ストーリーで学ぶ
IFRS入門
【第14話】
「棚卸資産(IAS第2号)は論点が分かりやすい」
仰星監査法人
公認会計士 関根 智美
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● ○ プロローグ ○ ●
3月も中旬を過ぎると、経理部内の空気が変わる。
ピリピリしていて、でも少しわくわくするような、まるでお祭り前の雰囲気に似ているな、と桜井はいつも感じていた。この空気の変化は、待ち遠しい春が近づいているからではなく、年度決算という大仕事が来月に控えているためだ。
桜井は経理部と財務部一同が集まったミーティングに出席していた。決算日程や担当割当を確認するためだ。もうすぐ入社してから丸三年になる桜井も、この時期独特の雰囲気に慣れてきた。小一時間ほど、情報共有や作業の確認を終えると、各々自席へ戻るため席を立った。
「あの、すみません、桜井さん。」
会議室から立ち去ろうとした桜井を後輩の山口が呼び止めた。
桜井が振り返ると、山口は少しおどおどした表情を浮かべている。去年の春に入社した山口にとって、今回が実質的に初めての決算だ。桜井には山口の緊張が手に取るように分かった。
「どうしたの?」と、桜井は努めて優しく尋ねた。
「すみません。ちょっと作業内容で分からないところがありまして・・・」
山口は申し訳なさそうな顔をして、ミーティング資料の該当箇所を桜井に見せた。
「ああ、ここね。僕が去年やったんだけど、ちょっと意味が分かりづらいよね。そこはね―。」
桜井が山口に一通り説明を終えた後も、山口の表情は晴れなかった。
「大丈夫?なんだか顔色が良くないようだけど。」
「すみません、何だか不安なんです。数年後にはウチの会社も日本基準からIFRSに変わるんですよね。日本基準でも一杯一杯なのに、やっていけるのかなって・・・」
2人の勤める会社は規模こそ大きくないものの、東証一部に上場しているメーカーだ。昨今のIFRS導入の流れに乗り遅れないために、数年以内にIFRSを導入する予定なのだ。
桜井は思わず笑った。山口はビックリして頭を上げた。
「ごめん、ごめん。決して馬鹿にしているわけじゃなくて、僕と同じ気持ちの人間がいて安心したんだ。」
「桜井さんもですか?」と、意外そうな表情をして山口が訊いた。
「でも、桜井さんは藤原さんからIFRSを教えてもらっていますよね?だったら、大丈夫じゃないんですか?」
そこで、桜井は気まずそうに頭を掻いた。
「いや、僕があまり積極的に勉強しないから、藤原先輩を怒らせちゃったんだ。」
それを聞いた山口は、神妙な顔で頷いた。どう反応していいか分からなかったためだろう。
「今思えば、僕が先輩に甘えすぎていたんだよね。自分から勉強しなくても、先輩が率先して勉強する時間を作ってくれたから。」
「藤原さんって優しいですもんね。」
山口の的を射た言葉に桜井は苦笑して頷いた。
「うん。だから甘えすぎないように、最近は自分でも自主的に勉強しているんだ。」
「そうなんですか。」と相槌を打つと、山口はしばらく黙り込んでから再び口を開いた。
「あの・・・もし良かったら僕にIFRSを教えてもらえないでしょうか。」
「ええっ!?」
突然の山口の依頼に桜井は驚いて声を上げた。
「僕でも分かるところなら教えられるとは思うけど・・・」と自信無げに付け加える。
「では、棚卸資産はどうでしょうか?今度の決算で担当することになったので、IFRSが導入された後、どんなふうに会計処理することになるのか、知りたいです。」
「ああ、そう。えーと・・・棚卸資産なら、大丈夫だよ。」
桜井は内心ホッとした。
「簡単な論点から勉強しているんだ。」と、桜井はニヤリと付け足した。
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