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〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第11回】「株式交付」

〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第11回】 「株式交付」   公認会計士 佐藤 信祐     13 株式交付 (1) 令和3年度税制改正の解説 『令和3年度税制改正の解説』664頁では、株式交付が現物出資の一形態であることから、包括的租税回避防止規定(法法132の2)の対象になることが明記されている。そもそも株式交付が現物出資の一形態であるということに疑問はあるものの、実務上は、包括的租税回避防止規定の対象になり得るという整理がなされている。 株式交付における課税繰延べは、M&Aを促進するために導入された制度であると説明されている(※35)。すなわち、政策的な理由で導入された制度であることから、株式交付がM&Aのために行われるのであれば、制度の濫用と認められる事案はそれほど多くはないはずである。さらに、財産評価基本通達に定められている相続税評価額を引き下げるための株式交付であっても、同通達6項に基づいて否認をすればよく、法人税の課税関係を修正する必要はない。 (※35) 小竹義範ほか「租税特別措置法等(法人税関係)の改正」『令和3年度税制改正の解説』661-662頁(令和3年)。 そう考えると、そもそも株式交付に対して包括的租税回避防止規定が適用される事案は稀であるはずであるが、あえて現物出資の一形態に含めるといった荒業を使ってまで包括的租税回避防止規定の範囲に含めた理由は、柔軟性の高い制度であることから、租税回避として濫用されやすいという懸念によるものであると考えられる。 そのため、本稿では、包括的租税回避防止規定が適用されるべき株式交付の手法について検討を行うものとする。 (2) 親族内取引 朝長英樹「第3回(最終回) 株式交付税制の検証-適用される法人税法の規定-」では、以下のように解説されている。 このような背景から、後述するように、令和5年度税制改正により、令和5年10月1日以後に行われる株式交付に対しては一定の規制が課されることになった。これに対し、令和5年9月30日以前に行われた株式交付に対する包括的租税回避防止規定の適用可能性について検討すると、会社法上、すでに子会社である法人の株式を追加取得するために株式交付の制度を利用することはできないことから(※36)、親族内取引で株式交付を行うことまで配慮した制度ではないといえる。すなわち、親族内取引については、制度趣旨に反した濫用的な取引が行われる可能性があり得るため、包括的租税回避防止規定についての検討がなされる可能性は否定できない。 (※36) 岩崎友彦ほか『令和元年改正会社法ポイント解説Q&A』位置No.2645-2650(Kindle)(日本経済新聞出版社、令和2年)参照。なお、会社法施行規則3条3項2号に掲げる子会社である場合において、同項1号に掲げる子会社にしようとするときは、株式交付の制度を利用することができる(同No.2656-2658)。 しかしながら、包括的租税回避防止規定は、制度趣旨に反しているだけで適用されるものではなく、税負担減少以外の事業目的や経済合理性を含めて判断されることから、仮に親族内の株式交付が制度趣旨に反するということになったとしても、それだけで包括的租税回避防止規定が適用されるということにはならない。 以下では、どのような取引に対して包括的租税回避防止規定が適用される可能性があるのかについて検討を行うものとする。 (3) 主要株主のみによる株式交付 ① M&Aにおける利用 M&Aにおいては、買収会社側が被買収会社の発行済株式の全部を取得するのではなく、100分の50を超える数の株式を取得するものの、少数株主には残ってもらいたいということも少なくない。そして、株式交付において、被買収会社の主要株主のみが株式交付に応じ、それ以外の株主が応じないことも考えられる。 このような手法は、株式交付の制度が導入された当初から想定されたものであると考えられるため、主要株主のみが株式交付に応じたことを理由に包括的租税回避防止規定を適用することはできない。 ② 親族内取引における利用 (ⅰ) 持株会社に株式を集約することにつき、事業目的がある場合 ただし、非上場会社における株主整理の一環として、特定の者(ex.親族)だけに持株会社となる会社の株主になってもらい、それ以外の者には子会社となる会社の株主のままでいてもらいたいといったニーズが存在する。 このような手法が租税回避に該当するのかといえば、持株会社となる会社に対して、子会社となる会社の株式を現物出資すれば同様の効果が期待できることから、現物出資のほうが株式交付よりも経済合理性が高いということであれば、租税回避に該当しそうである。 しかしながら、非上場株式を現物出資対象資産とする現物出資は、原則として、検査役調査が必要であり(会社法207①~⑧)、財産証明で代替できるとはいっても(会社法207⑨四)、そもそも引き受けてくれる弁護士、公認会計士及び税理士はそれほど多くはない。もちろん、募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式総数の10分の1を超えない場合には、検査役調査が不要であるとする特例はあるが(会社法207⑨一)、それほど軽微な株式交付を租税回避であるとして包括的租税回避防止規定を適用すべき事案は多くはないであろう。 すなわち、多くの事案において、現物出資よりは株式交付のほうが経済合理性が高く、かつ、検査役調査が不要な例外的な事案であっても、現物出資のほうが経済合理性が高いとする積極的な根拠も存在しない(※37)。そのため、多くの事案において、会社法上、株式交付よりも現物出資のほうが経済合理性が高いということにはならないため、包括的租税回避防止規定を適用すべき事案は稀であると考えられる。 (※37) 強いていえば、譲渡制限が付されていない公開会社であれば、取締役会決議のみで現物出資ができるという点が挙げられるが(会社法201①)、そもそも非上場会社では有利発行に該当しても問題がないように、譲渡制限が付されていない公開会社であっても、株主総会決議で募集株式等の発行を行おうとすることも考えられるため、必ずしも現物出資のほうが株式交付よりも経済合理性が高いということにはならない。 (ⅱ) 持株会社に株式を集約することにつき、事業目的がない場合 それでは、株式交付により持株会社となる会社に子会社となる会社の株式を集約することに事業目的がなく、子会社となる会社から行われる配当に対して受取配当等の益金不算入(法法23)を適用することが主目的であった場合はどうであろうか(※38)。 (※38) このスキームについて説明されているものとして、酒井真ほか「令和3年度の税制改正を踏まえた株式交付の活用方法」TAX LAW NEWSLETTER 46号8-10頁(森・濱田松本法律事務所、令和3年)、西村美智子「スタートアップ企業における株式交付制度の活用場面」参照。なお、このスキームに対して租税回避に該当するとする見解と該当しないとする見解をそれぞれ紹介しているものとして、「株式交付で『私的節税』」日本経済新聞2022年9月5日19頁参照。 この点については、前述のように、会社法上、株式交付よりも現物出資のほうが明らかに経済合理性が高いわけではないことから、現物出資を選択しなければならない理由もないため、現物出資ではなく株式交付を選択したことを理由として、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 また、持株会社が受取配当等の益金不算入を利用することにより、非課税で配当収入を得ていることについても、二重課税の排除という受取配当等の益金不算入の制度趣旨に反するものとはいえないことから、それだけで包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 (ⅲ) 令和5年度税制改正 このように、親族内で株式交付を行ったとしても、それだけの理由で包括的租税回避防止規定を適用することは難しいと考えられる。このような背景から、令和5年度税制改正では、株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く)に該当する場合には、株式交付子会社株式に係る譲渡損益を繰り延べる規定が適用されないことになった。そのため、令和5年度税制改正が適用される令和5年10月1日以降は、親族内で行われる株式交付を濫用的な手法であるとして包括的租税回避防止規定を適用することは、さらに難しくなったと考えられる。 (4) 株式交換の代替としての株式交付 ① M&Aにおける利用 (ⅰ) 株式交付を行ってから株式交換を行う場合 共同事業を行うための株式交換に該当しない場合には、株式交付により発行済株式総数の100分の50を超える数の株式を取得した後に、株式交換により100%子会社化をしようとする動機が働きやすい。 現金預金で株式を購入してから株式交換を行う場合と異なり、買収会社株式を交付する株式交付を行ってから、買収会社株式を交付する株式交換を行うのであれば、いきなり株式交換を行えばよいはずである。そのため、非適格株式交換に伴う時価評価課税(法法62の9①)を免れるという税負担の減少が主目的であると認められる場合には、株式交換税制の制度趣旨に反することから、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される可能性があるといえる(※39)。 (※39) 同様の指摘をするものとして、酒井ほか前掲(※38)7頁参照。 なお、買収会社株式を交付する株式交付を行ってから、現金預金を交付する株式交換を行うのであれば、一応は説明が付きそうであるが、取得請求権付種類株式を交付する株式交換により、株式交換完全子法人の株主に現金預金と買収会社株式のいずれかを選択させることができるため(※40)、買収会社株式の交付を受ける株主を限定したいなど、より積極的な理由が必要になると考えられる(※41)。 (※40) 相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』676頁(商事法務、平成18年)参照。 (※41) 弁護士に確認したところ、特定の者のみを対象にする株式交付は可能であり、買収会社株式(株式交付親会社株式)を交付したい株主に対して株式交付を行い、キャッシュアウトをしたい株主に対して現金交付型株式交換又はスクイーズアウトを株式交付後に行うことも可能であるとのことである。そうなると、買収会社株式の交付を受ける株主を限定することは可能であり、かつ、そのための実務上のニーズも高い場合には、株式交付を行う事業目的があるといえる。そのため、そのような事業目的が税負担の減少目的よりも上位にあるのであれば、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないということになる。なお、上記見解を裏付ける根拠を文献等で確認することはできなかったため、別途弁護士に確認していただきたい。 (ⅱ) 株式交付により100%子会社化をする場合 株式交付により発行済株式の全部を取得することは禁じられていないことから、株式交付により株式交付子会社を株式交付親会社の100%子会社にすることも可能であると解されている(※42)。すなわち、共同事業を行うための株式交換に該当しない場合には、株式交換ではなく、株式交付により100%子会社化をしようとする動機が働きやすい。このような場合には、非適格株式交換に伴う時価評価課税を免れるという税負担の減少目的が認められるため、租税回避に該当しそうである。 (※42)  酒井ほか前掲(※38)8頁。 ただし、株式交換と株式交付のいずれも選択可能である場合において、会社法上、株式交換を積極的に採用すべき理由もなく、いずれを採用したとしても不都合はないはずである。そのため、株式交換の代替として株式交付を利用したとしても、それだけでは租税回避に該当しないと考えられる。 ② 親族内取引における利用 親族内取引の場合には、支配関係が成立していることが多いため、株式交付後に株式を譲渡することが見込まれている場合(後述(5)参照)と従業者従事要件又は事業継続要件(法法2十二の十八ロ参照)を満たすことができない場合に、株式交換ではなく、株式交付を選択する動機が生じる。 このうち、従業者従事要件又は事業継続要件を満たせないことを理由に株式交付を選択した場合において、株式交付子会社が株式交付親会社の100%子会社になるときは、非適格株式交換に伴う時価評価課税を免れるという税負担の減少目的が認められるため、租税回避に該当しそうである。しかしながら、前述のように、会社法上、株式交換を積極的に採用すべき理由もなく、いずれを採用したとしても不都合はないことから、株式交換の代替として株式交付を利用したとしても、それだけでは租税回避に該当しないと考えられる。 (5) 株式交付後の株式譲渡 株式交換後に株式譲渡を行う場合には、支配関係継続要件(法令4の3⑲)を満たすことができないことから、原則として、株式交換完全子法人において時価評価課税の対象になる(法法62の9①)(※43)。 (※43) ただし、株式交換の直前に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に完全支配関係がある場合には、時価評価は不要とされている(法法62の9①)。 すなわち、①株式交換に伴う時価評価課税を免れるために株式交付を選択するということも考えられるし、②株式交付により受け入れた株式交付子会社株式の取得価額(措令39の10の2④)(※44)が譲渡価額よりも大きい場合には、株式交付子会社株式譲渡損を認識するために株式交付を行うという租税回避が考えられる。 (※44) 株式交付により株式交付子会社の株主から取得した当該株式交付子会社株式の取得価額は、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額(当該株式の取得をするために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)とするものとされている。 ただし、そもそも株式譲渡前に株式交換を行う理由は、売り手サイドで株主を整理しておくためであることが多く、株式交付のような株式を譲渡してくれない株主が生じ得る事案には馴染まないことから、上記①が問題になることはそれほど多くはないと考えられる。 また、上記②については、株式交付子会社の株主が保有する株式交付子会社株式の帳簿価額を株式交付親会社株式の取得価額に付け替えたうえで、株式交付親会社で株式譲渡損を認識していることから、含み損を維持しながら、コピーされた含み損を実現させているのに近い状態が生じていると考えられる。このような利用については、株式交付制度が想定したものではなく、かつ、株式交付を行う事業目的も認められないことから、包括的租税回避防止規定が適用される可能性があると考えられる。 (了)

#No. 531(掲載号)
#佐藤 信祐
2023/08/17

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第56回】「納税資金対策としての自己株買い」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第56回】 「納税資金対策としての自己株買い」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子   相談内容 私は、小売業を営む非上場会社A社の経営者Xです。A社では順調に利益が出ており、余裕資金もあります。私が所有するA社の株式は後継者である息子に相続させたいと考えており、顧問税理士に相続税の試算をしてもらったところ、A社の株価が10億円に上り、私の所有している金融資産2億円では納税資金が不足します。A社には余裕資金があるため、私の所有するA社株式を自己株買いさせて相続税の納税資金に充当することを考えています。 実際にA社で自己株買いを行う際の具体的な手続きや税務上の取扱いについて、事前に知っておきたいので教えてください。また、相続の前後で自己株買いに係る取扱いが異なると聞いたのですが、詳しく教えてください。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 自己株買いの会社法上の手続き (1) 概要 自己株式の取得ができる場合については、会社法上、列挙されていますが、今回のケースは、株主との合意により有償で取得する場合に該当します(会155①三)。株主との合意により取得する場合には、不特定の株主から取得する方法(ミニ公開買付)と、特定の株主から取得する方法があります。 なお、有償による自己株式の取得には剰余金の配当と同様の財源規制が設けられており、自己株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、自己株式の効力発生日における分配可能額を超えることはできません(会461①)。 (2) 株主との合意による取得 不特定の株主から取得する場合には、あらかじめ株主総会の決議によって、取得する株式数、取得対価の内容及び総額、取得期間(1年以内)を定めておきます(会156①)。 そして、自己株式を取得する都度、取締役(取締役会設置会社においては取締役会)は、株主総会で定めた範囲内で、取得株数、1株当たりの取得対価、取得対価の総額、申込期日を定めて、全株主に通知しなければなりません(会157、158)。 通知を受け譲渡の申込みをしようとする株主は、会社に対し、申込みに係る株式数を明示します。通知を受けた会社は、申込期日において譲受を承諾したものとみなされ、自己株式の買取りを実行します(会159)。 (3) 特定の株主からの取得 特定の株主からの取得は、株主総会においてその特定の売主以外の株主による特別決議により行うことができます(会160①、309②二)。この場合において、定款に別の定めがある場合を除き、売主以外の株主に対して、売主追加請求権を付与しなければなりません(会160②③)。 (4) 相続人等からの取得の特例 非公開会社が、株主の相続人その他の一般承継人からその相続又は一般承継により取得した株式を自己株買いする場合には、その売主である相続人等を除いた株主による株主総会の特別決議により、他の株主に売主追加請求権を付与することなく自己株買いを行うことができます(会162)。   [2] 個人売主の課税関係 (1) みなし配当課税(原則) 個人株主が非上場株式をその発行会社に譲渡して、発行会社から対価として金銭その他の資産の交付を受けた場合、その交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が、その発行会社の資本金等の額のうち、その交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は配当所得とみなされて所得税が課されます(所法25)。配当所得とみなされた金額は総合課税の対象となる所得として確定申告の対象になり、他の所得と合算して累進税率が適用されます。 (2) みなし配当課税の不適用(特例) 相続又は遺贈により財産を取得して相続税を課された個人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税の対象となった非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、株式の譲渡対価として発行会社から交付を受けた金銭の額が、その発行会社の資本金等の額のうちその譲渡株式に対応する部分の金額を超えるときであっても、その超える部分の金額は配当所得とはみなされません(措法9の7)。 発行会社から交付を受ける金銭の全額が株式の譲渡所得に係る収入金額となり、収入金額から譲渡した非上場株式の取得費及び譲渡に要した費用を控除して計算した譲渡所得金額に対して税率15.315%の所得税(復興特別所得税を含みます)及び5%の住民税が課されます。 (3) 特例を受けるための手続き 上記(2)の特例の適用を受けるためには、非上場株式を発行会社に譲渡する時までに、発行会社に対して、特例を受ける旨及び相続税額や譲渡株数など一定の事項を記載した「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書(譲渡人用)」を提出する必要があります。 届出書の提出を受けた発行会社は、その譲受株数や1株当たりの譲受対価の額など一定の事項を記載した「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書(発行会社用)」を、受け取った届出書とあわせて、株式を譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、発行会社の所轄税務署長に提出しなければなりません(措令5の2)。 (4) 取得費加算の特例 相続又は遺贈により財産を取得して相続税を課された個人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税対象となった資産を譲渡した場合には、その相続税額のうち譲渡をした資産に対応する部分の金額を取得費に加算して、譲渡所得の金額を計算することができます。 ただし、加算される金額は、この加算をする前の譲渡所得金額が限度となります(措法39、措令25の16)。 この特例の適用を受けるためには、確定申告書に次の書類を添えて提出する必要があります。   [3] 発行法人の課税関係 (1) 法人税上の取扱い 上記[2](2)により、自己株式の取得の際に個人に対するみなし配当不適用の特例が適用される場合であっても、発行会社の法人税の計算上は、みなし配当に相当する金額を利益積立金額から減少させます(法令8①二十、23①六)。 (2) 源泉徴収 自己株式の取得時までに上記[2](3)の「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書(譲渡人用)」を受け取った場合には、譲受対価支払いの際にみなし配当課税は行いませんので、配当に対する源泉徴収は不要です。   [4] 結論 Ⅹの場合には、概算相続税6億円に対して所有する金融資産が2億円ですので、相続税の納税資金が不足しています。 不足する納税資金を自己株買いで準備する場合に、自己株買いを行うタイミングが相続後であれば会社法及び税務上の特例が適用できます。 Ⅹのように財産に占める非上場株式の割合が高く、納税資金対策が必要な場合には、生前からA社の給与や配当の所得税を支払いながら納税資金を貯めることも考えられますが、相続後に自己株買いを行うことにより、税務上の特例を適用して所得税及び住民税を抑えることができます。いざというときのために、予め必要手続きを確認しておかれるとよいでしょう。 実際の具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 531(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2023/08/17

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第28回】「〔第1表の1〕事業承継に伴い株式を移転する場合の配当還元価額の適用の可否」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第28回】 「〔第1表の1〕事業承継に伴い株式を移転する場合の 配当還元価額の適用の可否」   税理士 柴田 健次   Q A社の代表取締役である甲は、現在65歳であり、5年後に代表権の移譲を検討しています。後継者は親族外の役員でA社の取締役である乙又は丙のいずれかに代表権を移譲する予定です。甲は、乙に60株、丙に30株のA社株式をそれぞれ額面(1株50,000円)で売却を行いました。 発行済株式総数は200株であり、1株につき1議決権を有しているものとします。 A社の資本金は10,000,000円であり、全て甲が出資したものとなります。 乙は甲及び丙の同族関係者には該当しません。 