2024年3月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.561を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第125回】 「新税制及びストックオプション・プール実現に係る “産業競争力強化法の改正"」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 3月2日、令和6年度税制改正に係る「所得税法等の一部を改正する法律案」が衆議院を通過した。衆議院財務金融委員会では、6項目にわたる附帯決議がなされた。 例えば、所得税の定額減税に関しては、その実施にあたり、「対象者が確実に減税措置を受けられるよう、適切な執行体制を確保するとともに、十分な周知・広報を行うほか、各事業者や自治体の事務負担にも配慮し、減税事務の円滑な実施に努めること」とされた。 また、戦略分野国内生産促進税制やイノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)等の新たに創設される各種の企業関係税制に関しては、「今後、各措置の適用実態を検証し、企業等の行動変容を促すインセンティブ措置として機能しているか否か等の観点から、政策効果や必要性をよく見極めた上で、一部の企業等に対する過度の優遇にならないよう、不断の見直しを行うこと」とされた。 〇産業競争力強化法の改正 令和6年度税制改正で創設される戦略分野国内生産促進税制やイノベーション拠点税制等に関しては、産業競争力強化法の規定が参照されている。 これらの税制措置等に対応し、2月16日、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出された。 今回の改正では、令和6年度税制改正で創設される戦略的国内投資の拡大に向けた、戦略分野への投資・生産に対する大規模・長期の税制措置及び研究開発拠点としての立地競争力を強化する税制措置や、国内投資拡大に繋がるイノベーション及び新陳代謝の促進に向けた、我が国経済のけん引役である中堅企業・スタートアップへの集中支援等の措置を講じることとしている。 産業競争力強化法は、平成25年に制定以来、平成30年と令和3年に改正が行われており、今回は3回目の改正となる。 〇戦略分野国内生産促進税制に関連する改正 産業競争力強化法の改正においては、第一に、国際競争に対応して内外の市場を獲得すること等が特に求められる商品を「産業競争力基盤強化商品」として定義し(電気自動車等、グリーンスチール、グリーンケミカル、持続可能な航空燃料(SAF)、半導体)、これを「生産及び販売」する計画(事業適応計画)を主務大臣が認定した場合、戦略分野国内生産促進税制及びツーステップローン等の金融支援を行う。 戦略分野国内生産促進税制では、事業適応計画の認定から10年間にわたり、「産業競争力基盤強化商品」の生産及び販売量に比例した減税措置(法人税額の40%(半導体は20%)を上限とする税額控除)が講じられる。 〇イノベーション拠点税制に関連する改正 第二に、知的財産の活用状況等の調査規定を新設し、一定の知的財産を用いていることを確認できた場合に、令和7年度から開始するイノベーション拠点税制(令和6年4月1日以降に取得した特許やAI関連のプログラムの著作権の譲渡所得・ライセンス所得について30%の所得控除)を適用する。 〇中堅企業のカテゴリーの創設 第三に、常用従業員数2,000人以下の会社等(中小企業者除く)を「中堅企業者」、特に賃金水準が高く国内投資に積極的な中堅企業者を「特定中堅企業者」と定義し、特定中堅企業者等による成長を伴う事業再編の計画を主務大臣が認定した場合、令和6年度税制改正で拡充された中堅・中小グループ化税制(中小企業事業再編投資損失準備金制度)、大規模・長期の金融支援(ツーステップローン)、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)による助成・助言等の措置を講じる。 中堅・中小グループ化税制では、成長意欲のある中堅・中小企業が、複数回のM&Aを実施する場合には、積立率を現行の70%から、2回目には90%、3回目以降は100%に拡充し、据置期間を現行の5年から10年に延長することとされている。 〇ストックオプション・プール(会社法の特例) 第四に、スタートアップがストックオプションを柔軟かつ機動的に発行できる仕組み(いわゆるストックオプション・プール)を特例的に可能とする。 具体的には、現行の会社法では、非公開会社については、ストックオプションの発行にあたっては株主総会の特別決議が必要であり、取締役会に決定を委任できる事項が限られ、しかも委任の有効期間は1年である。 今回の改正法案では、設立の日以後の期間が15年未満の株式会社について、「株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合」として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、「経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合」には、取締役会へ委任できる事項を拡充するとともに(権利行使価額、権利行使期間)、委任の有効期間の制限を撤廃し、設立後15年までとする。 (了)
〈令和5年度改正及び改正通達を踏まえた〉 生前贈与加算・相続時精算課税制度のポイント 【第3回】 「相続時精算課税制度の見直し②」 ~被災土地・建物の特例~ 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 佐藤 達夫 1 被災土地・建物の特例 (1) 改正の内容 相続時精算課税の適用を受けて取得した土地又は建物が、贈与日からその特定贈与者の死亡に係る相続税の期限内申告書の提出期限までの間に、令和6年1月1日以後の災害(※1)によって一定の被害を受けた場合(※2)には、税務署長の承認を受けることにより、相続税の課税価格へ加算又は算入される土地又は建物の価額を、その贈与時の価額から災害による被災価額を控除した残額とすることができる(措法70の3の3①、措通70の3の3-1)。 (※1) 災害は、震災、風水害、火災、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び火災、鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害をいう(措令40の5の3①)。 (※2) 被害を受けた場合とは、土地又は建物が災害により物理的な損失(例えば、地割れ等土地そのものの形状が変わったことによる損失又は建物の損壊及び滅失等)を受けた場合をいい(措通70の3の3-2)、一定の被害とは、その土地の贈与時の価額又は建物の想定価額のうち、被災価額の占める割合が10%以上となる被害をいう。 