公開日: 2016/11/02 (掲載号:No.192)
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ストーリーで学ぶIFRS入門 【第10話】「リース会計は借手の会計処理に注目!」

筆者: 関根 智美

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第10話】

「リース会計は借手の会計処理に注目!」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

連載の目次はこちら

● ○ プロローグ ○ ●

―藤原くん、

じゃ、リース勉強会の件は、よろしく。

倉田―

 

珍しく朝一番にオフィスに来た藤原は、経理課長の倉田からのメールを見た瞬間、盛大なため息をついた。

藤原は、東証一部に上場している中堅規模のメーカーに勤めている。経理部に配属されてからあっという間に5年。今では頼りにされるようになり、このたび導入することが決まったIFRSのプロジェクトメンバーの一員にもなった。・・・とは言っても、人員にゆとりがある大企業とは違い、皆自分の仕事を抱えながらの作業である。自然と、プロジェクトに関わる雑用は一番下端の藤原に回ってきていた。

「『よろしく』のたった4文字にどれだけの仕事が含まれているのか、分かって言ってんのかなー」

講義内容の決定、資料作り、メンバーの日程調整、更には会議室の予約・・・。それとは別に日常の仕事もこなさなければならない。メールの返信を打ちながら、藤原は倉田の顔を思い浮かべた。想像の中の倉田は、相変わらず仮面のような笑顔を浮かべている。

「・・・。いや、やっぱ分かって言っているな、コレは。」

藤原は、思わず本人の前では決してできない悪態をついた。

ひと通りメールチェックを終えると、藤原はおもむろに分厚い本を取り出した。IFRSの基準書である。9月出版された2016年版は、使うメンバーも限られているため、まだ真新しい。

「まずは内容を決めて、資料作りだな。よし!」

藤原は気合いを入れ、作業に取り掛かることにした。深夜とは違った静かなオフィスの中で、キーボードを打つ音と時折ページを捲る音が響く。最近残業が当たり前になっている藤原にとっては、早朝の静けさは新鮮で、自然と作業も順調にはかどっていた。

「うわっ。分厚い本ですね~」
突然背後から声をかけられてビックリした藤原が振り向くと、桜井が背後に立っていた。なるほど、これは心臓に悪い。いきなり背後から声をかけるのは今後控えよう、と藤原は秘かに反省した。

桜井は、藤原の2年後輩だ。桜井が新人のころから何かとコンビを組まされることが多いため、藤原としては結構可愛がっているつもりである。事実、藤原は桜井がIFRS導入プロジェクトチームのメンバーでないにもかかわらず、桜井の今後のためにIFRSを教えていた。と言っても、当の本人は最近IFRSの勉強に対する熱意が欠けてきているのだが・・・。

今だって、「IFRS基準書って大きいですねー」と暢気に本の中身ではなく外見の感想を述べている。唯一の救いは藤原が教えれば熱心に聞くという点だが、それも裏を返せば積極性に欠けるということだ。

藤原としても、桜井の気持ちが理解できないわけではない。プロジェクトメンバーでもない桜井がIFRSに本気で取り組むにはモチベーションに欠けるし、最近は自分の業務に追われているようだ。しかし、そろそろ本気になってもらわないとこちらも困る。藤原は知らず知らずのうちにため息をついた。

「どうしたんですか?」
桜井は藤原の隣の席に着きながら、心配そうに尋ねてきた。

「いや。まぁ、ちょっとな。この資料にてこずっているだけだ。」
藤原は、さすがに目の前の本人が原因だとは言えず、適当にごまかすことにした。

「えーと、『新リース基準の影響』ですか?」
桜井は藤原のPCを覗き込み、タイトルを読み上げた。

 

● ○ 新しいリース会計基準IFRS第16号「リース」 ○ ●

「あ、そう言えば今年に入って新しいリース基準が公表されたんですよね?雑誌で見かけた記憶があります。」
桜井は顎に手を当てて、天井を見上げながら言った。

「ああ。今年の1月にIFRS第16号『リース』が公表されたんだ。この資料は今度の勉強会用のものなんだよ。」

「そんな勉強会なんてありましたっけ?・・・あ!IFRSプロジェクトチーム内の勉強会ってことですか?」

「そうなんだ。ほら、正式にIFRSを導入すると決まったのが7月だろう?今までバタバタでさ。皆、新しいリース基準に関する概要は何となく押さえているんだが、きちんと基準を理解しているメンバーが少ないんだ。」