甲が乙及び丙にA社株式を譲渡したことに対して、甲、乙及び丙の課税関係はどのようになりますか。 なお、甲は、乙及び丙に株式を譲渡した後も代表権を有しており、譲渡後においても甲は、引き続き会社の意思決定を行っています。 A社株式の1株当たりの類似業種比準価額と純資産価額等は次の通りです。 なお、A社の会社の規模区分は大会社に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。 A ■甲の課税関係 乙及び丙への株式の譲渡については、譲渡対価を基に譲渡所得の計算を行うことになります。1株当たりの譲渡損益は0円(50,000円-50,000円)であるため、課税関係は生じないことになります。 ■乙の課税関係 乙が著しく低い価額で株式を譲り受けた場合には、時価と対価との差額については贈与税課税の対象となりますが、この場合の時価は、乙にとっての時価となりますので、配当還元価額となります。乙は配当還元価額以上で株式を譲り受けていますので、贈与税の課税問題は生じることはありません。 ■丙の課税関係 乙と同様になります。  ◆  ◆  ◆ ① 個人から個人に対して譲渡した場合の売主の課税関係 個人から個人に対して資産を譲渡した場合には、法人への低額譲渡(所法59①)のようにみなし譲渡の適用はありませんので、現実に収受した対価の額を基に譲渡所得の計算を行うことになります。なお、時価の2分の1未満の金額で個人に対して資産を譲渡した場合には、譲渡損失はなかったものとみなされます。(所法59条②、所令169)。 本問の場合には、1株当たりの譲渡対価は50,000円、1株当たりの取得価額も50,000円(10,000,000円/200株)となり、譲渡損益は0円であるため、課税関係は生じないことになります。   ② 個人から個人に対して譲渡した場合の買主の課税関係 個人が著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、その財産の譲渡があった時に、譲渡を受けた者が、譲渡対価と譲渡があった時におけるその財産の時価との差額に相当する金額を譲渡した者から贈与により取得したものとみなされます(相法7)。 この場合における時価は、財産評価基本通達を基にその算定がなされます。これは、個人間の売買においては、所得税法59条1項の適用がなく、相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を定め、財産評価基本通達1項(2)(時価の意義)では、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(中略)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」とされているため、相続税法7条の時価は、原則として、財産評価基本通達に基づき算定されることになります。 したがって、財産評価基本通達8章1節(株式及び出資)に基づき、非上場株式の時価算定を行う必要がありますが、財産評価基本通達の定めにより評価をすることが著しく不適当と認められる場合には、財産評価基本通達6項(以下、「総則6項」という)の定めにより、国税庁長官の指示を受けて評価するものとされています。 本問の場合には、特例的評価方式である配当還元価額が時価として認められるか否かが問題になりますが、まず形式要件である株主判定を財産評価基本通達8章1節(株式及び出資)に基づき行い、次いで実質要件である総則6項の定めに該当しないかどうかを確認することになります。 配当還元価額の適否についてまとめると、下記の通りとなります。 【配当還元価額の適用フローチャート】   ③ 個人間売買が行われた場合における買主の株主判定(形式要件) 乙及び丙の株主判定は、取得後の議決権数に基づき、下記の通り行うことになります。 【同族株主がいる場合の株主判定の手順】 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。本問の場合には、取得後で株主判定を行うことになりますので、甲は同族株主に該当しますが、乙及び丙は同族株主には該当しません。 ▷同族関係者 法人税法施行令4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 ◆本問の場合における株主判定 筆頭株主グループの議決権割合は50%超となり、50%超の区分に該当することになります。乙及び丙は、取得後の議決権割合は、50%未満となりますので、特例的評価方式(配当還元価額)が適用される株主に該当することになります。 したがって、配当還元価額(25,000円)以上の対価で取得していれば、原則的には、贈与税の課税問題は生じないことになります。   ④ 総則6項の定め(実質要件) 総則6項を適用し、財産評価基本通達によらない評価を行う場合には、特別の事情が必要になります。財産評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなど、この評価方法によらないことが正当と是認されるような特別な事情がある場合には、他の合理的な方法により評価をすることが許されるものと解されています。 したがって、形式的には配当還元価額が適用できる場合においても、配当還元価額を適用することで、租税負担の公平を著しく害することが明らかである場合などの特別の事情がある場合には、総則6項により配当還元価額は否認されることになります。 東京地裁平成17年10月12日判決(TAINSコード:Z255-10156)は、配当還元価額を多少上回る評価額による譲渡がみなし贈与に該当するか否かが争われ、みなし贈与には当たらないとされた事件ですが、配当還元価額の趣旨を下記の通り、判示しています。 上記の配当還元価額の趣旨から、配当を受領することに限られる同族株主以外の株主であれば、配当還元価額は認められることになりますが、株式取得後において、事業経営に実効的な影響力を与え得る地位を得ている株主に該当していると認定されれば、同族株主以外の株主であったとしても、特別な事情があるとされ、配当還元価額は認められないことになります。 本問の場合には、株式取得後においてなお甲が実効的な支配を有し、乙又は丙は実効的な支配を有しているとは認められませんので、配当還元価額は認められることになります。   ☆実務上のポイント☆ 低額譲受に該当するかどうかの時価は、財産評価基本通達を基に計算することになりますが、配当還元価額の適用にあたっては、実効的に会社を支配している株主であるかどうかの着眼点も含めて検討する必要があります。 (了)

