公開日: 2015/09/17 (掲載号:No.136)
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〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!) 【第12回】「導入ベンダーの賢い選び方、使い方」

筆者: 五島 伸二

〈IT会計士が教える〉

『情報システム』導入のヒント (!)

【第12回】
(最終回)

「導入ベンダーの賢い選び方、使い方」

 

公認会計士 五島 伸二

 

-連載の目的-

この連載は、「日本IT会計士連盟」に所属する者が有志により、企業がさまざまな形態の『情報システム』を導入する際に遭遇し抱え込んでしまう“ありがちな疑問・問題”について取り上げ、その解決の糸口を示すことで、企業がスムーズにそのシステムを導入・運営できるよう手助けすることを目的とする。

 

はじめに

基幹システムや会計システムはパッケージ製品を導入することが多い。わざわざ、企業独自で新規開発することは少なくなってきた。

そのため、基幹システムや会計システムの導入に際しては、まずは導入するパッケージ製品を選択することになる。

しかし、忘れてならないのは、パッケージを選択すると同時に、そのパッケージの導入を支援する導入ベンダーも選択する必要があるということである。

パッケージ製品によっては、必ず製品ベンダーが販売し導入する形態(直接販売)を採る製品もあるが、多くの製品は、製品ベンダー以外のITベンダーが、製品ベンダーとパートナー契約を結び、その製品の販売と導入を行う形態(間接販売)を採っている。

 

とても重要な導入ベンダー選び

導入ベンダーは、その製品の導入に際して、ユーザー企業のプロジェクトメンバーに対するトレーニング、テスト環境の構築、製品とユーザー企業業務のフィット&ギャップ、ギャップを解消するソリューションの提案など、ユーザー企業側のプロジェクトを全面的に支援し、そのシステム導入プロジェクトを成功に導くために重要な役割を果たす。

したがって、どんなに良いパッケージ製品を選定できたとしても、導入ベンダーの選択を間違えると、スムーズなシステム導入が実現できないことになる。

場合によっては、導入ベンダーの力不足で導入プロジェクト自体が頓挫することもありえるのである。
それくらい、導入ベンダーの役割は重要といえよう。

基幹システムや会計システムの導入というと、どうしても製品選択に重点がおかれがちであるが、今回は、導入ベンダーの選択に焦点を絞って、いくつかの切り口でそのポイントを解説する。

 

なにはともあれ製品知識

導入ベンダー選定にあたっては、まずは、どれだけそのパッケージ製品に精通しているかという観点が重要となる。

具体的には、

過去、その製品の導入をどのくらい行った経験があるのか?それらの案件規模は?それら案件はプライムで受注したのか、他のベンダーの下請けとして受注したのか?導入した業種は?導入したモジュール範囲は?

こういったことを確認することが、パッケージ製品の導入ベンダーを選定する際の最初のポイントとなる。

自信のあるベンダーであれば、それらのことは明確に教えてくれるであろう。逆に、過去の実績等に関してあいまいな回答しかしないベンダーは、慎重に吟味する必要がある。

 

製品ベンダーに推薦してもらうのも一手

ある程度、選択候補となるパッケージ製品が絞られているのであれば、その製品の製品ベンダーに、パートナー契約している導入ベンダーを推薦してもらうのも有効な手段である。

製品ベンダーとしては、ぜひとも自社製品を選択してほしいと思っているし、導入が決まったとしたら、ぜひとも導入を成功させたいと思っている。したがって、良い導入ベンダーを推薦してくる可能性が高い。

では、製品ベンダーの推薦であれば安心かというと、そういうわけでもない。
やはり、合う、合わないということはありうるのである。

ユーザー企業としては、自社の業務分析や要件定義のフェーズからしっかり支援してほしいというケースもあれば、そのあたりは自社で十分できていて、どちらかというと、その要件定義を実現するためのソリューションの提案に的を絞って支援してほしいというケースもある。

