税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第12回】 「金融機関提出書類の作成ポイント(その4 合計残高試算表)」 ~月次決算をする~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 融資における資料作成のポイントとして、今回は合計残高試算表について述べる。前期決算から数ヶ月経過してから融資を申し込む場合、実績に関する書類として、直近までの合計残高試算表を求められる場合がある。 前回までに述べた損益計算書と貸借対照表のポイントは、そのまま合計残高試算表にも当てはまる。今回は、それ以外の点について述べる。 合計残高試算表のポイント①:発生主義で計上する 中小零細企業の記帳代行においては、期中現金主義で処理している方が多いと思う。期末決算整理で発生主義に変え、翌期首に再び振替仕訳を行い、現金主義に戻すというやり方である。 金融機関に合計残高試算表を提出する場合は、月次決算整理を行い、発生主義に変えてから提出する。その時点での収益と費用が対応するので、金融機関は会社の実態をより適切に把握できる。また、期中現金主義だと若干の赤字になるところ、発生主義にすることによって黒字に変わる場合もある。赤字よりも黒字の方が印象は良い。この点も発生主義に変える利点である。 売上や仕入、金額が大きい経費を中心に発生主義処理する。細かいもの、毎月一定額のものを省略するのは、年次決算と同様である。 発生主義で金融機関に提出した後、再び現金主義に戻したい場合は、翌月初に振替仕訳を切る。月次決算整理仕訳は消去せずに残す。後日、金融機関に提出したデータを見返す場合があるからである。 合計残高試算表のポイント②:減価償却費を月次で計上する 減価償却費は通常、期末で一括計上する費目であり、期中の合計残高試算表には表れない。しかし、発生主義処理同様、毎月の実績を正しく表示するため、減価償却費も月次計上すべきである。また、これにより、毎月利益の合計=年間利益となるので、金融機関側は年間利益を予測しやすくなる。 実務上の処理としては、まず、申告ソフト等を使って年間減価償却費を見込み計算する。それを単純に12等分し、丸い数字にして月次減価償却費とする。例えば、年間見込額が1,234,567円であれば、毎月は102,880円、丸めて103,000円を計上する。期中に減価償却資産の変動があれば、それを加味して月次減価償却費を計算し直す。仕訳は (借)減価償却費 ×× (貸)減価償却累計額 ×× とする。決算書上の表示方法として直接法を選択している場合も、期中は間接法で行う。償却資産の実際簿価に影響させないためである。決算の際は、上記の逆仕訳を切り、改めて正確に計算した減価償却費の仕訳を直接法で切る。 減価償却費以外にも、年間金額が予測でき、一時点で発生する費用項目があれば、12等分して月次計上する。税務上の繰延資産である長期前払費用の償却額や、賞与等である。例えば、筆者の場合、長期前払費用の月次仕訳を (借)長期前払費用償却 ×× (貸)未払費用 ×× としている。貸方の貸借対照表項目は、未払金でも、独自に長期前払費用償却累計額としても良い。期中は概算であるし、重要なのは借方の損益項目である。 未払費用が毎月増加していくため、一見異常に見える。実際、金融機関の方から質問を受けた。しかし、内容と趣旨を説明したところ、ご理解頂けた。ちなみに、長期前払費用償却は減価償却費と同様、非現金支出費用なので、簡易キャッシュフローのプラス項目となる。 もちろん、金額が僅少なものまで月次計上する必要はない。金額が大きい費目だけ行えば良い。 合計残高試算表のポイント③:消費税は税抜方式で作成する 決算書上、消費税の処理方法を税抜方式にしているのであれば、合計残高試算表も税抜方式で金融機関に提出すれば良い。一方、消費税の処理方法を税込方式にしている場合、合計残高試算表は税抜方式に変えて作成する。その理由は2つある。実態を適切に表示するため、そして年間利益を予測しやすくするためである。月次減価償却費計上の理由と同じである。 まず、1つ目の理由を述べる。費用と収益には、それぞれ課税、非不課税項目があるため、それらを税込のまま比較しても、純粋な成果を把握することができない。例えば、給与(80円)と、それに対応する課税項目の売上高(税抜100円=税込108円)を比較してみる。給与は不課税項目のため、消費税が含まれない。よって税込処理の場合の利益は、108円-80円=28円となる。しかし、これは純粋な成果とはいえない。消費税8円が含まれており、消費税は会社に一律に課されるものであって、企業努力によるものとはいえないからである。純粋な成果実態は、消費税を除いた20円である。税抜方式にすることで、実態の正確な把握が可能となる。 税抜方式にすべき2つ目の理由は、年間利益を予測しやすくするためである。税込方式にしている場合、通常、決算時に消費税を一括費用計上する。期末に利益額が大きく変動してしまう。そこで、期中は税抜方式にし、消費税の影響を除いた利益にしておく。決算書が税込方式であっても、月次利益合計=年次利益となるので、年間利益を予測しやすくなる。 会計システムを使えば、税込方式から税抜方式へ簡単に切り替えできる。毎月、仮払消費税と仮受消費税を消し込み、差額を未払消費税として計上するだけなので、手間はそれほどかからない。