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monthly TAX views -No.23-「消費再増税の延期は正しいのか」

monthly TAX views -No.23- 「消費再増税の延期は正しいのか」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   安倍総理は、7-9月のGDP速報値がマイナス1.6%(年率)になったことを受け、消費再増税を2017年4月に先送りし、衆議院を解散し総選挙に突入した。 解散の理由は、今解散することが党勢を保つぎりぎりのタイミングという政治論からであり、消費再増税延期とは必ずしも結び付かない。 筆者も、この「マイナス1.6%」という結果を見て、わが国経済が順調に回復していないことを改めて実感したが、18日(火)の記者会見を聞いていて、今回の再増税延期の判断をめぐる次の4つの問題点が頭に浮かんだ。 *  *  * 第1は、実質個人消費は伸びている(+0.4%)こと、在庫調整が進んでいることが成長率にとっては裏目になっている(-0.8%)ことなどから判断すると、経済が腰折れしているところまでは行っていないと言える。 そうである以上、社会保障・税一体改革として決まった消費再増税は延期すべきではないということである。 わが国の社会保障の半分は将来世代への借金で賄われている。加えて、年金などの社会保障は、勤労世代から負担を求めて高齢世代に給付するという構造になっている。これを、高齢者も含めた現役世代が負担するように改め、子育てなど勤労世代への支援にシフトさせていくことが社会保障・税一体改革の趣旨であり、これは継続して行う必要があるという理由からである。 *  *  * 第2は、経済が停滞した原因は、消費税率8%への引上げが最も大きいとしても、それ以外にも、アベノミクス「第1の矢(大胆な金融政策)」や「第2の矢(機動的な財政政策)」が、想定していたように飛んでいないという問題が生じている。加えて、アベノミクス第3の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」は、全くと言っていいほど実行されていない。 まずはこれらの問題解決に向けた努力をすべきである。 110円近くの円安になっても輸出の伸びはスローである。逆に輸入価格が上昇し、実質所得が減少し消費にマイナス効果が生じている。消費増税の影響を緩和するために公共事業を追加して需要面から支えようとしたが、資材や労働者不足で公共事業は思うように進んでいない。無理やり進めれば民間の建設事業に悪影響を及ぼすことになる。 このように当初の想定通り進まない原因は、「長年のデフレ」と「少子高齢化の進行」により、わが国の経済構造が大きく変化したことが挙げられる。 今必要なのは、それを是正する経済構造改革を成長戦略として行うことである。 税制の世界でいえば、女性労働力の活用と言いながら、女性就労をめぐる103万円や130万円の壁を形成している配偶者控除や年金制度改革には、全く手がつけられていないのが現状である。 *  *  * 第3に、われわれが考えておかなければならないのは、第1の矢の『出口』(異次元金融緩和を正常化する場面)である。 今回の消費再増税の先送りは、海外から見れば「財政再建を先送りした」と映る。経常収支の赤字が定着し、高齢化により国内貯蓄の取崩しが始まっている状況下での財政再建の先送りは、日銀がほぼ無制限に国債を買い上げている間は何とかなるが、必ずやってくる「出口」では、「日本売り」につながる大きなリスクが生じる。 消費再増税先送りは、短期的な景気には効果はあるが、そのリスク、負の面が今後じわりじわりと出てくると思われる。その意味で、目先の利益にとらわれ、計り知れないリスクを抱え込んだといえよう。 *  *  * 最後に、今回自・公で、2017年4月の消費税率10%引上げ時の軽減税率の導入を目指すことを公約にしたが、これは天下の愚策である。 改めてこの連載で論じたいが、これほど欧州諸国で問題となっている制度を導入することに、いったいどのような意味があるのか。 軽減税率が事業者や消費者に多大のコストをもたらすだけでなく、低所得者対策にはならないことは自明である。食料品を軽減税率にした場合、高所得者ほど多額の食料費支出となるため、その恩恵を受けるのは高所得者なのである。 16年のマイナンバー導入後は、世帯所得を把握することが可能になるのであるから、低所得者に基礎的な食料支出にかかる消費税額を還付する制度で対応すべきだ。 政治で税制が歪むのは、何としても避けたいものだ。 (了)