「なるほど、それでですか。で、誰が教えるんですか?」

「・・・。俺に決まった。」
倉田課長の「よろしく」の一言で。藤原は今朝のメールを思い浮かべながら心の中で付け加えた。

「へぇー!先輩なら適任ですね!」
事情の知らない桜井は、屈託のない笑顔を藤原に向けた。藤原はそれを眩しく感じながら、「ありがとう。」と憮然として答えた。

 

IFRS第16号の適用は2019年1月1日以降開始する事業年度から

「先輩、今年公表したってことは、まだ適用するまでには間があるんですよね?」

「ああ。IFRS第16号は、2019年1月1日以降開始する事業年度から適用されることになる。3月決算会社の場合だと2020年3月期からだな。それまでは、IAS第17号『リース』が適用されることになる。」
藤原の言葉に桜井は相槌を打ちながら言った。

「へぇ。では、2年以上は準備期間があるわけですね。」

「ああ。もちろん、早期適用も認められている。その場合は、IFRS第15号『顧客との契約から生じる収益』を適用している必要があるけどな。」

「早期適用の場合は、IFRS第15号とセットで適用する必要があるんですね。」

「そういうことだ。」

 

現行のIAS第17号と日本基準は重要な部分は類似している

「あの、さっきの資料のタイトルに『影響』ってありましたけど、このIFRS第16号で何が変わったんでしょうか?」
藤原は、よくぞ聞いてくれました、とばかり腕を組んで「コホン」と咳払いした。さっきまで資料作りをしていたので、この辺りはしっかり勉強したところだ。

「まぁ、慌てるな。まず、今適用されているIAS第17号は日本基準と重要な点では類似している、ということを知っておく必要がある。」

「類似、というと、リース取引をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに区別して、それぞれの方法で会計処理をするってことですか?」

「ああ。ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの会計処理についても、基本的な部分は類似しているんだ。」
「そうなんですか!」と、桜井は安心した表情を見せたが、しばらくしてハッと気づいたようだ。

「・・・と言うことは、新しいリース基準は日本基準とは違うってことですか?」

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「リース会計は借手の会計処理に注目!」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

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● ○ プロローグ ○ ●

―藤原くん、

じゃ、リース勉強会の件は、よろしく。

倉田―

 

珍しく朝一番にオフィスに来た藤原は、経理課長の倉田からのメールを見た瞬間、盛大なため息をついた。

藤原は、東証一部に上場している中堅規模のメーカーに勤めている。経理部に配属されてからあっという間に5年。今では頼りにされるようになり、このたび導入することが決まったIFRSのプロジェクトメンバーの一員にもなった。・・・とは言っても、人員にゆとりがある大企業とは違い、皆自分の仕事を抱えながらの作業である。自然と、プロジェクトに関わる雑用は一番下端の藤原に回ってきていた。

「『よろしく』のたった4文字にどれだけの仕事が含まれているのか、分かって言ってんのかなー」

講義内容の決定、資料作り、メンバーの日程調整、更には会議室の予約・・・。それとは別に日常の仕事もこなさなければならない。メールの返信を打ちながら、藤原は倉田の顔を思い浮かべた。想像の中の倉田は、相変わらず仮面のような笑顔を浮かべている。

「・・・。いや、やっぱ分かって言っているな、コレは。」

藤原は、思わず本人の前では決してできない悪態をついた。

ひと通りメールチェックを終えると、藤原はおもむろに分厚い本を取り出した。IFRSの基準書である。9月出版された2016年版は、使うメンバーも限られているため、まだ真新しい。

「まずは内容を決めて、資料作りだな。よし!」

藤原は気合いを入れ、作業に取り掛かることにした。深夜とは違った静かなオフィスの中で、キーボードを打つ音と時折ページを捲る音が響く。最近残業が当たり前になっている藤原にとっては、早朝の静けさは新鮮で、自然と作業も順調にはかどっていた。

「うわっ。分厚い本ですね~」
突然背後から声をかけられてビックリした藤原が振り向くと、桜井が背後に立っていた。なるほど、これは心臓に悪い。いきなり背後から声をかけるのは今後控えよう、と藤原は秘かに反省した。

