2023年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】 (最終回) 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅶ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い 2022年8月26日に、ASBJより実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い(以下、「実務報告」という)」が公表された。 これは、2019年5月に「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、金融商品取引法が改正されたことに伴い、投資性ICO(Initial Coin Offering)が金融商品取引法の規制対象となったため、会計上の取扱いが必要となり、公表されたものである。 1 実務報告の範囲 実務報告は、株式会社が金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、「金商業等府令」という)第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としている(実務報告2)。 ここで、「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される権利をいい、金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下、「みなし有価証券」という)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいう(実務報告3(1))。 電子記録移転有価証券表示権利等は、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一のため、「基本的に」みなし有価証券と同様の会計処理を規定している(実務報告27)。 2 電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理 電子記録移転有価証券表示権利等を発行する場合、その発行に伴う払込金額を負債、株主資本又は新株予約権として会計処理を行う(実務報告4~6)。 これまで、払込金額が負債となるのか株主資本となるのかについての明確な会計基準は存在していなかっため、有価証券の法的形式等を勘案して、実務上の対応が行われていた。したがって、電子記録移転有価証券表示権利等を発行した場合の払込金額の区分についても、特段の定めを設けず、現行の実務を参考にして判断する(実務報告30)。 3 電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理 電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理については、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準(以下、「金融商品基準」という)」及び会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「金融商品実務指針」という)」上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて会計処理を行う(実務報告7)。 (1) 金融商品基準及び金融商品実務指針上の有価証券に該当する場合 ① 発生及び消滅の認識 金融商品基準及び金融商品実務指針(以下、「金融商品基準等」という)上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識は、金融商品基準第7項から第9項及び金融商品実務指針の定めに従って会計処理を行う。 ただし、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約について、契約締結時から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合は、金融商品実務指針第22項の定めにかかわらず、契約締結時に、買手は電子記録移転有価証券表示権利等の発生を認識し、売手は電子記録移転有価証券表示権利等の消滅を認識する(実務報告8)。 ② 期末時 金融商品基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の貸借対照表価額の算定及び評価差額に係る会計処理については、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様に、金融商品基準第15項から第22項及び金融商品実務指針の定めに従って会計処理(その他有価証券であれば時価評価等)を行う(実務報告9)。 (2) 金融商品基準及び金融商品実務指針上の有価証券に該当しない場合 金融商品基準等の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理は、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い(以下、「実務報告23号」という)」の定めに従って行う。 ただし、金融商品基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針及び実務報告23号の定めにより、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うものについては、その発生の認識(信託設定時を除く)及び消滅の認識は、金融商品実務指針及び実務報告23号の定めにかかわらず、実務報告第8項の定め(上記(1)①参照)に従って行う(実務報告10)。 4 表示 電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示は、従来のみなし有価証券と同様である(実務報告11)。 5 注記 電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の注記事項は、従来のみなし有価証券で求められる注記事項(金融商品関係注記、有価証券関係注記)と同様である(実務報告12)。 6 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(実務報告13)。 2023年3月期決算の会社で、適用していない場合、未適用の会計基準の注記が必要でないか検討する必要がある(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」22-2)。 Ⅷ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準 2022年10月28日に、以下の会計基準の改正が公表された。 本改正では、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、改正が行われている。 1 その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分 (1) 改正理由 その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、「取引等」という)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合がある。 