原価算定方式
- 棚卸資産の定義
- 原価の構成要素と測定技法
- 原価算定方式
- 棚卸資産の評価
- 費用認識
- 開示
山口は再び目次のページに戻って、次の項目のタイトルを確認した。
「次は、原価算定方式ですね。これも何か難しそうに聞こえるんですけど・・・」
桜井は思わず笑った。
「大丈夫だよ。個別法とか、先入先出法とか、聞いたことあるでしょ?」
「あ、そのことですか。はい。分かります。」
山口は再び安心した表情を浮かべて答えた。
◆ IFRSで認められる原価算定方式は、個別法、先入先出法、加重平均法のみ
「まず、代替性がなく特定のプロジェクトのために製造され、区分されている財又はサービスでは個別法(specific identification)を用いるんだ。」
「はい。」と、山口は相槌を打った。
「そして、前述の財又はサービス以外の棚卸資産の原価は、先入先出法(first-in, first-out (FIFO))又は加重平均法(weighted average)を用いて割り振らなければならないんだ。」
「へぇ。後入先出法はダメなんですね。」
「うん。そこは日本基準と同じだね。それから最終仕入原価法もIFRSでは認められた原価算定方式じゃないんだ。」
「そうなんですか?確か、ウチの会社も貯蔵品は最終仕入原価法を使っていますよね・・・?」
山口は、記憶に自信がないのか弱々しく確認した。
「うん。だからIFRS導入の際には、他の原価算定方式に変更する必要が出てくると思うんだ。」
◆性質及び使用方法が類似する棚卸資産の原価算定方式は統一させる
山口がメモを取り終えると、桜井は再び説明を続けた。
「それから、企業にとって性質及び使用方法が類似する全ての棚卸資産については、同じ原価算定方式を使用しなければならないんだ。」
「すみません。それって当たり前のことに聞こえるんですが・・・」
山口が首を傾げて尋ねた。
「そうだね。これはね、性質及び使用方法が類似する棚卸資産を、日本では先入先出法で算定して、米国では加重平均法を用いて算定するといったことはできないということを指しているんだ。」
「なるほど。性質及び使用方法が類似の棚卸資産にもかかわらず、それぞれの国で違った算定方式が採られるのはおかしいですね。分かりました。」
山口は納得して頷いた。
棚卸資産の評価と費用認識
- 棚卸資産の定義
- 原価の構成要素と測定技法
- 原価算定方式
- 棚卸資産の評価
- 費用認識
- 開示
「では、次のページに移るよ。」
「えーと、次は『棚卸資産の評価』ですね。」
山口は資料を捲って、目次を読み上げた。
◆棚卸資産は『原価』と『正味実現可能価額』とのいずれか低い価額で評価
「うん。まずは棚卸資産の評価についてだけど、ここは日本基準と大きな違いはないよ。」
それを聞いた山口はほっとした表情を浮かべた。
「棚卸資産は『原価』と『正味実現可能価額(net realisable value) 』とのいずれか低い価額で測定しなければならないんだ。この方法は、資産はそれを販売又は利用することで実現すると見込まれる額を超えて評価すべきではない、という考えと整合しているんだよ。」
「へぇ。『原価』は先ほど桜井さんが教えてくれたものですね。えーと、購入原価と加工費、その他コストの合計ですよね。」
山口は資料を遡って、構成要素を再び確認した。
「そうだね。」と桜井は頷く。
「『正味実現可能価額』の方は聞いたことはあるんですけど・・・。すみません。」
山口が不安そうな顔を見せて言った。
◆『正味実現可能価額』の構成要素
「え、えーと、『正味実現可能価額』とは―」
定義がぱっと思い浮かばず、桜井は慌てて資料から定義を探し出した。
「しょ、『正味実現可能価額』とは、通常の事業の過程における見積売価から、完成までに要する原価の見積額及び販売に要するコストの見積額を控除した額のことだよ。」
「では、『原価の構成要素』のように式で表すと、こんなふうになるんですか?」
そう言うと、山口は資料の余白に式を書き始めた。
【正味実現可能価額の構成要素】
「その通りだよ。」
「確か、日本基準でも棚卸資産の正味売却価額が取得原価よりも下回っていたら、正味売却価額を貸借対照表価額とするんでしたよね。なるほど、日本基準とIFRSで大きな違いはないですね。」
