〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例90】 株式会社グッドスピード 「取締役の辞任及び役員報酬の減額に関するお知らせ」 (2024.1.30) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社グッドスピード(以下「グッドスピード」という)が2024年1月30日に開示した「取締役の辞任及び役員報酬の減額に関するお知らせ」である。同社は2024年1月4日に「第三者調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を開示しており、そこで示された調査結果の責任を取るため、取締役3名が辞任し、代表取締役社長の加藤久統氏(以下「加藤氏」という)の役員報酬を3ヶ月間50%減額することにしたというのである。 2 不適切な保険金請求について「公表」は? グッドスピードは2023年8月23日に「当社に関する一部報道について」を開示している。その全文は次のとおりである。 同社は、翌日の2023年8月24日に適時開示ではなくホームページ上に「過去の保険金請求に関する自主調査の経過報告ならびにお客様専用相談窓口設置のお知らせ」を開示し、「自主調査」の結果、不適切な保険金請求が見つかったとした。 その後、今度は「社内調査委員会」を設置し、その調査結果を「適時開示」した。2023年10月20日に開示した「過去の保険金請求に関する社内調査委員会による調査報告のお知らせ」がそれであり、その「4.その他」には次のような記載がある。この開示では調査結果が簡潔に示されているだけであり、調査報告書は添付されていない。「公表すべき内容が判明した場合には速やかに公表」するとしていたが、「公表」には後ろ向きのようである。 また、「3.今後の予定」の記載は次のとおりである(下線は筆者による)。 「社内調査委員会」による調査もやめて、「自主調査」に移るとしているが(ホームページ上での開示を「公表」とする感覚もいかがかと思われる)、本来であれば、「社内調査委員会」ではなく「第三者調査委員会」を設置し、調査すべき事案のはずである。そうでなければ、「客観性を担保」するのは難しいだろう。「自主調査」の結果も、「公表すべき事項を確認した場合には、適時適切に開示いたします」としているが、本当に「公表」するのだろうか。 3 第三者調査委員会の目的 不適切な保険金請求について触れたが、今回の開示における取締役辞任と加藤氏の役員報酬減額の理由となった第三者調査委員会による調査結果は、これではない。上述のとおり、グッドスピードは不適切な保険金請求を調査するための第三者委員会を設置していない。 同社はまず2023年9月29日に「調査委員会設置のお知らせ」を開示しているが、その「1.調査委員会の設置」の記載は次のとおりである。 第三者調査委員会の調査対象は、不適切な「保険金請求」ではなく、不適切な「会計処理」である。なお、監査法人からの指摘は2023年9月14日とされているが、この開示はその約2週間後に行われている。グッドスピードは第三者委員会の設置に難色を示したのかもしれない。同社の不適切な保険金請求への対応を見ると、そう思わざるを得ない。 そして、「2.調査委員会の目的について」の記載は次のとおりである(下線は筆者による)。 同社の不適切な保険金請求への対応や、不適切な会計処理の疑義を伝えた際の対応から、監査法人は同社に対して不信感を持ち、不適切な会計処理の内容を伝えなかったのだろう。なお、その監査法人は後に辞任することになる(2024年2月1日開示「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」)。 4 加藤氏は認識していなかったのか? 「第三者調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」に添付された「調査報告書」では、売上の先行計上が行われていたことが明らかにされている。その責任を取って、取締役が辞任し、加藤氏の役員報酬を減額したというのだが、今回の開示の「4.役員報酬の減額」には次のような記載がある。 加藤氏は売上の先行計上を認識していないとされているが、「調査報告書」には次のような記載がある(43頁。下線は筆者による)。「A1氏」は「加藤氏」のことである。 また、次のような記載もある(66頁)。なお、調査の過程で、グッドスピードから加藤氏に対して、取締役会の承認を経ずに一時的な金銭の融通等が行われていたことが明らかになっている。 このように指摘されているにもかかわらず、加藤氏は「調査報告書で指摘された売上の先行計上を認識して」いないとして、3ヶ月間50%の役員報酬減額を「妥当と判断」するというのは、理解し難い。 5 今後 今回の開示の「5.その他」には次のような記載がある。 「調査が完了しましたら速やかに公表」、「調査の目途が付いたうえで、改めて公表」としているが、本当に「公表」するのだろうか。