法人税、住民税及び事業税等は、法令に従い算定した金額を損益に計上している。一方、取引等については、従来ではその他の包括利益に計上されるが、これに対して課される法人税、住民税及び事業税等は損益に計上され、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていなかった。 そのため、その他の包括利益に対して課される法人税、住民税及び事業税等のほか、株主資本に対して課される法人税、住民税及び事業税等も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分についての見直しが行われた(改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表)。 (2) 影響があるケース 影響があるケースとして、以下の例示が挙げられている(企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」等の公表)。 なお、株主資本に対して課税される場合については、従来から税効果適用指針等において取扱いが示されているため、以下の場合を除き、影響はない(改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表)。 (3) 法人税等の計上区分 当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益(又は評価・換算差額等)に区分して計上する(法人税等基準5、5-2、8-2)。 なお、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合(退職給付に関する取引を想定)には、当該税額を損益に計上することができる(法人税等基準5-3(2))。 (4) 株主資本又はその他の包括利益に計上する金額の算定 株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、法定実効税率を乗じて算定する。 なお、課税所得が生じていないこと等から法令に従い算定した額がゼロとなる場合、株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができる(法人税等基準5-4)。 (5) その他の包括利益の組替調整(リサイクリング) その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等は、当該法人税、住民税及び事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点で、これに対応する税額を損益に計上する(法人税等基準5-5)。 なお、税率変更に係る差額はリサイクリングしない(法人税等基準29-10)。 (6) 関連する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合 親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合に、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについて、従来は法人税等調整額で計上していたが、改正後は、資本剰余金を相手勘定として取り崩す(税効果適用指針9(3))。 (7) その他の包括利益の開示 包括利益計算書におけるその他の包括利益の内訳項目は、税効果を控除した後の金額で表示し、税効果の金額を注記する。そのため、その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「その他の包括利益に関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及び税効果の金額」と改正された(包括利益基準8)。 2 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 (1) 改正理由 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却(連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合)に係る税効果について、従来では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されている場合は、連結上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正されなかった。 しかし、税効果適用指針の取扱いは、連結上、消去される取引に対して税金費用を計上するため、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないため、改正が行われた。 (2) 影響を受けるケース 100%子会社を所有する親会社の連結財務諸表において、その100%子会社同士又は親会社と100%子会社との間で、親会社又は100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合に、影響を受ける。 (3) 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い及び子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合、連結財務諸表において、以下の会計処理を行う(税効果適用指針39)。 3 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(法人税等基準20-2、包括利益基準16-5、税効果適用指針65―2)。 2023年3月期決算の会社で、適用していない場合、未適用の会計基準の注記が必要でないか検討する必要がある(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」22-2)。 4 経過措置 その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分について、以下の経過措置が定められている。 法人税等の計上区分については、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する。また、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、適用初年度期首から新たな会計方針を適用することができる(法人税等基準20-3、包括利益基準16-5、税効果適用指針65-2)。 Ⅸ 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項 2023年3月24日に金融庁より「令和4年度の有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表された。 これは、令和4年度の有価証券報告書レビューの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たって留意点等を取りまとめたものである。 レビュー結果の内容は、上場会社のみならず、非上場会社の2023年3月期決算においても参考となる箇所がある。 1 時価の算定に関する会計基準等 2 収益認識に関する会計基準 (※) 収益認識に関する注記の開示目的とは、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである。 