収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第5回】
筆者:泉 絢也
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収益認識会計基準と
法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究
【第5回】
千葉商科大学商経学部講師
泉 絢也
(4) 法人税法22条4項
【参考】法人税法22条
第22条 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。
5 第2項又は第3項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第115条第1項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
ア 法人税法22条4項の規定内容と会計の三重構造
法人税法22条4項は次のとおり規定する。
第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。
法人税の課税標準たる所得の金額の計算構造の大枠は、企業会計における法人の利益を前提としたものとなっている。法人税法22条4項によれば、所得の金額の実際の計算方法についても同様のことがいえる。
なお、法人税法22条4項中、「、別段の定めがあるものを除き」という部分は平成30年度税制改正において付け加えられた。この点については後に改めて考察を行う。
《会計の三重構造》
企業会計と租税会計(租税法会計)との関係について、両者を別個独立のものとすることも制度上は可能であるが、法人の利益と法人の所得が共通の観念であるため、法人税法は、二重の手間を避ける意味で、次に述べる企業会計準拠主義を採用しているというのが学説の理解である(金子宏『租税法〔第23版〕』37頁、348~349頁(弘文堂2019)参照)。
法人税法22条4項は、当該事業年度の収益の額及び原価・費用・損失の額は、公正処理基準に従って計算されるものとすることを規定している。この規定は、1967年(昭和42年)に、法人税法の簡素化の一環として設けられたものであって、法人の各事業年度の所得の計算が「原則として」企業利益の算定の技術である企業会計に準拠して行われるべきこと、すなわち企業会計準拠主義を定めた基本規定であると解されている。
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連載目次
収益認識会計基準と法人税法22条の2及び
関係法令通達の論点研究
(第Ⅰ部 収益認識会計基準の概要)
(第Ⅱ部 法人税法上の収益計上時期・計上額①(概要))
(第Ⅲ部 法人税法上の収益計上時期・計上額②(法人税法22条の2の逐条解説))
第Ⅲ部 法人税法上の収益計上時期・計上額②(法人税法22条の2の逐条解説)
1 法人税法22条の確認
(1) 法人税法22条1項
(2) 法人税法22条2項
〈更なる検討〉「益金」又は「損金」と純資産増加説
(3) 法人税法22条3項
(4) 法人税法22条4項
ア 法人税法22条4項の規定内容と会計の三重構造
イ 3つの会計の目的の相違
ウ 逆基準性
エ 公正処理基準の意義
(5) 法人税法22条5項
2 法人税法22条2項の考察
(1) 収益の額と別段の定めによる益金算入額・不算入額との関係
(2) 収益の計上時期の問題
〈更なる検討〉「取引」への着目①
〈更なる検討〉「取引」への着目②
(3) 収益の計上額の問題
3 法人税法22条の2第1項の検討
(1) 法人税法22条の2の格納場所(条文配置)からの検討
ア 視点の抽出
イ 視点③を出発点とした考察
ウ 視点①を出発点とした考察
(2) 規定の文言等からの検討
ア 収益の計上時期(時間的帰属)の規範としての顔
イ 「目的物の引渡しの日」と「役務の提供の日」
参考:出荷基準の位置付けに係る国税庁と研究者・実務家との認識のズレ
(3) 法人税法22条2項との比較検討
〈更なる検討〉法人税法22条の2第1項と22条2項の規律範囲・内容の比較
〈更なる検討〉「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの意義(法人税法22条の2第1項との関係)
(4) 法人税法22条の2第2項及び第3項との比較検討
ア 法人税法22条の2第2項及び3項の概要等
イ 引渡・役務提供基準の位置付け
ウ 1項と2項のどちらが原則的な基準か?