#No. 97(掲載号)
#森信 茂樹
2014/12/04

【施行前に再チェック】相続財産に係る譲渡所得の課税の特例の見直し 【第1回】「平成27年1月1日から適用される改正事項の確認」

【施行前に再チェック】 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例の見直し 【第1回】 「平成27年1月1日から適用される改正事項の確認」   税理士 齋藤 和助   1 はじめに 平成26年度税制改正により、相続財産に係る譲渡所得の課税特例(措法39)(以下「相続税の取得費加算の特例」という)について、現行では相続したすべての土地等に対応する相続税相当額が取得費に加算できるのに対し、改正後は譲渡した土地等に対応する相続税相当額だけが取得費に加算できることになる。 本稿は、本改正の施行が平成27年1月1日と目前に迫ってきたことから、【施行前に再チェック】として2回にわたり、改めて改正内容を確認し、施行前の注意点や対応方法をまとめてみた。   2 相続税の取得費加算の特例の計算方法の改正 (1) 改正前 相続又は遺贈により財産を取得した個人が、その相続の開始のあった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以降3年を経過する日までに、相続財産を譲渡した場合には、その納付すべき相続税額のうち、一定の金額を、その譲渡した資産の取得費に加算して、その譲渡所得の計算上、控除することができる(措法39①、措令25の16①)。 譲渡所得金額=譲渡収入金額-((取得費+取得費加算額)+譲渡費用等) この取得費に加算される相続税額は、「土地等の場合」と「土地等以外の場合」に区分され、それぞれ以下のようになる(措令25の16②)。 ① 譲渡資産が土地等の場合 ② 譲渡資産が土地等以外の場合 (2) 改正後 相続財産である土地等を譲渡した場合の特例について、当該土地等を譲渡した場合に譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算する金額は、その者が相続したすべての土地等に対応する相続税相当額から、その譲渡した土地等に対応する相続税相当額とされる。 そのため基本的には、改正前の「土地等以外の場合」の計算式と同様になる(措法39①)。 (3) 適用時期 平成27年1月1日以後の相続等により取得した土地等を譲渡した場合に適用となる。 そのため、平成26年12月31日以前の相続等により取得した土地等を、平成27年1月1日以後に譲渡しても、改正前の適用が受けられる。   3 所得税の確定申告書の提出期限後に相続税額が確定した場合 (1) 改正前 措置法第39条第1項に規定する資産を譲渡した場合において、当該譲渡の日の属する年分の所得税の確定申告書を提出した後に相続税の申告書の提出期限が到来し、当該提出期限内に当該相続税の申告書の提出により相続税額が確定したため、納税者から同項の規定の適用方について申出があり、かつ、確定申告書に適用を受ける旨の記載や明細書の添付があった場合には、所轄税務署長の職権等により特例の規定を適用することができる(措通39-15)。 (2) 改正後 相続財産の譲渡に係る確定申告書の提出期限後に、当該相続財産の取得の基因となった相続に係る相続税額が確定した場合(相続税の期限内申告に限る)には、当該相続税の期限内申告書を提出した日の翌日から2月以内に限り、更正の請求により本特例の適用を受けることができる(措法39④)。 (3) 適用時期 平成27年1月1日以後に開始する相続又は遺贈により取得した資産を譲渡する場合について適用となる。   4 改正法令の明確化 本特例の改正により、以下の租税特別措置法関係通達での取扱いが法令に規定された。これらは取扱いの明確化なので、基本的に現行と同じ取扱いであり、実務上影響はない。 (1) 適用対象者 非上場株式等についての贈与税の納税猶予の適用を受けていた個人で、当該非上場株式等の贈与者の死亡によって当該非上場株式等を相続により取得した者とみなされるものが加えられた(措法70の7、70の7の3、措法39①)。 (2) 相続税額 ① 農地等について相続税の納税猶予を受ける場合の相続税額 農地等についての相続税の納税猶予等の規定の適用があった場合には、相続税の納税猶予適用後の相続税額(納税猶予額を含めた相続税額)とする(措法70の6、措法39⑥)。 ② 相続税の修正申告等により相続税額が異動した場合 修正申告等により相続税額が異動した場合は、修正申告後の相続税額とする(措令25の16①②)。 (3) 相続財産 ① 換地処分等により取得した資産を譲渡した場合 換地処分等により取得した資産を譲渡した場合においても、当該譲渡資産を適用対象となる相続財産に含める(措法39⑦)。 ② 資産の譲渡に含まれる不動産等の貸付け 対象となる相続財産の譲渡には、譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含める(措法39①)。 ③ 同一年中に複数の相続財産の譲渡をした場合 譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算する金額は、その譲渡をした資産ごとに計算する(措法39⑧)。 (4) 適用時期 平成27年1月1日以後に開始する相続又は遺贈により取得した資産を譲渡する場合について適用となる。 *   *   * 次回(12/11公開)は、施行前の注意点や対応方法を確認してみたい。 (了)

