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〈事例から理解する〉税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第14回】「財産評価基本通達第26項(2)(注)2の「一時的に賃貸されていなかった」の具体的期間」

〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第14回】 「財産評価基本通達第26項(2)(注)2の「一時的に賃貸されていなかった」の具体的期間」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 大阪国税不服審判所平成27年11月11日裁決(TAINSコード:F0-3-523) (1) 事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (3) 「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人の主張の排斥   2 「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」の解釈のアプローチ 相続税法第22条に規定する「時価」の法令解釈が「客観的交換価値」であることからすると、原則として、課税時期のその時点において「借家権による処分の制約」があったか否かによって判断されるべきであろう。 しかし、アパート等の貸室は、例えば、毎年3月頃に多くの入退去が発生し、一時的に空室となることもあるため、貸家建付地及び貸家の評価の原則を評価通達において緩和し、本件タックスアンサーの回答事例はこれを具体化したものと考えられる。 相続税法第22条の規定について、仮に通達等で実務上緩和されることがあったとしても、それは少なくとも同条の規定と同視可能な限定的な場合と考えるのが妥当であり、本件タックスアンサーで示された事実関係を超えるもの、例えば、課税時期前後の空室期間が少なくとも2ヶ月以上になる(もはや1ヶ月程度とは解せない)ものについては、その空室部分は評価減の対象から除外されてしかるべきだろう。   3 高松裁決をどう扱うか 審判所は、請求人による上記1(2)④の主張については全く応答していない。 高松裁決は、課税時期前後の空室期間が最長2年6ヶ月、最短11ヶ月であったが、これ以外に、以下の点について事実認定して、上記空室期間でも「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」と判断した。 高松裁決及びその後の国税不服審判所沖縄事務所平成21年10月13日裁決(空室期間は9ヶ月)における取消裁決は非公表裁決であるが、情報公開法による開示請求を経て、ともにTAINSに登録されている(それぞれTAINSコード:F0-3-296・F0-3-241)からか、請求人はこれを拠りどころに「おたく(審判所)は過去にこういう判断をしているではないか」という主張をしたかったのだろうと推察される。 しかし、「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」についての公表裁決は大阪国税不服審判所平成26年4月18日裁決(最長8年・最短4ヶ月)であり、これは高松裁決等のような長期にわたる空室期間を認容していない。 最近の裁判例では、大阪高裁平成29年5月11日判決において、最短の空室期間が5ヶ月の事案を「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」に当たらないと判断していることからしても、本件タックスアンサーにおいて許容される程度の空室期間のみそれに当たると考えた方がよいだろう。   4 小規模宅地等の特例の一時的空室 一時的な空室は、評価通達第26項(2)の(注)2及び同通達第93項の貸家建付地及び貸家の評価の場面のみならず、租税特別措置法第69条の4第3項第4号に規定する貸付事業用宅地等の該非についても論点となる。 この点、国税庁は、共同住宅の一部が空室となっていた場合について、下記の取扱いを公表している。 出典:国税庁ホームページ「6 共同住宅の一部が空室となっていた場合」 そうすると、貸家建付地及び貸家の一時的空室と貸付事業用宅地等の一時的空室の取扱いに違いがあるかどうかが問題となる。 これについては、令和6年1月18日に公表された裁決事例(令和5年4月12日)に、貸付事業用宅地等の一時的空室について下記の判断基準が示されている。 そうすると、貸付事業用宅地等の一時的空室は、貸家建付地及び貸家の一時的空室のような「1ヶ月程度」という具体的な空室期間の定めはないものの、「空室となった直後から不動産業者を通じて新規の入居者を募集しているなど、いつでも入居可能な状態に空室を管理している場合」を形式的に満たしていることでは足りず、入居者募集の積極性や相続開始後の充足といった空室が一時的であったことについての客観的な(対外的に識別可能な)事実関係が必要となると考えられる。 (了)

