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会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 開示関係

『単体開示の簡素化』の要点をおさえる 【第1回】「制度改正の背景と簡素化の範囲」

『単体開示の簡素化』の要点をおさえる 【第1回】 「制度改正の背景と簡素化の範囲」   公認会計士 中村 真之   1 はじめに 平成26年3月26日に、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成26年内閣府令第19号、以下「改正府令」という)が公布され、平成26年3月期に係る有価証券報告書の作成から、単体開示に関して簡素化が図られている。 現在までに1,500社を超える会社において簡素化された単体開示が採用されており、その実例や実績を踏まえて、有価証券報告書の作成を今後に控えている会社や当期は採用を見送ったものの、今後の簡素化を検討される会社もあると思われる。 本稿では、改正府令のうち、財務諸表等規則の改正内容を中心に、改正の背景や狙いについて2回にわたり解説を行う。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをあらかじめ申し添えさせていただく。   2 単体開示の簡素化の概要 (1) 改正の背景と狙い 本改正府令に先立ち公表された「当面の方針」においては、「IFRSの任意適用の積上げを図ること」が謳われているが、IFRSの導入に当たっては、会計基準を変更することに伴って生じる調整や準備のために過大なコストが生じることが予想され、これがIFRS以降の障害になっているという指摘があった。 また、金商法における開示制度として連結開示を主、単体開示を従として以来十数年が経過し、現在では多くの財務諸表利用者が、連結における情報を中心に投資判断を行うという実態が定着していると考えられる一方で、連結開示を主としながらも単体開示にも一定の作成負担があることや、会社法と金商法という2つの開示体系が要求する開示内容が異なることに起因して、財務諸表作成者である企業にとって二重の負担となることが指摘されていた。 そこで、金商法における単体開示の在り方について検討し、投資者保護という金商法の趣旨を損なわない限りにおいて、一定の条件を満たした場合には、一部の開示を免除することや開示要求を会社法とあわせるなど、企業の負担軽減・コスト削減につながる単体開示の簡素化を主旨とする改正を行うこととした。 (2) 対象となる会社 今回の改正では、改正後の財務諸表等規則(以下「新財務諸表等規則等」という)の第1条の2において、金商法における単体開示の簡素化の対象会社として、「特例財務諸表提出会社」という新たな概念を規定した。 ここで「特例財務諸表提出会社」とは、以下の2つの条件をいずれも満たす会社とされている(ただし別記事業を営む会社等を除く)。 したがって、上場会社であることは特例財務諸表提出会社の条件とはされておらず、「当面の方針」において、IFRSの任意適用について、非上場会社であっても任意適用が可能としていることとも整合させている。 連結財務諸表を作成している会社には、日本基準に基づく連結財務諸表を作成している会社はもちろんのこと、指定国際会計基準又は米国会計基準を適用して連結財務諸表を作成している会社も含まれていると解されている。 また、会社計算書類規則第98条によれば、会計監査人設置会社と非設置会社とでは、会社法の計算書類において要求される注記項目が大きく異なる。そのため、有価証券報告書提出会社であるものの、会計監査人を設置していない会社を特例財務諸表提出会社とした場合に、単体開示の簡素化の基礎となるべき会社法における注記が存在せず、その結果、金商法における注記が開示されないという事態が想定される。そこで、金商法の要請である投資者保護の主旨を損なわないようにするため、会計監査人設置会社であるという要件を設けている。   3 本表に関する改正の概要 「当面の方針」において、 とされており、今回の改正では、これに則り、新財務諸表等規則第127条第1項第1号から第3号までにおいて、経団連のひな型を参考とした新様式を規定した。 また、これまで、貸借対照表の区分掲記および販売費及び一般管理費の主要な費目の開示に当たり、個別財務諸表の方が連結財務諸表よりも低い基準値が設定されていたが、今般の改正により、連結財務諸表規則と同じ基準となっている。 この重要性の変更については、特例財務諸表提出会社以外にも適用され、単体開示のみの会社に対しても一定の負担軽減が図られている。   4 注記、附属明細表、主な資産及び負債の内容に関する改正の考え方 「当面の方針」において、 とされていることから、注記、附属明細表、主な資産及び負債の内容(以下「注記等」という)について、連結財務諸表を作成している場合には単体での開示を要しない項目を整理している。 まず、連結開示で十分な情報が開示されている項目については、金商法の単体開示を免除することとした。次に、金商法の連結開示のみでは十分な情報が開示されていないために単体開示を免除できない項目についても、金商法の開示水準と会社法の開示水準が同程度であると認められる場合には、金商法の単体開示に関する規定を会社法の単体開示の規定に合わせることとした。 その一方で、 とされていることを踏まえて、 のいずれかの対応を行っている。 *   *   * 次回(2014/7/31公開)は具体的な免除項目の確認と本制度導入に当たっての留意事項について解説する。 (了)
#79(掲載号)
#中村 真之
2014/07/24
中小企業会計 会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第6回】「適用時差異がある場合」

