酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第15回】 「土地譲渡に係る所得税と相続税との二重課税問題(その3)」 国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅵ 検討 1 所得税法60条によって非課税規定の適用は排除されるか 本件において、Xは、 と主張する。判決はこの主張を妥当ではないとしたが、この点はどうであろうか。 具体的な事例として、個人Aにとって生活に通常必要な動産である動産を、個人Bが生活に通常必要な動産として贈与を受けたとしよう。 さらに、この生活に通常必要な動産を個人Bが法人に譲渡した場合を考えてみたい。 個人Bは、所得税法59条1項1号の規定の適用を受け、みなし譲渡課税を受けることになる。 ところで、個人Bが譲渡所得の金額の計算を行うに当たっては、所得税法60条1項の規定の適用により、個人Aの取得価額を引き継ぐことになる。なぜなら、個人Bが「贈与」「により取得した前条第1項に規定する資産を譲渡した場合における・・・譲渡所得の金額・・・の計算については、その者〔筆者注:ここでは個人B〕が引き続きこれを所有していたものとみなす」からである(所法60①一)。そして、この資産を個人Bが法人に売却した際に取得価額以上の金額を得た場合においては、所得税法9条1項9号の規定の適用により非課税とされるのである。 このことは、次の設例を考えると分かりやすい。 一例として、この生活に通常必要な動産につき、個人Bは取得価額(3,000万円)以下の収入(2,000万円)しか得られなかった場合を想定してみたい。 中古の生活に通常必要な動産の譲渡によって利益を得られるケースなどは異例で、むしろ、赤字になることの方が通例であると思われるが、このような場合に、果たして、赤字の譲渡所得(2,000万円-3,000万円=△1,000万円)の申告が認められるのであろうか。 課税実務上は、贈与を受けた生活に通常必要な動産を他に譲渡して損失が生じたとしても、これを確定申告において損益通算できるとは扱っていないはずである。すなわち、課税実務においては、所得税法9条2項1号の規定が適用されているのである。 このような理解があるからこそ、生活に通常必要な動産を譲渡した場合には、黒字であれば、所得税法9条1項9号の規定の適用によって非課税となり、赤字であれば、同条2項1号の規定の適用により、「資産の譲渡による収入金額がその資産の第33条第3項に規定する取得費及びその譲渡に要した費用の合計額に満たない場合におけるその不足額」に該当することで、その赤字相当部分については、「ないものとみなされる」のである。 所得税法9条2項1号の対象たる資産の譲渡とは「前項第9号〔筆者注:所得税法9条1項9号〕に規定する資産の譲渡」にほかならないから、そもそも、譲渡対象資産がいかなる経緯で当該納税者の手元に存在するのかというひも付きを、法は問題とはしていないのである。 このように考えると、所得税法60条の規定の適用を受けることが、所得税法9条の適用を排除する根拠にはなり得ないことが判然とするのである。 したがって、本件東京地裁が、 という点は、法解釈上の誤りというほかない。 2 所得税法60条1項はおよそ適用の余地のない定めをわざわざ設けているのか この点について、少し検討を加える必要がありそうである。ここで、A氏からB氏に資産が相続・贈与・遺贈によって移転され、その後B氏がC氏に譲渡した場合のケースを下の《図表1》を用いて説明すると、点線で囲った丸がA氏が取得した際の取得価額を意味し、太線で囲った丸がB氏がA氏から資産移転を受けた際の市場価格(時価)を意味し、実線で囲った丸がB氏がC氏に譲渡した際の譲渡価額を意味するとする。なお、説明の都合上、この場合低額譲渡や資産譲渡の際に譲渡費用はなかったとしよう。 《図表1》 所得税法60条は、A氏が取得した取得資産をB氏が有していたものとみなすという規定であるから、《図表1》のケース(次第に資産価値が増大していくケース)では、実線と点線の差額がB氏における実現したキャピタル・ゲインとして譲渡所得の対象となることになる。したがって、斜線部分が課税対象となることになる。しかしながら、かかる資産が「生活に通常必要な動産」であったとすれば、所得税法9条1項9号に基づき斜線部分は非課税となるのである。 また、相続により取得したものとされた場合に、平成22年最判によれば、所得税法9条1項16号にいう というのであるから、斜線部分は所得税法9条1項16 号によって非課税となるように思われる。もっとも、同判決は、資産の運用益部分について所得税が課税されることは二重課税として非課税とされるものではないとしていることからすれば、相続税が課された太線部分とB氏が譲渡をした際の譲渡収入との差額部分(α)については所得税が課されるということになろう。 そこで、所得税法60条1項1号と同法9条1項16号との関係を整理すると次のようになるのではないかと思われる。 