#No. 531(掲載号)
#柴田 健次
2023/08/17

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第89回】「りそな外国税額控除否認事件」~最判平成17年12月19日(民集59巻10号2964頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第89回】 「りそな外国税額控除否認事件」 ~最判平成17年12月19日(民集59巻10号2964頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 531(掲載号)
#菊田 雅裕
2023/08/17

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第22回】「住友銀行外税控除否認事件-受益者条項からみたケース別否認類型の検討-(地判平13.5.18、高判平14.6.14、最判平17.12.19)(その1)」~法人税法69条ほか~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第22回】 「住友銀行外税控除否認事件 -受益者条項からみたケース別否認類型の検討- (地判平13.5.18、高判平14.6.14、最判平17.12.19)(その1)」 ~法人税法69条ほか~   税理士 畠山 和夫     1 はじめに 外税控除余裕枠を利用することを目的とした海外取引について、課税庁から租税回避として否認された事件が昭和63年から平成6年の間に関西系の都市銀行三行(住友、大和、三和の各銀行)(※1)により行われた(以下「三行外税事件」という)。これらの事件は、外国の法人が投資資金移動のための資金貸借契約を行った際、借入法人の所在国がその利払いに対し源泉税を徴収するが、外税控除枠に余裕のある日本の金融機関を介在させてその徴収された源泉税を日本の税源から取り戻すスキームが考案され実行されたものである。このような租税回避的なスキームでは、日本の税源から支払われた外税控除の還付額が日本から海外に流出し、このスキームを仕組んだ外国のアレンジャー、外国の投資会社、日本の金融機関に分け取りされたもので、外国に流出したものは2度と日本の税源に還流することはない。 (※1) 三行はそれぞれ現在の三井住友銀行、りそな銀行、三菱UFJ銀行となっている(以下、略称として「S銀行」、「D銀行」、「W銀行」という)。 上記の三行外税事件に関する判例について、我が国の裁判では日本国内法の法人税法69条等の解釈論として、「課税減免規定の立法趣旨による限定解釈」又はその延長線上の「制度濫用法理」が採用された。 三行外税事件は国際的な租税回避事案でありながら、租税条約や外国の法令違反が問題となり得るにもかかわらず、その裁判所の判断は、納税者、課税庁が行った主張・立証に基づき、我が国の租税法規(法人税法69条等)の解釈に絞って行われた。確かに訴訟手続き上、弁論主義の制約として裁判所は当事者の主張しない事実を判決の資料として採用することができないし(民事訴訟法246条、247条)、また審級上の制約として上告審は法律審として事実に関する審理を行うことができない(民事訴訟法321条)。本件S銀行外税控除否認事件(以下「S銀二事件」という)に関しては、そのような弁論主義や審級上の制約のある判例に対する評価としてではなく、外税控除余裕枠利用スキーム自体の理論的な否認類型を検討するものである。ついては、本稿ではその租税回避のスキームのケースを3つに分けて、できる限り法令の解釈論よりも事実認定を重視し、我が国内法のみならず国際法規(条約や源泉地国法令)も含めて、ケースごとに最適と思われる否認の論理構成を検討したい。   2 日本の外税控除余裕枠肩代わりスキーム 【一般スキーム図(三行外税事件を一般化した想定図)】 三行外税事件に共通するのは、上記❶本来の取引(投資循環)と❷外形の取引(金融循環)の2本の資金の流れがあることである。❶の資金の流れは、本来の投資資金の調達と運用の流れであり、❷の資金の流れは、P⇒Cの資金貸付取引の利息にかかる源泉税負担をB銀行に肩代わりさせるために作り出したものである。PC間で行われる❶❷の往復資金移動は、第一にC源泉地国での源泉税減免申請のため、第二にB居住地国での外税控除適用のため、Cの支払利子の受益者(≠受領者)がPではなくBであるという外観を作出する必要があったために行われたものである。すなわち、資金がX⇒P⇒B⇒C⇒Yに流れたという外観を作らなければならないために、PC間で行われる❶❷の往復資金移動は、貸借取引ではなく為替取引による資金移動となるように為替スワップ契約をPC間で締結し、❶❷の往復資金移動を簿外処理してしまうことになる。なお、本件S銀二事件においては、❷外形の取引(金融循環)がBC間の貸付取引ではなく、PB間の手形債権又は貸付債権の譲渡として行われているが、資金がX⇒P⇒B⇒C⇒Yに流れたという外観が作出された点は同様である。   3 S銀二事件の事実及び背景 (1) S銀二事件の事実の概要 ① 案件Ⅰ:P事件(メキシコ国源泉税事件) アメリカを納税地とするP社は、メキシコに設立した子会社であるS社を通じて、メキシコに所在するメキシコ最大のクッキーメーカーE社の株式70%を買収する際、この資金として平成2年10月にUS$XXXをS社に融資した。S社は、金利を8.16%とする同額の約束手形をP社に振り出し、その返済に充てた。この際、P社が受け取る貸付金利息に対して、メキシコ国の税制上、源泉税35%(限界税率)が課されることとなっていたが、外国銀行等が融資した場合の貸付利息に対しては源泉税が軽減され15%となる。