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第6回】 「適用時差異がある場合」   公認会計士・税理士 前原 啓二   なお、この設例では、自社積立の退職一時金制度(自社退職金規程に基づく確定給付型)のみの場合において、退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法を適用しているものとします。   1 退職時と決算時の仕訳 〈退職時の仕訳〉 〈決算時の仕訳〉 (※) 当期末自己都合要支給額60,000,000-(前期末自己都合要支給額55,000,000-そのうち当期退職者に係る額1,900,000)=6,900,000 〈適用時差異の仕訳〉 ① 適用時差異の全額を当期に費用処理する方法(原則)の場合 ② 適用時差異を10年にわたり定額法により費用処理する方法(特則)の場合 (※) 55,000,000÷10年=5,500,000 この設例は、退職給付引当金を計上してこなかった中小企業が当期から新たに退職給付引当金を計上する場合です。前期以前からフルに退職給付引当金を計上していれば前期末時点であったであろう引当金残高と実際の前期末引当金残高との差が適用時差異です。 適用時差異の処理方法は、上記①と②の2つの方法があります。上記①の方法により適用時差異を一時に費用処理するのが原則です。 しかし、一時に費用処理すると財政状態及び経営成績に大きな影響を与える可能性が高くなるため、適用時差異は10年以内の一定の年数又は従業員の平均残存勤務年数のいずれか短い年数にわたり定額法により費用処理することができるという特則(上記②の方法)があります。この場合には、未償却の適用時差異の金額を注記します(中小企業会計指針57)。 この設例は、退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法が適用されていて、前期以前からフルに退職給付引当金を計上していれば前期末時点であったであろう引当金残高は前期末自己都合要支給額55,000,000円です。したがって、適用時差異はこの金額と前期末の退職給付引当金残高0円との差額である55,000,000円になります。この適用時差異の仕訳処理については、上記①と②の方法で例示しているとおりです。 当期退職一時金支払額2,000,000円については、いろいろな処理方法が考えられますが、この設例では、前期末自己都合要支給額1,900,000円を退職給付引当金の減額、当期増加の自己都合要支給額100,000円を当期の費用として計上します。 前期末自己都合要支給額55,000,000円からそのうちの当期退職者に係る額1,900,000円を除いた額、すなわち当期末在職者に係る前期末自己都合要支給額の合計53,100,000円と、当期末自己都合要支給額60,000,000円との増差額は6,900,000円になります。この6,900,000円だけ退職給付引当金を増加させるために、決算時に同額の費用を計上します。 退職給付債務と貸借対照表上の退職給付引当金の関係は、次のようになります。 ① 適用時差異全額を当期に費用処理する方法(原則) ② 適用時差異を10年にわたり定額法により費用処理する方法(特則)   2 決算書の金額 ① 適用時差異の全額を当期に費用処理する方法 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 ② 適用時差異を10年にわたり定額法により費用処理する方法(特則) 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 〈注記〉   3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 ① 適用時差異の全額を当期に費用処理する方法(原則) 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 ② 適用時差異を10年にわたり定額法により費用処理する方法(特則) 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上は、実際に退職一時金を支給した日の属する事業年度にその支給額が損金算入されます。したがって、当期の退職給付引当金繰入及び適用時差異の費用計上額を加算・留保します。 一方、当期に退職一時金2,000,000円を支給しているので、この額を損金算入することができますが、会計上はこの支給額のうち100,000円を費用計上しているものの、1,900,000円を退職給付引当金の減額で処理し費用計上していないことから、税務上は1,900,000円を減算調整します。 (《退職給付債務・退職給付引当金》編 終了)
#79(掲載号)
#前原 啓二
2014/07/24
会計 固定資産 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

