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固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第12回】「不動産を買い受けたが賦課期日である1月1日時点の所有者でない者が、固定資産の価格に不服がある場合に訴えの原告適格者になることができるか否かが争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第12回】 「不動産を買い受けたが賦課期日である1月1日時点の所有者でない者が、固定資産の価格に不服がある場合に訴えの原告適格者になることができるか否かが争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税の価格について不服を申し出ることができる人は 固定資産税は、毎年1月1日を賦課期日として、土地、家屋、償却資産を所有している者が固定資産課税台帳に記載された登録価格(以下「固定資産の価格」という)を基に算定した税額を固定資産の所在する市町村に納める税金である(地方税法第343条第1項、第349条第1項、第359条)。 この固定資産の価格に不服な場合は、台帳登録の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後3ヶ月を経過するまでの間、審査の申出をすることができる。審査の申出をすることができるのはその固定資産税の納税者、つまりその年1月1日に土地、家屋、償却資産を所有している者(地方税法第343条第1項、第432条第1項)である。 しかし、1月1日の所有者以外でも審査の請求をすることはできる。たとえば、1月1日の所有者の相続人は、審査請求人の地位を承継する(地方税法第433条第2項、行政不服審査法第15条第1項)。また、審査請求の目的である処分に係る権利を譲り受けた者は、審査庁の許可を得て、審査請求人の地位を承継することができるとされている(地方税法第432条第2項、行政不服審査法第15条第6項)。 では、その不動産を買い受けた人は、固定資産の価格について不服がある場合、原告として訴えることができるのか。 この件に関して、争われた事案について検討する。   ▷どのような事案か この事案の経緯は次のようなものである。   ▷事案の争点 争点は、平成13年1月1日の所有者であるYではなく、平成13年3月16日に買い受けたXに原告適格があるか否かである。   ▷地裁での原告(X)の主張 地裁において、原告(X)は以下のように主張した。   ▷地裁の判断 地裁は、次のような理由からXの請求を却下した。   ▷高裁でのXの主張 地裁判決に不服なXは控訴した。 Xは、地裁での主張に付け加え、30日以内に審査の決定をしなければならないとされているのに、1,214日もかかってなされており、常識の範囲を超えたものであると主張した。   ▷高裁の判断 高裁は、次のような理由からXの請求を棄却した。 このように、固定資産税評価額については、1月1日時点の所有者を対象とするのが原則であり、買受け等により所有者となったような場合で審査を申し出るためには許可が必要となるので、許可がない場合は申出もできず、訴えることもできない。 不動産取得税の場合も、原則として固定資産課税台帳に登録されている価格が課税標準となる。不動産取得税の納税義務者は不動産を取得した者であり、その価格の影響を受けることになるのだが、通常、1月1日時点の所有者ではない。この場合も不服を訴えることはできないのだろうか。 *  *  * 次回は、不動産取得税の課税標準である価格について争われた事例を検討する。 (了)

#No. 450(掲載号)
#菅野 真美
2021/12/23

グループ通算制度における会計の留意事項 【第2回】「開示編」

グループ通算制度における会計の留意事項 【第2回】 (最終回) 「開示編」   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   2020年3月27日に「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)が成立し、2022年4月1日以後に開始する事業年度からは、従来の「連結納税制度」から「グループ通算制度」に移行する。 これに伴い、2021年8月12日にASBJより、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(以下「実務報告」という)」が公表された。 グループ通算制度における会計の留意事項として、本連載は2回にわたって解説する。今回は「開示編」となる。   1 表示 (1) 法人税及び地方法人税に関する表示 実務報告に定めのあるものを除き、法人税及び地方法人税に関する表示は、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」の定めに従う(実務報告24)。法人税及び地方法人税に関する表示については、以下が実務報告において定められているが、連結納税と同様の取扱いである。 (※) 「通算税効果額」とは、法人税法第26条第4項に規定する通算税効果額をいい、損益通算、欠損金の通算及びその他のグループ通算制度に関する法人税法上の規定を適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額に相当する金額として、通算会社と他の通算会社との間で授受が行われた場合に益金の額又は損金の額に算入されない金額をいう(実務報告5(10))。 (2) 税効果に関する表示 税効果に関する表示について、実務報告では以下が定められている。連結納税と同様の取扱いである。   2 注記事項 グループ通算制度の適用により、以下を注記する必要がある。   (連載了)