そこで、P社はS銀行ニューヨーク支店に対して本件手形譲渡契約を申し出た。 ② 案件Ⅱ:R事件(オーストラリア国源泉税事件) H社(スイスのセメントメーカー)は、平成2年10月、Q社(オーストラリアのセメントメーカー)を買収するに当たり、オランダにおいてR社を、オーストラリアにおいてK社をそれぞれ設立したうえ、Q社の買収資金として、R社を経由してK社にAU$XXXを送金して支払った。その際、H社からR社に対しては、全額を貸付金とし、R社からK社には、そのうちのAU$XXXを貸付金とした。この時R社がK社から受け取る貸付金利息に対してオーストラリア国の源泉税10%が課されるが、H社は、その源泉税を外税控除を利用することのできる外国銀行を利用して回収しようと意図して、日本で外税控除枠に余裕のあるS銀行ロンドン支店に、R社がK社に対して有する貸付金債権のうちAU$XXXを譲渡する旨を申し出た。 (2) S銀二事件共通の取引条件ポイント(記号は前掲の【一般スキーム図】による) ① 預担取引 金融循環として、BからCへの融資の見返りとしてPはCから受け取った資金(元はといえばBの融資金)をBに担保定期預金として預ける。すなわち、Bは融資と預金を両建てするため資金調達は不要となり、貸付金/預金の振替仕訳伝票処理のみ行う。したがって、Bにとって与信リスクのないペーパー取引となる。 ② 両建利払 金融循環として、BはCから貸付利息を受け取り、同時にPに対し預金利息を支払う。両者の利率差額又は別途受け取る取引手数料がBの収入となるが、この収入は受取利息から天引きされるC国源泉税を賄うことはできないので、Bにとって逆鞘(損失)取引となる。 ③ 解除条件 上記の逆鞘(損失)は、後日Bが確定申告で外税控除余裕枠を使って日本の国税から税額控除により回収することが予定されている。しかし、もしBの外税控除が日本の課税庁から否認された場合は、本件金融循環取引は契約で中途解約可能な解除条件が付されている。したがって、Bにとっての課税当局からの否認リスクは軽減される。   4 主な課税減免規定の適用否認事由に関する争点整理 (1) 否認事由の項目例示 (2) 主な否認事由の争点整理 ① 1 私法上の仮装行為 (ⅰ) 意義 民法93条(心裡留保)、民法94条(虚偽表示)による私法上及び税法上の無効な行為のこと。 (ⅱ) 裁判所の判断 三行外税事件とも課税庁は、原告銀行の租税回避行為を「虚偽表示」として更正処分を行い、審査請求又は裁判で否認理由として主張したが、いずれも裁決及び裁判で課税庁の「虚偽表示」の主張は採用されなかった。 ② 2 私法上の法律構成による否認 (ⅰ) 意義(中里実『タックスシェルタ-』有斐閣(2002)224頁を筆者要約) (ⅱ) 裁判所の判断 三行外税事件とも課税庁は、原告銀行の租税回避行為を「私法上の法律構成による否認」を主位的主張として主張したが、いずれも裁判で採用されなかった。 ③ 7 狭義の課税減免規定の限定解釈 (ⅰ) 意義(金子宏『租税法(第13版)』弘文堂(2008)113~114頁より筆者要約) (ⅱ) 課税減免規定の限定解釈を適用するための4要素 (ⅲ) 大阪地方裁判所の判決(課税庁敗訴、筆者要約) (ⅳ) 大阪高等裁判所の判決(課税庁逆転勝訴、筆者要約) a.課税減免規定の限定解釈の許容性 b.法人税法69条の「納付することとなる場合」の限定解釈 (ⅴ) 最高裁判所の判断(課税庁勝訴確定) 最高裁上告不受理となったため大阪高裁の判決が確定した。 本件S銀行の上告不受理決定は、D銀行上告認容判決と同時に行われた。 これは「上告認容+不受理決定」のケースと思われる。すなわち、複数の上告事案について高裁の判断が分かれている場合、高裁の判決を変更する方を受理して(D銀行高裁判決は納税者勝訴)、高裁の判決を維持する方(S銀行高裁判決は課税庁勝訴)は上告不受理とすることが多い。 ④ 8 制度濫用理論:D・W銀行事件の最高裁判決(破棄自判) (ⅰ) 最高裁判所の判旨(筆者要約) a.制度の趣旨・目的 b.制度の濫用 (ⅱ) 制度の濫用論の位置付け D銀行事件及びW銀行事件の最高裁判決は、S銀行事件の高裁判決で採用された「課税減免規定の限定解釈」の理論の延長線上にあると言われるものの、従来の租税法規の解釈論である「文理解釈」及び「目的論的解釈」には該当しない新たな解釈法理として「制度の濫用」を理由とする否認を行った。このような「制度の濫用論」についての先行事例はないことから本判決の否認法理の理論的根拠は明らかにされていない。 (3) 7 狭義及び8 広義(制度濫用理論)の課税減免規定限定解釈に関する賛成反対意見 ① 外税控除制度の立法根拠 (ⅰ) 【恩恵説(限定解釈賛成論)】課税減免規定限定解釈に関する賛成意見 外税控除は、納税者に恩恵的に与えられる。S銀行事件控訴審、D・W銀行事件上告審の判決の立場。 (ⅱ) 【制度的保障説(限定解釈反対論)】課税減免規定限定解釈に関する反対意見 外税控除は、条約順守・平等主義により憲法上保障される。 ② 【恩恵説(限定解釈賛成論)】の論拠 (ⅰ) 中里実『タックスシェルター』有斐閣(2002)230~231頁(筆者要約) (ⅱ) 今村隆『租税回避と濫用法理』大蔵財務協会(2015)129頁(筆者要約) ③ 【制度的保障説(限定解釈反対論)】の論拠 (ⅰ) 水野忠恒『租税法 第3版』有斐閣(2007)534、535頁(筆者要約) (ⅱ) 村井正『国際金融革命と法(第3巻)』関西大学法学研究所(2005)119頁(筆者要約) ④ 本件への当てはめ 【恩恵説】は、外税控除制度を「制度の趣旨目的に基づく国家よりの恩恵的制度」であることを前提としているが、その前提が覆ればその論拠を失うことになる。 この【恩恵説】に対しては、【制度的保障説】という強力な反対説があり、またその否認法理の理論的根拠は判例において明らかにされていないため適用基準が不明確なこともあり、【恩恵説】を今後とも維持することは困難と思われる(そのために、法人税法69条、同施行令142条の2等が改正されたのではないか)。 (4) まとめ 以上、主な課税減免規定の適用否認に関し我が国の租税法規の解釈に絞った租税回避否認事由についての争点1、2、7、8の整理を行ったが、次いで国際法令の解釈による否認事由3について検討する。 ① 国際的租税回避を否認する法的根拠として租税条約の定めの位置付け(川端康之「租税条約上の租税回避否認」税大ジャーナル第15号(2010)2頁より筆者要約) ② 本件への当てはめ S銀二事件についても租税回避の否認に際して租税条約との関係が問題となり得ると思われるので、次回、本件事案を3つのケースに分けて、ケースごとに最適と思われる否認の理論構成を行うことにする。 ((その2)へ続く)

