包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第5回】 「同族会社等の行為計算の否認の歴史②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回解説したように、大正12年に創設された同族会社等の行為計算の否認は、大正15年度に見直しをされただけで、ほとんどそのままの形が維持されてきた。 本稿では、現在の規定とほとんど変わらない形になった昭和25年度税制改正の内容とその具体的な論点について解説を行うこととする。 (5) 昭和25年度税制改正 昭和25年度税制改正は、シャウプ勧告に基づく税制改正の一環であることは言うまでもないが、同族会社等の行為計算の否認についても、「法人税を免れる目的があると認められるものがある場合」と規定されていたものが、論末の《補足資料①》(昭和25年法人税法)にあるように、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」と改正された。 この改正により、租税回避目的の立証が不要になったと説明されることがあるが、前回解説したように、昭和25年度税制改正前であっても、租税回避目的でなされた行為又は計算に対する規定であるものの、租税回避の意思があることの立証は要しないと説明されることがあり、本改正は、規定の明確化を図ったにとどまるという見解も存在する(※1) 。さらに、「従前の表現としては、法人税を免れる目的を有していると認められるという場合であるが、改正された規定によれば、客観的にみて免れる目的はなくとも、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められることになれば否認できる」(※2) とする見解もあり、これによれば、昭和25年度税制改正により、同族会社等の行為計算の否認が適用される射程は広くなったと考えることができる。 (※1) 村山泰治「同族会社の行為計算否認規定の沿革からの考察」税大論叢11号252頁(昭和52年) (※2) 武田昌輔編『DHCコンメンタール法人税法』第一法規5540頁 しかしながら、租税回避の意図の立証は困難であることから、その立証までを課税当局に負わせる必要はないというのは立法論としては理解できるが、上記の見解を採用したとしても、租税回避の意図が何ら存在しないことが客観的に明らかであるにもかかわらず、結果として法人税の負担が不当に減少したという理由により、同族会社等の行為計算の否認を適用することができるということまでは意味していないと思われる。この点については、ヤフー・IDCF事件控訴審判決でも、税目的が事業目的よりも上位にあることが包括的租税回避防止規定の適用の根拠のひとつになっているようにも読み取れることから、さらに深い研究が必要になってこよう。 また、そもそも「不当」とはどういう意味なのかについて、現在では、経済合理性基準が有力な見解ではあるものの、ヤフー・IDCF事件、日本IBM事件を受けて、もう一度検討すべきであると考えられる。これらの点についても、いずれ本連載にて検討したいと考えている。 なお、軽微な改正であるが、「課税標準」だけでなく、「欠損金額」についても更正の対象とすることが明らかにされたのも、この時期である。 また、昭和25年には、下記(※3) にあるように、法人税基本通達355に11項目の例示が示されることになったということで、その後の実務においても大きな影響を与えている。なお、本規定は昭和44年に削除されているが、その規定内容は、現在の法人税法の個別規定で対処できるものであり、一般論として、個別規定が整備されればされるほど、同族会社等の行為計算の否認が適用される可能性は少なくなるということがいえる。 (※3) 矢内一好『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』財経詳報社120頁(平成27年)より抜粋 (6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正 昭和28年度税制改正は、論末の《補足資料②》(昭和28年法人税法)にあるように、個人事業から法人成りをした法人に対する行為計算の否認規定が創設された。 そして、昭和29年度税制改正では、更正の対象として、「課税標準又は欠損金額」だけでなく、「法人税額」も追加された。これは、同族会社等の留保金課税により、課税標準又は欠損金額には影響を与えずに、法人税額にだけ影響を与える場合があることに対応したものであると言われている(※4) 。 (※4) 村山泰治前掲(※1)258頁 また、昭和37年度では国税通則法の規定に対応する形で、論末の《補足資料③》(昭和37年法人税法)にあるように改正がなされ、昭和40年度でも法人税法の全文改正に対応する形で、論末の《補足資料④》(昭和40年法人税法)にあるような改正が行われている。 (7) 平成15年度以降の税制改正 平成15年度税制改正は出資金額の下に「(その内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)」と加えられた。 さらに、平成18年度税制改正では、論末の《補足資料⑤》(平成18年法人税法)にあるように、対応的調整についての整備がなされた。 このように、昭和25年度税制改正により整備された同族会社等の行為計算の否認の規定は、現在の規定とほとんど変わらない規定になっており、その後の改正は、微修正なものに留まっている。 