#No. 450(掲載号)
#西田 友洋
2021/12/23

税理士事務所の労務管理Q&A 【第5回】「在宅勤務導入に当たっての留意点①(労働時間管理)」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第5回】 「在宅勤務導入に当たっての留意点①(労働時間管理)」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   コロナ禍や災害時の対応として、在宅勤務等のテレワークを導入する企業が増えています。テレワークとは、労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務のことをいいますが、業務を行う場所に応じて、次の分類があります。 〈テレワークの種類〉 今回は、在宅勤務の導入に当たっての留意点として、労働時間の管理等について、解説します。 * * 解 説 * * 1 在宅勤務の適用労働者等を就業規則で規定 まず、在宅勤務を導入する場合は、その適用労働者、在宅勤務を認める条件、期間、場所等を就業規則等に定めておく必要があります(下記〈就業規則例〉参照)。 〈在宅勤務者の就業規則例〉   2 労働時間管理 (1) 在宅勤務における労働時間 始業及び終業の時刻や所定労働時間をあらかじめ定めなければなりませんが、必ずしも一律の時間に労働する必要がないときには、所定労働時間内で、在宅勤務を行う労働者ごとに始業及び終業の時刻を定めることも可能です。 また、フレックスタイム制は、労働者が始業及び終業の時刻を決定することができる制度であるため、在宅勤務者には適しています。 (2) 始業及び終業時刻の確認 労働時間の管理として、使用者が始業及び終業時刻を確認・記録する方法が厚生労働省ホームページの「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」に定められています。 〈使用者が始業・終業時刻を確認・記録する方法〉 (3) 時間外労働 始業及び終業時刻を確認できても、適切に仕事をこなしているか否か、特に時間外労働等をどのように考えたらよいのかが問題となります。 時間外労働については、下記の対応が考えられます。 (4) 事業場外労働のみなし労働時間制と在宅勤務 「事業場外労働のみなし労働時間」とは、労働者が仕事の全部若しくは一部を事業場外で行い、使用者が労働者の労働時間を正確に把握することが難しい場合に、前もって決定された時間を働いたものとみなす制度です(連載【第2回】参照)。 在宅勤務は事業場外労働になりますが、インターネット等を通じて使用者が指揮監督をすることができ、労働時間の算定が可能な場合が多いですが、下記の2つの条件を満たすことができれば、みなし労働時間制を採用することができます。 〈在宅勤務における”みなし労働時間制”〉   3  在宅勤務導入に向けて 労働時間管理はもちろんのこと、労働者が在宅勤務を行う場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働関係法令が適用されることとなります。 在宅勤務を導入する場合は、使用者と労働者の間で十分に協議することが大切です。 *   *   * 次回も在宅勤務導入に当たっての留意点について解説します。 (了)

#No. 450(掲載号)
#佐竹 康男
2021/12/23

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第1回】「民法・不動産登記法の改正及び相続土地国庫帰属法成立の背景」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第1回】 「民法・不動産登記法の改正及び相続土地国庫帰属法成立の背景」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    ◆ ◆ ◆ はじめに ◆ ◆ ◆ 所有者不明土地の問題を解消するため、所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の両面から、令和3年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)が成立した(同月28日公布)。成立した法律の中には、相続の登記を義務化し、義務を怠った場合には10万円以下の過料に処せられるという社会的にインパクトの強い内容も含まれている。 そこで、本Web情報誌の中心的読者であり、かつ相続実務に関わることが多いと思われる税理士、公認会計士、企業の実務担当者にとっては改正法の知識を習得することは不可欠といえる。 本連載は、上記の読者を対象に改正法が実務にどのような影響を与えるのか、できるだけ簡潔に、かつ、分かりやすく解説することを目的とする。   【Q】 今回の民法・不動産登記法改正及び相続土地国庫帰属法成立の背景について教えてください。 【A】 所有者不明土地の発生予防と、すでに発生している所有者不明土地の利用の円滑化の両面から、総合的な見直しがなされた。 -《解説》- 人口減少等に伴い土地利用のニーズも減っている。使われない土地が増えると、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない、又は、判明しても所有者の所在が不明で連絡が付かない土地(所有者不明土地)や、管理されず放置される土地(管理不全土地)も増えていく。 この所有者不明土地や管理不全土地の増加により、土地の取引、防災等のための公共事業、森林や農地の管理など様々な点で支障が生じている。古くからあった問題だが、東日本大震災の復興の際に、高台の所有者が不明のために災害復興住宅が建設できなかったことで一般に広く知られるようになった。 このような必要性を踏まえて、所有者不明土地の発生予防と、すでに発生している所有者不明土地の利用の円滑化の両面から、「民法等の一部を改正する法律」と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)が令和3年4月21日に成立、同月28日に公布された。 両法律の施行日を大まかにまとめると、以下のようになる。 このように改正法は、段階的に順次施行することとされている。詳細な施行期日は、本連載の中で個別に触れていく。 (※) 法務省資料をもとに筆者作成。 (了)