《図表2》のケースでは、B氏はA氏の取得価額を引き継ぐので、B氏がC氏に譲渡した際の譲渡所得の金額は、譲渡価額である実線部分と取得価額を引き継いだ点線部分との差額に相当することになる。 《図表2》 この場合は、所得税法9条1項16号によって非課税とされる二重課税部分は発生しないので、所得税法60条1項1号が適用されるのみである。ただし、かかる資産がB氏の生活に通常必要な動産であるとすれば、非課税となる(所法9①九)。 《図表3》は、A氏の取得価額よりもB氏が相続した際の時価の方が高かったものの、B氏がC氏に譲渡した際にはA氏の取得価額よりも下がっているケースである。 《図表3》 この場合にも、所得税法60条1項1号の規定の適用により、B氏が譲渡した資産はA氏の取得価額を引き継ぐことになるから、B氏の譲渡所得の金額の計算は、実線である譲渡収入から、取得価額としてA氏から引き継いだ点線部分を控除することになるわけであるが、この際、赤字となるため、譲渡所得はマイナスとなる。 そこで、平成22年最判がいうように「所得」についての二重課税を排除する非課税規定であると理解するのであれば、所得税法9条1項16号の規定の適用はないことになる。もっとも、この資産が生活に通常必要な動産であるとすると、所得税法9条2項1号の規定の適用を受けることになり、かかる損失部分(ドット部分)はないものとみなされることになる。 《図表4》のケースは、A氏の取得価額よりB氏が譲渡した際の時価が上回っている場合である。 《図表4》 この場合には、B氏における譲渡所得の金額は、所得税法60条1項1号の規定の適用によりA氏から引き継いだ取得価額をもとに計算することになるため、斜線部分が課税されることになるが、かかる資産が生活に通常必要な動産であるとすれば、同法9条1項9号の適用により非課税、生活に通常必要な動産ではなかったとしても、相続により取得した斜線部分の経済的価値は、同法9条1項16号の規定の適用により非課税とされることになる。 《図表5》及び《図表6》のケースは、A氏が資産を取得した際の取得価額より、B氏が資産をC氏に譲渡した際の譲渡価額の方が低い例である。 《図表5》 《図表6》 このような場合も、所得税法60条1項1号は、B氏の譲渡所得の金額の計算については、「その者〔筆者注:B氏〕が引き続きこれを所有していたものとみなす」とするのであるから、A氏の取得価額をそのまま引き継ぐことになる。すなわち、B氏の譲渡所得の金額は、譲渡価額である実線から、点線であるA氏の取得価額となるためドット部分のマイナスになる。 そこで、《図表3》と同様、平成22年最判がいうように「所得」 についての二重課税を排除する非課税規定であると理解するのであれば、所得税法9条1項16号の規定の適用はないことになる。もっとも、この資産が生活に通常必要な動産であるとすると、所得税法9条2項1号の規定の適用を受けることになり、かかる損失部分(ドット部分)はないものとみなされることになる。 * * * 上記のとおり、所得税法60条1項1号は、B氏における譲渡所得の金額の計算において、A氏からB氏に対して移転した資産をそもそもB氏が当初から所有していたものとみなすのであるから、そもそもB氏が当初取得(購入)したとみて課税関係を捉えることになるという点にその意義がある(太い点線で示した平行矢印線を引くことに意義がある)。 このようにみてくると、所得税法9条1項並びに2項と同法60条1項1号との関係が明らかになるのではなかろうか。 そして、上記6つのケースをつぶさにみれば、そのうち、所得税法9条1項16号によって同法60条1項1号の効果が減殺されてしまうのは、《図表1》のケースと《図表4》のケースのみである。それ以外のケースでは、同法60条1項1号の効力は同法9条1項16号によって減殺されるわけではないのであるから、本件東京地裁判決がいう「およそ適用の余地のない定めをあえて設けているということとなる」という点については、首肯し難いといわざるを得ない。 (了)
〔過誤納に注意!〕 印紙税・登録免許税の改正事項 税理士 磯林 恵介 以下では、主に平成26年4月1日から適用される印紙税・登録免許税に係る改正事項と注意点についてまとめたので、実務の参考にしていただきたい。 (1) 領収書等に係る印紙税の非課税枠の拡大 〈領収書等の印紙税〉 領収書等(※)に係る印紙税ついては、記載金額が3万円未満については非課税となっているが、平成26年4月1日以降に作成される領収書等については、記載金額が5万円未満について非課税となる。 このため、誤って印紙税額を納めすぎないよう注意が必要である。 (※) 領収書等とは、領収書や受取書など、金銭を受領した事実を証明するために作成するものをいう。 過誤納となった場合の手続については下記を参照のこと。 なお、印紙税額に変更はないので、5万円以上のものについては従前の印紙税が必要となる。 〈領収書等に係る印紙税額〉 ※一覧表No.17より抜粋 (2) 消費税額等の取扱い 領収書等における消費税額等の取扱いについては、下記のいずれかの記載をしている場合は記載金額に消費税額等を含めないものとする。 