なお、昭和25年度税制改正以降の租税回避に対する課税当局の考え方を理解するためには、結果としては導入されなかったものの、昭和36年度に公表された「国税通則法の制定に関する答申」において検討されていた租税回避防止規定を理解する必要がある。次回では、この内容について解説を行う予定である。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例33(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆収用換地等の場合の所得の特別控除(租税特別措置法65条の2) 法人の有する資産につき、収用換地等によって補償金等を取得した場合で、買取り等の申し出があった日から6ヶ月以内に譲渡が行われる等、一定の条件を満たすときは、5,000万円と譲渡益の額とのいずれか少ない金額を損金算入することができる。なお、損金算入時期は「収用等のあった日」の属する事業年度とされる。 ◆「収用等のあった日」(法人税基本通達2-1-14) 「収用等のあった日」とは、固定資産の譲渡の場合と同様、資産の引渡しの日であるが、法人が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日の属する事業年度としているときはこれが認められる。 (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第8回】 「国税関係書類のスキャナ保存(3)」 税理士 袖山 喜久造 前回は、国税関係書類のスキャナ保存に当たっての法的要件のうち、スキャンデータの真実性の確保として、入力時期とデータへの措置等について解説した。 これまで国税当局は税務調査では紙の書類を確認することが中心であった。今後国税関係書類をデータで保存することが主流となった場合、当該データの真正性の担保をするためには、保存される当該国税関係書類に係るデータは、改ざんされることなく法定保存期間保存されていることが前提である。 それに加え、当該国税関係書類の電子化の入力環境も重要であり、平成27年度の税制改正においては、当該国税関係書類の入力時期の要件や保存要件については規制を緩和したものの、スキャンデータが作成される会社の入力環境については一定程度の内部統制要件として、いわゆる「適正事務処理要件」が新たに追加された。 今回はスキャナ保存制度の法的要件のうち、内部統制に関する要件、スキャンデータの保存に関する要件について解説する。 1 内部統制に関する要件 (1) 関係書類の備付け 規則第3条第5項第7号においては、電帳法第4条第1項及び同2項の国税関係帳簿書類に係る電磁的記録の保存の場合と同様に、国税関係書類をスキャナ保存する場合にも次に掲げる書類の備付けを行うことを規定している。 なお、市販のプログラム等を使用する場合には「①」及び「②」に掲げる書類は必要ない。また、スキャナ入力を他の者に委託している場合には「③」に掲げる書類は必要ない。 (2) 適正事務処理要件 平成27年度の税制改正において新たに盛り込まれたのが「適正事務処理要件」である。 会社の規模が大きければ、領収証等を精算する際には必ず何人かの承認を経て処理がされるが、これらの処理を1人で行う場合には、「正しく入力される」という担保がされないことになる。これを客観的に担保することを法律の要件としたのが適正事務処理要件である。 規則第3条第5項第4号には、申請対象の国税関係書類の作成又は受領から当該国税関係書類に係る記録事項の入力までの各事務について1人で行わない体制、そして入力された記録事項を定期的に検査する体制と、当該結果に不備があった場合の改善する体制が求められている。 2 スキャンデータの保存に関する要件 (1) 相互関連性の確保 規則第3条第5項第5号によれば、スキャナ保存された国税関係書類に係る電磁的記録と関連する国税関係帳簿の間で、相互にその関連性を確認することが必要とされる。この「関連性を確認すること」とは、伝票番号やその他の関連性を有する共通も項目を保持して、帳簿と書類の相互の側から確認することができることをいう。 この要件は現に進行している事業年度の帳簿が作成される途中に満たす必要はなく、事業年度終了後、帳簿作成が終了した時点で満たせばよいこととなっている。 (2) 検索機能の確保 規則第3条第5項第7号においては、スキャナ保存された国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項の検索機能として、以下の機能を確保することが規定されている。 この場合の検索は、承認された国税関係書類の種類別に検索できればよい。 この検索要件を満たすには、検索用のデータの作成や、帳簿との関連性を保持し、帳簿を検索することでデータを特定する方法などが考えられる。導入企業の多くは帳簿のデータを使用して検索要件を満たしているが、この場合には帳簿データが正しく保存されていることが前提となる。 国税関係書類のスキャナ保存については、今後、入力機器等の規制緩和も検討されているが、紙の国税関係書類に代えて保存されるスキャンデータの作成に当たっては、そのデータの真正性の担保をするために統制のとれた環境で作成されることには変わりないのである。 そしてスキャナ保存制度の導入を検討する企業は、これまで解説してきた入力や保存等の要件を自社でゼロから対応したシステムを構築するとなると、費用と時間がかかることになる。このため、法的要件がプログラミングされたシステムを導入することが早道である。