また、「関連当事者取引の調査結果によっては、本件内容について今後変更の可能性がございます」としているが、その調査結果次第では加藤氏に対して役員報酬減額以上の制裁を科す可能性があるということなのだろうか。 「調査報告書」の「第7章 再発防止策」の最初には次のように記載されている(73頁)。上述のとおり「A1氏」は「加藤氏」のことであり、「GS社」はグッドスピードのことである。 第三者調査委員会の委員の思いが表れているようである。ただし、加藤氏は同社の創業者であり、現時点において同社の議決権を半数近く所有している(同社が2023年12月29日に開示した「親会社以外の支配株主の異動に関するお知らせ」によると、議決権は52.54%から49.78%に)。現状のままでは、同社の上場を維持すること自体の適否が問われるだろう。 (了)
《速報解説》 国税庁、定額減税に係る源泉所得税関係の様式案を公表 ~「各人別控除事績簿」のほか同一生計配偶者等の確認に必要な申告書の詳細が明らかに~ Profession Journal 編集部 所得税の定額減税制度については、既報のとおり国税庁の定額減税特設サイトにおいて「令和6年分所得税の定額減税Q&A」等を公表するなど、源泉徴収義務者が早期に準備に着手できるよう関連情報の周知・広報が行われているところ、令和6年2月16日付で新たに同サイト内において、定額減税に係る源泉所得税関係の様式案が公表された。 様式案として次の3点が公表されている。 上記様式案のうち①は、令和6年6月1日以後に支払う給与等に対する源泉徴収税額からその時点の定額減税額を控除する事務(月次減税事務)において基準日在職者(※)の各人別の月次減税額と各月の控除額等の管理を行う際に、基準日在職者の氏名や月次減税額を記載するもの。 (※) 令和6年6月1日現在、給与の支払者のもとで勤務している者のうち、給与等の源泉徴収において源泉徴収税額表の甲欄が適用される居住者(その給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している居住者) ただし、事績簿の作成及び様式は法定されたものではないことから、作成は義務ではなく、作成に当たっては適宜の様式で差し支えないとしている。 なお、今回公表された事績簿にはPDF版とExcel版があるものの、Excel版については掲載日現在の様式案となっており、動作確認未了のため、税額計算の用途には使用できないとのこと。そのため、動作確認後のものについては令和6年3月下旬の掲載が予定されている(同日公表の令和6年用「年末調整計算シート」(Excel版)についても同様)。 また、定額減税額の計算に含める同一生計配偶者の有無や扶養親族の人数については、基準日在職者の提出した扶養控除等申告書や配偶者控除等申告書で把握することになるが、これらに記載のない同一生計配偶者や扶養親族について月次減税又は年調減税において控除を受ける場合に提出する書類として、②・③が用意されている(③については既存の「給与所得者の基礎控除申告書、給与所得者の配偶者控除等申告書及び所得金額調整控除申告書」と兼用の様式となっている)。 なお、今回公表された3つの様式案は、いずれも掲載日現在のものとなっており、確定版については順次掲載が予定されている。加えて記載例も準備中とされているため、今後の情報には留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 キャッシュ・フロー計算書における 「資金」の定義を修正する財規の改正が確定 ~「現金及び預金」の範囲に含まれるか否かについて金融庁の考え方示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024(令和6)年2月19日、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第14号)が公布された。これにより、2023年12月7日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。パブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方も公表されている。 これは、企業会計基準委員会から公表された「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(実務対応報告第45号)及び「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ キャッシュ・フロー計算書における資金 キャッシュ・フロー計算書における「資金」の定義について、次のように改正する(アンダーラインが改正点。連結財務諸表規則なども同様の改正)。 Ⅲ パブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方 電子決済手段について、財務諸表等規則に定める貸借対照表上の「現金及び預金」の範囲に含まれるかどうかのコメントに対して、金融庁は次の考え方を示している。 Ⅳ 施行日 公布の日(2024年2月19日)から施行する。 (了)