〈特例の計算イメージ〉 (例) 建物が被災した場合 (注) 国税庁HP「令和5年相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」3頁の図を筆者一部加工 (2) 適用を受けるための要件 この規定の主な適用要件は、次のとおりである(措法70の3の3①)。 (3) 適用を受けるための手続き 受贈者は、原則として災害が発生した日から3年以内に、災害による被害を受けた部分の価額などを記載した申請書(※1)及び添付書類(※2)を贈与税の納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(措法70の3の3①、措令40の5の3⑤⑥、措規23の6の2④)。また、申請をした後に被災価額に変動が生じた場合には、遅滞なく、贈与税の納税地の所轄税務署長に届け出る必要がある(措令40の5の3⑨、措規23の6の2⑦⑧)。 (※1) 申請書には、受贈者及び特定贈与者の氏名及び住所又は居所、災害により被害を受けた財産、災害が発生した日、災害による被害額及び保険金、損害賠償金などにより補填される金額などを記載する。 (※2) 添付書類は、贈与日から災害発生日まで継続所有していたことがわかる書類、り災証明書、原状回復に要する費用の見積書、保険金や損害賠償金などにより補填される金額がわかる書類などである。 (4) 適用時期 この改正は、相続時精算課税による贈与を受けた土地又は建物が、令和6年1月1日以後に、災害により被害を受けた場合に適用される(改正法附則51⑤、措通70の3の3-1)。 2 実務上のポイント (了)
相続税の実務問答 【第93回】 「相続財産の中に特定非常災害の区域内の土地がある場合の 相続税の申告期限」 税理士 梶野 研二 [答] 令和6年能登半島地震は特定非常災害に指定され、石川県は全域が特定地域とされました。このためお父様が5年前まで住んでいたW市の自宅の敷地は、「特定土地等」に該当することとなりますので、このW市の自宅の敷地をお父様から相続される妹さんの相続税の申告書の提出期限は、本来の令和6年4月10日から令和6年11月1日に延長されます。また、同じくお父様の相続人であるあなたとお姉様の相続税の申告書の提出期限も令和6年11月1日に延長されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 国税通則法の規定による申告期限の延長 (1) 国税通則法の規定 イ 国税庁長官は、都道府県の全部又は一部にわたり災害その他やむを得ない理由により、各税法に規定する期限までに国税の申告書の提出をすることができないと認める場合には、地域及び期日を指定してこれらの期限を延長します(通法11、通令3①)。 ロ また、税務署長等は、災害その他やむを得ない理由により、税法に定められた期限までに国税の申告書などが提出できないと認められる場合は、申告書の提出をすべき者からの申請により、期日を指定して申告書の提出期限を延長します(通法11、通令3③)。 (2) 令和6年能登半島地震に係る国税通則法第11条の適用 イ 令和6年1月12日に、国税庁告示第1号「富山県及び石川県における国税に関する申告期限等を延長する件」により、富山県内及び石川県内に納税地を有する者について、令和6年1月1日以降に到来する申告・納付等の期限が、別途国税庁告示により定める日まで延長されることとなりました。 相続税においては、原則として、被相続人の住所地が納税地になります(相法62①、同附則③)。したがって、令和5年2月28日以降に死亡した被相続人の住所地が富山県内又は石川県内にあった場合には、相続又は遺贈により財産を取得した者の相続税の申告書の提出期限が延長されることとなります。 ロ 相続税の納税地が富山県内又は石川県内にない相続人又は受遺者についても、令和6年能登半島地震により被災されたために相続税法に規定する期限までに相続税の申告書の提出をすることができないと認める場合には、所轄の税務署長に対して個別に申請することにより、相続税の申告書の提出期限の延長を受けることができます。 2 租税特別措置法の規定による申告期限の延長 (1) 租税特別措置法の規定 イ 特定非常災害の発生日の前に相続又は遺贈によって財産を取得した者で、相続税法第27条第1項に定める相続税の申告書の提出期限が当該特定非常災害の発生日後である場合には、相続税の課税価格の計算において災害発生日に所有していた特定土地等又は特定株式等の価額を当該特定非常災害の発生日後の価額により計算することができる特例措置(以下「特例措置」といいます)が設けられています(措法69の6①)。この相続税の特例措置を適用できるときには、租税特別措置法第69条の8第1項の規定により、相続税の申告書の提出期限は、災害発生日の翌日から10ヶ月を経過する日まで延長されます。 相続人又は受遺者の中にこの特例措置を適用できる者がいる場合には、同じ被相続人に係る相続人及び受遺者全員の相続税の申告書の提出期限が同様に延長されます。 なお、これらの相続人又は受遺者が、上記1の(1)のイにより国税庁長官により指定された地域内に納税地を有する場合には、相続税の申告書の提出期限は、国税庁長官が告示により指定する日と、災害発生日の翌日から10ヶ月を経過する日のいずれか遅い日まで延長されます。また、上記1の(1)のロにより相続税の申告・納付期限が延長された者の相続税の申告書の提出期限は、その延長された期限と災害発生日の翌日から10ヶ月を経過する日のいずれか遅い日まで延長されます。 ロ 特例措置を適用するためには、相続税の申告書に、この特例措置を適用する旨の記載をする必要があります(措法69の6③)。 (2) 令和6年能登半島地震に係る租税特別措置法第69条の8の適用 令和6年1月11日、「令和6年能登半島地震」による災害が特定非常災害に指定され(「令和6年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」)、その災害の発生日は令和6年1月1日とされました。また、令和6年4月1日現在、石川県全域、富山県全域及び新潟県全域が特定地域に指定されています。 これにより、令和6年1月1日よりも前に相続が開始し、まだ、相続税法第27条第1項に定める申告書の提出期限が到来していない場合(注)、取得した相続財産の中に、特定地域である石川県、富山県又は新潟県に所在する土地等又はこれらの地域内にあった動産等の価額が保有資産の価額の合計額の10分の3以上である法人の株式等があるときには、これらの財産を相続又は遺贈により取得した者はもちろん、同じ者から相続又は遺贈により財産を取得した当該被相続人の相続人及び受遺者の相続税の申告書の提出期限は、11月1日まで延長されることとなりました。 (注) 具体的には、令和5年2月28日から令和5年12月31日までの間に相続が開始した被相続人の相続人又は受遺者が対象になります。 なお、国税通則法第11条の規定が適用される場合(上記1の(2)に該当する場合)には、同法の規定により延長された期限と11月1日のいずれか遅い日が申告・納付期限となります。 3 ご質問の場合 お父様は、令和5年6月10日にお亡くなりになられたとのことです。