Profession Journal » 税務・会計 » 会計 » 解説 » 監査 » 財務諸表監査 » [無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第51回】株式会社東芝「改善状況報告書(2016年8月18日付)」 「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」(後編)

[無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第51回】株式会社東芝「改善状況報告書(2016年8月18日付)」 「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」(後編)

筆者:米澤 勝

文字サイズ

〔会計不正調査報告書を読む〕

【第51回】

株式会社東芝

「改善状況報告書(2016年8月18日付)」
「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」
(後編)

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

前編はこちら

【報告書の概要】

〔適時開示〕

 

【「改善状況報告書」の概要】

去る2016年9月15日、東芝は、特設注意市場銘柄指定から1年が経過したことを踏まえて、「内部管理体制確認書」を東証に提出し、審査を受けることが公表された。

残念ながら、3,000ページに及ぶという「内部管理体制確認書」は非公開ではあるが、その内容については、前編でとりあげた「改善計画・状況報告書(原因の総括と再発防止策の進捗状況)」と、その公表から約5ヶ月後となる8月18日に公表した、「改善状況報告書(以下「状況報告書」と略称する)」がベースになっていることは間違いない。

以下では、「改善計画・状況報告書」における再発防止策がどのように進められているか、前編で紹介した再発防止策との対比で、状況報告書の内容を検証したい。

 

1 再発防止策の実施状況及び運用状況に関する自己評価(総括)

状況報告書の冒頭で、東芝は自己評価として、次のように総括している。

取締役会をはじめとするガバナンス改革の取組みは順調に進んでおり、社外取締役を中心とした経営トップへの監督機能は強化されてきているものと考えています。また、CFO・財務・経理部門による牽制機能強化や業務プロセスの改革等による内部統制機能の強化も概ね実施されており、マネジメント及び従業員の意識改革や開示体制の改善も進んでいると考えています。(p.4

約1ヶ月後に「内部管理体制確認書」の提出を控えての公表だけに、東芝が、自らに課した再発防止策を着実に実行していることの自負が表れた総括であるといえよう。

 

2 再発防止策の具体的な実施状況

改善報告書32ページ以下で、再発防止策として挙げた4項目のうち、経営トップらに対する監督強化、内部統制機能の強化及びマネジメント・現場の意識改革に関する進捗状況は、状況報告書において、以下のように説明されている。

(1) 経営トップらに対する監督強化

監査委員会の機能強化については、監査委員会を独立社外取締役5名で構成し、委員長を常勤とすることで、情報収集体制に万全を期し、内部監査部を直轄化するとともに約40名体制であった経営監査部時代から59名まで増員、「内部監査部長の異動に関する請求権及び同意権」が、監査委員会に付与されている。

また、内部通報窓口も監査委員会にも設けたことの効果として、「2016年3月期下期から現在に至るまで多数の内部通報がなされています」としたうえで、監査委員は、執行側の内部通報窓口に通報されたものを含め、「追加調査が必要と思われる案件には調査を行うことを指示」する体制となっていることが説明されている(p.10) 。

(2) 内部統制機能の強化

内部統制機能の強化のうち、「CFO・財務・経理部門による牽制機能強化」の項目を検証すると、CFO選解任議案の同意権を指名委員会に付与することにより、代表執行役社長からの独立性を担保したこと、財務部を主計部と財務管理部に分離するとともに、「会計・税務の知見を有している外部人材を管理職クラス含め8名採用」したこと、カンパニー財務統括責任者の人事権をCFOに移管し、業績評価指標を全社の業績と連動することになったことが説明されている(p.15以下)。

外部人材も一気に8名も中途採用したあたりに、財務・経理部門の抜本的な改革・強化に対する、新経営陣の強い意思を感じる。

また、新しく設置された会計コンプライアンス委員会は代表執行役社長を委員長とし、監査委員会及び内部監査部がオブザーバーとして参加するなか、3月31日に制定された会計リスク・コンプライアンスマネジメント規程のもと、以下のような検討を行っている。

全社会計コンプライアンス委員会においては、同委員会に集められたリスク情報、カンパニー等評価結果及び内部監査結果に基づき、当社グループにおける会計コンプライアンスの体制構築、推進、評価(当社グループの財務報告に係る内部統制に対する評価検討を含む。)及び改善に関す事項の検討を行っています。(p.24

(3) マネジメント・現場の意識改革

マネジメントの意識改革のための施策としては、①トップメッセージの発信、メッセージに対するコメントへの返答、②経営トップらのみを対象とした適正な財務報告やコンプライアンスの重要性に関する意識改革研修の実施、③経営幹部を対象とした360度サーベイの実施と個人別評価結果のフィードバックが挙げられている(p.25)。

また、従業員の意識改革のための施策としては、①階層別、職能別教育の実施、②経理部門以外で会計処理に係る事業企画部門、営業部門等における会計コンプライアンスワークショップの実施、③従業員の意識とコンプライアンス遵守状況を把握するための従業員意識調査(TEAMサーベイ)の実施が挙げられている(p.26)。

