[子会社不祥事を未然に防ぐ] グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第12回】 (最終回) 「海外子会社の内部統制システムとコンプライアンス強化」 ~親会社視点での国内子会社との相違点・留意点等~ 弁護士 遠藤 元一 1 海外子会社のコンプライアンス・リスク 2015年に公表された経済産業省「第44回海外事業活動基本調査概要-平成25(2013)年度実績-」(2015年4月)からも明らかなとおり、世界的なグローバリゼーションの潮流が日本企業にも及び、製品やサービスの輸出を積極的に推進する形態から、海外企業と合弁会社や完全子会社を設立したり、既に設立された会社をM&A等で子会社・関連会社化しそれらを通じて製品・サービスを供給する等、グローバル展開が本格化している。 現地の会社との合弁会社を組成する場合、あるいは設立後に出資比率が過半数となると、連結子会社となり連結監査の対象に含まれることになる。海外子会社を含めたグループ会社のコンプライアンス体制の重要性が高いことはいうまでもなく、海外子会社に対するコンプライアンス体制をどのように構築・運用するかは、わが国親会社にとって喫緊の課題である。 しかし、海外のグローバル企業がグループ会社に対するコンプライアンス体制を確立しているのに比べると、日本企業の海外子会社・連結会社に対するコンプライアンス体制は相対的に脆弱であり、モニタリング・内部通報体制等も必ずしも実効的に機能していないという声が、企業側からも、監査法人の側からも聴かれる。 2 海外子会社と国内子会社との相違点等 海外子会社の管理においても、国内子会社と同様、リスクベースド・アプローチによりリスクを洗い出して対応策を講ずることが基本となる。 ただし、海外子会社は国内子会社と異なり、①文化的背景が異なり、独自の価値観に基づく企業文化が形成されやすく、国内で形成されているコンプライアンス重視等の企業文化が共有されていないことも少なくない、②インフラストラクチャーの断絶、労働争議、大気汚染・水質汚濁、環境規制、交通事故等、国内子会社と同じリスクであっても、リスクが顕在化・発生する頻度が高い場合がある、③製造物責任、リコール、セクハラ・差別に関わる労働問題等、リスクが発生した場合の被害が国内子会社と比べ増大化し、深刻な影響を及ぼす可能性が高い場合がある、④大規模テロ、海賊行為等、国内子会社とは異なるリスクが顕在化・発生する可能性があるとの相違点がみられる、⑤海外子会社の上記①~④のリスク、複雑さを考慮した国内子会社以上の網羅的かつ深堀りした会計監査が必要であるにもかかわらず、実際は必ずしもそれが徹底されないまま、日本の親会社によるコンプライアンス監査が業務監査、経営監査という括りで現地経営の課題を指摘することに留まりがち、といった傾向がみられる。 さらに、競争法や贈賄規制法の領域では、グローバルな域外適用や執行が強化され、例えば、海外腐敗防止法(The Foreign Corrupt Practices Act of 1977、FCPA)は、【1】法令違反行為を実効的に捕捉・摘発する組織的体制を有する規制当局が租税当局等や先進諸国の規制当局、金融機関・競合者・取引先等からの情報提供・協力により情報や証拠を収集しうる体制が整備され、【2】盗聴・おとり捜査・司法取引等、法執行のための多様なエンフォースメント手段やそれとは別の制裁性の強い損害賠償制度を有し、【3】法執行状況も罰金の水準がわが国に比較して高く、【4】国・地域によっては、企業に対する罰金のみならず実行行為を行った担当者個人さらには企業の取締役も収監され、執行猶予のない禁固刑を科すなど厳罰化の傾向がみられ、【5】海外子会社のみならず国内子会社・親会社も域外適用の対象となるため、海外での正当な営業関連活動まで過度に委縮しているとの指摘もある。 このような特徴を有する競争法・贈賄規制法違反リスクを適正に制御して正当な営業活動を行う環境を整備する観点(「『日本再興戦略』改訂2015」第3章・第4章参照)に立ち、日本の親会社は、対応策の整備を海外子会社に委ねるのではなく、日本の親会社自らがリスクベースド・アプローチによりリスクを検出して、子会社全てについて統一的な指針を構築し、それを海外子会社に導入させ、統一的に管理を行うことが重要である。 3 「コード・オブ・コンダクト」及び「グローバルポリシー」の策定及び浸透 2で整理したような国内子会社と異なる海外子会社の特徴及び法規制の相違等を踏まえて、コンプライアンス体制を構築する手順を考えてみよう。 第1の段階は「コード・オブ・コンダクト」の制定である。 コード・オブ・コンダクトとは、各企業にとって特に重要な行動基準・基本原則を全社的に的確に伝達・周知することを目的として制定される行動規範のことをいい、「行動指針」や「コンプライアンスマニュアル」等、様々な名称で呼ばれている。 親会社及びグループ会社の事業・規模・地域、取引形態等に含まれるコンプライアンス・リスクの棚卸しを行い、各リスクの発生可能性・影響度及びそれらを踏まえた重要性を評価し、重要性・優先順位が高いリスクの中から、基本方針・基本原則として、海外子会社を含め全社的に浸透・周知すべき事項を整理したうえで「コード・オブ・コンダクト」を制定することが、その出発点となる。 行動規範は、的確にコミュニケーション(情報の伝達と共有)できるように「わかりやすく、理解できるもの」として整理・表現することが肝要である。 次の段階は「グローバルポリシー」の策定である。 グローバルポリシーとは、グループ企業内の共通言語・指標となる管理方針・規程のことをいい、国内子会社と異なる様々な特徴を有する海外子会社の役職員が遵守すべき具体的な管理方針や規程を明らかにすることで、グローバルベースでのリスク管理体制やコンプライアンス体制を構築することが可能となる。 