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事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第8回】「買収先による法令違反-インターネット会社によるキュレーション事業の停止」

筆者:原 正雄

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事例で検証する

最新コンプライアンス問題

【第8回】

「買収先による法令違反
-インターネット会社によるキュレーション事業の停止」

 

弁護士 原 正雄

 

1 本件の概要

D社は、1999年にインターネットオークションを行う会社として創業し、以後、ゲームを主力事業として、様々なインターネットサービスを展開している企業である。

D社の事業の一つに、キュレーション事業があった(以下「本件キュレーション事業」という)。D社は、本件キュレーション事業として、「MERY」、「iemo」、「WELQ」など、合計10サイトを展開していた(以下「本件サイト」という)。

「キュレーション」とは、インターネット上のコンテンツを特定のテーマなどに沿って読みやすく編集し、共有ないし公開することをいう。明確な定義はないが、ときには「まとめサイト」と呼ばれることもある。

そうしたところ、2016年秋ころから、D社に対して、本件サイトに根拠がない医療情報を掲載しているのではないか、という指摘が多数寄せられるようになった。また、本件サイトの記事が第三者の著作権を侵害しているのではないか、との指摘も多数寄せられた。

D社は、2016年11月29日から同年12月5日にかけて順番に、10のサイト全てを非公開化した。そのうえで、本件問題の調査のため、第三者委員会を設置した。約3ヶ月後の2017年3月13日、第三者委員会は、調査報告書を公表した。

 

2 問題の所在

本件では、法的には、以下の点が懸念されていた。

① 著作権を侵害する記事

第三者が著作権を有する文章や画像が、当該第三者に無断で、本件サイトの記事に挿入されていたのではないか。

② 医療関係法令に違反する記事

本件サイトに掲載された美容、健康、医療に関する記事には、根拠がないものや不正確なものが多数あるのではないか。そうだとすれば、医薬品医療機器等法、医療法、健康増進法に違反するのではないか。

③ D社による記事の作成

D社は、本件サイトをプラットフォームとして位置付けようとしていた。プラットフォームとは、サービス提供者とサービス利用者の間を仲介する基盤のことである。本件キュレーション事業において、D社は単に本件サイトを運営するだけで、そのサイト上で、投稿者が記事を投稿し、読者が記事を読むということであれば、プラットフォームに該当する。
しかし、D社は、かなりの部分で、自ら記事を作成し、または外部者に委託して記事を作成させていた。その場合、D社は、上記の著作権を侵害する記事や、医療関係法令に違反する記事について、直接に責任を負うのではないか。

 

第三者委員会の調査の結果、上記3点の懸念は、全て現実の問題として妥当することが明らかとなった。

 

3 問題が生じた理由

上記3点の問題は、以下の理由から発生したものと考える。

(1) 買収過程における法務DDの軽視

全部で10ある本件サイトのうち、「iemo」、「Find Travel」、「MERY」の3サイトは、買収によって開始したものである。D社は、他社を買収することで、本件キュレーション事業を開始した。

2014年9月18日、D社は、最初のキュレーション事業会社の買収として、ベンチャー企業であるI社を買収した。社長が既に買収の決意を固めていたため、社内では、買収の是非そのものが問題にされることはなかった。

買収の過程で実施した法務デューディリジェンスでは、画像に関する著作権侵害の可能性が指摘されていた。戦略投資推進室の担当者からも、著作権侵害について懸念が示されていた。しかし、最終的には、一応の手立てを講じれば足りるとして、深く検討するには至らなかったようである。その後、D社は、さらにキュレーション事業を行う会社を複数買収した。その際にも、著作権侵害のリスクは指摘されたが、同様に、深く検討するには至らなかった。

第三者委員会は、買収をしたこと自体に関して「特段の問題があったとは認められない」としている。が、他方において「著作権法違反のリスクを完全に払拭できなくとも、(一応の手立てを講じることで)少なくとも『黒』ではない状態になれば、事業に乗り出してよいという判断をした」と指摘している。

近年、買収における法務リスクの重大性は、さらに注目されるようになっている。大規模な簿外債務が発覚した電機メーカーにおいても、デューディリジェンスやその結果の評価が十分であったのかが一つの問題となっている。

こうしたことについて問題提起するのは、法務部など管理部門の役割である。場合によっては、買収そのものにストップをかけなければならない場合もある。社長肝入りの買収事案であったとしても、こうした役割を自覚のうえで、法務デューディリジェンスに臨まなくてはならない。

(2) 買収後、法務DDの結果を活用しなかったこと

D社は、本件キュレーション事業を大きく展開した。しかし、D社では、買収の際に一応の手立てを講じたと考えていた。そのため、著作権侵害の懸念を払拭するための積極的な施策をとることはなかった。

せっかく、法務デューディリジェンスで事業上のリスクがあるとの指摘を受けたにもかかわらず、D社は、その指摘を活かすことができなかった。同様に、自社独自に立ち上げたサイトについても、買収の際の法務デューディリジェンスで学んだことを反映しなかった。