平成26年4月1日以後は、消費税額は8%となるので、記載に注意が必要である。 (3) 登録免許税の税率の軽減措置の延長 現在軽減を受けている下記の登録免許税については、その適用期限が平成27年3月31日まで延長されている。 ① 土地の売買による所有権の移転登記等 ② 住宅用家屋の所有権の保存登記 ③ 住宅用家屋の所有権の移転登記 ④ 住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第22問】 「2棟の建物が一の家屋と認められる場合」 -一の家屋- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、18年前に家屋Aを建築し、その後引き続き居住の用に供してきましたが、子供も大きくなり家屋Aが手狭となったことから、4年前に家屋Bを新築し、子供(大学生、高校生)の勉強部屋及び寝室として使ってきました。 このほど、家屋A及び家屋B並びにその敷地全体を一括して売却しました。 この場合、Xの譲渡所得の全部について「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができるでしょうか? A 家屋A及び家屋Bは、一構えの家屋として、一の家屋に該当するため、全部について「3,000万円の特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 この「特例」の対象となる家屋については、その者が居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限ると規定されているが(措令20の3②)、その者が二以上の家屋を有するかどうかは、必ずしも物理的に2棟の建物を有しているかどうかにより判定するものではないものと考える。 その有する2棟以上の建物が隣接しており、かつ、これらの建物の構造、設備若しくは規模、家族の構成若しくはその生計の状況等又はこれらの建物の使用状況等からみて、その2棟以上の建物が一体として一の機能を有する一構えの家屋と認められる場合には、その2棟以上の建物は、「一の家屋」に該当する。 (了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第17回】 「その他の相続財産の取扱い」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 第6回以降、土地・建物、預貯金、上場株式・公社債・投資信託、非上場株式、死亡保険金・死亡退職金、生前贈与財産、と相続税申告にあたっての評価を中心に見てきた。 相続税申告業務にあたっては、上記の範囲で大半はカバーされていると思われるが、今回は、前回まで見てきた財産以外のその他財産について、説明する。 1 未収金(高額療養費) 他界する前、入院している場合、医療費が高額となることが多い。その場合、公的医療保険に申請を行うと、支払った医療費のうち一定額が、高額療養費として還付される。他界する前の直前数ヶ月分の医療費に関する高額療養費は、他界後に還付されることが多く、この未収金(高額療養費)は相続財産として相続税の対象となる。 2 未収金(所得税) 他界した人が所得税申告の必要がある場合、他界後4ヶ月以内に所得税準確定申告を行う必要がある。この所得税準確定申告において還付となる場合があり、その場合の還付金は、相続財産となる。 他界時には未収金であるため、未収金(還付所得税)として相続税の対象となる。 3 未収金(公的年金) 他界した人が公的年金を受給しており、他界日において存命中の期間に対応する公的年金が、他界日において未支給となっていることがある。ただし、この場合の未収年金は相続財産ではなく、相続税の対象とはならない。 相続人が未収年金を受け取った場合、受け取った相続人の所得税(一時所得)の課税対象となることとされている。 4 損害保険契約 他界した人の自宅建物などに、他界した人が契約者(保険料支払者)となって損害保険契約を締結していることがある。この場合の損害保険契約は相続財産であり、相続税の対象となる。 この損害保険契約を、相続税の計算上、どのように評価するか明記されたものはないが、一般的には、他界日における解約返戻金で評価すると考えられている。これは、建物更生共済契約は解約返戻金相当額で評価することになっており(国税庁質疑応答事例「建物更生共済契約に係る課税関係」)、損害保険契約は建物更生共済契約に類似しているため、建物更生共済契約に準じて、実務上は、解約返戻金相当額で評価されている。 5 ゴルフ会員権 ゴルフ会員権は、取引相場のあるものについては、取引相場の70%で評価することとなっている(財産評価基本通達211)。取引相場は課税時期(通常は他界日)のものであるため、ゴルフ会員権仲介業者などから、課税時期の取引相場を入手する必要がある。 