策定すべき具体的なものとしては、 グローバル経営管理方針 (贈賄防止、競争法等対応を含めた)グローバルリスクマネジメント方針 グローバルセキュリティ規程 IFRSのグローバル規程 等が挙げられるが、その位置付けやグループ会社への強制力、対象範囲等を事前に十分協議して、必要なポリシーを明確に定義・体系化すること、また、海外子会社毎のエリア・業態等に応じて具体的に実務として落とし込ませ、浸透させるための仕組み(発信、教育、CSA)を整備し、PDCAを回して根付かせ、浸透させることが重要である。 上記のうち、域外適用や執行強化が著しく、コンプライアンス・リスクが極めて懸念される領域である贈賄防止、競争法等については、策定したグローバルポリシーに基づきリスクベースド・アプローチをより徹底し、子会社の事業・規模・地域、取引形態等に含まれるコンプライアンス・リスク及び関連する法令を網羅的に洗い出し、それらのリスクに適正に対処しうる対応策を整備ずる必要がある。 4 現地法人管理要員、現地の外部専門家との連携強化 連結対象の海外子会社については、親会社から子会社の役職員を派遣し、派遣した役職員を通じて、親会社は、親会社としての当該海外子会社の管理を行う。 ただし100%子会社でない限り、他の出資者との利益相反等の問題から、親会社の意向や方針は尊重しつつも必ずしもそれに沿うことができないケースも生じ得る。合弁会社で生じ得るこのような問題に適正に対処するために、当該エリア・国に設立された複数の事業会社の管理・運営をサポートする現地法人を設立しておき、その現地法人管理会社の役職員を海外子会社の非常勤役員として派遣するというやり方が有用な方法の1つとして考えられる。 また、海外子会社には、わが国とは異なる現地の様々な諸法令や現地特有の会計処理が存在する。親会社が海外の諸法令や会計処理を網羅的・統一的に把握し、モニターすることは著しく困難であるため、海外子会社が独自に(必要に応じて現地の信頼できる法律事務所や監査法人等の専門家と連携する等して)対応策を整備し、親会社がそれを事後的にその適正さをチェックする手法をとるというやり方をとることになる。 当該エリア・国に新たに進出する企業の場合には、既に同じエリア・国に進出している日本企業からアドバイスを受けたり(国内では競争関係にある同業他社であっても、海外では同朋意識等から有効で緊密な連携をとることが多い)、日本貿易振興機構(JETRO)等の公的機関に相談する等して、現地における企業経営のノウハウや専門家とのネットワークを構築することが重要であろう。 (連載了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《有価証券》編 【第2回】 「満期保有目的の債券」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 「中小企業会計指針」では、有価証券は保有目的の観点から、①売買目的有価証券、②満期保有目的の債券、③子会社株式及び関連会社株式、④その他有価証券の4つに分類し、それぞれの分類に応じた貸借対照表価額とします。 今回は、②満期保有目的の債券の貸借対照表価額及び会計処理をご紹介します。 1 取得日(×1年1月1日)、×1年12月末、×5年12月末における仕訳 (ⅰ) 取得日(×1年1月1日) (ⅱ) ×1年12月末 [利払日] [償却原価法による評価替] (ⅲ) ×5年12月末 [利払日] [償却原価法による評価替] [償還] 満期保有目的の債券とは、満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券(満期まで所有する意図をもって取得したものに限る)をいいます。 満期保有目的の債券は、取得価額と額面金額の差額が金利の調整と認められる場合には、償却原価法により処理し、それによる差額は当期の損益(営業外損益)として処理します。それ以外の場合には、取得原価をもって貸借対照表価額とします(中小企業会計指針19)。 2 決算書の金額 3 法人税法の規定における満期保有目的等有価証券(参考) 法人税法の規定による満期保有目的等有価証券とは、中小企業会計指針の分類でいう満期保有目的の債券だけでなく、子会社株式及び関連会社株式も含まれた定義とされています(法令119の2)。 満期保有目的の債券に相当する法人税法上の定義は、償還期限の定めのある有価証券(売買目的有価証券に該当するものを除く)のうち、その償還期限まで保有する目的で取得したものとして、その取得の日に「満期保有目的債券」等の勘定科目により区分した有価証券です。 子会社株式及び関連会社株式に相当する法人税法上の定義は、法人の特殊関係株主等がその法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の20%以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合における、その特殊関係法人等の有する株式又は出資をいいます。 (了)
改正労働者派遣法への実務対応 《派遣元企業編》 ~人材派遣会社は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第3回】 「労働者派遣契約等の見直し」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【第3回】は、労働者派遣契約等の見直しについて検討する。 1 変更すべき書類 今回の改正により、派遣元が変更して整備すべき主な書類は、「労働者派遣契約」、「派遣先への通知書」、「派遣元管理台帳」、「就業条件明示書」の4点となっている。 「労働者派遣契約」については、「改正労働者派遣法への実務対応《派遣先企業編》】【第4回】でその内容を確認したため、ここでは、「派遣先への通知書」、「派遣元管理台帳」、「就業条件明示書」について変更すべき事項を確認する。 (1) 派遣先への通知書 これまで、年齢については、45歳以上である場合はその旨を、18歳未満である場合はその年齢を通知する必要があったが、これらに加えて、期間制限の対象外となる「60歳以上の者であるか否かの別」が追加されている。 なお、社会保険・雇用保険に関する被保険者資格取得届の提出の有無については、改正前より通知が必要だったが、改正後は、当該通知に加えて被保険者証の写し等の加入させていることがわかる資料を派遣先に提示又は送付が必要となる。 (2) 派遣元管理台帳 派遣元管理台帳に記載しなければならない事項として、以下の6項目が追加されている。 ① 無期雇用派遣労働者か有期雇用派遣労働者かの別、有期雇用派遣労働者の場合は労働契約の期間 ② 60歳以上の者であるか否かの別 ③ 組織単位 ④ 段階的かつ体系的な教育訓練を行った日時とその内容に関する事項 ⑤ キャリアコンサルティングを行った日時とその内容に関する事項 ⑥ 雇用安定措置の内容 (3) 就業条件明示書 就業条件明示書に記載しなければならない事項として、以下の4項目が追加されている。 ① 組織単位 ② 派遣労働者個人単位の期間制限の抵触日及び派遣先の事業所単位の期間制限の抵触日(期間制限のない労働者派遣に該当する場合はその旨) 抵触日と合わせて、派遣先が派遣期間の制限に違反して労働者派遣を受けた場合は労働契約の申込みをしたものとみなされることを併せて明示することとされている。 ③ 派遣先が、労働者派遣の終了後に、当該派遣労働者を雇用する場合に、その雇用意思を事前に労働者派遣をする者に対し示すこと、当該者が職業紹介を行うことが可能な場合は職業紹介により紹介手数料を支払うことその他の労働者派遣の終了後に労働者派遣契約の当事者間の紛争を防止するために講ずる措置 ④ 健康保険被保険者資格取得届等の書類が行政機関に提出されていない場合は、その理由 (※) (1)派遣先への通知書の記載例②を参照 2 確認体制 労働者派遣契約も含めた書類については、一般的には派遣元で準備することとなるため、契約書等の統一のフォーマットを法改正に対応した形で作成し、労働者派遣に係る書類として常に使用すれば、項目等の漏れを確認する体制を構築する必要は特にない。ただし、派遣元管理台帳については、項目はあっても中身が記載されていないということが考えられるため、きちんと更新をして整備する体制が必要となる。 これらの必要な書類をシステムを導入して作成することもあるが、この場合システムの改修に一定の期間が必要となるため注意が必要となる。 3 対応スケジュール 労働者派遣契約については、平成27年9月30日以降に締結する契約から項目の追加が必要となる。派遣先への通知についても同様となる。 派遣元管理台帳については、平成27年9月30日以降に作成すべきものから項目の追加が必要となる。 なお、派遣元管理台帳は、労働者派遣を実施する都度作成するものであるため、平成27年9月30日以降に新たに実施した労働者派遣に関するものだけでなく、改正前より引き続き実施している労働者派遣に関するもの(平成27年9月30日以降の分)についても、項目の追加が必要となる。 * * * 次回(最終回)は、事業報告等への対応について検討する。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例3】 AppBank株式会社 「過年度に係る決算短信等(一部訂正)の公表について」 (2016.2.17) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、AppBank株式会社(以下「AppBank」という)が平成28年2月17日に開示した「過年度に係る決算短信等(一部訂正)の公表について」である。 過年度の決算短信等の一部を訂正し公表するという内容であり、同日に以下の適時開示も行っている。訂正の内容は、外注費に計上していた額を長期未収入金に振り替えたうえで、その長期未収入金の全額に対して貸倒引当金を計上するというものである。 2 訂正に至った経緯 AppBankによる適時開示の流れから今回の訂正に至った経緯を見ると、下表のとおりである。 架空の外注費を計上し、その代金を自身の懐に入れるという、同社の元役員による横領が判明した。そして、架空の外注費は、その元役員に対する長期未収入金に振り替える、また、その長期未収入金の回収も難しそうであるため、その全額に対して貸倒引当金を計上するという訂正が必要になったのである。 なお、同社は、この元役員を東京地検特捜部に刑事告訴し、受理されたという内容の「当社の元役員に対する刑事告訴について」を平成28年3月14日に開示している。 3 AppBankの管理体制 AppBankは平成27年10月15日に東京証券取引所マザーズ市場に上場したのだが、上場後、平成27年12月10日の「当社元役員による業務上横領の疑いについて」までの間に下表のような適時開示を行っている。 平成27年10月15日の「業務関連データの外部流出について」と平成27年12月7日の「業務関連データの外部流出についての経過報告」は、同社の業務関連データの一部が不正に外部へ持ち出された可能性があることが判明したというものであり、平成27年10月16日の「(訂正)「主要株主の異動に関するお知らせ」の一部訂正について」は、平成27年10月16日に開示した「主要株主の異動に関するお知らせ」を同日中に訂正するというものである。 同社の社内調査委員会の調査報告書でも指摘されているが、これらの適時開示からは、同社の管理体制に問題がなかったとは言い難いことがわかる。 4 監査・上場審査の問題 こうした事例が起きると、「監査法人は何をしているのだ!」「証券取引所による審査は機能しているのか?」といった声が出てくる。監査や上場審査に問題があったのだろうか。 AppBankの社内調査委員会の調査報告書によると、同社の「監査の状況」は次のようなものであった(DTTは、同社の監査人である有限責任監査法人トーマツ)。 