収益認識会計基準と
法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究
【第32回】
千葉商科大学商経学部准教授
泉 絢也
(3) 法人税法22条の2第3項の適用要件
法人税法22条の2第3項は、資産の販売等を行った場合において、次の❶及び❷の要件を満たさないと適用されない。
❶ その資産の販売等に係る法人税法22条の2第2項に規定する近接する日の属する事業年度の確定申告書に、その資産の販売等に係る収益の額の益金算入に関する申告の記載があること
❷ その資産の販売等に係る収益の額につき、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、法人税法22条の2第1項の目的物の引渡日又は役務提供日、あるいは2項の近接日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合に該当しないこと
❶からすれば、引渡・役務提供基準という原則的なルールとは異なる収益計上基準を採用しようとする場合に、法人税法22条の2第3項をもってしても、2項に規定する近接日以外の日の属する事業年度に益金算入できるわけではないことは明らかである。
いかに、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った処理(従前から認められてきた会計処理)であっても、目的物の引渡日又は役務の提供日との時間的近接性が認められなければ、法人税法上はその採用が認められないということになる。
この意味で、法人税法22条の2第3項は、2項と同様に、引渡・役務提供基準から離れた会計処理を行う場面を想定する場合に、引渡・役務提供基準との関係において“限定された柔軟さ”を体現する規定であるといえよう(本連載第21回参照)。
また、法人税法22条の2第3項を適用する場合の申告調整は、当初申告における申告調整に限られる。修正申告書において初めて、近接日基準に基づく申告調整を行ったとしても、法人税法22条の2第3項の適用はない。
確定申告書とは、法人税法「第74条第1項(確定申告)又は第144条の6第1項若しくは第2項(確定申告)の規定による申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)」を指すからである(法人税法2三十一・三十六)。
❷について、法人税法22の2第1項を適用する場合に、公正処理基準に従っているとはいえない場合があるのか、明らかではない(無償取引については検討の余地があろうか)。
そもそも法人税法22条の2第1項は、2項と異なり、少なくとも明示的には公正処理基準に従うことを求めていない。そうすると、わざわざ3項括弧書きで、「第1項に規定する日・・・の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」という部分についても、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」という限定的な語を付加したことの意味はどこにあるのであろうか。
さらにいえば、法人税法22条の2第3項の括弧書き(上記❷の部分,以下の(※)の部分)において、法人税法22条の2「第1項に規定する日」という部分はその後の「の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」につながっている。
法人税法22条の2第1項は、確定決算により引渡・役務提供基準に基づく収益計上を行うことまでは求めていない。そうであるにもかかわらず、わざわざ3項で、「第1項に規定する日」「の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」としたことの意味を検討する必要もありそうである。
すなわち、法人税法22条の2第1項は、引渡・役務提供基準の適用に際し、少なくとも形式上、法人税法22条の2第2項が定める公正処理基準準拠要件や確定決算収益経理要件を課していない。法人税法22条の2第1項は、2項のような確定決算収益経理要件を課していないため、3項のような申告調整の規定も用意されていない(本連載第14回参照)。
もう少し考えてみよう。
法人税法22条の2第1項に規定する引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益経理した場合には、第3項の適用はないことになるが、それは、引渡日又は役務提供日の属する事業年度の「確定した決算において」収益として経理した場合に限られる。
他方、引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益の額を益金算入すること自体は、申告調整によっても認められるはずである。第1項は、確定決算による経理を求めていないからである。
もっとも、申告調整によって引渡日又は役務提供日の属する事業年度で益金算入している場合には、法人税法22条の2第3項を適用する場合から除かれる「当該資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って第1項に規定する日・・・の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」には該当しないものの、結局は、法人税法22条の2第3項の適用はないと考えるべきか。申告調整が競合した場合の規定の優先順位はどのようになるのか。
この点は、いくつかのパターンに分けてシミュレーションする余地が残されている。
例えば、引渡日又は役務提供日において、確定決算で収益計上せずに、法人税法22条の2第1項に基づき、申告調整により益金算入していた(又はしようとする)場合において、その引渡日又は役務提供日より後(又は前)の近接日において3項を適用しようとする(又はしていた)ときは、いずれの規定が優先されるのであろうか。2項や3項を1項の「別段の定め」としてこれらの規定が1項に優先すると整理すべきであろうか。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
(例)法法22③一・・・法人税法22条3項1号
(了)
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