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 * * * 〈改善の開示例〉 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 3 コーポレートガバナンスの状況等における株式の保有状況 4 年金資産の連結貸借対照表における表示 5 退職給付に係る調整額の注記 6 セグメント注記 (連載了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《金銭債権-手形債権・電子記録債権》編 【第2回】 「電子記録債権」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 2008年12月から施行されている電子記録債権法に基づいて、従来の紙媒体である手形債権だけでなく、電子記録債権も手形債権の代替として機能しており、中小企業においても、特に大企業の取引先との決済から徐々に普及してきています。そこで今回は、電子記録債権の会計処理をご紹介します。 【設例2】 当社(12月31日決算)は、当期(X1年1月1日~X1年12月31日)に、次の取引を行いました。 (1) X1年10月20日に、製品2,000,000円(税抜金額、消費税10%)を甲社に掛けで販売しました。 (2) X1年11月30日に(1)の代金について、販売先甲社がその取引銀行に電子記録債権2,200,000円(支払期日X2年2月28日)の発生記録を請求し、電子記録債権機関の記録原簿に発生記録が行われ、その通知を受けた当社の取引銀行から当社が甲社の電子記録債権の発生記録の通知を受けました。 (3) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に譲渡しない場合 (3-1) 支払期日X2年2月28日に、(2)の電子記録債権2,200,000円が決済(甲社の銀行口座から引き落とされて当社の当座預金に2,200,000円振込)されました。 (4) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に割引する場合 (4-1) 当社の取引銀行に電子記録債権の割引申込を行い、その電子記録債権の譲渡記録が請求されて、X1年12月15日に、電子債権記録機関の譲渡記録(保証記録も随伴)が行われ、その通知を受けた当社の取引銀行が審査の上、電子記録債権と引換えに割引料80,000円を差し引いた2,120,000円を当社の当座預金に入金しました。 (4-2) X1年12月31日決算日。 (4-3) その後、支払期日X2年2月28日に、(2)の電子記録債権2,200,000円が決済されました。 (5) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に(手形裏書と同様の)譲渡をする場合として、当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円を(2)の電子記録債権と相殺するケース (5-1) 当社の取引銀行に電子記録債権の譲渡記録を請求し、X1年12月20日に、電子債権記録機関の記録原簿に譲渡記録(保証記録も随伴)が行われ、その通知を受けた乙社の取引銀行から乙社へその譲渡記録が請求された旨を通知しました。これにより、当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円と相殺するために、電子記録債権2,200,000円の譲渡が成立しました。 (5-2) X1年12月31日決算日。 (5-3) その後、支払期日X2年2月28日に、(2)の電子記録債権2,200,000円が決済されました。 1 会計処理 上記(1)~(5-3)の仕訳等は、次のとおりです。 (1) (2) (3) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に譲渡(割引や裏書)しない場合 (3-1) (4) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に割引する場合 (4-1) (4-2) 仕訳なし。電子記録債権割引高2,200,000円を決算書に注記。 (4-3) 仕訳なし。 (5) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に(手形裏書と同様の)譲渡をする場合として、当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円を(2)の電子記録債権と相殺するケース (5-1) (5-2) 仕訳なし。電子記録債権譲渡高2,200,000円を決算書に注記。 (5-3) 仕訳なし。 2008年12月から施行されている電子記録債権法に基づいて、従来の紙媒体である手形債権だけでなく、電子記録債権も手形債権の代替として機能しており、中小企業においても、特に大企業の取引先との決済から徐々に普及してきています。 電子記録債権とは、その発生又は譲渡について、電子記録を要件とする金銭債権です。ここでの電子記録とは、磁気ディスク等をもって電子債権記録機関が作成する記録原簿への記録事項の記録をいいます。 〇電子記録債権の発生 上記(2)について、手形債権であれば、販売先の甲社が振出人として紙媒体の手形を取引銀行から購入した所定の手形用紙を用いて作成して振り出し、当社はその紙媒体の手形を受け取ります。 これに対して電子記録債権の場合、例えばこの設例のように、販売先甲社がその取引銀行に電子記録債権の発生記録を請求し、電子記録債権機関の記録原簿に発生記録が行われ、その通知を受けた当社の取引銀行から当社が甲社の電子記録債権の発生記録の通知を受けることになります。 電子取引債権について、貸借対照表上、「電子記録債権(又は電子記録債務)」等、電子記録債権を示す科目をもって表示します。ただし、重要性が乏しい場合には、営業取引により発生した債権(又は債務)については、受取手形(又は支払手形)に含めて表示することができます(実務対応報告27号「電子記録債権に係る会計処理及び表示についての実務上の取扱い」)。この設例では、「電子記録債権」勘定を用いています。 〇電子記録債権の割引 上記(4)について、仮に手形債権であれば、販売先から受け取った紙媒体の手形を当社の取引銀行に持ち込み、所定の割引料を差し引いて支払期日を待たずに早期に現金化します。 これに対して、電子記録債権の場合、例えばこの設例のように、当社の取引銀行に電子記録債権の割引申込を行い、その電子記録債権の譲渡記録が請求されて、電子債権記録機関の譲渡記録(保証記録も随伴)が行われ、その通知を受けた当社の取引銀行が電子記録債権と引換えに割引料を差し引いた金額で当社の当座預金に支払期日を待たずに早期入金します。割引料は、手形債権であれば「手形売却損」勘定を用いるのと同様に、「電子記録債権売却損」勘定を用います。 〇電子記録債権の(手形債権の裏書と同様の)譲渡 上記(5)について、仮に手形債権であれば、当社の支払先への支払手段の1つとして、販売先から受け取った紙媒体の手形を、その用紙の裏に譲渡先を記入して、引き渡します。 これに対して電子記録債権の場合、例えばこの設例のように、当社の取引銀行に電子記録債権の譲渡記録を請求し、電子債権記録機関の記録原簿に譲渡記録(保証記録も随伴)が行われ、その通知を受けた支払先乙社の取引銀行から乙社へその譲渡記録が請求された旨を通知します。