#No. 554(掲載号)
#大橋 誠一
2024/02/01

租税争訟レポート 【第71回】「税理士懲戒処分の取消請求事件(第1審:大阪地方裁判所令和3年5月27日判決、控訴審:大阪高等裁判所令和3年12月2日判決)」

租税争訟レポート 【第71回】 「税理士懲戒処分の取消請求事件 (第1審:大阪地方裁判所令和3年5月27日判決、 控訴審:大阪高等裁判所令和3年12月2日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】 〈第1審判決の概要〉 〈控訴審判決の概要〉   【事案の概要】 税理士である原告は、東京都新宿区に本店を置く株式会社A(以下「A」と略称する)の平成25年4月から平成26年3月までの事業年度(平成26年3月期)の法人税の申告に当たり、Aの関与税理士であったB(横浜市に事務所を置く税理士。以下「B税理士」と略称する)からAの所得金額を圧縮することの相談を受けた。 原告は、Aの代表取締役であったC(平成26年死亡。以下「亡C」という)がAに対する貸付金債権のうち4億1,300万円について生前に債権放棄していたにもかかわらず、亡Cの死後に債権放棄額を3億円に減額する旨の債権放棄通知書を作成しAの債務免除益を1億1,300万円減少させることによって、その相談に応じたが、その行為は税理士法36条、45条1項の規定に該当するとして、処分行政庁から、令和元年6月6日付けで、税理士業務の禁止の処分を受けた。 本件は、原告が、原告の行為は税理士法36条が禁止する脱税に関する「相談」に当たらないから処分は違法であるなどと主張して、被告を相手に、処分の取消しを求める事案である。 【法律の定め】 脱税相談に係る税理士法の規定は次のとおりである。   【事実関係の経緯】 判決から、事実関係を時系列に沿ってまとめておきたい。   【第1審・大阪地方裁判所による判決の概要】 1 争点 2 大阪地方裁判所の判断 (1) 〔争点1〕について 裁判所は、①原告は、Dの依頼を受けて亡Cの相続対策を引き受けて、その一環として、第1債権放棄通知書のデータファイルを作成してその印刷したものをDに交付し、亡Cにその内容を確認させて押印させたのであるから、これにより亡CのAに対する貸付金債権のうち4億1,300万円について債務免除の法的効果が生じていたにもかかわらず、②亡Cの死後、B税理士から、Aは納税するための資金がないので、課税所得が生じないようにしてほしいと依頼を受けたことに対し、亡CのAに対する債務免除の額を3億円に変更することを提案していると認定した。 裁判所は、原告の上記②の行為は、Aが法人税の納税義務を免れるための相談を受けたのに対し、亡CがAに対して生前にしていた債務免除額を減額させ、Aの債務免除益を減額させることを装い、Aが法人税の納税義務を免れることを提案したものといえ、原告は、Aが法人税の賦課を免れる具体的方法についての相談相手となり、肯定的な回答をしたといえるという判断を示した。 そのうえで、原告の上記②の行為は、税理士法36条の「不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けることにつき、指示をし、相談に応じ」に当たることからは、税理士法36条が禁止する「不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れることにつき、指示をし」たものといえると結論づけた。 (2) 〔争点2〕について 原告は、次のように、原処分が、処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はその濫用があると主張した。 裁判所は、原告の主張について、次のように斥けた。 そのうえで、裁判所は、原告の責任を問い得る不正所得金額等は極めて多額であり、原告の行為の性質・態様は悪質であって、その効果も重大であることに加え、他の税理士及び社会に与える影響も勘案すれば、原告に対しては厳重な処分が選択されるべきであるから、処分行政庁が原告に対して税理士業務の禁止の処分をしたことが、社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできないとして、本件処分が、考慮すべき事情を考慮せず、過度に重い処分を課すものとして、比例原則に反し、処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はその濫用がある、ということはできないと結論づけた。 (3) 結論 大阪地方裁判所は、本件処分は適法であるとして、原告の訴えを棄却した。   【控訴審・大阪高等裁判所による判決の概要】 1 控訴審における原告の主張 (1) 控訴人による債権放棄額の減額反対 控訴人は、債権放棄額の打ち合わせの際のやり取りについて、次のように主張した。 B税理士が、電話で控訴人に、亡CのAに対する債権放棄額を減らすよう指示してきたことについて、控訴人は、自らの依頼者である(当時のAの実質的経営者)Fに対し、相続税の節約額の方が法人税の節約額より多いことを説明して、亡CのAに対する債権放棄額を減らすことに反対したが、F及びB税理士は、控訴人に対し、「労働組合対策のため、Aに課税所得が生じないようにすることは亡Cの遺言です。絶対に守らなければならない」と言い、さらに、Fは、「Aの法人税は5月末までに納付しなければならないとB税理士から言われていますが、Aには資力がなく、借入れもできません。相続税の支払には時間的に余裕があり、個人で借入れもできます」、「全責任は私がとります」と言って、控訴人の反対に耳を貸そうとしなかった。 (2) 税理士法45条の規定 次に、控訴人は、税理士法45条の規定について、同法2条が他人の求めに応じて、「税務代理」、「税務書類の作成」及び「税務相談」を行うことを税理士業務と定義していることに対応するものであるから、税務の専門家である税理士が、同法2条により独占的に行うことを認められた税理士業務全般において、納税義務の適正な実現を害する事態を生じさせた場合には、財務大臣は当該税理士に対して懲戒処分を科すことができるとしたのであるとの見解を示し、税理士に対する懲戒処分は、税理士が納税義務者から税務代理、税務申告書類の作成又は税務相談を具体的に求められた場合、すなわち、税理士が納税義務者と同法2条に規定された税理士業務に係る税務上の契約関係にある場合にのみ科されることがあると解すべきであると主張した。 さらに、実質的に考えても、税理士が、税務上の契約関係がないにもかかわらず、脱税相談に応じ、これによって、納税義務の適正な実現を害する事態を生じさせることは、税理士にとってみれば、税務上の否認や懲戒のリスクをとりながら、これに対する報酬対価等の一切のメリットを伴わないこととなり、考え難いと主張した。 (3) Aの法人税申告について 控訴人は、さらに、Aの法人税申告について何らの税務上の契約関係もない控訴人が、Aの債務免除益を減少させることは不可能であると主張した。 