度創設時(昭和29年)の資本蓄積策という古い考え方を基礎にしており、交際費の支出を抑制するという現代的感覚が不足しているように思われます。 また、祝金と会費との差異についても、祝金の持参は慣行となっているものの、会費のようにパーティー費用に充てられることが予定されているものとは異なるという視点が欠落しているようです。 4 会費制の場合 会費制でパーティーを行った場合は、祝金とは事情を異にし、幹事会社が支出した交際費等から受け入れた会費は控除できます。これは、パーティー費用を参加者が負担したということです。その負担額が交際費等となるのです。 これらについては、次のような裁決例があります。 つまり、会費制の場合は、その支出自体が義務的なものであり、費用負担の性格を持っているのですから、幹事となる法人は、参加者から集めた会費と幹事法人が負担した会費を明確に区分でき、パーティー費用を会費等として負担し合ったという実態がありますので、それぞれの実負担額を交際費等とする意味で、幹事法人はホテル等に支払ったパーティー費用から参加者から受け入れた会費を控除して交際費等の計算をしてよいのです。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第3回】 「海外赴任と国外転出時課税」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(日本国籍)甲は、同族会社乙社の専務取締役をして日本で長年仕事をしています。平成29年5月10日よりA国の100%子会社に社長として3年間(平成32年5月10日帰国予定)赴任します。役員報酬は乙社から支払われることから、所得税等が源泉分離課税されるということは承知しています(【第2回】参照)。 父(社長)は財産をたくさん持っているようですが、私個人の財産は、ローンで買った自宅(赴任後も家族が居住)と自社株と金融機関から頼まれて保有している投資信託です。 税務上、気をつけておくべくことがありますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷国外転出時課税とは 平成27年度の税制改正で国外転出課税制度が導入された。これは、居住者が海外に移住して非居住者になった後に有価証券を売却した時に、所得税が国内法で課されないことや租税条約により課されなくなること、さらに現地の法令でも所得税が課されないことを利用して、非課税で有価証券を売却することによる租税回避が散見され問題となったことによる。他の先進国では既に、租税回避防止のための出国税のような制度があり、遅ればせながら日本でも導入に至った。 国外転出時課税制度とは、原則として、国外転出する日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している人が国外転出時に保有する有価証券や匿名組合出資、信用取引やデリバティブ取引の残高が合計額で1億円以上の場合は、国外転出時にこれらの財産の譲渡があったものとみなして所得税課税がなされるものである(所法60の2①~⑤)。この制度を設けることにより、国外転出による所得税課税逃れが困難となった。 甲の場合、国外転出時の財産の価額(もし、納税管理人を定めずに出国する場合は、国外転出時から3ヶ月前)が1億円以上である場合(所法60の2①⑤)は、国外転出時課税の対象となる。甲の場合、対象財産となるのは、同族会社の株式、投資信託となる。 なお、非上場株式の時価は財産評価基本通達に基づいて原則的には評価するが、会社が保有する土地や上場有価証券は時価評価となり、かつ、評価益に対する法人税額控除は認められない(所基通60の2-7、59-6)。 ▷納税資金がなく困っている場合は 国外転出時課税制度は、有価証券等が換金されない時点で課税されるため、納税資金が不足することも考えられる。また、有価証券を保有して国外転出した人が帰国してその後売却した場合は、日本での課税が可能であることから、あえて国外転出時に課税する必要は生じない。そこで次のような納税猶予制度が設けられている。 ▷納税猶予のための手続 納税猶予のための手続としては、まず、納税管理人の届出書を国外転出前に提出することが必要となる。納税猶予期間は、原則は5年で、10年に延長することができる(なお、納税猶予額の納期限は満了日から4ヶ月以内)(所法137の2①②)。 確定申告期限までに、国外転出時に保有している財産について納税猶予を受ける旨の記載のある書類を添付して申告するとともに、担保の提供を行わなければならない(所法137の2①)。この担保については、非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予制度とは異なり、国税通則法に基づく手続となる(所基通137の2-7)。 もし甲が5年の納税猶予を選択した場合は、平成29年5月10日までに納税管理人の届出書を提出し、平成30年3月15日までに申告と担保提供を行わなければならない。納税猶予の満了日は平成34年5月10日であり、納期限は平成34年9月10日となる。 ▷申告期限後の手続 国外転出時の年分の所得税の申告書を提出後、納税猶予期間内の年の12月31日に国外転出時課税対象財産を保有している場合は、翌年の3月15日までに継続届出書を提出しなければならない(所法137の2⑥)。もし、提出を怠った場合は、納税猶予期間の繰り上げが行われることになるから注意が必要である(所法137の2⑧)。 甲の場合は平成30年12月31日分の継続届出書を平成31年3月15日まで、平成31年12月31日分の継続届出書を平成32年3月15日までに提出しなければならない。 ▷帰国した場合の手続 国外転出時課税は、海外で有価証券等を売却して日本での租税を回避することを防止するための規定であるため、日本に帰国した場合は、この制度を適用させる必要がない。 そこで、納税猶予期間(5年又は10年間)の満了日までに帰国した場合、又は、納税猶予の適用を受けず、5年以内に帰国した場合で、国外転出時課税対象となる財産を引き続き有しているときは、原則的には、国外転出時課税を取り消すことができる(所法60の2⑥⑦)。そのためには、帰国した日から4ヶ月を経過する日までに、更正の請求を行わなければならない(所法153の2①)。 甲がA国から平成32年5月10日に帰国した場合は、平成32年9月10日までに更正の請求を行うと、国外転出時課税は取り消すことができる。もし、更正の請求を失念して、期限までに取り消さない場合には、国外転出時課税分の納税が確定することになる。 国外転出時課税は何をいつまでにしなければならないかを把握していないと、納税負担だけ生ずる怖い制度であるので、潜在的な国外転出時課税の対象者が顧問先等にいる場合は、細心の注意を払って処理する必要がある。 (了)
特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第7回】 「既に有する土地を買換資産として造成をした場合」 -買換資産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、居住用の土地家屋(所有期間が10年超で居住期間は10年以上)を売却し、既に有する土地について、居住用家屋の敷地として利用するため、地盛り、地ならし、防壁工事を行いました。 この土地の造成等に要した費用の額についても、買換資産の取得に要した金額として、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 既に有する土地について、造成等を行った場合のその造成等のために要した費用の額は、買換資産の取得価額になりません。 ただし、その費用の額が相当の金額に上り、実質的に新たに土地を取得したと同様であるものと認められるときは、その造成等の完了の時に新たな土地の取得があったものとし、その費用の額をその取得価額として「買換えの特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 以前から所有する土地に造成等を行った場合のその費用の額は、その土地の取得費に算入されることとなり、造成等を行うことは新たな資産の取得費となりません。したがって、特例の適用上、原則として、造成を行ったことをもって新たな土地の取得があったとみることはできません。 しかし、以前から所有する土地を居住の用に供するために、造成等を行った場合において、その費用の額が相当の金額に上り、実質的に新たに土地を取得したことと同様の事情があるものと認められるときは、当該造成についてはその完成の時に新たな土地の取得があったものとし、当該費用の額をその取得価額として、「買換えの特例」の適用を受けることができます(措通36の2-11(宅地の造成))。 なお、この取扱いの適用を受けた場合であっても、造成等が行われた土地を将来譲渡する場合の所有期間の判定上のその取得の日は、造成等の時期にかかわらず、以前から所有するその土地の実際の取得の日となります(措通31・32共-6(改良、改造等があった土地建物等の所有期間の判定))。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例48(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆課税売上割合に準ずる割合(消法30③) 課税事業者が課税売上げに係る消費税の額から控除する仕入控除税額を個別対応方式によって計算する場合には、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係る消費税については、原則として、課税売上割合により計算する。しかし、課税売上割合により計算した仕入控除税額がその事業者の事業の実態を反映していないなど、課税売上割合により仕入控除税額を計算するよりも、課税売上割合に準ずる割合によって計算する方が合理的である場合には、課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合によって仕入控除税額を計算することができる。 ◆課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書(消法30③) 課税売上割合に準ずる割合を適用するためには、納税地を所轄する税務署に「課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出して、適用しようとする課税期間の末日までに税務署長の承認を受ける必要がある。 ◆たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認 たまたま土地の譲渡があった場合、すなわち土地の譲渡が単発のものであり、かつ、その土地の譲渡がなかった場合には、事業の実態に変動がないと認められるときに限り、次の①又は②の割合のいずれか低い割合により課税売上割合に準ずる割合の承認申請ができる。 ① その土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合(消費税法施行令第53条第3項《通算課税売上割合の計算方法》に規定する計算方法により計算した割合をいう) ② その土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合 なお、「土地の譲渡がなかったとした場合に、事業の実態に変動がないと認められる場合」とは、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である場合をいう。また、この課税売上割合に準ずる割合の承認は、たまたま土地の譲渡があった場合に行うものであることから、その課税期間において適用したときは、翌課税期間において「課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出しなければならない。 ◆通算課税売上割合の計算方法(消令53③) 通算課税売上割合とは、仕入れ等の課税期間から第3年度の課税期間までの各課税期間(以下「通算課税期間」という)中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに、その通算課税売上割合中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合を、一定の方法で通算した割合をいう。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q37】 「金取引を行った場合の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 所得税の取扱い 給与所得者などの個人が保有している金地金を売却した場合の所得は、営利を目的として継続的に金地金の売買をしているものではない限り、原則、一般の譲渡所得として課税され、給料など他の所得と合わせて総合課税の対象になります。原則として確定申告が必要となります。 譲渡益の額は、以下のように計算されます。 その年の譲渡益(他の総合課税の譲渡益も含む)から、譲渡所得の特別控除(限度額50万円)を控除した金額が一般の譲渡所得として総合課税の対象となり、累進税率にて課税されます。 なお、所有期間が5年超の場合、長期の譲渡所得として、特別控除後の譲渡所得の金額の1/2が課税標準として総合課税の対象となります。 また、長期の譲渡益と短期の譲渡益の両方の譲渡益がある場合には、特別控除額は両方合わせて50万円が限度となり、短期の譲渡益から先に控除します。 2 消費税の取扱い 金地金の売買を国内において行う場合には、消費税8%が課されます。 個人が消費税法上の課税事業者(当該個人の2年前の課税売上高が1,000万円以上や課税事業者選択届を届け出ている場合等一定の場合)に該当しない限り、個人に消費税の納税義務は発生しません。 この場合、上記の所得税法上の譲渡益の計算は、消費税込の売却金額で計算することになります。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(所得税)のアドバイス〕 【第5回】 「被災した個人に対する所得税の減免制度」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 個人が災害により住宅や家財等に損害を受けた場合、税務上の救済措置としては、所得税法に基づく『雑損控除』と災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下、災害減免法という)に基づく『所得税の軽減免除』の2つの制度がある。今回は、この2つの制度について解説を行う。 なお、震災特例法等により特例措置が設けられている取扱いもあるが、それらについては次回まとめて取り上げる。 【1】 雑損控除と所得税の軽減免除(概要) 個人が災害により住宅や家財等に損害を受けた場合には、所得税法に基づく雑損控除(以下、雑損控除という)と災害減免法に基づく所得税の軽減免除(以下、所得税の軽減免除という)のうち、いずれか有利な方を選択することができる。 