減損会計を学ぶ 【第13回】「減損損失の認識の判定①」

減損会計を学ぶ 【第13回】 「減損損失の認識の判定①」   公認会計士 阿部 光成   減損の兆候があるとされた資産又は資産グループについては、次のステップとして、減損損失を認識するかどうかの判定を行うことになる。 減損の兆候があると識別された資産又は資産グループについて、ただちに減損損失を計上するのではなく、割引前将来キャッシュ・フローを用いて、減損損失の認識の判定を行うところに、減損会計の特徴がある。 今回は、減損損失の認識の判定について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 減損損失の認識 1 減損損失の認識の判定 減損損失の認識の判定は、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することによって行い、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識することになる(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)二、2(1))。 2 減損損失の認識の判定を設けた理由 減損損失の測定は、将来キャッシュ・フローの見積りに大きく依存することから、測定が主観的にならざるを得ない面がある。そこで、減損の存在が相当程度に確実な場合に限って減損損失を認識することが適当であると考えられた(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という)四、2(2))。 減損の存在が相当程度に確実な場合として、資産又は資産グループが生み出す割引前の将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回るときと規定された(減損会計意見書四、2(2)①)。   Ⅱ 将来キャッシュ・フローの見積期間 減損損失を認識するかどうかを判定するために割引前将来キャッシュ・フローを見積もる期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方で行うことになる(減損会計基準二、2(2))。 将来キャッシュ・フローの見積期間を制限する理由は、少なくとも土地については使用期間が無限になりうること、また、一般に、長期間にわたる将来キャッシュ・フローの見積りは不確実性が高くなることからである(減損会計意見書四、2(2)②)。   Ⅲ 将来キャッシュ・フローの見積期間(20年を超えるかどうか) 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)では、将来キャッシュ・フローの見積期間について、20年を超えるかどうかによって、次のように規定している(次回以降でより詳しい解説を行う)。 1 20年を超えない場合 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合には、当該経済的残存使用年数経過時点における資産又は資産グループ中の主要な資産の正味売却価額を、当該経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する(減損適用指針18項(1))。 2 20年を超える場合 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合には、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに基づいて算定された20年経過時点における回収可能価額((減損適用指針32 項)を、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する(減損適用指針18項(2))。 【将来キャッシュ・フローの見積りのイメージ(20年を超えるケース)】 (出所:監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)103ページを一部修正)   Ⅳ 留意事項 1 減価償却との関係 減損損失を認識するかどうかの判定は、減価償却の見直しに先立って行う(減損会計意見書四、2(2)①)。 2 見積値から乖離するリスク 減損損失を認識するかどうかを判定するために見積もられる割引前将来キャッシュ・フローは、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクを反映させず、減損適用指針36項から42項の考え方に基づいて見積もる(減損適用指針19項)。 3 外貨建ての将来キャッシュ・フロー 将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積もられる場合、外貨建ての将来キャッシュ・フローを、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算し、減損損失を認識するかどうかを判定するために見積もられる割引前将来キャッシュ・フローに含める(減損適用指針20項)。 4 経済的残存使用年数 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数は、当該資産が今後、経済的に使用可能と予測される年数と考えられ、対象となる当該資産の材質・構造・用途等の物理的な要因のほか、使用上の環境、技術の革新、経済事情の変化による陳腐化の危険の程度、その他当該企業の特殊的条件も検討し、見積もる(減損適用指針21項)。 なお、資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が、当該資産の減価償却計算に用いられている税法耐用年数等に基づく残存耐用年数と著しい相違がある等の不合理と認められる事情のない限り、当該残存耐用年数を経済的残存使用年数とみなすことができる。 (了)
#79(掲載号)
#阿部 光成
2014/07/24
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 金融商品会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第51回】金融商品会計⑦「ゴルフ会員権の評価」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第51回】 金融商品会計⑦ 「ゴルフ会員権の評価」   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① Aコース減損処理 (*1) 取得原価10,000-期末の相場4,500=5,500 ② Bコース減損処理 (*2) 取得原価15,000-預託保証金額8,000=7,000 (*3) 預託保証金額8,000-期末の相場6,000=2,000 〈会計処理の解説〉 ゴルフ会員権の形態はいくつか存在しますが、株式又は預託保証金から構成されるものは金融商品会計基準の対象となり、取得原価をもって貸借対照表価額とします。 ゴルフ会員権については、ゴルフ会員権協同組合が日々作成している業者間の取引相場表や、その相場を元にして大手のゴルフ会員権売買業者が公表している「ゴルフ会員権相場表」があります。しかし、当該相場は価格の信頼性と実現可能性を確保できるほどの市場の厚みがないと考えられています。 そこで、会計上はゴルフ会員権を時価評価の対象とせず、著しい価値の下落があった場合に評価減を行うこととされました。著しい価値の下落の判定は、有価証券に準じて行い、ゴルフ会員権の相場は、ゴルフ会員権の著しい価値の下落の判定に利用されます。 株式方式によるゴルフ会員権の減損処理については、相場が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合、その下落相当額をゴルフ会員権評価損として計上します。 一方、預託保証金方式によるゴルフ会員権の減損処理については、相場が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合、株式方式と同様に減損処理を行いますが、預託保証金額を上回る部分は直接評価損を計上し、下回る部分については貸倒引当金を設定します。 【預託保証金方式によるゴルフ会員権の減損処理】 預託保証金は、一定期間据え置かれた後、会員からの請求があれば返還されるものであるため、会員にとっては金銭債権と考えることができます。そこで、相場が預託保証金を下回る場合、その下回る部分については直接評価損とせず、金銭債権のように貸倒引当金を設定します。ただし、預託保証金の回収可能性がほとんどないと判断される場合には、貸倒損失額を預託保証金から直接控除します。 なお、相場がないゴルフ会員権については、発行会社の財政状態に基づき評価します。すなわち、ゴルフ場運営会社の貸借対照表に基づいて発行会社の財政状態、預託保証金の回収可能性を評価することとなります。 ただし、ゴルフ場運営会社の中には、貸借対照表等の財務情報を公表していない場合があるため、代替手段として、大手ゴルフ会員権取引業者に評価鑑定を依頼する方法も考えられます(金融商品会計に関するQ&A Q46)。 (了) ※8月は、人件費に関する会計処理について解説します。
#79(掲載号)
#大川 泰広
2014/07/24
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

