金融商品会計を学ぶ 【第22回】 「ヘッジ会計③」 公認会計士 阿部 光成 前回に引き続き、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ リスク管理方針文書の記載事項 金融商品会計基準等は、ヘッジ会計を実行するに際して、ヘッジ取引時において、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが客観的に認められることを要件として規定している(金融商品会計基準31項(1)、金融商品実務指針144項)。 リスク管理方針は、経営者が企業活動においてさらされているリスクの種類と内容を識別し、これらを許容し得るレベルに管理するために策定したものであって、取締役会等の意思決定機関において、原則として毎期、承認を受け文書化したものである(金融商品実務指針315項)。 リスク管理方針として、少なくとも、管理の対象とするリスクの種類と内容、ヘッジ方針、ヘッジ手段の有効性の検証方法等のリスク管理の基本的な枠組みを文書化し、企業の環境変化等に対応して見直しを行う必要がある(金融商品実務指針147項)。 企業がさらされるリスクには、為替、金利、債券、株式等の市場リスク、信用リスク、リーガル・リスク、システム・リスク、事務リスク等、様々なものが考えられ、リスク管理方針にはこれらが包括的に定められるものと思われる。 ただし、ヘッジ会計の適用のため文書化を要するリスクは、為替、債券、株式等の市場リスク、信用リスクや金利リスクのように市場価格その他の変動に対する資産又は負債等の時価やキャッシュ・フローの変化が合理的に定量化できるリスクである(金融商品実務指針315項)。 リスク量は、通常、相場変動に伴う資産又は負債等の時価又はキャッシュ・フローの変化として定義される(金融商品実務指針316項)。 ヘッジ取引はヘッジ対象のリスクを相殺することにより、その後の相場変動による損失発生を減殺させると期待されるが、一方で、機会利益を喪失させるなどヘッジ・コストを伴うものであり、リスクに対してどのようなヘッジ行動を取るかは、当然に経営上の判断を要する事項である(金融商品実務指針314項)。 このため、ヘッジ行動が取締役会等の経営意思決定機関で承認されたリスク管理方針として文書化されたヘッジ方針に基づいて行われ、かつ、ヘッジ取引時にあらかじめ定められたルールに従ってヘッジとして指定され、ヘッジの終了時までヘッジ対象と対応させて定期的又は随時にヘッジの有効性を評価するような内部統制が不可欠となる(金融商品実務指針314項)。 次のことにも注意が必要である(金融商品実務指針314項)。 Ⅱ 内部統制組織 経営者は、リスク管理方針に基づいて経営組織を整備し、各組織にリスクを取る権限とその許容限度を付与してリスク管理の責任を割り当て、各リスク・カテゴリーに対するヘッジ手段の選定、ヘッジ対象の識別、ヘッジ指定並びに事後管理の仕組み、各組織別及び企業全体のリスクの状況のモニタリングの仕組み等を含む内部統制組織と諸規定を定めて、これらを運用していくことが求められる(金融商品実務指針317項)。 デリバティブ取引を活発に行う企業の場合、内部統制組織としてデリバティブ取引を実行する部門(フロント・オフィス)とこれとは別に分離独立したリスク管理を行う部門(バック・オフィス)が必要である(金融商品実務指針318項)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第116回】 引当金の会計処理④ 「リコール損失引当金」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:百万円) (X2年3月決算時) (※) 引当金繰入額=(製品A)10,000台×5万円 〈会計処理の解説〉 我が国では、引当金について、企業会計原則注解18(以下「注解18」という)にその計上基準が示されています。企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会から、個別の会計事象等について、会計基準や監査上の取扱い等が公表されていますが、引当金に関する包括的な会計基準は設定されていません。 そのため、会計事象について「注解18」に示されている引当金の計上基準を満たす場合には、引当金を計上する必要があると考えられます。 ただし、他の会計基準に直接規定されている費用又は損失については、そちらの会計基準の規定が適用されます。 (1) リコール損失引当金の計上要件 「注解18」に示されている引当金の計上基準をリコール損失引当金に当てはめると、リコール損失引当金の計上要件は以下のようになると考えられます。 (2) X2年3月決算時の会計処理 事例では、当初の販売から2年近く経過しているため、販売後ある程度の期間が経過していると考えられます。また、リコールの発生の原因となった安全上の不具合も当初の設計・仕様では想定していなかった要因によるものと考えられます。よって、X0年4月期の製品A(製造ロットNo.100)の販売は収益認識基準を満たしていたと考えられます。 また、当該リコールは「当社が過去に行った製品Aの製造・販売」という当期以前の事象に起因していると考えられます。そして、製品の回収は来期以降に行われるので、当該リコールに係る費用又は損失は、将来の特定の費用又は損失に該当すると考えられます。 さらに、A社は自主回収を決定しているので、将来当該製品を回収するための費用が発生する可能性が高く、その費用又は損失の金額を過去の経験から合理的に見積もることができると考えられます。 よって、A社はリコール損失引当金を計上する必要があると考えられます。 * * * 次回は、引当金の会計処理のうち、訴訟損失引当金について解説します。 (了)
〔誤解しやすい〕 各種法人の法制度と 税務・会計上の留意点 【第4回】 「社会福祉法人(前編)」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 公認会計士・税理士 濱田 康宏 ▷ 法制度について 1 社会福祉法人とは 社会福祉法人は、「社会福祉法」の規定に基づき設立された、母子生活支援施設、老人ホームやデイサービス等の社会福祉事業を行うことを目的とした法人である。社会福祉法人は、社会福祉事業を行うほか、これに支障がない範囲で公益事業および収益事業を行うことができる(社会福祉法26条1項)。 社会福祉法人には、社会福祉事業を行うことができる資産を備えることが必要とされるが(社会福祉法25条)、社員の制度がないことから、設立にあたっての必要な資産について、「出資」という方法をとることができず、設立者等から寄付をすることになる。したがって、社会福祉法人は、財団法人と類似した性質を有するといえる。 社会福祉法人は、その行う事業の公共性から、公益法人に準じた税制の優遇措置を受けており、非営利性や継続性・安定性が強く要求されている。このことから、設立、定款変更や解散等の重要事項にあたって所轄庁(原則として主たる事務所の所在する都道府県知事)の認可が必要とされる(社会福祉法31条1項・43条1項・46条2項・49条2項)。 2 設立 社会福祉法人の設立手続の一般的な流れは、以下のとおりである。 社会福祉法人は、登記によって成立する(社会福祉法34条)。 3 機関 (1) 機関構成 社会福祉法人には、(ⅰ)業務執行を行う理事3人および(ⅱ)その監督を行う監事1人が最低限必要な機関である(社会福祉法36条1項)。 定款の定めにより、業務に関する重要事項のうち、定款に定めた事項を議決する評議員会を設置することができる(社会福祉法31条1項9号・42条)。 理事および監事は、定款に定めた方法によって選任され(社会福祉法31条1項5号)、その任期は、2年内の定款で定める期間をとされる(社会福祉法36条2項)。評議員については、任期・選任方法ともに法律による規制はなく、定款によって定めることになる(社会福祉法31条1項9号)。 ただし、「社会福祉法人の認可について(通知)」において定められた「社会福祉法人審査基準」に、理事は6名以上、監事は2名以上、評議員会は原則として必置であり定数を理事数の2倍以上とすることやその決議事項など詳細にわたる定めがあり、現実には、定款の認可審査においてこれらに従うことが求められる。 (2) 構成員 社会福祉法人には、構成員は存在しない。 (3) 業務執行および代表 社会福祉法人の業務は、定款に別段の定めがない限り、理事の過半数により決定し、各理事がこれを行う(社会福祉法39条)。理事は原則として各自代表権を有するが、定款でこれを制限することができる(社会福祉法38条)。 なお、2016年3月に社会福祉法人改革を柱とした「社会福祉法等の一部を改正する法律」が可決、成立し、2016年4月から一部施行がなされている。2017年4月には、機関に関する部分の変更についても施行がなされる予定である。 具体的には、現行法下では評議員会が任意の設置機関であったが、改正法では理事等の選解任を決議する必置の議決機関とされた。また、理事会についても現行法には具体的な定めはないが、法定の機関として具体的な定めを置くほか、新たに会計監査人の制度が設けられた。 この改正により、既存の社会福祉法人にも影響があるから、まず現行法の枠組みを理解して、改正法への対応を早急に整える必要がある。 ▷ 税務・会計について 1 株式会社との異同を確認する 社会福祉法人も、これまで見てきた一般社団法人・一般財団法人と同様に、出資持分のない法人である。