あなた方相続人が、同日にお父様がお亡くなりになられたことを知ったとしますと、相続税の申告書の提出期限は、相続税法の規定上は、令和6年4月10日になります。 しかしながら、お父様が5年前まで住んでいた石川県W市の自宅の敷地は、特定非常災害として指定された「令和6年能登半島地震」に係る特定土地等に該当しますので、このW市の自宅を相続する妹さんの相続税の申告書の提出期限はもちろん、あなたとお姉様の相続税の申告書の提出期限も、本来の令和6年4月10日から令和6年11月1日に延長されます。 なお、お父様の死亡の時の住所は名古屋市内にあったと考えられますので、あなた方の相続税の納税地は名古屋市になるため、国税庁長官の指定による申告書の提出期限の延長(上記1の(2)のイ)の対象にはなりません。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第59回】 「定期同額給与における過大役員給与」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員退職給与以外の過大役員給与 役員給与の損金算入額を定める法人税法34条を検討する場面において、役員給与の過大性、つまりその役員給与の額が不相当に高額かどうかという論点は、税理士としては最も注目したい論点である。 しかし、【第3回】で触れている通り、代表取締役に対してその役員給与の額が不相当に高額であると指摘がなされて争いに発展するケースは、いわゆる残波事件以前はほとんど見られなかった。残波事件以降に争点となる事例が散見されるようになったといえる。 以下では、そのうちの1つの裁判例を取り上げる。 (2) 定期同額給与について不相当に高額な部分が認められた事例 役員退職給与ではない、通常の定期同額給与においてその過大性が争われた事例に、東京地裁令和2年1月30日判決がある(※1)。以下にその概要を紹介する。 (※1) 判例タイムズ1499号176頁、TAINS:Z270-13377。評釈として、小仙健太郎「同業類似法人の最高値に基づいて『不相当に高額』な役員給与が算定された事例」税務事例53巻(2021)3号54頁。 同業類似法人との比較において、一般的には平均額が用いられるケースが大多数であるところ、この事例では、同業類似法人の役員給与の最高額によって役員給与の額のうち不相当に高額な部分が算定されていることが注目される。また、納税者が、代表者の職務の内容が一般的な同業法人の役員において想定される職務の範囲内にあるとはいえない旨を主張したことも特筆すべき点であるといえる。 すなわち、納税者は、その代表者が、顧客の大半がいるマレーシアに在留し、①顧客の意向把握、②把握した意向に沿う中古自動車をオークションで落札するための使用人への指示、③落札した自動車の顧客への売却等の中古自動車販売に必要な業務を一手に行うとともに、④広告宣伝活動、⑤顧客との信頼関係構築活動、⑥顧客から寄せられたクレームへの対応、⑦顧客に対する支払の督促といった附随業務について自ら担っていた事実を主張し、その結果、納税者は、各事業年度において極めて高い業績(売上金額が約69億円~89億円)を達成したとし、「代表者の職務の内容が『中古自動車販売等を目的とする一般的な法人の役員において想定される職務の範囲内にある』ことを前提に行われた被告の検討結果は、合理的な根拠を欠くものというべき」と主張した。 これに対して裁判所は、代表者が果たした職責及び達成した業績は相当高い水準にあったとしつつ、一般的に想定される職務の範囲内にあると認定した。相当高い水準になったからこそ、前述の判断を採用したと考えられる。 さらに、納税者の収益や使用人の給与支給額が減少傾向にある中で、本件役員給与が逆行する形で急増し、納税者の改定営業利益(営業利益に役員報酬額を足し戻したもの)の大部分を占め、その営業利益を大きく圧迫するに至っている点を指摘し、その額の高さ及び増加率は著しく不自然であると示した。これらにより、不自然に高額な役員給与を全額損金算入することで、課税の公平性は著しく害されているという他ない旨を示している。 (3) 本件裁判例の意義 裁判所が示した内容に対しては、批判的な意見がある。すなわち、本件の役員給与の支給額は数億単位となっていて他の中小企業では考えられないほどの金額であるとしつつも、代表者の職務内容について、その事実関係より、納税者の業績は代表者の人脈等があるからこそ成り立ち、同業類似法人が納税地の都道府県内には存在しないかもしれず、仮にその中で抽出された法人との比準を認める場合には、一定の倍数を乗じる等の調整を図る等の方法も考えられるとする意見である(※2)。 (※2) 品川芳宣「定期同額給与に係る『不相当に高額な部分』の算定方法」税研213号(2020)101頁。 この点、実際に、いわゆる1.5倍判決と呼ばれる東京地裁平成29年10月13日判決がある(※3)。なお、1.5倍判決の控訴審である東京高裁平成30年4月25日判決では(※4)、当該1.5倍のくだりは削除されたが、「同業類似法人の抽出が合理的に行われてもなお、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があると認められる場合に限り、これを別途考慮すれば足りる」と示されている。 (※3) 税務訴訟資料267号順号13076、TAINS:Z267-13076。【第29回】参照。高裁では異なる判断が示されたが、同業類似法人から抽出された係数に1.5倍を乗じて調整するという方法が示されている。 (※4) 訟務月報65巻2号133頁、TAINS:Z268-13149。 しかし、本件のような事情であってもこのような考慮は図られず、前述の判断に留まっている。この点から、少なくとも、法人の業績が低下傾向であるならば、役員報酬の額を急増させることは不自然であるといえると示されたことを知っておくべきであるといえる。 このように、本件は、法人である納税者の収益等が減少傾向になる中、代表者の役員報酬額のみが急増したという事実が、結果として更正処分等を招く一因になったとも考えられる(※5)。この点、一般的には、法人の財務内容を勘案しつつ、適正な役員報酬の額を毎期算定すべきであったといえる。 (※5) 代表者は非居住者であるという推論が成り立つため、法人税の実効税率より非居住者の源泉所得税率の方が低いという事実が、高額な役員報酬を支給するインセンティブが働いていたとする指摘もある。品川芳宣「役員給与のうち『不相当に高額な部分』の算定方法」T&A master843号(2020)30頁。 上記の残波事件では、役員の経営能力に焦点を当てて同業類似法人を抽出することは客観性を欠くとも示されているため、同業類似法人の抽出は機械的に行われることを念頭に置き、その法人の業績や将来見通しをも勘案しながら、適正額の算定を行う必要があるだろう。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第62回】 「適格株式交換を行った場合の申告調整」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格株式交換を行った場合の申告調整の具体例について解説します。 