その理由として、Aの債務免除益の減少は、①Aから法人税申告の税務代理を受任しているB税理士が税務仕訳を行い、法人税の申告書を提出すること、②法人税申告時点においてAの実質的代表者になっていたFが債務免除益の減少を承認することによって行われ得るものであることを挙げ、①については、税務の専門家であるB税理士の判断と責任において行われたことであり、控訴人には何らの関係もないのであるから、Aの法人税申告について税務代理を受任しているB税理士が行った税務仕訳及び法人税申告について、控訴人が税理士としての責任を問われることはあり得ないし、②については、Fが判断したことであり、控訴人には何らの関係も責任もないとした。 (4) 東京国税局による相続税調査について 控訴人は、東京国税局は、平成28年頃に行った亡Cの相続税申告に係る税務調査の際、亡CのAに対する債務免除額を3億円のままにするよう指示し、Aの債務免除益を3億円とすることをその職権と責任において承認しているため、B税理士が作成したAの法人税の申告書は真正の事実に反するものではなく、Aから法人税の申告の税務代理を受任していたB税理士が税理士としての責任を問われることはないこととなり、B税理士に税理士としての責任がない以上、Aとは税務上の契約関係に一切ない控訴人において、Aの法人税の申告について税理士としての責任を問われることはないと主張した。 2 大阪高等裁判所の判断 (1) 控訴人による債権放棄額の減額反対 裁判所は、平成30年4月16日の大阪国税局における質問検査において、控訴人が以下のとおり説明したことを認めた。 控訴人の陳述書の記載は、この説明に照らして信用できないことから、裁判所は控訴人の主張は採用することができないという判断を示した。 (2) 税理士法45条の規定 次に、裁判所は、控訴人の主張に対し、税理士法45条は、財務大臣が、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は同法36条の規定に違反する行為をしたときは、1年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる旨規定しており、税理士が、納税義務者から具体的に求められた場合に不正な行為をしたときとは別に、同法36条の規定に違反する行為をしたときも処分の対象としているのであるから、税理士に対する懲戒処分が、税理士が納税義務者と同法2条に規定された税理士業務に係る税務上の契約関係にある場合にのみ科されることがあると解することはできないとして、控訴人の主張を斥けた。 さらに、税務上の契約関係がない者に対して税の逋脱の方法を教示した場合、そのこと自体に対する直接の報酬対価等が伴わないとしても、それを契機に、将来、税務上の契約関係がない者から何らかの便宜を図ってもらえることを期待し得るのであるから、税理士が、税務上の契約関係がないにもかかわらず、脱税相談に応じ、これによって、納税義務の適正な実現を害する事態を生じさせることは考え難いとはいえないとして、控訴人の主張は採用することができないという判断を示した。 (3) Aの法人税申告について 裁判所は、さらに、Aの法人税申告について何らの税務上の契約関係もない控訴人が、Aの債務免除益を減少させることは不可能であるという控訴人の主張に対し、Aの債務免除益を減少させるためには、Aから法人税申告の税務代理を受任しているB税理士の対応が必要であり、確かに、控訴人のみでAの債務免除益を減少させることは不可能であるが、控訴人において、B税理士やFと共同して、Aの債務免除益を減少させることは可能であり、B税理士としては、Aの平成26年3月期における法人税の納税義務を免れるためには、亡Cの相続に係る相続税の申告内容とAの法人税の申告内容とが矛盾しないように、相続税の申告に関与していた控訴人の協力を得る必要があったのであるから、控訴人がAの平成26年3月期の法人税の逋脱に寄与した程度は小さくないことから、控訴人の主張は採用することができないと判断を示した。 (4) 東京国税局による相続税調査について また、裁判所は、東京国税局が、平成28年頃に行った亡Cの相続税申告に係る税務調査の際、亡CのAに対する債務免除額を3億円のままにするよう指示したことを認めるに足りる証拠はなく、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであるから、失当であるとして、控訴人の主張を斥ける判断を示した。 (5) 結論 大阪高等裁判所は、結論として、控訴人の請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないとして、本件控訴を棄却する判決を言い渡した。   【解説】 脱税相談を理由とする税理士業務の禁止処分という、極めて厳しい処分に関して、大阪地方裁判所とその控訴審である大阪高等裁判所は、処分行政庁の判断を支持して、原告(控訴人)である税理士の訴えを斥けた。 そもそも既に死亡した者の債権放棄通知書を作り替えるという行為自体が私文書偽造(刑法159条1項)という違法行為であり、原告に関しては、脱税相談による懲戒処分を問題にする以前に、刑法に違反する行為をした点で情状酌量の余地はないといえる。債権放棄通知書の偽造を依頼し、容認したB税理士も同様である。 原告の主張を深堀りしながら、事案の経緯を振り返って、こうした犯罪行為を未然に防ぐことはできなかったのかを検討したい。 1 税務委任契約がない納税義務者に対する相談 原告(控訴人)税理士は、税理士法2条1項の「他人の求めに応じ」という文言から、税理士に対する懲戒処分は、税理士が納税義務者と同法2条に規定された税理士業務に係る税務上の契約関係にある場合にのみ科されることがあると解すべきであるという主張を導いている。 一見、この主張にも理があるように読めるが、同法36条の規定は、税理士が指示をしたり、相談を受けたりする相手方については制限を設けておらず、同法45条が、2条違反のみならず36条違反も懲戒の範囲に加えているのは、控訴審判決が判示した、税理士が納税義務者と税理士業務に係る税務上の契約関係にある場合にのみ科されることがあると解することはできないとの指摘は、法の趣旨からも首肯できるものであろう。 さらに、控訴審判決では、無償での税務相談により、税の逋脱の方法を教示した場合についても、直接の報酬対価等が伴わないとしても、それを契機に、将来、税務上の契約関係がない者から何らかの便宜を図ってもらえることを期待し得るとして、控訴人である税理士による、無償で税の逋脱の方法を教示することは、税務上の否認や懲戒のリスクをとりながら、これに対する報酬対価等の一切のメリットを伴わない行為であり、考えづらいものであるという主張を斥けている。 2 債権放棄額の決定プロセスに欠けた慎重さ 原告(控訴人)税理士が、Aの平成25年3月期における繰越欠損金額である4億1,300万円相当額の債権放棄を行うことによって、亡Cに係る相続税負担を軽減することを提案し、債権放棄通知書を作成した平成26年2月の段階で、Aの顧問税理士であるBと協議して、Aの平成26年3月期の決算見通しを確認していれば、亡Cの死後、債権放棄通知書を偽造する必要はなかったであろう。 原告(控訴人)税理士に、亡Cの債権放棄額次第で、Aの決算内容が大きく変わるという認識があったのかどうかは不明だが、Aの平成26年3月期の損益状況を確認するという慎重さが求められたのではないかと、自戒を込めて思料した次第である。   (了)