この電子記録債権2,200,000円の譲渡により、当社がこの債権を対価とした相殺取引として、乙社に対する買掛金2,200,000円を支払ったことになります。 * * * 上記(4)と(5)は、いずれも、電子記録債権の譲渡に際して、電子債権記録機関の記録原簿に譲渡記録が行われると同時に、保証記録も行われます。これは紙媒体の手形債権の割引や裏書譲渡と同様であり、割引や譲渡が行われた後に、電子記録債権を当初発生させた支払義務者(この設例では当社販売先甲社)が支払期日X2年2月28日時点で支払不能になっていれば、割引や譲渡を行った者(この設例では当社)は債権者(この設例(4)では当社の割引先銀行、設例(5)では当社の仕入先乙社)へ2,200,000円の支払をしなければならず、条件付き遡及義務を負います。この設例では、当期末(X1年12月31日)現在、電子記録債権の割引や譲渡が行われた後であり、かつ、電子記録債権の支払期日(X2年2月28日)前であるので、当社は条件付き遡及義務を負っています。 「手形遡及債務」は、「貸借対照表等に関する注記」の1つ(会社計算規則103)です。会社計算規則では、会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)には、「貸借対照表等に関する注記」を表示することは要しないとされています(同規則98②)。しかし、中小企業会計指針では、受取手形割引額及び受取手形譲渡額は、注記を要求されていない場合においても、それぞれ注記することが望ましいとされている(中小企業会計指針15(4))ため、電子記録債権割引高及び電子記録債権譲渡高も同様に注記することが望ましいと考えられます。 2 当期(X1年12月31日決算)における決算書の表示 当期(X1年12月31日決算)における決算書の表示は、他に取引がないと仮定すると、次のとおりです。 ➤上記(3)の「当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に割引や譲渡をしない場合」 〈当期末貸借対照表〉 ➤上記(4)の「当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に割引する場合」 〈損益計算書〉 〈個別注記表〉 ➤上記(5)の「当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に(手形裏書と同様の)譲渡をする場合」 〈個別注記表〉 (《金銭債権-手形債権・電子記録債権》編 終了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第43回】 「金額表示単位のミスの見つけ方」 公認会計士 石王丸 周夫 1 「千円」を「百万円」と表記したミス 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例43-1】 金額表示単位の表記ミス。 (出所) 株式会社SIGグループ「第31期定時株主総会招集ご通知」 【事例43-1】は、連結注記表の「剰余金の配当に関する事項」の記載でのミスです。金額の表示単位を「千円」とすべきところを「百万円」としてしまったというミスになります。 この事例の会社は、2022年6月14日に本事例を含む定時株主総会招集ご通知を公表し、同日に当該誤記載の訂正を公表しています。 会社法決算書の表示単位については、この連載の【第22回】で解説したとおり、一円単位、千円単位又は百万円単位のいずれかを会社が選択することになります。「剰余金の配当に関する事項」は連結株主資本等変動計算書に関する注記であり、【事例43-1】の会社は、連結株主資本等変動計算書を千円単位で作成していることから、この注記も千円単位で作成することになります。【事例43-1】では、数字は正しかったのですが、表示単位の表記を間違えてしまったというわけです。 2 どうしてここで間違えたのか 【事例43-1】は見るからに単純なミスですが、連結計算書類等の作成実務を担当している人からすると、なぜそこで間違ってしまったのか不思議かもしれません。間違った箇所は定型フォームの一部であって、一度正しく作成してしまえば翌年度からはそこに手を加えることはなく、間違うはずがないからです。実際、よくあるミスは配当額の数値に関するミスです。参考までに1例紹介しておきます。 【事例43-2】 配当金の総額の記載ミス。 (出所) 株式会社ヨータイ「「第124回定時株主総会招集ご通知」の一部修正について(2022年6月1日)」 【事例43-2】では、修正前と修正後の期末配当の注記が上下に並べてあり、下線が引かれてあるところが修正箇所です。配当金の総額の数字が間違っていたことがわかります。この欄は毎年書き換える箇所なので、間違うこともあるわけです。 では、さきほどの【事例43-1】のようなミスはなぜ起きたのかというと、【事例43-1】の会社の株主総会招集通知を見てみると、あることに気づきます。この会社は連結計算書類をこの年度から作成し始めたのです。前年度までは子会社がなく、連結決算が不要であり、単体の計算書類のみを作成していました。 連結計算書類作成初年度においては、連結計算書類のフォームを一から作成することになります。その際、ひな型や他社の連結計算書類を見ながら作成するものと思われ、それらが百万円単位で作成されていれば、うっかりそのまま写してしまった可能性が考えられます。もちろん、筆者の推測にすぎませんが、こうした書類の作成初年度は間違いが発生しやすいことは確かです。 3 このミスの見つけ方 【事例43-1】のようなミスを公表前に発見することは、それほど難しくはありません。データの検索機能を使えば見つかるからです。千円単位で連結計算書類を作成している会社であれば、原稿データの段階で「百万円」で検索してヒット箇所を確認してあげればよいでしょう。 これに加えて、このミスが起きる特有のタイミングがあることも頭に入れておくと、ミス発見につながります。【事例43-1】のように連結計算書類作成初年度に起こることは理解できたと思いますが、これ以外のタイミングでも起きています。それは、無配が続いた後に復配した年度とその翌年度です。 無配になると、「剰余金の配当に関する事項」の記載が削除されます(もしくは、該当ない旨を記載します)。いったん削除した定型フォームを復配時に復活させるため、定型フォーム部分で間違う可能性が出てくるのです。復配時及びその翌年度に、この注記の記載を落としてしまうケースを【第9回】及び【第19回】で解説していますが、落とさないまでも【事例43-1】のように誤記載をしてしまう場合があることを覚えておきましょう。 〈今回のまとめ〉 金額表示単位のミスは検索機能を使うと比較的簡単に見つけることができます。連結計算書類作成初年度等、ミスが起こりやすいタイミングにも留意しましょう。 (了)
〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第16回】 「新設された具体的相続分による遺産分割の時的限界の概要」 司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行 【Q】 相続開始から長期間が経過した場合の遺産分割について、どのような見直しが行われたのか教えてください。 【A】 具体的相続分による遺産分割の時的限界が設けられ、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、一定の場合を除き、具体的相続分ではなく法定相続分(又は指定相続分)により分割することとされた。 -《解説》- 1 改正の経緯 相続が開始して相続人が複数存在する場合、遺産(相続財産)に属する土地や建物、動産、預金などの財産は、原則として相続人により共有されることになる(民法第898条)。このような遺産共有関係にある場合、各相続人の持分権が互いに制約し合う関係に立つことから、遺産の管理に支障を来すおそれがある。とりわけ、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有関係となると、遺産の管理・処分が困難な事態が生じる。また、このような状態の下で相続人の一部が所在不明になり、所有者不明土地が生ずることも少なくない。 よって、遺産分割による遺産共有関係の解消は、所有者不明土地の発生予防の観点からも重要であるといえる。 他方で、具体的相続分の割合による遺産分割を求めることについては、これまで時的制限がなく、長期間放置をしていても具体的相続分の割合による遺産分割を希望する相続人に不利益が生じないことから、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくい状況であった。また、相続開始後遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し関係者の記憶も薄れることから、長期間が経過すると、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となるおそれがある。 そこで、今回の改正により、遺産分割をできる限り早期に実施し、遺産共有関係を円滑に解消するために、具体的相続分による遺産分割に時的限界が設けられることとなった。 2 改正の内容 (1) 原則 相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、下記(2)の場合を除き、民法第903条から904条の2までの規定は適用しないこととされ、具体的相続分ではなく法定相続分(相続分の指定があるときは、指定相続分)により遺産分割を行うこととされた(新民法904条の3)。 (2) 例外 ① 相続開始から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき ② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6ヶ月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6ヶ月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき 3 相続開始から10年経過後の法律関係 (1) 共有物分割ではなく遺産分割 相続開始から10年の経過により遺産分割の基準は法定相続分(又は指定相続分)によることとなるが、分割方法は基本的に遺産分割であって共有物分割ではない。 (2) 具体的相続分による遺産分割をする旨の合意 相続開始から10年が経過し、法定相続分等による分割を求めることができるにもかかわらず、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、10年経過後であっても、具体的相続分による遺産分割が可能である。 なお、相続開始から10年が経過する前に、相続開始から10年を経過した後も具体的相続分による遺産分割をする旨の合意をした場合については、このような合意を有効なものとすると具体的相続分による遺産分割に時的限界を設けた趣旨が没却されてしまうことや、消滅時効においても時効完成前に予め時効完成の利益を放棄することはできないとされていること(民法第146条)から、当該合意には効力が認められないと解される。 4 経過措置 改正法の施行日前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、改正後のルールが適用されることになる(令和3年法律第24号附則第3条)。 ただし、この場合には、経過措置により、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられている。 具体的には、以下の図のとおり、(A)改正法施行時に相続開始からすでに10年が経過しているケース及び(B)相続開始から10年を経過する時点が施行時から5年を経過する時点よりも前に来るケースでは、改正法施行時から5年を経過した時点が基準になり、(C)相続開始から10年を経過する時点が施行時から5年を経過する時点よりも後に来るケースでは、相続開始から10年を経過した時点が基準となる。 (※) 法務省民事局作成『令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント』48頁より抜粋 (了)
2023年株主総会における 実務対応のポイント 三井住友信託銀行 ガバナンスコンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠 いよいよ本年3月より、株主総会資料の電子提供制度に対応した株主総会が開催され、令和元年改正会社法での対応事項の仕上げの年となる。また、本年5月8日には新型コロナが季節性インフルエンザと同様の「5類」に見直されることが予定されており、これまでの株主総会運営にも影響が想定される。 ここでは、制度改正対応だけではなく運営面での対応についても留意が必要となった、本年株主総会における実務対応のポイントについて解説する。 1 株主総会資料の電子提供制度対応 (1) 株主あて送付物の対応 株主総会資料の電子提供制度における株主あて招集通知(アクセス通知)の様式については、全国株懇連合会よりモデル(※1)が公表されているので、それらも参考にして作成することとなる。 (※1) 全国株懇連合会「電子提供制度における招集通知モデル(電子提供措置事項の一部を含んだ一体型アクセス通知)の制定について」参照。また、経団連からも株主総会資料の電子提供制度に対応した招集通知(アクセス通知)のひな型が公表されているので、そちらも参照されたい(2022年11月1日「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」)。 全株主あてに招集通知(アクセス通知)と議決権行使書を送付し(※2)、書面交付請求株主にはこれに、電子提供措置事項記載書面を同封することになる。 (※2) 議決権行使書も電子提供措置事項となったが、当面は株主あてに招集通知(アクセス通知)とともに送付する会社がほとんどであると考えられる。 2022年9月から電子提供制度が施行されて書面交付請求の受付はすでに始められたが、実際に書面交付請求を行った株主が極めて少ないので、実務の感覚からはまだ制度の周知自体が進んでいないと考えられる。招集通知(アクセス通知)の送付を受けて、初めて電子提供制度対応であることに気づいて、従来の紙ベースでの招集通知情報の送付を要求する株主が多数出てくることが事前に懸念される。 基準日経過後の書面交付請求株主に、もれなく電子提供措置事項記載書面を発送することは実務的にも困難なため、いわゆるフルセットデリバリーとして、任意ではあるが全株主に招集通知情報を送付する会社も過半程度は存在するようである。その次に招集通知(アクセス通知)に株主総会参考資料を追加する会社と、招集通知(アクセス通知)のみを送付する会社の概ね3パターンとなっている。 まず初年度はフルセット対応が過半を占めるが、今後は制度趣旨を踏まえてウェブでの情報開示を充実させ、発送物を徐々に削減していく方向で進められていくものと考えられる。 (2) 議事運営上の対応 電子提供制度は株主総会運営にも影響がある。これまで報告事項の報告や議案の説明に際し、議長のシナリオ上で言及していた「お手元の招集ご通知」の配布が必要でなくなってしまうので(制度上はウェブサイトに掲載された電子提供措置事項を参照することになる)、同様に書面の配布を前提としないで、報告事項や議案を説明し、議事を進めていくかが課題となる。 ただ、フルセットデリバリーとして招集通知を全株主に送付するのであれば、当該書類をこれまでどおり来場株主に配布することで、従来ベースでの議事運営が可能である。もちろんフルセットデリバリーでも総会場で配布しない扱いも考えられるので、その場合には、「会場で投影する動画を充実させる」「ウェブに掲載している情報を参照する」等が考えられる。ウェブに掲載している情報を参照する場合には、株主総会シナリオを以下のとおりとすることが考えられる。 〈当日資料を配布しない場合のシナリオ例(参考)〉 いずれにしても、本年は適用初年度となるので、制度内容をよく認識していない株主に対して情報提供のレベルを落とさずに総会運営を行いつつも、真に書面による株主総会情報を必要とする株主には書面交付請求を促すことで、制度趣旨に則った総会運営を模索していくこととなる。 2 バーチャル株主総会対応 (1) 本年の動向 バーチャル株主総会については、発言や議決権行使のできない、いわゆるライブ配信の参加型が引き続き大勢を占めている状況である。 当社調べでも2022年6月総会での参加型の実施は、377社(6月総会の上場企業のうち16.4%)となっており、質問や議決権行使のできる出席型の17社(同0.7%)を大きく引き離している。本年においてもこの傾向に大きな変動はないと思われる。なお、参加型のバーチャル株主総会を実施した会社のうち、株主から事前の質問受付を行った会社は166社で、参加型バーチャル株主総会を実施した会社の44.0%に達した。前年の2021年6月総会での事前の質問受付からは79社増(14.1ポイント増)と、大幅に増加したことが注目される。 株主からの事前質問は、株主総会に対する株主の意見を幅広く取り込むことが期待でき、株主の関心事項を事前に把握したうえで株主総会に臨むことができるため、内容の濃い、より効率的な対話に繋がるものと期待できる。仕組的には株主からの意見表明の機会がない参加型のデメリットを補う取組みとして注目される。 (2) バーチャルオンリー型株主総会 「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(以下「改正産競法」という)(令和3年法律第70号)」が2021年6月16日より施行され、リアル会場の設営を要しないバーチャルオンリー型株主総会の開催が可能となった。なお、改正産競法附則3条1項により、同法の施行から2年を経過するまでの間、改正産競法66条1項に基づく経済産業大臣・法務大臣の確認を経れば、みなし定款としてバーチャルオンリー型株主総会の開催が可能となったが、その期限も本年6月16日までとなり、その後はリアルの株主総会を開催し、定款変更を実施したうえでバーチャルオンリー型株主総会を開催することとなる。 2022年6月にバーチャルオンリー型株主総会を開催した会社は8社であり、まだまだ少数である。しかしながら、バーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする定款変更を実施した会社は、2022年6月総会で147社(前年比6.0ポイント増)となっており、着実に増加している。 ただ、ISSは、バーチャルオンリー型株主総会の開催を目的に「場所の定めのない株主総会」の開催を可能とする定款変更については、「バーチャルオンリー型株主総会の開催を感染症拡大や天災地変の発生に限定する場合」を除き、原則として反対を推奨するとしている(※3)。 (※3) ISS「2023年版 日本向け議決権行使助言基準」 この方針を意識して、定款変更に際してバーチャルオンリー型株主総会の開催を、パンデミックや自然災害の発生等でリアルでの株主総会の開催が困難になった場合に限定しているケースも多い。バーチャルオンリー型株主総会は、リアル会場の設営が不要で、効率的に多数の質問を受け付けることが可能となるなどのメリットがあるものの、当面は緊急避難的な場合の開催と位置づけられることになりそうである。 3 株主総会運営について 新型コロナが本年5月8日に、感染症法上の位置づけが季節性インフルと同様の「5類」に見直されることとなった。これにより外出自粛などの行動制限が課せられなくなることとなり、それに先立ち本年3月13日以降はマスク着用について個人の判断に委ねられることとなった(※4)。 (※4) 厚生労働省「マスクの着用の考え方について」 これまで3年もの間、密を避けるための座席間隔の確保や入場制限、来場者へのマスク着用のお願いなどの感染防止対策を徹底して行ってきた株主総会運営をどのように見直していくかが本年の課題となる。 これまでコロナ禍での株主総会運営は、経済産業省及び法務省から公表されている「株主総会運営に係るQ&A」が、実務上のガイドラインとして活用されてきた。同Q&Aは、パンデミック下での感染防止対策を最優先とする状況のものであることから、5類となり特段の行動制限等が課せられない状況では、その適用の可否については変化が生じることになると考えられる。とはいえ、5類への見直し以降も感染防止対策はなされるべきであろうから、どの程度まで運営や来場株主への依頼事項を緩和させるのかが悩ましい。 まだ5月・6月株主総会での対応を即断するわけにはいかないが、これまで招集通知に記載していた来場自粛の依頼文言等については特段記載しないことが考えられる。マスク着用についても社会一般の状況を見つつ判断することになろう。ただ、株主総会は比較的年配者の来場が多いこともあるので、緩和については通常のイベント等よりは慎重スタンスで対応することが望ましいであろう。 (了)
プラス思考の経済効果 【第13回】 「2023年WBC優勝の経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 2023年3月9日から日本では第5回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催しました。今回は大谷翔平選手やダルビッシュ有選手などMLBの4選手、そして三冠王の村上宗隆選手、完全試合の佐々木朗希選手、2年連続投手5冠の山本由伸選手などが出場する予定で、「史上最高の侍ジャパン」と言われていましたので、優勝が期待されます。 本記事では、2023年WBCで「侍ジャパンが優勝した時の経済効果」を分析します。 2023年WBCで「侍ジャパン」が優勝した時の日本国内における経済効果は、約596億4,847万円と推定されました。2017年の第4回WBCにおいて優勝すると想定した時の経済効果は約343億4,588万円(残念ながら優勝しませんでしたが)でしたので、それと比べると約253億259万円も増加すると想定されます。 ただし後述するように、今後のWBCの発展には、 が必要だと思います。 2 直接効果の項目 本記事では、次の項目をWBCの直接効果とします。日本国内での収入は、「日本国内で全額消費、使用できるもの」と、「日本国内で一部は消費、使用できますが、大部分はアメリカのWBCの開催本部であるワールド・ベースボール・クラシック・インク(WBCI)に納めなければならないもの」に分けられます。 