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相続税の実務問答 【第35回】「相続人以外の者が相続分の贈与を受けた場合の贈与税の課税」

相続税の実務問答 【第35回】 「相続人以外の者が相続分の贈与を受けた場合の贈与税の課税」   税理士 梶野 研二   [答] 相続税の納税義務者は、相続又は遺贈により被相続人の財産を取得した個人とされています。ご質問の場合、あなたが、従兄の乙さんから相続分の贈与を受け、伯母様の遺産を手にすることになったとしても、伯母様の財産を相続又は遺贈により取得することとなるわけではありませんので、相続税の申告をする必要はありません。 ただし、あなたが乙さんから相続分の贈与を受けた場合に、あなたが取得することとなる伯母様の財産は、乙さんから贈与を受けたものとなりますので、贈与税の申告が必要となります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続人以外の者が相続分を譲り受けた場合の相続税の申告 相続人は、共同相続人間で遺産分割が調う前に自分の相続分の全部又は一部を他の共同相続人又は共同相続人以外の者に有償又は無償で譲渡することができます。 相続人が、自分の相続分の全部を共同相続人以外の者に贈与した場合、その相続人は、いったん自分の相続分の割合に応じて遺産を相続し、その全部を相続人以外の者に贈与(無償譲渡)したと考えられますから、その相続人が相続税の納税義務者であり、相続人から相続分を譲り受けた相続人以外の者は、相続分の譲渡を受けたことによって相続税の納税義務者となることはありません(前回参照)。 したがって、相続人から相続分の譲渡を受けた相続人以外の者は、相続税の申告をする必要はありません。   2 相続分を譲り受けた者に対する課税 相続人以外の者が相続人から相続分の譲渡を受け、その後、遺産分割の手続きを経て、相続財産を取得することとなった場合、直接、被相続人からその相続財産を取得するのではなく、相続分の譲渡をした相続人を経由して取得することとなります。 相続分の譲受けが無償で行われた場合には、当該財産をその相続分の譲渡をした相続人から贈与により取得したと解されます。したがって、相続分の贈与を受けた者(相続分を無償で譲り受けた者)には贈与税が課税されることとなります。 (注1) 相続分を有償で譲り受けた場合であっても、その対価の額が譲り受けた相続分の価額に比して著しく低い価額の対価である場合には、当該対価の額と相続分に対応する財産の時価との差額に相当する金額の利益を受けたこととなりますので、相続税法第7条の規定により贈与税が課されることとなると考えられます。   3 相続分の贈与を受けた場合の贈与税の課税価格の計算等 (1) 贈与税の課税価格の計算 相続分の贈与を受けた日を含む年の贈与税の申告書の提出期限までに、遺産分割がされ、相続分の贈与を受けた者が取得する財産が具体的に確定している場合には、当該財産の価額を贈与税の課税価格に算入することとなると考えられます。この場合、財産の価額は、相続開始時の価額ではなく、相続分の贈与を受けた時の価額となります。 しかしながら、贈与税の申告書の提出期限までに、遺産分割がされなかった場合には、被相続人の財産の価額(債務がある場合には債務を控除した後の価額)のうち贈与を受けた相続分に対応する部分の価額を贈与税の課税価格に算入することとなると考えられます。この場合においても財産の価額は、相続開始時の価額ではなく、相続分の贈与を受けた時の価額となります。 (2) 申告後に遺産分割がされた場合 遺産分割がされていない状況で相続税の申告を行った後、遺産分割が行われ、相続分の贈与を受けた者が取得する財産が確定した場合には、当該財産の価額をもって贈与税の課税価格を計算することが相当であると考えられます。 したがって、遺産分割により実際に取得することとなった財産の価額を基に贈与税の計算をした結果、申告書に記載した贈与税額に不足を生じることとなった場合には、修正申告を行うこととなる一方、申告書に記載した税額が過大となった場合には、国税通則法第23条第1項の更正の請求を行うことができるものと思われます。 (注2) 相続分の贈与を受けた場合の贈与税の課税価格の計算方法等に関しては、課税当局の公式の見解が示されていません。今後、本稿とは異なる見解が示されることもあり得ますのでご注意ください。   4 ご質問の場合 あなたは、従兄の乙さんから相続分の贈与を受け、伯母様の遺産を手にすることになったとしても、伯母様の遺産を、直接、相続又は遺贈により取得することとなるわけではありませんので、相続税の申告をする必要はありません。 ただし、乙さんの相続分の贈与を受けた場合には、あなたが取得することとなる伯母様の財産は、乙さんから贈与を受けた財産ということになりますので、あなたは贈与税の申告をしなければなりません。なお、贈与税を計算する場合の財産の価額は、伯母様の相続開始時の価額ではなく、あなたが相続分の贈与を受けた時の価額によることとなります。   (了)

