女性会計士の奮闘記 【第31話】 「スケジュール作りは相手のタイプをよく見て」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ◆ワンポントアドバイス◆ 部門別損益表の作成など、経理の方々のマンパワーによるところが大きい仕事は、その担当者の力量や他の仕事とのバランスを考えてスケジュールを組んでいくことが大切です。 量的にも質的にも無理な仕事の依頼は、大きな負担となり、逆に進まなくなることがあります。 相手に合わせて仕事を依頼することも必要です。 (了)
《速報解説》 平成27年度税制改正を踏まえた 「法人税基本通達等の一部改正について」が公表 ~関連法人株式等の判定、地方拠点強化税制に係る新設規定、 リバースチャージ方式等の経理処理への対応も~ Profession Journal編集部 7月9日、国税庁ホームページにおいて、平成27年度税制改正を踏まえた以下の法人税関係の改正通達が公表された。 〇受配関係は「関連法人株式等の判定」に係る例示規定が新設 受取配当等の益金不算入制度については、平成27年度改正において持株比率基準・継続保有要件の見直し、益金不算入割合の見直しなどが行われている(くわしくは下記の連載を参照)。 この改正により新たに規定された「関連法人株式等」(株式等保有割合1/3超100%未満)の判定を行う場合の例示として、以下の規定が創設されている。 〇地方拠点強化税制のうち特定建物等の取得等に係る特別償却・税額控除関連で新設5項 平成27年度改正で創設された「第42条の12《地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除》」(制度概要はこちらを参照)に関しては、「中小企業者であるかどうかの判定の時期」や「圧縮記帳の適用を受けた場合の特定建物等の取得価額要件の判定」など、下記5項目が新設されている。 (※) この情報のみを取り上げた速報解説を後日公開予定。 その他、措置法通達関係では、研究開発税制の特別試験研究費の範囲見直し(特定中小企業者に対して支払う知的財産権の使用料が追加)に係る項目(42の4(3)-2)が追加され、また適用期限(平成27年3月31日)をもって廃止された「生産等設備投資促進税制」(旧措置法42の12の2)関連規定が削除されるなどの対応が行われている。 なお、所得拡大促進税制(措置法42の12の4)については平成27年度改正で雇用者給与等支給増加割合の法人区分ごとの要件見直しが行われたが(こちらを参照)、今回の改正通達では条文表記の変更のみとなっている。また昨年創設された生産性向上設備投資促進税制(措置法42の12の5)に関する通達の改正は行われていない。 〇特定課税仕入れに関する経理処理の取扱いで容認 今回の改正通達においては、いわゆる「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し」を受け、「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」(平成元年3月1日付直法2-1)の一部改正が公表されており、特定課税仕入れに該当する取引を行う際の消費税相当額の経理処理の取扱い(仮勘定を用いた方法の容認)を明らかにしている。 (※) この情報のみを取り上げた速報解説を後日公開予定。 なお上記の改正に関する消費税法基本通達等の改正はすでに6月上旬に公表されており、くわしくは下記を参照されたい。 (了)
タインズ(TAINS)の「税務雑誌目次検索システム」に 「プロフェッションジャーナル」の目次が追加されることになりました! TAINSとは、Tax Accout Information Network Systemの頭文字で、「税理士情報ネットワークシステム」の略称です。一般社団法人日税連データベースが運営されておられます。 非公開裁決・判決情報の検索などで、すでに多くの税理士の先生方がご登録・ご利用されておられますが、このTAINSには「税務雑誌目次検索システム」というコーナーがあり、各出版社が発行している税務専門誌に掲載された目次を、記事タイトルや著者名などで検索することができます。 そしてこのたび、このコーナーに、平成27年度中に本誌「プロフェッションジャーナル(Profession Journal)」の目次が収録される運びとなりました。 ※検索画面では「Profession J」 と表示されます。 長年発行を続けられておられる他誌のラインナップに加えていただくことは誠に光栄であり、関係者各位に改めて御礼を申し上げます。 今後、会員読者の方々にとって有用な情報をよりタイムリーにご提供できるよう尽力いたしますので、今後もご愛読くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