簡易課税を選択している場合は、毎月税額を計算して、月次仕訳を行うのが理想ではある。 消費税は、費用と収益によって変動するので、減価償却費のように年間予測額を単純に12等分というわけにはいかない。よって、このような処理が必要となる。 合計残高試算表のポイント④:法人税等も月次計上する 法人税、法人住民税、事業税も、減価償却費と同じく、月次決算で計上しておく。年次決算レベルの税金計算をする必要はなく、法定実効税率を使って概算する。「会社の所得水準に応じた法定実効税率×月次税引前当期純利益(消費税抜)」と計算する。 法人住民税均等割も月割計上するのが正確であるけれども、少額であれば、未計上で問題ないだろう。 * * * 今回まで、決算書及び合計残高試算表という、実績に関する資料の作成ポイントについて述べた。次回からは、事業計画書及び資金繰り表という、将来予測に関する資料の作成について説明する。 (了)
《速報解説》 平成28年度税制改正におけるマイナンバー関連の改正事項 ~事務負担を考慮し一定の書類については個人番号の記載を不要に~ 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 去る平成27年12月16日に、平成28年度税制改正大綱(以下、「大綱」という)が公表された。このなかでいくつかマイナンバー制度に関連した改正が取り扱われている。 そこで以下では、マイナンバー制度に関連する大綱の内容について解説する。 1 マイナンバーに係る税制改正の概要 大綱によれば、円滑・適正な納税のための環境整備の一環で、マイナンバーの記載に係る本人確認手続やマイナンバー記載書類の管理負担に配慮し、一定の書類についてマイナンバーの記載を不要とする見直しを行うものとされている(大綱17頁)。 具体的には、国税、地方税の両分野で次の見直しが行われる予定である。 なお、取扱いの見直しについては「個人番号」のみであり、「法人番号」についての取扱いは従前予定されていたものと変わらない。 2 具体的な内容 ▷国税分野 提出者等のマイナンバーを記載しなければならないこととされている税務関係書類(申告書及び調書等を除く)のうち、次に掲げる書類について、提出者等のマイナンバーの記載を要しないこととする。 大綱上、(1)(2)それぞれについて例示されている書類は次のとおりである。 ただし、当該大綱を受けて財務省から案(未確定版)として、「マイナンバーの記載を省略する書類の一覧(案)」が公表され、大幅にマイナンバーの記載を省略する予定であることが示されている。所得税法、相続税法、消費税法、酒税法等にいたる広範な見直しが予定されていることから、読者においても改めて確認されたい。 なお、上記の(1)に当たる書類については、当該改正の趣旨を踏まえて、たとえ施行日前(平成28年12月31日以前)において当該書類上に個人番号の記載がなかったとしても、運用上、提出者等に改めてマイナンバーの記載を求めないものとされている。 ▷地方税分野 提出者等のマイナンバーを記載しなければならないこととされている地方税関係書類について、次に掲げる見直しを行う等の所要の措置を講ずるものとされている。 なお、地方税分野の適用時期について、国税における手続と一体的に行われると考えられる手続(例えば、相続による納税義務の承継の届出など)については、当該国税における手続の適用開始時期と合わせて適用を開始し、それ以外の手続に係る適用開始時期については、地方公共団体における円滑な運用が可能となる所要の措置を講じたうえで検討する趣旨が規定されている。 この規定を踏まえて、総務省から地方公共団体向けに平成27年12月18日付けで「地方税分野における個人番号利用手続の一部見直しについて」が発出されている。 当初マイナンバーが記載される予定であった書類の個々の取扱いについては、当該通知の別添資料として個々具体的に定められていることから、地方税の取扱いについてはこれらによって確認されたい。 3 総括 改正の基本的な考えとして、マイナンバーの記載の主たる目的が「所得把握の適正化・効率化」にある点が改めて謳われている点は注目に値する。 そこで、この目的を損なわない範囲で、申告等の主たる手続等やその他帳簿等の別の手段によって、マイナンバーを特定できる書類、あるいはマイナンバーを記載する必要性がないと考えられる書類については、マイナンバーの記載を要しないこととされる。 この改正により、事業者の本人確認やマイナンバーの管理にかかる事務負担は当初予定よりは随分と軽減されるものと思われる。 (了)
《速報解説》 日本取引所自主規制法人より 「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(案)が公表 ~不祥事に直面した上場会社に強く期待される対応等の原則を策定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年1月22日付で、日本取引所自主規制法人は「『上場会社における不祥事対応のプリンシプル』(案)の策定について」を公表し、意見募集を行っている。 これは、最近の上場会社における不祥事対応の状況に関して、原因究明や再発防止策が不十分であるケース、調査体制に十分な客観性や中立性が備わっていないケース、情報開示が迅速かつ的確に行われていないケースなどがあることに対応するものである。 意見募集期間は平成28年2月12日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 主な特徴 「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(案)は、次のような特徴をもっている。 2 プリンシプル(案) 「上場会社における不祥事対応のプリンシプル~確かな企業価値の再生のために~」として、不祥事又はその疑義が把握された場合には、本プリンシプルの考え方をもとに行動・対処することが期待されるとして、次の項目を記載し、それぞれについて説明がなされている。 (了)