ただし、入力に係る手順等が記載された入力フローや事務処理規程等は作成し自社で運用する必要がある。 国税庁ホームページではこれらの規程等のひな形を公開しているので、活用するのもいいだろう。 * * * 次回からは電帳法第10条で規定される電子取引に係る電磁的記録の保存義務について、2回にわたって解説する予定である。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第21回】 「請負に関する契約書④(設計・工事監理受託契約変更書面)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は総合建設業です。 平成27年6月26日より「建築士法の一部を改正する法律」が施行され、設計受託契約または工事監理受託契約の締結に際して、書面による契約締結が義務付けられました。 それに伴い、当社では工事請負契約書を締結する際に、その契約内容に設計・工事監理、かつ、工事請負契約において建設する建築物が延べ面積300㎡を超える場合、原契約書に特約事項として建築士法第22条の3の3の規定に基づき作成した「設計・工事監理受託契約事項の書面」を工事請負契約書に添付します。 「設計・工事監理受託契約事項の書面」には、①業務の実施期間、②業務の報酬の額、③建築士の名称及び所在地、④建築士事務所の開設者の氏名、⑤業務に従事する建築士の登録番号、⑥設計または工事監理の一部の委託先等を記載しますが、その内容が変更された場合の変更書面の印紙税の取扱いはどうなりますか。 なお、工事請負契約に記載された内容については、いずれも変更がありません。 ①設計業務の実施期間の変更の場合は、第2号文書の重要な事項の変更である請負の期限の変更にあたるため、記載金額のない第2号文書に該当する。②業務の報酬の額の変更は、増額の場合は増額金額を記載金額とする第2号文書に該当し、減額の場合は記載金額のない第2号文書に該当することとなる。 ③建築士の名称及び所在地、④建築士事務所の開設者の氏名、⑤業務に従事する建築士の登録番号、⑥設計または工事監理の一部の委託先の変更文書については、いずれも課税文書には該当しない。 [検討1] 「契約の内容の変更」とは 「契約の内容の変更」とは、既に存在している原契約の同一性を失わせないでその内容を変更することをいう。したがって、原契約と同一性を失わせるような変更は更改契約書であって変更契約書には該当しない。 [検討2] 変更契約書の所属の決定 契約は、形式、内容とも当事者において自由に作成されるものであり、事例のようにその契約に関連する様々な特約事項が織り込まれている場合があるが、変更契約書の取扱いについては、課税物件表に掲げられている契約の内容となると認められる事項(重要な事項)を変更するもののみを課税対象とすることとされている。 第2号文書の重要な事項は下記のとおりであるが、変更契約書はこの重要な事項が1つでも含まれる場合、課税文書となる。 ▷ まとめ ◆ 書面による契約締結の義務の内容(建築士法第22条の3の3) (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第6回】 「フィルムリース事件」 ~最判平成18年1月24日(民集60巻1号252頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
これだけ知っておこう! 『インド税制』 【第6回】 (最終回) 「インドのVAT」 公認会計士・税理士 野瀬 大樹 この連載の最終回となる今回は、インドの「VAT」について紹介しよう。 VATは、前回説明した「サービス税」とは異なり、「モノ」にかかる間接税で、正式名称は“Value Added TAX”である。 日本語では「付加価値税」と訳すケースが多い。また、物品税(【第4回】参照)やサービス税と異なり「州税」なので、「州付加価値税」と訳されるケースもある。 このVATは州ごとにその税率が異なるため、日本の専門家にとってとっつきにくいものと思われるので注意を要する。 1 VATとは VATとは、インド国内での「モノ」の販売に対して課せられる間接税である。基本的に「モノ」であればすべて課税されると考えてよい。 物品税が課せられる製造業の場合はどうなるかというと、「両方」かかることになるので、注意が必要となる。 そして前述のようにVATは州税であるため、税率は州によって異なる。たとえばデリーであれば12.5%、隣りのハリアナ州であれば13.125%となるが、一般的には12~14%の範囲に収まるケースがほとんどである。 2 VATの仕組み VAT納付の仕組みも、他の間接税と基本的には同じである。「受取VAT」と「支払VAT」を相殺し、その差額分だけを納付する形となる。 3 VSTとCST さて、ここまでの話だと「なんだ、VATって州ごとに設定されている消費税のようなものか」と思う人もいるかもしれないが、問題は「州をまたいでモノを売ってしまったケース」である。 モノの販売が州内で完結すればよいのだが、州をまたいでしまったケースでは税の名前が変わり「CST:Central Sales Tax・・・中央販売税」となる(【第3回】参照)。 このCSTの税率は「売主の所在地」で決まるため、税率自体はVATと同じなのだが、問題はその相殺関係である。 たとえば、デリーにあるA社から隣りのハリアナ州のB社にモノを売り、その後、同じハリアナ州内のC社にモノを売るようなケースを想像していただきたい。 