2015年7月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.127が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第31回】 「租税法の解釈における厳格性(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 今日の通説的理解として、「租税法においては厳格な解釈が要請される」とされているが、その厳格さにはどの程度のものが求められるのであろうか。また、そもそも、なぜ租税法の解釈に厳格さが求められるのであろうか。 ここでは、こうした「租税法解釈の厳格さ」について、種々の判例や学説等を踏まえ検証してみたい。 1 厳格な解釈の要請 (1) 厳格な解釈が要請される理由 法律の解釈には、文理解釈といって条文に記載されている文章を文法どおりに素直に読み解釈すべきとする解釈手法と、目的論的解釈といって、その法条の趣旨や目的に応じて柔軟に、時には条文の文章や概念の意味から離れて解釈を行うことも許されるべきとする解釈手法がある(この点は次回(その2)以降において詳述する)。後者に比べて前者は厳格な解釈であるといわれている。すなわち、ここにいう厳格さとは、条文の文章や用語に忠実に解釈をすることを意味している。概ね、文理解釈を指すものと理解してもよい。 以前は、租税法の文言に拘泥しすぎた文理解釈ではなく目的論的解釈をすることが租税法解釈として妥当であるとの立場の見解が強く論じられた時期もあるが、今日の租税法の解釈においては、文理解釈による厳格さが要請されるとの見解が通説的であるといえよう。 ここで、厳格さが要請される理由としては、大別し次の4つを挙げることができるだろう。 なお、これらは後述するとおり、相互に作用しあうものであって、必ずしも明確に区分できるわけではないことには留意しておきたい。 それらを踏まえた上で、以下、それぞれの性質を概観してみたい。 (2) 租税法が財産権の侵害規範であるため 租税法は国民の財産権の侵害規範であると考えられることから、国民の財産権保障の要請に対する配慮がなされなければならないことは当然の帰結である。租税法を厳格に解釈しなければならない理由として、この点が最も中心的に議論されてきた内容ともいえるだろう。 なお、この点については、次回(その2)「2 租税法における財産権の侵害規範性」の項目にて詳述する。 (3) 納税者の予測可能性を担保するため 次に、予測可能性の担保の要請の理解に当たっては、いわゆる「罪刑法定主義」の思想が参考になると思われる。 罪刑法定主義とは、国民の自由な行動を確保するため、刑法においてあらかじめ刑罰を科されるべき犯罪を明確にしておかなければならないという原則である。「法律なければ犯罪なく、法律なければ刑罰なし」という罪刑法定主義は刑法分野において当然の重要原則である。憲法31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰も科せられない」として、罪刑法定主義を要請している。 さて、わが国の租税法においては、租税法律主義(憲法84)の下、課税要件法定主義が求められ、その当然の帰結として、課税要件明確主義が要請されている。 課税要件法定主義とは、罪刑法定主義になぞらえて作られた原則であることから、租税法律関係においても、罪刑法定主義の議論が当てはまるのではないだろうか。すなわち、財産権保護の観点から予測可能性を担保することの要請が働くはずである。 たとえば、この点について金子宏教授は次のように述べられる。 また、この点に触れた判決は多々あるが、たとえば、いわゆる徴税トラの巻事件大阪地裁昭和42年5月11日判決(刑集31巻7号1135頁)は、次のように判示する。 また、そのほかにも、歯科技工業が消費税法施行令57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》5項3号に定める第三種事業(製造業)に該当するか否かが争点とされた事例である名古屋地裁平成17年6月29日判決(訟月53巻9号2665頁)では、次のように説示されている。 上記学説や判例からも分かるように、予測可能性の担保の要請は財産権保護の要請と親和性を有しているといえるだろう。 (4) 行政裁量の余地を否定し、恣意的な課税を防止する必要があるため 租税法律主義は、租税の分野における法治主義(法の支配)の現れである。そして、憲法84条は、「国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したもの」(旭川市国民健康保険条例事件最高裁平成18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587頁)というべきである。 したがって、租税法律主義の帰結として、法規の文言を離れ、無視し、又は文言を置換したり、付加することは許されないのであって、租税収入の獲得のため恣意的に法規を拡大して解釈したり、逆に納税者の利益のために縮小して解釈することは許されない、すなわち、租税法は厳格に解釈されなければならないという要請が働くのである。 