エ 申告調整による引渡・役務提供基準の採用
(5) 収益認識会計基準との比較検討
(6) 立案担当者の見解の要旨
ア 法人税法22条の2第1項は「収益の額を益金の額に算入する時期」に関する通則的な定めであること及びかかる定めを設けた趣旨
イ 改正前における収益の益金算入時期の考え方や収益認識会計基準との整合性
ウ 引渡・役務提供基準が着目する側面とその趣旨
エ 法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨
〈更なる検討〉法人税法22条の2第1項創設後における22条2項の意義
オ 法人税法22条の2第1項の「別段の定め」の具体例
カ 役務の提供には資産の貸付けが含まれること
キ 収益認識会計基準の適用対象取引と法人税法22条の2第1項の適用対象取引は異なる部分があること
4 法人税法22の2第2項
(1) 規定の文言等からの検討
ア 収益の計上時期(時間的帰属)の規範としての顔
イ 近接日基準の適用要件の整理
ウ 公正処理基準準拠要件
(ア) 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の意義や具体的範囲
(イ) 公正処理基準準拠要件の意義
エ 近接日における確定決算収益経理要件
(ア) ➊近接日要件(収益経理した日が目的物の引渡日又は役務提供日と近接した日であること)
《不明確性の根源》
《法人税基本通達が定める近接日基準》
〈更なる検討〉法人税法22条の2第2項と22条4項のいずれを根拠とすべきか
〈更なる検討〉法令用語「その他の」・「その他」と契約効力基準
(イ) ➋確定決算収益経理要件(確定した決算において収益として経理したこと)
参考:確定決算主義
オ 別段の定め不存在要件
(ア) 「別段の定め」の具体的範囲等
(イ) 「別段の定め」から法人税法22条4項が除かれていること
〈更なる検討〉無償による資産の譲渡又は役務の提供に対する法人税法22条の2第2項の適用の可否
(2) 立案担当者の見解の要旨
ア 法人税法22条の2第2項の趣旨
イ 法人税法22条の2第2項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨及び「別段の定め」の具体例
ウ 法人税法22条の2第2項による収益計上に当たっては継続性が求められること
エ 割賦基準・延払基準による収益計上は別段の定めがない限り、認められないこと
オ 法人税法22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は法人税法第22条第4項と同様の範囲であること
5 法人税法22の2第3項
(1) 申告調整を通じた近接日基準による益金算入
(2) 法人税法22条の2第2項を通じた益金算入
(3) 法人税法22条の2第3項の適用要件
〈更なる検討〉法人税法22条の2第3項は、2項が確定決算による収益経理を要請したことの意義を失わせるか
(4) 法人税法22条の2第3項の適用対象となる額
(5) 法人税法22条の2第3項は恣意的な申告調整を認めないものか
(6) 立案担当者の見解の要旨
ア 法人税法22条の2第3項は当初申告における申告調整により近接日基準による収益計上を可能とするものであること
イ 法人税法22条の2第3項により、確定決算による収益認識日を申告調整により他の日(収益認識日)に「変更する」ことはできないこと
ウ 申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすることも可能であること
エ 法人税法22条の2第3項を適用する際にも公正処理基準準拠要件の充足が求められること
6 法人税法22の2第4項・5項
(1) 法人税法22条の2第4項の概要
ア 時価による益金算入
イ 適用対象
(2) 法人税法22条の2第5項の概要
ア 貸倒れと買戻しの可能性への対応
イ 法人税法施行令18条の2第4項と貸借対照表項目のズレ
〈更なる検討〉返品調整引当金を廃止した理由
〈更なる検討〉「第七目 引当金」から「第七目 貸倒引当金」への目名改正と引当金損金不算入の根拠を巡る議論
(3) どの時点の時価であるか
ア 資産の販売又は譲渡
イ 役務提供
ウ 法人税法61条の2第1項との比較
(4) 譲渡した資産の「価額」と提供した役務につき「通常得べき対価の額」
〈更なる検討〉「対価の額」とは「時価」ではなく「当事者間で合意した額」か?