6 リゾート会員権 リゾート会員権については、財産評価基本通達に明記されていないが、国税庁公表の質疑応答事例「不動産所有権付リゾート会員権の評価」があり、取引相場のあるゴルフ会員権に準じて、課税時期の取引相場の70%で評価することとされている。したがって、リゾート会員権仲介業者などから、課税時期の取引相場を入手する必要がある。 リゾート会員権の権利内容は様々なものがあり、上記の取扱いとなるのは、不動産所有権と施設利用権が分離して譲渡できないものであるので、この点は留意が必要である。 7 出資金 信用組合、信用金庫、全労済(全国労働者共済生活協同組合連合会)などに預金取引・共済取引を行っている場合、それらに対する出資金を有している可能性がある。金額は大きくないかもしれないが、預金残高証明書、解約返戻金証明書などを入手する際に、出資金の有無、及び出資金がある場合には、その残高証明書を入手する。 8 外貨建財産 その他財産ではないが、外貨建預金などは、課税時期の外貨額に、対顧客直物電信買相場(TTB)の為替レートを乗じて、相続税の計算上の評価額(円)を計算する(財産評価基本通達4-3)。 なお、外貨建債務の場合には、課税時期の外貨額に、対顧客直物電信売相場(TTS)の為替レートを乗じて、相続税の計算上の評価額(円)を計算する(財産評価基本通達4-3(注))。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第13回】 「子会社支援のための無償取引⑨」 公認会計士 佐藤 信祐 第6回から第12回までにおいて、無利息貸付け、低利貸付けにおける判例分析を行った。 第13回目においては、無利息貸付けにおける貸方側の処理、すなわち、収益認識についての解説を行い、第14回目においては、借方側の処理、すなわち、寄附金認定についての解説を行うことにより、法人税基本通達9-4-2の基本的な考え方について解説を行う。 7 子会社支援のための無償取引における法人税法上の取扱い (1) 借方側の処理 ① 法人税法第22条第2項の考え方 清水惣事件で明らかになったように、無利息貸付けを行った場合には、実際に会計上はこのような仕訳が行われないものの、以下の仕訳が行われたと仮定して、法人税の課税所得の計算を行うことになる。 そもそも無償取引について収益を認識する目的及び根拠に関する学説としては、二段階説(有償取引同視説)、同一価値移転説、キャピタル・ゲイン課税説、適正所得算出説、限定費用対応収益認識説等があるが、学者の中でも統一見解はない。 また、無償取引のうち、どの部分について収益を認識すべきであるかという点についても、寄附金課税がなされる場合に限定すべきであるという限定説と、そのような限定を設けるべきではないという無限定説に分かれている。 清水惣事件の控訴審判決がどの学説に基づくものであるのかは明らかではないが、その後の法人税基本通達9-4-2において、合理的な再建計画がある場合のような一定の要件を満たす場合についてのみ寄附金としないという通達が定められたことを考えると、二段階説(有償取引同視説)及び無限定説を採用したい。 つまり、無償取引を通常の対価で行う取引(第一段階)と、受領した対価を相手方へ贈与する取引(第二段階)の取引に分けて考える学説である。 すなわち、上記の仕訳は以下のように分けられることになる。 そうなると、無利息貸付け以外の役務提供についても同様に解され、すべての無償取引及び非時価取引については、適正な価額で取引を行った場合と同じ金額が益金の額に算入されることになる。 このことは、所得税法や消費税法の考え方と全く異なるものである。所得税法においては、同族会社等の行為計算の否認が適用される場合に限り、収受すべき利息について所得税の課税対象となり、消費税法においては、対価のない取引であることから課税対象にはなり得ない。 これは、法人税法第22条第2項が「無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引」を課税対象としているためであり、他の税目に比べて大きな特徴であるということができる。 ② 法人税法第22条第4項の考え方 なお、「実際に会計上はこのような仕訳が行われないものの」と解説したが、法人税法第22条第4項に定めている「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」という規定との整合性が気になるところではある。 この点につき、岡村忠生教授は、 と解説した上で、 と指摘されている。 すなわち、この考え方を突き進めれば、別段の定めのある法人税法第37条に該当する場合に限り、法人税法第22条により無償取引に対して収益を認識するという限定説が採用されることになる。 これに対し、無償取引を行った場合には、法人税法第22条第4項に規定する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が適用されないという考え方も存在するが、岡村忠生教授が指摘されるように、条文形式上はそのように解釈することが難しい。 