設立根拠法が社会福祉法であることからも分かるように、広い意味での公益法人と位置づけられ、会計・税務もそれを前提として規律されている。 ただし、社会福祉事業に関係する事業として、定款に定めることで、比較的多くの事業を行うことができる法人である。社会福祉事業は、第1種社会福祉事業・第2種社会福祉事業として定義があり、さらに、これらに支障のない範囲で、社会福祉事業と密接に関連する公益事業、あるいは、社会福祉事業・公益事業の財源を供給する収益事業も行うことが可能である。 社会福祉法人と、一言で言っても、老人ホームを運営する法人、保育所を運営する法人、社会福祉関係の学校を運営する法人、全国各地の社会福祉協議会の法人成りしたものなど、多数の類型があり、経営実態もそれぞれで大幅に異なっている。 経常収益の内容、とりわけ寄附金収入の状況、設立のための財産拠出など、損益・収支・財産形成の状況もまた様々であるのが、社会福祉法人の特徴の1つと言える。 よって、会計報告においては、これらの事業をいかに適正かつ統一的に報告させるかという観点から、社会福祉法人会計基準が制定されている。具体的には、事業区分・拠点区分・サービス区分による細分化が求められているほか、細かな会計処理が求められる。 これは、1つには、この社会福祉法人の活動原資が、寄附金収入あるいは補助金収入に依拠すると想定されていることも影響している。社会福祉活動は、世の中の善浄から成り立つというのが、歴史的にも当然とされてきたということだろう。 この点を補充するため、上述したように平成29年4月1日以後、一定規模以上の法人には、会計監査人監査の導入が義務づけられることとなっている。これは、近年、社会福祉法人にまつわる不正蓄財・不正支出事例が多く見受けられており、これに適正に対処する必要があるとの社会福祉法の改正によるものである。 具体的には、以下の①又は②に該当すれば、会計監査人設置強制である。 会計監査は、期首残高の適正性を求めるので、3月決算法人であれば、平成29年3月期中に、会計基準への依拠・見直し・会計監査人候補者策定・予算策定などの準備を進めていく必要があるだろう。 また、法人税法の観点からは、一般社団法人・一般財団法人・NPO法人と同様に、34業種の収益事業課税となり、株式会社のようにすべての所得に課税されるわけではない。 ただ、社会福祉事業そのものは、34業種の収益事業には該当しないと解されているので、本来の社会福祉事業による法人税課税は生じない。あくまでも、その他の公益事業・収益事業が、法人税法における収益事業のいずれかに該当するかを検討することになる。 なお後述するが、社会福祉法人の消費税の取扱いは、他の法人と比較して、かなり特異である。この点は、実務で非常に注意が必要な点である。 * * * 次回も社会福祉法人について、固有の注意点を解説する。 (了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第21回】 (最終回) 「まとめ」 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 中小零細企業を顧問先に持つ税理士に向け、資金調達支援の実務を解説してきた。今回は最終回として、第1回から第20回の内容を振り返り、まとめとする。 【第1回】 税理士が資金調達支援を行うメリット 税理士が資金調達支援を行うメリットは、他の専門家との差別化を図ることができ、新規客獲得および既存客の満足度向上につながるという点である。税理士は会計の専門家であり、会社とすでに顧問契約関係にあるから、金融機関に対する信用及び支援スピードにおいて有利である。税理士であるからこそ支援に取り組むべきである。 【第2回~第3回】 資金調達支援における税理士の役割 資金調達支援における税理士の立ち位置は仲介者である。会社社長と金融機関の間に立ち、両者の情報共有が十分に行われるよう支援し、融資交渉が円滑に進むよう働きかける(第2回)。決算書や事業計画書、資金繰り表の作成支援を通じて、税理士は仲介者としての役割を果たすことができる(第3回)。 【第4回~第8回】 具体的な資金調達支援の流れ 融資全体の流れに沿って、税理士の支援内容を説明した。社長から資金調達の相談を受けた時の対応、融資申込書類の作成や審査面談における支援内容を述べた。 中小零細企業の融資申込先は主に2通りあり、それは日本政策金融公庫および信用保証協会の保証付融資である。融資申込窓口の選定についてもポイントを解説した(第5回)。 融資審査の面談前は、税理士にとって存在感を示す良い機会である。社長が不安や悩みを相談してきた際、一緒に悩むという姿勢は重要である(第7回)。 