国際出向社員の人事労務上の留意点(日本から海外編) 【第4回】「海外給与とハイポタックス(みなし税)」

国際出向社員の人事労務上の留意点 (日本から海外編) 【第4回】 「海外給与とハイポタックス(みなし税)」   社会保険労務士 平澤 貞三   (1) 海外給与の基本的な考え方 会社の命令で海外に赴任する場合、最も配慮しなければならないことの1つが、赴任中の給与である。 税制も社会保険制度も各国まちまちであるから、仮に、「給与は現地の会社が払うので、その国の制度に従って税金や社会保険料はあなたが負担して支払ってください。」というルールにしてしまうと、赴任者本人は現地でいくら税金が引かれ、いくらの手取りで生活をしなければならないのか分からず、不安を持つのは当然である。 また、仮に給料が同じなのに、A社員は赴任先国で税率10%、B社員は赴任先国で税率30%では、その手取額に違いが生じ、社員間での不協和音が生じるリスクもある。 このように海外給与をグロス保証(=税金・社会保障費は社員負担)にしてしまうと、その税金や社会保障費の変動リスクを常に社員に持たせてしまうことになり、公平な給与制度とは呼べないものとなる。 赴任者に気持ち良く海外で勤務してもらい、最高のパフォーマンスを引き出すためには、公平、かつ、合理的な給与の取り決めが必要であり、そこで登場するのが“ハイポタックス”(みなし税)という考え方である。   (2) ハイポタックス(みなし税)とは 例えば、1年以上の予定で日本から海外へ赴任し海外現地の関連会社などで働く場合には、現実には、その間の日本での納税義務はなく、その海外現地の制度に従った納税を強いられることになる(【第1回】国際出向社員の各種法律における身分関係①(税務)参照)。 しかし、どの国に赴任しようとも赴任者本人に負担させる税金等は日本にいた時と同水準にするという目的で、「もし、その赴任者が日本にいたならば」、という想定で税計算をし、その仮想上の手取金額を計算する。 この仮の計算における税金がハイポタックス(Hypothetical Tax = 仮想に基づいた税金)であり、一般的には“みなし税”と呼ばれている。   (3) 海外給与の決め方 一般的には、みなし税控除後の手取給与を最低保証のベースとし、その他会社のルールに沿って、円貨・外貨の区分、生計費指数、海外手当などを考慮して海外赴任者の給与を決定するのである。 給与から既にみなし税が控除されているわけであるから、赴任先国で生ずる税金はすべて会社負担とするのが原則の考え方である。 【海外手当の一般的な種類】   (4) 給与の払い方と日本納税義務の関係 1年以上の予定で海外に出向する場合、その社員が受け取る給与は非居住者の国外源泉所得であるから、日本直接払い、海外現地払い、両方での分割払い、いずれの給与であっても日本での納税義務はない(内国法人の役員を除く)。   (5) タックスイコライゼーション(Tax Equalization) タックスイコライゼーション(Tax Equalization)とは、分かりやすく言うと、「ハイポタックス(Hypo Tax)の年末調整」のことである。 海外赴任時、又は、新年度初めに、日本で勤務していることを想定して、向こう1年間の給与をベースにみなし税金の計算を行うケースが一般的であるが、1年後には扶養条件が変わっていたり、税制や保険料率の変更などもあったりで、必ずしも当初計算したみなし税金が正しいとは限らないのである。 より公平性を保つには、年末調整を行うがごとく、改めて年間のハイポタックスを再計算し、その過不足を精算する手続きを行う必要がある。これが国際人事に携わる者の業界用語(世界共通)として、タックスイコライゼーションと呼ばれている。 ハイポタックスやタックスイコライゼーションという考え方は、決して日本の法律で定義されているものではなく、また、特定の外国のルールでもない。単に、海外に社員を派遣する際の国際人事上の考え方の1つである。 したがって、どの税金までを対象としてハイポタックスを計算するか、また、どのタイミングで、どの控除項目までのタックスイコライゼーションを行うのかは、各社の判断となる。 海外派遣社員の給与アレンジを考える上で大切なことは、会社にとっての経済的・事務的コストを最小化し、いかに社員のモチベーションを最大限に引き出すか、ということに尽きる。 (了)
#79(掲載号)
#平澤 貞三
2014/07/24
労務・法務・経営 法務