#No. 319(掲載号)
#梶野 研二
2019/05/23

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第2回】「『実質的な退職』の判断」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第2回】 「『実質的な退職』の判断」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ 退職給与は、その人の過去の勤労に対する対価であったり、それまでの功労に報いるためのものであったりと、その性格は多岐にわたり、画一的な理解は困難であると一般に説明されている。 法人税法上においては、過大とされた役員退職給与は損金として認められないが、これに該当しない役員退職給与は損金算入が認められる。一般に役員退職給与は功績倍率法に基づいて支給されるケースが多いが、功績倍率法による役員退職給与は法基通9-2-27の2にて、法法34の役員給与の損金不算入の規定から除かれることが示されている。 そして、実際に退職を伴わない場合でも、例外的に分掌変更等が行われたことにより役員退職給与を支給することが可能である。すなわち、法基通9-2-32にて、役員の分掌変更等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものであれば、これを退職給与として取り扱うことができると示されている。 その具体的な判断の例示として、 という内容が示されている。 問題は、形式的にこれらのいずれかの要件を満たせば直ちに損金算入が可能、というわけではない点にある。 例えば東京地裁平成20年6月27日判決(※1)では、「役員が法人を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かを、具体的な事情に基づいて判断する必要がある(下線部筆者)」と示しており、他の裁判例を俯瞰してもその役員の勤務実態等、実情を重視した判断がなされている傾向が見受けられる。 (※1) 判例タイムズ1292号161頁。 したがって、上記通達を形式的に満たすこと、例えば非常勤取締役となり、かつ、給与を50%以上減額しさえすれば、当該退職給与の損金算入が必ず認められるというわけではない。 この実質判断は、最高裁平成19年3月13日判決(地裁:京都地裁平成18年2月10日判決、高裁:大阪高裁平成18年10月25日判決)においても示されており(※2)、上記通達の①~③までの「いずれかに当たる事実がありさえすれば、当然に退職給与と認めるべきという趣旨と解することはできない。」とした。 (※2) 地裁:税務訴訟資料256号順号10309、高裁;税務訴訟資料256号順号10553、最高裁:税務訴訟資料257号順号10652。 この最高裁判決は、上記通達のうち③の括弧書き「分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」というくだりが付け加えられる通達改正の契機ともなり、それまで実務上浸透していた「単に代表権を外し、役員報酬を半額以下にすれば退職給与を支給(損金算入)できる」という認識に対し、釘を刺す形となった。 役員退職給与は、単純な分掌変更を理由として支給される場合の他、法人税等の節税や株式価値の圧縮手段として活用されるケースも多々あるだろう。特に事業承継の場面では、後継者が経営を担う自信を未だ持つことができていない等を理由に、退職給与の支給を受けた役員が事実上留まることも想定される。このようなケースにおいて、給与を3分の1程度に減額して形式を整えてはいたが、稟議書の「相談役」欄に捺印し、金融機関等との折衝を担っていた等を理由として、役員としての地位又は職務内容が激変して実質的には退職したと同様の事情にあったとは認められないとされた事例もある(東京地裁平成29年1月12日判決、東京高裁平成29年7月12日判決(※3))。 (※3) 判例集等未搭載、地裁:TAINS Z888-2115、高裁:TAINS Z888-2128。 したがって、実際に役員退職給与を支給する場合、対象となる役員について、取引先や金融機関との折衝、経営参画や部下への助言指導を行うなどの行為は控え、支給される者は経営から決別する心構えで支給を受けるべきであると考える。 (了)