#No. 97(掲載号)
#齋藤 和助
2014/12/04

欠損金の繰越控除制度の見直しは何を意味するのか? 【第1回】「事業年度単位課税の弊害と本制度の設立趣旨」

欠損金の繰越控除制度の見直しは何を意味するのか? 【第1回】 「事業年度単位課税の弊害と本制度の設立趣旨」   税理士 小谷 羊太   ▷はじめに 本稿では、平成27年度税制改正において「欠損金の繰越控除制度」に係る見直しが予定されていることから、あらためて本制度の意義と今後の改正の影響について、2回にわたり私見を交えつつ考えてみたい。今回は本制度の根本的な考え方について解説する。 まず、政府税制調査会が平成26年6月に公表した「法人税の改革について」によると、次のようなことが書かれている。   ▷事業年度単位課税の考え方 我が国の法人税の課税体系は、各事業年度の所得に対して法人税が課せられる。 「各事業年度の所得」とは、事業年度単位課税を原則としていることを意味する。 事業年度単位課税とは、事業年度を単位として課税する仕組みのことをいう。 つまり、1事業年度を1単位として、獲得した利益を期間で区切り、その区切り毎に税金を課する課税方式である。 本来、獲得した利益に対して課税する法人税は、その事業活動の結果によって獲得した利益に課税するべきであるが、課税期間を区切ることによって、次のような弊害が生じる。 例えば、1事業年度目の所得が100円あったとして、それに30%の税金が課せられた場合、30円の税金を支払うことになる。 そして、次の事業年度において200円の赤字となった場合には、利益はなかったのであるから当然に税金はかからないことになる。 さらにその翌事業年度、つまり3事業年度目の所得が100円あった場合には、事業年度を単位として課税されるのであるから、30円の税金を支払うことになる。 ここで3事業年度の獲得所得と法人税の関係を再考してみると、3回の各事業年度によって獲得した所得は100-200+100=0であるのに対し、支払った法人税は30+30=60となる。つまり、所得が通算して「0」であるにもかかわらず、「60」の納税をすることになるのである。   ▷担税力からみた問題 上記の例の場合、会社にあるお金の流れについて考察してみれば、1期目については100円の儲けがあったのであるから、その儲けのうち30円について、税金が徴収されることは理にかなっている。しかし、2期目に至っては、100円の儲けに対して30円の税金がすでに徴収されたのであるから、会社に残されているお金は70円(=100円-30円)となっている。そして200円の赤字となったため、70円-200円=△130円となり、債務超過の状態となっている。 次に、3期目は100円の所得が出たのであるから、△130円+100円=△30円となるため、この状態においても債務超過の現状を脱却したわけではないにもかかわらず、3期目は30円の税金の負担を強いられることになる。 事業年度単位課税の弊害がここにある。 「1事業年度を1単位として課税されている」ことを常識として捉えてはいけない。そして、「その1単位は1年である」という常識も当たり前であると考えてはいけない。つまり、こういった事業年度の1単位は、長ければ長いほど、納税時期を遅らせることができ、さらにはリスクを回避することができるのである。 しかし、法人税法の規定によれば、事業年度は1年以下の単位で決めなければならないことになっている。そのためほとんどの会社が1事業年度を1年の期間で定めている。 また、永続事業を前提としている企業の途中段階において、担税力がない状態であり、かつ、利益がない状態の会社から税金を徴収することは、租税上のモラルとして、国の不当利得ではないかという疑問も生じる。 調子の良い一時期にのみ焦点が当てられ税金を徴収するような、都合の良い仕組みのみなのであれば、一時的に儲かったからといって、うかうかと利益を計上し「社会に還元する」という税金の基本体系にも賛同する気になれないのが人の情というものである。 また、通常、会社を設立して1年で結果が出せる企業は珍しいのではないだろうか。ほとんどの小規模の会社のケースでは、1年目は大赤字であり、その後3年から5年の期間を経て、ようやく結果が出せるのではなかろうかと考える。   ▷欠損金の繰越控除制度の意義 事業年度を単位として課税をする仕組みは、それが常識と思われるものであっても、このように完全なものではない。 そこで、欠損金の繰越控除の制度が用意されている。 この制度は というものである。 つまり上記の例でいえば、2期目に生じた赤字の欠損金である△200円を翌期以降の所得金額の計算上、損金として認める制度である。 この制度が「青色申告の特典」として用意されていることにはいささかの疑問が生じるであろうが、優良な申告制度実現のために与えられる恩恵であるのと、実際に青色申告の要件である複式簿記による帳簿書類の作成をしているような会社でなければ適正な計算は難しいという実務上の姿を考慮すれば、『特典』という位置づけの制度としても納得のいく制度であると考える。 会社の担税力を考慮した場合には、税負担により債務超過となっている状態の会社から、事業年度単位課税がルールであるという理由で税金を徴収するのであれば、個人的には人としての薄情さを感じるが、この欠損金の繰越控除の制度が利用できるのであれば、過去の失敗をカバーしながら経常的に利益を獲得することができるまで国が一緒になって応援してくれているという、社会が一体となって助け合うという税金の徴収制度の根本的な心を垣間見ることのできる特典であるともいえる。 次回は現行制度における欠損金の繰越控除の要件やグローバル化を目指す税制改正の意味と懸念について考えてみたい。 (了)

#No. 97(掲載号)
#小谷 羊太
2014/12/04

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第15回】「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括④」