《速報解説》 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」公表を受け、 監査委員会報告第66号・第70号が廃止へ ~早期適用のケースを除きH28.4.1前開始分は第66号を適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 主な内容 平成28年1月19日付で、日本公認会計士協会は、次の監査委員会報告について廃止すること公表した。 これは、企業会計基準委員会から「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)が公表されたことを受けた対応である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 適用時期 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)の適用時期は次のとおりである。 このため、前述の監査委員会報告の廃止についても、次の適用時期が規定されているので、注意が必要である。 (了) ↓関連記事↓
2016年1月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.153を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第27回】 「平成28年度税制改正における国際課税関係の概要」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 昨年10月のBEPS最終報告を受けて、今後、わが国でも関係法制の整備が進められていくが、平成28年度税制改正では、まず行動13:移転価格税制に係る文書化に対応した制度が整備される。 また、国交のない国との間での租税条約に相当する枠組みとして、民間ベースの日台租税取決めを国内で実施するための措置がなされる。 このほか、外国子会社合算税制の見直しなどもなされており、本稿では、平成28年度税制改正における国際課税関係の改正を整理することとしたい。 2 移転価格税制に係る文書化 与党大綱では、BEPSプロジェクトが、 とした上で、 とされており、今回の改正では行動13に基づく移転価格税制に係る文書化制度が整備される。 (1) 国別報告事項 多国籍企業グループの最終親事業体である内国法人等は、当該多国籍企業グループが事業を行う国ごとの収入金額、税引前当期利益の額、納付税額その他必要な事項(国別報告事項)を、最終親事業体の会計年度終了の日の翌日から1年を経過する日までに、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により、税務署長に提供しなければならないこととされ、平成28年4月1日以後に開始する最終親事業体の会計年度に係る国別報告事項について適用される。 (2) 事業概況報告事項(マスターファイル) 多国籍企業グループの構成事業体である内国法人等は、当該多国籍企業グループの組織構造、事業の概要、財務状況その他必要な事項(事業概況報告事項)を、最終親事業体の会計年度終了の日の翌日から1年を経過する日までに、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により、税務署長に提供しなければならないこととされ、平成28年4月1日以後に開始する最終親事業体の会計年度に係る事業概況報告事項について適用される。 (3) 独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル) 国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(電磁的記録を含む)を確定申告書の提出期限までに作成し、原則として、7年間保存しなければならないこととされ、平成29年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用される。 【移転価格税制に係る文書化制度の概要】(財務省資料より一部改変) ※画像をクリックするとPDFが開きます 3 日台民間租税取決め 日本の対外貿易額で台湾は第4位、台湾から見て日本は第3位の貿易相手国であるが、国交のない台湾との関係に関する日本の基本的立場は、非政府間の実務関係として維持するというものであることから、台湾との間では、国家間レベルでの約束である租税条約を締結することができない。 