「A社⇒B社」の取引には、売主であるA社所在地のデリーにおけるVATと同じ税率12.5%がCSTとして課せられる(州をまたいでいるためCSTとなる)。 そして「B社⇒C社」は同じ州内なので、ハリアナVATが13.125%かかることになる(こちらは州をまたいでいないのでVATのまま)。 ただしこの場合、B社は、「A社に支払ったデリーCST12.5%」と「C社から受け取ったハリアナCST13.125%」は管轄の州税務署が異なるために、相殺することができないのである。 実際この相殺関係を考慮せずに進出する州を決めてしまい、後になって相殺できないという事実に気づき、ビジネスに多大な影響が出てしまっている日系企業も少なくない。 モノを取り扱う会社の場合は、進出前に入念な「税務のシミュレーション」を行うことが求められる。 4 VATが相殺できない問題への対処①・・・支店を作る このようにVAT(CST)に関しては、その相殺が問題になることが多い。 実際、事前シミュレーションが大切だということもあるが、実務的には「顧客がどこの州にあるか?」はインド市場を開拓する過程で初めて分かるものでもあるので、その対応はなかなか難しいところであると言える。 そのため、もし他州に新たな大口の顧客ができた場合、その顧客から「VATの相殺がしたいので、わが社があるA州に進出してくれ」と要求されるケースも実際には起こり得る。 顧客の意向に従い、実際に他州へ支店を出す企業も少なくないが、VATの登録を担当している各州の担当官は厳しく、しっかり事業所や倉庫があり、また常駐の従業員がいないとなかなかその州でのVAT登録が完了しないのが現状である。 実際、VAT登録のためだけに半年以上を要しているケースもあるので、ビジネスの支障にならないよう前倒しでの対策が必要となる。 5 VATが相殺できない問題への対処②・・・フォームCを提出する もう1つ、「相殺できないVAT」問題を解決するのが、「フォームC」という書類を税務当局に提出することで、CSTを2%に軽減するという方法である。 先ほどと同じ商流で考えてみよう。 この時、B社がハリアナ州の税務当局に「フォームC」という書類を提出することで、「A社⇒B社」の取引のCSTを2%まで軽減することができるのである。 当然、その軽減された2%も相殺することはできないのであるが、12.5%ものCSTが相殺できなくなるよりもダメージは小さいと言える。 ただ、実際は後になってから、税務当局から「フォームC」の様式や記載内容に不備があるなどと指摘され、追加納税を要求されるケースも散見されるので、こちらも事前に専門家との相談が必要となる。 また、A社の立場からも問題となるケースがある。 州外のB社から「フォームCを提出したので、CSTを2%に引き下げたインボイスを発行するように」と指示されるケースでも、B社がインド企業の場合、実際には「フォームC」を提出していないケースもあり、トラブルのもとになっている。 このような場合、実務的には、まず正当な12.5%のCSTを払うように依頼し、その後、本当に「フォームC」を提出していることが分かるプルーフを手に入れてから差額の10.5%を返還するという形が、最もリスクが少ないかと思われる。 もちろん、こういった対応には現地のインド企業との交渉が必要となるため、語学はもとより、法令に基づいた粘り強い交渉が求められる。 (連載了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第24回】 「種類株式の評価」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、種類株式の評価について解説する。種類株式とは、次に掲げる項目について、普通株式とは異なる定めをした株式のことをいう(会社法108①)。 評価の方法は、原則として、【第13回】の「有価証券の評価」と同じだが、種類株式特有の論点もある(実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(以下、「報告」という)目的)。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) 種類株式はあくまでも株式である。しかし、種類株式の中には、実質的には、債券と同様の性格を持つと考えられるものもある。 例えば、発行会社が一定の時期に一定額で償還すると定めている種類株式や、発行会社や保有者が一定額で償還する権利を有し取得時点において一定の時期に償還されることが確実に見込まれる種類株式は、経済的には清算時の弁済順位を除き、債券と同様の性格を持つと考えられる(報告Q1)。 そして、【第13回】で解説したとおり、債券と普通株式で評価方法は異なるため、同様に、債券と同様の性格と持つと考えられる種類株式とそれ以外の種類株式で評価方法は異なる。そのため、まず、保有している種類株式が債券と同様の性格を持つと考えられるものであるかどうかを判断する。 債券と同様の性格を持つと考えられる種類株式の場合は、【STEP2】を検討する。債券と同様の性格を持つと考えられるもの以外の種類株式の場合は、【STEP3】を検討する。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 債券と同様の性格を持つと考えられる種類株式は、実質的には、債券と同様のため、債券と同様に評価を行う(報告Q1)。詳細は、【第13回】の【STEP1】【STEP3】参照。