《速報解説》 JICPAが監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」等の改正案を公表 ~PIEなど特定の事業体の財務諸表監査に特有の独立性に関する規定が適用される場合の規定を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年2月15日、日本公認会計士協会は、監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」、監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」及び監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」の改正(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2023年10月に国際監査・保証基準審議会(The International Auditing and Assurance Standards Board:IAASB)から公表された、IESBA倫理規程の改訂により会計事務所が社会的影響度の高い事業体(PIE)に対する独立性に関する要求事項を適用している場合の開示要求に伴う狭い範囲の改訂を受けたものである。 意見募集期間は2024年3月15日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る監査並びに同日以後開始する中間連結会計期間及び中間会計期間に係る中間監査から適用する。 (了)
2024年2月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.556を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第124回】 「令和6年度税制改正における新たな公益信託税制」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 2月2日、政府は、能登半島地震の発災日が1月1日と令和5年分所得税の課税期間に極めて近接していること等から、令和5年分所得税・令和6年度分個人住民税について、今般の災害による損失に係る特別な措置を講ずることを閣議決定した。 これまでも、平成23年4月27日に成立・施行された「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」及び「地方税法の一部を改正する法律」(いわゆる震災特例法)においても同様の措置が講じられたことがある。 今回新たに講じられる措置は、所得税では、①雑損控除の特例(今般の災害により住宅や家財等の資産について損失が生じたときは、令和5年分の所得において、その損失の金額を雑損控除の適用対象とすることができる特例)、②災害減免法の特例(今般の災害により住宅や家財について甚大な被害を受けたときは、雑損控除との選択により、令和5年分の所得税について、災害減免法による軽減免除の適用を受けることができる特例)、③被災事業用資産等の損失の必要経費算入の特例(今般の災害により事業用資産等について損失が生じたときは、その損失の金額を令和5年分の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入することができる特例)が設けられる。 また、個人住民税では、雑損控除の特例(今般の災害により住宅や家財等の資産について損失が生じたときは、令和6年度分の個人住民税において、その損失の金額を雑損控除の適用対象とすることができる特例)が設けられる。 〇令和6年度税制改正法案の提出 上記特例措置の閣議決定と同じ2月2日に、令和6年度税制改正に係る「所得税法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された(2月6日には「地方税法等の一部を改正する法律案」も国会に提出された)。 今回の改正法案には、公益法人制度改革と併せて、公益信託制度も公益法人制度と整合的なものとすることとされており、公益信託税制の抜本的な見直しも盛り込まれている。 〇従来の公益信託税制 公益信託は、公益活動のために自らの財産を提供しようとする個人や利益の一部を社会に還元しようとする企業等(委託者)が自らの財産を信託銀行等(受託者)に信託し、信託銀行等は、定められた公益目的に従い、その財産を管理・運用し、公益のために役立てようという制度である。 これまでの公益信託は、受益者の定めのない信託として位置づけられ、一定の要件を満たした公益信託(特定公益信託・認定特定公益信託)を設定した委託者及び公益信託へ寄附した寄附者に対して、特定公益信託の場合は、法人において一般寄附金としての損金算入が認められ、認定特定公益信託の場合は、法人においては一般寄附金とは別枠での損金算入が認められ、個人においては寄附金控除や相続又は遺贈により取得した財産の金銭を支出した場合の相続税非課税が認められている。 