「税理士による資金調達支援」というと、社長に代わって金融機関と交渉し、融資を勝ち取ってくる華やかなイメージがあるけれども、実際はそんなことはなく、税理士は社長に同行すべきではない。返済責任を負う社長自身が金融機関と交渉するのが筋である。税理士はあくまで当事者外の仲介者として、交渉支援にとどまるべきであると解説した (第8回)。 【第9回~第17回】 金融機関提出書類の作成ポイント 金融機関に提出する各書類の作成ポイントについて解説した(第9回~第15回)。提出書類とは、損益計算書、貸借対照表、合計残高試算表、事業計画書、資金繰り表である。 念のため、第9回冒頭で述べたことを繰り返すけれども、融資の可否は総合判断である。ポイントを1つでも落とすと融資は得られない、というわけではない。マイナス要素があったとしても、他のプラス要素があれば融資を得られる可能性はある。 上記作成ポイントの補足として、粉飾決算と経営指標に関する筆者の考えを述べた(第16回、第17回)。金融機関が粉飾を見抜く方法、社長から粉飾を求められた場合の対応、経営指標は融資判断の決め手にはならないと考える根拠を示した。 【第18回】 融資実行後における税理士の役割 【第19回~第20回】 資金調達支援ノウハウの応用 融資実行後においても、税理士は金融機関に対する実績報告について支援できる(第18回)。 最後に、資金調達支援ノウハウの応用として、経営改善コンサルおよび助成金補助金申請支援について解説した(第19回、第20回)。経営改善、助成金補助金申請には、それぞれ事業計画書が必要である。融資による資金調達支援を行える税理士であれば、事業計画書の作成支援を通じて、どちらの業務も展開可能である。資金調達支援ノウハウを活かすことで、税理士としての業務の幅が広がる。 * * * 以上が、本連載のまとめである。 (連載了)
〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第3回】 「検証しやすい仮説はこう作る!」 中小企業診断士 西田 純 フィージビリティスタディについての連載も第3回となりました。これまで、フィージビリティスタディとはということ、仮説とは、条件さえ整えばスタディの対象となるであるということ、さらに検証プロセスにおいては仮説をしっかりと把握したうえで、ことの大切さをお伝えしました。 今回は、検証しやすい仮説の作り方について説明します。 ▷ 新規事業が儲かるためには 「条件さえ整えば儲かる」ためにはまず、「儲け」とは具体的に何のことなのかがしっかりと認識されなくてはなりません。その前提条件として、まずは資金流出額に比べて流入額が大きいことが求められます。 計画上例外的に、単年度で流出額が流入額より大きくなってしまうことがあるかもしれませんが、その場合には資金の累積残高から融通するなどして、資金ショートを起こさないようにしなくてはなりません。短期的には資金ショートさえ起こさなければ事業は存続できるわけですから。 そのうえで ~ここが重要なのですが~ ことが求められます。全体の利益は単年度の利益が積み重なったものになりますので、妥当性のある事業運営により、なるべく早く単年度の損益が黒字になるようにします。 資金繰りの見通しについては、理論的に言えば売掛・買掛に関する決済条件と在庫および手許現金を含む運転資本管理、銀行との取引きなどがポイントになるのですが、これらは定常的な動きをする場合が多いことから、一般的には大きな問題になりにくい要素です。同時に原価率・経費率等も経験値等からある程度想定できるので、多くの場合はとなります。 調査段階で、正面から聞いてもなかなか情報が得られない場合には、参考となる数値をどれだけ工夫して集められるかがポイントとなります。そのためには、日本国内など既存の市場においてで売上が立っていたか、また目標収益率を達成するためにはどのくらいの単価水準でなくてはいけないか、を予め押さえておくと情報収集がしやすくなります。 ただ実際、途上国に行ってそのような数字を直接集めようとしても難しいことが多い(※)ので、平米あたりの数字が欲しいのであれば予め建物の大きさと対象物の量の両方を知りたいということを申し込んでおく、などの事前準備が必要になります。 (※) 仕事で一人あたり、平米あたり、などの管理指標を使うというやり方は、途上国ではあまり一般的ではありません。 売上高がある程度予測できたとして、これは案件の規模や業種によっても異なるのですが、ようでないと、好収益(高収益ではありません)の確保は見込みづらくなるでしょう。F/S段階でギリギリの損益しか確保できない案件は、その後の意思決定を含めて厳しい茨の道を歩くことになります。 ▷ 条件整理の仕方 第二に「条件さえ整えば」について、実現されるべき到達点または目標が何なのか?を可視化した形で整理しておくと良いでしょう。 