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第15回】 「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括④」   公認会計士 佐藤 信祐   東京地裁平成26年3月18日判決に係る2つの事件においては、朝長英樹氏から3本の鑑定意見書が出されており、平成23年10月28日付鑑定意見書、平成24年5月14日付け鑑定意見書については、第12回から第14回までで解説を行った。 本稿においては、平成24年7月12日付鑑定意見書について考察を行うこととする。 (3) 平成24年7月12日付鑑定意見書 ① 概要 本鑑定意見書は、平成23年10月28日にみなし共同事業要件について争われた事件(東京地裁平成23年(行ウ)第228号)に対して提出された鑑定意見書の補充意見書となっており、裁判が進む中で追加的に提出されたものであると推定される。それが故にその内容は多岐にわたっており、大きく分けると、 に分かれている。このうち、主要な内容は(ⅰ)(ⅱ)(ⅴ)となっているため、本稿においてはこれらを取り上げることとする。 ② 法人税法132条の2の解釈 まず、本鑑定意見書においては、立法過程において、法人税法132条の2の規定を適用するものと考えられていた「租税回避」について取り上げられているが、これは、『平成13年度版改正税法のすべて』においてまとめられていた内容を詳細に解説したものとなっているため、ここでは割愛する。 また、本鑑定意見書においては、 と指摘されているが、あいにく、ここまで明確な証拠は発見することはできなかった。むしろ、平成20年当時税務大学校研究部教授であった清水一夫氏の論文において、行為計算否認(法法132、132の2、132の3)を適用するための要件として、 を挙げられ(※1)、平成23年には、財務省主税局OBであった佐々木浩氏も包括的租税回避防止規定については経済合理性がキーワードになる旨を述べられていることを考えると(※2)、少なくとも、財務省主税局や国税庁のなかでそれほど明確な統一見解が存在したとは想定し難い。 (※1) 清水一夫(2008)「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号314頁 (※2) 仲谷修・栗原正明・中村慈美・佐々木浩・武井一浩(2012)『企業組織再編成税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』大蔵財務協会129頁 むしろ、わずかな事業目的だけで経済合理性を主張することは認められないとか、経済合理性の判断は制度趣旨を踏まえて判断すべきといった見解は少なからず見受けられるところであり、しっかりとした事業目的が存在し、個別に見ただけでなく、全体的に見ても経済合理性が認められるような場合についてまで、結果として、制度趣旨に合致しないという理由だけで包括的租税回避防止規定が適用されるという解釈までには至るべきではないと考えられる。 この点については、さすがに全体的に見ても経済合理性が認められるような場合についてまで包括的租税回避防止規定を適用しようとする趣旨とまでは解されず、本鑑定意見書においても、 と記載されていることからすると、「不自然」「不合理」かどうかという認定が重要になってくるということは本鑑定意見書からも窺える。 ③ 本件の全体像 本鑑定意見書においては、本件の全体像が触れられており、 と指摘されている点が特徴的である。 これはある意味当たり前のことであり、経済合理性の判断はストラクチャー全体で判断すべきであり、個々の行為だけで判断すべきではないということは言うまでもない。そうであるならば、敢えて、 とまで主張する必要があったのかという点は疑問に感じるところである。 ④ 原告の主張に対する見解 本鑑定意見書においては、原告の主張に対して見解を述べられており、その主要な内容については、特定役員引継要件の制度趣旨と包括的租税回避防止規定の射程範囲である。 このうち、後者については、今までの鑑定意見書の内容を言い換えた内容となっているため、本稿においては割愛するが、前者について「被合併法人の特定役員は被合併法人の事業を体現していると認められる者でなければならない」と指摘している点が特徴的であり、この内容が東京地裁判決に繋がったものと考えられる。 なるほど、確かに制度趣旨を考えれば、取締役副社長としての権限や職責を有していたとしても、事前に送り込まれた役員であるということであれば、被合併法人の事業を体現していないということは言えるため、同意できる部分は少なからず存在する。 おそらくは、この鑑定意見書が書かれた後に原告が主張したものであると想定されるが、第7回で解説したように、本事件において送り込まれた取締役副社長は、買収前における被合併法人(被買収会社)の100%親会社の取締役であり、かつ、合併法人(買収会社)の代表取締役であったという特殊事情が存在する。 すなわち、親会社の取締役である以上、子会社に対する監督責任というものは存在し、そうなると、取締役副社長に就任する前であっても、被合併法人の親会社の取締役として被合併事業を体現している者であると認められ、特定資本関係発生日前に取締役副社長に就任したとしても、それは変わらないということができる。そうなると、朝長英樹氏の鑑定意見書の内容がすべて正しいと考えたとしても、納税者が勝訴する余地が存在するという興味深い結論となっている。 いずれにしても、【争点2】についての争いが本事件における中心的な内容になってくると考えられ、控訴審、上告審がどのような判決文になるのかについては、今後の実務において重要な内容になると考えられる。 次回以降は、グループ法人税制適用前の事件であるが、日本IBM事件について解説を行うこととする。 (了)

#No. 97(掲載号)
#佐藤 信祐
2014/12/04

こんなときどうする?復興特別所得税の実務Q&A 【第15回】「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった場合」

こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第15回】 「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった場合」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   当社は、設立直後に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ提出しており、1~6月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を7月10日までに納付、7~12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を翌年1月20日までに納付しています。 先月末(平成26年11月30日)の当社の従業員数は、役員1名、正社員7名、合計8名です。平成26年12月1日付けで正社員が3名入社したので、現在(平成26年12月5日)の当社の従業員数は、役員1名、正社員10名、合計11名です。退職予定者は、いません。 今後の源泉所得税の納期についてご教示ください。 源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、源泉徴収した月の翌月10日までに納付しなければならない。ただし、次の①~③の全てを満たす場合には、1~6月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を7月10日までに納付、7~12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を翌年1月20日までに納付の年2回払いにすることができる。 今回のケースにおいては、平成26年12月より給与の支給人員が常時10人以上となることから、上記②の要件を満たさなくなる。したがって、遅滞なく、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署へ提出しなければならない。 提出した月以前に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、提出した月の翌月10日までに納付、提出した月の翌月以降に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、毎月翌月10日までに納付することになる。 “遅滞なく”提出すればよいことから、平成27年1月以降に提出がずれ込むことが考えられる。平成26年12月5日、平成27年1月5日、平成27年2月5日に「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署へ提出した場合の源泉所得税の納期は、以下の通りとなる。 (了)

#No. 97(掲載号)
#上前 剛
2014/12/04

税務判例を読むための税法の学び方【49】 〔第6章〕判例の見方(その7)

