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〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!) 【第8回】「基幹システム導入は『経営のトップ』を巻き込め」

筆者:五島 伸二

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〈IT会計士が教える〉

『情報システム』導入のヒント (!)

【第8回】

「基幹システム導入は『経営のトップ』を巻き込め」

 

公認会計士 五島 伸二

 

-連載の目的-

この連載は、「日本IT会計士連盟」に所属する者が有志により、企業がさまざまな形態の『情報システム』を導入する際に遭遇し抱え込んでしまう“ありがちな疑問・問題”について取り上げ、その解決の糸口を示すことで、企業がスムーズにそのシステムを導入・運営できるよう手助けすることを目的とする。

 

はじめに

基幹システム導入に関わるベンダー選定の最終プレゼンの場。
出席した社長、役員、選定プロジェクトのメンバーに対し、パワーポイントを使って懸命に自社の優位性を訴えるベンダーの担当者。

プロジェクトメンバーは熱心に説明を聞いているが、社長や役員は退屈そうに配付された資料をパラパラめくっている。

ベンダーのプレゼンが終わり質疑応答の時間となっても、質問するのはプロジェクトメンバーばかりで、社長、役員からは特に質問は出ない・・・

ベンダー選定のプレゼンの場において、よく目にする光景である。

ではなぜ、社長、役員といったトップは、経営に大きな影響を及ぼす自社の基幹システム導入に関わるプレゼンに、関心を示さないのであろうか。

 

なぜ経営トップはシステム導入に関心がないのか?

その理由は、簡単である。

ベンダー選定のプレゼンの場で論じられていることが、経営トップの“関心を引く内容”ではないからである。

そもそも「基幹システム」とは、販売業務、購買業務、在庫管理業務、経理業務など、企業の基幹業務を支える業務システムの集合である。

したがって、基幹システムの新規導入や更新ということになると、基幹業務で抱えている課題をなんとか新システムで解決しようと、業務上の要件を中心に検討する傾向がある。

例えば、経費集計を楽にしたいとか、在庫移動を自動処理したいとか・・・

そして、そういう議論の結果を反映したRFP(Request For Proposal:提案依頼書)が作成され、そのRFPに基づいてベンダーは提案書を作成し、最終選考まで残ったベンダーは提案書に沿って業務上の課題を中心にプレゼンを行う。

これでは、いくらベンダーが一生懸命プレゼンをしても、経営トップにとってはピンと来ないということになる。

基幹システムの導入は、多くの企業において、金額基準からも質的基準からも、取締役会決裁あるいは社長・役員決裁となることが多い。このためプレゼンの場にトップがいることは、形式的には当然である。

しかし、せっかくそのような重要な場が設けられているのに、経営トップに関心のある実質的な議論がされないというのはおかしな話である。

 

本来は「経営レベルの議論」が必要

基幹システムはあくまで業務システムであり、基幹システムの導入によって業務上の課題解決を検討することは、重要ではある。ただし、基幹システムは経営判断に必要な多くの情報(データ)を抽出する元になるシステムであり、また、基幹システムに自社の独自のビジネスプロセスを組み込むことにより、競争優位を保つ企業は実際に多い。

すなわち、基幹システムの導入は、「単なる業務システム」の導入ではなく、経営レベルの論点をしっかり議論して導入すべき「経営情報システム」の導入なのである。

そういう意味で、基幹システム導入に際し議論されるべき事項は、本来は経営トップの関心事であるはずにもかかわらず、選定のプロセスにおいて、上記のように業務上の要件を中心とした検討に偏向することにより、脇に追いやられてしまうのである。

このような状況は、基幹システムの正しい選定を誤らせるという非常に大きなリスクへつながるといえよう。

実際に筆者は、経営トップから、システム稼働後になって
「うちのシステムからは経営に必要な情報がちっとも出てこない!」
とか
「他社ではできていることがなぜうちではできないのか!」
といった話をよくお聞きする。ベンダー選定の段階でトップが深く関与しないことで、このような事態になることは避けたい。

 

現場主義もほどほどに

以上は、ベンダーの「選定場面」で経営トップの関与がないことによるリスクであるが、同様にその「導入過程」においても、トップの関与がないことが、大きなリスクへつながる。

すなわち、経営トップが十分に関与しないことにより、現場レベルの判断で業務上の要件を過度に盛り込み、スムーズに稼働開始までたどり着けない、あるいは予算をオーバーするといった問題が発生しやすくなるのである。

例えば、受注業務の事務担当者が長年の作業の中で培った細かな業務手順をシステム化しようとしたり、月に数回しか発生しない例外的事項をシステム化しようとしたり、現行の手作業ベースの生産管理手法をそのままシステムにのせようとしたり・・・

もちろん現場の声に耳を傾けるのは良いことであるが、本連載でも繰り返し述べてきたように、システム導入時には、どの要件を採用し、どの要件を切り捨てるかを「冷静に」判断しなければならない。現場だけにその判断を任せると、部門間の利害衝突という側面により、結論が出ないことがよくある。

さらには、各部署がほどほどに満足するように要件を決められて要件が膨れ上がったり、本当に経営に役立つ要件が後回しになったりという事例も散見される。

結果として、各部署からの要求の多くを盛り込んだ「要件定義書」が出来上がり、それをシステムで実装しようとして、上記のようにスケジュールやコストの面で問題が生じることになる。

このような事態は、経営トップが当初からこの場に参与し、経営レベルの判断で不要な要件をスパッと切り捨ててもらうことで、防ぐことができるのだ。

 

では、いかにして経営トップを巻き込むか?