このように、清水惣事件から30年以上が経過するにもかかわらず、個人的には納得感の得られる見解に出会っていないというのも事実である。 しかしながら、個人的には、法人税法第22条第4項に規定する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を広く捉えるのであれば、うまく整理できるのではないかと考えている。 過去の判例や課税実務においては、一般的な公認会計士が想定する「あるべき会計処理」とは異なる税務処理が行われていることも少なくなく、法人税法第22条第4項が一応の指針を示したに過ぎない規定であると思われることも少なくないからである。 もともと、法人税法第22条第4項の規定は、昭和42年において法人税法の簡素化の一環として設けられた規定に過ぎないということを考えれば、別段の規定がないことを理由として、法人税法の制度趣旨を無視してまで、企業会計上の処理が何の調整も行わず、そのまま法人税の課税所得計算に反映されると解釈するのは行き過ぎなのかもしれない。 このように、法人税法第22条第4項の規定内容については、かなり悩ましい問題である。 なお、本連載はあくまでも貸倒損失についての解説をすることを目的としているため、法人税法第22条第4項に対する詳細な分析はいずれ別の機会にさせていただきたい。 ここでは、無限定説に従って、無利息貸付けを行った場合には、すべてのケースにおいて、法人税法第22条第2項を適用することにより、いったん受取利息が計上され、借方側の処理をどのようにするのかという点については、第14回で解説する法人税法第37条の問題であるという点をまずはご理解いただきたい。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載56〕 平成26年1月1日以後の相続に係る 「2世帯住宅」の特定居住用宅地等の適用要件と事例解釈 税理士 竹内 陽一 1 平成25年度税制改正の背景 平成25年度税制改正において、小規模宅地等の特例における2世帯住宅の取扱いが見直された。 改正前の平成22年から平成25年までは、下記の事例のように、2世帯住宅は「構造上の区分」で判定されたが、この構造上の区分による判定は、納税者にとってわかりにくいものとなっていた。 それが平成25年度改正により、平成26年1月1日以後の相続からは、1棟の建物は「区分所有登記の有無」で判定されることとなった。 【参考事例】 (東京国税局課税第一部 資産課税課 資産評価官 (平成23年8月作成)「資産税審理研修資料」) 〈構造上区分された二世帯住宅の敷地に係る小規模宅地等の特例〉 2 改正後の特定居住用宅地等の適用要件等 上記の改正については、国税庁のパンフレット「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(平成27年1月1日施行)」4ページの表がわかりやすい。 この表でみるように、2世帯住宅の要件についての緩和は、次の2点である。 3 国税庁から公表された事例1~3の検証 この「1棟の建物」についての下記3事例が、「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」において公表された。 (1) 【事例1】区分所有建物の登記がされていない1棟の建物の敷地の場合 この【事例1】から【事例3】の特徴は、すべての事例において、根拠規定として、措令40条の2第9項(平成22年改正創設の旧第7項)により、建物の利用区分に対応して、土地について、利用部分を解説に入れているところである。 しかし、【事例1】と【事例3】においては、区分所有建物の登記がない、1棟の建物の敷地の場合であり、上記パンフレット記載のとおり、その敷地全体が特例適用対象地となるので、配偶者、同居親族、事例3の措法69条の4の第3項第2号ロの親族については、【事例1】、【事例3】のいずれにおいても、その敷地の全部を取得しても、その敷地の持分の一部を取得しても、その取得した部分は特定居住用宅地等に該当するので、措令40条の2の第9項に従って、文中のA部分とB部分に応ずる部分を考慮する意味がないのではないか。 【事例1】については、乙と丙の1/2共有となっているが、結論は、いずれかの単独所有でも、1/10と9/10の共有でも同じ結論と考える。 (2) 【事例2】区分所有建物の登記がされている1棟の建物の敷地の場合 【事例2】は、区分所有建物の登記がされている1棟の建物の事例である。 これは平成25年改正前の、構造上区分されている場合と同じで、改正前が構造上の区分、改正後平成26年適用から、区分所有建物の登記の有無に変わった。 このような登記は、丙の住宅ロ-ン控除などのためになされるようであり、結果として、相続において、配偶者乙はかなり不利な取扱いとなるので注意が必要である。 この事例で、配偶者乙は、被相続人の保有であった建物の区分所有登記と、その面積に対応する土地の1/2の共有持分を取得することになる。 