税務判例を読むための税法の学び方【49】 〔第6章〕判例の見方 (その7)   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   ③ 民事訴訟と刑事訴訟 裁判の種類といった場合、最も一般的な分類が、刑事訴訟(刑事裁判)と民事訴訟(民事裁判)に分類するものであろう。 そこで今回は、この分類について説明する。 なお「裁判」と「訴訟」の差異はあまり意識されていないが、まず「裁判」は、日常用語としては、裁判所で行われる手続自体を「裁判」ということが多い。しかし法律用語としては、裁判所が法定の形式に従い、当事者に対して示す判断(又はその判断を表示する手続上の行為)をいうものである。 また訴訟は、紛争について国家等の司法権を有する第三者を関与させ、その判断を仰ぐことで紛争を解決すること、又はそのための手続のことである。したがって裁判所で行われたとしても、当事者の話し合いで解決を図る調停や仲裁、和解などとは区別される。 したがって「訴訟」はこの「裁判」を含む手続全体、「裁判」は「訴訟」における裁判所が主体となっている部分を中心とした概念ということになろうか。しかしその差異について明確にすることに実益はないので、ほぼ同義語として、民事訴訟と刑事訴訟の分類を、民事裁判と刑事裁判の分類と同義として進めていく。 では、まず民事訴訟と刑事訴訟といった分類は、裁判(訴訟)の何による分類なのかについてである。 これは、裁判手続又はその手続を規定している根拠法令による分類といった一面がある。すなわち、その訴訟が刑事訴訟法によるか、民事訴訟法によるかといった点である。 しかしその裁判手続やその手続の根拠法令の差異も元々、争われている内容による差異でもある。すなわちその裁判が、犯罪被疑者に対する国家による刑事訴追であるのか、それとも私人間の紛争解決であるかといった内容の差異である。その意味では、争われている内容の差異ともいえる。 いずれにせよ、この争われている内容の差異、そしてその結果の裁判手続及び根拠法令の違いによる分類として、刑事訴訟と民事訴訟がある。もっともこれは大きく分けた場合であり、通常の分類としては「刑事訴訟」と「民事訴訟」、「行政訴訟(行政事件訴訟)」の3つに分けられる。 刑事訴訟は先に記したように犯罪被疑者に対する国家による刑事訴追に関する訴訟である。もう少し詳しく書くなら、特定の人の犯罪を認定し、これに対し刑罰を科すべきか否かを確定させるための訴訟手続である。国家と私人との間の問題であるため、私人を手続に関与させない形態も考えられるが、近代では人権尊重の観点から、訴追機関と審判機関を分離するとともに訴追機関と被告人とを当事者として対立させる訴訟構造が採用されている。なお、その手続が規定されている基本的な根拠法令は、刑事訴訟法となる。 民事訴訟もまた先に記したように私人間の紛争解決に関する訴訟である。ただし私人間に限らず、私法上の紛争解決の一方の当事者に、国家や地方自治体のような行政機関がなる場合もまた民事訴訟である。したがって、私人間の紛争解決というよりも、私法上の紛争解決といった方が正確であろう。したがって、端的に言うなら、私法を適用して解決するための訴訟手続といえよう。なお、その手続が規定されている基本的な根拠法令は、民事訴訟法となる。 行政訴訟は、この行政機関が一方の当事者となる民事訴訟と同様、行政機関が一方の当事者となり一方の当事者が私人となるのであるが、その争われる対象は私法上のものではなく、行政による公権力の行使に対して是正を求めるための訴訟手続である(もっとも両当事者が行政機関という場合もある(後掲、機関訴訟))。したがって、訴訟の対象となる法律関係が公法によって規律される点において、先の民事訴訟の場合と区別される。その手続が規定されている基本的な根拠法令は、行政事件訴訟法となる。 ただし行政事件訴訟法の第7条には、以下のように定められている。 ここにあるように、行政事件訴訟法に規定がない場合には民事訴訟法によることになるのであるから、広い意味(すなわち、刑事訴訟に対するという意味で)では、行政訴訟は民事訴訟に含まれると言えよう。 なお行政訴訟は、「抗告訴訟」、「当事者訴訟」、「民衆訴訟」及び「機関訴訟」に分けられる(行政事件訴訟法第2条)。 抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう(同法第3条第1項)。 当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう(同訟法第4条)。 民衆訴訟は、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益に関わらない資格で提起するものをいう(同訟法第5条)。 機関訴訟とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう(同訟法第6条)。 なお通常、訴訟という場合には、当事者の利益侵害を理由とするものであるが、民衆訴訟の場合は、当事者の利益侵害を理由としないものである点に特徴がある。 なお租税訴訟は当然、行政訴訟の一種である。 そして国税通則法第114条には、以下のように定められている。 したがって、その基本的な根拠法令は行政事件訴訟法ではあるが、特別法として優先して国税通則法第8章第2節の規定及び他の国税に関する法律の規定が優先して適用される。 (続く)

