《速報解説》 地方への本社機能移転・拡充を図る「地方拠点強化税制」が創設 ~オフィス減税と雇用促進税制の2本立て(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 小幡 修大 地方創生のためには、地方で生まれ、地方で育ち、地方で働きたい若者のための働く場が不可欠である。 「平成27年度税制改正大綱」(2015年1月14日閣議決定)では、本社機能(※)の地方への移転や地方の本社機能の拡充、雇用の創出に取り組む企業を支援するために、本社等の建物に係る特別償却制度等が創設されるとともに、雇用促進税制の特例が時限立法として設けられることが明らかとなった(大綱57頁)。 (※) 本社機能とは、経営意思決定、経営資源管理(総務、経理、人事)、各種業務統括(研究開発、国際事業等)などの事業所をいう。工場及び当該地域を管轄する営業所棟は含まない。 (1) 地方拠点建物等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(オフィス減税)の創設 ① 制度概要 (※1) 承認は、地域再生法の改正法の施行の日(平成27年8月10日:追記)から平成30年3月31日までに受ける必要がある。 (※2) その地方拠点強化実施計画(仮称)がその法人の同法の特定施設(仮称)の同法の特定地域(仮称)から同法の大都市等(仮称)以外の地域への移転に関するものである場合に適用される。 ② 平成29年3月31日までに取得等した場合の特別控除の上乗せ 地域再生法の改正法の施行の日(平成27年8月10日:追記)から平成29年3月31日までの間に地方拠点強化実施計画について承認を受けた法人が取得等をしたものについては、特別償却との選択の上、税額控除額がその取得価額の4%(その地方拠点強化実施計画がその法人の特定施設の特定地域から大都市等以外の地域への移転に関するものである場合には、7%)とされる。 ③ 地方税への適用 法人住民税及び法人事業税について、特別償却は適用される。税額控除については中小企業者等に係る法人住民税に適用される。 【参考図】 オフィス減税のイメージ (※) 経済産業省ホームページ (2) 雇用促進税制の拡充 ① 制度概要 (※1) 承認は地域再生法の改正法の施行の日(平成27年8月10日:追記)から平成30年3月31日までに受ける必要がある。 (※2) 法人全体の増加雇用者数が上限とされる。 (※3) この控除を受ける場合には、現行の雇用促進税制の適用の基礎となる増加雇用者数から、この措置の適用の基礎となる増加雇用者数を控除する必要がある。 ② 特定施設の特定地域から大都市等以外の地域への移転に関するものである場合の特例 上記適用対象年度のうちその適用を受ける事業年度以後の各事業年度(その特定施設である事業所における雇用者数又は法人全体の雇用者数が減少した事業年度以後の事業年度を除く)において、適用対象年度のうちその事業年度以前の各事業年度のその特定施設である事業所における増加雇用者数の合計数に30万円を乗じた金額の税額控除ができる措置が講じられる。 ただし、この措置は、事業主都合による離職者がある場合及び風俗営業等を行っている場合には適用されない。 ③ 税額控除の上限 上記①及び②による税額控除は、当期の法人税額の30%から現行の雇用促進税制による税額控除と上記(1)の税額控除制度による税額控除との合計額を控除した残額が上限とされている。 ④ 地方税への適用 中小企業者等に係る法人住民税について同様に適用される。 【参考図】 雇用促進税制(特例措置)のイメージ (※) 経済産業省ホームページ (了)
《速報解説》 JICPAより「職業倫理に関する解釈指針」の改正(公開草案)が公表 ~英文財務諸表への移行に関する助言・指導等、 IFRS適用を想定した内容も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年1月19日付で、日本公認会計士協会は、「「職業倫理に関する解釈指針」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 「職業倫理に関する解釈指針」は、日本公認会計士協会の会員のために、職業倫理に資する適切な事案等を解釈指針として取りまとめたものである。 解釈指針には、一般事業会社が公認会計士等に業務を依頼するに際して、参考となる記載内容も見られるので、本稿で取り上げることとする。 