この場合、解説においては、措令40条の2第9項を盾に、機械的にというか、算数的に「1/2×1/2=1/4」ということで、取得した土地持分の1/2しか特例宅地の適用がないといわれると、納税者として釈然としないと考える。 ここは、配偶者の取得した土地の持分が1/2である場合、その全部に特例の適用ができるといってよかったと思うが、そうはなっていないので注意が必要だ。 なお、この【事例2】が、敷地も建物と共に区分所有登記の場合は、配偶者の取得土地持分は、すべて特例の適用となる。 (3) 【事例3】区分所有建物の登記がされていない1棟の建物の敷地を措置法69条の4③二ロの親族が取得した場合 【事例3】は 【事例1】と同じ区分所有建物の登記がない1棟の建物であるが、 【事例1】と同じように、家なき子丙、同居親族乙のいずれが取得しても、単独取得でも、任意の持分の取得でも特例の適用となる。 なお、家なき子丙が入居し居住とあるが、家なき子丙には所有要件しかなく、居住要件はないので、この点は混乱させるだけではないか。 【参考】は、当初の解説では不十分として、2月26日付けで追加されたものである。措法69条の4第1項の被相続人の居住用宅地が措令40条の2第4項により拡大されたので、同居親族乙が生計一親族であっても、この居住部分に応ずる部分を家なき子丙が所得したとしても、この部分も特例対象である旨を明示している。 (了)
日本の会計について思う 【第3回】 「世界、アメリカ、そして日本の会計学会」 関西学院大学教授 平松 一夫 世界とアメリカが共催で国際会議 2014年2月20日~22日、アメリカ・テキサス州サンアントニオで、世界会計学会(IAAER)とアメリカ会計学会(AAA)国際会計セクションの共催で国際会議が開催され、日本からも9名が参加した。このことは普通ならありふれたことと受け止められるに違いない。 しかし、いま世界会計学会会長を務める私にとって、今回の共催は「感慨深い」と言っていいほど多くの意味をもっている。 AAAは、9,000名近い会員を擁する世界最大の会計学会である。しかも、そのうち約4分の1が外国の会員である。日本会計研究学会も会員数は1,900名と世界の中では大きい学会であるが、外国人会員はわずかしかいない。これだけからみても、アメリカ会計学会がいかに国際性のある学会であるかが想像できるであろう。 しかし、それが故の問題もある。 それは規模だけでなく、研究水準においてもAAAが世界をリードしているという自負心からか、AAAには時として「一国主義」が目立つのである。とりわけ数年前は、その印象が強かった。私がAAAの国際担当副会長を務めていた時、AAAの理事会ではIAAER無視の姿勢が目立った。AAAこそが世界のリーダーであり、これとは別にIAAERが存在することは必要ないと言わんがばかりであった。 その2つの学会が、共催で、会計学会を開いたのである。 現在、AAA会長はメアリー・バース教授。国際会計基準審議会(IASB)で最初の10年間ボードメンバーを務めた著名な国際派会計学者である。さらに、共催の役割を担った国際会計セクション会長のエリザベス・ゴードン教授は、IAAERで副会長を務めている。 今回よき関係で会議を共催できたのは、「人」と「時」を得たためといってよい。 世界会計学会の存在意義 そのようなわけで、2月21日の昼食会ではAAA会長のバース教授がスピーチを行い、22日の昼食会ではIAAER会長の私がスピーチを行った。 このスピーチで少し悩んだのが、どのような内容で話すのがいいかということであった。AAAとIAAERの以前の関係を知る人間としては、IAAERがAAAとは異なる大切な独自性をもつことを、話の中にうまく盛り込む必要があると考えたのである。 そこでまず、スピーチのテーマを「IAAERの存在意義:多様性と協働」とした。多様性と協働こそがIAAERの特徴であり、AAAとの違いであるという認識からである。 例えば、学会役員の構成を見ると、AAAの場合は当然ほとんどがアメリカ人であるが、IAAERの場合は18ヶ国と「多様性」が際立っている。AAAが国際的であるといっても、個々の会員レベルでは外国に行ったこともないという会員が結構多い。今回の共催によりその人たちも多様な世界と出会う機会を得たわけで、実際、今後もIAAERとの共催を続けてほしいという声が多く寄せられたと、国際会計セクションのゴードン会長から聞かされた。 IAAERのもう一つの特徴は、「協働」である。 裕福な学会として独自に企画を展開できるAAAとは異なり、IAAERの多くの活動は会計士団体や会計事務所などの支援を得て展開されている。IAAERはいくつかのテーマで研究支援を行っているが、その資金はいくつかの会計関係団体からの支援でまかなわれている。また、新興国の5人の有望な会計学者に対して学会参加のための経費を支援するなどの国際貢献を行っているが、これも会計事務所からの寄付によってまかなわれている。 協働は資金面にとどまらない。