基幹システムのベンダー選定や導入の場面において、経営トップの関与が重要なことはお分かりいただけたと思う。

では、実際にどうやって社長や役員を基幹システム導入の場に巻き込んでいけばよいのであろうか?

筆者は、基幹システム導入に彼らを巻き込むために、まずは以下の4点が重要と考えている。

① 経営トップが考える経営課題を十分に聞き込こむ

当たり前のようだが、基幹システム導入の基本構想を練る際には、「中長期計画書」などに記載されている経営課題を中心にとりまとめられることが多い。

基幹システム導入にあたっては、基幹システムから経営判断に必要な情報をいかに抽出するか、競争優位を確保する業務プロセスをいかにシステムに反映させるかといった基幹業務に関連する課題に絞り、より深く、トップの考える経営課題を聞き出さなくてはならない。

② 経営トップが考える経営課題をRFPに反映させる

で確認した経営課題を基幹システム導入という切り口で検討し、必要なものを適切にRFPへ反映させる。

各ベンダーはRFPをベースにして提案をするので、ベンダーからの提案内容には、トップが考える経営課題をいかに解決するかという点が、しっかり記載されることになる。

③ 経営トップが出席するベンダー選定のプレゼンは経営課題の解決を中心とした内容に

業務上の課題は、選定されたプロジェクトメンバーで判断できる。しかし、経営課題の解決については、経営トップが直接ベンダーの話を聞き、ディスカッションした上で判断すべきである。

このため、トップが出席するプレゼンは、経営課題の解決を中心にした内容となるよう、あらかじめベンダー側に伝えるべきである。

④ 導入フェーズにおける重要な会議には必ず経営トップの出席を仰ぐ

導入フェーズにおいても、やはりテーマは経営レベルの課題を中心に据える。

また、業務レベルのテーマであっても、調整が難航していたり、現場では判断がつきにくい要件であれば、トップに判断を仰ぐようにする。

現場で延々と議論を続けるより、トップに判断してもらったほうが、いろいろな意味でプロジェクトがスムーズに進行するのだ。

上記のを実践し、基幹システム導入に経営トップを巻き込むことで、現場主義偏重ではなく、本当の意味でその会社の経営に役立つシステムを導入することができる。

導入プロジェクトのメンバーは、絶えずトップが何に関心があるのか、何を困っているのかを把握し、トップの関心のある課題を報告したり、判断を仰ぐことで、積極的に巻き込んでいくよう意識して取り組むことが重要である。

 

課題は経営トップのITリテラシー

もっとも、こう言っては身もふたもないのだが、トップが基幹システム導入に関連し種々の判断を的確にするには、トップ自身にある程度のITリテラシー、つまりITを活用する能力が求められる。

ただ実際は、それなりの規模の会社の社長が「私はITは素人なので・・」といった発言をされることがある。

正直なところなのだろうが、あまり望ましい発言ではない。

これからは、会計数字が読めないトップが経営の舵取りができないように、ITの素養がないトップに経営を任せるのが難しい時代になりつつあると言えよう。

 

基幹システム導入はトップダウンで

最後に、筆者が経験した経営トップダウンによるシステム導入の話をしたい。

ある外資系企業にERPを導入したときの話であるが、「商社の先にいる最終ユーザー向けの単価をどのように把握し管理するか?」というテーマの会議に、その企業の社長が毎回出席されていた。

なぜならその企業にとって、上記のテーマがERPを導入する主要な目的の1つであり、最終ユーザー向け単価情報が競争優位を確保するためのキーになるからである。

会議の場で社長は、自身の価格政策に関する考えを明確に示し、最終ユーザー向けの単価の効果的な管理を実現するよう部下に厳命し、我々コンサルタントにも何度も念押しをした。

そして、その論点が片付いたら、それ以外の業務上の細かな要件については優秀なマネージャーに任せ、社長が現場レベルの会議に出席されることはなかった。

そう、まさにトップダウンである。

基幹システムの導入とは、そういうことなのである。

(了)

「〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!)」は、各回の担当筆者により、毎月第3週に掲載します。

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筆者紹介

  • 五島 伸二

    (ごしま・しんじ)

    公認会計士

    大学卒業後、監査法人トーマツにて会計監査、IPO支援、基幹システム構築、システム監査等に従事当。
    監査法人退所後はシステム開発会社を設立。自らも多数のシステム開発プロジェクトに参画し、SE・プログラマーとしてシステム設計、データベース設計、プログラミング等を行う。
    その後、システムコンサルティング会社に入社してSAP導入コンサルタントとして業務設計、パラメータ設定等、ERP導入の上流工程から下流工程までを担当。
    システムコンサルティング会社退社後は上場会社の経理部長に就任し決算やディスクロージャー全般を統括した。
    2010年3月にアドバ・コンサルティング株式会社を設立し代表取締役となる。

    -ITストラテジスト(情報処理技術者 高度試験)
    アドバ・コンサルティング株式会社 代表取締役
    特定非営利活動法人日本IT会計士連盟 専務理事

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