#No. 319(掲載号)
#中尾 隼大
2019/05/23

基礎から身につく組織再編税制 【第4回】「無対価適格組織再編成」

基礎から身につく組織再編税制 【第4回】 「無対価適格組織再編成」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は無対価組織再編成とはどのようなものか、また、無対価組織再編成が適格組織再編成になるケースについて解説します。   1 無対価組織再編成の概要 無対価組織再編成とは、対価が交付されない組織再編成のことをいいます。従来から下図のように、親法人が子法人を合併する場合や100%兄弟会社が合併する場合などにおいて、対価の交付を省略するケースが実務的に存在していましたが、税務上の取扱いが明確ではなかったため、平成22年度税制改正により適格組織再編成に該当する資本関係が見直され、無対価適格組織再編成の課税上の取扱いが整備されました。 (親法人が子法人を合併する場合) (100%兄弟会社が合併する場合) 平成22年度税制改正の概要としては、対価の交付がなかった場合についても対価の交付の省略があったと認められる場合、つまり、対価の交付をしなくても、組織再編成の前後で株主構成や資本関係が同じものについては、税務上も対価の交付があった場合と同様の取扱いをすることとなりました。 無対価適格組織再編成に該当するかどうかを検討する場合には、適格組織再編成となる資本関係が限定されている点に留意が必要です。 上図のような合併については、対価を交付してもしなくても組織再編成後の株主構成や資本関係が同じになるため、適格合併があった場合と同じように処理します。   2 無対価組織再編成が適格組織再編成になるケース 合併を無対価組織再編成で行った場合に、適格組織再編成になるケースは下記の通りです。 平成30年度税制改正により適格組織再編成になる無対価組織再編成の類型が追加されたので、下記では、改正前の類型と改正後の類型の両方を記載しています(以後の図は財務省資料を一部加工して作成しています)。 平成30年度税制改正前 ① 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係 下図のように、合併法人が被合併法人の発行済株式を100%保有している親子関係をいいます。 (※) 資産取得法人を「合併法人」、資産移転法人を「被合併法人」といいます(以下同じ)。 ② 一の者が被合併法人及び合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係 下図のように、株主(一の者)が被合併法人と合併法人の発行済株式を100%保有している兄弟会社間の関係をいいます。 ③ 合併法人及び合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係 下図のように、合併法人と株主(合併法人の発行済株式等の全部を保有する者)で被合併法人の発行済株式を100%保有する関係をいいます。 ④ 被合併法人及び被合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係 下図のように、被合併法人と株主(被合併法人の発行済株式等の全部を保有する者)で合併法人の発行済株式を100%保有する関係をいいます。 平成30年度税制改正 平成30年度税制改正では、株主構成が等しい法人間の無対価組織再編成についても、適格組織再編成の対象となりました。条文上は、株主構成が等しい関係と上記②から④を合わせて1つの類型としています。 ⑤ 〈追加された類型〉株主の全てが、その保有する被合併法人の株式の数の発行済株式等のうちに占める割合と合併法人の株式の数の発行済株式等のうちに占める割合とが等しい関係 具体例としては下図のように、株主Xの被合併法人株式の保有割合と合併法人の保有割合が同一割合(いずれも40%)であり、株主Yの被合併法人株式の保有割合と合併法人の保有割合が同一割合(いずれも60%)である、したがって、株主の全てが同一割合という要件を満たす関係(株主構成が等しい法人間の関係)をいいます。 ➤ 〈上記②から④〉 上記③と④については、合併法人間の保有株式を除くことで、株主が有する被合併法人及び合併法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合が等しくなり、上記②と同様になります。 下図のように、被合併法人が保有する合併法人株式の40%を除いて判定することで、株主が被合併法人株式と合併法人株式の全てを保有していると読み替えて、上記の②と同じ形になったものとします。 平成30年度税制改正後に無対価合併が適格組織再編成に該当するためには、下記(1)(2)のような関係が必要とされています(法令4の3②)。 改正後の条文は複数の類型(上記②~⑤)を1つの条文で表しており、とても複雑になっていますが、重要なポイントは、括弧書きにある合併法人、被合併法人相互で保有するものを除いて判定することで、株主構成が等しい法人間の関係になるかどうかを判定する、ということです。   3 無対価組織再編成が適格組織再編成に該当しないケース 合併を無対価組織再編成で行った場合に、適格組織再編成とならないケースは下記の通りです。下記のケースはいずれも対価の交付の省略があったとは認められず、上記(1)(2)の関係に該当しないことから、適格組織再編成にはなりません。 上記の合併はいずれも、対価の交付をしなくても、組織再編成の前後で株主構成や資本関係が同じものとはならず、対価の交付の有無で資本関係が変わってくるため、省略することはできません。   4 株主が個人の場合の適格判定 〔事例〕 X社を合併法人、Y社を被合併法人とする合併を行い、X社は個人Aによる完全支配関係があり、Y社は個人A、個人B(Aの父)及び個人C(Aの妻)による完全支配関係があります。Y社の株主(個人A、個人B及び個人C)に対して対価を交付しない無対価合併の手法により行うこととします。 〔適格判定〕 株主が個人の場合には、その個人の保有する株式だけでなく、特殊の関係のある個人(親族等)が保有する株式を含めて、完全支配関係があるかどうかを判定します(法令4の2②)。 このため、X社とY社には完全支配関係がありますが、上記(2)の関係に該当するかどうかの判定における「株主等」は、株主又は合名会社、合資会社若しくは合同会社の社員、その他法人の出資者をいう(法法2十四)と規定されており、株主等と特殊の関係のある個人(親族等)の保有する株式を株主等が保有しているものとして判定することとはされていません。 したがって、このようなケースは、上記(1)(2)のいずれの関係にも該当しないことから、無対価適格合併には該当しません(国税庁質疑応答事例「無対価合併に係る適格判定について(株主が個人である場合)」参照)。 ◆無対価適格組織再編成のポイント◆ 無対価適格組織再編成となる資本関係は限定されています。 平成30年度税制改正により、適格組織再編成となる類型が追加されています。 「株主等」には特殊の関係のある個人(親族等)を含めないで判定するため、株主が個人の場合には、無対価の組織再編成が非適格となるケースがあるため、留意が必要です。 (参考)   (了)

#No. 319(掲載号)
#川瀬 裕太
2019/05/23

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕税法や通達以外の実務知識 【第6回】「不動産鑑定評価について(その4)」-鑑定評価の基本的手法②-

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第6回】 「不動産鑑定評価について(その4)」 -鑑定評価の基本的手法②-   税理士 笹岡 宏保   基本的な論点 相続財産の評価に当たって、評価通達に基づき算定された評価額が客観的な時価を超えていることが証明されれば、当該評価方法によらないことはいうまでもないとされています。 上記の証明を求めて、相続財産が不動産(土地等、家屋等)である場合には、不動産鑑定士等に不動産鑑定評価を依頼することが通例となります。 この連載では、不動産鑑定評価に関する知識を確認してみることにします。 第4回目となる今回は、鑑定評価の基本的手法について、前回でご紹介した原価法及び取引事例比較法に続いて、収益還元法及び開発法について確認してみることにします。   解決への指針 不動産の価格を求める不動産鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別されます。また、これらの手法以外に、これらの三手法の考え方を活用した開発法があります。 これらの手法について、それぞれの意義及び適用方法を土地の価格を求める鑑定評価を前提としてまとめると、次のとおりとなります。なお、原価法及び取引事例比較法については既に、前回でご紹介済みです。 (3) 収益還元法 ① 意義 収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法です。(この手法による試算価格を「収益価格」といいます。) 収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効です。 また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものとされていることから、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものにはすべて適用すべきものであり、自用の住宅地といえども賃貸を想定することにより適用されるべきものであるとされています。 なお、市場における土地の取引価格の上昇が著しいときは、その価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきであるとされています。 ② 適用上の留意点 (イ) 収益価格を求める方法 収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」といいます。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格をその発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(以下「DCF法」といいます。)があります。これらの方法は、基本的には、次の式により表されます。 ㋑ 直接還元法 ㋺ DCF法 (注) 復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、基本的には次の算式により表される。 (ロ) 純収益について ㋑ 純収益の意義 純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本(不動産に化体されているものを除きます。)、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本(不動産に化体されているものを除きます。)、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいいます。 ㋺ 純収益の算定 対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとされています。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要があります。 なお、直接還元法による純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならないものとされています。 純収益の算定に当たっては、対象不動産からの純収益及びこれに係る総費用を直接的に把握し、それぞれの項目の細部について過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべきであるとされています。この場合において収益増加の見通しについては、特に予測の限界を見極めなければなりません。特にDCF法の適用に当たっては、毎期の純収益及び復帰価格並びにその発生時期が明示されることから、純収益の見通しについて十分な調査を行うことが必要であるとされています。 なお、直接還元法の適用に当たって、対象不動産の純収益を近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産若しくは同一需給圏内の代替競争不動産の純収益によって間接的に求める場合には、それぞれの地域要因の比較及び個別的要因の比較を行い、当該純収益について適切に補正することが必要であるとされています。 (ハ) 還元利回り及び割引率について ㋑ 還元利回り及び割引率の意義 還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものですが、基本的には次のような違いがあります。 還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一定期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものです。 割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものです。 ㋺ 還元利回り及び割引率の算定 還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならないものとされています。 さらに、還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要であるとされています。 (ニ) 直接還元法及びDCF法の適用のあり方 直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要であるとされています。 (4) 開発法 更地の鑑定評価額は、更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法(建物等の価格を収益還元法以外の手法によって求めることができる場合に、敷地と建物等からなる不動産について敷地に帰属する純収益から敷地の収益価格を求める方法)による収益価格を関連づけて決定するものとされています。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきであるとされています。当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次に掲げる価格を比較考量して決定するものとされています。(この手法を「開発法」といいます。) (イ) いわゆる「マンション開発法」 一体利用することが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格 (ロ) いわゆる「戸建開発法」 分割利用することが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格   (了)