【A】 日本国内で全額消費、使用できる直接効果 【B】 日本国内の収入であるが、一部しか日本国内で消費、使用できない直接効果 3 日本国内で全額消費、使用できる直接効果の詳細【A】 日本国内で全額消費、使用できる直接効果の詳細な分析は省略しますが、【A】の計算結果は下表のように合計約172億922万円となります。 〈【A】の直接効果額〉 4 日本国内の収入であるが、一部しか日本国内で消費、使用できない直接効果の詳細【B】 日本国内でのWBCに関する収入、売上ではありますが、そのかなりの割合をアメリカのWBCIに納めなければならない収入、売上の直接効果は、上記2で述べた【B】の3項目です。 試合のチケット代、グッズ代、放映権収入、スポンサー料などについては日本での売上ですが、それらの金額のかなりの割合はアメリカのWBCIに納めなければなりません。しかし、その詳細な金額は全く公表されていません。2009年の第2回WBCでは、スポンサー収入全体のうち約70%は日本の負担であったと言われています。しかし、WBCの収益の66%がMLBと大リーグ選手会に配分されましたが、日本にはたった13%しか配分されず、「運営の負担と収益の分配」は非常に不公平でした。 本記事では、日本での試合ですが、WBCIの管轄のもとで開催される強化試合、1次ラウンド、2次ラウンドの試合の売上は、日本の観客が支払った金額であり、日本国内の経済効果に貢献すると考えています。そして、放送権料、スポンサー料の大部分は、日本を通り越してアメリカのWBCIに渡ると仮定します。 以上の考察から、【B】の項目で日本国内の経済効果に貢献する金額は、次に述べるように約104億581万円となります。 〈【B】の直接効果額〉 5 日本における直接効果の項目の合計額 3及び4における計算から、日本における直接効果の項目の合計額は約276億1,503万円となります。 6 経済効果 これまで計算してきた2023年の第5回WBCの直接効果の合計額約276億1,503万円を基にして、総務省内閣府が作成した最新の「全国の産業連関表」(2019年に発表した2015年版の「全国の産業連関表」の修正版)を用いて経済効果を分析します。 〈経済効果〉 分析の結果、2023年の第5回WBCの日本国内における経済効果は約596億4,847万円となりました。 7 まとめ 2023WBCで「侍ジャパン」が優勝した時の日本国内における経済効果は、約596億4,847万円と推定されました。2017年の第4回WBCにおいて優勝すると想定した時の経済効果は約343億4,588万円でしたので、それと比べると約253億259万円も増加すると想定されます。 また、2022年にヤクルトスワローズが優勝し、村上宗隆選手が三冠王を取った時の経済効果(約451億円)と比較しても、短期間でそれを大幅に上回る経済効果をもたらす侍ジャパンのWBC優勝は、日本人に素晴らしい感動を与えてくれるでしょう。これだけ経済効果が増加するのには以下のような理由が考えられます。 WBCの今後の課題としては、 だと思います。 新型コロナ、ロシアのウクライナ侵攻、インフレの進行など暗い話題が多い時に、日本を元気にしてくれる侍ジャパンの優勝を多くの日本人は期待していることでしょう。 (※) 本記事は2023年2月21日に公表したものに基づいています。 (了)
《速報解説》 「連結財務諸表規則」等の改正が確定 ~法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準等の改正を受け、一部文言を変更~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和5年(2023)年3月27日、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第22号)が公布された。 これにより、令和4(2022)年12月27日から意見募集されていた内閣府令(案)等が確定することになる。内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方が公表されている。 これは、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)等の改正を受けたものである。 なお、国際会計基準審議会が2022年12月31日までに公表した国際会計基準(国際財務報告基準第16号「リース」の修正、国際会計基準第1号「財務諸表の表示」の修正)を、連結財務諸表規則第93条に規定する指定国際会計基準とする改正も行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 2022年10月28日公表の「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)及び「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)を受けて、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」を次のように改正する(アンダーラインが改正点)。 Ⅲ 施行期日等 公布の日(令和5年3月27日)から施行する。 改正後の「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第69条の5第4項及び第69条の6第1項の規定は、令和6(2024)年4月1日以後に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表について適用し、同日前に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表については、なお従前の例による。 ただし、令和5(2023)年4月1日以後に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表については、これらの規定を適用することができる。 比較情報、四半期連結財務諸表などに関する経過措置に注意する。 (了)
《速報解説》 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が公布される ~監査報告書の報酬関連の記載事項に係る改正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和5(2023)年3月27日、「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第21号)が公布された。「「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」の取扱いに関する留意事項について(監査証明府令ガイドライン)」も改正されている。 これにより、令和4(2022)年12月23日から意見募集されていた内閣府令(案)等が確定することになる。内閣府令(案)等に対するコメントはなかったとのことである。 これは、監査報告書の記載事項に公認会計士又は監査法人が被監査会社等から受領する報酬に関連する事項を追加するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 監査証明を受けようとする会社その他の者を「被監査会社等」と規定する。 「「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」の取扱いに関する留意事項について(監査証明府令ガイドライン)」も改正する。 1 監査報告書の記載事項の追加 監査報告書の記載事項として、次の規定を設ける(「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」4条1項1号リとして追加)。 2 記載不要となる報酬関連事項 報酬関連事項は、次の有価証券届出書・有価証券報告書に係る監査報告書には記載不要となる。 3 省略できる報酬関連事項 次の場合には、参照文言を記載することなどの要件を満たすことにより、報酬関連事項の記載を省略できる。 Ⅲ 施行期日等 令和5(2023)年4月1日から施行する。 この府令による改正後の「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」4条の規定は、この府令の施行の日以後に開始する事業年度又は連結会計年度に係る財務諸表等の監査証明について適用し、同日前に開始した事業年度又は連結会計年度に係る財務諸表等の監査証明については、なお従前の例による。 ただし、当該財務諸表等の監査証明のうち同日以後に終了する事業年度又は連結会計年度に係るものについて適用することを妨げない。 (了)