なお、わが国では、租税法律関係を、「租税債務関係説」に基づいて性格づけている。租税債務関係説とは、「課税要件の充足によって法律上当然に租税債務が成立する」という考え方であるが、租税債務の成立に租税行政庁の判断が一切関与しない仕組みを採用しているといえるだろう。 (5) 自己に都合のよい解釈を許容せず、公平な課税を実現するため 最後に、租税法の解釈において厳格性が要請される理由として、租税の公平負担の側面を挙げることもできるだろう。 憲法14条の平等原則の下、各種の租税法律関係において国民は平等に取り扱われなければならないという考え方が導出されるが、公平性を保つためには租税法の解釈は統一されていなければならず、ここに解釈の厳格性が求められるのである。 たとえば、この点について、いわゆるスコッチライト事件大阪高裁昭和44年9月30日判決(判時606号19頁)は次のように判示し、厳格なる法規の執行義務をもって、全国均一の課税が実現するとの立場を明らかにしている。 (続く)
消費税の軽減税率を検証する 【第3回】 「付加価値税の世界標準」 税理士 金井 恵美子 Ⅰ 付加価値税の世界標準 公明党のホームページには、「軽減税率導入は世界の趨勢」と題したトピックがあり、ここでは、 と説明し、消費税率10%への引上げと同時に複数税率制度に移行し、食料品などの税率を8%(※1)に据え置くことを求めている。 (※1) 公明等の山口那津男代表は平成26年12月4日、「現実に機能している8%が実務的にも1つの基準になる」と語り、対象品目を現在の8%に据え置くことも選択肢との考えを示した。 (1) 付加価値税第一世代 フランス、ドイツ、イギリス等の付加価値税は、その始まりから複数税率制度を採用している。ただし、それは、逆進性の緩和、あるいは低所得者のための施策というよりは、付加価値税の前身が取引高税であることに由来するところが大きい。 EUにおいては、付加価値税の基本的な枠組みは、1977年のEEC第6次指令によるのであり、この第6次指令を受けての1992年の指令、その後の2006年指令が付加価値税率を規定している。 その骨子は次のとおりである(※2)。 (※2) 矢野秀利ほか『消費税軽減税率の検証』(清文社、2014年)151頁〔矢野秀利〕。 EUにおいては、価格競争の点からも、軽減税率を導入せざるを得ない事情がある。 たとえばデンマークは、EUにあって、唯一、単一税率制度をとる国である(ただし、新聞にはゼロ税率を適用している)が、隣国(スウェーデン等)と競争関係にあるホテル業界、レストラン業界からは、軽減税率適用の要望が大きい(※3)。 (※3) 税制調査会海外調査報告(平成16年9月)。 このように、理由はともかくとして、複数税率はヨーロッパの常識である。 (2) 付加価値税第二世代 しかし、後発の国々では単一税率制度を採用している場合が多く、IMFの調査によれば、1990年より前に付加価値税を導入した48ヶ国のうち、複数税率を採用している国は36ヶ国(75%)であるが、1990年から2001年4月の間に付加価値税を導入した77ヶ国のうち、複数税率を採用している国は20ヶ国(26%)である(※4)。 (※4) Ebrill et. al., The Modern VAT, Washington, D.C.; International Monetary Fund, 2001, p.69. このような状況について、マーリーズ・レビュー(前回参照)は、「他国はEUの経験からEUが学ばなかった教訓を学んでいるようだ。」(※5)としており、複数税率による制度の歪みに苦慮する付加価値税第一世代の国の研究者が、単一税率を選択した第二世代の付加価値税を高く評価していることが分かる。 (※5) 社会保障改革に関する集中検討会議第9回(平成23年5月30日)資料3-7。 (3) 標準税率と軽減税率 EUの指令にもみられるように、多くの場合、軽減税率を持つ国の標準税率は20%あるいはそれを超える。世界ではおよそ150の国が付加価値税を導入しているが、そのうち標準税率が10%程度の水準で食料品に軽減税率を適用する国は、スイス、カナダ、オーストラリアなどごくわずかしかない。日本が、10%の標準税率で8%の軽減税率を導入すれば、それは世界でも特別に珍しい税制を構築することになる。 Ⅱ 付加価値税の効率性 付加価値税の効率性を示す指標に、OECDが2008年の「Consumption Tax Trends」から用いているVRR(VAT Revenue Ratio)がある。また、2006年の「Consumption Tax Trends」においては、C-効率性(C-efficiency ratio)が示されている。 これらの指標は、すべての国内消費に標準税率で課税した場合の税収に対する実際の税収の比率である。 