#No. 554(掲載号)
#米澤 勝
2024/02/01

〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第12回】「リース取引の税務上のポイント」

〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第12回】 「リース取引の税務上のポイント」   公認会計士・税理士 喜多 弘美   これまで本連載では、リース取引の会計について見てきました。今回は、リース取引の税務の概要について、会計と比較しながら簡単に確認します。 会計の勉強を始めた頃の筆者は、今回のような「会計と税務を比較する」「会計と税務の違い」と聞くと、頭にたくさん「?」が浮かびました(会計で計算された利益に基づいて、法人税を計算することは理解していたのですが・・・)。今回、当時の筆者と同じように、頭に「?」が浮かんでいる読者の方もいらっしゃると思います。 そのため今回は、まず会計と税務の違いを簡単に確認してから、リース取引の会計と税務の違いを見ていきたいと思います。   1 会計と税務の違い 会計では、収益から費用を差し引いて、利益が計算されます。一方で、法人税は、益金から損金を控除した所得金額に税率をかけて、計算されます。法人税の益金と損金は、会計上の収益と費用とは範囲が異なります。そのため、会計上の利益に税率をかけても法人税を計算することができません。 法人税を計算するためには、会計上の利益を法人税法上の所得金額へ調整することになります。具体的には、会計上の利益に「加算」や「減算」をすることで法人税法上の所得へ調整します。 会計の収益・費用と税務の益金・損金が異なるのは、会計上の処理が税務上は認められない場合などに生じます。つまり、会計と税務の処理が同じで問題なければ、会計の収益・費用と税務の益金・損金は同じものになり、調整は不要ということになります。   2 リース取引の会計と税務の違い (1) 税務上のリース取引 まず、会計上と税務上でリース取引に違いがあるか確認したいと思います。税務上のリース取引は、資産の賃貸借で、次の2つの要件を満たすものをいいます(法法64の2③)。 上記を簡単にすると、①「中途解約不能」、②「フルペイアウト」の2つの要件を満たす取引が税務上のリース取引になります。これは、【第4回】で確認したファイナンス・リース取引の定義と同じです。つまり、税務上のリース取引は、会計上のファイナンス・リース取引にあたるということになります。 (2) 税務上の2種類のリース取引 また、会計上のファイナンス・リース取引が「所有権移転ファイナンス・リース取引」と「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に分類されるのと同じように、税務上のリース取引も「所有権移転リース取引」と「所有権移転外リース取引」に分類され、それぞれ取扱いが異なります。 税務では、次の4つの要件のいずれも満たさない場合は「所有権移転外リース取引」、1つでも満たす場合は「所有権移転リース取引」としています(法令48の2⑤五)。 上記を簡単にすると、①は「所有権移転条項」がある、②は「割安購入選択権」がある、③は「特別仕様物件」であるということです。つまり、こちらも【第5回】で整理した所有権移転ファイナンス・リース取引の条件と同じになります。 また、④の「相当短いもの」は、リース期間がリース資産の耐用年数の100分の70(耐用年数が10年以上のリース資産については、100分の60)に相当する年数を下回る期間であるものをいいます(法基通7-6の2-7)。 (3) オペレーティング・リース取引 オペレーティング・リース取引は、税法上のリース取引には該当しないことになります。そのため、税法上も賃貸借処理され、リース料が損金として計上されます。これは、【第9回】で整理したとおり、会計上の処理と同じです。 (4) セール・アンド・リースバック取引 セール・アンド・リースバック取引については、税法上は、資産の種類、売買及び賃貸に至るまでの事情その他の状況に照らし、これら一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるときは、売買取引ではなく、譲受人(貸手)から譲渡人(借手)に対する金銭の貸付けがあったものとされます(法法64の2②)。 すなわち、金銭の貸借とされる場合には、譲渡人(借手)がリース資産を担保にして、譲受人(貸手)から融資を受けているものとして扱われるため、譲渡人(借手)が計上している譲渡損益は、益金・損金には算入されないことになります。この点、【第10回】で確認した会計上の処理と異なってきます。   (了)

