小説 『法人課税第三部門にて。』 【第9話】「優良法人の税務調査(その3)」
午後からは、睡魔との戦いである。
伝票をめくる渕崎統括官の手が止まる。瞼が重く、ついつい心地よい眠りに誘われる。
渕崎統括官は、眠りから逃れるために、異常な力を込めて伝票をめくった。
田村上席は、源泉徴収簿からパートの氏名とその支給額を写している。
時計の針は、午後2時を示している。
企業不正と税務調査 【第9回】「従業員による不正」 (3)不正の防止・早期発見のための対策
本連載第2回で「不正発生のメカニズム」として、「不正のトライアングル」という仮説を紹介した。その際に、いかにして「機会」を減らすかが、不正抑止の決め手であることも強調している。
そして「機会」を減らすためには必要なことが適切な職務分掌であり、周囲の監視であることはこれまでの不正事例で見てきたとおりである。
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第8話】「優良法人の税務調査(その2)」
「債権者の合意書の結果通知書は、確定申告書を提出した後に、送られてきたのですが・・・」
齋藤課長は、吉田税理士に説明している。
「・・・だから、先生にこの雑損処理を相談したときは・・・この結果通知書は、まだ受け取っていなかったのです・・・」
吉田税理士は黙ったままである。
国外財産調書に関する通達の発遣について
国税庁は、平成25年3月29日付け「内国税の適正な確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「本通達」)を発遣した。
国外財産調書制度とは、平成24年度税制改正により導入された制度であり、各年の12月31日に5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)に対して、翌年3月15日までに、保有する国外財産の内容を記載した報告書を所轄税務署長に提出することを義務付けるものであり、平成26年1月1日以降提出すべき調書から適用となる。
本稿では以下、本通達の内容のうち、留意すべき点を中心に解説する。
企業不正と税務調査 【第8回】「従業員による不正」 (2)営業部門・購買部門社員による横領
最も不正を行う機会に接している従業員は経理部門の社員であり、しかも出納業務を1人で任されている者であることは前回説明したとおりである。
今回は、「経理部門以外の従業員」のうち、営業部門・購買部門社員による横領事件を取り上げる。
前回の経理部門社員による不正との大きな違いは、単独で不正を行うことはできず、必ず「共犯者」が存在するということである。したがって、不正の発見にあたっては、共犯者の存在をうかがわせるような兆候を見つけることがポイントになる。
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第7話】「優良法人の税務調査(その1)」
「田村上席、ちょっと・・・」
渕崎統括官が田村上席を呼ぶ。
田村上席は、自分の机で、納税者から預かった請求書をチェックしている。
「はい、すぐに行きます」
田村上席は、途中まで見ていた請求書の束を机に置いて、渕崎統括官の席に向かった。
企業不正と税務調査 【第7回】「従業員による不正」 (1)経理部門社員による横領
今回から3回にわたって、従業員による不正について、横領事件を中心に見ていきたい。
本連載【第1回】で引用した事例が2例とも従業員による横領であったように、税務調査をきっかけにして、経営者・顧問税理士・会計監査人が気付かなかった従業員不正が発覚することは少なくない。
また、犯人とされた従業員は、概してまじめで、休みも少なく、業務に精通しており、周囲からの信頼が厚い場合が多い。
彼らは、どのようにして不正への道に足を踏み入れ、いかに巧妙な隠蔽工作をし、にもかかわらず、国税調査官が発見できたのはなぜか。
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第6話】「修正申告の勧奨(その2)」
「そうか・・・」
田村上席調査官は、両手を頭の後ろに当て、椅子の背にもたれながら、山口調査官の話を聞いている。
「納税者は、重加算税について不満があるのかな?」
田村上席調査官は、山口調査官に尋ねる。
「交際費も棚卸資産も、納税者の誤りであることは明らかなので・・・」
山口調査官が納税者の申告書を見ながら言う。
「ところで、重加算税については、理由附記は大丈夫なのか?」
企業不正と税務調査 【第6回】「経営者による不正」 (3)不正防止・発見のための手法と防止策
ここまで2回にわたり、経営者による典型的な脱税・裏金作りスキームとして、売上の一部を除外する事例と、架空(水増し)人件費の計上する事例を、これらの手口と税務調査により発覚するプロセスを中心に見てきた。ここでは、こうした経営者・組織トップが主導する不正について、
1 従業員である管理部門の社員が経営者の不正を発見した場合
2 税理士・公認会計士のような外部の職業会計人が、顧問先の不正を発見する手法
3 内部監査部門が業務監査を通じて、経営者(子会社経営者を含む)の不正を発見する手法
の3つのパターンで、税務調査により不正が発覚する前に、こうした行為を止めさせるためにはどうすべきかを検討したい。