意見募集期間は、平成27年2月19日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 以下では、主な改正内容を取り上げるが、項目によっては、従来から記載されているものもある。 1 英文財務諸表への移行に関する助言・指導 Q23では、「英文財務諸表への移行に関する助言・指導」について記載されている。 ここでは、被監査会社等が日本基準で作成する財務諸表の英文財務諸表への移行(以下「英文財務諸表への移行作業」という)に関する助言・指導に当たっては、次の点に留意する必要があるとしている。 いずれの場合にも、会計事務所等においては、監査の独立性が確保されるよう、業務内容について、明確な品質管理方針及び手続を定め、これを適切に実施することが必要であるとしている。 2 「大会社等」である監査業務の依頼人への就職 Q4-2では、「大会社等」に適用される規制の内容として、「「大会社等」である監査業務の依頼人への就職」について記載されている。 監査業務の主要な担当社員等であった場合には、自らが当該監査業務の主要な担当社員等でなくなった後に、「大会社等」が1年以上を対象とした監査済みの財務諸表を発行するまでは、当該大会社等である監査業務の依頼人の役員等に就いてはならないとされている。 これについて、公認会計士法等の法令においては、業務執行社員は翌会計期間の終了の日まで監査関与先への就職が制限されているが、独立性指針において就職が制限される期間は法令で定める期間とは異なることに留意が必要であると述べている。 例えば、監査役として、公認会計士に就任を依頼する場合には、上記の記載に注意が必要と考えられる。 3 社員等の就職制限 Q30-1では、「監査業務の主要な担当社員等が、監査法人を退職後に、関与していた監査業務の依頼人(大会社等)の役員等に就任することは可能でしょうか。」との質問に対して、次のように記載されている。 4 セカンド・オピニオン Q9では、セカンド・オピニオンを取り上げている。 倫理規則20条及び注解17のセカンド・オピニオンは、特定の取引等における会計、監査、報告又はその他の基準もしくは原則の適用について、依頼人の要請に基づいて、現任会員以外の会員が意見の表明を行うことであるとしている。 セカンド・オピニオンの表明においては、現任会員が入手した事実と同一の事実に基づかないで意見を表明してしまうことなどにより、正当な注意の原則の遵守を阻害する要因を生じさせる可能性がある点に十分に留意する必要があるとし、倫理規則20条注解17では、セーフガードとして以下を挙げているとしている。 (了)
《速報解説》 ふるさと納税、控除限度額を2倍に引き上げ「ワンストップ納税制度」を創設 ~都道府県等への要請により確定申告が不要に(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士 仲宗根 宗聡 1 はじめに 「平成27年度税制改正大綱」(平成27年1月14日閣議決定)において、ふるさと納税を促進し、地方創生を推進するため、個人住民税の特例控除額の控除限度額の上限を引き上げとともに、ふるさと納税を簡素な手続きで行える「ふるさと納税ワンストップ特例制度」の創設が明記された(大綱p28)。以下ではその内容についてまとめることとする。 (※) 2015/1/23 編集部追記 上記下線部について、本稿公開時点では「控除限度額」としていましたが、正しくは「特例控除額の控除限度額」です(以下同様)。 2 ふるさと納税とは 都道府県又は市区町村に対して寄附をした場合、その寄附金合計額から2,000円を控除した額が控除限度額まで、個人住民税の計算上、税額控除される。 3 控除限度額の引上げ 平成28年度分以後の個人住民税については、特例控除額の控除限度額が個人住民税所得割額の2割(現行1割)に引き上げられる。 4 「ふるさと納税ワンストップ特例制度」の創設 現行では、個人住民税の寄附金税額控除の適用を受けるためには、確定申告が必要である。 しかし、手続きの簡素化のため、確定申告が不要な給与所得者等が寄附を行った場合、次のとおり寄附先の都道府県又は市区町村が、寄附者に代わって税額控除の手続きを行うことができるようになる。 5 地方団体への良識ある対応を要請 なお、ふるさと納税が活況を呈している現況に対し、大綱では以下のような表記がある(大綱p28)。 (了) ↓お薦め連載記事↓