《速報解説》 令和5年3月期以降の有報の作成・提出に際しての留意事項及び有報レビューを金融庁が公表 ~令和5年度の重点テーマ審査は「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和5(2023)年3月24日、金融庁は次のものを公表した。 令和5(2023)年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について 令和5(2023)年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として、以下のことを述べている。 1 新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項 2023年3月期以降に適用される開示制度に係る公表・改正のうち、主なものは次のとおりである。 2 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項 令和4(2022)年度の有価証券報告書レビューに関して、現在(2023年3月24日時点)までの実施状況を踏まえ、複数の提出会社に共通して識別された事項に関し、今後の有価証券報告書の作成にあたって留意すべき事項について述べている。 当該事項を記載している別紙1は、表紙を含めて33ページある。 記載内容が不十分であると認められた事項には、会計監査の対象となる財務諸表等に関わるものも含まれているため、留意すべき事項等については、提出会社だけでなく、監査を実施する公認会計士又は監査法人においても、十分に留意いただきたいと記載されているので、改めて有価証券報告書の作成に際しては注意が必要である。 令和4(2022)年度の有価証券報告書レビューでは、以下の事項に着目して審査を実施している。 3 法令改正関係審査関係 4 重点テーマ審査関係(「収益認識に関する会計基準」関係) 「収益認識に関する会計基準」関係について、全般的な留意事項として、次の問題が識別されている。 付録として、「収益認識に関する会計基準の主な好開示例」が記載されている。 個別の留意事項は、次のとおりである。 Ⅲ 重点テーマ以外の主な項目に関する留意事項 Ⅳ 有価証券報告書レビューの実施について(令和5年度) 1 法令改正関係審査 次の法令改正事項について、令和5(2023)年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の全提出会社を対象として審査を行う。 有価証券報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書の作成に際して注意が必要である。 2 重点テーマ審査 次のテーマに着目し、令和5(2023)年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 令和5(2023)年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令の適用に伴い、有価証券報告書において開示される「サステナビリティに関する考え方及び取組」に関する記載内容について自主的な改善に資するよう審査するとのことである。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
《速報解説》 金融庁、「記述情報の開示の好事例集2022」を更新 ~新たに求められる「コーポレート・ガバナンスに関する開示」の参考となる開示例も記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023(令和5)年3月24日、金融庁は、「「記述情報の開示の好事例集2022」の更新」を公表した。 これは、新たに「コーポレート・ガバナンスの概要」、「監査の状況」、「役員の報酬等」及び「株式の保有状況」に関する開示の好事例を追加するものである。 2023(令和5)年1月31日に公布された「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第11号)により、新たに求められている「コーポレート・ガバナンスに関する開示」の参考となる開示例も記載されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ コーポレート・ガバナンスの概要(取締役等の活動状況を含む)の開示例 1 主な開示のポイント 例えば、次のことが記載されている。 2 好事例として取り上げた企業の主な取組み 投資家に自社の取組みを理解してもらえるような開示を意識し、取締役会の実効性評価について、評価手法及び評価結果、それらを踏まえた今後の取組みをナラティブな形で丁寧に開示することを心掛けたことなどが記載されている。 3 好事例のポイント 例えば、次のことが記載されている。 Ⅲ 監査の状況の開示例 1 主な開示のポイント 例えば、次のことが記載されている。 2 好事例のポイント 例えば、次のことが記載されている。 Ⅳ 役員の報酬等の開示例 1 主な開示のポイント 例えば、次のことが記載されている。 2 好事例として取り上げた企業の主な取組み 長期インセンティブ型報酬のKPI及び評価ウェイトについて、近年の外部事業環境の変化等を踏まえ、どのようなESG関連指標を採用するかを含め、その設定や変更について投資家に説明していく必要があったことなどが記載されている。 3 好事例のポイント 例えば、次のことが記載されている。 Ⅴ 株式の保有状況の開示例 1 主な開示のポイント 例えば、次のことが記載されている。 2 好事例として取り上げた企業の主な取組み 投資家及び取引先との対話を行い、政策保有株式の持ち合いの解消は、取引先との関係維持、買収防衛等にほとんど影響を与えることはなく、資本効率の改善等を通じて、企業価値の向上に繋がると理解したことなどが記載されている。 3 好事例のポイント 例えば、次のことが記載されている。 Ⅵ 記述情報の開示に関する充実化の動向 1 開示の充実を期待するポイント 例えば、次のことが記載されている。 2 好事例として取り上げた企業の主な取組み 経理担当役員が、外部の研究会等に参加し、有価証券報告書を含め、ESG課題への取組みについて価値創造ストーリーとの繋がりを開示することが投資家から強く求められていることを認識したことなどが記載されている。 3 開示の充実化が進展している企業の事例 例えば、次の事例が紹介されている。 4 開示の充実化が進展していない企業の事例 (了)