#No. 554(掲載号)
#喜多 弘美
2024/02/01

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第45回】「仲介者や金融機関が好む買い手と売り手の特徴」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第45回】 「仲介者や金融機関が好む買い手と売り手の特徴」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒仲介者や金融機関が好む買い手の特徴を知って自社の対応に活かす。 売り手企業 ⇒仲介者や金融機関が好む売り手の特徴を知って自社の対応に活かす。 支援機関(第三者) ⇒買い手や売り手との良好な関係づくりに役立てる。 その他の対象者 ⇒仲介者や金融機関が好む買い手と売り手の特徴を理解する。 【第43回】は主に売り手の立場から、【第44回】は買い手の立場から第三者に好まれる特徴などをみてきました。今回は、第三者の視点から、自らが好む買い手や売り手の特徴をいくつかみていきたいと思います。   1 案件の決まりやすさ M&A仲介機関やM&Aを支援する機関といったM&Aの第三者と言われるプレイヤーの収入源は、通常、M&Aの成立に伴って生じます。また、支援した実績の数によって市場や外部から第三者に対する評価が高まるとしましょう。これらを踏まえると、関わった各案件が無事に各社の成功と定義づける水準に至るかどうか、そして、その予測ができそうか、といった成功の確度の高さが彼らにとって重要な指標となります。これが案件の決まりやすさです。 第三者にとって、潜在案件は無形の在庫のようなものですから、成立すれば消えますが、いつまで経っても売上を生まなければ、管理コストだけが嵩んでいきます。というのは、買い手と売り手の候補を集めるだけ集めておいてストックしておく、後はほったらかしということは通常ありえないからです。 頻度や方法は第三者の組織の性格や担当者の対応の仕方によって異なりますが、定期か不定期かを問わず、何らかの形で見込み案件をメンテナンスするはずですので、M&Aの潜在企業に対するコストは案件成立前からすでに生じています。ならば、できる限り良い形で、なるべく早く卒業して売上に貢献してほしいというのが、財務面を踏まえた第三者側の希望です。 中小企業のM&Aの顧客は買い手と売り手ですから、互いに相手から欲しい、魅力があると思われるほど、案件が成就しやすくなります。つまり、ニーズがあるということです。一概には言えませんが、業種、価額、トレンド、会社規模、所在地、財務状況、保有する経営資源、将来の市場などの様々な要素に基づく総合力が相手にとっての魅力となります。つまり、これらの要素を総合的に磨き続けるのが第三者にとっての案件の決まりやすさにつながっていくわけですから、第三者が好むポイントにもなるのです。 案件の決まりやすさで一点注意したいのは、案件を急ぐ第三者です。余裕のある第三者なら、買い手に合う、売り手に合う案件を紹介できますが、逆の立場だったらどうでしょうか。成績、成果に追われて、成立を急ごうとする機関や担当者に当たらないとは言い切れません。このような第三者のもとからは、すぐ離れるのがよさそうなことは言うまでもありません。   2 手がかからない 手がかからないということは、上記1の案件の決まりやすさにも通ずるところがあります。第三者からみて、「この相手とはやりやすいな」と総合的に判断される場合が該当します。 (1) 顕在化するリスクが少ない 取引先との係争、損害賠償、製品保証など将来の支払いが発生する恐れが低い、売上債権や貸付金などの回収が滞りなく行われる可能性が高い、といったように、M&Aの買い手が事業を引き継ぐ際に、それほど対応に困らない相手なら、顕在化リスクは低いといえ、買い手がつきやすく、第三者としても、あまり手をかけずに案件が決まりやすくなります。 中小企業のM&Aで悩ましいのは、売り手が小規模で読めないリスクが多く、M&A後に顕在化するリスクを恐れて買い手がつかない可能性です。コストや時間などの制約がある以上、M&Aの成立前に明らかにできることには限界があります。また、決算内容を調査する段階にならなければ、売り手の詳細を知ることはできません。 かといって、リスクを放置すれば、M&A後に被害を受けるのは買い手です。後のリスクを承知で、そのリスクを上回るリターンを期待して投資しようとする買い手の不安を解消するには、可能な範囲でも構わないので、第三者側が案件の発掘段階から積極的に動いて情報を集め、想定されるリスクについての当たりをつけておくのも1つの手段です。 この時点において、すでにリスクの程度が高ければ、敬遠される可能性が高い一方で、その程度が低いのは第三者にとって魅力的に映りますので、手がかからない案件になりやすいといえます。 (2) シンプルさ M&Aの手続を進めるにあたって比較的手がかからないケースの一例として、以下の場合が考えられます。 このような条件が複数備わっていれば、比較的シンプルなのであまり手がかかりません。 ただし、必ずしもシンプルだといいわけではありません。許認可があるから、参入しにくいビジネスであってもM&Aで参入しやすくなる、といったM&Aならではの魅力があるため、どこまでシンプルがいいかどうかはケースやM&Aを望む相手の性格によって異なります。 (3) 好条件 主に売り手側の要因となりますが、 といった買い手側からみた好条件、魅力に映る要素や特徴は、第三者としても買い手候補にアピールしやすい点になりえます。   3 能力のミスマッチがない又は少ない 第三者がすでに有する能力やノウハウをもって業務提供が可能かどうか、関与予定の案件のレベルが第三者にとって高すぎず低すぎない点は、第三者視点で買い手候補、売り手候補を見る際に重要な点になります。 第三者によって、得意な地域、規模、業種などに多少の違いがあります。どの領域に得意分野があるか、特徴があるかは過去の実績を聞けばわかりますし、過去の関与案件が要約された資料を準備している機関もあります。 特定の分野への能力やノウハウが備わっている最大のメリットは、情報量です。情報量があるほど、第三者として提供できるサービスの質の向上につながりやすい点を考慮すれば、特定の業種の実績が蓄積する、一定規模の案件が着実に実績として積み上がる、といった過去からの情報量の蓄積は、確実に第三者の強みとなります。その強みを発揮できる領域で業務を行うのが、第三者の経営として効率的ですから、第三者が備える能力やノウハウと、自社との適合性があるかどうかを確かめるのは効果的です。 以下は、案件の規模に関するデータのみですが、このデータだけをみても、第三者によって得意な層が異なるのがわかります。 ※画像をクリックすると別ページで出典元のサイトが開きます。 (出典) 中小企業庁:中小企業の経営資源集約化等に関する検討会(第6回)「資料2 中小企業の経営資源集約化等に関する検討会取りまとめ概要」7頁より抜粋。 買い手候補企業の場合、どの支援機関を頼れば、自社がターゲットとする売り手候補に出会いやすいか、売り手候補企業であれば、どの支援機関を頼れば、望ましい買い手候補が見つかりやすいか、こうした第三者の能力面に着目したミスマッチを事前に解消しておくと、望ましいM&Aにつながりやすくなります。 ただし、M&Aに関しては、その能力やノウハウは担当者による違いも表れやすく、これまでの実績が伴わなかったとしても、他社から移ってきた担当者が知見を有していることで、属人的な面からデメリットを解消できる場合もあります。   4 目的や意図の明確性 (1) 買い手の戦略性、計画性 第三者が関わりづらい買い手候補企業は、「なんでもいいから良い案件があったら持ってきて」「M&Aがしたい」「良い案件があったらM&Aをする」といった抽象度の高い依頼パターンの企業です。その多くは、M&Aに対する強い動機も意思もなく、目的もないため、紹介しても条件の些細な点に言及し案件化しない場合が少なくありません。この類の買い手候補企業は、何かあったら他人、つまり第三者のせいにする可能性がありますので、本気で関わろうとする第三者は少ないでしょう。 M&Aは買い手候補企業自身のためにするのであって、第三者のためにするのではありません。買い手候補企業が何のためにM&Aが必要で、M&Aによって何を実現したいのか、どういう企業になりたいのかが明確でないまま第三者を頼ってはダメだということです。 この点を明確にできる企業であれば、どのような売り手を求めているかをつかみやすいため、第三者としては好む買い手となるわけです。 (2) 売り手の目的、意図 買い手と同様に売り手もまた、M&Aを行う目的や意図が明確なほど、第三者はマッチする買い手を見つけやすくなります。売り手で悩ましいタイプは、「とにかく助けて」というパターンです。「お金がない、後がない・・・」など、困っている事情はよくわかりますが、結局、とにかく困っているから助けてくれる相手であれば誰でもいいようにも聞こえます。 「よし、わかった」と助けてくれる相手もいるでしょう。ですが、売り手が最も強く望むのは、会社の存続か、後継者の存在か、従業員の保護か、なるべく課題を明確にして伝える方が、より望ましい買い手を探しやすくなりますし、誰でもいいと言われるよりも、「この目的、意図のためにあなたと一緒になりたい」と言われる方が、相手からの納得も得られやすいのではないでしょうか。 売り手の場合は、自分たちがM&Aを前にして、抱えている課題を具現化、言語化、可視化できることです。これができるかできないかでM&Aの成否が変わってくると思います。   5 自社の実績にプラスになるかどうか (1) 案件の難易度 第三者からすれば、目の前の案件をこなせば自分たちの実績となり、次の候補企業にアピールできる材料になります。この点に関連して、一見難しそう、複雑そうな案件を好んでやらせてほしいと言ってくる場合があります。 このケースでは、買い手と売り手の各候補企業の考え次第ですが、経験がないからこそ円滑にいかない、失敗するケースもあれば、拙いながらも丁寧に対応してくれるケースもあるので、お任せするかどうかは当事者次第ということになります。 取引の信頼関係を前提にすれば、「案件に自信や経験がないが」と前置きして「でもこのように対応する」など具体的な内容について当事者と一緒に悩みながら、内容を詰めてくれる第三者であれば、場合によっては経験値の高い相手よりも良い付き合いができるかもしれません。 (2) 取引が継続されることが大事 公的機関や地域金融機関のような第三者の場合、M&Aの成立に大義が存在する場合があります。商売を度外視してでも、地域の存続や発展のために、このM&Aを成立させたい強い意向がある場合です。 このような場合には、M&A後も長く良好な関係を築けそうな相手探しへの支援に積極的に乗り出す第三者も多いため、たとえ、大規模な第三者に比べて実績や紹介案件の数が少ないプレイヤーであっても、依頼主の意向に寄り添って対応してくれる信頼感はあるでしょう。地方企業であれば、まずは最寄りの公的機関や地域金融機関から頼っていくのも有効な選択肢として考えられます。 (了)