#No. 450(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2021/12/23

実質的支配者リスト制度の創設と企業への影響 【第2回】「実質的支配者リストの作成と添付書面」

実質的支配者リスト制度の創設と企業への影響 【第2回】 (最終回) 「実質的支配者リストの作成と添付書面」   貝塚司法書士事務所 司法書士 植木 克明  司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   法務局(商業登記所)における株式会社の実質的支配者(Beneficial Owner)リスト(以下「BOリスト」という)制度が創設され、2022年1月31日より制度が開始する。前回は、この制度が創設された背景や本制度の概要を解説した。 本稿では、本制度の対象となる実質的支配者の考え方を中心に、BOリストの作成の流れや添付書面について解説を行う。   7 BOリスト制度の利用の流れ BOリスト制度の利用の流れは次のとおりである(※1)。(ⅰ)から(ⅳ)は申出をする各株式会社若しくはその代理人が、(ⅴ)と(ⅵ)は申出を受けた法務局(登記官)が行う。 (※1)  BOリスト制度に関する規律は「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則」(令和3年法務省告示第187号)において定められている。   8 各手順のポイント (1) BOリストの作成 ① 実質的支配者の定義 あらためて、実質的支配者とは、法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人等をいい、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という)4条1項4号及び犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(以下「犯収法施行規則」という)11条2項に規定されている。 本制度の対象となる実質的支配者は、犯収法施行規則11条2項1号に該当する者を指す。よって、具体的に制度の対象となる実質的支配者は、以下のとおりである。BOリストの作成には、まず自社の実質的支配者に該当する者が誰かを特定しなければならない。そして、BOリストには申出日前1ヶ月以内の日における実質的支配者を記載することになる。 上記①②のいずれにも該当しない者は、本制度の対象ではない。また、①②いずれの場合も、該当する自然人が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除くとされている(※2)。例えば、株主が病気や認知症の進行などにより経営意思を喪失している場合や、いわゆる「名義株」がこれに該当しうる。 (※2) 警察庁・共管各省庁『「犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令案」等に対する意見の募集結果について』の97番、98番参照。 ② 直接保有、間接保有 上記①②のいずれの場合も、「直接又は間接に有する」という表現がなされているが、「直接に有する」とは、自然人自身が直接株式会社の50%ないし25%を超える議決権を有している場合を指す(直接保有)。 【直接保有の例】 〈ケース1〉株主Aが実質的支配者 〈ケース2〉株主A、Bが実質的支配者 これに対して「間接に有する」とは、実質的支配者がその「支配法人」(実質的支配者が議決権の総数の50%超の議決権を有する法人)を通じて株式会社の議決権を保有していることを指す(間接保有)(※3)。 (※3) 間接保有の場合は、BOリストに別紙として支配関係図を記載することになる(法務省ホームページ「実質的支配者リスト制度の創設(令和4年1月31日運用開始)」の「実質的支配者リスト(みほん(1/2))~間接保有の場合~」参照)。 【間接保有の例】 〈ケース3〉株主Aが実質的支配者① 〈ケース4〉株主Aが実質的支配者② いずれもY社は、支配法人と称される(犯収法施行規則11条3項2号)。〈ケース4〉の場合は、株主AはX社の株式を10%直接保有し、さらに支配法人であるY社を通じて20%間接保有することから、合計30%保有することとなり、株主Aが実質的支配者に該当することとなる。 間接保有の場合、申出するBOリストには、実質的支配者の本人特定事項の記載のほか、さらに支配関係図の作成が求められる。 ③ 議決権の算定 議決権の数は、原則、株主がその有する株式1株につき1個の議決権を有するため(1株1議決権の原則。会社法308条)(※4)、この考え方をもとに自社の株主名簿等に記載された株主とその株式数より議決権を確認し、実質的支配者に該当する者を検討する。実質的支配者に誰が該当するかを検討するためには、株式会社の総議決権数を明らかにした上で、各株主の有する議決権割合を計算して判定することになるが、議決権数の算定が問題になるケースがある。具体的な例としては次のとおりである。 (※4) 1株1議決権の原則の例外として、種類株式、単元株制度や株式の属人的定めの場合がある。 (ア) 相互保有株式 株式会社が総株主の議決権の25%(4分の1)以上を確保して、その支配下においている株主は、支配をしている株式会社の株主総会において議決権を行使できないとされている(会社法308条1項かっこ書)。 【相互保有株式のイメージ】 〈ケース5〉 〈ケース6〉 一方で実質的支配者を判定する上で、相互保有株式は議決権数に含むとされている。例えば、〈ケース5〉のような相互保有の形態であっても、A社を支配法人としてB社の議決権数の25%を超える議決権数を間接保有している株主がいれば、当該株主が実質的支配者となる(A社が上場会社等であり、直接25%を超える議決権数を有する場合には、当該上場会社等が実質的支配者となる場合もある)。 (イ) 議決権制限株式 株式会社は、例えば剰余金の配当、役員の選任等の議案に対する株主総会における議決権行使の可否や、議決権数等について株式の種類ごとに取扱いを別にする、いわゆる「種類株式」を発行することができる(会社法108条1項)。 本制度では種類株式のうち、取締役、会計参与、監査役又は執行役等の役員の選任及び定款変更に関する議案(これに相当するものを含む)の全部につき株主総会で議決権を行使することができない株式(議決権制限株式)に係る議決権は、実質的支配者を判断する上での議決権から除かれる(犯収法施行規則11条2項1号かっこ書)。議決権制限株式は、議案によって議決権を行使できるが、実質的支配者の判定上の取扱いに注意が必要である。 (ウ) 自己株式 株式会社が自ら保有する自己株式は、議決権を行使することができない(会社法308条2項)。そのため、総議決権数や保有数を算定する場合に、計算に含めないことになる。 ④ 上場会社が実質的支配者の場合 国、地方公共団体、人格のない社団又は財団、上場会社等及びその子会社は、BOリストの制度上、自然人とみなされる(犯収法施行規則11条4項)。よって、上場会社が実質的支配者に該当する場合には、当該上場会社の商号・本店を実質的支配者としてBOリストに記載する。 (2) 添付書面 申出にあたっては、以下の添付書面を添付しなければならない。 【添付が必要な書面(必須)】 【添付することができる書面(任意)】 【添付することができる書面(任意)】を、あえて添付すべきかどうかという点で判断に迷うことがあるが、BOリストには当該書面を添付した場合は、その旨を記載するため、実在する株主であることがわかるなど、より信頼性の高いBOリストであるとの印象を提出先に持ってもらうことができるであろう。 (3) 管轄 BOリスト等の提出は、申出会社の本店の所在地を管轄する登記所において行う。郵送による申出も認められている。 (4) 認証文付きBOリストの交付 BOリストの保管が認められれば、認証文付きのBOリストの写しを交付してもらうことができる。手数料は無料である。再交付も認められるが、会社の本店や商号が変わっている場合や、代表者が変わっている場合は認められない。また、株主に異動があった場合も、あらためてBOリストの届出を行うとよいだろう。   9 終わりに 実質的支配者リスト制度は、国際的な要請から、我が国の法人の透明性の向上、マネーロンダリングの目的による法人の悪用の防止のためのさらなる対策の強化を背景とし、犯収法の特定事業者である銀行等金融機関を中心に利用が見込まれる制度である。 一方、本稿にあるように、実質的支配者の判定には、会社法や犯収法などの関連法令の理解が不可欠である。商業登記・企業法務に取り組む司法書士の立場から見ると、定款変更、役員変更など株主総会決議に基づく登記申請の際に添付を求められる株主リストという書類があるが、その作成の経験を通じて、実質的支配者の判定やBOリストの作成に素養があると感じている。 本制度が、我が国の株式会社に対し、国際的にもその信用の維持を図り、かつ取引のますますの安全と円滑に資する制度となると感じるとともに、我々も株式会社等依頼者からの相談・依頼を通じて制度の円滑な運用の一助となるべく業務に取り組んでまいりたい。 (連載了)