付加価値税の制度の効率性は、3つの主要な要因、①税率構造等(税率、非課税、課税ベース、免税点)、②課税当局の執行能力、③納税者の法令遵守の程度、による。 したがって、VRR又はC-効率性の低さが、課税ベースの狭さによるものか、コンプライアンスの低さによるものかの判別は不可能であるが、高い標準税率は脱税を誘引する可能性があるし、複数の税率の存在には適用税率の誤りが伴う。また、複数税率制度においては、単一税率制度に比べてコンプライアンスコストと執行コストが高くなる。 国ごとのVRRとC-効率性は、ほぼ同じ水準を示しており、複数税率の国は数値が低く、高い数値を示す単一税率の国に比べて効率が悪い。単一税率であり、非課税のほとんどないニュージーランドの効率性は世界で1位であり、マーリーズ・レビューに対するコメント報告書の中では、 という認識を示し、今後他国も参考にすべきと指摘している(※7)。 (※6) 付加価値税は、Value Added Taxを略してVATと表記するが、ニュージーランドでは、第一世代のVATと明確に区別するために、財貨サービス税 Goods and Services Taxとし、GSTと略している。 (※7) 森信茂樹ほか『マーリーズ・レビュー研究会報告書』(企業活力研究所、平成22年)174頁〔森信茂樹〕。 IMFスタッフは、平成19年5月の税制調査会におけるプレゼンテーションで、日本は単一税率とC-効率性が高いという特徴を有する「最も良くデザインされた付加価値税制をもっている」と評価しており(※8)、平成23年の財務省財政制度分科会会議のプレゼンテーションにおいても、そのような評価を基礎として、消費税率の引上げが財政健全化のための有力な選択肢であるとしている(※9)。 (※8) 税制調査会第10回企画会合・第5回調査分析部会合同会議(平成19年5月17日)政府税制調査会に対するIMFスタッフによるプレゼンテーション資料「グローバル化する経済の中での税制の課題(仮訳)」21頁。 (※9) 平成23年9月8日財務省財政制度分科会議事録。 Ⅲ 軽減税率導入の効果 消費税は、最低生計費に手を出す税であることを織り込んだ上で、大いにその特徴を発揮することを期待されて用いられた税制全体の中のパーツである(第1回参照)。 果たすべき役割を支える「公平、中立、簡素」という特徴は、単一税率であることによってもたらされるのであり、複数税率制度に移行すればその特徴の多くが失われることとなる。軽減税率には、その犠牲に優る必要と効果が存在するのだろうか。 消費税の税率引上げの議論は、政治に大きな影響を与え続け、その実行には立法者と国民双方に相当の勇気と覚悟が必要であった。それにもかかわらず、税制抜本改革法が成立したのは、巨額の財政赤字を修復するための税収確保に迫られたからであり、そのような中、低所得者対策は、最小限のコストで最大限のパフォーマンスを期待することができる施策によらなければならない。 (了)
「結婚・子育て資金の一括贈与に係る 贈与税非課税特例」の活用ポイント 【第4回】 (最終回) 「相続税対策としての有効性」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 本連載最終回となる今回は、結婚・子育て資金贈与特例について、「相続税対策」という観点から、その有効性について検証を行う。 1 結婚・子育て資金贈与特例の相続税対策としての有効性 信託等があった日から結婚・子育て資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合には、当該死亡の日における非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額については、受贈者が贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなして、当該贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算する。 したがって、結婚・子育て資金贈与特例を適用して子・孫へ贈与した場合でも、未利用残高がある時点で、贈与者が死亡した場合には、相続税の課税対象となる。 一方、住宅取得等資金贈与特例(措置法70の2)、教育資金贈与特例(措置法70の2の2)は、それらを適用して贈与した金銭については、贈与者の死亡時に、相続税の対象とはならない。 この点からは、住宅取得等資金贈与特例・教育資金贈与特例と比較して、結婚・子育て資金贈与特例については、相続税対策としては有効性が乏しいと判断される。 ただし、結婚・子育て資金贈与特例については、2割加算不適用、3年以内贈与加算不適用とされているため、遺言で現預金1,000万円遺贈し、かつ、生前に毎年現預金を贈与することを行う場合には、結婚・子育て資金贈与特例を適用することで、結果として、相続税節税となる効果も見込める。 具体的なケースで説明を行うこととする。 