#No. 554(掲載号)
#荻窪 輝明
2024/02/01

空き家をめぐる法律問題 【事例57】「避難のため自宅を空き家にする場合の法的問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例57】 「避難のため自宅を空き家にする場合の法的問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 最大震度7の地震が発生し、自宅の瓦やブロック塀に被害が出ています。また、建物も傾いて倒壊の危険性があります。避難生活のため、自宅を空き家にすることになりますが、この場合にどのような問題がありますか。 また、隣人も避難しているようですが、隣家の瓦やブロック塀が自宅に向かって倒れてくる可能性があります。隣人に対して、どのような請求ができるでしょうか。   1 はじめに 大規模な地震等の災害によって自宅が損壊し、避難生活を余儀なくされる場合、自宅を空き家にせざるをえなくなる。余震が継続しているような場合では、修繕を行えないままに避難生活が長期化することもある。適切な処理が行われないままの空き家が増加すると、二次被害を発生させることもある。 そこで、地震によって自宅が損傷し、空き家とする場合を念頭に、その法的問題について検討することにしたい。   2 相隣関係において生じうる法的責任 (1) 隣家の所有権を侵害した場合 隣家の敷地に瓦やブロック塀が流入した場合、隣家の所有権を侵害することになるため、隣家の所有者から所有権に基づいて妨害排除請求や妨害予防請求を受ける可能性がある。請求を受けた場合、自ら費用を負担して撤去や予防措置を講じる必要が生じることになる。 流入物の撤去や建物やブロック塀の修繕を行うために、隣地を利用する必要がある場合、隣地を使用することができる(民法第209条第1項)。隣地を使用する際は、隣地の所有者と使用者に事前に通知する必要があるが、隣人が避難等をしており、事前通知が困難である場合には、事後的に遅滞なく通知することで足りる(同条第3項)。 (2) 隣家に損害を与えた場合 地震によって建物が崩れたり、瓦やブロック塀が損傷するなどして隣家に被害を与えた場合、土地工作物責任(民法第717条)の有無が問題となりうる。土地工作物責任が認められるためには、土地工作物の設置や保存に瑕疵のあることが要件となる。 ここでいう「瑕疵」とは通常有すべき安全性を欠いていることを意味するところ、瑕疵の有無は、建物やブロック塀等の土地工作物が、当時発生が予想された地震に耐えられる安全性を有していたかどうかを、諸般の事情を踏まえて総合的に判断することになる。 なお、不可抗力の場合に免責される余地もあるが、損害賠償義務があることを前提に、不可抗力の程度に応じて損害額を減額することで調整されることもある。 国土交通省によれば、住宅の耐震化率は全国的には約87%(平成30年時点)まで進んでいる(※)とのことであるが、異なる見方をすれば、現在でも耐震工事が進んでいない建物が少なからず存在することを意味する。 (※) 国土交通省「住宅・建築物の耐震化の現状と目標」 現在の基準に適合していない建物の瑕疵の有無は、そのことのみで判断するのではなく、法令上の改修義務の有無や、特別の事情(改修することが一般的に行われている等)の有無も考慮して判断することになるものと考えられる(仙台地判昭和56年5月8日判時1007号30頁参照)。 また、地震の発生時点で建物やブロック塀に、設置や保存の瑕疵がないと認められる場合でも、地震の発生後に損傷した建物やブロック塀の管理を放置し、隣人に新たな被害を発生させたような場合には、そのことを理由に建物やブロック塀の保存に瑕疵が認められることもあるので留意が必要である。   3 修繕・解体と行政上の支援 (1) 行政上の経済的支援 建物の所有者には上記2のような法的責任が生じうるため、避難生活のために自宅を離れる場合には、建物の状況に応じた修繕・解体等の措置を講じておくことが重要である。 また、被災後は生活再建のための資金も必要であることから、どのように修繕・解体費用を確保するかも重要な問題となる。この点に関して、次のものを含む行政上の支援が用意されていることから、個々の状況に応じて積極的に活用したいところである(内閣府「防災情報のページ」等)。 ① 災害救助法に基づく応急修理 災害救助法が適用される場合、地震によって、自宅の屋根、外壁、建具(窓・玄関)等に損傷が生じ、雨が降れば浸水を免れず、地方公共団体から準半壊以上と判断された世帯は、災害発生日から10日以内の期間に、1世帯5万円以内の範囲で、①ブルーシート、ロープ、土嚢等の資材の現物給付や、②修理業者によるブルーシート展張等の修理の提供を受けることができる。被災者は、申請時に、応急修理を受ける必要があることを明らかにできるように、発災直後の写真をスマートフォン等で撮影しておくことが重要である。 また、①住家が準半壊以上の被害を受け、自ら修理する資力がない世帯や、②大規模な補修を行わなければ居住することが困難である程度に住家が半壊した世帯は、災害発生日から3ヶ月以内の期間(災害対策基本法に基づく国の災害対策本部が設置された場合は6ヶ月以内)に、被災した住宅の居室、台所、トイレ等の日常生活に必要な最小限度の部分について、修理限度額の範囲内(半壊以上の場合:706,000円以内、準半壊の場合:343,000円以内)で、応急的な修理を受けることができる。全壊の場合は、修理することで居住することが可能となる場合には修理の対象になるものとされている。なお、スマートフォン等による発災直後の写真撮影の必要性は上記と同様である。 ② 被災者生活再建支援金の活用 被災者生活再建支援金は、政令で定める自然災害が生じた場合に、一定の被災世帯の世帯主に対して支給されるものである。次の区分に応じて支給されるものであり、これらを修繕費用に充てることも考えられる。 (出典) 内閣府「被災者生活再建支援制度の概要」より抜粋 ③ 災害援護資金の貸付け 災害援護資金は、都道府県内に災害救助法が適用された市町村が1以上ある場合に、災害によって負傷し、住居、家財に被害を受けた世帯の世帯主に対して貸し付けられるものである。 貸付けを受けるに当たっては、世帯人員あたりの市町村民税における前年の総所得金額による所得制限が設けられているが、負傷や損壊の程度に応じて、最大350万円の範囲で貸付けを受けることができる。 (2) 公費解体の利用 建物は所有権の対象であるから、その解体を行う費用は原則として自ら負担する必要がある。しかし、解体費用は高額になることから、公費解体が行われる場合には、これを積極的に利用するべきであろう。 公費解体とは、地震によって被災した建物等を、所有者の申請に基づいて、市町村が所有者に代わって解体・撤去を行う制度である。一般的には、建物等が罹災証明において全壊と認定された場合を対象としているが、災害規模によっては、半壊の場合でも対象となることもあるため、行政機関からの情報提供に留意する必要がある。令和6年能登半島地震においても、大規模半壊、中規模半壊、半壊(住家)、大被害(住家以外)と認定された家屋等が公費解体の対象とされた。 なお、災害が広域に及ぶような場合、業者が対応するまでに長期間を要することもある。被災者の窮状に付け込んで不当に高額な費用で解体等を受注する業者もいることから、自費解体を行うような場合には消費者被害に遭わないように留意が必要である。   4 隣家に対する法的請求 地震によって隣家が自宅に向かって崩れていたり、崩れかかっている場合、隣家の所有者に対して、所有権に基づいて、撤去や予防措置を請求できる。もっとも、被災後には様々な理由によって現実的に請求できない場合もある。この場合に、隣家の所有者に無断で撤去や予防措置を講じることは原則的には認められないが、事務管理(民法第697条、第698条)の要件を満たす場合は、撤去等の措置を講じて費用を請求できることもある。 また、地震後に隣家の所有者が適切に対応しないため、現在も権利を侵害される状態が継続しているような場合には、管理不全建物管理人(民法第264条の14)の選任を申し立て、当該管理人に適切な措置を講じさせることも考えられる。なお、所有者と連絡がつかず所在が不明な場合には所有者不明建物管理人(民法第264条の8)の選任を申し立てることも考えられる。 (了)

