教育資金の一括贈与に係る 贈与税非課税措置について 【第5回】 「個別論点~「学校等」「教育資金」の範囲、 「領収書等」の取扱い」 ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 1 はじめに 第3回及び第4回は、平成25年度税制改正で創設された「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」(以下「本制度」という)の適用を受けるために必要な手続とその留意点を中心に解説した。 連載最終回となる本稿では、個別の論点として平成25年3月30日に公表された政省令及び告示、平成25年4月に国税庁及び文部科学省から公表されたQ&A(その後文科省のQ&Aに関しては同年5月2日に改定されている。以下「文科省QA」)を中心に、「学校等」及び「教育資金」の範囲と、本制度適用するにあたり取扱金融機関へ提出する「領収書等」の取扱いについて解説する。 2 学校等の範囲 文科省QAによれば、本制度における学校等の具体例として【図表5-1】のようなものが挙げられている。 3 教育資金の範囲 文科省QAによれば、「学校等」(非課税限度額1,500万円)と「学校等以外」(非課税限度額500万円)の非課税限度額の区分に応じて、以下【図表5-2】【図表5-3】のとおり具体例を挙げている。 なお、同じ教育資金であっても学校等へ支払う場合と、学校等を経由せず業者へ直接支払う場合では、適用可能な非課税額が異なるため留意が必要である。 例えば、学校等で使用する教科書代や学用品費、修学旅行費、給食費などであっても、学校を経由せずに業者等へ直接支払われるものは1,500万円の非課税の対象外となる。 ただし、そのうち、学校等の教育に伴い必要な費用で、学生等の全部又は大部分が支払うべきものと学校等が認めたものは、学校等以外の教育資金として500 万円の非課税の対象となる。 4 取扱金融機関へ提出する領収書等について (1) 領収書へ記載すべき事項 取扱金融機関へ提出する領収書には、以下①~⑥の事項が必要となる。 また、塾や習い事など、学校等以外の者に支払われる費用に関する領収書等に関しても、上記①~⑥の記載が必要である。また、塾や習い事などの費用は、上記「③摘要(支払内容)」として、何に使用したのか(○月分○○料として(○回又は○時間))の記載が必要となる。 したがって、領収書等を受領する際には、必要な情報が適切に記載されているかを確認することが求められる。 もし、領収書等に誤りや必要事項が記載されていない場合には、原則として領収書等の発行者(支払先)が修正・追記し、発行者(支払先)の押印が必要となる。 なお、学校等に対する支払いで、摘要(支払内容)及び支払先の住所(所在地)の記載もれがあった場合には、受贈者自身がその提出する領収書に摘要(支払内容)及び支払先の住所(所在地)を記載して、受贈者の署名押印をすることで手続が可能となる。 (2) 取扱金融機関へ提出する際の留意点 本制度の適用を受ける受贈者は、教育資金の支払いに充てた金銭に係る領収書等の原本を取扱金融機関へ提出しなければならない。 領収書の他に、上記①~⑥の記載内容が網羅されていれば、領収書の代わりとなる書類でも認められる場合がある。 例えば、その支払いが振込み、引落し、クレジットカード払い、月謝袋による現金払いなどでなされている場合には、別途領収書を受け取るは必要ない。しかし、支払記録だけでは上記①~⑥の項目が網羅されていない場合には、振込依頼文書など(例えば、振込依頼書兼受領書、ATM利用明細、通帳コピー、クレジットカード利用明細、上記①~⑥の情報を記載した月謝袋本体又はそのコピーなど)をあわせて添付し、必要な情報を明らかにしておく必要がある。 外国の教育施設の受領証については、支払先の学校名を英語で併記したものを提出する必要がある。ただし、英語名のみでは学校と判断することが難しい場合(例えば、kindergarten, elementary school, primary school, junior high school, high school, university, college等の記載がない)場合には、【図表5-4】の確認書を取扱金融機関へ提出することになる。 【図表5-4】 外国の教育施設に関する確認書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイル(文部科学省ホームページ)が開きます。 出典:文部科学省ホームページ (連載了)
企業不正と税務調査 【第12回】 「粉飾決算」 (3) 粉飾決算の防止と早期発見策 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 企業が粉飾決算を行っている場合に、これを外部の人間が見抜くことは簡単ではない。 粉飾の結果は財務諸表、特に貸借対照表に表れていることが多いため、これを分析することによって、異常点や不審な数値の動きを発見することは可能であるが、実際にどういう手口で粉飾が行われ、どの程度の金額が不正に収益として計上され、又は、利益として表示されているかまでは、分かるものではない。 そこで今回は、前2回で取り上げた「棚卸資産の過大(架空)計上」と「架空売上、架空循環取引」による粉飾について、経営者又は経理部門・管理部門の担当者が、こうした不正をどうやって防止し、又は早期に発見するかについて検討したい。 1 棚卸資産の過大(架空)計上による粉飾 (1) 実地棚卸の励行による予防 基本は、実地棚卸を愚直に行うことによって、数量と保管状況を確認することである。 