1 適格株式交換を行った場合の株式交換完全親法人の処理 (1) 前提条件 【株式交換完全子法人B社の株式交換直前の貸借対照表】 会計上の資産・負債と税務上の資産・負債には、下記の差異が生じています。 (2) 会計処理 株式交換完全親法人A社の会計処理は、下記のとおりです。 会計上「取得」と判定される株式交換では、株式交換完全親法人となる会社が取得する株式交換完全子法人株式の取得原価は、時価で算定することとされています。 (3) 税務処理 株式交換完全親法人A社の税務処理は、下記のとおりです。 ① 株式交換完全子法人株式の取得価額 適格株式交換により株式交換完全親法人が取得する株式交換完全子法人株式の取得価額は、次のとおりです(法令119①十)。 本例の場合、株式交換の直前において株式交換完全子法人の株主はC社のみであり、50人未満のため、株式交換完全親法人A社が取得するB社株式(株式交換完全子法人株式)の取得価額は、C社が有していたB社株式の株式交換直前の帳簿価額相当額の2,000となります。 ② 資本金等の額 株式交換完全親法人において株式交換により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①十)。 株式交換完全親法人A社において増加する資本金等の額は、2,000となります。 ③ 利益積立金額 適格株式交換の場合には、株式交換完全親法人A社の利益積立金額は増加しません。 (4) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は、次のとおりです。 この調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (5) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注) ※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 株式交換完全親法人A社において増加する利益積立金額が0、増加する資本金等の額が2,000となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。 2 適格株式交換を行った場合の株式交換完全子法人の処理 適格株式交換を行った場合には、株式交換完全子法人B社が有する資産について時価評価を行う必要はなく、特段の課税関係は生じません。 3 適格株式交換を行った場合の株式交換完全子法人の株主の処理 (1) みなし配当 適格株式交換が行われた場合には、株式交換完全子法人の利益積立金額は株式交換完全子法人の株主に交付されないため、株式交換完全子法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (2) 譲渡損益 投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べるとされています(法法61の2⑨)。「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 株式交換完全子法人の株主であるC社は、株式交換によりA社株式のみの交付を受けているため、譲渡損益は生じません。 (3) A社株式の取得価額 株式交換完全子法人の株主が対価として株式交換完全親法人株式のみを交付された場合のその株式交換完全親法人株式の取得価額は、株式交換完全子法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①九)。 株式交換完全子法人の株主であるC社は株式交換によりA社株式のみを交付されているため、A社株式の取得価額は、株式交換直前のB社株式の帳簿価額である2,000となります。 (4) 会計処理 株式交換完全子法人の株主C社の会計処理は、次のとおりです。 (5) 税務処理 株式交換完全子法人の株主C社の税務処理は、次のとおりです。 (6) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は、次のとおりです。 この調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (7) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (了)
給与計算の質問箱 【第51回】 「令和6年分所得税の定額減税」 ~年調減税~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 実施が見込まれる令和6年分所得税の定額減税のうち、年調減税についてご教示ください。 A 以下、令和6年分所得税の定額減税のうち、年調減税を中心に概要を解説する。 なお、定額減税及び月次減税の概要については前回を参照いただきたい。 * * 解 説 * * ◎ 年調減税の概要 (1) 年調減税の対象者 年末調整の対象者のうち、給与以外の所得を含めた合計所得金額が1,805万円以下となる人が年調減税の対象となる。 なお、給与以外の所得を含めた合計所得金額は、給与所得者の基礎控除申告書により把握することができる。 〈給与所得者の基礎控除申告書(一部抜粋)〉 年末調整の対象者は、以下のとおりである。ただし、令和6年中の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人は除く。 (2) 年調減税額の計算 「扶養控除等申告書」、「配偶者控除等申告書」、「年末調整に係る定額減税のための申告書」(本人の合計所得金額1,000万円超かつ配偶者の合計所得金額48万円以下の場合)などから同一生計配偶者や扶養親族の人数を確認する。 同一生計配偶者は、生計を一にする配偶者のうち合計所得金額が48万円以下の居住者をいう。また扶養親族は、所得税法上の控除対象扶養親族だけでなく、16歳未満の扶養親族も含めた居住者をいう。 人数を把握した上で、本人3万円、同一生計配偶者及び扶養親族1人につき3万円を合計して年調減税額を計算する。 (3) 年調減税額の控除 住宅ローン控除後の年調所得税額から年調減税額を控除する。その金額に102.1%を乗じたものが年調年税額となる(下図参照)。 〈年調年税額計算の流れ〉 (※) 上図につき国税庁「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」11頁より抜粋。 なお、定額減税(月次減税事務及び年調減税事務)の詳細については、下記国税庁の「定額減税特設サイト」等も参考とされたい。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第41回】 「タックス・ヘイブン対策税制上の未処分所得の計算 -特定外国子会社等の減価償却費の修正は認められるか- (地判平29.1.31、高判平29.9.6、最判平30.6.15)(その2)」 ~租税特別措置法施行令25条の20第1項、39条の15第1項~ 神戸国際大学准教授・税理士 金山 知明 4 争点 本件においては、措置法40条の4第1項所定の適用対象留保金額の算定の基礎となる未処分所得の金額の計算について、措置法施行令39条の15第1項1号に掲げる金額の算出をK社損益計算書に基づいて行うべきか、X作成損益計算書に基づいて行うべきかが争われている。 