#No. 450(掲載号)
#植木 克明、北詰 健太郎
2021/12/23

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例66】株式会社新生銀行「(開示事項の変更)当行株式に対する公開買付けに関する意見表明の変更(中立)および臨時株主総会開催中止に関するお知らせ」(2021.11.24)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例66】 株式会社新生銀行 「(開示事項の変更)当行株式に対する公開買付けに関する意見表明の変更(中立)および臨時株主総会開催中止に関するお知らせ」 (2021.11.24)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、新生銀行株式会社(以下「新生銀行」という)が2021年11月24日に開示した「(開示事項の変更)当行株式に対する公開買付けに関する意見表明の変更(中立)および臨時株主総会開催中止に関するお知らせ」である。 SBIホールディングス株式会社(以下「SBI」という)による新生銀行に対するTOB(株式公開買付け)への意見を反対から中立へと変更し、翌日25日に予定されていた、そのTOBへの買収防衛策についての株主の意思を確認するための株主総会を中止することにしたという内容である。   2 期間延長 SBIは2021年9月9日に「株式会社新生銀行株式(証券コード:8303)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示して、その翌日の10日からTOBを開始した(公開買付者はSBIの完全子会社であるSBI地銀ホールディングス株式会社。新生銀行も同日「SBIホールディングス株式会社およびSBI地銀ホールディングスによる当行株式の公開買付けに関するお知らせ」を開示)。 それに対して、新生銀行は、まず2021年9月17日に「SBI地銀ホールディングス株式会社による当行株式に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ」を開示して(併せて「SBI地銀ホールディングス株式会社からの当行株式を対象とする公開買付けの開始を受けた、株主意思確認を必須前提とする買収防衛策の導入に関するお知らせ」と「臨時株主総会招集及び新株予約権無償割当てに係る基準日設定に関するお知らせ」も開示)、TOBへの意見を一旦留保した上で、今後反対し、買収防衛策を実施すべきと判断した場合は、それについての株主の意思を確認するための株主総会を開催するとした。 そして、TOBの期間は2021年9月10日から10月25日までとされていたのだが、その「株主意思確認総会の開催の確実を期すため」、法令上認められる最長の期間である60営業日にあたる12月8日まで延長することをSBIに対して要請するとし、さらにSBIがその延長要請に応じない場合は、「当行株式1株につき1個の割合でなされる甲種新株予約権の無償割当て(中略)のみを先行して暫定的に実施した上で、株主意思確認総会を開催し、株主の皆様のご意思を確認する」とした(「臨時株主総会招集及び新株予約権無償割当てに係る基準日設定に関するお知らせ」において決められた「新株予約権無償割当てに係る基準日」は、この甲種新株予約権無償割当てに係る基準日)。 これに対して、SBIは猛反発し、2021年9月17日に開示した「株式会社新生銀行株式(証券コード:8303)に対する公開買付けに関して」では、次のように記載している。 しかし、その後、SBIは、条件付きでTOBの期間を2021年11月24日まで延長するという提案を新生銀行に対して行ったものの(2021年9月24日「株式会社新生銀行(証券コード:8303)からの『公開買付期間終了日の延長の要請』に対する当社の対応について」)、新生銀行は応じなかったため(2021年9月27日「当行からの公開買付期間の延長要請に対するSBI地銀ホールディングス株式会社からの回答状況に関するお知らせ」)、結局、新生銀行の要請どおりに12月8日まで延長することとなった(2021年9月29日「株式会社新生銀行(証券コード:8303)に対する公開買付期間延長のお知らせ」)。SBIはTOBを一気に進めたかったようだが、出鼻を挫かれてしまったのである。   3 条件付き反対 その後、新生銀行は2021年10月21日に「SBI地銀ホールディングス株式会社による当行株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対、但し賛同のための条件を提示)のお知らせ」を開示して、TOBへの意見を表明したのだが、それは条件付き反対という珍しいものだった。反対意見を表明するが、2021年11月19日までに以下の条件が満たされた場合は賛同意見を表明するというのである。 SBIは新生銀行の当初の対応を「対象者の経営陣の保身」と批判していたが、これはあくまで株主側に立った条件である。これに対してSBIは2021年10月21日に「株式会社新生銀行(証券コード:8303)による公開買付けに対する意見表明及び臨時株主総会の開催について」を開示し、①の条件について次のように反論した。 