そこで、台湾との間で租税条約に相当する枠組みを構築するために、まず民間ベース(日本側:公益財団法人交流協会、台湾側:亜東関係協会)との間で、「日台民間租税取決め」を締結し(2015年11月26日に署名)、台湾においてわが国の居住者又は内国法人に対して同様の権利が認められること(相互主義)を条件として、その内容を日本国内で実施するための国内法を整備することとされた。 「日台民間租税取決め」の内容は、双方居住者の振分けルール、台湾居住者等の事業所得に対する所得税又は法人税の非課税、相互協議、情報交換など、わが国が他の先進国との間で締結している租税条約に準じたものとなっている。 また、利子・配当・使用料への源泉地課税は以下のようになる。 4 外国子会社合算税制等の見直し (1) 適用除外基準の適用方法の見直し 損害保険会社が英国ロイズ市場で事業を行うためには、英国ロイズ法に従った組織形態として2つの法人(資金提供会社と管理運営会社)を設立しなければならない。 このため、英国ロイズ市場で活動する我が国の損害保険会社の英国子会社である資金提供会社と管理運営会社は、法人を区分しない場合には適用除外基準を満たす場合であっても、それぞれの法人で判定することとなる。 その結果、英国が2017年4月から法人税率を19%へ引き下げた場合には、適用除外基準を満たさないこととなり外国子会社合算税制の対象となる。 そこで、ロイズ市場において保険業を営む特定外国子会社等の適用除外基準の適用方法について、以下のような改正がなされることとなった。 (2) 検討課題 平成28年度改正では、現行制度をもとに上記の技術的な改正とされたが、BEPS最終報告(行動3:外国子会社合算税制の強化)では、わが国の現行制度である事業体アプローチではなく、所得の性格に応じて合算対象を定める仕組みを国際標準としており、わが国の制度を根本から見直す必要がある。 与党大綱の検討課題では とされており、早ければ平成29年度税制改正で、抜本的改正がなされることになるものと思われる。 5 その他 (1) 店頭デリバティブ取引に係る証拠金の利子の非課税制度の拡充 デリバティブ取引に係る証拠金規制の国際的な議論に基づく内閣府令の改正に合わせて、店頭デリバティブ取引とそれに付随する一定の取引(例えば、店頭商品デリバティブ取引、先物外国為替取引等)を一体のものとして証拠金の計算・授受が行われている場合には、当該一定の取引を非課税制度の対象となる取引に含めることとされる。 (2) 振替社債等の利子等の非課税制度の適用期限の延長 非居住者又は外国法人が支払を受ける特定振替社債等の利子等については、非課税適用申告書の提出等を要件として、所得税が課されないこととされているが、特定振替社債等のうちイスラム債(振替特定目的信託受益権のうち社債的受益権)、及びレベニュー債(東日本大震災復興特別区域法に規定する特定地方公共団体との間に完全支配関係がある内国法人が発行する利益連動債であって地方公共団体が債務保証をしないもの)の利子等については、平成28年3月31日までに発行されたものに限るとされている。 そこで、イスラム債及びレベニュー債の利子等の非課税制度の適用期限が3年間延長され、平成31年3月31日までとされる。 (3) 国際課税原則の帰属主義への変更の円滑な実施 平成26年度税制改正で措置された国際課税原則の帰属主義への変更(平成28年4月1日施行)を円滑に実施するため、次の措置が講じられる。 (了)
平成27年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「平成27年分の申告から取扱いが変更となるもの②」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【第2回】は、前回に引き続き平成27年分の申告から取扱いが変更となるものを取り上げ、解説する。 (1) 国外転出時課税制度の創設 ① 制度の概要 平成27年度税制改正において、「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例(所法60の2)」及び「贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例(所法60の3)」が創設された。 一定の居住者(※1)が、有価証券等(※2)や未決済信用取引等(※3)(以下、「対象資産」という)を1億円以上所有等(※4)している場合には、次の(ア)から(ウ)に該当する時に対象資産の譲渡や決済があったものとみなし、含み益に所得税が課されることとなった(所法60の2、60の3、所令170、170の2)。 したがって、本特例の適用の対象となる場合には、次の(ア)から(ウ)の時に、対象資産の譲渡等があったものとして譲渡所得等の金額を計算し、確定申告書を提出、所得税を納付することが必要となる。 【イメージ】 (※) 国税庁ホームページより この特例は、平成27年7月1日以後の国外転出や非居住者に対する贈与、また、同日以後に非居住者が相続人や受遺者となる相続や遺贈があった場合に適用される。 ② 申告の時期 ③ 譲渡又は決済したものとみなす金額 ④ 納税の猶予 本特例の適用については、一定の手続を行うことにより、国外転出の日(贈与の日、相続開始の日)から5年を経過する日まで納税が猶予される(所法137の2①、137の3①②)。ただし、納税猶予期間については、利子税を納付する義務が生じる。 納税の猶予を受けるために必要な手続は、以下のとおりである。 ⑤ 納税の猶予の延長 納税の猶予に係る期限は、届出を行うことにより10年を経過する日までとすることができる(所法137の2②、137の3③)。 猶予期限を延長したい場合には、「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例等に係る納税猶予の期限延長届出書」を国外転出の日(贈与の日、相続開始の日)から5年を経過する日までに所轄税務署長へ提出することが必要である。 なお、国外転出時課税制度の詳細については、国税庁から公表されている下記ホームページが参考となる。 また、確定申告に必要な書式や届出書については、国税庁の下記ホームページにまとめて提供されている。 (2) 財産債務明細書の名称変更と制度の見直し 「財産債務明細書」の名称が「財産債務調書」に変更され、提出基準と記載事項について見直しが行われている(国外送金法6の2、国外送金令12の2、国外送金規15)。 この改正は、平成28年1月1日以後に提出すべき財産債務調書に適用されるため、平成27年分の確定申告実務にも影響がある(改正法附則101②)。 明細書に記載する財産のうちに価額の算定が難しい土地や未上場株式が含まれる場合には、事前の準備が必要であると考えられる。 〈見直しの概要〉 (3) その他 前回と今回で取り上げたものの他、平成27年分の確定申告実務に影響のある租税特別措置法の改正事項のうち、主なものを列挙する。 改正内容の概要については、国税庁から公表されている下記パンフレットをご参照いただきたい。 * * * 次回以降は、実務上判断に迷う事項や質問を受けることが多い事項について、Q&A方式で解説を行う予定である。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第2回】 「入社時の書類」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 従業員が入社した際に作成する行政手続書類のマイナンバー対応について教えてください。 〈A〉 従業員が入社した際に作成する行政手続書類のマイナンバー対応は、以下の(1)~(4)の通りである。 (1) 平成28年分 給与所得者の扶養控除等申告書 〈提出時期〉 入社後最初の給料支給日の前日までに従業員が会社へ提出する。提出を受けた会社は、社内で7年間保管する。 〈法人番号〉 記載必要。会社は、法人番号が空欄の扶養控除等申告書を従業員へ渡し、従業員から扶養控除等申告書を受領した後、法人番号を図表1の青枠内に記載する。ただし、会社は、あらかじめ法人番号を記載した扶養控除等申告書を従業員へ渡してもかまわない。 〈個人番号〉 記載必要。図表1の赤枠内に記載する。従業員が個人番号の記載を拒否し、個人番号を記載せずに会社へ提出した場合であっても、税金の計算上は影響ない。 例えば、給料計算の際、控除対象配偶者の個人番号を記載していなくても扶養親族1名として源泉所得税を算出する。 例外として、以下の①~③のすべてに該当する場合は、扶養控除等申告書に個人番号を記載しなくてもかまわない(源泉所得税関係に関するFAQ Q1-9)。 図表1 平成28年分 給与所得者の扶養控除等申告書 ※画像をクリックするとPDFが開きます (2) 雇用保険被保険者資格取得届 〈提出時期〉 入社日の属する月の翌月10日までに会社がハローワークへ提出する。 〈法人番号〉 記載不要。 〈個人番号〉 記載必要。図表2の赤枠内に記載する。従業員が個人番号の記載を拒否し、個人番号を記載せずにハローワークへ提出した場合であっても、ハローワークは受理する。ハローワークから個人番号の届出を督促されることはない。 後日、個人番号を取得できた場合は、個人番号を個人番号登録・変更届出書(図表3)の赤枠内に記載し、ハローワークへ提出する。 図表2 雇用保険被保険者資格取得届 図表3 個人番号登録・変更届出書 (3) 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 〈提出時期〉 入社日から5日以内に会社が年金事務所へ提出する。 〈法人番号〉 記載不要。 〈個人番号〉 記載不要。 (4) 健康保険被扶養者届(扶養親族がいる場合のみ) 〈提出時期〉 入社日から5日以内に会社が年金事務所へ提出する。 〈法人番号〉 記載不要。 〈個人番号〉 記載不要。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第4回】 「売上計上漏れ」 ~100万円の入金が「X社の」「当事業年度の」「売上の」入金であると判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた売上計上漏れ(損害賠償請求権に係る雑収入計上漏れ)を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成23年2月8日裁決(裁決事例集82号117頁。以下「本裁決」という)を取り上げる。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 本裁決の事案における実際の理由付記の一部を筆者が加工している。 なお、ウの部分に係る理由付記の十分性については次回で検討するため、今回は、ア及びイの部分に係る理由付記の十分性について検討する。