もちろん、営業部門や購買部門などに任せてしまっては効果も半減するので、必ず経理部門又は管理部門の担当者が立ち会い、実際に数量を確認することが必要である。空き箱だけを積み上げたり、外箱の表示とは異なるものが詰められたりといった偽装も考えられるので、棚卸実施者には、相応の経験と商品に関する知識が求められる。 数量の不一致が発見されたら、不一致の発生原因を追究し、業務プロセスの改善、発生防止策の検討など、必要に応じて関係部門と協議のうえ、対策を講じる必要がある。 (2) 「実地棚卸ができない」という説明を真に受けない 発見が遅れた棚卸資産の架空計上事例には、「すでに顧客(又は指定倉庫)に納入しており、実地棚卸ができない」という営業部門の言い訳を鵜呑みにし、棚卸資産残高の増加に不審感を持ちながらも放置してしまった結果、不正による損害額が増大したものが少なくない。 確かに、顧客事務所又は指定倉庫への立入りを顧客が容認しない場合、今後の商談なども考慮に入れ、無理を言うことが憚られるのは理解できる。 そこで活用したいのが、基本契約書又は売買契約書に「所有権留保」の特約を付しておくという方法である。 通常、商品は、買主に引き渡した段階で所有権は移転し、その効果として、売主は売上を認識するのであるが、この所有権移転時期を、「売買代金の決済の時」とする特約を付すことによって、商品引渡し後も、売主は所有権を主張することが可能となる。 こうしておけば、決算期末間際に引き渡し、顧客の検品作業が翌期にずれ込むため、売上計上自体は翌期となるような場合であっても、売主は自らの所有権に基づき、買主に対して、決算期末時点での実地棚卸を申し入れることが可能となる。 なお、私見であるが、こうした実地棚卸の日程調整などは営業部門に一任するのではなく、経理部門又は管理部門が、顧客の経理部門又は管理部門と直接連絡をとって行う方が、かえって無用な軋轢を生じさせることなく、実施できるのではないだろうか。 社内の不正を未然に防止したいという思いは、同じ経理部門・管理部門を担当している人間であれば共通の思いであるので、「この忙しい時期に」とか「面倒だ」といった被害者意識を与えずに、いわば相身互いの気持ちで、実施できることが多いようである。 2 架空売上・架空循環取引による粉飾 (1) 社内規程の整備 架空売上の計上を許さないためには、それを防止するルールを整備することから始めたい。 例えば、 というルールを作り、これを徹底する。 売上計上基準に何を採用するかという問題はあるが、出荷基準であれ、着荷基準であれ、出荷伝票や物品受領書をもって売上の計上を認めるというのは、ごく一般的なルールであるから、例外を認めないことで、期末の架空売上や早期売上の防止は可能になる。 架空循環取引についても、同じことが言える。架空循環取引の首謀者になるのは論外としても、こうした不正に巻き込まれてしまうリスクは、どの企業にもある。 そこで、 というルールを作っておく。 こうしたルールがあれば、「商流の中に入ってほしい」とか「名義だけ貸してもらえないか」といった、帳合取引やスルー取引の誘いに対して、何らかの歯止めになるだろうし、社内規程違反で処分をしたり、内部告発を受けたりすることも可能となる。 また、こうした商流に参加することのリスク――例えば、代金回収ができなくなったり、商流参加社の中の反社会的勢力が加わっていたりする可能性――を、ルール策定と同時に、営業部門に理解させることにより、不正に巻き込まれないよう予防することも可能になろう。 企業によっては一律に禁止することが難しい場合も考えられるが、そうした場合でも、 などの仕組みを作って、営業担当者にインセンティブを与えないという方策も考えられる。同時に、自社債権の保全のためには、売上代金が入金されるまでは仕入代金を支払わないことも徹底しなければならない。 (2) 取引に潜在している不審点を発見する 架空売上の計上による粉飾の致命的な欠陥が売掛金を回収できないことであることは前回にも指摘したが、架空売上を計上した者が、翌期にその売上の取消処理をしないための方策は、架空売上計上に伴う架空仕入代金を支払ったことにし、これを売掛金の回収に仮装する工作をせざるを得ない。そうすると、これは、架空循環取引を構築したことに他ならなくなる。 ということで、ここでは、架空循環取引が形成する不審点について検討する。 架空循環取引が発覚しづらい不正であることは繰り返し言われてきたことであるが、それでも、社内の人間から見れば、不審点に気付くのは難しくない。 最も端的な特徴は、架空循環取引を続けている間は、必ず売上・利益とも増加傾向を示すという点である。 架空循環取引を続ければ続けるほど、参加社の利益分だけ、取引額は拡大していかざるを得ない。したがって、架空循環取引が続いている間は、マーケットや景況感に関係なく、売上・利益は増加し続ける。特定の部門又は担当者が、いつも予算を上回る実績を残し続けているようなとき、これを称賛するだけではなく、何か不審な取引はないかと考えないようでは、不正発見にはつながらないだろう。 他にも、 といった現象は、架空循環取引に巻き込まれているのではないかという懸念を示すものであり、個別の取引について、十分な検証が必要である。 3 外部専門家の活用 経営者が、何らかの不審点に気付き、従業員が架空在庫や架空売上の計上により業績をかさ上げしているのではないかという疑念を抱いたとしても、特に中小企業では、不正かどうかを調査できる人材がいなかったり、十分な時間がとれなかったりして、結果的に、不正が見過ごされる可能性も考えられる。 