IAAERは国際財務報告基準(IFRS)財団と協力してIFRS教育の普及に尽力したり、国際会計士連盟の会議に世界の会計学会を代表してオブザーバーを出したり、また今回と同様に各国の学会と共催で会議を開催するなどしている。 IAAERには、世界会計学会だからこその存在意義があるのである。 世界会計学会の設立と日本 IAAERは1984年に設立された。2014年は設立30周年の記念すべき年に当たり、11月にはイタリア・フィレンツで世界会議を開催する予定である。 しかし、その設立のきっかけが日本にあることを知る人は少ない。 1987年、東京武道館で国際会計士連盟の会議が開催された。これに対応して京都国際会議場で世界会計教育者会議が開催された。当時の日本の会計界にとって、これは一大事であった。 日本会計研究学会では早稲田大学の染谷恭次郎先生を中心に、世界会議の開催に向けて全力を投入した。その時に課題となったのが、寄付を集めるために、国際会議として国から公認されることであった。そのためには日本の学会だけではなく、世界の学会が協力して開催する国際会議であることを示す必要があった。そこで染谷先生、中島省吾先生、その他多くの日本の先生方が力を合わせ、世界の協力を呼びかけられた。 こうして誕生したのがIAAERだったのである。 その後、藤田幸男先生もIAAERに貢献された。日本の会計学の先達が世界の会計学会で果たされた役割は、実に大きいものであった。 このことを忘れず先達の先生方に敬意を表し、感謝したい。 (了)
実務対応報告からみた 「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引」 (日本版ESOP)の取扱い 【第2回】 「会計処理及び注記の確認」 公認会計士 大矢 昇太 公認会計士 中村 真之 3 会計処理 (1) 従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(第3項)の会計処理 ① 総額法の適用 第3項の取引について、対象となる信託が、 の2つの要件を満たす場合、企業は期末において総額法を適用し、信託の財産を企業の個別財務諸表に計上することとされている(第5項)。 ② 自己株式処分差額の認識時点 信託による企業の株式の取得が、企業による自己株式の処分により行われる場合に、企業は信託からの対価の払込期日に自己株式処分差額を認識し、自己株式を消滅させることとした(第7項)。 これは、自己株式等会計基準及び同適用指針が、自己株式の処分を株主との間の資本取引であり、資本の払込の性格を有すると位置づけた上で、会社法上も自己株式の処分の効力は払込期日に生じるとされていることとの整合性が図られたものである。 ③ 期末における総額法等の会計処理 総額法とは、信託の資産及び負債を企業の資産及び負債として貸借対照表に計上し、信託の損益を企業の損益として損益計算書に計上することを意味しているが、以下のように総額法を適用することとしている(第8項)。 ④ 連結財務諸表における処理 総額法により個別財務諸表に計上した信託については、子会社または関連会社に該当するか否かの判定は不要であり、個別財務諸表における総額法の処理は、連結財務諸表作成上そのまま引き継がれる(第9項)。 (2) 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引(第4項)の会計処理 ① 総額法の適用及び自己株式処分差額の認識について 第4項の取引においても、期末において総額法を適用する点、自己株式処分差額を信託からの対価の払込期日に認識する点、また連結財務諸表における処理については、第3項の取引と同様の取扱いとしている(第10項、第11項、第15項)。 ② 従業員へのポイントへの割当等に関する会計処理 第4項の取引において、従業員へのポイントの付与時及び株式の交付時の会計処理については以下のとおり定めている。 1) ポイントの付与時 企業は、従業員に割り当てられたポイントに応じた株式数に、信託が自社の株式を取得したときの株価を乗じた金額を基礎として、費用及びこれに対応する引当金計上する。信託による自社の株式の取得が複数回にわたって行われる場合、従業員に割り当てられたポイントに関する費用及びこれに対応する引当金は、平均法又は先入先出法により算定する(第12項)。 この従業員へのポイントの付与時に使用する単価については、いつの時点の時価を利用するかについて第45項から第58項において検討されているが、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引は、将来自社の株式を従業員に交付することを約束する点でストック・オプションに類似した性質が認められることから、信託への資金拠出時の株価を基礎とすることが適当であると判断した(第55項)うえで、さらに、実務的には信託への資金拠出と信託による株式取得はほぼ同時に行われることが多い点に着目して、最終的には、第12項に定める方法が採用されることになった(第57項)。 