(5) 収益認識会計基準との比較
(6) 資産の引渡しの時の価額等の通則を定める法人税基本通達2-1-1の10
(7) 変動対価に関する法人税基本通達2-1-1の11
ア 概要
イ 平成30年度改正と法人税基本通達2-1-1の11との関係
ウ 損金不算入費用等に該当しないものに限定する趣旨と変動対価の要因となるその他の事実の範囲
エ 本通達の要件(1)~(3)について
(8) 売上割戻しの計上時期を定める法人税基本通達2-1-1の12
(9) 一定期間支払わない売上割戻しの計上時期を定める法人税基本通達2-1-1の13・14
(10) 値増金の益金算入時期を定める法人税基本通達2-1-1の15
(11) キャッシュバックなど相手方に支払われる対価の取扱いを定める法人税基本通達2-1-1の16
ア 概要
イ 本通達の趣旨
(12) 立案担当者の見解の要旨
ア 収益認識会計基準の導入に対応する形で、法人税法の改正を行うべきか①
イ 収益認識会計基準の導入に対応する形で、法人税法の改正を行うべきか②
ウ 「価額」及び「通常得べき対価の額」は幅のある概念であること
エ 時価と異なる価額を対価の額とする取引が行われた場合の取扱い
参考:限定説と無限定説
オ 法人税法22条の2第4項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨
カ 法人税法22条の2第4項の「別段の定め」の具体例
キ 値引きや割戻し、貸倒れ見込みや返品権付きの販売
7 法人税法22条の2第6項
(1) 概要等
(2) 混合取引(特に現物配当)を巡る議論
参考1:法人税法62条の5第3項
参考2:解釈論の余地
(3) 立案担当者の見解の要旨
8 法人税法22条の2第7項
(1) 収益認識会計基準への対応
(2) 法人税基本通達2-2-16(前期損益修正)
(3) 法人税法施行令18条の2第1項・第2項
ア 法人税法施行令18条の2第1項
イ 法人税法施行令18条の2第2項
(4) 法人税法施行令18条の2第3項
(5) 法人税基本通達2-1-1の11注書
(6) 法人税法施行令18条の2第4項は委任の趣旨を逸脱しているか
9 通達の取扱い
(1) 収益の計上の単位の通則(法人税基本通達2-1-1)
ア 概要
イ 「資産の販売等」の定義
ウ 従来の取扱いとの関係
エ 本通達の趣旨
オ 立案担当者の見解等
カ 契約単位・履行義務単位と申告調整
(2) 部分完成の事実がある場合の収益の計上の単位(法人税基本通達2-1-1の4)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
ウ 強制適用する趣旨
(3) 技術役務の提供に係る収益の計上の単位(法人税基本通達2-1-1の5)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
ウ 強制適用する趣旨
(4) ノウハウの頭金等の収益の計上の単位(法人税基本通達2-1-1の6)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
ウ 強制適用する趣旨
(5) 資産の販売等に係る収益の額に含めないことができる利息相当部分(法人税基本通達2-1-1の8)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
(6) 棚卸資産の引渡しの日の判定(法人税基本通達2-1-2)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
ウ 法人税法22条の2第1項の引渡概念との関係
(7) 委託販売に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-3)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
(8) 固定資産の譲渡に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-14)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
(9) 履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-21の2)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
ウ 履行義務の充足に係る進捗度
エ 各通達の法的根拠
(10) 請負に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-21の7)
ア 概要
イ 本通達の趣旨
ウ 本通達と役務提供基準
第Ⅳ部 法人税法上の収益計上時期・計上額③(個別論点・事例研究)
〈Q1〉 引渡しとは
〈Q2〉 民法上の引渡しと引渡基準
〈Q3〉 出荷基準と引渡基準の関係
〈Q4〉 出荷基準と引渡基準・近接日基準の関係
〈Q5〉 出荷基準・到着(着荷)基準と引渡基準
【第82回】 7/14公開
〈Q6〉 出荷基準にいう出荷とは
〈Q7〉 引渡基準と権利確定主義
【第83回】 7/28公開
〈Q8〉 引渡基準と管理支配基準
【第84回】 8/10公開
〈Q9〉 収益認識会計基準の履行義務充足基準との関係
【第85回】 8/25公開
〈Q10〉 無償譲渡の場合の収益の計上時期・計上額
〈Q11〉 申告調整による引渡基準の採用
【第86回】 9/8公開
〈Q12〉 収益の計上額と金銭債権の貸倒れの見込み
〔連載の終了に当たって〕
筆者紹介
泉 絢也
(いずみ・じゅんや)
千葉商科大学商経学部准教授
博士(会計学)千葉商科大学大学院経済学研究科准教授、中央大学商学部非常勤講師、中央大学大学院商学研究科非常勤講師、中央大学ビジネススクール非常勤講師
国士舘大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。中央大学商学研究科博士課程後期課程修了。【著書】
・酒井克彦編『キャッチアップ 改正相続法の税務〔令和元年度税制改正対応〕』(ぎょうせい)(共著)
・松嶋 隆弘=渡邊涼介編著『仮想通貨はこう変わる!!暗号資産の法律・税務・会計』(ぎょうせい)(共著)
・福原竜一編『実務にすぐに役立つ改正債権法・相続法コンパクトガイド』(ぎょうせい)(共著)
など【論文】
・「仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の譲渡による所得の譲渡所得該当性-アメリカ連邦所得税におけるキャピタルゲイン及び為替差損益の取扱いを手掛かりとして-」税法学581号3頁以下
・「収益認識会計基準公表に伴う法人税法の改正-法人税法22 条の2を巡る『別段の定め』論議を中心として-」千葉商大論叢57巻2号71頁以下
など
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