収益認識会計基準と
法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究
【第82回】
千葉商科大学商経学部准教授
泉 絢也
〈Q6〉
出荷基準にいう出荷とは
出荷基準にいう出荷とは、具体的にどのような意味か。
〈A6〉
出荷基準にいう出荷とは、一般的には、商品や製品を店舗や倉庫等から相手方に出荷した日、具体的には配送業者に引き渡した日、自社配送トラックに積載した日などを指す。法人税基本通達2-1-2における「出荷」も、このような一般的な用法と同義であると思われる。
● ● ● 解 説 ● ● ●
法人税法22条の2第1項との関係でいうと、同項は「出荷」という語を用いておらず、商品や製品の「引渡し」という語を用いている。このため、個別の事例を当てはめる際には、注意を要する。
議論の立て方として、次の2つが考えられるからである。
- 出荷基準が同項の定める引渡基準に該当するか否か
- 個別の出荷日が同項の「引渡しの日」に含まれるか否か
さらにいえば、例えば、通達で認められてきた出荷基準についても、その具体的な収益計上時点としては、商品等を倉庫又は工場等から出荷した時、貨車又はトラックに積み込んだ時、船積みした時、相手方の受入場所へ搬入した時、船荷証券又は貨物引換証を発行した時など種々の時点が考えられる(中村利雄「新法人税基本通達詳解(上)」『税理』12巻7号、同『法人税の課税所得計算〈改定版〉』87頁(ぎょうせい1990)参照)。
結局、出荷基準、検収基準、使用収益基準といったところで、やはり解釈の余地が生じることにも注意が必要である。
* * *
〈Q7〉
引渡基準と権利確定主義
平成30年度改正前は、法人税法における収益の計上基準として、収入の原因となる権利の確定した日に収益を計上する権利確定主義が採用されているという見解があったが、法人税法22条の2第1項は、収益の計上基準として引渡基準を採用したため、権利確定主義は収益の計上時期を決定する規範としての役割を終えたと考えるべきか。
〈A7〉
法人税法22条の2第1項が引渡・役務提供基準を明定したことにより、権利の確定それ自体を一種の要件と解することは難しくなった。もっとも、少なくとも平成30年度改正後において、収益の計上時期の判断に当たり、法的な観点を重視する立場が支持されるという考えを採用するのであれば、権利確定主義は役割を終えたものではないということになる。
● ● ● 解 説 ● ● ●
法人税法22条の2第1項は、収益の計上時期を決する原則的基準として、引渡・役務提供基準を明定した。同条には、権利の確定という文言は入っていない。このことから、権利確定主義は終焉したと見る向きもある。
例えば、次の諸点を考慮すると、引渡・役務提供基準の明定により権利の確定それ自体を一種の要件と解することは難しくなったが、平成30年度改正後において、収益の計上時期の判断に当たり、法的な観点を重視する立場が支持されるのであれば、権利確定主義は役割を終えたものではないという見方が成り立つ。
この意味では、今後、争訟の場面において、権利確定主義が生きながらえていることを示す事象が観察されることが予想される。
- 平成30年度改正後においては、法人税法22条4項を根拠として権利確定主義を導出するアプローチが通用しないとしても、同項の制定以前から、法人税法においては、権利確定主義が支持されていた。
- 従来、「権利の確定」という基準は、法的な基準が具体的な問題の解決のための明確な指針を与えることができるとともに、租税法律関係における法的安定性の要請に合致することを論拠として、支持されてきた。かかる論拠は、平成30年度改正後においても妥当する。
- 法人税法22条の2第1項の引渡しを改正前通達、これによって牽引されてきた実務慣行(商慣行)、会計上の実現主義や詳細で包括的な内容を擁する収益認識会計基準を踏まえて解釈するとしても、それが「権利の確定」という法的な基準を度外視するものであるならば、かつて通説が実現主義に対する不安と権利確定主義の引き続きの必要性・妥当性を主張する際に提起した「訴訟の場面において、法的分析の道具として十分に役立ちうるか」(金子宏「所得の年度帰属―権利確定主義は破綻したか―」『所得概念の研究』296頁(有斐閣1995)〔初出1993〕)という疑念、あるいは今なお色あせることのない洞察が当てはまる。
- 権利確定主義を破棄するほどのドラスティックな改正が法人税法22条の2第1項等の創設によって行われたことを窺わせる形跡がない。
- 逆に、収益認識会計基準の導入を契機として収益の計上額に係る規定(法人税法22条の2第4項等)を定めることがまず必要とされ、次いで、かかる規定の整備に伴い、収益の計上時期に係る規定(法人税法22条の2第1項等)の改正にも着手したにすぎないという見方が成り立ちうる(本連載第17回参照)。
- さらにいえば、平成30年度税制改正の立案担当者は引渡・役務提供基準を原則とすることで、従来の「実現」や権利の「確定」といった考え方とも整合性がとれると考えていた(藤田泰弘ほか「法人税法等の改正」『平成30年度 税制改正の解説』271頁参照)。
法人税法22条の2第1項の役務提供基準についても権利確定主義の文脈で解釈される可能性もあろう。今後、裁判所が引渡基準・役務提供基準と権利確定主義との関係について、どのような判断を示すのかが注目される。
なお、権利確定主義というネーミングの使用を続けるかどうかという議論もありうる。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
(例)法法22③一・・・法人税法22条3項1号
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。