K社損益計算書とX作成損益計算書の唯一の相違点は、本件油そう船に係る各年度における減価償却費の金額である(※7)。その結果、油そう船の売却直前における帳簿価額が異なることから、K社損益計算書においては平成17年9月期において油そう船の売却益が生じているが、X作成損益計算書では逆に売却損が生じており、そのことがK社に係る課税対象留保金額の有無を左右している。 (※7) K社損益計算書においては、シンガポールの会計基準に基づき、本件油そう船の減価償却について、償却方法は定額法、耐用年数は10年を採用し、油そう船の取得事業年度から売却事業年度の前事業年度までの各事業年度にわたり、償却限度額と同額の減価償却費を計上している。 これに対しX作成損益計算書では、本件油そう船の減価償却費の金額を本邦法令の規定に準じて耐用年数13年の定率法で計算し、それによる償却限度額の範囲内で任意の金額を減価償却することができるものとして、償却限度額に満たない金額を計上している。その結果、本件油そう船の売却価格が平成16年9月期末の帳簿価額を下回り、42万8,421シンガポールドルの売却損が発生している。 そのため、措置法施行令39条の15第1項1号に掲げる金額の算出については、本件油そう船に係る減価償却費の金額の計算をK社損益計算書に記載された金額(同社の決算において経理された金額)を基礎として行うべきか、X作成損益計算書に記載された金額を基礎として行うべきかが争点となる(【図表2】参照)。 【図表2】K社損益計算書及びX作成損益計算書の要約 (※) 東京地裁判決書別表1-1及び1-2を基に筆者一部改変のうえ作成 5 争点に関する当事者の主張の要旨 (1) 基準となる損益計算書について 本件においてXはまず、Yによる決定処分は、特定外国子会社等の本店所在地国の法令の規定により計算して行われたもの(措置法施行令25条の20第2項による)と捉え、以下のように主張してその処分の有効性を否定している。 そのうえでXは、本件油そう船に係る減価償却費の計上額を、X作成損益計算書に基づき行うべきことを主張する。それは、X作成損益計算書によれば油そう船売却時の帳簿価額が大きく、売却損が生じる結果として未処分所得が残らないからである。そこで、このように特定外国子会社等であるK社の損益計算書を修正するかたちで調整されたX作成損益計算書による減価償却費の計算が認められるかが問題となる。 この点につきXは、X作成損益計算書について、「減価償却費に係る本邦法令の規定は、特定外国子会社等の決算にそのまま適用することができないため、措置法施行令39条の15第1項1号に従い、本邦法令の規定の例に準ずる減価償却費の金額の計算が行われる」ものとし、「本邦法令の規定の例に準じて日本における減価償却費の金額を正しく計算することで正しい未処分所得の金額を算出したものであり、何ら恣意的な計算など行っていない」と主張する。 これに対してYは、まず本件決定処分は、特定外国子会社等の本店所在地国の法令の規定により計算して行われたもの(措置法施行令25条の20第2項を適用したもの)ではなく、同39条の15第1項1号に基づく本邦法令の規定の例に準ずる計算であることを前提として以下のとおり主張を展開する。 またYは、K社損益計算書を含む決算書には、正確性及び公平性に関する取締役の声明書及びシンガポール会計基準に準拠した監査が実施された旨の公認会計士の監査報告書が添付されていることも挙げて、K社損益計算書は特定外国子会社等の「各事業年度の決算」により作成されたものに該当するから、未処分所得の金額の計算は、K社損益計算書に基づき行うべきことを主張する。 ただしYは、本邦法令の規定の例に準じて未処分所得を計算するにあたり、特定外国子会社等の損益計算書を修正した損益計算書を使用すること自体を完全に否定しようとしているわけではない。Yは、「納税者において、確定申告をするに当たり、修正された決算の過程を明らかにして、修正された決算が本邦法令の規定の例に準じていることを明らかにする必要がある」と述べ、その場合は修正損益計算書を確定申告書に添付して提出する必要があるとし、その根拠の1つとして措置法通達66の6-10(後述)の記述を挙げている。 そのうえでYは、Xは本件決定処分がされる前に、K社損益計算書を修正したX作成損益計算書を添付して確定申告を行っていないのであるから、未処分所得の金額をX作成損益計算書により行うことはできないと主張する。 (2) 確定申告書へのX作成損益計算書の添付の必要性 特定外国子会社等の未処分所得を本邦法令の規定の例に準じて計算するにあたり、修正損益計算書の作成提出義務があるかについては、法令に確たる規定がないが、当時の措置法通達66の6-10(2)では、減価償却費等につき、特定外国子会社等が決算時に行った経理のほか、課税対象となる内国法人が作成する修正損益計算書における経理をもって損金経理要件を満たすものと取り扱い、その場合にはその修正過程を明らかにする書類を当該修正損益計算書に添付するものとしている。 これを受けてYは、「所得税法121条1項各号(確定所得申告を要しない場合)に該当する者であっても、確定申告書が提出できないということはなく、実際にそのような者が提出する確定申告書でも問題なく受理される。」として、Xが自己に有利となるように未処分所得を計算しようとする場合には、提出義務がなかったとしても確定申告書を提出し、それに修正損益計算書の添付をする必要があったという立場をとる。 さらにYは、Xが一連の税務調査においてX作成損益計算書を提出しておらず、異議調査の段階で初めてこれを提出していることから、当該損益計算書は本件決定処分による課税を免れるために事後的に作成・提出されたことが明らかであるとして、そのこともX作成損益計算書による計算を採用できない根拠の1つとしている。 これに対しXは、Xが給与所得者であり、平成17年の給与等の金額が2,000万円以下で年末調整を受けていたことを述べたうえで、「未処分所得の金額の計算をX作成損益計算書に基づいて行うと、適用対象留保金額が零となり、雑所得が生ずることもなかったため、確定申告書を提出する義務がなかった(所得税法121条1項)。そのため、Xが平成17年分の所得税について確定申告を行わなかったことは当然のことであり、確定申告書にX作成損益計算書を添付する義務(措置法40条の4第5項)もない(※8)。」と反論する。 (※8) Xは、X作成損益計算書について提出義務はなく、後日課税当局から問い合わせを受け、又は税務調査を受けた場合には、当該損益計算書を調査官に示すことにより、課税対象留保金額がないため確定申告義務がないことを説明することが必要となるにとどまるとする。