法務デューディリジェンスは、買収が完了したら終わり、ではない。買収が完了したからこそ、買収後の統合プロセスであるポスト・マージャー・インテグレーションにおいて、法務デューディリジェンスで指摘されたリスクを重く受け止め、継続的に改善し続けなければならないのである。

(3) 現場マニュアルのリスク

D社では、安定的で一定の質が確保された記事を作成してもらうため、各サイトを運営する現場それぞれで、記事の執筆者向けのマニュアルが独自に作られていた。現場は、技術的な内容ばかりであると考え、法務部への内容確認の依頼をしなかった。法務部としても、マニュアルが正式な規程類に含まれるとは整理していなかったとのことである。そのため、法務部が網羅的にマニュアルをチェックすることはしていなかった。

しかし、実際には、こうしたマニュアルには、文章の「コピペ」を推奨するかのような記載も含まれていた。コピペとは、コピー&ペーストの略語で、文章をコピーし、別の場所に複製して貼り付ける(ペーストする)という行為のことである。

こうした現場マニュアルは、極めて危険である。法務部などの本部の監修を経ないで作られた現場マニュアルは、不適切な記載が紛れ込むリスクが高い。万一、不適切な記載が紛れ込んでしまった場合、マニュアルが守られることで、その不適切な記載に基づく問題行動が多数発生する。そして、その後、問題行動が止むことはなく、拡大し続けることになってしまうからである(中島茂『最強のリスク管理』(きんざい、2013年))。

実際、不適切な現場マニュアルが原因で重大事故に至った実例は多い。例えば、1999年に東海村の原子力施設で起きた臨界事故は、現場の「裏マニュアル」が原因であった。同事故の現場マニュアルには、ウラン化合物の粉末の溶解を「バケツ」で行うように記載されていた。本来のマニュアルでは専用容器を使うよう指定していたが、専用容器では手間がかかるため、現場では「バケツ」の利用を推奨していたのである。その結果、核分裂の連鎖反応が起き、大量の放射線が拡散されるという、臨界事故が発生した。この事故によって、3名の作業員が被曝し、うち2名が亡くなった。

したがって、内部監査をするにあたっては、本部の関知しない現場マニュアルが作られていないか、などもチェックする必要がある。

(4) マニュアルの記載が誤解されるリスク

とはいえ、D社の現場マニュアルにおいて、画像の利用や文章のコピペを推奨する文言が直接的に記載されていたわけではない。

にもかかわらず、本件では記事の執筆者から「文章のコピペを推奨している」と誤解されてしまった。文章のコピペを推奨すると誤解されたマニュアルの記載とは、例えば、サイト「WELQ」の場合、以下のとおりである。

  • 「他のサイト様のコピペで記事を執筆するのは著作権法にふれるため、厳禁です」
  • 「(他のサイトの)『結論』のみ参考にし、伝え方は独自の表現で考えてください」
  • 「中見出しごとに複数サイトを参考して複数意見を寄せ集めれば、“どこを参考にしたかすぐ分かる”状態ではなくなり、独自性の高い記事になります」
  • 「事実を参考にするのはOKですが、表現は参考にせずご自分の言葉、説明の順序で説明してください。執筆前に(他のサイトの)内容を『事実』と『表現』に単語単位で分解してみてください」

 

以上の記載は、オリジナルの意見でなくてもよいとするもので、文章を執筆する者として道義上許されるのか、という論点はある。とはいえ、著作権の観点からは、直接的な侵害とならないように伝えるもので、文章のコピペを推奨するとまでは言えないようにも思える。

しかし、以上の記載の結果、同サイトで執筆した経験があるとアンケートに回答した外部者18名中8名が「マニュアルはコピペ推奨であると感じた」と回答した。他方、4名が「そうは感じなかった」と回答し、残りの6名は無回答であった。アンケートに回答した者の内、3分の2に当たる者が「コピペ推奨であると感じた」としている。

マニュアル作成者としては、コピペにならないよう工夫する方法を記載したつもりかもしれないが、現実には、むしろ推奨していると受け止められてしまった。

こうしたリスクは、本件に限られない。

例えば、コンプライアンスや法令に関するマニュアルを作成している企業は多い。そうしたマニュアルにおいて、具体的に「こうすれば、適法である」「このようにすれば、違法ではない」と記載する例は多い。こうした記載は、法令に抵触することがないよう、慎重に検討した結果のはずである。

しかし、そうであっても、実際にマニュアルを使用する従業員は、もしかすると「このマニュアルは、ぎりぎりの違法行為を推奨しているのでは」と間違って受け止めてしまうかもしれない。コンプライアンスに関わる者として、心して受け止める必要がある。

(5) 法務部の牽制が働かなかったこと

本件サイトに掲載された記事の多くは、D社が作成に関わっていた。本件サイトは、単なるプラットフォーム(一般ユーザーが記事を投稿する場)ではなく、メディア(自らが情報発信者となる事業)であった。内容について責任を負うべきは、D社であった。