360度サーベイについて、人事コンサルティング会社の説明を読むと、「360度サーベイは、能力を評価するものではなく、行動や状態を観察するもの」であり、その導入目的も、「人事評価の仕組みとしてではなく、人材育成、意識改革、組織開発といったテーマで活用」ということである。

東芝は、今回の経営幹部に続き、部長級、課長級以上の管理職へと、360度サーベイの実施範囲を拡大していく方針を打ち出している。経営幹部をはじめとする管理職が他者からどう見られているかを認識し、その結果を踏まえた「成長・開発プラン」を各人が作成し、上司や部下と共有するという東芝の取組みが、どの程度、マネジメントの意識改革に資するかは全く未知数であるが、評価する側の従業員の意識にも、当然、何らかの変化が生じるものと予想される。そうした変化が良い方向に進めば、大がかりな360度サーベイによる効果が発現されたという評価も可能であろうが、結果が顕現するのはかなり先のことになりそうである。

 

【第三者委員会による調査報告書公表後の経緯】

以上、東芝の「改善計画・状況報告書」及び「改善状況報告書」をもとに、同社の再発防止策への取組状況を検証してきたが、この項では、東芝に生じた金銭的損害と、その損害に対する賠償請求訴訟について、第三者委員会による報告書公表後に明らかになった事実をまとめておきたい。

 

1 東芝が負担することとなった金銭的損害

東芝が訂正した過去7年間の利益を合計すると2,248億円であったことは、繰り返し報じられてきた。第三者委員会設置後のリリースで、「約500億円」としていた利益の下方修正額は、リリースを公表するたびに拡大してきた格好であるが、それでは、この過年度損益の修正によって東芝が負担することとなった金銭的損害はいくらであったのか。

下記【表-1】は、東芝のリリースから、金銭的損害を抽出したものであるが、合計すると100億円をはるかに超えていることがわかる。

【表-1:東芝が被った(被る可能性のある)金銭的損害】
支出相手 支出内容 金  額 会計専門家 会計専門家に支払った対価(※) 約9億円 東京証券取引所 上場契約違約金 9,120万円 名古屋証券取引所 上場契約違約金 1,740万円 金融庁 課徴金 73億7,350万円 新日本監査法人 過年度決算修正に係る監査作業 約20億7,152万円 株主・元株主 株価下落等に伴う損害賠償請求(※1) (未確定)約148億円

(※1) 2015年12月7日付「元役員に対する損害賠償請求訴訟について」より。第三者委員会調査費用が含まれると推測できるが、直接の関係は不明。

(※2) 2015年8月26日付「当社に対する損害賠償請求訴訟の提起に関するお知らせ」より。

 

2 元代表取締役らに対する訴訟の提起とその後の経緯

東芝は、2015年9月9日付で一部株主から、東芝の取締役又は執行役であった者28名に対する、会社法第847条第1項に基づく役員の責任を追及する訴えの提起請求を受けたことを踏まえ、同月17日付で、役員責任調査委員会を設置した

11月7日、役員責任調査委員会による調査報告書を受領した東芝監査委員会は、元代表取締役である西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏、元CFOの村岡富美雄氏、久保誠氏の5氏を被告として3億円の損害賠償請求訴訟(責任追及の訴え)を提起することを決定したことを発表した。訴訟額の3億円については、当該時点で判明している損害約10億円について、「回収可能性等も勘案した額の賠償を求めることが相当」とする同委員会の報告、提言によって判断したとされている。

その後、前出12月7日付「元役員対する損害賠償請求訴訟について」というリリースにより、証券取引等監視委員会による課徴金納付勧告がなされたことを受けて、元役員に対する請求額の拡張を発表、2016年1月27日付「課徴金の納付等に伴う元役員に対する損害賠償請求訴訟に係る請求拡張の申立て等について」により、請求額を合計32億円に拡大することを公表した。

ここでは、約73億7,000万円の課徴金のうち26億円を、約20億7,000万円の新日本監査法人に対する過年度決算修正に関する監査作業報酬のうち3億円を、それぞれ、元役員に対する拡張した請求額とすることとし、既に請求をしていた3億円と合わせて、合計32億円の損害賠償請求訴訟となったことが説明されている。

【表-2:損害と賠償請求の関係】
公表日 損害の内容 損害賠償請求額 11月7日 会計専門家に支払った対価 約9億円 上場契約違約金 約1億円 風評被害 約1億円 3億円 1月27日 課徴金 73億7,350万円 26億円 過年度決算修正に係る監査作業 約21億円 3億円

 

【特設注意市場銘柄指定の解除は可能か】

本稿の最後に、東芝の「特設注意市場銘柄」の指定解除の可能性について、これまでの「特設注意市場銘柄指定」会社の動向などを踏まえながら、筆者なりに、現時点における見解を示しておきたい。