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図と仕訳 (1) 関係図 【X社の処理】 【本件更正処分】 (2) 仕訳 3 本裁決の判断 本裁決は、次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 私見 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分の理由(ア及びイの部分に限る)は、売上計上漏れである。したがって、課税庁(原処分庁)は、X社が帳簿書類に売上として計上していない100万円を、X社の当事業年度の売上と認定して更正処分を行ったことになる。 そうであれば、売上として計上していないことの否認という広い意味において、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える(この点については、最高裁昭和38年12月27日第二小法廷判決・民集17巻12号1871頁、最高裁昭和54年4月19日第一小法廷判決・民集33巻3号379頁など参照)。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第二小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記(ア及びイの部分に限る)は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 このような疑問や問題点はあるものの・・・ * * * 次回は、冒頭に記した本件理由付記のうち、ウの部分(損害賠償請求権に係る雑収入計上漏れ)について検討する。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第43回】 「ヤフー・IDCF事件」 公認会計士 佐藤 信祐 平成26年11月5日にヤフー事件の控訴審判決が下され、平成27年1月15日にIDCFの控訴審判決が下された。 いずれとも、本連載の【第1回】から【第15回】までで解説した原審の判断をそのまま踏襲しているが、やや注目に値すべき点もあるため、本稿では、控訴審判決の解説を行うこととする。 29 ヤフー・IDCF事件控訴審判決 (1) ヤフー事件控訴審判決(TAINSコード:Z888-1889) 東京高裁は東京地裁の判断をそのまま踏襲しているが、 と補正している点は注目に値する。 すなわち、太田洋弁護士が、 と指摘されているように、東京高裁は、「事業目的が税目的を上回っている場合」に「趣旨・目的に反することが明らかである」場合に該当することがあり得るとまではしていないと考えられる。 すなわち、実務上は、従来の経済合理性基準を保守的に考え、わずかな事業目的を主張するのではなく、事業目的が税目的よりも優越していると主張したとしても、ほとんど結論は変わらないということなる。 (2) IDCF控訴審判決 東京高裁は東京地裁の判断をそのまま踏襲しているが、 としている点が非常に興味深い。 すなわち、包括的租税回避防止規定が適用される範囲を、「取引が経済的取引として不合理・不自然である場合」だけでなく、「組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるもの」も含まれるとしながらも、事業上の目的のない手法により、適格外しを行ったと認定していることから、結局のところ、従来の経済合理性基準に基づいて判断したとしても同じ結論になるからである。 (3) 総括 このように、第一審判決が公表された時点ではかなり注目を浴びた事件であったが、控訴審判決を見てしまうと、今までの経済合理性基準との違いがほとんど分からない結果になっている。 包括的租税回避防止規定が適用される範囲を,「取引が経済的取引として不合理・不自然である場合」だけでなく、「組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるもの」としていることから、アカデミックにはかなり意味のある事件であり、今後、租税法学者の研究が進められていくと思われる。その際には、ドイツの一般的否認規定などが参考になっていくであろう。 これに対し、実務上、個別の事例に当てはめてみると、制度趣旨を踏まえたうえで経済合理性の判断をすれば足りる。さらに、事業目的の存在を主張するとしても、わずかな事業目的を主張するのではなく、事業目的が税目的よりも優越していると主張する必要がある。 しかしながら、本事件が公表される前であっても、ほとんどの税務専門家はそのような理解をしていたはずであり、「事業目的があればよい」といった判断までには至っていなかったはずである(注2)。 (注2) 佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』12頁(中央経済社、平成21年) それが故に、ヤフー・IDCF事件の第一審判決が公表された時点では、ミーティングでも質問されることが多くなっていたが、組織再編税制に対する実務が変わったという印象は受けない。さらに、控訴審判決が公表された後は、やや慎重な対応をする傾向にはなっているものの、かつてほどの話題にはなっていない。 ヤフー・IDCF事件における事実認定の箇所はやや不満が残るが、全体的には、それなりに納得感のある判決になったのではないかと思われる。 * * * 次回では、日本IBM事件控訴審判決について解説を行う予定である。 (了)