#No. 319(掲載号)
#笹岡 宏保
2019/05/23

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第14回】「理不尽な「お気に入り」」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第14回】 「理不尽な「お気に入り」」   公認会計士 石王丸 香菜子   ・・・(夕方)・・・ *資料* ● 第2事業部では機械を利用している。 現有機種に関するデータは以下の通りである。 ● 同種機械の最新機種に関するデータは以下の通りである。 最新機種に買い替える場合、現有機種は現時点で1,500万円にて売却する。 ● 現有機種と最新機種の間で、製品の生産量や品質に差は生じない。 ● PN社の資本コストは税引後10%、法人税率は30%として計算する。   *  *  *   1 断捨離を妨害する「お気に入り」 誰にでも「お気に入り」はあるものです。シミがあるけれど思い出の詰まったぬいぐるみ、古いモデルだけれど使い慣れているパソコンなどなど・・・。 では、あなたのお気に入りのシミ付きぬいぐるみを、誰かが買い取りたいと言ったら、あなたはどうしますか? 大事なぬいぐるみですから、二束三文では売りたくないはずです。しかし例えば、5,000円なら売ってもいいと思うかもしれませんね。 ここで、もし見た目は同様で、しかし、思い入れはないシミ付きぬいぐるみがフリーマーケットで3,000円で売られていたらどうでしょうか。これをあなたは買いますか? おそらく、3,000円も出して買いたいとは思わないでしょう。 このように、同じものであっても、自分が保有しているか否かで評価が異なり、自分の保有しているものに対して高い価値を感じる傾向のことを、「」と呼びます。 売ったり交換したりすることを目的として保有するのではなく、主に使用したり楽しんだりすることを目的として保有しているものに対しては、保有効果が働きます。持ち物を断捨離しようとしてもなかなかはかどらない(!)のは、自分が保有しているものに対して、こうした保有効果が働くからです。 さて、第2事業部長も、現有の機械について強い思い入れがあり、価値を感じているので、1,500万円という価格で手放すことはできないと思っているようですね。実際のところ、このまま現有機種を手放さないことはPN社にとって得なのでしょうか。   2 断捨離の痛みに耐える 前回と同じように、《現有機種をそのまま使い続ける案》と《最新機種に取り替える案》のどちらが有利か、割引計算してみましょう。 《現有機種をそのまま使い続ける案》 お気に入りの現有機種を手放さずにそのまま使い続ける場合、ランニングコストが年間800万円生じます。このような費用は法人税の計算上、原則として損金として控除することができ、法人税を減らす効果を持っているので、毎年の実際のキャッシュ・アウト・フローは、800万円×(1-30%)=560万円と考えることができます。 各年度の減価償却費4,800万円÷12年=400万円については、実際の支出はないのでキャッシュ・アウト・フローは生じません。一方で、減価償却費は法人税を減らす効果を持つのでしたね(このような「タックス・シールド」については、前回解説しています)。つまり、減価償却費400万円×30%=120万円はキャッシュ・イン・フローと考えます。 なお、現有機種を最終年度(4年度末)まで使った後は、売却価値はなく減価償却上の残存価額もゼロなので、この点に関してキャッシュ・フローは生じません。 各年度のキャッシュ・フローを集計し、これを経過した期間で割引計算すると、以下のようになります。 《最新機種に取り替える案》 次に、断捨離の痛みに耐えて現有機種を手放し、最新機種に取り替える案について、計算してみましょう。 まず現有機種を売却するのですから、現時点で売却によるキャッシュ・イン・フロー1,500万円が生じます。 また、現有機種の現時点での会計上の帳簿価額は、 4,800万円-4,800万円÷12年×経過年数8年=1,600万円 ですので、1,500万円で売却すると、会計上は1,500万円-1,600万円=△100万円の売却損が認識されます()。この売却損も法人税の節税効果があるので、100万円×30%=30万円については、キャッシュ・イン・フローと考えることができます(ちょっとややこしいですね)。 一方、最新機種を購入することによるキャッシュ・アウト・フロー3,200万円が生じます。 最新機種を使用することによる年間のランニングコストは、税引後で200万円×(1-30%)=140万円です。また、減価償却費による節税効果は年間で3,200万円÷4年×30%=240万円になります。 最新機種を最終年度(4年度末)まで使った後は、320万円で売却できますので、320万円のキャッシュ・イン・フローが生じます。ただし、この時点での帳簿価額はゼロですので、会計上は320万円-0万円=320万円の売却益が認識されます()。この売却益には課税されるので、320万円×30%=96万円については、キャッシュ・アウト・フローと考えます。 ここまでで各年度のキャッシュ・フローが集計できたので、割引計算しましょう。 以上より2つの案を比較すると《現有機種をそのまま使い続ける案》よりも《最新機種に取り替える案》のほうが、196万円有利であることがわかります。 今回は、会計上の売却損益が税金に与える影響を考慮する点が面倒ですが、考え方は前回と同じです。つまり、各年度のキャッシュ・フローを漏れのないように拾い集めて、経過した期間に応じて割引計算すればよいのです。Excelを利用すれば、条件が多い場合の計算や条件が変化した場合のシミュレーションも気軽にできます。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 保有しているものに対して高い価値を感じる傾向のこと。 ▷ 固定資産を売却した時の売却価額と帳簿価額の差額。意思決定の際は、売却損益が法人税の計算に与える影響を考慮する必要がある。 (了)