また、特定公益信託の要件を満たす公益信託については、その信託に関する権利の価額はゼロとして取り扱われ、相続税は非課税となる。 〇新たな公益信託制度 新しい資本主義の下、社会の変化等に柔軟に対応し多様な社会的課題解決に向けて民間の力を引き出していくため、昨年5月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」では、公益法人制度の見直しと併せて、「公益信託制度について、主務官庁による許可・監督を廃止して、公益法人認定法と共通の枠組みで公益信託の認可・監督を行う仕組みを構築する」とされていた。 すでに、公益信託については、現在の公益信託制度を規定する「公益信託ニ関スル法律」を見直すために、平成31年に法制審議会の答申がされているところ、この答申を踏まえ、公益信託制度を公益認定制度に一元化し、公益法人認定法と共通の枠組みで公益信託の認可・監督を行う仕組みとすることとされている。 〇新たな公益信託に対する税制措置 令和6年度税制改正では、新たな公益信託制度に対応し、新公益信託については信託設定時等のみなし譲渡益の非課税、拠出時の寄附金控除及び寄附金の損金算入、運用収益の非課税など、公益法人並みの課税上の取扱いを受けることとされている。 公益法人等に対して財産を寄附した場合、その寄附者による資産等の贈与等がみなし譲渡所得課税の適用対象となることとされ(改正所法案59)、また、公益信託の委託者がその有する資産を信託した場合にもその委託者に対してみなし譲渡所得課税が適用されることとなる(改正所法案67の3)。その上で、みなし譲渡所得等の非課税措置(改正措法案40)について、適用対象となる公益法人等の範囲に、新公益信託の受託者が加えられる。 新公益信託の信託財産とするために、個人が支出した当該新公益信託に係る信託事務に関連する寄附金について、寄附金控除の対象とされ(改正所法案78)、法人が支出した寄附金については、一般の寄附金の損金算入限度額とは別に、一定の損金算入限度額に相当する金額の範囲内で損金算入ができることとされる(改正法法案37)。 新公益信託の信託財産に属する資産及び負債並びにその信託財産に帰せられる収益及び費用は受託者である法人の各事業年度の所得の金額の計算上その法人の資産及び負債並びに収益及び費用でないものとみなされる(改正法法案2、12)。 (了)
〔令和6年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第2回】 「「オープンイノベーション促進税制の見直し」 「デジタルトランスフォーメーション (DX) 投資促進税制の見直しと延長」 「中小企業防災・減災投資促進税制の見直しと延長」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和5年度税制改正における改正事項を中心として、令和6年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 【第1回】は「研究開発税制の見直し」について解説した。 【第2回】は「オープンイノベーション促進税制の見直し」、「デジタルトランスフォーメーション (DX) 投資促進税制の見直しと延長」及び「中小企業防災・減災投資促進税制の見直しと延長」について解説する。 1 オープンイノベーション促進税制の見直し オープンイノベーション促進税制とは、青色申告書を提出する法人が、一定のスタートアップ企業に対して出資を行う場合に、その投資額の25%相当額の所得控除を認める制度である。 ただし、株式取得の日から一定期間内に当該株式を売却等した場合は、その部分を益金に算入することになるので注意が必要である。 従来は現金の払込みによる新規出資のみが対象だったが(新規出資型)、令和5年度税制改正により、既存株式の取得が対象に追加されている(M&A型)。 (1) 新規出資型における見直し 令和5年度税制改正により、令和5年4月1日以降の新規出資型の出資について次のように見直しが行われている。 (※1) 過去に新規出資型の証明を受けている場合、当該証明を受けた出資先企業に対して行う追加出資(新規発行株式の取得)は対象外 ただし、追加出資によって議決権の過半数を有することになる場合は対象 (※2) M&A型との合計額 株式の取得から3年を経過するまでに、特別勘定の取崩し事由に該当することとなった場合は、その事由に応じた金額を取り崩して益金に算入する。具体的には、次のような場合である。 (2) M&A型の創設 スタートアップ企業へのM&Aを後押しするため、令和5年度税制改正により、M&A時の発行済株式の取得もオープンイノベーション促進税制の対象とすることとされた。 (※) 新規出資型との合計額 株式の取得から5年経過後に、特別勘定を取り崩して益金に算入する。ただし、5年以内にスタートアップが一定の成長要件を満たした場合は、取崩しは不要となる。要件は、スタートアップの成長段階に応じ「売上高成長類型」、「成長投資類型」、「研究開発特化類型」の3類型が設定されている。 