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第17回】「転嫁カルテル・表示カルテルの活用〔①活用可能な事業者等と実施手続〕」

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第17回】 「転嫁カルテル・表示カルテルの活用〔①活用可能な事業者等と実施手続〕」   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳     1 転嫁カルテル・表示カルテルの概要 消費税転嫁対策特別措置法は、消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為(以下「転嫁カルテル」という)および消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為(以下「表示カルテル」という)について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「以下「独占禁止法」という)を適用しないこととしている(消費税転嫁対策特別措置法12条)。 「転嫁カルテル」とは、複数の企業や事業者団体において、例えば、各企業が自主的に定めた本体価格に消費税額分を上乗せすることなど、消費税の転嫁の方法を取り決めることをいう。これにより、単体としての交渉力では取引先に消費税を転嫁することが難しい中小企業であっても、業界を挙げて消費税の転嫁に安心して取り組むことができる。 また、「表示カルテル」とは、複数の企業や事業者団体において、消費税に関する表示の方法(外税表記にするか、内税表記にするか、併記にするかなど)を取り決めることをいう。これにより、業界として消費税に関する表示の方法を統一することができ、消費者等の混乱を防止することができる。 どのような取決めが転嫁カルテル・表示カルテルと認められるかについては、次回(最終回)に検討するが、今回はその前提として、これらを活用可能な事業者等の範囲や実施手続について確認することとしたい。   2 転嫁カルテルを活用可能な事業者等 (1) 中小事業者保護のための制度 転嫁カルテルは、価格に関する交渉力の弱い中小企業に特に配慮して認められたものである。そのため、転嫁カルテルは、参加者の3分の2以上が中小事業者である場合にのみ認められる(詳細は(2)以下で述べる)。 そして、ここでいう「中小事業者」とは、以下の事業者を指す(消費税転嫁対策特別措置法2条3項)。 (※) 公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」より (2) 複数の事業者が転嫁カルテルを行う場合 参加事業者の3分の2以上が中小事業者であることが必要とされる。 なお、参加事業者数の3分の1未満であれば、いかなる大企業が含まれていても差し支えない。 (3) 事業者団体が転嫁カルテルを行う場合 その事業者団体の構成事業者の3分の2以上が中小事業者であることが必要とされる。構成事業者の頭数で判断されるため、転嫁カルテル実施に関する決議を行った際の出席者や賛成者に占める中小事業者の割合は問われない。 設問の事例では、転嫁カルテルを行おうとする事業者団体の会員50社のうち3分の2以上に当たる40社が中小事業者であるため、設問の事業者団体は転嫁カルテルを行うことが可能である。 他方、構成事業者の3分の1を超える事業者が大企業等(中小事業者ではない事業者)である事業者団体は、団体としては転嫁カルテルを行うことができない。そこで、そのような場合には、構成事業者の一部の者(3分の2以上が中小事業者となる組み合わせに限る)が、複数の事業者として転嫁カルテルを行うという方法を考えるべきことになる。 なお、事業者団体の構成事業者の数の3分の1未満であれば、いかなる大企業が含まれていても差し支えない。 (4) 事業者団体の連合会が転嫁カルテルを行う場合 事業者団体の連合会が転嫁カルテルを行う場合には、傘下の事業者団体のすべてについて、構成事業者の3分の2以上が中小事業者であることが必要とされる。そのため、仮に、傘下のほとんどの事業者団体は中小事業者を中心とするものであったとしても、大企業等(中小事業者ではない事業者)が3分の1を超える事業者団体が1つでもある場合には、その連合会として転嫁カルテルを行うことはできない。 このような場合には、傘下の事業者団体(大企業等が3分の1を超えるものを除く)が、それぞれ単独の事業者団体として転嫁カルテルを行うことになる。 (5) 事業者と事業者団体が転嫁カルテルを行う場合 事業者と事業者団体が共同して転嫁カルテルを行う場合には、参加しようとする事業者の3分の2以上が中小事業者であり、かつ、事業者団体の構成員の3分の2以上が中小事業者であることが必要とされる。 (6) 複数の事業者団体が転嫁カルテルを行う場合 複数の事業者団体が転嫁カルテルを行う場合には、参加しようとする事業者団体のすべてについて、構成事業者の3分の2以上が中小事業者であることが必要とされる。   3 表示カルテルを活用可能な事業者等 表示カルテルは、消費税に関する表示をめぐる消費者等の混乱を防ぐことにより、消費税の円滑な転嫁を実現するものであり、価格交渉力の弱い中小企業の保護を目的とするものではない。 そのため、表示カルテルはすべての事業者や事業者団体が行うことができる。   4 転嫁カルテル・表示カルテルの実施手続 (1) 事業者間や事業者団体内部での決定方法 転嫁カルテルや表示カルテルの実施に当たり、事業者間や事業者団体内部でどのような方法によりその実施を取り決めることが必要かについて、消費税転嫁対策特別措置法は何ら定めていない。 したがって、法律上は、適宜の方法により内部的な意思決定を行えば足りる。 もっとも、事業者間での話し合いや事業者団体内部での意思決定という、一歩間違えば独占禁止法に抵触するリスクのある行為を行う以上、消費税転嫁対策特別措置法に基づく適法な転嫁カルテル・表示カルテルであることを明確に記録に残すため、合意書や議事録等の合意・決定を立証するエビデンスを残しておくことが適切であろう。 (2) 公取委への届出 転嫁カルテル・表示カルテルを行うには、事前に所定の書式により公取委に届出を行う必要がある。転嫁カルテルと表示カルテルの両方を行う場合には、それぞれについて別途届け出ることが必要である。 届出書式は、公取委の以下のサイトでダウンロードすることができる。 届出は極めて簡単な書類の提出で行うことができるため、「難しいのではないか。」と悩む必要は全くない。 (3) これまでの届出の状況 転嫁カルテル・表示カルテルを届け出た場合には、公取委の以下のサイトで事業者団体名等が公表される。 公取委の上記公表資料によれば、消費税転嫁対策特別措置法に基づく届出の受付が始まった平成25年10月から平成26年6月までの間に、合計294件(転嫁カルテル157件、表示カルテル137件)もの届出がなされたとのことであり、転嫁カルテル・表示カルテルは筆者の個人的な予想を超えて活発に利用されている。 上記サイトには、これまでに転嫁カルテル・表示カルテルの届出を行った事業者団体等の実名も公表されているため、届出を検討している事業者団体等においては、これらの実例を参照すると有益であろうと思われる。 (了)
#79(掲載号)
#山田 瞳
2014/07/24
労務・法務・経営 経営