#No. 319(掲載号)
#石王丸 香菜子
2019/05/23

企業結合会計を学ぶ 【第17回】「取得とされた株式交換の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第17回】 「取得とされた株式交換の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、取得とされた株式交換の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 株式交換のイメージ 株式交換とは、株式会社がその発行済株式(株式会社が発行している株式をいう)の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう(会社法2条31号)。 会社法では、株式交換は、完全親会社又は完全子会社とするための当時会社の間で行われる組織再編として規定されている(会社法767条、769条1項)。 「株式交換完全親会社」とは、株式交換において、ある株式会社の発行済株式の全部を取得する会社をいう(会社法767条)。 また、「株式交換完全子会社」とは、株式交換において、発行済株式の全部を取得される株式会社をいう(会社法768条1項1号)。 株式交換のイメージは次の図のとおりである。 〔例〕 次の条件による株式交換を行った。   Ⅲ 株式交換完全親会社の個別財務諸表上の会計処理 1 子会社株式の取得原価の算定 株式交換完全親会社が取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、取得の対価に付随費用を加算して算定する(結合分離適用指針110項)。 付随費用の取扱いは、金融商品会計実務指針に従い、取得の対価の具体的な算定は、結合分離適用指針37項から50項に準じて行う(結合分離適用指針110項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針110項)。 なお、結合分離適用指針110-2項では、株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱いが規定されている。 2 増加資本の会計処理 増加資本の会計処理は次のように行う(結合分離適用指針111項~114項。税効果会計については結合分離適用指針115項)。   Ⅳ 株式交換完全子会社の個別財務諸表上の会計処理 株式交換完全子会社では、株主が、従来の株主から株式交換完全親会社に入れ変わるだけなので、基本的には、特段の会計処理は行われない。 ただし、新株予約権の交付又は新株予約権付社債の承継に関して、結合分離適用指針は規定を設けているので、一定の場合には会計処理を行うことがある(結合分離適用指針115-2項、404-2項)。   Ⅴ 株式交換完全親会社の連結財務諸表上の会計処理 株式交換による企業結合が取得とされた場合の資本連結手続は、連結会計基準に従って行い、次の(1)と(2)を相殺消去する(結合分離適用指針116項、連結会計基準23項)。 両者の消去差額であるのれん(又は負ののれん)は、結合分離適用指針72項及び76項から78項に準じて会計処理する(結合分離適用指針116項)。 (了)

#No. 319(掲載号)
#阿部 光成
2019/05/23

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q17】「会社分割にあたり、分割会社で締結している労働協約の取扱いはどうなるか」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q17】 会社分割にあたり、分割会社で締結している労働協約の取扱いはどうなるか   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 労働協約のうち「規範的部分」については、会社分割により組合員の労働契約が承継会社に承継される場合は、当該組合員が加入している労働組合と分割会社が締結している労働協約と同一の内容の労働協約が当該労働組合と承継会社との間で締結されたものとみなされる。 労働協約のうち「債務的部分」については、労働組合と分割会社との間で分割契約の定めにより承継会社に承継させる旨の合意がある事項について、分割契約に定めることにより、承継会社に承継される。 また、会社分割により組合員の労働契約が承継会社に承継される場合は、債務的部分についても、前述の合意がある事項を除き、当該組合員が加入している労働組合と分割会社が締結している労働協約と同一の内容の労働協約が当該労働組合と承継会社との間で締結されたものとみなされる。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。   労働協約とは 労働組合法(14条)では、「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。」と定めている。 つまり、「労働協約」とは、労働組合と使用者が協議して取り決めた労働条件等に関する事項が記載されている書面で、両者が署名又は記名押印したものをいう。   規範的部分と債務的部分 労働協約の定めには、「規範的部分」と「債務的部分」がある。 「規範的部分」とは、労働組合法(16条)の適用を受ける部分をいい、賃金、退職金、労働時間、休暇等の労働者の待遇に関する基準を定めた部分をいう。 【労働組合法】 (※) 労働協約において規範的部分である労働者の待遇に関する基準を定めた場合は、労働組合法(16条)により、就業規則や個別の労働契約に定める労働条件より優先して適用される規範的な効力が生じる。例えば、就業規則では「退職金の支給がない」旨を定めていたとしても、労働協約で「退職金の支給がある」旨を定めていた場合は、労働協約が優先されて適用され、退職金を支給することが労働条件となる。 「債務的部分」とは、労働者の待遇に関する基準以外のことを定めた部分、つまり「規範的部分」以外をいう。これは、主に使用者と労働組合の間におけるルールを定めたもので、組合員の範囲や団体交渉のルール、組合事務所や掲示板の貸与などの会社施設の利用に関するルールの定めなどがある。   会社分割と規範的部分 労働協約のうち規範的部分については、会社分割により組合員の労働契約が承継会社に承継される場合は、労働契約承継法6条3項の定めにより、当該組合員が加入している労働組合と分割会社が締結している労働協約と同一の内容の労働協約が当該労働組合と承継会社との間で締結されたものとみなされる。 したがって、労働組合と分割会社が締結している労働協約において定められた規範的部分である待遇に関する基準は、承継会社に労働契約が承継される組合員にそのまま引き続き適用されることとなり、会社分割により組合員の待遇に関する基準が変更されることはない。   会社分割と債務的部分 労働協約のうち債務的部分については、労働組合と分割会社との間で分割契約(新設分割の場合は分割計画)の定めにより承継会社に承継させる旨の合意がある事項について、労働契約承継法6条2項の定めにより、分割契約(又は分割計画)に定めることにより、承継会社に承継される。 また、会社分割により組合員の労働契約が承継会社に承継される場合は、債務的部分についても、労働契約承継法6条3項の定めにより、前述の合意がある事項を除き、当該組合員が加入している労働組合と分割会社が締結している労働協約と同一の内容の労働協約が当該労働組合と承継会社との間で締結されたものとみなされる。 したがって、使用者と労働組合の間におけるルール等についても、分割契約(又は分割計画)の定めにより承継会社に承継させる旨の合意がある事項を除き、承継会社にもその権利義務が生じる。 なお、分割契約(又は分割計画)の定めにより承継会社に承継させる旨の合意については、法律に明記はないが、分割契約(又は分割計画の作成)の前に予め労使で協議し、実施しておくことが望ましいとされている。 (了)

