~税務争訟における判断の分水嶺~
課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から
【第17回】
「売買契約書は当事者の真の意思に基づかずに作成されたと推認された事例」
税理士 佐藤 善恵
本連載の趣旨
課税庁の審理室や訟務官室が作成した「判決情報」や「判決速報」は、課税庁が、現場の調査担当者に向けて事例を紹介するための内部文書です。これらで取り上げられる事例には、あまり知られていない判決等も含まれていますが、どれもが税務調査の現場にフィードバックが必要と考えられているという点において重要な事例といえます。
本連載は、課税庁が調査担当者に向けて発信している判決等の要旨をご紹介するとともに、その判断の分水嶺がどこにあったかを検討し、さらに、実務上の留意点や裁判所の考え方を示唆しようとするものです。
なお、「判決情報」等は、TAINSデータベース(※)から取り出すことができますので、毎回、末尾にTAINSコードを記載いたします。
(※) 一般社団法人日税連税法データベースが運営する税務関連情報データベース
◆平成16年4月21日東京地裁[棄却](確定)
(※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。
〔概要等〕
原告(甲社)は、乙に本件土地を平成9年9月30日に譲渡したことにより売却損が生じたとして、その金額を損金の額に算入した。これに対して、原処分庁は、本件土地の売買の事実は存在しないとして更正処分等を行った。甲社は、乙へ売買予約をし、その間、少しでも高額な売却先を探していたが見つからず、乙へ売却することにした旨を主張した。そして、乙への所有権移転登記をしなかったのは、乙が手付金しか支払わなかったため、及び、乙が転売した場合の中間省略登記による登記手数料の節約をするためであったと主張した。
争点は、甲社の平成9年9月期の法人税について、本件土地に係る売却損が損金の額に算入されるかどうか(つまり、本件土地が平成9年9月30日までに甲社から乙に売り渡されたかどうか)である。
-主な認定事実-
- 本件土地の売買に関しては、平成9年9月30日付の次の3つの「売買契約書」と題する書面が存在している。
① 買主をBとD(以下「D」という)とする売買価額8,124万9,000円のもの(「第1契約書」)
② 買主を乙とする売買価額8,124万9,000円のもの(「第2契約書」)
③ 買主を乙とする売買価額8,700万円とするもの(「第3契約書」)
上記①から③の各契約書は、金額や買主に関する部分はそれぞれ異なるが、それ以外の条項については、(イ)売買代金の残金は平成9年11月10日までに支払う旨、(ロ)本件土地の所有権は、買主が売買代金全額を支払ったときに、買主又は買主の指定する者に移転する旨等の同じ文言による定めがある。
- 本件土地は、当初Dが購入することになっていたが、その後、購入者が乙に変更された。
- 第2契約書は、第1契約書の買主欄の記名押印欄等を修正液で消して、買主を乙と書き換えるなどして作成されたものである。また、第3契約書は、第2契約書の金額を修正液で消して書き換えるなどして作成されたものである。
- 本件土地は、昭和63年5月31日売買を原因とする甲社への所有権移転登記がされ、平成13年9月28日売買を原因とするE社への所有権移転登記がされている。甲社は、本件土地の購入の際に、購入資金をF信用金庫から借り入れて、本件土地に根抵当権を設定した。
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