《速報解説》 「会社法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が公布 ~改正会社法は「平成27年5月1日」施行で確定~ Profession Journal編集部 監査等委員会設置会社や多重代表訴訟制度の導入、社外取締役の準義務化などが織り込まれた改正会社法の施行期日は政令委任となっており、法務省ホームページではすでに「平成27年5月1日から施行することを予定しています。」との記載がみられたが、本日(平成27年1月23日)の官報号外第14号において「会社法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が公布され、「平成27年5月1日」であることが確定した。また官報同号では「会社更生法施行令の一部を改正する政令」が公布されている。 なお、改正会社法に係る法務省令はパブリックコメントに付されていたが、昨年12月25日をもって募集は終了している(法務省令案の概要については以下を参照)。 (了)
《速報解説》 地方法人税の創設に係る改正実務対応報告「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い」が確定 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年1月16日、 企業会計基準委員会は次の実務対応報告を公表した。これにより、平成26年9月26日の公開草案が改正実務対応報告として確定することになる。 今回の改正は、平成26年度税制改正において、地方法人税が創設されたことを受けたものである。地方法人税法は平成26年10月1日から施行されており、施行日以後開始する課税事業年度から適用されている。 公開草案に対するコメントとして、実務対応報告第5号の改正案と実務対応報告7号の改正案とを1つにまとめるという意見が寄せられたが、従来どおり、2つの実務対応報告のままとなっている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正事項 平成26年度税制改正における地方法人税の創設に伴い記載内容を改正しているが、連結納税制度を適用している場合の税効果会計の考え方を変更するものではない。 地方法人税法では、連結納税制度を適用している場合、地方法人税の課税標準である基準法人税額は、連結事業年度の連結所得の金額から計算した法人税の額とするとされている。 1 連結納税主体における連結財務諸表上の取扱い 地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性の判断は個別所得見積額だけでなく、連結所得見積額も考慮して行うこととなるため、連結財務諸表において、地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性は、連結納税主体を一体として判断する。 2 連結納税会社における個別財務諸表上の取扱い 連結納税制度を適用する場合の地方法人税の個別帰属額は連結納税会社ごとに把握できるため、連結納税会社の個別財務諸表において、地方法人税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額は、連結納税会社ごとに計算する。 Ⅲ 適用時期 (了) お薦め連載記事↓↓
2015年1月22日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.103 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
日本の企業税制 【第15回】 「成長戦略としての平成27年度税制改正」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 平成27年度税制改正は、アベノミクスの第3の矢としての成長戦略に色濃く縁取られたものとなった。 昨年末12月30日にとりまとめられた与党平成27年度税制改正大綱の「基本的考え方」では、デフレ脱却・経済再生をより確実なものにしていくため、「企業収益の拡大が速やかに賃金上昇や雇用拡大につながり、消費の拡大や投資の増加を通じてさらなる企業収益に結び付くという、経済の好循環を着実に実現していくことが重要である。」として、法人税改革が冒頭に掲げられている。 このほかにも、高齢者層から若年者層への資産移転に関する様々な措置も、住宅投資や個人消費の活性化という成長戦略に沿うものである。また、地方創生関係の措置も、成長の成果を地方へ波及させようとするものにほかならない。 