桜井は、藤原の2年後輩だ。桜井が新人のころから何かとコンビを組まされることが多いため、藤原としては結構可愛がっているつもりである。事実、藤原は桜井がIFRS導入プロジェクトチームのメンバーでないにもかかわらず、桜井の今後のためにIFRSを教えていた。と言っても、当の本人は最近IFRSの勉強に対する熱意が欠けてきているのだが・・・。

今だって、「IFRS基準書って大きいですねー」と暢気に本の中身ではなく外見の感想を述べている。唯一の救いは藤原が教えれば熱心に聞くという点だが、それも裏を返せば積極性に欠けるということだ。

藤原としても、桜井の気持ちが理解できないわけではない。プロジェクトメンバーでもない桜井がIFRSに本気で取り組むにはモチベーションに欠けるし、最近は自分の業務に追われているようだ。しかし、そろそろ本気になってもらわないとこちらも困る。藤原は知らず知らずのうちにため息をついた。

「どうしたんですか?」
桜井は藤原の隣の席に着きながら、心配そうに尋ねてきた。

「いや。まぁ、ちょっとな。この資料にてこずっているだけだ。」
藤原は、さすがに目の前の本人が原因だとは言えず、適当にごまかすことにした。

「えーと、『新リース基準の影響』ですか?」
桜井は藤原のPCを覗き込み、タイトルを読み上げた。

 

● ○ 新しいリース会計基準IFRS第16号「リース」 ○ ●

「あ、そう言えば今年に入って新しいリース基準が公表されたんですよね?雑誌で見かけた記憶があります。」
桜井は顎に手を当てて、天井を見上げながら言った。

「ああ。今年の1月にIFRS第16号『リース』が公表されたんだ。この資料は今度の勉強会用のものなんだよ。」

「そんな勉強会なんてありましたっけ?・・・あ!IFRSプロジェクトチーム内の勉強会ってことですか?」

「そうなんだ。ほら、正式にIFRSを導入すると決まったのが7月だろう?今までバタバタでさ。皆、新しいリース基準に関する概要は何となく押さえているんだが、きちんと基準を理解しているメンバーが少ないんだ。」

「なるほど、それでですか。で、誰が教えるんですか?」

「・・・。俺に決まった。」
倉田課長の「よろしく」の一言で。藤原は今朝のメールを思い浮かべながら心の中で付け加えた。

「へぇー!先輩なら適任ですね!」
事情の知らない桜井は、屈託のない笑顔を藤原に向けた。藤原はそれを眩しく感じながら、「ありがとう。」と憮然として答えた。

 

IFRS第16号の適用は2019年1月1日以降開始する事業年度から

「先輩、今年公表したってことは、まだ適用するまでには間があるんですよね?」

「ああ。IFRS第16号は、2019年1月1日以降開始する事業年度から適用されることになる。3月決算会社の場合だと2020年3月期からだな。それまでは、IAS第17号『リース』が適用されることになる。」
藤原の言葉に桜井は相槌を打ちながら言った。

「へぇ。では、2年以上は準備期間があるわけですね。」

「ああ。もちろん、早期適用も認められている。その場合は、IFRS第15号『顧客との契約から生じる収益』を適用している必要があるけどな。」

「早期適用の場合は、IFRS第15号とセットで適用する必要があるんですね。」

「そういうことだ。」

 

現行のIAS第17号と日本基準は重要な部分は類似している

「あの、さっきの資料のタイトルに『影響』ってありましたけど、このIFRS第16号で何が変わったんでしょうか?」
藤原は、よくぞ聞いてくれました、とばかり腕を組んで「コホン」と咳払いした。さっきまで資料作りをしていたので、この辺りはしっかり勉強したところだ。

「まぁ、慌てるな。まず、今適用されているIAS第17号は日本基準と重要な点では類似している、ということを知っておく必要がある。」

「類似、というと、リース取引をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに区別して、それぞれの方法で会計処理をするってことですか?」

「ああ。ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの会計処理についても、基本的な部分は類似しているんだ。」
「そうなんですか!」と、桜井は安心した表情を見せたが、しばらくしてハッと気づいたようだ。

「・・・と言うことは、新しいリース基準は日本基準とは違うってことですか?」

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関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

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