したがって、製品ベンダーに、導入ベンダーの推薦を依頼する場合には、何に重点をおいて支援してほしいのかということを明確にして製品ベンダーに伝えるのが肝要である。

 

「どこに頼むか」より「誰に頼むか」が重要

導入するパッケージ製品が決まり、実際に導入フェーズが始まったら、実際に導入支援作業を行うのはその導入ベンダーに属する導入コンサルタントのチームである。

彼らが、そのシステムの稼働を目指してユーザー企業側のプロジェクトメンバーを支援し、プロジェクト進捗の過程で出てくる様々な課題の解決を図り、より良いシステムにするための提案を行う。

したがって、導入ベンダーを選択するということは、導入コンサルタントを選択することと同義といってもよい。

そして、その際に、特に重視して評価すべきは、そのコンサルタントチームのリーダーである。
コンサルチームのリーダーの資質は、そのシステム導入プロジェクトの成否に大きく影響する。
したがって、導入ベンダーの選択にあたっては、コンサルチームの良否、とりわけ、リーダーの資質をよく見極める必要がある。

リーダーの過去の職務経歴や、そのパッケージ製品の導入経験等を教えてもらうことは当然であるが、実際に、製品や導入に関するプレゼンテーションを行ってもらい、その説明能力や質疑応答を通じたコミュニケーション能力などを確認することが有効である。

また、通常想定されるプロジェクト遂行上のリスクについて質問してみるのも有効である。リスク感知能力もまた、プロジェクトを支援するにあたって極めて有効な要素である。

経験のあるコンサルタントであれば、プロジェクトの概要を理解すれば、想定される一般的なリスクを説明してくれるはずである。選定側はその妥当性をよく評価してベンダー選定の参考とすべきである。

もちろん、リーダー以外のメンバーの確認も重要である。

全くの新人コンサルタントが他のコンサルタントと同じ単価でチャージされていた、というケースはままあることである。このあたりもシビアに評価すべきである。

 

ベンダーの知名度や規模はどう評価するか?

確かに、誰が当社を担当するかが重要であることは理解できても、やはり基幹システムや会計システムの導入は、それなりの金額の投資になる。そういう意味では、ある程度知名度のあるベンダーや、規模の大きなベンダーに依頼するということも、さまざまなリスクを考えると容認しうる選択方法といえる。

導入ベンダーの選定に関わった人も、万一、導入がうまくいかなくても「〇〇に頼んでダメだったんだし。」といった言い訳も可能となるという側面もあるのが事実である。

ただし、著名ベンダー、大手ベンダーに依頼することのほぼ唯一のデメリットは、そのコストの高さにある。同じような規模の案件でも、小規ベンダーに比べて倍以上のコスト差があるケースもある。

裏返すと、小規模ベンダーに依頼することの大きなメリットは、そのコストの安さである。

実際、筆者が知るユーザー企業の中には、小規模ベンダーをうまく使って、成功している例を多く聞く。

筆者自身も、ユーザー企業の会計システム導入プロジェクトの責任者として導入ベンダー選定に関わった時、信頼できると判断した小規模ベンダーに導入を依頼し、コンペとなった大手ベンダーに比べてはるかに安いコストで導入に成功した経験がある。

しかも、その小規模ベンダーのコンサルタントはほぼ全員が大手有名ベンダーのOBで、そのスキルレベルやコミュニケーション能力は極めて高く、こちらが要望することをきっちり実現してくれ、非常に満足度が高かった。

知名度や規模にこだわらず、自分たちのやりたいことを実現してくれるかどうかを基準にして導入ベンダーを選択するのも意味があるといえよう。

 

プロを選べるのはプロだけ

ここまで、導入ベンダー選定についていくつかの観点で書いたが、いずれにしてもいえることは、選ぶ側のユーザー企業の選定メンバーにもシステム導入やプロジェクト運営の知識、経験が必要であるということである。