条件とは、多くの場合「必要な情報が確認される」「必要な措置が可能になる」「必要な許認可が遅滞なく取得できる」等、自社のみでは決められず、外部の変化に左右される部分が出てきます。ほとんどの場合が「もしも~が満足されれば」という前提条件として(ここでは外部条件と言います)、英語で言う仮定法(if)で表現されます。 確認すべき目標それぞれに対して、外部条件の内容を対応させた表を作っておくと調査がしやすくなります。 ▷ 検証しやすい仮説とは ① 条件がはっきりしていること 上で触れたように、目標と外部条件の一覧表を作ることができれば差し当たりは十分ですが、調査を進める中で確認したプロセスがさらなる確認事項を生み出してしまうという事態もしばしば発生します。 他方で、調査には常に締め切りがあるため、時間内に確認を終えるためにも、可視化された条件は現地パートナーなども含めた関係者間で前倒しに共有しておくことが望ましいと言えます。 ② 場合分けがMECEになっていること Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(ダブりや漏れがないこと)は、論理的な情報整理を進めるうえで第一に求められる要件ですが、F/Sの条件整理についても同様のことが言えます。 特に技術プロセスが伴うような事案については、どうしても技術陣任せになりがちですが、事務系のメンバーとしては最終的な報告先に含まれるであろう非技術系の向け先(役所や金融機関)の目から見てわかりやすい場合分けになっているか、論理的におかしな仕立てになっていないか、目配りをすることが重要です。 ③ 必要な検証結果を数値で表現できていること 金額や物量など、量的な情報は比較的問題ないのですが、見過ごしがちなのが時間に関する情報です。 いつまでに許認可が得られれば良いのか、事務工期はどのくらいかけられるのかといった点は、確実に裏付けを取る必要があるため、仮説作りの段階であえて明示的に記載して、検証段階でチェックがなされるようにします。 * * * ここまで、検証しやすい仮説の作り方についてまとめてお伝えしました。次回は「なぜ深く検討すればするほど実現可能性は低下するのか」と題して、検証作業が見込みよりも長引いてしまう場合についてお伝えします。 (了)
税務ピンポイント解説 【第1回】 「スイッチOTC薬控除制度」 Profession Journal 編集部 平成28年度税制改正で、セルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること)の推進を目的とした新たな医療費控除の特例(スイッチOTC薬控除)制度(措法41の17の2)が創設されました。 新制度は現行の医療費控除制度(所法73)との選択適用となり、また、確定申告を行うことで控除を受けられることとなります。適用期間は平成29年1月1日から平成33年12月31日までの5年間です。 新制度の要件は、健康維持増進や疾病への予防取組みとして、医師の関与がある検診等または予防接種を行う者が、自己又は生計を一にする親族に係る一定のスイッチOTC医薬品を購入した場合とされており、その購入費用(年間10万円を限度)のうち1万2,000円を超える額が所得控除されます。 周知のように、現行の医療費控除(所法73)でも、疾病の治療を行うために薬局などで購入した市販薬の購入費も控除の対象となっています。しかし、新制度はスイッチOTC医薬品に限られることになります。とはいえ、現行制度の要件である“10万円の壁”に比べると、新制度の使い勝手は良くなるのではないでしょうか。 ところで、聞きなれない「スイッチOTC医薬品」ですが、医療薬から市販薬に転用(=スイッチ)された医薬品であり、OTC(Over the Counter)、すなわちカウンター越しの対面販売される一般市販薬を指します。新制度の対象となる成分は厚労省より公表されているものの(平28.3.31 厚労省告示178)、私たちには、どの医薬品がスイッチOTC医薬品に該当するのか見当がつきません。 こうした状況に対して、医薬品業界では、店頭で「スイッチOTC医薬品」であることをパッケージに明示するなどの対応を急いでいます。また確定申告の際に必要となるレシートについても、小売店サイドではレシートにスイッチOTC医薬品を購入したことが判明するよう対処を行うとしています。 制度が開始となる平成29年1月までには、購入者準備が整うことでしょう。 (了)