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 債券と同様の性格を持つと考えられるもの以外の種類株式では、市場価格のあるものとないもので評価方法が異なるため、まず、市場価格の有無を検討する。次に市場価格のある種類株式と市場価格のない種類株式の評価をそれぞれ検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 市場価格の有無 市場価格の有無により、評価の検討過程が異なる。そのため、ここでは市場価格の有無を検討する。 市場で売買されない種類株式は、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価(合理的に算定された価額)とはしないものとし、当該種類株式は市場価格のない有価証券として取り扱われる(報告Q2(2))。 ただし、種類株式自体は市場で取引されていなくとも転換を請求できる権利を行使して、容易に市場価格のある普通株式に転換し取引できるような場合(例えば、現時点で保有者によって市場価格のある普通株式に転換請求が可能であって、ディープ・イン・ザ・マネーの状態にある場合)も、市場価格のある株式として取り扱われると考えられる(報告Q2(1))。 市場価格がある種類株式の場合、(2)を検討する。市場価格がない種類株式の場合、(3)を検討する。 (2) 市場価格のある種類株式の評価 ① 市場価格の著しい低下の有無 種類株式においても市場価格が著しく低下している場合、減損の検討が必要となる。一方、著しく低下していない場合、減損の検討は必要ない。市場価格の著しい低下については、【第13回】の【STEP1】(2)①(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)参照。 そのため、ここでは、市場価格の著しい低下の有無を検討する。 市場価格が著しく低下している場合、③を検討する。市場価格が著しく低下していない場合、②を検討する。 ② 通常時の評価 市場価格が著しく低下していない場合、市場価格に基づく価額(ただし、子会社及び関連会社が発行した種類株式は、取得原価)をもって貸借対照表価額とする(報告Q2(1))。詳細は、【第13回】の【STEP3】(4)①、【STEP2】(6)参照。 ③ 減損 市場価格が著しく低下している場合、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行う(報告Q2(1))。回復可能性がある場合は、②と同様に評価する。詳細は、【第13回】の【STEP3】(5)①、【STEP2】(7)①参照。 (3) 市場価格のない種類株式の評価 ① 実質価額の算定方法の採用 市場価格がない場合、実質価額をもって、減損が必要かどうかを検討することになる。しかし、種類株式は、普通株式とは異なるため、実質価額=1株当たり純資産とすることはできない。そのため、報告Q3で取り上げられている実質価額の算定方法の中から算定方法を採用する必要がある。 (ⅰ) 評価モデルの有無 市場価格のない種類株式のうち、例えば、満期の定めのない永久債に類似したようなものや、現在は転換できないが、将来、転換を請求できる権利を行使して市場価格のある普通株式に転換できること等により普通株式の市場価格と関連性を有するものについては、困難であると認められる場合を除き、割引将来キャッシュ・フロー法やオプション価格モデルなどを利用した評価モデルによる価額を実質価額とする(報告Q3(1))。 そのため、評価モデルを利用して算定された価額を得ることが困難ではない場合は、評価モデルによる価額を実質価額とする「評価モデルを利用する方法」を採用し、次に②を検討する。評価モデルを利用して算定された価額を得ることが困難な場合は、(ⅱ)を検討する。 なお、評価モデルについては、原則として、毎期同様のものを使用する(報告Q3(1))。 (ⅱ) 評価モデルを利用して算定された価額を得ることが困難である場合 評価モデルを利用して算定された価額を得ることが困難な場合は、以下の(a)又は(b)の方法により実質価額を算定する。したがって、いずれかの方法を選択する。 (a) 1株当たりの純資産額を基礎とする方法 利益配当請求権に関する普通株式との異同や転換を請求できる権利の条件等を考慮して、種類株式の普通株式相当数を算定することが可能な場合、資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した発行会社の純資産額(【第13回】の【STEP3】(3)参照)を、種類株式の普通株式相当数と普通株式数の合計で除した1株当たりの純資産額に、所有する種類株式の普通株式相当数を乗じて実質価額を算定することが考えられる。 種類株式の普通株式相当数とは、例えば、普通株式への転換を仮定した場合の普通株式数(転換価格が固定されている場合には当該転換価格、普通株式の市場価格に基づいて決定・修正される場合には貸借対照表日現在の普通株式の市場価格に基づいて算定された転換価格による)など、1株当たり純資産額を基礎とする方法に用いられる当該種類株式の株式数に対応すると考えられる普通株式数をいう(報告Q3(2)①)。 (b) 優先的な残余財産分配請求額を基礎とする方法 普通株式よりも利益配当請求権及び残余財産分配請求権が優先的であるような場合、優先的な残余財産分配請求額を基礎とする方法によって実質価額を算定することも考えられる。 