#No. 97(掲載号)
#長島 弘
2014/12/04

減損会計を学ぶ 【第22回】「のれんの取扱い」

減損会計を学ぶ 【第22回】 「のれんの取扱い」   公認会計士 阿部 光成   のれんも固定資産であるので、減損会計の対象である。 今回は、のれんの減損に関する取扱いを解説する。 なお、共用資産の減損の兆候及びのれんの減損の兆候については、本連載の【第9回】で解説している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ のれん 1 のれんの帳簿価額の分割 のれんの減損処理を検討する際、その帳簿価額は、まず、のれんが認識された取引において取得された事業の単位に応じて、合理的な基準に基づき分割することになる(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)二8)。 のれんの帳簿価額を分割する場合、次のことに注意する(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)51項)。 このように規定した理由は、のれんが認識される取引において、取得の対価が概ね独立して決定され、取得後も内部管理上独立した業績評価が行われる複数の事業が取得される場合があることを考えたためである。このような複数の事業に係るのれんを一括して減損処理することは適当ではないと述べられている(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という)四2(8)①)。 2 のれんに係る資産のグルーピング のれんに係る資産のグルーピングには次の2つの方法がある(減損会計意見書四2(8)②)。 のれんは、それ自体では独立したキャッシュ・フローを生まないことから、①の方法が原則とされている(減損会計意見書四2(8)②)。   Ⅱ のれんについて、より大きな単位でグルーピングを行う方法 分割されたのれんを含む、より大きな単位に減損の兆候がある場合、減損損失の認識の判定及び測定において、より大きな単位でグルーピングを行う方法(Ⅰ2の①の原則的な方法)は、次の手順で行う(減損適用指針52項)。   Ⅲ のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法 1 手順 のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法(Ⅰ2の②の容認される方法)を採用する場合には、配分された各資産グループに減損の兆候があるとき(減損適用指針17項また書き)に、以下のように減損損失の認識の判定及び測定を行う(減損適用指針54項)。 2 留意点 のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法(Ⅰ2の②の容認される方法)についてだが、これは次のような場合に、のれんの帳簿価額を関連する各資産グループに当該合理的な配賦基準で配分することができるとされている(減損適用指針53項(1)、133項)。 当期にのれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法を採用した場合には、事実関係が変化した場合(例えば、資産のグルーピングの変更、主要な資産の変更、資産グループ内での設備の増強や大規模な処分、資産グループ内の構成資産の経済的残存使用年数の変更など)を除いて、翌期以降の会計期間においても同じ方法を採用することになる(減損適用指針53項(2))。 また、当該企業の類似の資産グループにおいては、同じ方法を採用する必要がある(減損適用指針53項(3))。   Ⅳ 将来キャッシュ・フローの見積期間 のれんに関して、より大きな単位でグルーピングを行う場合、減損損失を認識するかどうかを判定するために将来キャッシュ・フローを見積もる期間は、原則として、のれんの残存償却年数(のれんが複数ある場合には、のれん全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占めるのれんの残存償却年数)と20年のいずれか短い方となる(減損適用指針37項(4))。 また、その場合に、使用価値の算定のために将来キャッシュ・フローを見積もる期間は、原則として、のれんの残存償却年数(のれんが複数ある場合には、のれん全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占めるのれんの残存償却年数)となる(減損適用指針37項(4))。 (了)

#No. 97(掲載号)
#阿部 光成
2014/12/04

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《賞与引当金》編 【第1回】「支給見込額基準」

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《賞与引当金》編 【第1回】 「支給見込額基準」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 個別注記表の重要な会計方針において、賞与引当金の計上基準として、「従業員の賞与支給に備えるため、支給見込額の当期負担分を計上している」という記載を見ることがあります。 今回は、賞与引当金の原則的な計上方法である『支給見込額基準』についてご紹介します。   1 当期末および翌期X2年7月10日の仕訳 〈当期末〉 〈翌期X2年7月10日〉 賞与引当金は法的債務(条件付債務)である引当金に該当し、負債として計上しなければならないとされています(中小企業会計指針49)。具体的には、翌期に従業員に対して支給する賞与の見積額のうち、当期の負担に属する部分の金額を、賞与引当金として計上します(中小企業会計指針51)。 この設例では、翌期X2年7月10日に従業員に対して支給する賞与の見積額が6,000,000円であり、この賞与の支給対象期間は、X1年12月1日からX2年5月31日までの6ヶ月です。そこで、この賞与見積額6,000,000円のうち当期の負担に属する部分は、X1年12月1日から当期末X2年3月31日までの4ヶ月部分として、次のように算定して賞与引当金に計上します。 翌期の実際支給日において、実際支給額6,100,000円と賞与引当金4,000,000円との差額2,100,000円を翌期の賞与として計上します。この結果、実際の賞与支給額6,100,000円のうち、支給対象期間がX1年12月1日から当期末X2年3月31日までの部分4,000,000円は当期の費用に、X2年4月1日から5月31日までの部分2,000,000円と見積誤差100,000円は翌期の費用に計上されます。   2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉   3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上、賞与引当金繰入額については、平成10年度税制改正前には損金算入が認められていましたが、平成10年度税制改正においてこの取扱いが廃止されました。したがって、当期末において計上された賞与引当金4,000,000円は損金算入されず、原則として賞与が実際に支払われた日(翌期、X2年7月10日)の属する事業年度において損金算入できることになります。 (了)