現代金融用語の基礎知識 【第8回】「会社役員賠償責任保険」

現代金融用語の基礎知識 【第8回】 「会社役員賠償責任保険」   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 会社役員賠償責任保険とは 会社役員賠償責任保険とは、会社役員(取締役や監査役など)が役員として損害賠償責任を負うこととなった場合に備える保険である。D&O保険といわれることがある(D&OはDirectors and Officersの略)。 会社の従業員が従業員として損害賠償責任を負うということは滅多にない。犯罪行為をした場合くらいだろう。そのため、会社従業員賠償責任保険といった保険は成立せず、存在しない。しかし、会社役員には役員として損害賠償責任を負うリスクがあり、会社役員賠償責任保険が成立し、存在する。 そして、特に最近、保険会社がこの保険に力を入れつつある。   2 会社役員はどのような場合に損害賠償責任を負うのか? 会社役員が役員として損害賠償責任を負うこととなる場合とはどのような場合かというと、役員としての任務を怠って会社に損害を生じさせた場合である(会社法423条1項)。 そうした事態が生じる可能性はかなり高く、例えば、深く考えずにリスクの高い投資に賛成して、結果として会社に損失が生じてしまったような場合にも、善管注意義務・忠実義務違反として(会社法330条、民法644条、会社法355条)、損害賠償責任を負うこととなる。 そうした場合、会社が役員に対して損害賠償請求を行うのだが、役員同士が馴れ合って行わないことがある。しかし、会社が役員に対して損害賠償請求を行わない場合は、株主が会社に代わって役員に対して損害賠償請求を行うことができるのである(会社法847条。自分に対してではなく、会社に対して損害を賠償するように請求する)。 これを「株主代表訴訟」という。 また、会社役員は、会社以外の第三者に対して損害賠償責任を負う場合もある。第三者に意図的に損害を与えたわけでなくとも、役員としての職務の結果、第三者に損害が生じてしまった場合、その賠償責任を負うことがあるのである(会社法429条1項)。 例えば、適切な経営判断を行わず(これも善管注意義務・忠実義務違反)、会社の業績が悪化して、ある債権者に対して債務の履行ができなくなり、その債権者に損害を生じさせた場合、会社ではなく役員がその損害を賠償しなければならなくなることがある。   3 必要性が増す会社役員賠償責任保険 保険会社が最近この会社役員賠償責任保険に力を入れつつあるのは、その必要性が増してきているからである。 上述のとおり、もともと会社役員には役員として損害賠償責任を負うこととなるリスクがあるのだが、「物言う株主」が増え、そのリスクは高まりつつある。株主代表訴訟が提起される数も増えつつあり、請求される損害賠償の額も大きくなってきている。 また、社外取締役を導入する流れがあるが(会社法における社外取締役設置義務付けは見送られたものの、上場会社などには実質的に義務付け)、会社役員賠償責任保険が充実していないと、なり手を確保するのが難しいはずである。少なくともまともな人は、こんなリスクの高い社外取締役になりたがらないだろう(なりたがるのは、リスクの高さを認識していない人ということに)。 社外取締役を定着させるためには、会社役員賠償責任保険の充実が不可欠なのだ。  (了)
#79(掲載号)
#鈴木 広樹
2014/07/24
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《速報解説》 法人税基本通達等の一部改正で『生産性向上設備投資促進税制』の措置法通達(8項目)が創設~中小企業投資促進税制の上乗せ措置含め重要項目を紹介~