そして、同報告書は、次のとおり、「監査人の責任」は無かったとしている。 基本的に監査は、対象となる会社から提供される情報に基づいて行われる。そのため、会社が、監査法人をだまそうと考え、嘘の情報を出してきたり、すべての情報を出してこなかったりすると、監査法人は不正を見抜くことができない場合がある。上場審査も同様である。 監査法人も証券取引所も、可能な限り懐疑心を発揮して、不正を見抜くように努めるべきであるが、どうしても監査と上場審査には限界がある。その点については留意しておかなければならないだろう。 なお、AppBankの元役員による横領は、実は税務調査の過程で見つかったものである。監査と上場審査では見抜くことができなかった不正を税務調査は見抜くことができたのであるが、だからといって、税務調査は監査や上場審査よりも優れているということにはならないだろう。それらは、目的も、手法も、実施者の権限も(監査法人や証券取引所に権限など無い)、すべてが異なるものである。 ちなみに、同社は、平成28年3月10日に「公認会計士等の異動に関するお知らせ」を開示し、監査法人が有限責任監査法人トーマツから明治アーク監査法人に異動するとしている。「異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」には、次のように記載されているだけであり、本当の理由はわからない。 5 再びIPO冬の時代到来か? IPO(新規株式公開)の数は、2006年のライブドアショック、2008年のリーマンショックを経て、2009年の19社まで減少したものの、その後は回復しつつある。しかし、こうした事例が起きると、投資家の不信感、上場審査の強化を招き、IPO冬の時代に戻ってしまうのではないかと心配になってくる。 IPOの数は、IPO冬の時代 → IPO数増加に向けた動き → IPO数回復 → 問題企業出現 → 投資家の不信感・上場審査の強化 → IPO冬の時代、といったサイクルを繰り返しているように思われる。 ここで再びIPO冬の時代が到来してしまったら、本当に成長可能性があるベンチャー企業が直接金融により資金を調達することが困難になり、日本経済にとって損失である。監査法人や証券取引所は不正を見抜くように努めるべきだろうし、また、証券会社も、より質の高い企業の発掘に努めるべきだろう(IPOは、まず証券会社が企業を発掘し、審査したうえで、証券取引所に推薦して行われる)。 しかし、それと同時に、投資家にも冷静さが求められるように思われる。問題企業が現れたとしても、すべての新規公開企業に問題があるわけではない。また、業績予想を過信することなく(「予想」ではなく「目標」に過ぎないことも)、企業が開示するすべての情報に目を配るべきだろう。 (了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第16回】 「金融機関提出書類の作成ポイント(その8 粉飾決算について)」 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 前回まで、金融機関に提出する各資料の作成ポイントを解説した。今回および次回では、その補足として、粉飾決算と経営指標について述べる。まず今回は、粉飾決算を取り上げる。粉飾の手法や、金融機関が粉飾を見抜く方法、社長から粉飾を相談された場合の対応について解説する。 粉飾を行う誘因 これまで述べてきた通り、会社の借金返済能力は、当期純利益+減価償却費と表される。その能力に応じて融資金額が決定されるため、会社には当期純利益を粉飾しようとする誘因が働く。 粉飾の手法 粉飾の手法は単純であり、売上の水増し、費用の過少計上である。次のような架空の仕訳が切られる。 貸借対照表項目で表現すれば、資産の過大計上、負債の簿外処理である。 金融機関が粉飾を見抜く方法 決算書は融資判断に影響する重要な書類であるから、金融機関はそれに粉飾が行われていないか関心を持つ。といっても、金融機関の担当者が会社に来て、決算書や帳簿の元になる証憑書類を1つ1つチェックするということはない。会社が提出した過去3年分の決算書を比較分析することによって粉飾を見抜く。主な分析方法は次の通りである。 貸借対照表を中心に比較分析が行われる。その理由は、上記仕訳の通り、損益項目に粉飾処理を行うと、必ず貸借対照表項目に影響があるから、そして、貸借対照表は期末日1日分のストック表であり、年間フロー表である損益計算書よりもチェックが容易だからである。期末日時点の貸借対照表の資産、負債、純資産、繰越利益剰余金の正しさを確かめることによって、損益計算書、当期純利益の正しさを間接的に確かめることができる。 それでは、分析方法をそれぞれ説明していく。 ▷ 貸借対照表項目に対する回転期間分析 回転期間分析は、売掛金、棚卸資産、買掛金に対して行われる。計算式はそれぞれ次の通りである。 計算式が意味するのは、「貸借対照表項目が発生してから消滅するまで、どれくらいの月数がかかるのか」ということである。例えば、売掛金の回収サイトが1ヶ月の会社であれば、期末時点で売上1ヶ月分の売掛金が計上されているはずである。回転期間は1ヶ月に近似する。商品を仕入れてから販売するまで2週間程度であれば、棚卸資産の回転期間は0.5ヶ月に近似するはずである。 回転期間を使ってどのように分析するのか、数値例を使って説明する。 売掛金の回転期間は前期まで1.0ヶ月だったのが、当期は1.8ヶ月になっている。実態と異なるゆがみが生じる。回転期間が当期に突然倍近く伸びたことについて金融機関から合理的な説明を求められる。それができない場合、粉飾を疑われる。粉飾額が大きくなればなるほどゆがみも大きくなるので、相手を納得させるのは困難となる。 棚卸資産と買掛金の回転期間分析も同様である。3期分の決算書を提出するので、1期だけに粉飾操作をしても、異常点はすぐに気付かれる。 ▷ 貸借対照表項目の内容チェック 現金や売掛金、未収入金、前払費用、固定資産、未払金など、事業に関係する資産負債項目のうち、金額が大きいものについてチェックされる。法人税申告書に添付されている内訳書類の期間比較や、内訳内容に対して質問が行われる。 例えば、売掛金や未収入金の勘定内訳書を期間比較することによって、滞留債権の有無が把握される。回収見込みが無いと判断されれば、その金銭債権の資産性は否定される。前払費用などの諸勘定に関しても同様に、本来、費用として計上すべきものを資産計上していないか、チェックされる。どういう目的で、誰に対して支払ったものか、質問を受ける。固定資産については、法人税申告書別表16でチェックされる。減価償却費の償却不足がある場合、その部分の資産性が否定される。毎期計上されていた未払費用が、当期から突然計上されなくなった場合、その理由を尋ねられることもある。 貸借対照表項目を分析した結果、粉飾または粉飾が疑われる項目については、資産性が否定され、金融機関側で実態に即した決算書に作り替えられてしまう。粉飾仕訳の逆仕訳が切られるイメージである。 損益項目の修正として、貸借対照表の繰越利益剰余金が切り下げられる。繰越利益剰余金のうち、当期純利益が切り下げられれば、借金返済能力の切り下げとなる。切り下げ額によっては、資産超過だった貸借対照表が債務超過に反転することもありうる。【第11回】で述べたとおり、実質債務超過と判断されてしまうと、融資可能性は非常に厳しいものになってしまう。 以上のとおり、粉飾を行うと、必ず貸借対照表にゆがみが生じる。金融機関はそれを手掛かりに粉飾を見抜く。金融機関は、融資のプロとして様々な粉飾処理を経験しているのであるから、たいていは見抜かれると思っておいた方が良い。 粉飾に気付かれず、運良く融資を得られたとしても、その後も粉飾を重ねることになる可能性が高い。業績が大きく伸びれば、粉飾額を実態に近づける調整ができるけれども、そうでない場合は、粉飾を毎年繰り返すことになる。黒字粉飾した後、大赤字の決算書を金融機関に提出することは、粉飾を自白するのと同じだからである。粉飾した決算書を出し続けるしかなくなる。決算書のゆがみは毎年大きくなり、結局は金融機関に粉飾を見抜かれ、信用を失う。追加融資の可能性はなくなり、最悪、融資の取りやめとなる恐れもある。 社長から粉飾を依頼された場合の対応 資金調達支援を行う中で、「銀行向けに決算書を黒字粉飾してほしい」と相談を受けることがある。その場合、まずは公正不偏の態度をもって対応する。「粉飾を一度行うと後には引けなくなる可能性があること」そして「粉飾はいずれ見抜かれること」を社長に説明する。粉飾を考える前に、融資判断にプラスになる材料が無いか、社長と一緒に洗い出すという対応が望ましい。 経営者から報酬をもらっている会計士や税理士は公正不偏の態度を取れず、粉飾や脱税を依頼されても断れない、独立性がないと批判されることが多い。しかし、決してそんなことはない。顧客から報酬をもらう立場であっても、独立性を保持することは可能である。 その方法は、特定の顧客に対する経済的依存度、売上構成割合を減らすことである。すなわち「御社との契約が切れても、私は十分食べていけます」という態度を取れるようにしておくことである。「無理な要求をするのであれば、契約を解消させて頂きます」と経営者に対抗することで、逆に有利な立場で交渉し、経営者の間違った考えを改めることができるかもしれない。会計学者A.C.リトルトンが「職業会計人の持つべき資質」として挙げている「経済的独立性」である。 会計事務所経営の話になるけれども、顧客を2、3社失った程度で経営が傾いたり、事業部門が赤字転落するような状態では、独立性が危険にさらされていると認識した方が良い。この点は、町の会計事務所でも、税理士法人でも、最近騒がれている監査法人でも同様である。 * * * 次回は、補足のもう1点として、融資に有利となる経営指標について解説する。 (了)
《速報解説》 「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」が正式公表(更新) ~決算日において国会で「成立」している税法の税率を適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年3月14日、企業会計基準委員会は「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第27号)を公表した。 これにより、平成27年12月10日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号)18項では、税効果会計上で適用する税率は、決算日現在における税法規定に基づく税率によるものと規定し、改正税法が当該決算日までに「公布」されており、将来の適用税率が確定している場合は改正後の税率を適用するとしている。 適用指針は、決算日において公布されている法人税法等に規定されている税率に代えて、決算日において国会で「成立」している法人税法等に規定されている税率によることとしている(適用指針5項、17項)。 1 法人税、地方法人税及び地方法人特別税に関する税率 2 住民税(法人税割)及び事業税(所得割)に関する税率 決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率とは、次の税率をいう(適用指針7項)。 適用指針7項(2)②イに定める差分を考慮する税率を算定する方法については、公開草案は「原則として、次のいずれかの方法による」としていたが、適用指針は「例えば、次の方法がある」としている。これは、税制改正の趣旨等を勘案して、他の合理的な方法があれば当該方法により算定することを妨げるものではないためである(適用指針21項)。 なお、次の2つの設例が設けられている。 