#No. 554(掲載号)
#羽柴 研吾
2024/02/01

電子書類の法律実務Q&A 【第15回】「契約書に「契約解除は書面による」と記載されている場合、メールで契約解除できるか」

電子書類の法律実務Q&A 【第15回】 「契約書に「契約解除は書面による」と記載されている場合、メールで契約解除できるか」   弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕   〔Q〕 事業者間の取引で、契約書に「契約解除は書面による」と記載されている場合、書面で契約解除しなければ、契約解除は無効でしょうか。メールで契約解除をすることは、できないでしょうか。 また、事業者間の取引で、契約解除などの意思表示の方法を契約書で決める場合の注意点を教えてください。 〔A〕 契約書に「契約解除は書面による」と記載されている場合は、書面で契約解除した方がよいです。 ただし過去の裁判例では、「契約解除は書面による」という趣旨の記載がされていても、メールによる解除が認められた事例もあります。このように、単に「書面による」とだけ定めていても、解釈により書面以外での方法が認められる可能性があります。 契約解除などの意思表示の方法を契約書で決める場合は、①重要性が低いものについて、電子メールでの意思表示も可能である旨明記すること、②書面に限定する趣旨の場合、書面以外の効力を否定する旨はっきり明記すること、がポイントです。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 法律上、意思表示の方法は決まっているのか そもそも、解除をどのような方法で行うかは、法律で決まっているのだろうか。 契約の申込・承諾・解除など一定の法律効果を欲する意思を表示する行為を「意思表示」という。法律上、意思表示の方法は決まっている場合がある。 例えば、保証契約は、民法上、「書面」又は「電磁的記録」でしなければ効力を生じないとされている(民法446条2項、3項)。そのため、口頭で保証契約を締結しても、無効だ。 ただし、意思表示の方法が法律で決まっているのは、例外的なケースだ。多くの場合、法律で、意思表示の方法は決まっていない。 本稿で取り上げる契約解除については、民法上、意思表示の方法は決まっていない(民法540条1項)。そのため民法上の売買契約、賃貸借契約、業務委託契約等について、どのような方法で解除するかは法律上、自由だ。契約書に意思表示の方法が定められていない場合、口頭での契約解除も有効だ。   2 契約書に「契約解除は書面による」と記載されている場合 契約書に「契約解除は書面による」と記載されている場合は、どうか。直感的には、契約で合意しているのだから書面で契約解除しなければならないように思う。 この直観は、正しい。たしかに、この場合、書面で契約解除した方がよい。筆者も弁護士として事前に相談を受けた場合、依頼者にこのようにアドバイスするだろう。 しかし、実は過去の裁判例では、契約書に「契約解除は書面による」と記載されていても、メールでの解除を認めた事例もある。過去の裁判例を確認してみよう。 まず、1つ目の裁判例を紹介する。 この事案は、指定する書面を交付しなかったという特殊性があるので、それほど重視できないという見方もあるだろう。 そこで、2つ目の裁判例を紹介する。 この東京地判平成30年1月5日のように、契約書等で意思表示の方法を書面によると定めていても、書面によらない意思表示を否定する趣旨の規定ではないと解釈される可能性がある。 また契約書等で「書面」と記載されていても、電子メールの場合、書面に近い側面もあるので、口頭で行う場合と比較して、意思表示が有効と認められやすくなる。   3 事業者間の取引で、契約解除などの意思表示の方法を契約書で決める場合の注意点 事業者間の取引で、契約解除などの意思表示の方法を契約書で決める場合には、契約書の文言上、意思表示の方法が書面に限定されているかどうか、確認する。 そのうえで、重要なやり取りかどうかで、対応を変える。 (1) 重要でないやり取りの場合 重要でないやり取りについて、全て書面で行うのは、煩雑である。書面にはやり取りを記録に残すことができるというメリットがあるが、電子メールでも同様の効果が期待できる。 例えば、重要性が低い契約の中途解約について、電子メールでやり取りする可能性がある場合、電子メールでの意思表示も可能であることを契約書にはっきりと明記した方がよい。明記することで契約当事者双方の認識にずれがなくなり、トラブルを防止することができる。 (2) 重要なやり取りの場合 他方、重要なやり取りなので、書面に限定したいというニーズもある。 この場合、単に書面によると決めていても、書面によらない意思表示を否定する趣旨の規定ではないと解釈される可能性がある(上記東京地判平成30年1月5日)。契約書上も、書面以外での意思表示を否定する趣旨であることを明確にした方がよい。   (了)