この場合、(a)の方法と同様に、資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した発行会社の純資産額が、優先的な残余財産分配請求権総額を下回っている場合には、当該純資産額(当該純資産額が、優先的な残余財産分配請求権総額を上回っている場合には、当該残余財産分配請求権総額に配当可能限度額のうち種類株式相当分を加えた金額)を、当該種類株式数で除した1株当たりの純資産額に、所有する当該種類株式数を乗じて実質価額を算定することが考えられる(報告Q3(2)②)。 ② 実質価額の著しい低下の有無 種類株式においても実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下している場合、減損の検討が必要となる。 上記①で採用した方法により算定した実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下している場合、④を検討する。低下していない場合、③を検討する。 ③ 通常時の評価 取得原価をもって貸借対照表価額とする(報告Q2(2))。 ④ 減損 種類株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として減損処理する(報告Q2(2))。実質価額の算定方法を除き、【第13回】の【STEP3】(5)②と同様である。 なお、普通株式の市場価格と連動性があると想定される種類株式は、評価モデルを利用した価額を得ることが困難であっても、普通株式の市場価格が当該種類株式の取得時点に比べて著しく下落した場合には、当該種類株式の実質価額も著しく低下していると想定され、減損処理を行うことが合理的と考えられる場合が多いことに留意が必要である(報告Q3(2))。 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
[子会社不祥事を未然に防ぐ] グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第6回】 「グループ企業管理に関わる基本的方針(その3)」 ~早期不正対処の重要性~ 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 会社組織を人間の身体に例えるならば、不祥事は身体に侵入した新種の「ウイルス」と言っても過言ではない。すなわち、子会社で不祥事が発覚した場合には、ウイルスの感染活動は本当に収まったのか、ウイルスの活動の痕跡の確認を行って、早期の点検と被害低減に取り組む必要がある。 本稿では、筆者の経験上、子会社の不祥事の発生につき、どのように早期の対処を実施するのかをご紹介したい。 1 子会社の経営者の目線 例えば、ある子会社のある支店・事業所で不祥事が発覚した場合、子会社の経営者は、必ず他の支店・事業所でも同様の不祥事が発生していないかを調査する必要がある。これは、子会社の経営者として当然の行為であり、不祥事が発覚した支店・事業所と同じ深度で調査を実施することで、自社の「ウイルス」が全滅したことを確認することとなる。 【図表1】 2 親会社の経営者の目線 親会社の経営者としては、ある子会社のある支店・事業所で不祥事が発覚した場合、同一環境に置かれている他の子会社にも同様の不祥事が発生していないかを検討する必要がある。この場合、子会社だけに目を向けがちであるが、親会社においても同一環境にある部門・事業において、子会社不祥事と同じことが発生していないかを検証する必要がある。不祥事対策の確立の程度、内部監査の頻度、資産・売上高の規模を勘案して、濃淡をつけて調査を実施することで、「ウイルス」の転移、二次感染がないかを検証する。 また、経営のグローバリゼーションが叫ばれる昨今、親会社の目の届きにくい海外子会社では大小様々な不祥事が発生しており、海外子会社で発生した不祥事が時として連結財務諸表に重大な影響を及ぼすことがある。これは、特に海外展開する日本企業は、グループ子会社における不祥事対策の取組み状況について詳細を把握していないことが要因であると言われている。 不祥事の調査だけでなく再発防止策として、米国、EU、中国、ASEANと事業展開しているならば、それぞれの国・地域の不祥事対策についてマニュアルを用意し、研修機会を設けることが望まれる。各国の法制度の特徴を踏まえた柔軟な不祥事対策が必要であり、日本の不祥事対応とは異なる外国法違反への不祥事対応のあり方を踏まえたリスク管理が望ましいであろう。 【図表2】 3 親会社の関与の有無 親会社の株主の目線で考えると、親会社と傘下グループ会社は一体として対応することが求められるであろう。よって、子会社で発覚した不祥事に親会社が関与しているか否かを検証することは非常に重要である。特に当該不祥事に親会社の役員が関与したか否かを、取締役の監視義務のある監査役や社外役員を含む監査委員会が主体となり、株主の目線で再検証する必要がある。 親会社の関与状況によっては、他の子会社も同様に「ウイルス」感染している可能性があり、その場合は「ウイルス」が全身に転移していることを意味し、役員の総退陣以外、手の施しようがないという事態に陥る可能性もあるであろう。 4 執行当局間の連携 上述した事例の数々は、極端な事例かもしれないが、特にグローバルコンプライアンスという分野では、その必要性は顕著である。なぜならば、各国の執行当局が密室に連携しているからである。例えば、日本企業は、競争法違反に関し米国司法省(DOJ)に制裁を受けた米国外企業の中で、またEU競争当局(EC)に制裁を受けたEU外企業の中で最高の割合を占めている状況にある。 海外展開する日本企業におけるコンプライアンス体制の脆弱性は、世界各国で指摘されている。日本企業が支社・事業所等の名目を問わず事業拠点が所在している国・地域、また当該拠点を通して又は通さずに事業活動を行っている国・地域に関しても、その全ての国・地域の不祥事対策をとるように努力する必要があると言える。 (了)