#No. 319(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2019/05/23

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第13回】「否認を受けないための役員退職金の応用知識」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第13回】 「否認を受けないための役員退職金の応用知識」   税理士法人トゥモローズ   前回の基礎編に続き、今回は役員退職金の「応用編」として、不相当に高額な部分の解釈や分掌変更の際の留意点など判例を交えながら、より詳細に確認を行っていく。 役員退職金は、個人(受取側)は退職所得として大きな退職所得控除もあるため、経営者の老後資金を確保するという観点からは非常に重要な項目となる。一方で、法人(支払側)では大きな損金となるため、しっかりと論点を抑えたうえで税務署から否認を受けないような金額設定を行い、受給できるようにしたい。   1 功績倍率法の確認 役員に対する退職給与の支給に当たって、不相当に高額な部分の金額は法人の損金不算入となる旨、そして、当該不相当に高額な部分の金額についての判断にあたって相当額の退職金を算定する際には「功績倍率法」による方法が一般的である旨は前回解説を行っている。そこで以下では、この功績倍率法について、より詳細に確認を行っていく。 役員退職金は、法人税法施行令第70条第1項第2号に規定する「類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし」の部分を受けて、同業種事業規模類似法人の功績倍率を要素とし、下記算式を用いて設定することが一般的となっている。 この功績倍率法の構成要素である「最終報酬月額」及び「功績倍率」の留意点について、それぞれ見ていく。 (1) 最終月額報酬 役員の退職時に最終月額報酬が低くなっているケースは多々あるが、この場合には、法人の発展に大きく貢献した役員であったとしても、退職金の算出が著しく低くなってしまう。そこで実務上で検討されるのが、類似法人の1人当たりの平均役員給与額を最終月額報酬に当て込む方法である。 この際、類似法人の事例の抽出は実務上、把握が困難であるが、有名な残波事件(東京地裁平成28年4月22日判決、TAINSコード:Z266-12849)における課税庁側の主張において、以下のようなものがある。 このことから、実務においてはこれらを根拠資料として、類似法人の1人当たりの平均役員給与額の算出をしておくことが有用と考えられる。 なお、この残波事件においては、「同業他社の最高額を超えない限りは不相当に高額な部分があるとはいえない」とし、創業者の貢献度を考慮した上で、類似法人の平均額ではなく最高額を最終月額報酬とした。また、同業他社の抽出については、地域・業種が同じ法人約30社の中から売上規模が半額~2倍である法人が抽出基準(半倍基準)とされている。 (2) 功績倍率 功績倍率については、基本的には社内規程である役員退職金規程に定めた功績倍率によるが、当該規程の中ではある程度の幅を持たせている場合が多く、また、規程どおりの功績倍率によったからといって、不相当に高額な部分の金額に該当しないということはない。 また実務上、功績倍率を適用するにあたっては、同業種事業規模類似法人の「平均功績倍率」によるか「最高功績倍率」によるかを検討する必要がある。 この点、平均功績倍率が妥当であるとされた事例については、「東京高裁平成25年7月18日判決(TAINSコード:Z263-12261)」や「岡山地裁平成21年5月19日判決(TAINSコード:Z259-11202)」が挙げられる。 前者事例においては、納税者の最高功績倍率の主張に対して としている。 後者事例においては、類似法人の損益状況からみた当該法人の損益状況を照らして としている。 これらのことから、最高功績倍率適用については事例によって解釈が様々であるが、使用できるケースは、同業類似法人の抽出が適切にできないなど平均功績倍率によることが不相当な場合、かつ、実態としてその役員の法人に対する功績や功労が伴っていることが前提といえよう。 (3) 功労金加算の可否 中小企業経営者は自身が創業者であるケースも多く、創業者利益の観点から上記(2)の功績倍率を用いて算出された退職金の支給を基本として、さらに功労金の支給はできるのかという論点がある。結論からいうと、基本的にこれは認められない。 その理由としては、功績倍率の中に、既に功労金に相当する要素が組み込まれているという考え方や、抽出される類似法人の選定にあたって創業者であること自体が既に盛り込まれているという考え方を取るためである。 実際に平成23年5月25日裁決(非公開、TAINSコード:F0-2-514)においても、 とされている。   2 分掌変更による退職金の是非 -分掌変更後に法人経営上主要な地位を占めているか- 中小企業の事業承継において、先代経営者について、代表取締役は退いたものの、その後に会長職として役員で居続けるようなケースは多々ある。その場合には、一旦、退職したものとして、分掌変更による役員退職金の支給が認められている(法人税基本通達9-2-32)。 上記通達について注意すべきは、「実質的にその法人の経営上の主要な地位を占めていると認められる者」が除かれている点である。 直近の事例(平成29年7月14日裁決)では、この点についての判断のポイントが確認できる。 当該裁決において、請求人である法人は、先代経営者は代表権のない取締役会長に退く際に、後継者である娘とその配偶者である夫に財務、営業、人事及び生産面における全権を移譲し、金融機関との間の個人保証を解除し、役員給与をそれまでの半額以下に減額していることから実質的に退職している旨を主張した。実際に認定事実や検討の中で、会長職となったことの周知や分掌変更後の一定の権限の移譲、勤務実態の減少、給与減少については認められている。 しかし、審判所の判断は、分掌変更後も以下のような事実があったものとして、役員としての地位又は職務の内容が激変しておらず、実質的に退職したと同様の事情があったものとは認められないものとし、役員退職金としての損金算入は認められないと判断した。 通達に記載のある要件を形式的に整え退任したとしても、税務調査や審判の際には多方面からの実質的な判断により「実質的にその法人の経営上の主要な地位を占めていると認められる者」に該当するものとして役員退職金が認められないことがある。退任後も経営に口を出したくなることもあろうが、役員退職金受給後は、余計な口出しは無用である。 (了)