3 決算日後に税率が変更された場合の取扱い 適用指針は(※)「決算日後に税率が変更された場合の取扱い」を結論の背景において記載していたが、適用指針は、本文において「開示」を設けて、「決算日後に税率が変更された場合の取扱い」を規定している(適用指針10項)。 (※)〔2017/1/9追記〕 上記赤字部分につき公開時点では「公開草案は」となっておりましたが、正しくは上記の通り「適用指針は」の誤りです。お詫びの上、訂正させていただきます。 決算日後に税率が変更された場合には、適用指針4項から9項による税率を用いて決算を行い、かつ、決算日後に当該税率の変更を伴う法律が成立した場合、税効果会計基準 第四 4に従って、その内容及び影響を注記することになる。 Ⅲ 適用時期等 平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用する。 Ⅳ コメント対応について 〔2016/3/23追記〕 平成28年3月23日、企業会計基準委員会は「企業会計基準適用指針公開草案第55号『税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)』の主なコメントの概要とそれらに対する対応」をホームページに掲載した。 主なコメントの内容などは次のとおりである。 1 中間(連結)財務諸表及び四半期(連結)財務諸表についての適用時期 四半期連結財務諸表及び四半期財務諸表、中間連結財務諸表及び中間財務諸表については、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の四半期連結会計期間及び四半期会計期間並びに中間連結会計期間及び中間会計期間に係る財務諸表から適用する(コメント4。適用指針11項を参照)。 2 会計方針の変更 適用指針の適用は、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)5項(1)の定めに該当するため、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることとなる(コメント5)。 ただし、通常、適用指針の適用により遡及適用した表示期間のうち過去の期間における影響はなく、同会計基準35項に定める財務諸表利用者への意思決定への影響に照らした重要性も乏しいと考えられると述べられている。 3 税率改正以外の税法改正項目の適用について 適用指針は「繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している税法(略)に規定されている税率による」(適用指針5項)と規定し、税率に関する取扱いを示している。 しかしながら、通常、税制改正では、税率の改正だけでなく、欠損金の繰越控除など他の項目も一体として改正されている。 このため、「税率に限らず、税効果会計の適用上関連する税法上の規定全般について、いつの時点のものを適用するかに関する一般的な考え方を示してはどうか」として、税率改正以外の税法改正項目も、公布日ではなく、国会で成立した日を基準とするのかどうかについてのコメントがあった(コメント8)。 これに対して、「本適用指針は、税効果会計に関する実務指針全体の移管作業において税効果会計に関する適用指針に統合されることを予定している。税効果会計の適用上関連する税法上の規定の適用については、その記載の要否を含めて当該統合時に改めて検討することとしたい。」と述べられている。 平成27年5月26日の改正で削除されたが、改正前の「税効果会計に関するQ&A」のQ12では、次の記載があった。 (了) ↓お薦め連載記事↓
2016年3月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.161を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第29回】 「軽減税率に係る消費税法の構造」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇改正税法の審議状況 平成28年度税制改正に関する改正法案の国会審議が行われている。 国税については、所得税法等の一部を改正する法律案が2月5日に国会に提出され、2月16日から審議が開始された。一方、地方税については、地方税法等の一部を改正する等の法律案が2月9日に国会に提出され、2月18日から審議が開始された。両法案は3月1日に衆議院を通過し、前者は3月9日から、後者は3月11日から参議院での審議が行われている。 今回の改正の中でも大きな改正が行われるのが、軽減税率制度やインボイス制度が創設される消費税法である。 平成29年4月1日から消費税の軽減税率が導入されるものの、インボイス(適格請求書)の導入は平成33年4月1日からという時期のずれがあることから、まず、平成29年4月1日からの4年間の経過期間中の規定は、改正法案附則第34条以下で手当てされ、平成33年4月1日以後のインボイス導入後の姿が、消費税法本則の改正として規定されている。 したがって、当面の実務対応にあたっては、改正法附則を参照する必要がある。 〇軽減税率とその対象 軽減税率の対象は、改正法案附則第34条第1項に規定されている。 規定のつくりとしては、第1項柱書きで、適用税率が消費税については6.24%であることが示された上で、その対象となるものとして、同項第1号で、飲食料品の譲渡、第2号で新聞(週2回以上発行されるもの)の定期購読契約に基づく譲渡が挙げられている。 さらに、飲食料品については、第1号柱書きでは、飲食料品の定義に関して、食品表示法の飲食料品であること、酒類を除くこと、一体化商品のうちの一定のもの(政令事項)が該当することが明らかにされ、同号イでは、飲食料品の譲渡から除かれる、外食の定義、同号ロでは、飲食料品の譲渡から除かれる、いわゆるケータリング等の定義とその例外事項(有料老人ホーム等)が、それぞれ規定されている。 第1号イの外食の定義では、 とされている。 