 《速報解説》 法人税基本通達等の一部改正で 『生産性向上設備投資促進税制』の措置法通達(8項目)が創設 ~中小企業投資促進税制の上乗せ措置含め重要項目を紹介~   税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 小幡 修大   国税庁より平成26年7月9日に、平成26年度税制改正に対応した「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)が公表された(6月27日付)。 以下では、第42条の12の5(生産性向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)関係及び第42条の6(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)関係のうち、注目すべき項目について解説する。 なお、本制度の手続等詳細については、論末の拙稿をご覧いただきたい。 Ⅰ 第42条の12の5(生産性向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)関係《新設》 措置法第42条の12の5第1項に規定する生産等設備とは、その法人が行う生産活動、販売活動、役務提供活動その他収益を稼得するために行う活動の用に直接供される減価償却資産で構成されているものをいう。 したがって、本店、寄宿舎等の建物、事務用器具備品、乗用自動車、福利厚生施設のようなものは、これに該当しないこととなるので注意が必要だ。 なお、一棟の建物が本店用と店舗用に供されている場合など、減価償却資産の一部が法人の生産等活動の用に直接供されているものについては、そのすべてが生産等設備となるので、判断を誤らないようにしたい。 措置法令第27条の12の5第2項第2号に規定する工具、器具及び備品の一事業年度における取得価額の合計額120万円以上かどうかの判定は、工具と器具及び備品とを区別してそれぞれごとに行う。したがって、一事業年度に取得した工具器具備品の全てを合計した金額ではないので注意が必要だ。 措置法令第27条の12の5第2項各号に規定する機械及び装置等の取得価額が160万円以上、120万円以上又は70万円以上であるかどうかを判定する場合において、その機械及び装置等が圧縮記帳の適用を受けたものであるときは、その圧縮記帳後の金額に基づいてその判定を行う。 本制度の税額控除限度額は、特定生産性向上設備等の取得価額に一定の割合を乗じて計算することとされているが、法人が取得等をして事業の用に供した特定生産性向上設備等について法人税法第42条又は第44条の国庫補助金等の圧縮記帳制度(以下「圧縮記帳制度」という)の適用を受ける場合には、その取得価額は以下のとおりとなる。   Ⅱ 第42条の6(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)関係《改正》 法人が各事業年度の中途において中小企業者等に該当しないこととなった場合においても、その該当しないこととなった日前に取得等をして指定事業の用に供した特定生産性向上設備等については、特定生産性向上設備等の即時償却又は税額控除の制度の適用ができるので、適用可否を誤らないようにしたい。 また、中小企業者等に該当していた期間内に取得等をして指定事業の用に供した減価償却資産の取得価額の合計額が一定の規模以上である場合において、当該期間のうちに特定中小企業者等に該当していた期間があるときの税額控除限度額は以下の金額による。 上記(2)の即時償却又は税額控除は、特例適用事業年度終了の日において中小企業者等に該当する法人が、特例対象事業年度の中小企業者等に該当していた期間内に取得等をして指定事業の用に供した特定生産性向上設備等について適用があるので適用可否を誤らないようにしたい。 なお、特例適用事業年度終了の日において特定中小企業者等に該当する法人が、特例対象事業年度の特定中小企業者等に該当していた期間内に取得等をして指定事業の用に供した特定生産性向上設備等に係る税額控除の対象額はその取得価額の合計額の10%に相当する金額による。 (了) 関連記事のご紹介↓↓
#78(掲載号)
#小幡 修大
2014/07/22
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9月12日(金)開催:笹岡宏保氏セミナー【最近の裁決事例から学ぶ】『財産評価に関する実務重要事項』 お申込受付を開始しました!

プロフェッションネットワーク主催の税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ。 TAC八重洲校にて9月12日(金)開催のお申込受付を開始しました! テーマは【最近の裁決事例から学ぶ】『財産評価に関する実務重要事項』。 今回も皆さまからご要望の多かったテーマを取り上げました。 セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
#Profession Journal 編集部
2014/07/22
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《速報解説》 個別通達の改正により「接待飲食費に係る控除対象外消費税」は50%損金算入を明確化 ~接待飲食費に関するFAQも該当問答を追加~