そこで、活用したいのが、顧問税理士である。 本連載第9回でも言及したとおり、顧問税理士には、経営者と共に、従業員の不正を発見し、防止策を策定する役割が期待されている。経営者が抱いた不信感・疑念に基づき、取引内容を精査して、実態を解明するために、経営者の最も身近な相談相手である顧問税理士が、職業的懐疑心を発揮することが求められている。 (了)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《減価償却》編 【第6回】 弁護士 木村 浩之 (前回はこちら) 7 耐用年数表の適用 (1) 耐用年数の意義 耐用年数は、減価償却費を計算する場合の重要な要素の1つであるが、その決定を法人の自主性に委ねた場合には、恣意性が介入するおそれがあることから、耐用年数省令別表により、減価償却資産ごとに、その耐用年数が画一的に法定されている。 この法定耐用年数については、通常の維持管理、補修等に要する費用を加えた上で、本来の用途・用法により使用する場合に、その本来の機能を発揮することができると認められる年数が法定されたものである。 (2) 耐用年数をめぐる基本論点 耐用年数をめぐっては、耐用年数表の適用関係が問題となることが多いといえるが、ここでは、基本的な論点をいくつか取り上げ、解説することとしたい。 ア 資産の用途が複数ある場合 耐用年数表の適用に当たっては、その減価償却資産の用途によって適用関係が異なる場合がある。例えば、建物についていえば、事務所用、住宅用、店舗用など、その用途に応じて耐用年数が異なることになる(耐令別表第1)。 その場合は、基本的には、その使用の実態により、用途の判定をすることになる。 資産の使用の実態として、複数の用途に供されている場合には、按分計算をするのではなく、その資産の使用目的や使用状況等に照らして、主たる用途を認定した上で、その耐用年数を適用することになる(耐通1-1-1参照)。 イ 賃貸借に係る資産の場合 法人が他者に賃貸している資産に係る耐用年数表の適用に当たっては、貸付用の資産として特に掲げられているもの(貸付用の自動車、植物など)については、それによることになる。それ以外のものについては、その資産の実際の使用状況等に照らして用途を判定することになる。 したがって、賃貸資産については、賃借人における使用状況等がどのようなものであるかによって、耐用年数表の適用関係が定まることになる(耐通1-1-5参照) また、法人が他社から賃借している資産に対する資本的支出については、自己の資産に対する資本的支出と同様に、本体資産の耐用年数が適用されることになる(耐通1-1-4参照)。これに対して、賃借建物に対する造作については、原則として、合理的に見積もった耐用年数によるものとされている(耐通1-1-3参照)。 ウ 中古資産の場合 中古資産に係る耐用年数表の適用に当たっては、①新品と同じ法定耐用年数によるのが原則であるが、耐用年数省令により、②見積法、③簡便法によることも認められている(耐令3)。 なお、③簡便法については、②見積法の適用が困難な場合にのみ適用が認められ、無形減価償却資産等には適用されない。また、中古資産を事業の用に供するためになされた資本的支出の額が取得価額の50%を超える場合にも適用が認められない。 (3) 耐用年数の短縮について 耐用年数については、省令によって画一的に定められている結果、現実に資産の効用が持続する年数と乖離する場合(法定耐用年数が実態に即さない場合)が生じうる。 そこで、資産の陳腐化によって使用可能期間が法定耐用年数に比べて著しく短くなった場合など一定の要件を満たす場合には、国税局長に対して、耐用年数の短縮についての承認申請をすることができるものとされている(法令57)。 承認を受けた後は、未経過使用可能期間をもって法定耐用年数とみなすことになり、その短縮された期間で償却することになる。 8 除却損失の計上 (1) 除却損失の意義 老朽等によって使用に耐えなくなった機械装置を廃棄した場合、また、使用しなくなった建物、構築物等を取り壊した場合など、減価償却資産を除却した場合には、その除却によって当該資産が失われるので、その資産の帳簿価額が除却損失として損金に算入されることになる。 (2) 有姿除却の要件 通常は、実際に資産の取壊し等をすることによって損失が確定することになるが、現実の取壊し等がない場合であっても、その使用を廃止して今後通常の方法で事業の用に供する可能性がなくなった場合には、いわゆる「有姿除却」として、除却損失の計上が認められる(法基通7-7-2参照)。 すなわち、取壊し等の処分に多額の費用を要する場合、あるいは、将来ごく僅かに再使用の可能性があるといった理由で処分をしない場合でも、その使用を廃止することによって経済的には価値がなくなるといえることから、除却損失の計上が認められる。 この有姿除却が認められるための要件は、上記通達では、今後通常の方法により事業の用に供する「可能性がない」と認められるものとして定められているが、ここでいう「可能性」については、抽象的な可能性ではなく、社会通念に照らして実質的に判断することになる。 例えば、実際にはまだ使用することが抽象的には可能であるとしても、他の条件からみて現実的な再使用の見込みが乏しい場合には、いったん法人の判断によって廃止の処理をしたものについて再使用される可能性は実質的にはないといえることから、除却損失の計上が認められる(東京地判平成19年1月31日・税資257号順号10623参照)。 (3) 除却損失と取得価額 固定資産の取壊し等が別の固定資産の取得のためと認められる場合(典型的には、更地の土地を取得するために、土地建物を一括取得した上で建物の取壊しをする場合)には、その取壊し等をした固定資産の帳簿価額については、除却損失として損金に算入するのではなく、新たに取得した固定資産の取得価額に算入することになる(第2回3(4)ウ参照)。 9 おわりに 減価償却資産をめぐる問題は、要するに、費用計上のタイミングの問題であるともいえるが、費用計上していたものが減価償却資産に該当するなどとされた場合には、その資産の種類によっては相当長期にわたる償却が必要であり、支出時の損金とされる場合との差は大きいものとなり得る。 その判断は事実認定の問題でもあり、減価償却に関する規定の適用に当たっては、本稿も参照されつつ、事実関係を正確に整理して把握した上で、適正に判断されたい。 (《減価償却》編 終了)
税務判例を読むための税法の学び方【14】 〔第4章〕条文を読むためのコツ (その7) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) (4 主文の主要素を見極める方法) ⑦ 句点の使い方 今回は、句点(、)の使い方について確認する。 ある限定や修飾がどこまで及ぶかを誤れば、解釈が誤ってしまう。その限定、修飾の理解に欠かせないものが、この句点である。 前回述べた「・・・で・・・もの(者、物)」においても、「A及びBで・・・のもの」と「A及びBで、・・・のもの」という場合がある。 この両者は明確に異なっている。 「A及びBで・・・のもの」という場合には、通常、「・・・のもの」はBだけに掛かるので、「A」及び「Bで・・・のもの」という意味である。 これに対し「A及びBで、・・・のもの」という場合には、「・・・のもの」はAとBの両方に掛かり、結局、「A及びBで」、「・・・のもの」を意味することになる。 同様に、「A又はBで・・・のもの」と「A又はBで、・・・のもの」という場合がある。 「及び」の場合と同様、「A又はBで・・・のもの」という場合には、通常、「・・・のもの」はBだけに掛かるので、「A」又は「Bで・・・のもの」という意味である。 これに対して「A又はBで、・・・のもの」という場合には、「・・・のもの」はAとBの両方に掛かり、結局、「A又はBで」、「・・・のもの」を意味することになる。 ではまず、「A及びBで・・・のもの」の例を、所得税法第45条第1項第1号から見てみる。 この所得税法第45条第1項は、家事関連費等の必要経費不算入等を規定した条文である。 この第1号には「家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」とあるが、これは「家事上の経費」と「これに類する経費で政令で定めるもの」である。 「家事上の経費」は、政令によるまでもなく必要経費に算入しないが、「これに類する経費」は明確ではないため、除外するものを政令で定め、必要経費から除くことになる。 もっとも、この所得税法第45条を受けた所得税法施行令第96条では、「法第45条第1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。」として、「次に掲げる」として1~2号に規定されているもの以外はすべて必要経費とされない旨定められているのであるから、「政令で定めるもの」が「家事上の経費」に掛かっていると読んでも、この限りでは大差はない。 では次に、もう少し複雑な例を、退職手当等とみなす一時金を規定した所得税法第31条第1号から見てみよう。 まず、この第1号の括弧を外し とした上で見てみよう。 この条文では、「及び」と「又は」が重層的に存在しているため「A及びBで・・・のもの」なのか「A又はBで・・・のもの」なのかが判断し難くなっている。 したがって、一見しただけでは、最後の「政令で定めるもの」が掛かるのが直前の「一時金」だけなのか、分かりにくい。 しかし、最初の「及び」は「国民年金法、厚生年金保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法及び独立行政法人農業者年金基金法」といった一時金について規定した法律を並列的に並べた中での接続詞であるため、 が1つのまとまりとなる。 また、次の「又は」は、これに続く の中の「社会保険」と「共済」という選択肢を結び付けた接続詞として使われている。 したがって、主要部だけを見るなら「法の規定に基づく一時金」と、「その他社会保険又は共済に関する制度に類する制度に基づく一時金で政令で定めるもの」が並んでいる。 前者の「法の規定に基づく一時金」に関しては特に政令によることを要しないが、後者の「社会保険又は共済に関する制度に類する制度に基づく一時金」の場合には「類する制度」が明確ではないため、内容を政令で定める必要があることから、「政令で定めるもの」とされている。 なおこの条文は、「A及び(又は)Bで・・・のもの」の内容ではあるが、前者「法の規定に基づく一時金」と後者「社会保険又は共済に関する制度に類する制度に基づく一時金」の間には、「及び(又は)」という接続詞が使われていない。 これは、先に「A、B、その他C」という用法を説明したが(第9回参照)、この用法として、「Aその他B」という形で示されている。 では次に、「A及びBで、・・・のもの」の例を、所得税法第9条第1項第17号から見てみる。 この所得税法第9条第1項は、非課税所得を定めた条文である。 まず、この第17号の括弧を外し とした上で見てみよう。 