また、Xは当該損益計算書を、決定処分より前にYに提出しようとしたにもかかわらず、Yの職員がそれを威嚇して妨げ、受取りを拒否したことから、同日に提出することができなかった旨主張する。 さらにXは、「措置法通達66の6-10(2)は、管理上の都合から、決算の修正の過程を明らかにする書類が損益計算書等に添付されていることが望ましいと考えていることを示すものにとどまり(同通達の「するものとする」という文言は、義務ではなく、期待されていることを定めるものにすぎない。)」とし、加えて「納税者は、同通達に拘束されるものでなく、損益計算書等に決算の修正の過程を明らかにする書類を添付することは、本邦法令の規定の例に準ずる計算を行う上で必須の手続ではない」と主張している。 6 東京地裁判決(平成29年1月31日) 東京地裁は、以下のように述べて、Xの主張を全面的に否定し、その請求を棄却した。また、控訴審(東京高裁平成29年9月6日判決)も、地裁判決を支持してXの請求を棄却し、上告審は受理されなかった(最高裁平成30年6月15日決定)。 (1) 措置法施行令39条の15第1項1号に基づく減価償却費の金額の計算方法についての判示 地裁判決はまず、「措置法施行令39条の15第1項1号が同号所定の所得の金額を本邦法令の規定の例に準じて計算するものとしているのは、本邦法令の規定の中には、確定した決算における経理を要件として適用することとされている規定(法人税法31条、42条)や青色申告書を提出する法人であることを要件として適用することとされている規定(措置法43条、45条の2等)があるなど、一定の要件を付しているものがあるが、我が国と会計制度の異なる特定外国子会社等の決算についてそのような形式的な要件を要求すると不都合が生ずる可能性があることから、そのような形式的な要件を満たさない場合においても本邦法令の規定の適用を認める趣旨である」と説示する。 この趣旨から、「特定外国子会社等の各事業年度の決算が本邦法令の規定における確定した決算に該当しない場合であっても、当該特定外国子会社等の決算において経理された減価償却費は法人税法31条1項の規定の例に準じて損金の額に算入され得ること」を導く。 そして、「特定外国子会社等が既にその決算において減価償却費について経理をしているにもかかわらず、当該減価償却費の金額を事後に任意の金額に修正することを認めた場合には、上記のような・・・趣旨を損なうこととなり、内国法人に本邦法令の規定をそのまま適用した場合と著しいかい離を生ずることとなるものであるから、措置法施行令39条の15第1項1号も、そのような修正をした損益計算書に基づいて同号所定の所得の金額の計算を行うことを許容しているものとは解されない。」と判示する。 さらに、「特定外国子会社等が既にその決算において減価償却費について経理をしているときは、当該決算に当該特定外国子会社等の本店所在地国の法令の重大な違反があるためその経理に係る減価償却費の金額を基礎として未処分所得の金額の計算をすることが著しく不当であると認められる特段の事情のない限り、当該決算において経理された減価償却費の金額を基礎として・・・償却限度額の限度で損金の額に算入されるものと解するのが相当であり、当該決算において減価償却費として経理された金額を事後に任意の金額に修正して措置法施行令39条の15第1項1号に掲げる金額を算出することは許されないというべきである。」と述べ、X作成損益計算書による減価償却費の計算を否定した。 (2) 確定申告書への添付義務について Xは確定申告義務がないという認識を前提として、X作成損益計算書の添付も必須ではなかったと主張したのに対し、Yは仮に確定申告義務がないとしても申告すれば受理されるため、結果としてXが申告と添付を怠ったことも理由の1つに挙げて、X作成損益計算書による計算を否定する立場であった。 しかし判決は、そもそもX作成損益計算書は「本邦法令の規定の例に準ずる計算の方法として採るべき計算方法に反するものであるから、K社の未処分所得の金額の計算をX作成損益計算書に基づいて行うことはできないというべきであり、この点に関する法令の解釈及び判断は、X作成損益計算書が確定申告書に添付されているか否かによって左右されるものではないから、X作成損益計算書を確定申告書に添付することを要するか否かという手続上の事項について検討するまでもなく、X主張の計算は適法な計算とは認められないものというべきである。」との判断を示した。 また、X作成損益計算書は、Xが平成17年分の所得税について税務調査を受けた後、「K社に未処分所得の金額が生じないものとするため、本件油そう船の売却によって特別利益が生じないよう・・・、また、K社が特定外国子会社等に該当する平成13年9月期から平成16年9月期においてもK社に未処分所得の金額が生じないよう、平成11年9月期から平成16年9月期までの各事業年度の税引後損益が0円となるように逆算して恣意的に減価償却費の金額を修正したものである」と認定している(※9)。 (※9) その根拠として判旨は、K社損益計算書とX作成損益計算書の内容を比較すると、K社損益計算書においては、平成11年9月期から平成16年9月期までの税引後損益に各事業年度ごとに異なる金額の欠損が生じているのに対し、X作成損益計算書においては、上記期間の各事業年度の税引後損益の金額が全て一律に0円となっており、Xの顧問税理士も異議調査においてX作成損益計算書について「各年利益が出ないように計算し」た旨述べていることも指摘している。 上記から、X作成損益計算書に基づくK社の未処分所得の金額の計算は、措置法施行令39条の15第1項1号に基づき「本邦法令の規定の例に準じて計算した場合」に該当しないものというべきであるとの結論に至っている。 この結果、本件油そう船に係る減価償却費については、K社損益計算書に記載された減価償却費の金額(同社の決算において経理された金額)を基礎として法人税法31条1項所定の償却限度額を上限として損金の額に算入されることになる。 ((その3)へ続く)
2024年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅶ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正 2023年12月22日に金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、「内閣府令」という)」等の改正が公表され、諸外国に比べて「重要な契約」に関する開示が不足していると考えられていたことから、有価証券報告書への「重要な契約」等の開示について改正が行われた。 1 改正内容 (1) タイトルの変更 有価証券報告書及び有価証券届出書(以下、「有価証券報告書等」という)について、現行は、「経営上の重要な契約等」というタイトルで重要な契約について記載していたが、改正後は「重要な契約等」にタイトルが変わる。 (2) 有価証券報告書等の開示内容の追加 有価証券報告書等の「重要な契約等」に、以下①から③の開示が必要となる。 ① 企業・株主間のガバナンスに関する合意 ② 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意 ③ ローン契約と社債に付される財務上の特約 (※1) 法的拘束力を有する合意が開示対象となるため、口頭の合意であっても、法的拘束力を有する場合には、開示の対象になる(「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下、「コメント対応」という)6)。 (※2) 記載すべき事項の全部又は一部を他の箇所において記載した場合には、その旨を記載することによって、他の箇所において記載した事項の記載を省略することができる(内閣府令 第二号様式 記載上の注意(以下、「記載上の注意」という)(33)f,g,h)。 (※3) 法令上の開示の要請は、当事者間の合意による秘密保持義務に優先することから、個別の契約において秘密保持条項が設けられていたとしても、法令の定めに基づき当該契約の内容を開示することは、秘密保持義務違反には当たらない(コメント対応21)。 (※4) 一定の合意を含む契約が「重要性の乏しいもの」に該当するか否かは、合意が提出会社等のガバナンスや支配権、市場等に与える影響を踏まえ、個別事案ごとに実態に即して判断すべきである。例えば、合意の相手方以外の株主が特定かつ少数で、かつ全株主が合意の内容を把握しているなど、少数株主保護の必要性が乏しいものや、事前承諾権を定めた合意のうち、契約が通常の事業過程で締結されたものであり、かつ、事前承諾の対象となる行為が一部に限定されているなど、ガバナンスに対する影響が限定的であるものについては、「重要性の乏しいもの」に該当する(コメント対応13~17)。 (※5) 保有株式の譲渡に関する制限は、株主に一方的に不利になりうるため、これが単独で合意されるのではなく、当該合意に付随又は関連して他に取り決めが行われていることがある。ここで、保有株式の譲渡制限等に関する合意に付随し又は関連してされている合意を常に開示することまでは求められていない。しかし、必要に応じて、当該合意に関する開示事項(合意の目的等)の中で付随する合意に開示することが考えられるほか、付随する合意自体が提出会社にとって重要な契約等である場合には、記載上の注意(33)aに基づいて開示を行う必要がある(コメント対応50)。 (※6) 提出会社の財務指標があらかじめ定めた基準を維持することができない事由が生じたことを条件として当該提出会社が期限の利益を喪失する旨の特約に限る(内閣府令19⑳)。 (※7) 純資産額維持や利益維持等、財務指標の維持を目的としその抵触時の効果が期限の利益を喪失するものについては「財務上の特約」に該当するが、財務指標の維持を目的とするものではない、配当制限や担保提供制限といった財務制限条項やレポーティング・コベナンツそれ自体については、「財務上の特約」に該当しない(コメント対応72)。 (※8) コベナンツ抵触時の効果が期限の利益を喪失するものでなく、利率の引上げ等に留まる場合には、「財務上の特約」には該当しない(コメント対応72)。 (※9) 「財務上の特約が付された金銭消費貸借契約」には、特定融資枠契約(一定の期間及び融資の極度額の限度内において、当事者の一方の意思表示により当事者間において当事者の一方を借主として金銭を目的とする消費貸借を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して手数料を支払うことを約する契約)は含まれない(「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(以下、「ガイドライン」という)5-17-2、コメント対応80)。 (※10) 属性の具体的な記載方法としては、「個人」や「事業会社」のほか、金融機関については、金融庁のホームページに掲載されている免許の区分に応じ、都市銀行、地方銀行等といった記載を行うことが考えられる。なお、個社名を開示することも可能である(コメント対応94、95)。 (※11) 「担保の内容」は、財務諸表の担保付資産の注記等を参考に具体的な記載を行うことが考えられる(コメント対応96)。 (※12) 「財務上の特約の内容」は、抵触事由の基準となる財務指標の内容やその値、財務上の特約に抵触した際の効果等を記載することが考えられる(コメント対応96)。なお、投資者の理解を損なわない程度に要約して記載することも可能である(ガイドライン5-17-4)。 (3) 臨時報告書の提出事由の追加 以下のとおり、臨時報告書の提出事由が追加されている。 (※13) 特定融資枠契約(コミットメントライン)は、「財務上の特約が付された金銭消費貸借契約」には含まれず、同契約に基づいて、実際に資金の借入れを行った場合、当該借入額が一定の基準を超えるときに臨時報告書を提出する必要がある(コメント対応80)。 (※14) 期限の利益を喪失する旨の特約を解除するために担保権を設定した場合には、財務上の特約の内容に変更があった場合として、臨時報告書の提出が必要になる(コメント対応72)。 (※15) 金銭消費貸借契約の終了又は社債の償還があった場合には臨時報告書の提出は不要であるが、金銭消費貸借契約の弁済期限変更や社債の償還期限の変更があった場合には、臨時報告書の提出が必要となる。また、金銭消費貸借契約や社債に付された財務上の特約を削除する場合は、財務上の特約の内容の変更として、臨時報告書の提出が必要となる(コメント対応104、110)。 2 適用時期 (1) 有価証券報告書等 上記1(1)及び(2)の適用時期は、以下のとおりである(内閣府令附則3①②)。 (2) 臨時報告書 上記1(3)の適用時期は、以下のとおりである(内閣府令附則2①②)。 Ⅷ インボイス制度 2023年10月1日からインボイス制度が開始され、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れにおける「消費税額とみなされない金額(仕入税額控除できない金額)(※)」の会計処理については、明確な規定がない。 (※) 2023年10月から2026年9月までは、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、80%まで仕入税額控除できる。2026年10月から2029年9月までは、50%まで仕入税額控除できる。 ただし、日本公認会計士協会「消費税の会計処理について(中間報告)」をもとに考えると、以下の会計処理が考えられる。 Ⅸ 分配可能額 配当は、債権者保護の観点から、配当の効力発生日時点における分配可能額を超えて行うことができないとされている(会社法461①)。しかし、昨今、分配可能額を超える、剰余金の配当又は自己株式の取得が行われている事例が数件発生している。そのため、ここでは分配可能額の算定について解説する。 分配可能額は、以下の流れで算定する。 (1) 事業年度末日における剰余金の額の算定 まず、事業年度末日における剰余金の額を、以下のように算定する(会社法446)。以下に従って算定すると、決算日における剰余金の額は、「その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額」となる。 (2) 分配時点における剰余金の算定 次に、分配時点における剰余金を算定する(会社法446)。 (3) 分配可能額の算定 最後に、分配可能額を算定する(会社法461)。ここで算定した分配可能額を超えて配当を行ってはならない。 (4) 実務上の留意点 上記(1)から(3)で計算式を解説したが、会社としては、最初から細かい検証をするのではなく、まず、配当総額と「期末日におけるその他資本剰余金+その他利益剰余金」を比較し、配当総額を十分に下回っているか確認をすることが重要である。 十分に下回っている場合は、通常、分配可能額を超えることはないと考えられる。 一方、十分に下回っていない場合は、詳細に検証する必要がある。その際には、監査人や顧問弁護士等に相談しながら検証することが望まれる。 Ⅹ サステナビリティ開示 2023年3月期の有価証券報告書からサステナビリティ開示が行われている。将来的には、サステナビリティ開示は増えていくことが予定されているため、2024年3月期でも特段の改正はないが、前期と同様の開示にすればよいと安易に考えるのではなく、各社、十分に考えて開示をすることが望まれる。 なお、その際には、2023年12月27日に金融庁より公表されている「記述情報の開示の好事例集2023」(以下、「好事例集」という)を参考にされたい。 好事例集では、投資家・アナリスト・有識者が期待する主な開示のポイントとして、以下が挙げられている。これらのポイントを参考にして、開示の検討をすることが望まれる。 (了)
能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス 【第2回】 「被災により納品ができない場合における不可抗力条項の活用(1)」 ~契約書に記載がない場合の対応~ 弁護士法人飛翔法律事務所 弁護士 濱永 健太 〇はじめに 令和6年1⽉1⽇に発⽣した能登半島地震によって現地では甚大な被害が生じ、未だに生活するにも苦労を強いられており、また、事業活動においても従前のような活動が再開できていない事業者も多い。 例えば、事業者が製造メーカーであり、既に取引先から製品の発注を受けていたとしても、今回の地震によって事業所や生産設備、在庫商品などが毀損し、また、役員及び従業員の方も被災されて避難生活を余儀なくされている状況においては、物理的な面だけでなく、人的な面でも生産活動が困難な状況と言える。さらには、流通経路自体も十分に復旧されておらず、材料が入っていないことによって生産を行いたくても行えない状態が続いている事業者も多いかと思われる。 このような場合、受注に際して取り決められていた納期を遵守することが難しくなるところ、発注者側が任意に納期の変更や義務の免除を認めてくれる場合もあるが、発注者がこれらを承諾しない場合に受注者として検討すべきものが契約書の不可抗力条項である。 本連載では、2回にわたって不可抗力条項の基本的な理解や活用しやすい不可抗力条項への見直しに関するアドバイスを行いたい。 1 不可抗力条項とは 「不可抗力」とは、人の力による支配・統制を観念することができる事象か否かを基準として、外部から生じた要因であり、かつ防止のために相当の注意をしても防止し得ない事由を言うとされている。 簡単に言えば、人の力ではコントロールができない事象が生じ、事業者が相当の注意をしても避けられないようなケースである。 一般的な契約書においては、下記のような条項が設けられている場合が多いかと思われる。 〈一般的な不可抗力条項〉 数年前には、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって生産ができない場合に、契約書の不可抗力条項を用いて免責されるか否かが大きな議論になったが、今回の能登半島地震が上記の条項に列挙されたもののうち「地震」に該当することは明らかである。 そうすると、当該不可抗力条項をそのまま見れば、地震によって納品が不可能ないし遅れが生じるような場合には一律に責任を負わないとの結論になりそうである。 しかしながら、上記の通り、不可抗力はコントロールできない事象が生じたことに加えて、防止のために相当の注意を払っても防止できないものであるとされているところ、例えば、予測不可能な地震によって壊滅的な被害を受けた上で、事業所は被災地にしかなく、従業員も被災している状況の中では基本的には不可抗力条項によって免責が認められるものと思われる。 他方、会社内の別の事業所が被災地以外にあり、その事業所では生産が可能な場合や、被災地以外にある別の協力業者に臨時で委託することで対応が可能な場合のように、代替措置を採ることができるようなケースでは、そのような代替措置の有無や容易性、それを選択する現実的な可能性を考慮しながら、免責を認めるべきか否かが判断されることになる点は注意が必要である。 なお、代金を支払うべき債務(金銭債務)については、法律上、不可抗力による免責を受けられないものとされており(民法419条3項)、その旨を確認する条項が規定されている場合も多い。これは金銭については流通性が高いため、他からの調達が十分に可能であり、不可抗力があっても履行が行われるべきとの考え方があるからである。 2 不可抗力条項がない場合の対応 契約書に不可抗力条項がない場合において、受注者が納期遅延等の責任を負うか否かについては、債務不履行に関して債務者の帰責事由がないこと(民法415条1項但書)、危険負担の考え方(民法536条)、あるいは事情変更の原則による免責を検討することになる。 まず、帰責事由に関しては、不可抗力の概念と非常に共通する部分が多く、上記で述べた通り、相当の注意を払っても避けられなかった場合には帰責事由がないことを理由に免責される場合が多いであろう。しかしながら、免責されるためには受注者にて自身に帰責事由がないことを立証する必要があるが、どのような場合に帰責事由がないと言えるのかの判断については、具合的な事由が明確に列挙された不可抗力条項がある場合に比べて困難な場合がありうる。 また、地震などのようなケースでは双方に帰責事由がない場合も多いと思われるが、その場合には危険負担(民法536条1項)によって事実上の免責を得られる可能性はある。つまり、現在の危険負担は双方に帰責事由がない状態で受注者が履行できない場合、発注者側は代金の支払を拒否できるというものである。これによれば、双方の債務自体は当然には消滅しないものの、受注者側は債務不履行責任を負わず、かつ、発注者側も支払義務を負わないので、免責を受けるのと同様の状態となる。ただし、受注者において帰責事由がないことを立証する必要があることは上記と同様である。 最後に、予見できない重大な事象が生じたことで契約をそのまま維持するのが不合理であることを理由に契約内容の変更を求める事情変更の原則については、裁判所もこれを認めることに非常に消極的であるため、これをもとにした免責の主張は現実的でないと言える。 * * * 次回は、不可抗力条項による契約解除と活用しやすい不可抗力条項に見直すための方法について述べたい。 (了)