そこで、本稿では、今回の法人税改革を成長戦略の中での位置づけを通して読み込んでいくこととしたい。 2 成長志向の法人税改革 今回の法人税改革は「「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」ことにより、法人課税を成長志向型の構造に変えるもの」(大綱)と位置付けられている。 税率引下げにより「稼ぐ力のある企業」の税負担の軽減を図る一方で、課税ベースの拡大(特に欠損金繰越控除の制限)や外形標準課税の拡大により、赤字企業や収益力の乏しい企業には厳しい内容となっている。 事実、経団連の推計では、赤字企業では外形標準課税の拡大により税負担が増加することはもとより、所得計上企業の中でも結果的に税負担が増大する企業が現れ、収益力の高い企業ほどみかけ以上の減税となることが予想される。 3 法人実効税率の引下げと先行減税 平成27年度改正の最大の課題は法人実効税率の引下げであったが、実際の検討過程では、まず財源としての課税ベース拡大の方策を課税当局と経団連との間で可能な限り実務的に詰め切り、最終段階で税率をどこまで下げて「先行減税」を確保するかが政治的に決定された。 経団連では、まずは平成27年度で実効税率2.5%以上の引下げを求めていたが、結果として、現行34.62%(標準税率)から平成27 年度に2.51%引き下げ32.11%に、平成28 年度に3.29%引き下げ31.33%となり、両年度でそれぞれ2,100億円の先行減税とされた。 この先行減税とは、課税ベースの拡大のうち欠損金の制限が平成29年度に50%まで拡大されることで税収中立となるまでの間の先行との意味である。 【法人実効税率引下げと先行減税の関係】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 大綱では、平成29年度以降においても、「引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続する。」とされているが、その財源策として、 などが明記されている。 4 賃上げの原資としての法人税減税 成長戦略の中に法人実効税率引下げが明確に位置づけられたのは、平成26年度改正において復興特別法人税の前倒し廃止されたことから始まるが、その際に、賃金引上げがその条件とされた。その結果、昨年の春闘の結果は、厚生労働省調べによれば、民間主要企業で賃上げ率は2.19%(前年比0.39ポイント増)、平均妥結額は6,711円(前年比1,233円増)との大幅なアップとなった。 法人税減税が、企業の内部留保の増大ではなく設備投資や研究開発投資に向かうことは従来から期待されていたが、それにとどまらず賃金引上げにより経済の好循環を促すとの考えは、平成26年度改正からであり、今回はこの傾向がより明確に示されている。 大綱では、法人税改革を通じて「企業が収益力を高めれば、継続的な賃上げが可能な体質となり、より積極的な賃上げへの取組みが可能となる。」とした上で、極めて異例だが、「経済界においては、今般の改革がもたらす経営環境の変化も踏まえ、収益力や生産性の向上に向けて一層の企業努力を行い、得られた利益を従業員や株主に適切に還元するとともに、取引先企業への支払単価を改善することを通じて、経済の好循環の実現に向けて積極的に貢献していくことを求めたい」との言及がなされている。 また、賃金引上げを促すための仕組みが税制の中でも取られている。法人税における所得拡大促進税制の要件緩和と、法人事業税の外形標準課税における所得拡大促進税制の導入である。経団連では外形標準課税の拡大について、法人実効税率20%台への引下げのためには不可避と考えつつ、その大半が賃金課税であるところから、少なくとも政府の要請に応えての賃金引上げ部分については課税対象から除くことを求めてきたが、ほぼ要望が充たされたものと考える。 平成27年度税制改正を受けて、今期の賃金引上げは経団連としての政治的な公約となっており、昨年12月16日開催の政労使会議において経団連は次期賃金改定での賃金引上げを了解するとともに、本年1月20日公表の経営労働委員会報告書の中では、ベースアップを含めた賃金引上げを会員企業に対して呼び掛けている。 5 課税ベースの拡大 法人税減税財源については、昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略2014」に中では、課税ベースの拡大とアベノミクスの成果としての自然増収がともに示されていたが、実際には「2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を確保するため制度改正を通じた課税ベース等により、恒久財源をしっかり確保する」(大綱)との方針が貫かれていた。 