山口は桜井を見ながら確認した。
「そうだね。もちろん、日本基準と違う部分もあるんだよ。」
「え、そうなんですか?」
桜井は少し得意気に言った。
◆正味実現可能価額が回復した場合、棚卸資産の評価減の戻入れを行う
「まず、日本基準だと評価替方法には、洗替法と切放法があるよね?」
「はい。継続適用を条件として、どちらかを選択適用することができるんですよね。」
この話がどうIFRSにつながっていくか分からない山口は、首を傾げて聞いていた。
「IFRSでは、『正味実現可能価額』がその後増加したという明確な証拠がある場合には、当初の評価減の金額を限度に戻入れを行うことになるんだ。そして、棚卸資産を『原価』と、改定した『正味実現可能価額』とのいずれか低い金額で評価することになるんだよ。」
桜井はホワイトボードに図を描きながら説明した。
「IFRSでは、『正味実現可能価額』まで評価減した後も、新しい『正味実現可能価額』と『原価』とを比較する必要があるんですね。」
「そうなんだ。日本基準では切放法を選択適用していた場合、評価減の戻入れはしないよね。」
そこで、山口はポンと手を打って言った。
「なるほど。切放法を採用していた場合、日本基準とIFRSとの間で違いが出てくるんですね。」
棚卸資産の費用認識
- 棚卸資産の定義
- 原価の構成要素と測定技法
- 原価算定方式
- 棚卸資産の評価
- 費用認識
- 開示
「棚卸資産の費用認識については、わざわざ説明するまでもないよね。」
桜井は頭を掻きながら呟いた。
「でも、確認のために簡単に説明していただけると助かります。」
生真面目な性格の山口は一通り確認したいようだったので、桜井も頷いて説明することにした。
◆棚卸資産は関連する収益に対応する期間に費用認識
「まず、棚卸資産の販売時に、その棚卸資産の帳簿価額を関連する収益に対応する期間に費用として認識することになるんだ。ここは大丈夫だね?」
「はい。収益と対応させて費用計上するんですね。」
◆棚卸資産に係る評価減や損失も発生した期間に費用認識
「それから、正味実現可能価額への評価減の額や棚卸資産に係る全ての損失は、発生した期間の費用とするんだ。」
山口は黙って頷いた。
◆評価減の戻入れは棚卸資産の費用の減額として認識
「そして、再調達価額が上昇したことにより戻入れを行った場合は、当該戻入額を、戻入れを行った期間に費用として認識した棚卸資産の金額の減額として認識するんだ。」
「なるほど。戻入れについては、さっき教えてもらったところですね。戻入額は費用のマイナスになるんですね。」
「そうだよ。この3点が分かっていればひとまず問題ないよ。」
「分かりました。」と、山口も納得した様子で頷いた。
開示
- 棚卸資産の定義
- 原価の構成要素と測定技法
- 原価算定方式
- 棚卸資産の評価
- 費用認識
- 開示
「後は開示だけですね。」
「そうだね。棚卸資産に関する主な開示はざっとこんなものだよ。」
そう言うと、桜井は資料の最後のページにまとめた表を山口に見せた。
【棚卸資産 開示事項一覧】
〇 棚卸資産の測定にあたって採用した会計方針(原価算定方式も含む)
〇 棚卸資産の帳簿価額の合計金額及びその企業に適した分類ごとの帳簿価額
〇 売却コスト控除後の公正価値で計上した棚卸資産
〇 期中に費用として認識した棚卸資産の額
〇 期中に認識した棚卸資産の評価減の金額
〇 棚卸資産の評価減の戻入額とその原因となった状況及び事象
〇 負債の担保として差し入れた棚卸資産の帳簿価額
「あれ、この黄色いマーカーが塗ってある項目はどういう意味ですか?」
山口は、3つの項目を指差しながら桜井に尋ねた。
「ああ。このマーカーにある、
〇 期中に費用として認識した棚卸資産の額
〇 棚卸資産の評価減の戻入額とその原因となった状況及び事象
の2つは、日本基準では開示されない項目なんだ。」
「なるほど、だから分かりやすくするためにマーカーを引いていたんですね。」
山口はポンと手を打って言った。
「うん。こうしておくと、IFRS導入後に追加される開示項目が分かりやすいからね。」
「IFRSが開示項目が多いと聞いていましたけど、棚卸資産に関しては追加の開示項目はこの2つで済むんですね。」
山口の言葉に桜井は頷いた。