《速報解説》 経済産業省、『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬 (いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引』の内容を更新 ~表記見直しが中心もQ2問を新設 Profession Journal編集部 既報のとおり平成28年度税制改正では、事前確定届出給与について特定譲渡制限付株式等による給与は届出が不要とされ、また利益連動給与の算定指標の範囲にROE等の利益に関連する指標が含まれることが明確化されるなど役員給与の取扱いについて見直しが行われている。 これを受け経済産業省では4月28日付、今回の改正内容及び税務(法人税・所得税)・会計・会社法上の取扱いを解説した『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』を公開したところだが、このたび6月3日付けで、解説部分の変更や問答の入替え、新たな問答の追加等の更新を行った。 本誌が経済産業省に確認したところ、今回の更新では、例えば「Q1-2 税制措置の対象となる「特定譲渡制限付株式」とはどのようなものですか。」という問いに対し、更新前に記載のあった「① 役員給与の対価として交付される株式であること」という項目が他の項目と重複するため削除されるなど文言の修正が中心となっており、取扱いに変更はないとのことだ。 ただし、「Q2-7 「特定譲渡制限付株式」の交付後、法人が組織再編成を行った場合(更新前は「法人に組織再編が生じた場合」)にはどのようになりますか。」の解説部分において、更新前は「一定の組織再編成」とされていた箇所が更新後は「合併又は分割型分割」とされより詳しい表記に変更されている箇所もあることから、更新後の内容についても目を通しておきたい(Q&A以外にも「譲渡制限付株式割当契約書(例)」では記載に係る注書きが追加されている)。 なお、今回新設された問答は次の2問。 (了)
《速報解説》 「日本再興戦略2016」で示された 会計・開示制度に関する今後の取組内容 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年6月2日、「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」(以下「再興戦略2016」という)が閣議決定された。 再興戦略2016では、①新たな「有望成長市場」の戦略的創出、②人口減少に伴う供給制約や人手不足を克服する「生産性革命」、③新たな産業構造を支える「人材強化」の3つの課題に向けた施策が述べられている。 本稿は、再興戦略2016で示された会計及び開示に関連する事項について紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実効的なコーポレートガバナンス改革に向けた取組の深化 上場企業のコーポレートガバナンスの実効性の向上を促していくとして、次のことが述べられている(第2、Ⅱ、2、2-1(2)、i)①)。 1 最高経営責任者(CEO)の選解任 2 政策保有株式の縮減 3 株主総会関係 Ⅲ 情報開示、会計基準及び会計監査の質の向上 投資家が必要とする企業情報を効果的かつ効率的に提供するとともに、会計基準・会計監査の更なる品質向上・信頼性確保を図るために以下の取組を行う(第2、Ⅱ、2、2-1(2)、i)③)。 (了)
《速報解説》 ASBJより「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」が公表 ~退職給付に関する会計基準等の一部見直しも~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年6月2日、企業会計基準委員会は次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、平成27年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」に基づき実施される施策として、新たな確定給付企業年金の仕組みが平成28年度に導入される予定であることから、これに関する会計処理等を規定するものである。 意見募集期間は平成28年8月2日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 範囲 「リスク分担型企業年金」に関する会計処理及び開示に適用する(公開草案2項)。 リスク分担型企業年金とは、確定給付企業年金法に基づいて実施される年金制度のうち、給付の額の算定に関して、確定給付企業年金法施行規則25条の2に定める調整率(積立金の額、掛金額の予想額の現価、通常予測給付額の現価及び財政悪化リスク相当額に応じて定まる数値)が規約に定められる企業年金制度をいう(公開草案2項、15項)。 厚生労働省は、リスク分担型企業年金の導入について、確定給付企業年金法施行令の一部を改正する政令案等に関する意見募集を実施している。 