具体的な課税ベース拡大については、昨年8月末に、法人事業税外形標準課税の拡大と併せて欠損金繰越控除の制限、受取配当益金不算入の制限、研究開発税制の縮減を平成27年度・28年度に行い、さらに減価償却制度の定額法一本化を29年度に行うとの方針が、財政当局より自民党税調幹部に対して示され、既報のように、9月初めより経団連と財務省主税局との折衝が続けられ、11月中にはほぼ合意をみていた。ここに改めてその概要を整理しておく。 【課税ベース拡大の概要】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
法人税改革の行方 【第7回】 (最終回) 「まとめ」 慶應義塾大学経済学部教授 土居 丈朗 本連載では、わが国の法人税改革の背景と経過について論じてきた。 法人税改革はまだ終わってはいない。2016年度改正においても、課税ベースの拡大等により財源を確保して、2016年度における税率引き下げ幅の更なる上乗せを図ることとされている。また、その後の年度の税制改正においても、引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続するともうたわれている。 2015年度税制改正大綱の取りまとめにおける過程で見えたことは、グローバル化に適合した法人税制のあり方を模索する一方で、税収確保の必要性があって、それらをどう両立するかに腐心したことである。 2015年度税制改正大綱では、法人実効税率の引下げの代替財源には、その過半に外形標準課税の拡大が用いられた。果たしてこのままでよいのだろうか。 外形標準課税、中でも付加価値割は、世界的にみてもこうした税はむしろ廃止する方向に向かっている。別の言い方をすれば、本連載の前回で述べたように、加算法付加価値税ではなく、控除法付加価値税で課税するのが世界の趨勢になっているといえる。その現実を、わが国の今後の法人税改革でも重く受け止めるべきである。 グローバル化への対応と税収確保の必要性を両立させるには、わが国の税制は、所得課税から消費課税へとシフトさせることが求められる。もちろん、消費税は社会保障の財源として活用するという発想は良い。しかし、1対1で対応しなくてもよいから、法人所得課税で税収を確保するのではなく、消費課税(基本的には消費税)で税収を確保する税制に改めてゆくのがふさわしい。 グローバル化の中で、(個人、法人を問わず)所得の源泉地を変えることができる状況の中で、所得を得る個人はどこかの土地で生活し、消費活動を営まなければならない。そうした中で、政府が供給する公共サービスには税財源が必要である。こうした時代には、源泉地で所得に課税するより、消費地で消費に応じて課税するのが望ましい。そして、所得課税から消費課税へとシフトさせることで、課税によって経済活動を阻害する度合いを小さくすることができ、経済成長にも親和的な税制となる。 あとは、それを実現する政治的説得が求められる。所得課税、中でも法人所得課税から消費課税へとシフトさせることは、結果的に、法人税を減税し消費税を増税することを意味する。税目の名前だけにとらわれて、法人税は法人だけが負担し消費者は負担せず、消費税は消費者だけが負担し企業は負担しない、という誤解に基づくと、法人税減税と消費税増税は、企業優遇・消費者冷遇という勘違いを助長する。これが、所得課税から消費課税へのシフトを政治的に阻む一因になる。 また、税務当局も、法人課税は“too big to fail”(税収が大きすぎてなくせない)との認識が潜在的にあり、法人税を減税するにしても、消費税の増税を有権者の多数がすぐに賛同しないならば、税収を確保するためには法人課税を軽くできないというジレンマにある。しかし、グローバル化の中で、いつまでも法人課税を重課し続ければ、企業の海外流出等によってわが国の法人課税の課税ベースはジリ貧となる。ジリ貧となる法人課税にいつまでもしがみついていては、わが国の財政健全化も全うできない。やはり、早期に所得課税から消費課税へのシフトを進めて、わが国の税制の基盤を安定させるべきである。 結びに、本連載が、今後の税制改革論議に資するものになることを願う。 (連載了)