2 結婚・子育て資金贈与特例が相続税対策として有効であると考えられるケース 上記の具体例で明らかなように、結婚・子育て資金贈与特例は、結婚・子育て資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合には、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額が相続税の対象になるため、相続税対策という意味では、住宅取得等資金贈与特例・教育資金贈与特例と比較して、効果が乏しいこととなる。 ただし、結婚・子育て資金贈与特例には、相続前3年以内贈与加算の不適用、相続税2割加算の不適用という、相続税の節税効果はあるため、その点を理解して、活用するか否か、検討を行う必要があるであろう。 (連載了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第4回】 「欠損金の繰越控除制度の見直し(その3)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [3] 連結欠損金の繰越期間の延長 1 改正内容 (1) 繰越期間の延長 平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度において生じた連結欠損金から、繰越期間を10 年(改正前9年)に延長する(法法81の9①)。 (2) 帳簿保存要件 繰越期間の延長に伴い、連結欠損金の繰越控除制度の適用に係る帳簿書類の保存要件について、その保存期間を10年(改正前9年)に延長する(法規37の3の2①)。 (3) 欠損金額に係る更正の期間制限 繰越期間の延長に伴い、法人税の欠損金額に係る更正の期間制限及び更正の請求期間を10年(改正前9年)に延長する(国通23①、70②)。 2 適用時期 平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度において生じた連結欠損金額について適用される(平成27年所法等改正法附則30①)。 [4] 事業税に係る繰越欠損金の繰越控除制度の見直し 連結納税適用法人についても、事業税については単体納税が適用されることとなるが、事業税に係る繰越欠損金についても法人税に係る繰越欠損金と同様に控除限度額(平成27年4月1日から平成29年3月31日の間に開始する連結事業年度は個別所得金額の65%、平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度は個別所得金額の50%)及び繰越期間(平成29年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度において生じた欠損金額から10年)が改正されることとなる(地法72の23①③④、地令20の3②③、21①、平成27年地法改正法附則1ハ、9⑦)。 [5] 控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額の 繰越控除制度の見直し (1) 控除対象個別帰属調整額 控除対象個別帰属調整額は、連結納税開始又は加入に伴い切り捨てられた連結納税開始又は加入前の繰越欠損金額に連結子法人の最初連結事業年度終了日における連結法人税率を乗じて計算することとなるが、平成27年4月1日以後に開始する連結事業年度から連結法人税率が引き下げられたことに伴い、控除対象個別帰属調整額を計算するための連結法人税率も23.9%(改正前25.5%)に引き下げられることとなる(地法53⑥、81の12①)。 また、平成29年4月1日以後に開始した連結事業年度から、同日以後に開始した事業年度において生じた連結納税開始前又は加入前の繰越欠損金に係る控除対象個別帰属調整額の繰越期間が10年に延長された。 具体的には、平成29年4月1日以後に開始した連結事業年度から、当連結事業年度開始日前10年以内に開始した事業年度において生じた繰越欠損金(平成29年4月1日以後に開始した事業年度において生じた繰越欠損金に限る)に係る控除対象個別帰属調整額が個別帰属法人税額から控除されることとなる(地法53⑤、321の8⑤、平成27年地法改正法附則1八・7④・16⑤)。 したがって、控除対象個別帰属調整額の繰越期間については、繰越欠損金の発生事業年度に応じて次のとおりとなる(地法53⑤、321の8⑤、平成23年12月地法改正法附則6④・9④、平成27年地法改正法附則1八・7④・16⑤)。 (2) 控除対象個別帰属税額 平成29年4月1日以後に開始した連結事業年度から、同日以後に開始した連結事業年度において生じた控除対象個別帰属税額の繰越期間が10年に延長された。 具体的には、平成29年4月1日以後に開始した連結事業年度から、当連結事業年度開始日前10年以内に開始した連結事業年度において生じた控除対象個別帰属税額(平成29年4月1日以後に開始した事業年度において生じたものに限る)が個別帰属法人税額から控除されることとなる(地法53⑨、321の8⑨、平成27年地法改正法附則1八・7④・16⑤)。 