ストーリーで学ぶ
IFRS入門
【第9話】
「減損会計は減損後の戻入れに注意!?」
仰星監査法人
公認会計士 関根 智美
● ○ プロローグ ○ ●
「ん?・・・これ、どういう意味だ?」
桜井は、早朝の静かなオフィスで、エクセルの表とにらめっこをしていた。
桜井は東証一部上場の製造会社の経理部に勤めている。入社3年目となり、一通り業務にも慣れてきた・・・と思っていたのだが、今回閉鎖予定の工場の減損処理に頭を悩ませていた。
桜井の会社では、来期工場を新設するにあたり、老朽化の進んだ工場を閉鎖する予定だ。その閉鎖予定の工場に係る減損を第2四半期決算で計上することになったのだ。もちろん、減損の会計処理は固定資産担当の桜井がしなければならない。
上司から数年前に実施した減損のエクセルファイルをもらい、ファイルの指示通り数値を埋めたのだが、自分が何をしているのかさっぱり理解できない。そこで、集中できる早朝に腰を据えて減損ファイルに取り掛かっているのだった。
桜井は本とPCの画面とを交互に見比べて、一つ一つのセルの内容を確認していく。しばらくして、「あ、なるほど。そういうことだったのか!」と桜井が呟いた時―
「お、やっぱり頑張ってるな。」
と、桜井の背後から藤原がPC画面を覗き込んでいた。
「わっ!お、おはようございます。今朝は早いですね。」
桜井は突然の藤原の出現に驚いて、思わず本を机から落としてしまった。藤原は、大きな体のわりに敏捷な動きで床に落ちる寸前の本をキャッチすると、「ほらよ。」と、桜井に手渡した。
「倉田課長がさ、桜井が減損でてこずっているみたいだって言ってたからさ。」
「え!もしかして手伝ってくれるんですか!?」
藤原の言葉を聞いて、桜井の顔が一瞬明るくなった。
「んなわけないだろ。」と呆れた口調で言いつつも、藤原は桜井の作ったファイルをざっと確認する。ファイルに目を通しながら、藤原は言った。
「お前のことだから、今日あたり減損会計の勉強をしていると予想したってわけだ。ついでにIFRSの減損会計を教えてやろうと思ってな。」
藤原は桜井の元教育係だったこともあり、何かと桜井の面倒を見てくれる頼りがいのある先輩だ。2人が勤める会社が今期IFRSを任意適用する方針を決めたことをきっかけに、桜井は藤原からIFRSについても教えてもらっていた。
「IFRSの減損会計ですか?やっと日本基準の方も分かってきたばかりなのに・・・」
「鉄は熱いうちに打てって言うだろ?今なら日本基準も頭に入っているから、一緒に覚えたほうが効率的じゃないか。」
情けない顔をした桜井に、藤原はニヤリと笑った。
「それに、お前、最近IFRSの勉強が疎かになっているだろう?」
「うっ・・・」
痛い所を突かれてしまった桜井は、言葉に詰まった。「目の前の仕事に追われていて・・・」と言い返そうにも、言い訳になってしまうことは自覚している。
「そういうことだ。さ、仕事のキリも良さそうだし、IFRS勉強会だ。」
藤原がそう言ったということは、エクセルシートの数値に問題はないらしい。桜井は秘かに安堵した。
隣の席で喜々と準備をする藤原に従い、桜井も一旦作業中の資料を脇に退けてIFRS勉強用のノートを取り出すことにした。
● ○ IFRSにおける減損会計 ○ ●
藤原はいつものように「コホン」と咳払いをして先生モードになると、事前に準備していた用紙を桜井に手渡した。
「さて、IFRSの減損会計については、IAS第36号に規定されている。このIAS第36号は、資産の帳簿価額が使用又は売却による回収可能価額を上回っている場合、資産は減損(impairment)しているものと考え、減損損失を認識することを要求している基準だ。」
藤原は説明しながら、イメージ図を簡単に描いて桜井に見せた。
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