2 会計上の退職給付制度の分類 退職給付制度の分類は次のように行う(公開草案3項、4項)。 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金は、制度の導入後、新たな労使合意に基づく規約の改訂の都度、会計上の退職給付制度の分類に関する上表の①及び②に従い、会計上の退職給付制度の分類を再判定する(公開草案5項、21項)。 当該分類の再判定にあたっては、会計上の退職給付制度の分類の①の「制度の導入時の規約」を「直近の規約の改訂時における改訂後の規約」と読み替える(公開草案5項)。 3 会計処理 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額(移行時に未払金等を計上した特別掛金相当額を除く)を、各期において費用として処理する(公開草案7項)。 退職給付会計基準5項に定める確定給付制度に分類される退職給付制度から退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に移行する場合、退職給付制度の終了に該当する(公開草案9項、10項)。 4 開示 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、次の事項を注記する(公開草案12項)。 Ⅲ 適用時期等 実務対応報告は、公表日以後適用する予定である。 (了)
《速報解説》 会計士協会、公認会計士の「職業倫理ガイドブック」を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年6月1日、日本公認会計士協会は「職業倫理ガイドブック」を公表した。 ガイドブックは、日本公認会計士協会の会員の職業倫理に関する理解に資する資料を提供することを目的として作成されたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 概要 公認会計士法で定める職業倫理に関する規定や日本公認会計士協会が定めた会則、倫理規則、独立性に関する指針、利益相反に関する指針、職業倫理に関する解釈指針及びその他の倫理に関する諸規定等について、図解や参考などを用いて、全体を分かりやすく解説している。 利用に際しては次のことに注意が必要である。 以下では特徴的な記載について述べる。 2 基本原則 会員が会計事務所等に所属しているか、又は、企業等に所属しているかに関係なく、会員は次の5つの基本原則を遵守しなければならないことについて述べている。 3 概念的枠組みアプローチ 会員は、基本原則を遵守するために、「概念的枠組みアプローチ」を適用しなければならない(倫理規則8条及び注解6)。 概念的枠組みアプローチとは、次の(1)から(4)までの手順によって、基本原則の遵守を阻害する要因を除去(もしくは許容可能な水準にまで軽減)するか、又は、阻害要因の重要性が余りに重大である(もしくは適切なセーフガードを適用できない)場合には専門業務を辞退(もしくは契約を解除するか雇用主との関係を終了)するか、という判断を行うことをいう。 4 基本原則を阻害する要因 基本原則を阻害する要因として次の5つがあげられている。 5 報酬の水準と成功報酬 例えば、正当な根拠に基づかない低廉な報酬の提示及び請求は、一定の水準の専門業務を実施することが困難となることが考えられることから、職業的専門家としての能力及び正当な注意の原則の阻害要因を生じさせる。 専門業務の内容又は価値に基づいた報酬を請求することが適切であり、報酬の算定・請求に当たって基本原則を遵守するために概念的枠組みアプローチを適用しなければならない(倫理規則21条及び注解18)。 成功報酬に基づいて保証業務や非保証業務の契約を締結する場合、公正性の原則の遵守を阻害する要因を生じさせ、又は生じさせる可能性があることから、監査業務を含む保証業務については、成功報酬に基づいて契約を締結してはならず、また、成功報酬に基づく非保証業務の契約を締結する場合には、基本原則を遵守するために概念的枠組みアプローチを適用しなければならない。 6 依頼人への就職 監査業務チームの構成員であった者又は会計事務所等の社員等であった者が、依頼人の役員、これに準ずる者又は使用人であって、会計記録や監査対象となる財務諸表の作成に重要な影響を及ぼす職位に就いた場合、独立性を阻害する馴れ合い又は不当なプレッシャーを受ける脅威を生じさせる可能性がある。 そのため、監査業務の主要な担当社員等(業務執行責任者、審査を行う者、重要事項について重要な決定や判断を行う者)が、会計事務所等を退職後に、関与していた監査業務の依頼人の役員等に就任する(又は財務諸表の作成に重要な影響を及ぼす職位に就く)ことについては、一定の制限がある。 (了)