ところが、D社は、カスタマーサービスへの問い合わせや、プロバイダー責任法の適用に関して、D社が責任を負うことはないとして対応していた。これは、本件サイトが単なるプラットフォームであるとするもので、法務部の助言に基づく対応であった。

例えば、2015年2月、サイト「MERY」に関して、画像が無断利用されているとのクレームがあった。法務部は、画像がD社側のサーバで保存されていること、記事を作成したのはD社側のインターンであることを把握した。しかし、法務部は、記事を作ったのはユーザーであり、サイトはプラットフォームにすぎないとのテンプレート回答を伝えるよう助言していた。

D社の法務部がこのような結果に至った理由は明らかではない。が、調査報告書を読む限り、以下の理由が考えられる。

 本件キュレーション事業への理解が不十分であったこと

 買収による他の文化を持つ者たちへの遠慮

 本件キュレーション事業を強力に推進しようとする経営陣への遠慮

 

法務部は、その回答次第で会社の経営を左右してしまうという、重い責務を負っていることが分かる。事業全体を正しく理解し、現場に遠慮せず、また、経営陣にも遠慮せず、自信を持って回答することが要求されている。

 

4 グループコンプライアンス

会社は、自社において、また子会社を含めた企業集団において、業務の適正を確保するための体制を構築しなければならない(会社法362条4項6号、会社法施行規則100条1項)。

ところが、D社は、本件キュレーション事業においては、適正を確保する体制を構築していなかった。それどころか、キュレーション事業を行う子会社ないし社内部門に対して、広範な裁量を与えてしまっていた。第三者委員会によれば、D社には「大企業病に陥っているD社に、買収したベンチャー企業のスタートアップマインドを浸透させる」という狙いがあったとのことである。

確かに、箸の上げ下ろしにまで口出しをするのでは、せっかくベンチャー企業を買収したのに、その長所がなくなってしまうおそれがある。

しかし、会社法は、何も箸の上げ下ろしレベルまで介入せよ、と求めているわけではない。会社法が求めているのは、コンプライアンス違反を防止しうるシステムが構築されているかを確認せよ、ということである。そのシステムが適正に構築されていれば、その運用そのものは、子会社なり現場に一任することができる。

そして、コンプライアンス違反を防止しうるシステムとは何かと言えば、ルール、組織、手続が備わっていることをいう。本件でいえば、以下の3点を本部が確認する必要があった。

 著作権侵害など記事の内容をチェックするための客観的かつ適切なルールがあるか。

 記事内容をチェックする独立した担当部署はあるか。

 担当部署によって、記事内容のチェック手続が、ルールにのっとって、正しく行われているか。

コンプライアンス部門は、現場から「迅速な意思決定の妨げではないか」、「チャンスをつぶしているのではないか」との抵抗を受けることがある。

しかし、コンプライアンスこそが、会社が存立する前提であって基盤である。コンプライアンス部門は、その点を確信し、こうした抵抗に対して、誤解を解くために丁寧に説明し、ときには立ち向かわなければならない。

 

5 何のための事業か

第三者委員会は「D社は、キュレーション事業によっていったい何をやろうとしていたのか」という問題提起をしている。これは、非常に重い問題提起である。

コンプライアンスとは「相手の期待に応えること」をいう。企業が事業を行うとき、その事業が世間の期待に応えているのか、という視点が欠かせない。世間の期待に応えていくことは、企業が存続する大前提であり、コンプライアンス経営そのものである。

D社は、本件キュレーション事業を通じて、情報を発信していた。仮に、必要かつ有益な情報をうまく収集して整理することを通じて、世間の利便性を高めたいという熱い思いを持っていたのであれば、不適切な情報を発信することがいかに問題か、気付くことができたはずである。

企業が事業を行うに当たっては、いったい何を目指して、どのように世間の役に立っていくのか、役職員全員が共通認識を持つことが極めて重要である。そして、その共通認識を持たせるのは、トップをはじめとする経営層の役割である。役職員全員が共通認識を持つことができれば、企業がコンプライアンス上の大きな失敗をすることはなくなり、ますます世間から必要とされる企業になることができる。

(了)

「事例で検証する最新コンプライアンス問題」は、不定期の掲載となります。

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筆者紹介

  • 原 正雄

    (はら・まさお)

    弁護士。一橋大学法学部卒、中島経営法律事務所パートナー

    専門は、コンプライアンス、企業危機管理、消費者対応、製造物責任、知的財産、労務、セクハラ・パワハラ、証券取引、M&A、訴訟など企業法務

    主な著書に「社内規程整備で取り組む―中小企業のコンプライアンス対策」(清文社)、「図解 仕事の法律」(共著、三笠書房)、「ネットリスク対策なるほどQ&A」(共著、中央経済社)、「事例で見る借地借家契約の解除」(共著、新日本法規)など多数。
    論文執筆、講演・研修など多数。

    http://www.ntlo.net/partner/detail/id=15&contents_type=45

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