しかし、前半部分は「法律に反しているわけではないから、問題ないだろう」という主張であり(こうした主張を行う会社に対しては危うさを感じてしまうのだが)、後半部分も「きちんとした手順を踏んでいたら、時間がかかってしまう」という主張である。 なお、①の条件には、「(又は、買付予定数の上限及び下限のない公開買付け(「第2回公開買付け」)を2022年6月8日(又は、SBIHDらとの協議の上、2022年6月8日以降の日で当行が指定する日)までに開始すること)」という括弧書きが付されているが、その理由について新生銀行は開示の中で次のように記載している。   4 議決権行使助言会社による賛成推奨 新生銀行は、2021年10月21日、意見表明と同時に「SBI地銀ホールディングス株式会社からの当行株式を対象とする公開買付けに関する臨時株主総会の開催に関するお知らせ」を開示し、買収防衛策についての株主の意思を確認するための株主総会を2021年11月25日に開催するとした。そして、その株主総会の議案への賛成推奨を議決権行使助言会社2社から獲得する(2021年11月5日に「議決権行使助言会社グラスルイス社による当行臨時株主総会議案に対する「賛成」推奨レポートについて」を、2021年11月8日に「議決権行使助言会社ISS社による当行臨時株主総会議案に対する「賛成」推奨レポートについて」を開示)。 議決権行使助言会社による賛成推奨にはさすがに慌てたのか、SBIは2021年11月12日に「株式会社新生銀行(証券コード:8303)の買収防衛策に対する議決権行使助言会社のレポート発行を受けた公開買付けに関する補足説明」を開示し、議決権行使助言会社が示している以下の賛成推奨の根拠のそれぞれについて反論した。 しかし、説得力のある内容とは思われず、文面からはSBI側の焦りが感じられる。買付数に上限を設けていることについては、相変わらず「きちんとした手順を踏んでいたら、時間がかかってしまう」という主張で終わっているし、買付価格の引上げについても、次のような「経営陣の保身だ」という批判で終わっている。 また、「(3) 本公開買付け成立後の事業計画の具体性及び公的資金の返済計画に対する懸念」に対しても、具体的と言える計画が示されるわけではなく、次のような記載で終わってしまっている。   5 株主総会中止の理由 新生銀行の抵抗の仕方は見事だった。それに対して、SBIの方は、新生銀行に振り回されているようであった。まさか新生銀行がこんな抵抗をしてくるとは想定していなかったのだろう。 しかし、新生銀行は、株主総会の開催予定日である2021年11月25日の前日24日になって、今回の「(開示事項の変更)当行株式に対する公開買付けに関する意見表明の変更(中立)および臨時株主総会開催中止に関するお知らせ」を開示した。TOBへの意見を反対から中立へと変更し、翌日25日の株主総会も中止にするというのだが、その理由について次のように記載している。 新生銀行のそれまでの開示と比べると、歯切れが悪く、釈然としない。その前日23日、政府(預金保険機構と株式会社整理回収機構で合計21.78%の新生銀行株式を保有)は株主総会の議案に賛成しないと報道されていた(2021年11月23日付日本経済新聞など)。株主総会を開催しても否決される可能性が高いため、開催を中止することにしたのだろうか。 あくまで筆者の勝手な推測だが、政府から株主総会の中止を促されたのではないだろうか。政府としては、新生銀行の現経営陣とSBIのどちらに今後の新生銀行の経営を委ねるかについて明確な意思表示を行いたくなかったはずである。仮にSBIに委ねることにした場合、それでもなかなか公的資金の回収が進まなかったとしたら、後に政府の判断が批判されることになるかもしれない。 なお、預金保険機構は両社に質問書を出していた(新生銀行は2021年11月12日に「預金保険機構への回答について」を、SBIは2021年11月12日に「預金保険機構からの質問に対する回答について」を開示)。もしも株主総会の中止について政府からの働きかけがあったのだとしたら、預金保険機構による質問も単なるパフォーマンスということになるのだろうか。   6 勝者は? SBIが新生銀行の経営陣に据えようとしている方の中には元金融庁長官が、SBIの経営陣の中には大臣経験者や官庁出身者がいる(第23期有価証券報告書)。SBIは、TOBを開始する前から既にその成功を確信していたのかもしれない。 結局、TOBはSBIの目標どおりに終了し、SBIは、47.77%の議決権を取得して、新生銀行を子会社化した(SBIは2021年12月11日に「株式会社新生銀行(証券コード:8303)の株式に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ」を、新生銀行は2021年12月13日に「SBI地銀ホールディングス株式会社による当行株式に対する公開買い付けの結果、並びに親会社、主要株主である筆頭株主、及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」を開示)。 この対立劇の勝者は誰なのだろうか。SBIなのだろうか。主張どおりに新生銀行の経営を改善して公的資金を返済するまでは、SBIが勝者とは言えないように思われる。 (了)