したがって、控除対象個別帰属税額の繰越期間については、発生連結事業年度に応じて次のとおりとなる(地法53⑨、321の8⑨、平成23年12月地法改正法附則6④・9④、平成27年地法改正法附則1八・7④・16⑤)。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第30回】 「非公開裁決事例①」 公認会計士 佐藤 信祐 第30回目以降は、TAINSに収録されている非公開裁決事例を紹介することとする。 今回、紹介する事件は、不動産を譲り受けた際に譲渡人に支払った未経過固定資産税等相当額(当該不動産に係るその譲受けの年度の固定資産税及び都市計画税のうち当該不動産の引渡日以後の所有期間分に相当する額をいう)が、不動産の取得価額に含まれるかどうかについて争われた事件である。 組織再編においても、会社分割や事業譲渡において、未経過固定資産税をどのように取り扱うべきかという点が論点となるが、その前提となる論点として重要であると考えられる。なお、類似の事件として、平成17年4月19日裁決(TAINSコード:F0-2-481)があるため、興味のある読者はそちらも参照されたい。 15 平成25年8月30日裁決(TAINSコード:J92-3-14) (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、土地及び建物を譲り受けた際、当該土地及び建物に係る未経過固定資産税相当額を、当該土地等の譲渡人に支払ったうえで、当該未経過固定資産税相当額を損金の額に算入したところ、原処分庁が、当該未経過固定資産税相当額は、当該土地及び建物の取得価額に含むべきであるとして、法人税の更正処分等をしたことに対し、請求人が、当該未経過固定資産税相当額は租税公課そのものであり、当該土地及び建物の取得価額に含むべきものではないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事件である。 本事件の争点は2つである。 (2) 【争点1】の当事者の主張 ① 原処分庁の主張 本件精算金は、①本件契約書第8条の定めにより生ずる債権債務関係に基づく売買条件の一つとしての支払であり、本件不動産の売買と因果関係が認められること、②1回限りの負担であり、一過性の支払であること、③本件不動産を取得するまでに支出されたものであること、④本件不動産の取得に必要不可欠な支出であり、その支出の効果が発現する時期は本件不動産の取得時であることから、取得原価性を有するものである。 本件精算金の本質が固定資産税等そのものではない理由として、地方税法の規定によれば、固定資産税等は、その賦課期日である毎年1月1日現在において、固定資産課税台帳に所有者として登録されている者に対して課されるものであり、賦課期日後に所有者に異動が生じたからといって、課税関係に変動が生じるものではなく、賦課期日後に資産の所有者となった者が当該年度の固定資産税等の納税義務を負うことはない。したがって、固定資産税等を納めた売主が買主に対して、当該資産の引渡日以後の期間に対応する固定資産税等、すなわち未経過固定資産税等相当額の求償権を取得することにはならない(下線は著者が加筆)。 ② 請求人の主張 本件精算金の本質は、役務等の対価ではなく、固定資産税等を日割り負担したものに過ぎず、下記(ロ)のとおり、固定資産税等そのものであることから、①資産使用の如何にかかわらず取得の結果発生する維持管理費用であり、②取得の結果生じる納税義務を果たす対価であり、資産購入のためという直接的な因果関係のある費用でなく、③資産を所有する限り、その後も固定資産税等は支払い続けるので一過性のものでもない 本件精算金の本質が固定資産税等そのものではある理由として、1月1日現在の所有者に固定資産税等が課税され、年の中途で所有者が移転した場合、売主は買主に対して日割りした分の未経過固定資産税等相当額につき不当利得返還請求できる。これは、要するに、売主が求償権を有するのと同じことであり、買主にとっては固定資産税等の支払義務(精算義務)が生じるということである(下線は著者が加筆)。 (3) 【争点2】の当事者の主張 原処分庁は、消費税法基本通達10-1-1、10-1-6を根拠とした主張を行っているが、【争点1】が明らかになれば、自ずと【争点2】の結論も明らかになるため、本稿においては、詳細な解説は省略する。なお、後述する国税不服審判所の判断についても同様とする。 (4) 国税不服審判所の判断 地方税法第343条及び同法第359条の規定によれば、固定資産税は、その賦課期日である毎年1月1日現在において、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者に対して課されるものであり、賦課期日後に所有者に異動が生じたからといって、課税関係に変動が生じるものではなく、賦課期日後に資産の所有者となった者が当該年度の固定資産税の納税義務を負うことはない。