#No. 319(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2019/05/23

令和時代の幕開けに思い馳せる会計事務所経営 【第2回】「自分の“らしさ”をかたちづくる」~独自性の発揮こそブランディングの醍醐味~

令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第2回】 「自分の“らしさ”をかたちづくる」 ~独自性の発揮こそブランディングの醍醐味~   株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊   ➤ 一歩先を行くためのブランディングとは みなさん、ご自身のブランディング、事務所のブランディングを大切に育んでいますか。 「ブランド」という言葉の語源は、家畜として飼育している牛の自分所有と他人所有を区別するための焼印(burned)から生まれたとされています。そしてブランディングとは、「そのブランド=個の価値」を顧客に対し高めることを意味します。 そもそもブランドとは焼き印の話に象徴されるように、「個の存在」を表します。いわばそれぞれ1人1人、1社1社の個性とも言えるでしょう。 35,000もの数に迫ると言われる会計事務所ですが、残念ながら多くの事務所が市場に埋もれている、もしくは顧客から見れば、その多くが他の事務所と区別されていないのが実情です。 先生方1人1人には個性があって、それぞれ違う思考や価値観があるはずなのに、それを発揮することなく、まるで金太郎飴のように同じ発想をし、同じ業務をし、同じ対価を得て、同じ経営スタイルを取っています。それでは顧客に認知されず、事業の発展には繋がりません。 税理士業界は、長きにわたって競争を排除し、広告することすら許されなかったかもしれませんが、それも今や昔の話です。ライバルとなる35,000の事務所、70,000人を超える同業者がいる中で、さらに外部環境は刻々と変化していることを考えると、『圧倒的な差別化』が必要な時代であろうと思います。   ➤ ブランディングとは“らしさ”を発揮すること バブル景気の時代までは600万社を遙かに超える企業が存在していましたが、今やその数は380万社を下回るとすら言われています。 一方で税理士の数がわずかでも増えているとすれば、それは需給バランスが崩れているということであり、市場のセオリーとしては、かなり厳しい環境下であろうと言えます。俯瞰的視点から鑑みれば、少子化により人口の減少等が起きているのに、ひとりでに市場が改善に向かうと予想するのは厳しいというのが現状です。 さて先生方、このような状況下で、どのように事業展開をされていこうと考えていますか? もし明確なビジョンがないのであれば、まず考えるべきは「自分自身を知る」こと、つまり、自分の「強み(弱み)」、「得意(不得意)」、「好き(嫌い)」をしっかり把握することです。 ブランディングとは、“らしさ”を発揮することです。その“らしさ”とは何か、それは経営者である先生方の価値観から生まれる「企業理念」、そして先生自身の個性そのものである「独自性」にあります。 この「企業理念」を社内外に浸透させ、先生が、そして社員が市場で「独自性」を発揮することで、その対価である「経済性」すなわち「利潤」が生まれるのです。 先生の事務所に、「企業理念」は存在していますか? その企業理念はオリジナリティ溢れる、自分の生き様そのものが言語化されたものになっていますか? なぜ自分は税理士になったのか、どうして税理士事務所を営んでいるのか、また、その事業を通じて社会にどのような貢献ができるのか。 その「社会性」を発揮できた時にきっと「経済性」が発揮され、顧客にも、従業員にも、そして先生自身にも「利潤」がもたらされることでしょう。   ➤ 自分のことがわからなければ、人に聞いてみる 先生は、「自分の個性=独自性」を発揮してお仕事をされていますか。当たり前ですが、70,000人を超える同業者がすべて同じ個性なはずがありません。 人と関わるのが大好きでコミュニケーション能力を発揮して営業することが得意な人、数学が昔から大好きで経営者に解りやすく会社の数字を伝えるのが得意な人、とにかく新しいことが大好きで税法や判例を誰よりも早くおさえ、それを武器として講師をすることが得意な人、自身が後継者として事業承継をした経験を大いに活かしてそれを事務所経営に活かす人、自分の経験や興味関心、得手不得手、好き嫌い・・・それらをしっかり棚卸しする(知る)ことで、人とはまったく異なるビジネスモデルが生まれるのです。 そうは言っても、自分のことがよくわからない、棚卸しできない、そんな先生は、家族、友人らに「俺の(私の)どこが強いところ?」と聞いてみてください。きっと思わぬ意見が飛び出してくるはずです。これができるとSWOT分析(※1)を活用して事務所経営ができるかもしれません。 (※1) 「Strength(強み)」、「Weakness(弱み)」、「Opportunity(機会)」、「Threat(脅威)」の4つの項目を軸に組織を分析する手法で、市場機会や事業課題の発見に役立てることができる。   ➤ 令和時代の到来を機に、ブランディングをはじめよう ここまで説明したように、社会性、独自性が発揮されることを本当のブランディングと言います。大企業を飲み込むことすらできる可能性を感じさせるのが、ブランディングの存在なのです。 なぜそこまで言い切れるのかというと、ブランディングが精度高く完成することで、マーケティングを正確に行うことができるからです。「マーケティングはブランディングから生まれる」と言ってもいいと思います。 令和の時代を迎え、新たな気持ちで自分自身の棚卸しをしてみてはいかがでしょうか。時代と共に環境も変化し、そのことで顧客も変化する。だからこそ事務所経営にも変化が訪れるのです。 本来、「理念」とは、ぶれずに揺るがないものなのかもしれません。でも、事業承継期や低迷期にも同じ経営方針、同じマーケティングで臨むのでしょうか。だからこそ『リ・ブランディング』は、時代に合わせた臨機応変さの象徴であると言えます。 ブランディングは大企業だけに必要なものではありません。多くの中小企業もロゴ1つ、それに添えるタグライン(※2)やブランドメッセージ(※3)に思いを馳せて事業をしており、また、名刺1つにしても、「かたち」「色」「紙」「字形」を創意工夫して、選ばれること、認知してもらうことに必死なのです。 (※2) 対象との関係性を定義したキャッチコピー。 (※3) 関わる人、社会に向けた言葉、在り方。 さて、先生方も顧問先にならって、ブランディングに英知を絞ってみませんか? (了)