社外取締役の教科書 【第14回】 (最終回) 「士業が社外取締役に就任する際の注意点(その2)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 連載最終回となる今回は、前回から引き続いて、士業が社外取締役に就任する際の注意点につき説明する。さらに連載のまとめとして、社外取締役をめぐる今後の動向について取り上げることとする。 1 「就任後の活動」において注意すべきポイント 「その会社がどのような企業活動を行っているのか」は、業種(どのような事業か)、業態(顧客は企業か一般消費者か等)、企業規模、その業界における商慣習、企業風土等により、各社それぞれ千差万別である。 たとえ社外取締役に就任しようとする者がその会社と同じ業界の出身であっても、それだけでその会社の企業活動のすべてを把握していることにはならない。企業経営の現場には縁遠い士業が社外取締役に就任しようとする際には、尚更である。 そのため、社外取締役が適切な役割を果たし得るためには、その会社の企業活動全般につき、具体的な業務フローまでを含めて熟知するよう努める必要がある。 この点に関しては、【第4回】において、モニタリングの3つのフェーズのうちの『【フェーズ1】経営にまつわる情報の入手・収集』として、各種情報の入手方法につき説明した。また、そのための取り組みの具体例については、【第6回】にて紹介した。 この重要性は、【第4回】におけるモニタリングの3つのフェーズのうちの『【フェーズ2】取締役会等を通じた監督・意見反映』において説明した。その他、具体的な取り組み例については、【第6回】でも紹介した。 社外取締役を含めた「取締役」は取締役会の構成員であり、そこでの多角的な議論を経て、経営に関する意思決定がなされる。また、取締役会での議論を通じて、コンプライアンス上の問題点が浮かび上がってくる場合も多い。 取締役にとっては、取締役会に参加することがまずもって最重要な職務といえる。したがって、社外取締役に就任した者は、原則として毎回の取締役会等に参加すべきである。 この点、会社法施行規則は、社外取締役に関する開示事項として、株主総会の招集通知における「事業報告」において、社外取締役の取締役会への出席状況や発言の状況等を記載すべきものとしている。 よって、そもそも取締役会への出席率が低い社外取締役は、その再任につき株主から反対される可能性も高まる。 実際に、機関投資家が各自で定める議決権行使基準においては、直近1年間の取締役会への出席率が50%~75%を切る場合、当該社外取締役の再任に反対するとの基準を設けている場合が多い。 企業が社会的な存在である以上、市場や一般消費者の動向を無視することはできない。世間の“トレンド”に敏感になり、自社への取り入れ・振り返りに思いを馳せることができる習慣ということも重要である。 たとえば、近年、特に学習塾や飲食業等においてはいわゆる「ブラック」な労働環境が発生しやすいと報道されているが、「では、自社の場合は大丈夫なのか? 重大な問題へと発展する兆しはないのか?」という問題意識を持てるかということである。 その意味では、世間の“トレンド”に敏感になっておくことが必要である。 そのための一環として、役員セミナーや業界セミナー等にも出席し、絶えず自己研鑚を続けていくことが求められよう。 前記の【注意点6】及び【注意点7】の事項に留意したとしても、取締役会ないしは各種会合において、担当部署や他の役員からの提案事項や報告事項等について内容が理解できない、あるいは、その内容にいまいち納得がいかないということも起こり得る。 このような時こそ、安易にスルーしてしまうのではなく、自分自身が得心できるまで、説明の補充や資料提出を求めるべきである。 なぜならば、「社外」取締役の立場で内容が理解できない/内容に納得がいかないということは、会社外部の存在である取引先や一般消費者の立場においても、同様の感想を持たれる可能性が高いからである。そして、そのことに、会社内部の人間は気づいていないというケースも多い。 したがって、社外取締役としては、上記のような場合に「物わかりが悪い」ことがかえって会社にとってプラスとなるのだという信念を持ち、行動すべきである。 【第10回】でも触れたところであるが、社外取締役が関与した重要な意思決定が結果的に成果を挙げられなかった場合、株主や第三者から善管注意義務違反に基づく損害賠償責任を追及される可能性が生じる。 その際、裁判においては、いわゆる「経営判断の原則」に則った適切な意思決定を経ていたかが争点となる。 その際、社外取締役としては、決定にあたって考慮した諸事情や、どの点にどれだけ重きをおいて評価し結論を出したのかという判断過程・理由、判断の際に裏付けとした各種資料等につき事情を整理し、主張していくことになる。 そのときに、何よりも重要なポイントは、「自らの主張を裏付ける証拠があるのか」という観点である。民事訴訟においては、裏付け証拠無き主張は、裁判官にとっては「単なる1つの意見」としか受け取られない。 そこで、普段より、上記を裏付ける各種資料や議事録、手控えを作成し、関係者間でメール等により情報を共有しておく等といった「証拠化」を心がけるべきである。 