すると、「A及びBで、・・・のもの」となっていることがすぐ分かるが、後段の「心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するもの」は、「~で、」に続いており、前にある「保険金」と「損害賠償金」の両方に掛かっている。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載27〕 小規模宅地等の減額特例に関する 平成25年度改正について ─区分所有建物に居住していた場合の取扱い─ 税理士 小林 磨寿美 1 予定された改正と実際の法令 平成25年度税制改正大綱では、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「小規模宅地等の減額特例」)について、次の見直しを行うとしていた。 これにより、小規模宅地等の減額特例の対象となる特定居住用宅地等については、二世帯住宅に係る構造要件が撤廃されたとして、被相続人居住部分に加えて、生計を一としない親族が取得したその親族が居住する部分も、その対象になるとされた。そして、例えば、親子で上下階に住む二世帯住宅で、外階段を有するものについても、その敷地のすべてが小規模宅地等の減額特例の対象となるとの報道がされていた。 大綱を受け、平成25年3月30日成立の所得税法等の一部を改正する法律(法律第5号)により、租税特別措置法69条の4第3項2号が改正され、さらに、平成25年5月31日公布の租税特別措置法施行令の一部を改正する政令(政令第169号)により、同40条の2第10項が改正された。 改正された法律及び政令の一部を次に記載する(下線:筆者)。 2 現法令の定めと改正法令の定め 措置法通達69の4-21(被相続人の居住用家屋に居住していた者の範囲)前段では、次のように記載されている(最終改正平24.12.10)。 したがって、次の図のような二世帯住宅を想定した場合、各居住部分が「構造上区分され独立して住居その他の用途に供することができるもの」であるかどうかにより、生計別親族が取得した宅地等が、特定居住用宅地等に該当するかどうかの判断が分かれることとなる。 《現行法令》 ※( )内は実際に特定居住用宅地等となる部分を示す。 一方改正法令では、この「構造上区分され独立して住居その他の用途に供することができるもの」に代えて「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」が判断基準となり、特定居住用宅地等の範囲が異なることとなる。 《改正法令》 ※( )内は実際に特定居住用宅地等となる部分を示す。 3 「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」とは ここで問題となるのは「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」の意味である。建物の区分所有等に関する法律第1条は次のようになっている。 この条文は区分所有権の目的とすることができる建物について定めているものである。そこで、不動産用語集((株)不動産流通研究所)により、区分所有建物となるための要件を確認すると、次の2つの要件を満たすことが必要であるとしている。 出典:不動産用語集((株)不動産流通研究所)より つまり、構造上かつ利用上の独立性のある建物の各部分について、別個の所有権が成立しているときに、その建物は区分所有建物となる。「構造上かつ利用上の独立性のある建物」を、ここでは「区分所有可能な建物」と呼ぶ。 そこで、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」の意味を考えてみると、考えられるのは、次の2つのものである。 前述のように、区分所有法第1条は「できる規定」であるため、第二説である「区分所有可能な建物」を指すというのが素直な読み方であろう。 次に、改正法令から、第一説及び第二説を検証してみる。改正措令40条の2第10項は、特定居住用宅地等の定義において、相続又は遺贈により敷地を取得する生計別親族が居住していた部分を示しており、次のようになっている。 この2号規定は、「前号に掲げる場合以外の場合」である。そして、区分所有可能な建物以外の建物は、そもそも構造上かつ利用上の独立性のある部分がない一棟の建物であるから、被相続人又は当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分として独立の部分が存在しないこととなり、本来この規定の対象外であるはずである。 上記各説を当てはめた場合に、この2号規定は、次のようになる。 以上のことにより、改正法令の「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」は、条文を文言解釈する限りは、「区分所有可能な建物」となるが、条文の文意や平成25年度税制改正大綱から推測した場合は、「区分所有建物」としかならない。 4 区分所有登記された建物とした場合 改正法令の「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」は「区分所有登記された建物」であるとする取材記事が、本年6月末から7月始めに発行された税務雑誌に掲載されている(「週刊税務通信」3267号(2013年6月24日)p.4、「T&A master」No.505(7/1号 )p.4-6)。もし、そうであるならば、「建物の区分所有等に関する法律第1条に規定する所有権の目的として登記された建物」とされるべきである。 