また、当該規定によれば、固定資産税は、年度ごとに課されることとされており、いつからいつまでの租税という期間の概念はないものと認められる。したがって、当該資産の売買当事者間において、未経過分の固定資産税相当額の授受をしたとしても、それはあくまでも合意された売買契約上の取引条件として行ったものに過ぎず、固定資産税の納税義務を負担したとみることはできない。なお、上記の解釈は、都市計画税についても同様である。 譲受人が未経過固定資産税等相当額を負担したとしても、上記イの(ロ)のとおり、譲受人は当該固定資産に係る固定資産税等の納税義務を負うものではないから、未経過固定資産税等相当額が租税公課そのものであるということはできない。 なお、売買当事者間で合意に基づき授受された未経過固定資産税等相当額は、あくまでも合意された売買の取引条件の一つであり、当該条件を満たさないことには売買取引そのものが完了しないと考えられるから、当該未経過固定資産税等相当額は「取得関連費用」ではなく、「狭義の購入の代価」に該当するというべきであり、取得関連費用に該当する旨の原処分庁の主張は相当でない。 (5) 評釈 このように、「取得関連費用」であるとする原処分庁の主張は退けたものの、「狭義の購入の対価」に該当するという理由により、結論としては、原処分庁の更正処分を認める形となっている。たしかに、取得関連費用と位置付けるよりも、取得の対価そのものであるとすることにより、固定資産の売買価額の一部として位置付けることができるため、こちらの方が自然な解釈であると考えられる。 これを前提にすると、国税不服審判所が指摘したように、未経過固定資産税等相当額を売買契約書に記載するのか、それとも別途精算するのかについては、単なる形式的な話となってしまい、いずれにしても、法人税法上、固定資産の取得原価に算入すべきであるという結論になり、消費税法上、課税仕入れの対価の額に含めるべきであるという結論になる。 さらに、売買当事者が固定資産税等の調整と認識していたとする請求人の主張に対しては、「私人間の合意や認識によって租税公課の納税義務者が変更されることはない」とし、不当利得返還請求権に関する裁判例を用いた請求人の主張に対しても「当該裁判例は未経過固定資産税等相当額が固定資産の取得価額に含まれるか否かを判断したものではなく、本件とは事案を異にし前提を欠くため採用でき」ないものとして一蹴している。 このような国税不服審判所の判断については、現在の税実務に照らし合わせても相当であると考えられる。 法人税法上、建物の取得価額については、法人税法施行令54条に規定されており、土地の取得価額については特段の規定がないことから、法人税基本通達7-3-16の2に従い、この規定を準用することになる。なお、この取扱いについては、我が国における会計慣行とも合致している。 地方税法の規定により、1月1日に固定資産を有していた者が固定資産税の納税義務者になることから、譲渡人と譲受人との間で未経過固定資産税相当額を精算することになるが、国税不服審判所が指摘したように、「あくまでも合意された売買の取引条件の一つであり、当該条件を満たさないことには売買取引そのものが完了しない」という理由から、「狭義の購入の代価」であると考えられる。 なお、本事件と類似の事件として、平成14年8月29日裁決事例、平成24年3月13日裁決事例、平成24年7月5日裁決事例が存在するが、国税不服審判所のHPで閲覧することができるため、興味がある読者は閲覧されたい。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第30回】 「合併後の源泉所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、平成27年7月1日に100%子会社であるA社を吸収合併しました。A社は、源泉所得税の納期の特例の承認を受けています。A社の平成27年1~6月分の源泉所得税及び復興特別所得税50万円は、平成27年6月30日時点で未納です。この50万円は、A社が平成27年7月10日までに納付すべきところ、合併により消滅してしまったため、どうすればよいかわかりません。 合併後の源泉所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 法人が合併した場合には、合併後存続する法人は、合併により消滅した法人に課されるべき、または、合併により消滅した法人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継する(通則法6)。 今回のケースにおいては、当社はA社の源泉所得税及び復興特別所得税の納税義務を承継する。 したがって、当社の源泉所得税及び復興特別所得税にA社の源泉所得税及び復興特別所得税50万円を加え、平成27年7月10日までに納付しなければならない。 (了)