 

1 特設注意銘柄市場への指定状況

日本取引所グループのウェブサイトによると、現在の特設注意市場銘柄指定を受けている社は東芝も含めて4社あり、そのうち、株式会社SJI株式会社エナリスは、それぞれ特設注意市場銘柄指定から1年を経過したのちに「内部管理体制報告書」を東証に提出したものの、なお、内部管理体制等に問題があることから指定が継続され、当初の指定から1年6ヶ月を経過した日以後に再提出される「内部管理体制確認書」の内容によっては、上場廃止となることが公表されている。

 

2 過去に指定された会社の状況

特設注意市場銘柄指定制度が始まったのは2007年からであるが、現在、日本取引所グループのウェブサイトで公表されている2011年からでは、指定を受けた社は15社であり、このうち、指定から1年を経過していない東芝を含む2社を除くと、最初の「内部管理体制報告書」の提出により指定を解除された社は3社(株式会社fonfan(大証)、オリンパス株式会社、JALCOホールディングス株式会社)、指定継続後に解除された社は1社(株式会社リソー教育)であり、上場廃止が決まった社は7社を数える。

 

3 継続指定後に解除されたケース(株式会社リソー教育)

ここで、特設注意市場銘柄指定を継続された後、内部管理体制報告書の再提出により、指定解除を受けた唯一のケースである株式会社リソー教育(以下「リソー教育」と略称する)に対する東証の評価と、リソー教育の対応について振り返っておきたい。

2015年9月8日に公表された「特設注意市場銘柄の指定継続 —(株)リソー教育—」というリリースで、東証は、内部管理体制確認書を次のように評価して、特設注意市場銘柄指定を継続した。

〇 売上を過度に重視する経営方針や人事評価制度の見直し

〇 再発防止委員会による再発防止策の立案・モニタリング

〇 監査役会・内部監査室の体制強化

△ 取締役会の機能強化

△ コーポレート・ガバナンスの改善に向けた同社の取り組みの状況

(〇=改善が認められる)

これを受けて、リソー教育では、9月17日「代表取締役の異動(辞任)」というリリースを出し、これまで会計不正には責任がないとしてきた創業者である岩佐実次社長が代表権を返上することを発表し、同じく9月25日には、「内部管理体制の改善策」というリリースにおいて、取締役相互間の牽制強化、取締役に対する監視の徹底、改善策の運用状況評価を行うことを公表する。

こうしたリソー教育の取り組みに対して、東証は、10月30日、「特設注意市場銘柄の指定解除及び監理銘柄(審査中)の指定解除:(株)リソー教育」を公表した。その中では、9月6日に不十分であるとした「取締役会の機能強化の有効性を含むコーポレート・ガバナンスの改善に対する取り組みの状況に関して、社外取締役を含む各取締役への情報連携等が適切に行われており、取締役間の相互牽制機能の向上が図られていることが確認できました」と評価している。

 

4 東芝の指定は早期に解除されるか

冒頭でも述べたとおり、東芝は、2016年9月15日に「内部管理体制確認書」を東証に提出し、現在、特設注意市場銘柄指定を解除するかどうかの審査を待っているところである。本稿でとりあげた、「改善計画・改善状況報告書」および「改善状況報告書」の公表は、特設注意市場銘柄指定からの早期指定解除を睨んだ施策の一つであることは言うまでもない。

公表された改善策について、筆者は、概ね妥当なものであり、また、会計不正が行われていた時の取締役等がほぼ一掃されているところから、指定解除については、もともと楽観的であった。懸念材料の一つであった足元の業績についても、8月12日に発表した2017年3月期第1四半期決算で6四半期ぶりの黒字となるなど、コスト削減策が進んでいることがうかがえる点も評価できよう。

加えて、「改善状況報告書」では、東芝が再発防止策の実施に真摯に取り組んでいる様子が説明されていることも確かである。

一部の報道では、年内にも東証の結論が出る可能性があり、筆者の予想が外れて恥ずかしい思いをするかもしれないが、会計不正発覚後――より正確に記せば、ウエスチングハウス社の減損を公表して以後――の東芝経営陣が、真摯に改善策・再発防止策に取り組んでいること、2016年6月の株主総会において取締役がほぼ一新されたことなどから、東芝の特設注意銘柄指定は、9月15日に提出された「内部管理体制確認書」により、解除される可能性が高いのではないかという筆者の予想を結びとして、本稿を締め括りたい。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第40回 ※クリックするとご覧いただけます。

このエントリーをはてなブックマークに追加

筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

関連書籍

Profession Journal » 税務・会計 » 会計 » 解説 » 監査 » 財務諸表監査 » [無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第51回】株式会社東芝「改善状況報告書(2016年8月18日付)」 「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」(後編)

Copyright ©2012- Profession Network Co.,Ltd. All Rights Reserved.

Scroll to top
Go to home