そして、登記の有無で区別するのであれば、区分所有登記済みの建物であっても、相続開始前に建物の合併登記が完了するかどうかで取扱いが異なることとなるのであろうか。 また、現行の措置法通達69の4-21なお書きでは、区分所有可能な建物の独立部分のうち被相続人が居住の用に供していた独立部分以外の独立部分に居住していた親族がいる場合(被相続人の配偶者又は被相続人が居住の用に供していた独立部分に共に起居していた相続人がいない場合に限る)において、その親族が、同居親族であるとして申告したならば、これを認めるとしている。 これは、建物全体が被相続人又は被相続人の親族によって所有され、その建物に係る各独立部分に被相続人とその親族が分かれて居住しているケースについては、「同居」として取り扱うこととしても特に問題がないと考えられる(香取稔『相続税・贈与税関係租税特別措置法通達逐条解説(平成18年版)』大蔵財務協会)ことから、そのように取り扱うものとされているものであるが、改正法令においては、被相続人等の居住の用に供されていた部分が一棟建物である場合は、建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物であるかどうかにより、明確にその取扱いを分けているため、引き続きそのような解釈が成り立つかどうかは不明である。 通達の趣旨からいえば、このなお書き規定の継続が望まれる。 改正法令の「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」を「区分所有登記された建物」とした場合の特定居住用宅地等の範囲をまとめると、次のようになる。 (了)
会計リレーエッセイ 【第7回】 「中小企業の会計の行方」 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授 弥永 真生 わが国における非上場会社、とりわけ、中小企業の会計は、―適切になされている事例は散見されるものの―少なくとも拡大前EU加盟国や北欧諸国と比べ、残念ながら、マクロ的には見劣りがすることは否定できない。 すなわち、ヨーロッパ諸国においては、EC会社法指令に基づいて、計算書類の登記所開示が行われるとともに、外部監査人の監査の対象となっている会社の「割合」も日本に比べればはるかに高い(そもそも、原則として対象となるが、例外的に監査を受けることを要しない―とはいえ、監査の対象とならない中小企業の絶対数は多い―というアプローチになっており、例外的に会計監査人監査が要求されるとする日本とは発想が異なる)。 日本で、このようなことになっている原因としては、計算書類の公告義務について全くエンフォースがなされていないこと、及び、金融については、不十分な面がある一方で、必ずしも十分なディシプリンが働かない状況で行われてきたように思われることなどがあげられよう。 後者については、物的担保や人的担保(保証)に過度ではないかと思われるほど依存したり、また、信用保証協会の保証が付されていることに依拠して、十分な審査を経ないで貸付けが行われてきたという経験を最近の日本は有しているように思われる。これは、裏側からみれば、会社の計算書類には依拠しない与信がなされてきたということにほかならない。 しかし、第183回国会には、保証人が金銭の貸付け等を業として行う者との間で締結する保証契約のうち、主たる債務者が事業のために負担する貸金等債務を主たる債務とする保証契約等は、保証人が法人又は主たる債務者である法人の代表者である場合を除き、その効力を生じないこととすることを内容とする「民法の一部を改正する法律案」(議員提案)が提出され、その修正案が6月12日に参議院本会議で可決されている。すなわち、保証に依拠する余地が減少することになる。しかも、近年の経済情勢を考慮すれば、物的担保に依存することも難しいはずである。 このような中で、金融機関が、中小企業への与信をまっとうな形で行うためには、計算書類の信頼性の確保が必要なのではないかと思われる。 もっとも、中小企業における経理部門の人材確保上の困難性に鑑みれば、企業会計のルールが単純で分かりやすいものであることが必要なのであり、平成14年以降、中小会計指針や中小基本要領などが策定されているのは、中小企業にも、それなりの会計を行っていただこうという趣旨に基づくものであると思われる。 逆に、とりわけ、1990年頃から2000年頃までの間、全くといってよいほど中小企業の会計が話題とならなかったのは、中小企業の計算書類軽視という風潮があったからなのではないかとも勘ぐられるところでもある。しかも、1980年代までは、法務省を別とすれば、中小会社の計算の充実にさほど関心を払っていなかったのではないかとすら思われた。 これに対し、現在では、日本商工会議所その他中小企業団体、中小企業庁、日本税理士会連合会及び日本公認会計士協会などが、中小企業の会計の改善に注目され、そのために力を尽くされているのであるから、中期的・長期的には希望がみえてきたように思われる。 実際、中小企業の会計には、いわゆる確定申告のおかげで、税務申告との結び付きゆえに、税理士及び(税理士登録をしている)公認会計士が関与していることが大きいことに思いをいたすならば、会計専門職業人及びその団体がどのような態度をとるかが、中小企業会計の改善の流れが持続するかどうかを分けるといえよう。 また、残念ながら、会計参与制度の普及はなかなか進まないのであるが、仮に、会計参与制度でもコストとベネフィットが見合っているとはいえないのであれば、中小企業の会計の信頼性を確保する他の制度を検討することも含めて、真剣に取り組む必要があるかもしれない。 そして、これとの関連でも、金融機関とりわけ信用金庫や信用組合といった中小企業を主たる顧客とする金融機関に対して、監督当局が、計算書類に基づく与信及びその後の与信先管理を行うよう誘導し、かつ、金融機関が中小企業の会計の改善を引き続き後押しして下さることも期待したい。 (了)