このようにして、「自らの身は自らで守る」努力をしていかなければならない。 2 社外取締役制度の今後の動向について-連載を終えるにあたって- 以上、本連載では、社外取締役制度をめぐって問題とされる内容や注意点につき、幅広く取り上げてきた。 社外取締役に関する解説記事や公的機関のプレスリリースも多数公開されている状況にある。この先も、社外取締役をめぐる議論はより複雑となり、法改正も重ねられていくことであろう。 実際に、会社法平成26年改正法の附則第25条においては、平成27年5月1日の施行後2年を経過した後に、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、必要があると認めるときは、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずることとされている。 今後の議論のなかで常に立ち返るべきは、社外取締役制度の役割、すなわち、①ガバナンスの強化と②社外の知見・ノウハウの取り入れという2つの視点である。 今後の議論も、このような役割をいかに効果的に果たさせるか、そのための環境整備や運用上の工夫が主たる内容となることは間違いない。 そのような骨太の理解を前提に、今後の様々な議論や動向のフォローを続けていただきたい。 (連載了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第10回】 「金融機関提出書類の作成ポイント(その2 損益計算書)」 ~簡潔明瞭が一番~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 金融機関に提出する決算書のポイントとして、今回は損益計算書について述べる。ポイントは全部で3つである。 損益計算書のポイント①:黒字がのぞましい 会社の融資返済能力は、簡易キャッシュフロー(=当期純利益+減価償却費)で判定される。黒字で利益額が大きいほど返済能力は高いと評価され、融資を得やすい。返済は数年に渡って行われるので、安定して利益を獲得する能力が重視される。したがって、多額の特別損益項目が発生している場合、返済能力は当期純利益ではなく、営業利益または経常利益を使って判定される。 本来は黒字だったけれども、節税目的で赤字にした場合はどうなるかというと、実質黒字で評価してもらえる。例えば、期末近くで中古車両を購入し、減価償却費を多く計上した場合などである。実質黒字で扱われるけれども、翌期に資金調達を考える場合、当期は節税を抑え、黒字にしておいた方が無難である。決算前に社長と打ち合わせしておく。 やむを得ず赤字で終わった場合は、次善の策として、融資申し込み直前までの合計残高試算表を提出する。前期の損益計算書が赤字であっても、それはあくまで前期末時点での話である。直近現在が黒字なのであれば、合計残高試算表を提出し、最新の融資返済能力で判定してもらう。金融機関から求められなくても、積極的に出す。通帳の入金記録も一緒に提出すると説得力が上がる。 損益計算書のポイント②:減価償却費を計上する 黒字にする方法として、すぐに思いつくのが、減価償却費を計上しないという方法である。しかし、会社の融資返済能力は、当期純利益+減価償却費で判定される。減価償却費を計上せずに、当期純利益を黒字にしても、結局、それらの合計額である融資返済能力には大きな違いはない。 また、減価償却費が未計上の決算書では、本業の実力や会社の実態を正確に把握できない。このため、会社側が計上していない場合は、金融機関側で、減価償却費を加味した決算書に作り変えられてしまう。 減価償却費を計上せず、無理に黒字化しても意味はない。損金算入額が減り、減価償却費×税率分の税負担が増えるだけである。最初から実態に合わせて会計処理すべきである。 損益計算書のポイント③:勘定科目を増やさない 販売費及び一般管理費の勘定科目は増やさない方が良い。販売費及び一般管理費内訳書を見る側は、「会社の特徴的な経費項目は何か」、「経営判断に影響を与える重要な経費項目は何か」という視点で見る。金額が大きい勘定科目は、基本的に特徴的または重要といえる。勘定科目数を絞ることによって内訳書が簡潔明瞭になり、経費の特徴が際立つ。会社の実態を把握しやすい。 勘定科目を絞るには、少額で類似の性質を持つ科目をまとめる。例えば、事務消耗品費や新聞図書費を消耗品費にまとめたり、通勤旅費交通費と出張旅費交通費を旅費交通費1本にまとめたりする。 ただし、決算書は、経営者が会社の実態を把握する道具であるから、勘定科目の整理にあたっては、経営者の意向を確認しておく。先ほどの例でいえば、「通勤旅費交通費と出張旅費交通費を別々に表示させたい、経営判断に影響する重要な科目である」と経営者が考えるのであれば、少額であっても、そのように細分化すべきである。 しかし通常、少額科目は「重要でない」として、まとめることが多い。 会計士税理士の中には、経営者の意向に関係なく科目を細分化する者がいる。詳細な科目分類=精度の高い経理処理=顧客満足とは限らない。先述の通り、細分化は会社経費の特徴を見えづらくするし、見慣れない特殊な科目が含まれていると、金融機関の質問を呼び込むことになる。会計処理も煩雑となり、記帳代行を行っている場合、自身の首を絞めることになる。経営者のためにも、税理士自身のためにも、自己満足的細分化は避けるべきである。 * * * 損益計算書のポイントは以上である。次回は、貸借対照表について解説する。 (了)