公開日: 2017/06/29 (掲載号:No.224)
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連結会計を学ぶ 【第6回】「連結の範囲に関する重要性の原則」

筆者: 阿部 光成

連結会計学ぶ

【第6回】

「連結の範囲に関する重要性の原則」

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

連結財務諸表の作成において、親会社は、すべての子会社を連結の範囲に含めることが原則である(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)13項)。

ただし、連結会計基準は、重要性の原則を規定しており、子会社であって、その資産、売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいものは、連結の範囲に含めないことができるとしている(連結会計基準注1、注3)。

今回は、連結の範囲に関する重要性の原則について解説する。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 連結の範囲の重要性の原則に関する監査上の取扱い

連結の範囲の重要性の原則に関する監査上の取扱いについては、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第52号。以下「実務指針52号」という)が公表されている。

1 基本的な考え方

連結の範囲に係る重要性の判断としては、通常、該当要件の影響割合が所定の基準値より低くなれば、それで重要性は乏しいと判断されるものである(実務指針52号3項)。

重要性の判断を行う際には、次の事項に注意し、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示する観点から量的側面と質的側面の両面で並行的に判断する(実務指針52号3項)。

 連結の範囲は全部の子会社を連結するのが原則であること

 量的な重要性が乏しいという判断だけで連結の範囲から除外することができない子会社も存在する可能性があること

また、「「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について」(連結財務諸表規則ガイドライン)では次のように規定しているので、連結の範囲に関する重要性の判断を行う際には、注意が必要である。

5-2 規則第5条第2項に規定する連結の範囲の適用に当たっては、次の点に留意する。

1 規則第5条第2項の規定は、重要性の乏しい子会社を連結の範囲から積極的に除くことを意図したものではないこと。

2 重要性の乏しい子会社を連結の範囲から除くに当たっては、連結の範囲から除こうとする子会社が2以上あるときは、これらの子会社が全体として重要性が乏しいものでなければならないこと。

3 連結の範囲から除かれる子会社が翌連結会計年度以降相当期間にわたり、重要性の乏しい子会社として同項の規定の適用が認められるかどうかをも考慮し、連結の範囲が継続されること。

2 連結の範囲から除外できる重要性の乏しい子会社

連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性が乏しい子会社かどうかは、企業集団における個々の子会社の特性とともに、少なくとも資産、売上高、利益及び利益剰余金の4項目に与える影響をもって判断する(実務指針52号4項)。

また、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」では次のように規定している。

連結財務諸表規則5条2項

前項の規定により連結の範囲に含めるべき子会社のうち、その資産、売上高(役務収益を含む。以下同じ。)、損益、利益剰余金及びキャッシュ・フローその他の項目からみて、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいものは、連結の範囲から除くことができる。

上記4項目に与える具体的な影響度合いは、次の算式で計算された割合をもって基本的に判断する(実務指針52号4項)。

算式を適用する場合には実務指針52号4-2項を十分に勘案する必要がある。

 資産基準
非連結子会社の総資産額の合計額 連結財務諸表提出会社の総資産額及び連結子会社の 総資産額の合計額  非連結子会社の売上高の合計額 連結財務諸表提出会社の売上高及び連結子会社の 売上高の合計額  非連結子会社の当期純損益の額のうち持分に見合う額の合計額 連結財務諸表提出会社の当期純損益の額及び連結子会社の 当期純損益の額のうち持分に見合う額の合計額  非連結子会社の利益剰余金のうち持分に見合う額の合計額 連結財務諸表提出会社の利益剰余金の額及び連結子会社の 利益剰余金の額のうち持分に見合う額の合計額

 売上高基準

 利益基準

 利益剰余金基準(「利益剰余金」とは、「利益準備金及びその他利益剰余金」のほか、法律で定める準備金で利益準備金に準ずるものをいう)

前述のように、実務指針52号では、少なくとも資産、売上高、利益及び利益剰余金の4項目に与える影響をもって判断することが述べられており、それぞれに関する具体的な影響度合いについての算式を示しているが、キャッシュ・フローに関する算式については設けていない(実務指針52号4項)。

キャッシュ・フローに関する具体的な影響度合いに関する算式を考えると、例えば、キャッシュ・フロー計算書を利用するとしても、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローがあり、どの数値を用いて算式を設定すればよいかについて一律に決定することが難しいのではないかと思われる。

また、キャッシュ・フローについては貸借対照表や損益計算書と密接に関連することから、上記の4基準により連結の範囲に関する重要性の判断をすることにより、キャッシュ・フローに関する重要性についても判断できると考えられる。

このようなことなどから、実務指針52号ではキャッシュ・フローに関する算式を示していないものと解される。

3 重要性の判断に関する数値基準

現行の実務指針52号では、連結の範囲に係る重要性の判断に関する数値基準は設けられていない。

しかしながら、かつて、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用に係る監査上の取扱い」(監査委員会報告第52号(当時))の注書きにおいて、次の記載があった。

(注) 当該基準において、重要性が乏しいかどうかを判断する具体的割合は、監査人が企業集団の実態に応じて判断すべきものであり、一律に示すことができない。このため、その具体的割合に対する監査委員会委員の意見にも若干の幅があるところであるが、多くの委員が重要性の乏しいとする具体的割合の上限は通常3%ないし5%位のところにあると判断しているので、実務上の参考として紹介しておく。

平成14年7月3日の改正において、当該注書きは削除されたが、当時の常務理事前文において、「委員会報告第52号が公表されてから既に10年近く経っており、連結の範囲が同報告の趣旨に沿って広く実務に定着したと判断されるため、同報告の(注)として記載されていた具体的参考数値を削除することといたしましたが、その趣旨は従来と変わらないことを申し添えます。」と記載されているので、実務上、連結の範囲に関する重要性の判断を行う際には、上記の数値基準は参考になるものと解される。

(了)

【参考】 ASBJホームページ

「連結会計を学ぶ」は、隔週で掲載されます。

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【第6回】

「連結の範囲に関する重要性の原則」

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

連結財務諸表の作成において、親会社は、すべての子会社を連結の範囲に含めることが原則である(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)13項)。

ただし、連結会計基準は、重要性の原則を規定しており、子会社であって、その資産、売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいものは、連結の範囲に含めないことができるとしている(連結会計基準注1、注3)。

今回は、連結の範囲に関する重要性の原則について解説する。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 連結の範囲の重要性の原則に関する監査上の取扱い

連結の範囲の重要性の原則に関する監査上の取扱いについては、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第52号。以下「実務指針52号」という)が公表されている。

1 基本的な考え方

連結の範囲に係る重要性の判断としては、通常、該当要件の影響割合が所定の基準値より低くなれば、それで重要性は乏しいと判断されるものである(実務指針52号3項)。

連載目次

「連結会計を学ぶ」(全24回)

【参考記事】
「金融商品会計を学ぶ」(全29回)

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「減損会計を学ぶ」(全24回)

【参考記事】
「税効果会計を学ぶ」(全24回)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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