林總の 管理会計[超]入門講座 【第6回】 「正しい原価計算とは何?」 公認会計士 林 總 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第12回】 棚卸資産会計② 「棚卸資産評価の会計処理」 -収益性の低下に基づく簿価切下げ 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 〈事例による解説〉 期末に商品在庫が1,000ある。また、正味売却価額は900であった。 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 通常の販売目的(又は販売するための製造目的)で保有する棚卸資産は、取得原価を貸借対照表価額としますが、期末時の正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、収益性が低下しているものとして、棚卸資産評価損を計上して正味売却価額を貸借対照表価額とします(棚卸資産の評価に関する会計基準7項)。 なお、正味売却価額が取得原価を上回っている場合には、何ら会計処理を行いません。 ここで、正味売却価額とは、以下のように算定されます(棚卸資産の評価に関する会計基準5項)。 基本的に棚卸資産の評価は、上記のように正味売却価額に基づいて評価を行います。しかし、製造業における原材料等のように、売却市場の時価よりも購買市場の時価の方が把握しやすい場合もあります。 そのため、製造業における原材料等のように購買市場の時価(再調達原価)の方が把握しやすく、正味売却価額が再調達原価の値動きと同じように動くと想定される場合、継続して適用することを条件に、正味売却価額ではなく、再調達原価を用いることができます(棚卸資産の評価に関する会計基準10項)。 本事例では、正味売却価額が取得原価よりも低下しているため、棚卸資産評価損を計上する必要があります。計上金額は、取得原価1,000-正味売却価額900=100となります。 また、棚卸資産評価損は、原則、売上原価として計上します。ただし、収益性の低下に基づく評価損が、臨時の事象(例えば、重要な事業部門の廃止、災害損失の発生等)によるもので、かつ多額である場合には、特別損失に計上することができます(棚卸資産の評価に関する会計基準17項)。 次回は、「正常な営業循環過程から外れた棚卸資産評価の会計処理」について解説します。 (了)
長時間労働と労災適用 【第2回】 「長時間労働と労災認定の関係」 特定社会保険労務士 大東 恵子 前回記載した総合評価の対象となる長時間労働に関する労災認定基準について、心理的負荷の強度が「強」と判断される具体的な時間外労働時間が示されている。 長時間労働に関して「強」と判断される時間外労働時間は、以下の通りである。 上記の時間外労働時間数に該当し、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであれば、「長時間労働」という事実のみで「強」の判断がなされることになる。 ただし注意しておきたい点は、上記の時間外労働を超えなければ、労災認定を受けないというわけではない、ということである。 上記時間外労働時間数に至らない場合であっても、例えば重度の病気やけがをしていたり、いじめや嫌がらせを受けていたなど、その他の事情を考慮した総合評価によって労災認定される場合は当然にある。 したがって、時間外労働時間が上記時間に至っていないからといって、その時間まで働かせてもいいという考えはされない方がよいであろう。 脳・心臓疾患発症と長時間労働との関連性は、以下の通りである。 上記のように、長時間労働に関しては、精神障害による労災認定基準よりも、脳・心臓疾患の場合の認定基準の方が、より厳しい基準となっていることが分かる(すなわち、精神障害が発症するよりも、脳・心臓疾患が発症するリスクの方が、より短い労働時間で高くなるということになる)。 このように、精神障害の場合の労災認定基準となる時間外労働時間を超えなかったとしても、脳・心臓疾患に関する上記時間に該当する場合があるため、注意が必要となる。 (了)
民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第5回】 「民事法定利率」 弁護士 中西 和幸 1 民事法定利率に関する改正の概要 前回は損害賠償について解説したが、こうした損害賠償請求に関しては、民事法定利率の問題も同時に考えなければならない。 この民事法定利率は、民法制定当時から変わっていないが、現在の預金金利の水準が低いことから、その変更も民法改正で議論されている。 そこで今回は、利率をどうするか、固定金利か変動金利か、中間利息控除ではどう取り扱うか等について解説する。 2 民事法定利率の変更 (1) 民事法定利率が問題となる場面 民事法定利率の出番は、概ね2つに分けられる。 まずは、金銭消費貸借における利息や、履行遅滞による遅延損害金などにおいて利率を明確に定めなかった場合である。 もう1つは、当事者間に法的な関係がなかったところへ債権債務関係が発生する場合、すなわち交通事故等の不法行為における損害賠償請求権や不当利得関係が生じた場合の返還請求権である。 