#No. 319(掲載号)
#杉山 豊
2019/05/23

《速報解説》 総務省、新たな「ふるさと納税制度」の対象となる1,783地方団体を公表~東京都含む5団体は制度の対象外に~

《速報解説》 総務省、新たな「ふるさと納税制度」の対象となる1,783地方団体を公表 ~東京都含む5団体は制度の対象外に~   Profession Journal編集部   過度な返礼品競争が問題視されていた「ふるさと納税制度」は、今年度の税制改正より見直しが行われ、総務大臣の指定を受けた地方団体への寄附金のみ、同制度の適用を受けることができることとされた。 この指摘を受けるためには、その地方団体が、適正な寄附金の募集を実施していること、返礼品の返礼割合を3割以下とすること、返礼品を地場産業品とすることなどが改正地方税法第37条の2第2項及び第314条の7第2項に規定され、これら基準に係る詳細は4月1日公表の総務省告示179号で示されている。 また総務省は同日、「ふるさと納税に係る指定制度の運用について」(総税市第17号)及び「ふるさと納税に係る指定制度の運用についてのQ&Aについて」(事務連絡)をそれぞれ公表、例えば、いわゆる「ふるさと納税ポータルサイト」上で「お得」や「コスパ最強」、「ドカ盛り」「おまけ付き」などと表示した場合、「適切な選択を阻害するような表現」(告示179号第2条第1号ハ)に該当し「募集の適正な実施に係る基準」を充たさない等、各地方団体へ周知を図っていた。 新制度では、各地方団体は上記の基準を充たすことについて総務大臣から指定を受けるため、毎年7月1日~7月31日の間に総務大臣へ「ふるさと納税の対象となる地方団体の指定に関する申出書」及び一定の添付書類を提出しなければならず、制度の対象として指定された場合、その期間(指定対象期間)は原則として1年単位(毎年10月1日からその翌年9月30までの期間)となる。 ただし今年度は例外として、指定対象期間を2019年6月1日から2020年9月30日までの1年4ヶ月間とし、申出書等の提出期間は4月1日から同月10日までとされていた。総務省は4月11日付けで、東京都を除く46道府県及び、1,741ある市区町村すべてから申出書等の提出があったことを明らかにしていた。 そしてこのほど総務省は5月14日付けで、総務大臣の指定を行ったふるさと納税の対象となる1,783の地方団体(46道府県及び1,737市区町村)を明らかにし、翌15日には同内容の総務省告示第16号を公表した。 なお、上記で示された1,783団体のうち、2019年6月1日から2020年9月30日までの期間(1年4ヶ月間)に係る指定団体は1,740団体(46道府県、1,694市区町村)であり、残りの43団体(43市町村)については1年4ヶ月の期間を指定対象期間とすることが適当でないと認める場合に該当するとして、2019年6月1日から同年9月30日までの4ヶ月間の指定になるとした(これら43団体は7月1日~30日までの期間に改めて申出を行うことが可能)。 上記の通り申出を行わなかった東京都に加え、申出を行ったものの指定を受けられなかった団体(小山町(静岡県)、泉佐野市(大阪府)、高野町(和歌山県)、みやき町(佐賀県))については、これら団体へ寄附を行ったとしてもふるさと納税の対象とならない。また、指定を受けた地方団体が基準のいずれかに適合しなくなった場合は指定を取り消され、取消し後2年間は指定を受けることができない。 新たなふるさと納税制度は、6月1日以後に支出された寄附金から適用される。 (了)

#No. 318(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2019/05/17
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