この改正は、令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間の株式取得に適用されるため、令和6年3月期決算申告には適用されることになる。 2 デジタルトランスフォーメーション (DX) 投資促進税制の見直しと延長 デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を活用した企業変革のことである。DX投資促進税制とは、青色申告書を提出する法人が、認定事業適応計画に従ってソフトウェア等の取得等をして事業に供用した場合に、30%の特別償却又は税額控除(3%又は5%)を認める制度である。 令和5年度税制改正において、主務大臣による認定要件が見直された上で2年間(令和7年3月31日までの間の取得・供用まで)延長されている。 (1) 認定要件の見直し DX投資促進税制の適用を受けるためには、主務大臣による認定が必要であるが、この認定要件が見直されて次のようになっている。 (2) 制度の概要 取得等をして事業に供用した情報技術事業適応設備及び事業適応繰延資産の額(300億円が限度)について、30%の特別償却又は税額控除(3%又は5%)が認められる。 (※1) クラウドシステムへの移行に係る初期費用 (※2) ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するもののみ (※3) グループ企業外の事業者とデータ連携をする場合 (3) 適用期間 この改正は令和5年4月1日から令和7年3月31日までの取得・供用に適用されるので、令和6年3月期決算申告には適用されることになる。 3 中小企業防災・減災投資促進税制の見直しと延長 中小企業防災・減災投資促進税制とは、中小企業強靭化法に基づく「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」の認定を受けた青色申告書を提出する中小企業者等が、当該計画に基づいて、指定期間内に一定の設備(特定事業継続力強化設備等)への投資を行う場合に、20%の特別償却を認める制度である。税額控除は認められていない。 令和5年度税制改正により、対象設備に耐震装置が追加され、計画の認定期間が令和7年3月31日まで2年間延長された。また、令和5年4月1日以後に取得・供用する資産については、特別償却率が18%に引き下げられている。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第58回】 「事前確定届出給与と役員賞与引当金」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員賞与引当金の計上 日常の実務において、様々な引当金を計上することは一般的であるといえる。その目的は、適正な期間損益を試算表や決算書に示すことで、ステークホルダーへ情報開示を行い、経営判断等の礎とするためである。 このうち、役員や従業員を対象とした賞与引当金については個別の会計基準が存在しないため、企業会計原則等に従って会計処理を行うこととなる。具体的には、賞与の支給について次の要件のいずれにも該当すると判断されるのであれば、会計上、支給すべき賞与の額を賞与引当金として計上することとなる。 【企業会計原則注解・注18】 このうち、②の「その発生が当期以前の事象に起因する」という要件も満たすからこそ引当金が計上されることから、事前確定届出給与を支給する前事業年度に、役員賞与引当金を計上した場合における税務上の取扱いがこれまで判然としていなかった。 つまり、X1年度に②の要件を満たすとして役員賞与引当金を計上しつつ、X2年度に役員賞与を支給するとして事前確定届出給与に関する届出書を提出した場合に、職務執行期間がX1年度であるものをX2年度に支給することにもなりかねず、事前確定届出給与に関する届出書に記載すべき職務執行期間とその提出期限の整合性の面で問題となりかねないということである。なお、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限については、【第17回】で解説している。 この問題について判断を示した裁決例が現れたため、以下(2)で解説したい。 (2) 役員賞与引当金の計上は職務執行期間を反映したものとはいえないとされた事例 役員賞与引当金の計上と事前確定届出給与に関する届出書における職務執行期間に関して、国税不服審判所が判断を示した事例として、国税不服審判所令和5年2月3日裁決がある(※)。 (※) 裁決事例集等未登載。 本件は、納税者が前事業年度に役員賞与引当金を計上し、それを取り崩すことで支給する形としていたことが問題視された事例である。つまり、親会社から通知を受けて取締役会で決議した役員給与は、どの職務執行期間に該当するものであるのかということであり、仮に職務執行期間を経過してから取締役会で支給を決議したのであれば後払いの性質となるため、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限を徒過したこととなるという問題である。 