#No. 450(掲載号)
#鈴木 広樹
2021/12/23

《速報解説》 財産債務調書制度の見直し~令和4年度税制改正大綱~

 《速報解説》 財産債務調書制度の見直し ~令和4年度税制改正大綱~   税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 角田 壮平   1 改正趣旨 所得2,000万円以下の者は、仮に高額の資産を保有していたとしても、現行の財産債務調書制度の下では調書の提出義務がなく、課税庁が納税者の資産の異動状況等について、十分に把握できているとは言い難い状況となっている。この状況を是正するために、令和3年12月10日に公表された「令和4年度税制改正大綱」(与党大綱)では、提出義務者の見直しが示された。 また、現行の提出期限(3月15日)までに、保有財産の種類・数量・価額を正確に算出・記載することは必ずしも容易でないことを勘案し、提出期限を延長する措置も掲げられている。その他、記載事項の見直し等も改正事項に盛り込まれた。 以下ではその概要を紹介する。   2 改正内容及び適用時期 (1) 提出義務者の見直し  適用時期 令和5年分以後の財産債務調書について適用する。 (2) 提出期限の見直し 適用時期 令和5年分以降の財産債務調書(又は国外財産調書)について適用する。 (3) 提出期限後に財産債務調書等が提出された場合の宥恕措置の見直し 適用時期 令和6年1月1日以後に提出される財産債務調書(又は国外財産調書)について適用する。 (4) 記載事項の見直し 適用時期 令和5年分以降の財産債務調書(又は国外財産調書)について適用する。 (了)

#No. 449(掲載号)
#角田 壮平
2021/12/23

《速報解説》 金融庁が「記述情報の開示の好事例集2021」を公表~CGコードの改訂等で開示充実の取組みも進む「サステナビリティ情報」に関する開示の好事例をまとめる~

《速報解説》 金融庁が「記述情報の開示の好事例集2021」を公表 ~CGコードの改訂等で開示充実の取組みも進む「サステナビリティ情報」に関する開示の好事例をまとめる~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年12月21日、金融庁は、「記述情報の開示の好事例集2021」(サステナビリティ情報に関する開示)を公表した。 これは、「サステナビリティ情報」に関する開示の好事例を取りまとめたものである。「サステナビリティ情報」に関する開示は、近年、社会的な関心が高まっている項目の1つであり、コーポレートガバナンス・コードの改訂等で開示の充実に向けた取組みが進められているところである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 気候変動関連の開示例 1 投資家・アナリストが期待する主な開示のポイント 次の事項をあげている。 2 好事例のポイント 次のことが記載されている。   Ⅲ 経営・人的資本・多様性等の開示例 1 投資家・アナリストが期待する主な開示のポイント 次の事項をあげている。 2 好事例のポイント 次のことが記載されている。 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓

#No. 449(掲載号)
#阿部 光成
2021/12/22

《速報解説》 監査役協会、コロナ禍が企業に与えた影響や監査役等の監査活動の変化についてアンケート調査を踏まえて分析~コロナ禍における監査の視点の在り方や監査手法及び監査の課題を明らかに~