 《速報解説》 個別通達の改正により 「接待飲食費に係る控除対象外消費税」は50%損金算入を明確化 ~接待飲食費に関するFAQも該当問答を追加~   公認会計士・税理士 新名 貴則   平成26年度税制改正により「接待飲食費の50%損金算入」が導入されたことに対応し、「交際費等に係る控除対象外消費税」に関して、「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」の一部改正が行われた。 また、これに応じて国税庁は「接待飲食費に関するFAQ」の中に、「接待飲食費に係る控除対象外消費税の取扱い」というQ&Aを追加して公表した。 以下では、その内容について解説する。 なお、交際費課税に係る平成26年度税制改正については、下記の拙稿をご覧いただきたい。   1 控除対象外消費税とは 消費税の納税額は通常、課税売上に係る消費税額から課税仕入等に係る消費税額を控除した金額となる。したがって、税抜経理を採用している場合、正確には多少のズレは生じるが、期末の消費税の仕訳のイメージは次のとおりである。 しかし、次の場合には課税仕入等に係る消費税額の全額を控除することはできず、そのうち課税売上に対応する部分だけを控除できる。 したがってこの場合には、仕入税額控除ができない消費税額(控除対象外消費税)が生じることになる。 この控除対象外消費税は、原則として全額がその事業年度の損金に算入されるので、この場合の期末の消費税の仕訳のイメージは次のとおりである。   2 交際費等に係る控除対象外消費税 上記のとおり控除対象外消費税は、原則として全額がその事業年度の損金に算入される。 しかし、「交際費等に係る控除対象外消費税」は、税務上の交際費等として扱うこととされている。 したがって、中小法人の特例「年間800万円まで全額損金算入」が適用可能な法人を除き、原則として損金には算入されないことになる。 例えば、次のような場合である。 【前提条件】 ※簡便化のため、一括比例配分方式を選択しているものとする。 交際費等に係る消費税額800,000円のうち、課税売上に対応する600,000円(消費税額800,000円×課税売上割合75%)は、仕入税額控除が可能である。しかし、課税売上に対応しない残りの200,000円は仕入税額控除ができず、控除対象外消費税に該当する。 ここで、交際費等に係る控除対象外消費税200,000円は税務上の交際費等に含めることとされているので、この法人における交際費等の合計額は10,200,000円となる。 この結果、損金不算入額は10,200,000円となり、控除対象外消費税200,000円だけ損金不算入額が増加したことになる。 また、仮に「年間800万円まで全額損金算入」が適用可能であれば、損金不算入額は2,200,000円(10,200,000円-8,000,000円)となるが、この場合も控除対象外消費税200,000円だけ損金不算入額が増加する。   3 接待飲食費に係る控除対象外消費税 交際費等に係る控除対象外消費税の取扱いの概要は上記のとおりであるが、平成26年度税制改正により「接待飲食費の50%損金算入」が導入されたことから、「接待飲食費に係る控除対象外消費税」の取扱いはどうなるのかが問題となる。 つまり、次のいずれの取扱いとなるのか、ということである。 この点、冒頭で紹介した「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」の一部改正及び国税庁の「接待飲食費に関するFAQ」の追加公表により、上記②の取扱いとなることが明らかにされた。 例えば、次のような場合である。 【前提条件①】 ※簡便化のため、一括比例配分方式を選択しているものとする。 【前提条件②】 【前提条件①】は上記と同様であるため解説は省略するが、交際費等に係る控除対象外消費税は200,000円、交際費等の合計額は10,200,000円となる。 また、接待飲食費に係る消費税額のうち、控除対象外消費税は120,000円(480,000円×(100%-課税売上割合75%))である。この120,000円は接待飲食費として取り扱うので、接待飲食費の合計額6,120,000円(接待飲食費6,000,000円+控除対象外消費税120,000円)の50%、すなわち3,060,000円は損金に算入されることになる。 この結果、交際費等の損金不算入額は7,140,000円(交際費等10,200,000円-接待飲食費の50% 3,060,000円)となる。 仮に「年間800万円まで全額損金算入」が適用可能な中小法人であれば、このケースでは損金不算入額は2,200,000円(交際費等10,200,000円-8,000,000円)となるため、「接待飲食費の50%損金算入」より「年間800万円まで全額損金算入」を選択した方が有利である。 したがって、結果的には接待飲食費に係る控除対象外消費税の50%が損金算入可能でも、それによるメリットは生じない。 ただし、接待飲食費と接待飲食費に係る控除対象外消費税の合計額が1,600万円を超える場合には、中小法人においても「接待飲食費の50%損金算入」を選択した方が有利となる。   4 帳簿書類への必要事項の記載 接待飲食費の50%を損金算入するには、領収書等の帳簿書類に下記の事項を記載して保存することが要件となっている。 合理的な方法により接待飲食費に係る控除対象外消費税を算定した計算資料は、上記の「その他飲食費であることを明らかにするための必要事項」を記載した書類に該当するとされた。したがって、この計算資料を保存することで要件が満たされる。 (了)
#78(掲載号)
#新名 貴則
2014/07/18

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