この規定から、外食に該当するには、 を満たす必要があり、持ち帰りのための容器に入れたり、包装をしたようなものは該当しないことが読み取れる。 なお、平成33年4月以降に適用される消費税法本則においては、これらの規定は、税率については第29条に、軽減税率の対象については第2条第1項第9号の2で、別表第一に内容を委ねた上で、別表第一において、改正法案附則第34条第1項と同じ規定がおかれている。 〇経過期間の区分経理と特例措置 平成29年4月1日以降の4年間については、インボイス導入までの経過期間ということで、極力、これまでの制度に準じた取扱いがなされるが、適用税率が2つになることから、最小限度の区分経理の実務が不可避となる。それがいわゆる「区分記載請求書等保存方式」である。 仕入税額控除のために必要な請求書等の記載事項として、これまでのものに加え、軽減税率適用対象のものに、そうであることを明示するとともに、適用税率ごとの対価の合計額が追加されている(改正法案附則34③)。なお、請求書等にその記載が漏れている場合には、受け取った事業者が自ら追記することも可能である(改正法案附則34④)。 このように経過期間においても区分経理の事務が発生することとなるが、それが困難な場合に備えて、中小事業者に対する売上税額、仕入税額の計算の特例措置(改正法案附則38、39、40)、さらには、中小事業者以外の事業者についても初年度限りの特例措置が講じられている(改正法案附則41、42、43)。 〇インボイス制度 一方、33年4月1日から始まるインボイス制度については、改正法附則ではなく、消費税法本則に規定されている。 まず、定義規定である第2条第1項第7号の2を創設し「適格請求書発行事業者」の定義を行い、仕入税額控除の対象を適格請求書に記載された消費税額とすることとし(消費税法30①)、第57条の2以下に、インボイス制度が具体的に示されている。 まず、第57条の2では、適格請求書発行事業者登録制度を導入することとしている。 第57条の4では、適格請求書発行事業者の義務として、交付義務と写しの保存義務が規定されている。また、本条において、適格請求書及び適格簡易請求書の記載事項も明らかにされている。適格請求書においては、前述の区分記載請求書の記載事項に加えて、事業者の登録番号と、税率の区分ごとの消費税の額の記載が必要となる。 なお、免税事業者への経過措置は、改正法案附則第52条、第53条で計6年にわたるものが用意されている。 (了)
特定株主等によって支配された欠損等法人の 欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い ~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~ 【第3回】 「〈事例1〉欠損等法人が100%子会社の合併により 新規事業を開始するケース(第1号事由)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 〈事例1〉 欠損等法人が100%子会社の合併により新規事業を開始するケース(第1号事由) 《検討》 本ケースのように、ある事業会社を買収しようとした場合に、売主の希望により、その事業会社の100%親会社の株式を取得するケースがある。この場合、買収した100%親会社は、事業会社の株式を所有するだけの会社であり、買収者にとって100%親会社をそのまま残す必要はないため、買収後に、その100%親会社と事業会社の合併を検討することも多い。 このような場合、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2、60の3)は適用されるのであろうか。 [検討1] A社及びB社は欠損等法人に該当するか? まず、本ケースでは、A社とB社のそれぞれが欠損等法人に該当するかを検討することとなる。 A社は、平成25年10月1日に、新しい親会社であるP社との間にP社による特定支配関係を有することとなるが、特定支配事業年度(平成25年4月1日~平成26年3月31日の事業年度)において、特定支配事業年度前の事業年度において生じた繰越欠損金を所有するため、欠損等法人に該当することとなる。 なお、A社では、平成25年10月1日(支配日)に所有するB社株式について、含み損が30百万円(税務上の帳簿価額100百万円-時価純資産価額70百万円)生じており、含み損の金額がA社の資本金等の額の2分の1に相当する金額と1,000万円とのいずれか少ない金額(基準額)以上であるため、特定支配事業年度(平成25年4月1日~平成26年3月31日の事業年度)において評価損資産を所有しているため、仮に繰越欠損金がない場合であっても欠損等法人に該当する。 B社についても同様に、欠損等法人に該当する。 この場合、B社はA社による支配関係が生じているが、同一の者(P社)による支配関係に該当するため、特定支配関係には該当せずに、B社の支配関係の連鎖の頂点に立つP社による支配関係が新たな特定支配関係となり、P社による買収日(平成25年10月1日)が特定支配関係を有することとなった日(支配日)となる。 [検討2] 特定事由に該当するか? 次に、欠損等法人A社又は欠損等法人B社において、一定の期間までに特定事由が生じたかを検討する。 A社は、平成25年10月1日(特定支配日)の直前において事業を営んでいなかったが、平成28年1月1日の合併により被合併法人B社の事業を引き継ぐことで、特定支配日以後5年を経過した日の前日(平成30年9月30日)までに事業を開始することになるため、第1号事由に該当することとなる。 また、この場合、特定事由に該当することとなった日(該当日)は、平成28年1月1日となる。 なお、B社については、買収前の事業を継続しており、今後も継続する見込みであること(第1号事由、第2号事由、第4号事由)、B社に対する債権の売買も行われていないこと(第3号事由、第4号事由)、買収を起因とした役員の退任もないこと(第5号事由)から特定事由は生じていない。 [検討3] 使えなくなる繰越欠損金と繰越欠損金が使えなくなる事業年度は? 欠損等法人A社において、平成27年4月1日~平成28年3月31日事業年度(適用事業年度)から、平成26年4月1日~平成27年3月31日事業年度以前の事業年度に生じた繰越欠損金が使用できなくなる(つまり、平成27年3月期に有する繰越欠損金の全額が使用できない)。 また、平成27年4月1日~平成30年3月31日までの適用期間(なお、特定支配日以後5年を経過する日は、平成30年9月30日となる)において生ずる特定資産の譲渡等損失額は損金不算入となる。この場合、P社による特定支配関係がある被合併法人B社(関連者)からの引継資産は欠損等法人A社の特定資産に含まれることとなる。 [検討4] 被合併法人B社の繰越欠損金の使用制限は生じるのか? 欠損等法人A社は、該当日(平成28年1月1日)以後に自己を合併法人とする適格合併を行ったため、被合併法人B社の繰越欠損金は合併法人A社には引き継がれない(なお、適格合併は、欠損等法人の適用事業年度開始の日以後3年を経過する日(特定支配日以後5年を経過する日後となる場合にあっては、同日)後に行われていない)。 以上より、本ケースでは、組織再編税制上は、合併法人A社及び被合併法人B社について、繰越欠損金の利用制限及び特定資産譲渡等損失額の損金算入制限が生じないにもかかわらず、法人税法第57条の2及び60条の3の適用により、第1号事由に該当する場合、欠損等法人A社の繰越欠損金は切り捨てられ、特定資産の譲渡等損失額が損金不算入となり、さらに、特定事由が生じていない被合併法人B社の繰越欠損金も切り捨てられることとなる。 〈事例1〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第3回】 「募集株式の発行等②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、大阪地裁昭和47年4月19日判決について解説を行った。 【第3回】に当たる本稿では、大阪地裁昭和48年11月29日判決について解説を行うこととする。 2 大阪地裁昭和48年11月29日判決・判時731号85頁 (1) 事実の概要 本事件は、会社更生法による更生手続終結決定を得た直後に、1株当たり85円である一般公募の新株発行を行う際に、①有利発行に該当する、②支配権剥奪目的の不公正発行に該当するという理由により新株発行差止の仮処分を請求し、仮処分決定を得たことから、その認可の裁判を求めた事件である。本稿は、非上場株式の評価についての連載であるため、前者のみについて解説を行うこととする。 前回と同様に、やや古い事件であるが、少数株主にとっての株式価値で評価をされた裁判例という点のみに限定すると、現在でも参考にすることができる事件である。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は、少数株主にとっての株式価値として、配当還元方式もしくは類似会社比準方式(または同業種比準方式)を採用すべきであると判示した。 配当還元方式はともかくとして、類似会社比準方式が少数株主にとっての株式価値であると判示された点に違和感がある読者もいるかもしれないが、市場で構成される株価は少数株主による売買により構成されていることから、少数株主にとっての株式価値を示すものであるという仮説が存在し、したがって、類似会社比準方式により算定された株式価値から支配株主にとっての株式価値を算定するためには、支配権プレミアムを加算するというのが株式評価の実務である。 そのため、相続税評価では原則的評価方式のひとつとして位置づけられている類似業種比準方式が、株式評価においては少数株主にとっての株式価値になってしまうという特徴がある。 さらに、裁判所は、最終的には、挙証責任によって債権者の主張を退けている。これは、①配当還元方式のうち実績値方式を採用しているところ、会社更生手続き中で配当をなしえなかったことから、年8%に修正していたが、その根拠も全く示されていなかったこと、②類似会社比準方式において選定した企業が売上高、純資産額については類似性が認められるものの、その他の点、ことに事業の種類については、果たして類似性があるのかが不明であることなどから、債権者が算定した株価に疑問があるということが理由である。 これは、非訟事件と異なり、訴訟事件では、債権者(≒原告)に立証責任があることから、かなり会社側に有利な判決となっている。類似会社比準方式が、選定対象となる企業が存在しないことから、結果的に採用されないというのは最近の訴訟事件、非訟事件の特徴ではあるが、そうなると配当還元方式のみが少数株主にとっての株式価値の算定で採用されることになる。 そして、裁判所の判断としては、「右鑑定書が仮想した年8パーセントの配当率も、その算定根拠が全く示されていないのみならず、≪証拠略≫によれば、債務者会社は、次期(昭和47年10月1日から昭和48年9月30日まで)には15%以上の配当を目標としていたことが、≪証拠略≫によれば、債務者会社は将来年10%の配当は堅持する積り(原文ママ)でいることがそれぞれ一応認められるが、これらの事実に照らして、必ずしも妥当な予想配当率とはいえない。」としている。 しかし、年10%や15%の配当率となれば、より株価は引き上げられるはずであり、有利発行に該当するか否かの事件において、このような理由により疎明がないとするのは如何なものであろうか。債権者が、「少なくても8%」と主張したうえで、「少なくても〇〇円以上」と主張すれば、認められる余地はあったのであろうか。やや、本事件における裁判所の判断は乱暴であるという印象を拭いきれない。 次回では、やや珍しい事件であるが、大阪高裁昭和51年4月27日決定により争われた検査役選任決定に対する即時抗告事件等について解説を行う予定である。 (了)