そう、プロを選ぶことができるのはプロだけなのである。

ただ、ユーザー企業側にそのようなプロをそろえるのは、なかなか難しいのも現実である。そのような場合は、外部の専門家を活用するのも有効である。

実際、最近は、パッケージ選定、導入ベンダー選定に、特定ベンダーとは関係のない中立的立場のコンサルタントを活用する事例が多くなっている。

 

賢く選んで賢く使おう

導入ベンダーの導入コンサルタントという人たちは、基本的にユーザー企業の役に立って、最終的には「頼んでよかった」と言われたいと思っている人たちばかりである。

良いベンダーを選んで、導入コンサルタントと良好な関係を築き、賢く使って、十分に成果をあげてもらいたいものである。

(連載了)

〈IT会計士が教える〉

『情報システム』導入のヒント (!)

【第12回】
(最終回)

「導入ベンダーの賢い選び方、使い方」

 

公認会計士 五島 伸二

 

-連載の目的-

この連載は、「日本IT会計士連盟」に所属する者が有志により、企業がさまざまな形態の『情報システム』を導入する際に遭遇し抱え込んでしまう“ありがちな疑問・問題”について取り上げ、その解決の糸口を示すことで、企業がスムーズにそのシステムを導入・運営できるよう手助けすることを目的とする。

 

はじめに

基幹システムや会計システムはパッケージ製品を導入することが多い。わざわざ、企業独自で新規開発することは少なくなってきた。

そのため、基幹システムや会計システムの導入に際しては、まずは導入するパッケージ製品を選択することになる。

しかし、忘れてならないのは、パッケージを選択すると同時に、そのパッケージの導入を支援する導入ベンダーも選択する必要があるということである。

パッケージ製品によっては、必ず製品ベンダーが販売し導入する形態(直接販売)を採る製品もあるが、多くの製品は、製品ベンダー以外のITベンダーが、製品ベンダーとパートナー契約を結び、その製品の販売と導入を行う形態(間接販売)を採っている。

 

とても重要な導入ベンダー選び

導入ベンダーは、その製品の導入に際して、ユーザー企業のプロジェクトメンバーに対するトレーニング、テスト環境の構築、製品とユーザー企業業務のフィット&ギャップ、ギャップを解消するソリューションの提案など、ユーザー企業側のプロジェクトを全面的に支援し、そのシステム導入プロジェクトを成功に導くために重要な役割を果たす。

したがって、どんなに良いパッケージ製品を選定できたとしても、導入ベンダーの選択を間違えると、スムーズなシステム導入が実現できないことになる。

場合によっては、導入ベンダーの力不足で導入プロジェクト自体が頓挫することもありえるのである。
それくらい、導入ベンダーの役割は重要といえよう。

基幹システムや会計システムの導入というと、どうしても製品選択に重点がおかれがちであるが、今回は、導入ベンダーの選択に焦点を絞って、いくつかの切り口でそのポイントを解説する。

 

なにはともあれ製品知識

導入ベンダー選定にあたっては、まずは、どれだけそのパッケージ製品に精通しているかという観点が重要となる。

連載目次

筆者紹介

五島 伸二

(ごしま・しんじ)

公認会計士

大学卒業後、監査法人トーマツにて会計監査、IPO支援、基幹システム構築、システム監査等に従事当。
監査法人退所後はシステム開発会社を設立。自らも多数のシステム開発プロジェクトに参画し、SE・プログラマーとしてシステム設計、データベース設計、プログラミング等を行う。
その後、システムコンサルティング会社に入社してSAP導入コンサルタントとして業務設計、パラメータ設定等、ERP導入の上流工程から下流工程までを担当。
システムコンサルティング会社退社後は上場会社の経理部長に就任し決算やディスクロージャー全般を統括した。
2010年3月にアドバ・コンサルティング株式会社を設立し代表取締役となる。

-ITストラテジスト(情報処理技術者 高度試験)
アドバ・コンサルティング株式会社 代表取締役
特定非営利活動法人日本IT会計士連盟 専務理事

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