《速報解説》 監査役協会、コロナ禍が企業に与えた影響や 監査役等の監査活動の変化についてアンケート調査を踏まえて分析 ~コロナ禍における監査の視点の在り方や監査手法及び監査の課題を明らかに~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年12月20日、日本監査役協会 ケース・スタディ委員会は、「企業におけるコロナ禍の影響および監査役等の監査活動の変化について」を公表した。 これは、コロナ禍における監査の視点の在り方や監査手法及び監査の課題を明らかにするとともに、監査活動に対する今後の方向性を示すものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 日本監査役協会の会員のうち、2,222社を対象としたアンケートを実施し、1,429社(回答率64.3%)から回答を得ている。 「コロナ禍における各社の実態及び監査役等の監査活動の変化についてのアンケート調査」自由記述回答集(抜粋版)も公表されている。 1 社内体制等の変化 ほとんどの会社がリモートワークを導入しており、それに伴う勤務体制の調整や規程の整備は、アンケート調査時点ですでにそれぞれ約半数の会社が実施している。 リモートワークを推進するために稟議決裁制度を見直した企業は全体の2割であり、そのほとんどの会社が「電子稟議、電子契約、電子認証等の導入」をしたと回答している。 社内体制等の変化におけるリスクとして、「リモートワークができない社員への対応」、「心身面の負担の増加」、「社員間のコミュニケーション不足」との回答が多数にのぼり、リモートワークにおける従業員間での業務負荷や不公平感、コミュニケーション不足や不安感などに起因する心身への影響が懸念されている。 リモート会議の導入により時間調整の容易化や開催頻度の増加、逆に不要な会議の削減など利便性や効率性は向上した一方、「通信障害や通信機器不具合の発生」や「データの情報漏洩」、セキュリティの脆弱性などのリスクが指摘されている。 コロナ禍によって新たに発生又は顕在化したリスクとして、業績悪化や社員の意欲低下などによる決算操作・横領のリスク、取引先のリモートワークによる検収の遅れによる資金回収の遅れ、社員の安全確保、社員の健康管理、クラスター発生時等万一の場合の事業継続リスクなど様々なリスクが指摘されている。 2 コロナ禍における監査活動の変化 監査役等の監査活動に支障が出ていないか、どの程度監査活動を実施できたのか、課題などの確認に加え、新たな監査手法や、各社における監査の工夫等についても調査している。 コロナ禍という新たなリスク要因への対処で「リスクマネジメント、労務管理、BCP(感染防止策を含む)、情報セキュリティ」への監査の時間が増加し、監査役等は会社のコロナ禍への対応が適切かどうかに気を配っていることがうかがえる。 一方、「内部統制システムの整備・運用」への対応が増加した企業は2割以下にとどまっている。 オンライン会議やリモートでのヒアリングはほとんどの会社で実施されていた。 電子データの送受信やクラウド等を活用したデータの入手は、各社での電子化やIT環境整備の進捗状況によるため、導入の程度は様々であった。 現場確認の手段としては写真、動画、映像の利用が挙げられたが、リアルタイム映像で現場視察をしたとの回答は少数であった。 国内・海外往査等の代替手段として他者の監査に依拠したとの回答のうち、依拠した他者として、国内は内部監査部門が約82%、海外は会計監査人が約63%となり、渡航制限がかかる中で想定された結果であった。 3 会計監査人の監査の変化 会計監査人の監査方法の変化としては、来社頻度が減少しリモート監査が増加したとの回答が大多数であった。 また、監査時間(工数)が増加した会社の方が多かったが、監査時間に変化はないとの会社も一定数あった。 課題として、会計監査人のリモートワークに対応するために紙の資料を電子データ化する経理部門等の作業量が増加したり、会計監査人が提出資料の依頼に際して対面で確認することが難しいためメールでの依頼が不的確になったりするケースもあり、資料がスムーズに提供できず証拠や資料等の確認に時間がかかり、会計監査人の監査業務にも遅れが生じたなどがあげられている。 4 監査役会の監査報告の審議方法など 監査役会は「リモートでの開催回数が増加」「監査役等のリモートでの出席が増加」がそれぞれ7割程度を占め、感染防止対策としてリモートワークの実施やディスタンスの確保が行われている。 常勤監査役等のリモートワークの実施割合は、「週1未満」が43.6%であり、半数近くの常勤監査役等はほとんどリモートワークを行っていないと考えられる。 監査役会の監査報告を作成するための監査役会については、半数を超える会社において実際に一堂に会して開催されていた。 全員又は一部のリモート参加により監査役会監査報告を作成した会社での記名押印方法については、監査報告を後日回付して押印している会社がコロナ禍以降では約7割であり、コロナ禍前は会議の場での記名押印が5割以上であったことから、変化が生じている。 5 監査役等の監査への提言 次の提言が記載されている。 そのほか、社内環境等の変化に伴う留意事項(職員の心身の健康への配慮など)についても記載されている。 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓

#No. 449(掲載号)
#阿部 光成
2021/12/22

《速報解説》 KAMの強制適用初年度における検討プロセスに対する監査役等の関与について、監査役協会が調査結果を公表~調査から傾向を把握し好事例抽出の試みも~

《速報解説》 KAMの強制適用初年度における検討プロセスに対する 監査役等の関与について、監査役協会が調査結果を公表 ~調査から傾向を把握し好事例抽出の試みも~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年12月20日、日本監査役協会 会計委員会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用初年度における検討プロセスに対する監査役等の関与について」を公表した。 これは、KAM強制適用初年度となる2021年3月期決算の監査の対応を踏まえ、各社における検討プロセス、監査役等の関与状況、KAM導入による効果を調査し、その傾向を把握するとともに、今後の実務の参考となる好事例の抽出を試みたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 日本監査役協会の3月決算の上場会社の会員2,045社に対してアンケート調査を実施し、1,051件(51.4%)の回答を得ている。 研究にあたっては、「監査役等のKAMの検討プロセスへの関与」について重点的に検討すべきとの観点から、あえてKAMの選定項目や表現といった記載内容よりも、検討プロセス自体にフォーカスし、監査役等の対応状況や検討の視点、コミュニケーションの状況の変化に重きを置いているとのことである。 1 KAM候補となる項目の変遷 KAM候補となる項目が監査人から提示されたのは、期初(監査契約締結~監査計画策定)段階とするものが半数強である(個別:54.0%、連結:56.4%)。 KAM候補の個数の変化のタイミングとして多かったものは、3月末時点(個別:32.9%、連結:32.2%)、第3四半期報告時点(個別:29.5%、連結:30.8%)である。 また、個数変化は増加例(個別:73、連結:87)よりも減少例(個別:475、連結:528)の方が多く、全体の平均個数を見ても、期初の候補から絞り込みが行われている傾向があるとのことである。 2 ドラフトの提示・アップデート時期 監査計画策定段階までにドラフト提示ありと回答したのは全体の30.4%であり、全体の約7割の会社で年内(12月)までにドラフトの提示があったとのことである。 ドラフトのアップデート回数とタイミングについては、1回が最多(30.0%)、0~3回の合計で85.6%であり、大半の会社が4月以降にドラフトのアップデートを実施している。 3 監査時間の変化 KAMの検討プロセスは、項目選定等に関するコミュニケーションや監査報告作成段階での具体的な記載に関する議論といった新たな要素があり、監査時間に影響を及ぼすことが考えられるが、アンケートの全体数値としては「変化なし」との回答が全体の57.8%と優勢であった。 ただし、アンケートの回答上、増加/減少の基準が回答者によって異なっていたことが数値に影響したものと思われ、見積段階において監査人側より具体的な工数変化が示された例がある一方で、KAMへの対応そのものに要する監査時間は全体からすると小さい割合であると想定されることから、KAM以外の要因も含む全体の変動の中で消化されたことから影響なしとの回答もあるとのことである。 4 監査人とのコミュニケーションの変化 項目や内容に関連した説明・議論内容の深化等に関して、変化があったとの回答が全体の約6割である。 各社の回答コメントを考察すると、概して、監査人からの説明がより丁寧になったことなども含めて、議論の深度が増し、監査人と監査役等との認識共有が進んだことがベースにあり、それが重要であると思われるとのことである。 また、「重点監査項目がKAMになっただけで変化なし」「KAMの有無にかかわらず従前から議論してきた」との前提の下に変化なしと回答している例が多く、必ずしもネガティブな結果ではないものと思われるとのことである。 5 KAM候補の選定に関する議論 期初からドラフトが提示されている場合、監査人との記載表現に関して見解の相違や要調整事項のポイントとしては、例えば以下のような点が挙げられる。 6 執行側とのコミュニケーション 期初の監査計画策定段階における監査役等側と執行側との間でのKAM に関するコミュニケーションの状況としては、「行った」との回答が46.6%である。 7 期中の変化(追加・削除・その他) 全体数値としては、「見直しが行われた事項はない」との回答は、全体の50.1%に当たる518社である。 したがって、ほぼ半数の会社においては、何らかの見直し(追加、削除、その他)が行われた項目があることになる。 8 期末(監査報告書作成段階) 監査役等として留意した視点として、①選定された項目について、KAMとして妥当か、②記載内容について、株主・投資家にとって理解しやすいものとなっているか(誤解を招かない表現となっているか)、③選定項目及び記載内容について、開示内容との整合性が保たれているかなどがあげられる。 9 定時株主総会 定時株主総会に向けた準備として、KAMに関連した想定問答を検討したかどうかについては、「検討した」との回答が全体の69.4%であった。 最も多く検討された想定問答は「KAMに選定された項目について」であり、想定問答を検討した会社の73.5%が準備している。 ただし、当該質問を受けた場合に、具体的内容について回答を準備していた例はほとんどなく、KAMの記載が金商法上の監査人の監査報告書においてのみ行われ、かつ、定時株主総会開催時点で有価証券報告書が提出されていないという状況を前提に、総会後に開示される有価証券報告書を確認されたい旨の回答を用意した会社が多数であった(ただし、招集通知に記載された見積りに関する注記の範囲での説明について準備していたとの回答もあった)。 監査役等に対してなされることを想定した質問としては、「監査役等としてのKAMへの対応状況」について準備をしたとの回答が73.6%で最多であった。 株主総会において、KAMに関する質問があったとの回答は4件あり、そのうち質問内容についてのコメントがあるものは次のとおりである。 10 監査役等の監査報告書 全体の10.3%に当たる108社において監査役等の監査報告書における言及が行われており、おおむね日本監査役協会の文例に沿って記載内容を検討したようである。 11 有価証券報告書における「監査役会の活動状況」 全体の18.6%に当たる195社において、KAMに対する監査役等としての対応について言及している。 12 会社法上のKAMの対応 会社法上のKAMの対応について、KAMの記載を検討した(ものの実際に記載には至らなかった)会社は、全体の17.8%であった。 今後の記載の可能性については、「現時点で可能と考える」が22.5%、「今後実務が成熟すれば可能と考える」が48.7%である。 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓

#No. 449(掲載号)
#阿部 光成
2021/12/21
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