この点、課税庁は、親会社が業績を指標として支給額を子会社に通知すること、上記(1)の引当金計上要件②に鑑みて、引当金を計上する事業年度の職務であることが要件であること等から、職務執行期間は過去のものである等と主張した。 これに対し、納税者は、親会社の方針は賞与の額を算定する基準に過ぎないこと、定時株主総会と取締役会の決議を経て初めて確定すること、役員賞与引当金の計上は会計処理の継続性及び保守主義の観点から行ったものであること等を主張し、適正な決議と適正な事前確定届出給与に関する届出書を提出していることから、職務執行期間は支給日の属する職務執行期間であると主張した。 これを受け、国税不服審判所は納税者の主張を認め、更正処分等の全てを取り消しているのは上記の通りである。国税不服審判所は、取締役会の議事録上、決議した役員給与がいつの職務執行期間に対するものかを示す記載はないということを認定した上で、「本件各役員給与が過去の職務執行の対価であることをうかがわせる記載もなく、むしろ、請求人が、本件各役員給与を、同日開催された定時株主総会で選任(再任)された各取締役を対象に、当職務執行期間における職務執行の対価と認められる毎月の定額報酬の額と合計した上で承認していたことからすれば、本件各役員給与は毎月の定額報酬と同様、当職務執行期間の職務執行の対価として決議されたと考えるのが自然である」と示した。課税庁の主張に対しては、「引当金の会計処理は、・・・取締役会の決定内容を直接明らかにするものではな」く、「その会計処理をもって直ちに本件各役員給与に係る職務執行の時期が判断できるものではない」と示して退けた。 (3) 本件裁決例の意義 本件は、(1)で紹介した論点について、その判断を初めて正面から示したという点で評価できる裁決例だと考える。しかし、その前提となったのは、取締役会の議事録において、決議した給与はいつの職務執行期間に対するものかを示す記載がなかったことであるため、仮に、役員に対する給与が過去の職務執行期間に対応する旨等が当該議事録に明記してあれば、異なる結果となったとも考えられる。 本件裁決例は、役員賞与引当金を計上したという行為は取締役会の決議内容に直接結びつかないという点を確認したに過ぎず、その上で事前確定届出給与の職務執行期間について納税者の状況等から判断されたものである。 したがって、職務執行期間の判断は各種議事録に示される決議内容こそが重要であるため、事前確定届出給与の支給額を決議し、その届出書の提出を行う場合には、これから支給するとする期間に対応するものである点を確認しておきたい。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第61回】 「非適格株式交換を行った場合の株式交換完全親法人、株式交換完全子法人、株式交換完全子法人の株主の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、非適格株式交換を行った場合の株式交換完全親法人、株式交換完全子法人、株式交換完全子法人の株主の取扱いについて解説します。 1 非適格株式交換があった場合の株式交換完全親法人の取扱い (1) 株式交換完全子法人株式の取得価額 非適格株式交換により株式交換完全親法人が取得する株式交換完全子法人株式の取得価額は株式交換時の時価となります(法令119①二十七)。 (2) 非適格株式交換により増加する資本金等の額 株式交換完全親法人において株式交換により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①十)。 (3) 非適格株式交換により増加する利益積立金額 非適格株式交換の場合には、株式交換完全親法人の利益積立金額は増加しません。 (4) 具体例 ① 前提 【B社の株式交換直前のBS(単位:百万円)】 ② 株式交換完全親法人の仕訳 2 非適格株式交換を行った場合の株式交換完全子法人の取扱い (1) 時価評価 非適格株式交換を行った場合には、株式交換完全子法人が有する資産について時価評価を行う必要があります。株式交換完全子法人の非適格株式交換の直前の時において有する時価評価資産の評価益又は評価損は、非適格株式交換の日の属する事業年度の所得金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入されます(法法62の9①)。 (2) 時価評価の対象資産 非適格株式交換を行った場合に、株式交換完全子法人において時価評価を行う必要がある時価評価対象資産は、次のとおりです(法法62の9①)。 (3) 時価評価対象外の資産 非適格株式交換を行った場合の時価評価対象資産から除かれる資産は、次のとおりです(法令123の11①)。 (4) 評価単位 時価評価は、次の資産区分に応じた単位ごとに行います(法規27の15①、27の16の2)。 (5) 完全支配関係がある法人間で非適格株式交換が行われた場合 完全支配関係のある法人間で非適格株式交換を行った場合には、完全支配関係がある法人間の非適格合併の場合と同様に、グループ法人税制の適用により、時価評価損益の計上は行いません。 (6) 具体例 ① 前提 【B社の株式交換直前のBS(単位:百万円)】 ② 株式交換完全子法人の仕訳 土地は、時価評価の対象資産に該当するため、評価益700百万円を認識します。 3 非適格株式交換を行った場合の株式交換完全子法人の株主の取扱い (1) 旧株の譲渡損益 株主については、投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2⑨)。 「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 したがって、非適格株式交換の場合でも、株式交換完全子法人の株主が金銭等の交付を受けていないときは、旧株の譲渡損益は繰り延べられます。 (2) みなし配当 利益積立金額が株主に交付されるときは、みなし配当を計上する必要があります(法法24)。 非適格株式交換が行われた場合には、株式交換完全子法人の利益積立金額は株式交換完全子法人の株主に交付されないため、株式交換完全子法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (3) 株式交換完全親法人株式の取得価額 株式交換完全子法人の株主が対価として株式交換完全親法人株式のみを交付された場合のその株式交換完全親法人株式の取得価額は、株式交換完全子法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①九)。 株式交換完全親法人株式以外の資産の交付がある場合の株式交換完全親法人株式の取得価額は、株式交換時の時価となります(法令119①二十七)。 (4) 具体例①(株式交換完全親法人株式のみを交付) ① 前提 ② 株式交換完全子法人の株主の仕訳 (5) 具体例②(現金と株式交換完全親法人株式を交付) ① 前提 ② 株式交換完全子法人の株主の仕訳 ◆非適格株式交換を行った場合の株式交換完全親法人、株式交換完全子法人、株式交換完全子法人の株主の取扱いのポイント◆ 非適格株式交換があった場合に、株式交換完全親法人が取得する株式交換完全子法人株式の取得価額は時価となります。 非適格株式交換があった場合には、株式交換完全親法人において資本金等の額が増加しますが、利益積立金額は増加しません。 非適格株式交換があった場合には、株式交換完全子法人において対象となる資産の時価評価を行う必要があります。 株式交換完全子法人株式の譲渡損益を認識するかどうかは、適格株式交換か非適格株式交換かにかかわらず投資の継続で判定します。 (了)
給与計算の質問箱 【第50回】 「令和6年分所得税の定額減税」 ~月次減税~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和6年度税制改正大綱に織り込まれ、実施が見込まれる令和6年分所得税の定額減税のうち、月次減税についてご教示ください。 A 以下、令和6年分所得税の定額減税のうち、月次減税を中心に概要を解説する。 なお、年調減税については次回の解説を予定している。 * * 解 説 * * 1 定額減税の概要 (1) 定額減税の対象者 令和6年分の所得税の合計所得金額が1,805万円以下の居住者が対象である。 (2) 定額減税額 次の①と②の合計額である。 (3) 定額減税を行う時期 次の①と②において行う。 2 月次減税の概要 (1) 月次減税の対象者 令和6年6月1日現在において給与支払者のもとで勤務している人で、源泉徴収税額表の甲欄が適用される居住者(基準日在職者)が対象である。上記1(1)の合計所得金額が1,805万円を超えると見込まれる人も対象となる(※)。 (※) ただし、年調減税の適用が受けられないので、年末調整の際にそれまで控除した額の精算等を行うことになる。 なお、令和6年6月1日以後支払う給与等の源泉徴収において源泉徴収税額表の乙欄や丙欄が適用される人、令和6年5月31日以前に退職した人や出国して非居住者となった人、令和6年6月2日以降に入社した人は対象外である。 (2) 月次減税額の計算 上記1(2)のとおり、月次減税額を計算する。 同一生計配偶者は、生計を一にする配偶者のうち合計所得金額が48万円以下の居住者をいう。また扶養親族は、所得税法上の控除扶養親族だけでなく、16歳未満の扶養親族も含めた居住者をいう。これらの対象者は扶養控除等申告書で確認する。 なお、扶養控除等申告書に記載していない同一生計配偶者や16歳未満の扶養親族については、最初の月次減税事務を行うときまでに、控除対象者から「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の提出を受けて確認を行う。 (3) 月次減税を行う時期 令和6年6月1日以後に支払う給与又は賞与のうち、支給日が早いものについて源泉徴収されるべき所得税及び復興特別所得税の相当額(控除前税額)から順次、月次減税額を控除する。 (了)