〔平成26年分〕 贈与税申告の留意点 【第1回】 「過年度及び本年度改正についての確認」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 平成27年1月1日以降に他界した方の相続税については、基礎控除が従前よりも4割引き下げられるため、生前贈与の活用が従前よりも活発になると考えられる。本稿は2回にわたり平成26年分贈与税申告の留意点を説明すると同時に、平成26年分の贈与税申告を行う際に(今後贈与を行う場合との有利不利を理解した上でのアドバイスも求められる可能性があるため)、平成27年以降の贈与税についての改正事項も理解しておく必要があるため、その点もあわせて解説することとしたい。 1 平成26年分贈与税申告に係る主な改正事項 (1) 直系尊属からの住宅取得等資金贈与税非課税特例 〈平成26年贈与〉(非課税額限度額の引下げ) 平成24年1月1日から平成26年12月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築若しくは取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)を取得した場合で、一定の要件を満たすときは、次の表の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となる(措法70の2)。 (国税庁「平成26年分贈与税の申告のしかた」P60) この非課税限度額は上記のように贈与年により異なり、平成26年分贈与については、省エネ等住宅は1,000万円、省エネ等住宅以外の住宅は500万円となるため、留意が必要である。 (2) 医療法人の持分に係る相続税及び贈与税の納税猶予等の創設 〈平成26年贈与〉 認定医療法人の出資者が持分の放棄をしたことにより他の出資者に贈与税が課される場合には、当該他の出資者が納付すべき贈与税額のうち、当該放棄による受けた経済的利益に係る課税価格に対する贈与税額については、担保の提供を条件に移行計画に記載された移行期限までその納税を猶予し、移行期限までに当該他の出資者が持分のすべてを放棄した場合には、猶予税額を免除することとされた(措法70の7の8、70の7の9)。 この制度は、平成26年10月1日以後に認定医療法人の持分の放棄があった場合の経済的利益に係る贈与税について適用される。 (国税庁「平成26年分贈与税の申告のしかた」P72) 2 平成27年以降の贈与税の税率等の改正事項 平成26年分の贈与税申告には影響しないが、今後の贈与対策に必要となるため、平成27年以降の贈与税に係る改正事項をまとめると以下のとおりである。 (1) 贈与税の税率構造の見直し 平成27年1月1日以降に行われる贈与については、贈与税の税率が以下のように改正される。 (国税庁「平成26年分贈与税の申告のしかた」P81) 直系尊属からの受贈者(20歳以上)への贈与については、平成26年よりも平成27年に贈与を行ったほうが贈与税の負担が少なくて済む場合があるため、(上図の特例税率を適用した場合)贈与の実行のタイミングには留意が必要と考えられる。 (2) 相続時精算課税制度の適用要件の緩和 平成27年1月1日以降の贈与について、相続時精算課税を適用する場合の要件が以下のように改正される。 (国税庁「平成26年分贈与税の申告のしかた」P81) 平成27年以降の贈与については、相続時精算課税制度を選択できる贈与者、受贈者が増えるため、この点を理解して贈与を検討する必要があると考えられる。 * * * 次回(2015/1/29公開)は、贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)を活用するときの留意点について解説する。 (了)
平成26年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 「海外転勤者の確定申告」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 近年、企業活動のグローバル化に伴い、海外転勤は一部の個人を対象とするものではなくなっている。海外転勤者の税務については、転勤する本人と企業側の双方が理解しておくことが大切である。 (1) はじめに 所得税の課税の対象となる所得の範囲は、個人の居住形態に応じて次の通り定められている(所法7①一・二・三)。 〈居住形態と課税所得の範囲〉 (※) 内国法人の役員の場合には、役務の提供が国外で行われたとしても、その者に対する役員報酬は(海外の支店等に使用人として常時勤務している等の場合を除き)国内源泉所得として所得税の課税対象となる(所法161八イ、所令285①、所基通161-29)。 