【2】 雑損控除 (1) 制度の概要 資産について災害、盗難、横領による損害が生じた場合には、所得控除の一つである雑損控除の適用を受けることができる。 雑損控除の概要は、次の通りである。 (2) 対象となる資産の具体例 雑損控除の対象になる資産と対象にならない資産について、具体例を挙げると次の通りである。 (3) 差引損失額の計算方法 雑損控除の計算に必要な「差引損失額」を計算する算式は、次の通りである(所法72①)。 差引損失額 = ①損害金額 + ②災害関連支出 - ③保険金等により補てんされる金額 ① 損害金額とは 損害金額は、原則として被災する直前における資産の価額(時価)に基づいて計算する。すなわち、被災前後の時価の差額が損害金額となる(所令206③)。 被災した資産が減価償却資産である場合には、その資産の取得価額から減価償却費の累積額を控除した金額に基づいて損害金額を計算することができる(所令206③カッコ書き)。 なお、各資産について個別に被災前後の時価を計算することが困難な場合には、資産の区分(住宅、家財、車両)ごとに、次の方法で計算することができる(「東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い(情報)」(以下、所得税の取扱い(情報))「第Ⅰ 各種制度の概要」第1~第4)。 具体的には、「被災した住宅、家財等の損失額の計算書」を用いて計算する。 (※1)(※2)(※3) 「被害割合」「1㎡当たりの工事費用」「家族構成別家財評価額」は、国税庁のホームページに公表される。 【参考】 東日本大震災に係る確定申告のために公表された別表(所得税の取扱い(情報)「Ⅲ 参考編」) ② 災害関連支出とは 雑損控除の対象となる「災害関連支出」とは、次のような支出をいう(所法72①一、所令206①②、所基通72-7)。 上記(ア)から(ウ)のうち原状回復費用については、損害金額の計算との関係において注意が必要である。原状回復費用のうち災害関連支出に該当する金額は、損害金額を超える部分の金額となる。その理由は、損害金額と原状回復費用の全額を雑損控除の対象とすると、二重控除される金額が生じるからである。 なお、被災した資産について支出した金額のうち、原状回復のための支出と資本的支出との区分が困難な場合には、支出金額の30%を原状回復費用とすることができる(所基通72-3)。 ③ 保険金等により補てんされる金額とは 「保険金等により補てんされる金額」とは、災害に関して受け取った保険金や損害賠償金等の金額をいう(所法72①)。 大規模災害時には、保険会社の査定が遅れる等の理由により、確定申告書を提出するときに保険金等の金額が確定していない場合も想定される。このような場合には、保険金等の見積額を差し引くことにより雑損控除の額を計算する(所基通72-7、51-7)。 後日、見積額と確定額が異なることとなったときには、遡及して雑損控除の額を訂正する。 (4) 手続 雑損控除の適用を受けるための手続は、次の通りである。 なお、具体的な数値を用いた確定申告書やその他の計算書の記載例は、所得税の扱い(情報)「Ⅲ 参考編」を参考にされたい。 【3】 所得税の軽減免除 災害により住宅又は家財に甚大な被害を受けたときには、災害減免法に基づいて所得税が軽減免除される(災免法2)。 所得税の軽減免除の概要は、次の通りである。 【4】 「雑損控除」と「所得税の軽減免除」有利不利の判断 上述したように、雑損控除と所得税の軽減免除は、納税者がどちらか有利な方を選択することができる。どちらの制度を選択すると有利になるかは、被災者個人の所得金額や被災の状況によって異なる。 判断のポイントとなる点は、次の通りである。 〈雑損控除と所得税の軽減免除の適用判定フローチャート〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出典) 国税庁「平成28年熊本地震により被害をうけられた方へ(所得税及び復興特別所得税関係)」より一部筆者加筆 【5】 計算例 雑損控除と所得税の軽減免除を比較した計算例を示す。 以上の試算から、本計算例では、損害金額が200万円を少し超える額までであれば、所得税の軽減免除の方が有利となる。 一方、所得税の軽減免除では、損害金額に関わりなく軽減又は免除される所得税額が一定となるため、損害金額が多額になると雑損控除の方が有利な結果となる。一般的には、雑損控除の金額が総所得金額等を超える場合には、雑損控除の方が有利となる。 【6】 個人住民税の取扱い (1) 個人住民税の雑損控除 個人住民税においても雑損控除の適用を受けることができる。 前年分の所得税の確定申告書を提出している場合には、当年分の個人住民税の申告書が提出されたものとみなされる。したがって、前年分の所得税の確定申告で雑損控除を適用していれば、自動的に当年分の個人住民税において雑損控除が適用される。ただし、個人住民税の申告を行うことにより、所得税で雑損控除を適用する所得と異なる年分の所得について住民税の雑損控除を適用することもできる。 