この場合は、利率に関する合意が成立する余地がないことから、民事法定利率が当然適用されることになる。 (2) 5%が高率かどうか いわゆる「バブル」の崩壊以降、日本経済の発展は停滞し、金融機関における預金利息等は低水準なまま継続し、資産を運用してもさほど大きな利幅は得られない時期が長期間継続している。 その中で、市場金利と比較すると、民事法定利率が5%というのは高すぎるとの意見が相次いだことから、当面これを引き下げることが提案されている。 実際、現行法では、裁判上の和解において、利息及び遅延損害金を免除し元本を全額支払うとする和解案を裁判所や債務者が提案しても、債権者がこれに応じず、逆に元本に加え一定の利息を要求する例が増加してきたとの意見を聞いたことがある。 確かに、年5%の法定利率は、預金金利の水準から考えると高い利率であるといえよう。しかし、金融機関からの貸出金利については、とりわけ、信用リスクが低くない中小企業等に対する貸出しについては、5%を超える利率のものも少なくない。金融機関からの借入れ以外の場面、すなわち信販会社や消費者金融などの貸金業者による融資の場合、不動産担保融資などの例外的な場合を除き、5%を超える金利での融資がほとんどである。 すると、預金金利としての運用益から見る限り現行の法定利率は高率であるが、取引先の債務不履行(すなわち金銭の支払いがないこと)により資金調達が必要な場合に、金融機関等から借り入れることにより資金を調達する場合のコストを考えると、年5%の利息や遅延損害金は必ずしも高率とはいえないのではなかろうか。 3 改正案の概要 (1) 利率の変更(固定利率) まずは、現行法の5%を引き下げたうえで固定利率とする提案がなされている。 中間試案においては3%が提案されているが、その数値は今後の検討に委ねられるものとして、ブラケットで囲まれている。 (2) 変動利率 次に、民事法定利率を変動利率とする提案もある。 変動利率の場合、利率を確定する計算方法を定めることが必要となるが、その定め方について以下の提案がなされている。 まとめると、基準日時点で現行の利率と基準金利(又はスプレッドを加算)との差が0.5%以上生じた場合、0.5%刻みで、基準日の1ヶ月以降に法定利率を上げ下げするということである。 (3) 変動利率をどう適用するか 民事法定利率が変動利率となった場合、具体的な債権債務関係においてどのように法定利率が適用されるかという規定が必要であり、以下の提案がなされている。 4 実務への影響 (1) 契約上合意をすることが主流 ビジネス実務上は、融資や遅延損害金については、金利を特約で定めることが多い。 例えば融資については固定金利としたり、長短期プライムレートやLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)、TIBOR(東京銀行間取引金利)といった基準金利に一定のスプレッドを乗せた変動利率などの定め方がある。 融資やその他の金銭債務に関する遅延損害金は、消費者契約法の影響からか、14%~14.6%が定められることが多い。 そうすると、民事法定利率の出番は、個人間の金銭消費貸借契約、注文書と請書等の伝票(という形式の契約書)を交わすだけのビジネス、すなわち基本契約書を交わさない場合等が中心となろう。 ビジネス実務上は、契約を書面化して紛争等を回避する流れからすると、民事法定利率の改正の影響は軽微なものと想定される。もっとも、変動利率とされた場合、民事法定利率と約定利率の(高い方/低い方)の利率を適用するという合意も考えられるところである。 (2) 金銭債務の損害賠償 前回説明したとおり、中間試案では、金銭債務については、原則として法定利率を損害とするが、金銭債務であっても超過損害を証明すればこれを請求することができるとする。 そのため、どのような場合に、金銭債務の不履行に対して超過損害額の主張/立証に挑戦するかという戦略をとることも可能であろう。 5 中間利息控除 中間利息控除については、通常の取引実務ではあまり関わることはない。最も大きな影響を受けるのは、将来の逸失利益の算定と考えられる。 例えば交通事故において、将来の収入を失った場合、将来の収入を現在の価値に引き直して計算するため、将来収入に中間利息控除を行って損害額を算定している。交通事故の逸失利益の損害賠償の場合、死亡時の収入から生活費割合を控除し、これにライプニッツ係数を乗じて算定するが、このライプニッツ係数は民事法定利率が5%であることを前提に定められている。 中間試案では、この5%を変更しない案を提示しているが、民事法定利率と中間利息控除の割合を異なる数値とする合理的な根拠は見出しがたい。一方、中間利息控除の利率を小さくすると、損害賠償額が現行より高額となることが予想される。 そのため、賠償金を受け取って預金しても利息がわずかしか付かない現代では、不法行為の被害者救済につながると考えられる。 逆に、最も大きな負担を負うのが損害保険業界であると考えられる。その場合、損害保険会社がリスクを転嫁するために各種保険の保険料を上昇させることになり、その結果、契約者の各種コストが上昇することが懸念される。 民事法定利率の改正については、固定利率であればともかく、変動利率となると実務上の処理が大変となる。結局のところ、当事者間の合意により合理的な利率を定めるという現行法下の丁寧な実務に沿う限り、さほど影響はないものと思われる。 ただし、中間利息控除の利率が低下した場合、損害保険料の値上げという、法令の改正と異なる方面からの影響があるかもしれない。 (了)