2) 株式の交付時 信託から従業員に株式が交付される場合、企業は、信託が自社の株式を取得したときの株価に交付された株式数を乗じた金額をポイントの割当時に計上した引当金から取り崩す(第13項)。 4 開示 本実務対応報告の対象となる取引を行っている場合、以下の事項の注記及び取扱いが求められる。 ① 各期の連結財務諸表及び個別財務諸表における注記(第16項) なお、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記の内容が同一となる場合には、個別財務諸表の注記は、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができるとされている。 ② 各期の株主資本等変動計算書に係る注記(第18項) ③ 1株当たり情報に関する取扱い及び注記(第17項) 5 適用時期等 本実務対応報告については、平成26年4月1日以降に開始する事業年度の期首から適用となるが、本実務対応報告の公表後最初に終了する事業年度の期首又は四半期会計期間の期首から早期適用することも認められている(第19項)。 なお、本実務対応報告の適用初年度の期首(早期適用した場合は当該適用初年度又は当該四半期会計期間期首)より前に締結された信託契約に係る会計処理については、本実務対応報告の方法によらず、従来採用していた方法を継続することもできるとする経過的な取扱いが定められており、遡及修正は必ずしも求められていない。 この場合、各期の連結財務諸表及び個別財務諸表において、以下を注記することとされている(第20項)。 (連載了)
過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第6回】 「過去の財務諸表と遡及適用」 公認会計士 阿部 光成 《解 説》 過年度遡及会計基準では、「遡及適用」、「財務諸表の組替え」、「修正再表示」、「遡及処理」の用語が用いられており、これらの定義を理解する必要がある。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 定義 過年度遡及会計基準では、次のように定義している(過年度遡及会計基準4項)。 「遡及処理」とは、遡及適用、財務諸表の組替え又は修正再表示により、過去の財務諸表を遡及的に処理することをいう(過年度遡及会計基準27項)。 Ⅱ 遡及適用の会計処理 1 遡及適用 前述のとおり、「遡及適用」とは、新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理することである。 これは、正当な理由により会計方針の変更を行う場合に、過去の財務諸表に遡って、変更後の会計方針を適用することである。 遡及適用により、当事業年度の財務諸表と過去の財務諸表は同一の会計方針に基づいて作成されるため、原則として財務諸表本体のすべての項目(会計処理の変更に伴う注記の変更も含む)に関する情報が「比較情報」として提供されることになり、特定の項目だけではなく、財務諸表全般についての比較可能性が高まるものと考えられる(過年度遡及会計基準46項)。 つまり、遡及適用は、過去の財務諸表が誤っていたことから、それを正すために行うものではなく、財務諸表全般についての比較可能性を高め、情報の有用性を高めるために行うものである。 2 比較情報 連結財務諸表規則などが改正されており、次の「比較情報」の規定が設けられている。 比較情報は、基本的には、以下の2つの手続により作成されることになる。 〈比較情報のイメージ〉 Ⅲ 修正再表示の会計処理 過去の財務諸表が誤っていた場合、過去の財務諸表における「誤謬」の訂正を財務諸表に反映する処理を行うことになる。 これを「修正再表示」という(過年度遡及会計基準4項(11))。 「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう(過年度遡及会計基準4項(8))。 つまり、修正再表示は、過去の財務諸表が誤っていた場合に、当該修正を反映し、正しい財務諸表を作成する処理のことである。 一方、遡及適用は、正当な理由による会計方針の変更について、変更後の会計方針を過去の財務諸表に遡って適用することであり、過去の財務諸表が誤っていたものに関する処理ではない。 Ⅳ 修正再表示と訂正報告書 金融商品取引法上、訂正報告書の制度があり、これと前述の修正再表示との関係を整理する必要がある。 これについては、監査基準委員会報告書第63号「過年度の比較情報-対応数値と比較財務諸表」の常務理事前書において次の記載がなされている。 このため、誤謬に関しては、比較情報のみの修正(修正再表示)で対応することは、現状では想定されておらず、訂正報告書の提出が求められることになると考えられる。 (了)
林總の 管理会計[超]入門講座 【第22回】 「病院経営を黒字化する『活動基準原価計算』の考え方」 公認会計士 林 總 病院が提供する付加価値とは何か? 医師の活動すべてにコストがかかっている 患者(=顧客)の満足とは (了)