【参考図】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典) 総務省自治税務局「地方税関係Q&A〈東日本大震災関連〉」p6 一方、所得税において所得税の軽減免除を選択し、個人住民税では雑損控除の適用を受けるには、住民税の申告が必要となる。 (2) 個人住民税の減免措置 各自治体は、条例に基づいて個人住民税を減免することができる(地方税法323)。個人住民税の減免を受けるためには、自治体に減免申請を行う。 所得税では、雑損控除と所得税の軽減免除のどちらかを選択することになるが、個人住民税では、雑損控除と条例に基づく減免措置を併用することが可能である。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第20回】 「引当金の会計方針に係るうっかりミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例20-1】 会計方針の記載が貸借対照表と整合していない。 【事例20-1】は、計算書類の個別注記表に記載されている「引当金の計上基準」です。 各引当金の計上基準を一読した限り、特段間違いと思われる点はありませんが、これらの計上基準を貸借対照表と照らし合わせてみると、「おやっ?」と思われる点があります。 貸借対照表は以下のとおりです。 いかがでしょうか。 引当金の計上基準の文章に、どこかおかしな点は見つかりましたか? 2 退職給付引当金が見当たらない? さっそく、答えを見てみましょう。 正しい注記文章は以下のとおりです。 退職給付引当金の計上基準の文章中、赤字の部分が書き漏れていました。 貸借対照表を見るとわかりますが、この会社のこの年度の貸借対照表には、退職給付引当金が計上されていません。退職給付引当金は固定負債に計上されますが、そこにあるのは長期借入金と繰延税金負債だけです。 にもかかわらず、【事例20-1】では、退職給付引当金は と書いてあります。計上されていないにもかかわらず、計上していると記載されているのです。 したがって、正しい注記文章の方では、赤字部分のとおり、「ただし、・・・」以下の記載を加えています。 退職給付引当金というのは、退職給付債務と年金資産の金額のバランスによっては、借方残高となることがあり、その場合は貸借対照表上「前払年金費用」という科目で計上することになります。赤字部分のただし書きは、そのことを述べています。 実際、前掲の貸借対照表においても、前払年金費用の残高が計上されていることが確認できます。 3 会計方針の記載でうっかりミスが発生する仕組み 【事例20-1】のうっかりミスが起きた原因は、注記の文章作成にあたって、前年度の注記文章をそのまま使ってしまったことにあります。この連載を読んでいただいている方ならもうおわかりですね。これは「リサイクル・ミス」です。 もしくは、前払年金費用を計上するという新たな状況に対処できなかったという意味で「ファーストタイム・ミス」ともいえます。 ミスの分類自体はそれほど重要ではありませんが、この手の“うっかりミス”が、会計方針の記載部分で起きやすいということは覚えておいてください。 「会計方針の記載」というのは、決まり文句であることがほとんどです。記載すべき事項を過不足なく正確に記載することが求められるからです。また、会計方針というのは継続して適用されることが原則なので、基本的には毎期同じ文言が記載されます。 したがって、計算書類の作成者は、会計方針の記述部分について、前年度と同じ内容を掲載して済ませてしまうことが多いのです。 【事例20-1】は、まさにそうやって作られたものです。 その結果、引当金の記述について加筆しなければならないにもかかわらず、それを忘れてしまったのです。 4 BSと会計方針を突き合せすればよい 引当金の会計方針の記載では、同じようなミスがよく起こります。 たとえば、以下のような事例です。 【事例20-2】 会計方針に記載されている引当金の中に、貸借対照表に計上されていないものがある。 貸借対照表と引当金の計上基準を突き合せてみてください。 1つだけ対応しないものがありますね。 引当金の計上基準に記載されている投資損失引当金(赤字部分)です。これが貸借対照表にありません。 投資損失引当金がもし計上されているならば、「投資その他の資産」の区分にマイナス計上(数字に△を付す)されているはずです。 これは、前期まで投資損失引当金が計上されていたけれども、当期末には残高が0円となり、引当金の計上基準の記述の方でこれを削除し忘れたことがミスの原因です。 引当金の中には、必ずしも毎期継続的に計上されないものもあります。そのような引当金が発生・消滅した場合は、それに応じて引当金の計上基準の記述も見直していかなければならないのです。 〈今回のまとめ〉 引当金の会計方針の記載については、貸借対照表に計上されている引当金との対応関係を確認することが、うっかりミスを防ぐポイントです。 (了)