年の途中で海外へ転勤し居住者から非居住者になった人や、反対に海外から帰国し非居住者から居住者となった人、また、非居住者期間中に国内源泉所得が生じる人については、確定申告が必要となる場合がある。 海外転勤者の確定申告に関する留意点を、以下にまとめる。 (2) 年の途中で海外へ転勤した人の場合(出国年分の確定申告) ① 確定申告が必要な人 年の途中で海外へ転勤する場合、居住者期間内に支払いを受けた給与等については、原則として出国までに年末調整が行われる。そのため、他に国内における所得がなければ確定申告は不要である(所法190、所基通190-1)。しかし、年末調整の対象となった給与の他に国内での所得がある人や年末調整を受けていない人は、確定申告が必要となる場合がある(所法120、121、127①)。 また、義務ではないが、申告をすれば還付を受けることができる場合もある(所法122①、127②)。 確定申告の対象となる所得は、上図(A)と(B)(源泉分離課税となるものを除く)を合計したものである(所法102、所令258、所基通165-1、措法41⑲)。 ② 確定申告書の提出時期と提出先 確定申告書の提出時期は、出国までに納税管理人を選任しているか否かで異なる。 非居住者となった人の確定申告書の提出先は、出国前の納税地(従前の住所地)を所轄する税務署とする他、いくつかの規定が設けられている(所法15四・五・六、所令53、54)。納税管理人の住所地を所轄する税務署ではないことに注意が必要である。 ③ 所得控除についての注意点 出国した年分の確定申告では、所得控除の適用において次の点に注意が必要である(所令258①三、③、292①十六、所基通165-2)。 ④ 外国税額控除の適用 外国税額控除適用については、非居住者期間内に生じた所得はないものとみなす(所法102、所令258④、所基通165-1)。 (3) 海外赴任中の人の場合(出国中の年分の確定申告) ① 確定申告が必要な人 1年以上の予定で海外勤務している場合には、日本国籍の有無にかかわらず「非居住者」に該当するため、日本においては国内源泉所得のみが課税対象となる。 海外へ転勤した翌年以後(帰国年を除く)で、確定申告が必要となるのは、国内源泉所得のうち一定の所得が基礎控除の額を超える場合である。 なお、当該国内源泉所得は、勤務地国においても課税の対象とされることがある。その場合には、勤務地国において外国税額控除の適用を受けることができる可能性がある(勤務地国の税制による)。 ② 確定申告書の提出時期と提出先 確定申告書は、翌年の2月16日から3月15日までの間に納税管理人を通して提出する(所法120)。 非居住者の確定申告書の提出先は、出国前の納税地(従前の住所地)を所轄する税務署とする他、いくつかの規定が設けられている(所法15四・五・六、所令53、54)。この場合も、納税管理人の住所地を所轄する税務署ではないことに注意が必要である。 ③ 所得控除についての注意点 非居住者期間の確定申告に適用される所得控除は、雑損控除、寄附金控除、基礎控除の3種類のみに制限されている(所法165)。 ④ 事例 (4) 年の途中で海外から帰国した人の場合(帰国年分の確定申告) ① 確定申告が必要な人 海外から帰国した年について確定申告の必要があるか否かの判断は、基本的には年間を通して居住者であった者の場合と同じである(所法120、121)。還付申告についても同様である(所法122)。 ただし、住宅借入金等特別控除の再適用を受ける場合、又は居住開始年度に海外転勤したため帰国後に同制度の適用を初めて受ける場合には、帰国した年に確定申告をする必要がある(措法41⑱・⑲・(21)・(22))。 確定申告の対象となる所得は、上図(A)と(B)を合計したもの((A)がない場合には(B)のみ)である(所法102、所令258)。 ② 確定申告書の提出時期と提出先 確定申告書は、翌年の2月16日から3月31日までの間に、納税地(住所地)を所轄する税務署長に提出する(所法15①、120)。 ③ 所得控除についての注意点 帰国した年分の確定申告では、所得控除の適用において次の点に注意が必要である(所令258①三、③)。 ④ 外国税額控除の適用 外国税額控除適用については、非居住者期間内に生じた所得はないものとみなす(所法102、所令258④)。 * * * 次回(最終回)は、誤りやすい事例を取り上げる予定である。 (了)