#No. 97(掲載号)
#前原 啓二
2014/12/04

〔会計不正調査報告書を読む〕【第24回】ジャパンベストレスキューシステム株式会社・「第3次第三者委員会調査報告書(平成26年11月10日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第24回】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社・ 「第3次第三者委員会調査報告書(平成26年11月10日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【ジャパンベストレスキューシステム株式会社の概要(再掲)】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社(以下「JBR」という)は、1997(平成9)年創業。創業時の社名は、日本二輪車ロードサービス株式会社。その後、平成11年8月に現社名に変更。 JBRホームページには、以下のような事業目的が記載されている。 連結売上高10,405百万円、連結経常利益141百万円(数字はいずれも平成25年9月期)。従業員数196名。本店所在地、愛知県名古屋市。東証1部、名証1部上場。   【2014(平成26)年5月以降の適時開示】   【概 要】   第2次調査委員会による報告書のポイント 1 3度目の第三者委員会の設置に至った経緯 再発防止策を実行中のJBRに、グループの元関係者から告発文書が届いたのは、平成26年10月20日のことである。JBRは、「告発文書に係る記載内容等には信憑性に疑義がある」としながらも、会計監査人である有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」という)からの指摘もあり、3度目の第三者委員会の設置に踏み切った。 今般の告発文書は、JBR代表取締役榊原暢宏氏(以下「榊原社長」という)に関わるものであり、過去2回の調査委員会とは調査の範囲を異にしている部分も多い。ただし、上記の調査の目的(4)に掲げた株式会社バイノス(以下「バイノス」という)の不適正な売上計上に関する事実関係については、過去2回の調査報告書に依拠しており、「原則としてこの点に関する検証及び新たな調査を行うものではない」としている。   2 内部告発者について 内部告発者は、JBRグループ元関係者であり、告発文書には、第一次調査委員会設置の端緒となった内部告発を行った同一人物が、再度告発を行ったものであることが記載されているという。また、告発は「外部機関」に対し提出されたものであることが報告されているところ、前回の告発文書が、JBRの会計監査人であるトーマツに届いたものであることから類推すれば、今回の告発もトーマツに対して行われ、同時にJBRにも告発文書が提出されたものであると考えることができる。 なお、告発文書の内容について、第3次調査委員会は以下のように結論づけている。 この評価については、第1次調査報告書でも、告発内容であったバイノスとJBRの連結子会社であるJBR Leasing株式会社との間の車両賃貸契約が法外であり、そのことがバイノスの赤字の原因であること等の指摘に妥当性がないと判断されたこととも一致していると言えよう。   3 第3次調査報告書により判明した事実(その① 代表取締役個人による出資と関連当事者の範囲の網羅性) 第3次調査委員会では、JBR榊原社長、JBR取締役管理部長鈴木氏(以下「鈴木取締役」という)、JBR社長秘書及び榊原社長が個人的に出資し、又は融資を行った各社の代表者等からヒアリングを行い、各社の子会社若しくは関連会社又は関連当事者の該当性の判断を、個別に行っている。 その結果、第3次調査委員会は、以下のような留保条件を付けつつも、当該各社は、子会社、関連会社又は関連当事者には該当しないと結論づけている。   4 第3次調査報告書により判明した事実(その② 榊原社長個人の出資、融資、遊興費等に係る資金の流れ) また、第3次調査委員会は、告発に基づき、榊原社長による出資、遊興費等の資金が、JBRグループの資金によって支弁されていないかどうかについて、榊原社長個人の預金通帳、証券口座の取引履歴の入手、関係者へのヒアリングなどにより、調査・分析を行った。 その結果、JBRグループからの不適切な迂回入金は顕出されず、これらの資金は、榊原社長がJBRの上場後、同社株式を売却して得た40億円を超える資金により支出されていたことが確認された。   5 第3次調査報告書により判明した事実(その③ バイノスの不適正な会計処理に関する榊原社長の関与の有無) バイノスの不適切な売上計上については、過去2度の調査報告書で、榊原社長の関与、又はこれを認識していたという事実は認められなかったところ、第3次調査委員会では、告発文書に記載のある「榊原社長による不適正な売上計上の指示又は関与の存在を窺わせる事実が顕出されるか否かという点」を主眼として、関係者のヒアリング、告発文書に添附された別の電子メール及び告発者から別途提出を受けた電子メールについて、検討・調査を行った。 その結果、第3次調査委員会でも、バイノスの不適切な売上計上に榊原社長が関与していた事実は認められないと判断した。   6 3度にわたる第三者委員会の設置は必要だったか (1) 第3次調査委員会による指摘 第3次調査報告書は、「第6 最後に(第三者委員会の設置について)」という独立した章を設け、「3回もの第三者委員会がわずか半年の間に相次いで設置されたことは、異例なことである」としたうえで、以下のようにコメントしている。 (2) 会計監査人からの申入れによる第三者委員会の設置 本件において、それぞれの調査委員会の設置を強く主張したのは、JBRの会計監査人であるトーマツであったことは、報告書に明記されているところである。第1次調査委員会の設置は、内部告発に基づき現地往査を行った会計監査人自身が、不適正な売上計上の端緒を把握したものであり、第三者委員会の設置を求めるのは極めて当然であった。 しかし、2度目以降の設置申入れはどうだろうか。 バイノスの不適切な売上計上に関して、調査する電子メールの範囲を広げるべきだという主張は、第1次調査の過程で言明できたはずである(会計監査人も委員会のヒアリングの対象となっているし、報告書を公表する前にレビューする機会もあったのではないかと推測される)。本来であれば、調査報告書公表前に追加の調査を行わせることで、「2回目の第三者委員会設置」という事態は避けられたはずである。 また、第2次調査委員会の調査対象となった日本電源技術株式会社に対する投融資の判断についても、第3次調査委員会の調査対象となった榊原社長個人による投融資に係る子会社、関連会社又は関連当事者の範囲の判断についても、基本的には、会計監査人が、有価証券報告書の記載内容が適正であることを担保するために行う会計監査のプロセスの中で把握し、会社に確認を求める問題であり、会社と会計監査人との間で見解が異なり、第三者の判断を仰ぐという場面ならともかく、最初から「第三者委員会の判断を求める」というのでは、第三者委員会の本来のあり方とはいささか相容れないものがあるのではないかと思料する。 本件告発内容が、「告発者が伝聞した内容や社内外の噂等、真実でない情報や不正確な情報に基づく、告発者の推測が多く含まれている」ことは、最初の告発内容からも推測できるところであるし、会計監査人が告発者に直接ヒアリングを行い、社内関係者の証言と比較分析すれば、告発者の有する情報の不正確性や推測については、おそらく容易に判明したのではないかと思われる。 会計監査人としては、調査結果の信頼性が担保されることを第一義に考え、3度の調査委員会の設置を申し入れたものであろうが、その結果、「わずか半年の間に3度の調査委員会設置」という風評だけが独り歩きして、JBRという上場会社の価値を棄損してしまったのではないかという懸念が払拭できない。 (3) 3度にわたる第三者委員会の調査を終えて JBRの株価は、第三者委員会設置の発表のたびに下落しており、本稿執筆時点では280円前後で取引が行われている。もちろん、株価が、第三者委員会の調査といった風評だけで上下するものではないが、調査報告書の公表によって株価が戻っているわけでもないところが、気になるところである。 3度にわたる調査で判明した事実は、子会社のバイノスで不適正な売上計上が行われており、これを主導していたのが、バイノスの代表取締役(当時)湯川恭啓氏、バイノス取締役(当時)でJBR管理グループ・シニアマネージャーc氏(第1次報告書ではY氏、第2次報告書ではB氏、改善報告書ではD氏と記載されている)の両名であり(以上、第1次調査報告書による)、バイノス取締役(当時)でありJBR取締役加盟店サポート部長であった竹内正行氏は、少なくとも不適正な売上計上を認識していたということであった(第2次調査報告書による)。 不適正な売上に係る関係者の処分は、次のとおりとなっている。 湯川元バイノス代表取締役は、7月23日付で代表取締役の職を辞任したのち、8月25日開催の臨時株主総会で取締役も辞任。バイノス元取締役のc氏及び竹内氏も、同日の株主総会で辞任している。また、JBRの榊原社長、取締役管理部長の鈴木良夫氏及び竹内氏に対して、役員報酬の一部を減額する社内処分が行われている(8月22日付)。 なお、第3次調査報告書においては、c氏を「元JBR管理部経理グループ、元バイノス取締役」と表記しており、同氏が、どこかのタイミングJBRを退職したことがうかがえる。 (4) 第三者委員会による調査費用等 あまり開示されない第三者者委員会の調査費用であるが、JBRの8月11日付「特別損失の計上に関するお知らせ」によれば、第1次調査委員会による調査費用等として、過年度決算訂正関連費用(特別損失)93百万円を、平成26年9月期第3四半期決算に計上したということである。 第2次、第3次調査委員会に係る費用については、本稿執筆現在、個別に開示されていない。 (了)