#No. 554(掲載号)
#池内 康裕
2024/02/01

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第77話】「居住用財産の3,000万円特別控除」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第77話】 「居住用財産の3,000万円特別控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   浅田調査官は、昨年、署内で、令和5年分所得税確定申告の注意事項として「誤りやすい事例集」が渡され、それを熱心に読んでいる。 「・・・これは・・・資産税の事例だけれど、間違いやすいなあ・・・」 浅田調査官は、1人で苦笑している。 「何を読んで、ニヤニヤしているの?」 いつの間にか、傍らに中尾統括官が立っている。 「・・・」 浅田調査官は、驚いて顔を上げる。 「これって・・・回答・・・わかりますか?」 浅田調査官は、誤りやすい事例を見せる。 中尾統括官は、事例を読むと、即座に答える。 「これは・・・特例の適用はできないだろう・・・マンションを売却するまでに他人に貸しているのだから・・・」 中尾統括官の答えを聞いて、浅田調査官は微笑む。 「統括官もそう思うでしょ」 中尾統括官は、浅田調査官の表情を見て、「違うの?」と尋ねる。 「ええ、この事例については、資産税部門の人も間違えると聞いていますから、所得税の人は当然でしょう」 中尾統括官は、プライドを傷つけられ、憮然とする。 「・・・居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例の適用条文は、措置法35条だろう」 そう言うと、中尾統括官は、机の上に置かれていた税務六法を掴み、措置法35条1項を開く。 「そして、同条2項2号で、次のように規定している」 「・・・すなわち、居住の用に供していた家屋を、居住の用に供さなくなった日以降3年を経過した日の属する年の12月31日までに譲渡した場合は、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例を適用することができるという規定だろう」 中尾統括官は、条文を読みながら、浅田調査官を見る。 「ええ、そうです・・・そして、この場合において、譲渡した家屋が居住用の家屋に該当するかどうかは、その家屋を居住の用に供さなくなった時点で判定します」 浅田調査官が答える。 「・・・その判定時期は・・・措置法の通達に・・・次のように書いています」 そう言うと、浅田調査官は、措置法通達31の3-9を読み上げる。 そして、浅田調査官は、罫紙に図を描く。 「そうか・・・判定の時期が居住の用に供さなくなった時点だから・・・その後に他人に貸してもかまわないということか・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の描いた図を見ながら、呟く。 「・・・しかし、居住用土地等のみの場合は、貸し付けていたら駄目と書いている・・・」 中尾統括官は、措置法通達35-2を開く。 「・・・ということは、居住用土地等のみの場合は、貸し付けしてはいけないということか・・・」 中尾統括官は、真剣な顔で、通達を読み直す。 (つづく)

#No. 554(掲載号)
#八ッ尾 順一
2024/02/01

《速報解説》 令和6年能登半島地震の損失に係る雑損控除等、令和5年分の所得税確定申告で適用可とする特例法案の概要が明らかに~自民・公明両党、今国会での早期成立を目指す~

 《速報解説》 令和6年能登半島地震の損失に係る雑損控除等、 令和5年分の所得税確定申告で適用可とする特例法案の概要が明らかに ~自民・公明両党、今国会での早期成立を目指す~   Profession Journal編集部   令和6年1月31日(水)、自由民主党・公明党は、令和6年能登半島地震における被災者の所得控除を前倒しで適用可能とする特例法案の早期成立を目指すとしたうえで、同法案の概要を公表した。 令和6年能登半島地震については同年1月1日に発生したため、本来であれば雑損控除や災害減免法特例等の措置は令和6年分の確定申告での適用対象となるが、臨時・異例の対応として、今般の災害で生じた損失について、令和5年分の確定申告における雑損控除等の適用対象とされる。 特別措置の概要については以下のとおり。 (了)

#Profession Journal 編集部
2024/01/31

《速報解説》 総務省、「個人住民税の定額減税(案)に係るQ&A集」を公表~控除対象配偶者以外の同一生計配偶者に係る定額減税を令和7年度分からとする詳細示す~

 《速報解説》 総務省、「個人住民税の定額減税(案)に係るQ&A集」を公表 ~控除対象配偶者以外の同一生計配偶者に係る定額減税を令和7年度分からとする詳細示す~   Profession Journal 編集部   既報のとおり令和6年1月22日に所得税の定額減税については、源泉徴収義務者に向けた実施要領案が公表されたところ、同月29日には、総務省ホームページにおいて「個人住民税の定額減税(案)に係るQ&A集(第1版)」が公表された。 これは、個人住民税における定額減税の経緯・概要や控除方法、徴収方法等についてQ&A形式で詳細を明らかにするもの。 令和6年度税制改正大綱においては、原則、令和6年度分の個人住民税につき定額減税を行い、例外として控除対象配偶者以外の同一生計配偶者に係る定額減税については令和7年度分からとすることが示されていたが、その理由等についても下記のとおり説明されている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2024/01/30

《速報解説》 国税庁、インボイス制度に関して「多く寄せられるご質問」を更新~令和5年10月から課税事業者となった場合の令和7年における基準期間の取扱いなど4問追加~

《速報解説》 国税庁、インボイス制度に関して「多く寄せられるご質問」を更新 ~令和5年10月から課税事業者となった場合の 令和7年における基準期間の取扱いなど4問追加~   Profession Journal編集部   インボイス制度に関して「多く寄せられるご質問」は、既報のとおり令和5年11月13日に全13問で国税庁ホームページにて公表され、その後12月13日には設問が5問追加されたところ、本日(令和6年1月26日)付で新たに4問が追加された。 今回新たに公表されたのは次の4問。 このうち問㉒では、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者となった個人事業者(令和5年10月1日より前は免税事業者)につき、令和7年分の申告における基準期間(令和5年分)の課税売上高は、免税事業者であった期間(令和5年1月から9月まで)の金額を含むか否かについて取り上げている。 これに対する回答として、基準期間における課税売上高(税抜)は、個人事業者が免税事業者であった期間(令和5年1月から9月)の課税売上高を含む金額で計算することを明らかにしたうえで、免税事業者であった期間に係る課税売上高について税抜処理は行わず、その売上げ(非課税売上げ等を除く)がそのまま課税売上高となることを計算例とともに示している。 なお、インボイス制度開始後、最初の消費税確定申告時期が近いこともあってか、国税庁は同日、「2割特例」に関する情報をまとめた特設ページも公表している。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#Profession Journal 編集部
2024/01/26
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