#No. 97(掲載号)
#米澤 勝
2014/12/04

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第64回】外貨建取引①「外貨建営業取引」―二取引基準

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第64回】 外貨建取引① 「外貨建営業取引」 ―二取引基準   仰星監査法人 公認会計士 石川 理一  日本公認会計士協会準会員 永井 智恵   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 輸出時(X1年4月1日) (*1) 1,000ドル×取引発生時レート 100円/ドル=100,000 ② 決済時(X1年6月30日) (*2) 1,000ドル×決済時レート 103/ドル=103,000 〈会計処理の解説〉 「外貨建取引」とは、売買価額やその他の取引価額が外国通貨で表示されている取引のことです(外貨建取引等会計処理基準注解(以下、外貨基準注解)注1)。 外貨建取引には、以下のような取引が含まれます。 本事例の売上取引は、「a.取引価額が外国通貨で表示されている物品の売買又は役務の授受」に該当するため、外貨基準等に従い、収益(売上高)や資産(売掛金、現預金)を計上することとなります。 まず、取引発生時には、原則として取引発生時レートに基づく円換算額をもって、売上高と売掛金を計上します(①の仕訳)。 「取引発生時レート」とは、取引が発生した日における直物為替相場又は合理的な基礎に基づいて算定された平均相場(例えば直近の一定期間の直物為替相場を平均したもの等)をいいます(外貨基準注解注2)。 そして、決済時には、受け入れた外貨を決済時レートで円換算した金額で計上するとともに、当該金額と売掛金との差額は為替差損益として処理します(②の仕訳)。 ここで注意しなければならないのは、決済時レートによる外貨建ての販売価額の円換算額と取引発生時に計上された売掛金との差額は、売上高の修正とするのではなく、為替差損益として処理されるということです。そのため、売上高は輸出時に計上された金額(取引発生時レートによる円換算額)から変動しません。 外貨基準では、売掛金の決済時に生じた為替変動による換算差損益は、商品の販売により獲得した収益とは区別することが求められています(外貨基準一3)。すなわち、売上取引と売掛金の決済取引は、それぞれ別個の取引として取り扱うことになります。これを「二取引基準」といいます。 なお、決済前に期末日を迎えた場合は、決算時の為替相場に基づき売掛金を換算替えします。外貨建取引における売掛金は、為替相場の変動リスク(決済時レートの変動により決済額が増減するリスク)を負っているため、それを反映するために決算時には換算替えを行うのです。 この場合も、換算により生じた差額は、売上高の修正ではなく、為替差損益として処理します(外貨基準一2②)。 ①の仕訳後、売掛金の決済前に決算を迎えた場合、必要となる決算修正仕訳は以下のとおりです。決算日(X2年3月31日)の為替相場(以下、決算日レート)は、1ドル98円とします。 期末時(X2年3月31日) (*3) 1,000ドル×決算日レート 98円/ドル=98,000 100,000((*1)より)-決算日レートによる円換算額98,000=2,000 *   *   * 次回は為替予約における独立処理について解説します。 (了)

#No. 97(掲載号)
#石川 理一、永井 智恵
2014/12/04
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