#No. 531(掲載号)
#畠山 和夫
2023/08/17

リース会計基準(案)を学ぶ 【第3回】「リースの識別」

リース会計基準(案)を学ぶ 【第3回】 「リースの識別」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、リースの識別について解説する。 リース会計基準(案)における「リースの識別」は、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)では置かれていなかった規定である(リース適用指針(案)BC144項)。 「リースの識別」の規定にしたがって、契約がリースを含むか否かを判断することになるので、当該規定は、リースに関する会計処理を行うにあたって重要なプロセスであると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 契約の締結時におけるリースの識別 リース会計基準(案)では、「リース」を次のように定義している(リース会計基準(案)5項)。 このように、「リース」とは、「契約又は契約の一部分」とされており、リースの識別の判断に際しては、契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断するとされている(リース会計基準(案)23項)。 リースの識別に関する規定の概要は次のとおりである(リース会計基準(案)23項~28項、リース適用指針(案)5項~14項)。   Ⅲ リースの識別の判断 契約がリースを含むか否かを判断するにあたり、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むとされている(リース会計基準(案)24項)。 つまり、契約は、①資産が特定され、かつ、②特定された資産の使用を支配する権利を移転する場合にリースを含むと判断される(リース会計基準(案)24項、リース適用指針(案)5項)。 このため、リースの識別の判断に際しては、次の2つを理解することがポイントになると考えられる。 1 資産が特定されているかどうかの判断 資産は、通常は契約に明記されることにより特定される(リース適用指針(案)6項)。 ただし、資産が契約に明記されている場合であっても、次の(1)及び(2)のいずれも満たすときには、サプライヤーが当該資産を代替する実質的な権利を有しており、顧客は特定された資産の使用を支配する権利を有していないとされている(リース適用指針(案)6項)。 リースの識別において、「借手」及び「貸手」の用語を使用せずに「顧客」及び「サプライヤー」という用語を使用しているのは、リースの識別の判断の段階は契約がリースを含むか否かを判断する段階であり、契約がリースを含まない場合があるためである(リース適用指針(案)BC8項)。 「顧客」及び「サプライヤー」は、リースを含む場合には、それぞれ「借手」及び「貸手」に該当することになる(リース適用指針(案)BC8項)。 2 資産の使用を支配する権利が移転しているかどうかの判断 顧客が、特定された資産の使用期間全体を通じて、①資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し(リース適用指針(案)5項(1))、かつ、②資産の使用を指図する権利を有する場合(リース適用指針(案)5項(2))、資産の使用を支配する権利が移転する(「[設例1]リースの識別に関するフローチャート」の(2))。 リース適用指針(案)では、特定された資産の使用期間(リース適用指針(案)4項(1))全体を通じて、次の①及び②のいずれも満たす場合、当該契約の一方の当事者(サプライヤー)から当該契約の他方の当事者(顧客)に、当該資産の使用を支配する権利が移転していると規定している(リース適用指針(案)5項、BC8項)。 3 使用を指図する権利 「使用を指図する権利」に関して、顧客は、次の(1)又は(2)のいずれかの場合にのみ、使用期間全体を通じて特定された資産の使用を指図する権利を有している(リース適用指針(案)8項)。 4 その他の留意事項 「リースの識別」の規定の適用により、これまで「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)により会計処理されていなかった契約にリースが含まれると判断される場合があると考えられている(リース適用指針(案)BC144項)。 リース会計基準(案)等の開発に際して、次の契約についても審議されたが、いずれの契約においてもサービスの要素を区分した後に、リースの定義を満たす部分が含まれる場合があるとし、当該部分についてリースの会計処理を行うことについて記載されている(リース会計基準(案)BC26項)。 「設例」では、「[設例3]小売区画」、「[設例5]ネットワーク・サービス」の例などが示されている。また、「Ⅱ.借手のリース期間」の設例であるが、普通借地契約及び普通借家契約に関する例も示されている。 前述のとおり、リースの識別の判断に際しては、多くの要件を検討する必要がある。リース適用指針(案)では、「[設例1]リースの識別に関するフローチャート」を設けており、リースの識別の判断に資するように工夫されている。リース会計基準(案)を実務に適用する際には、当該フローチャートを利用することが便利であると考えられる。   (了)

#No. 531(掲載号)
#阿部 光成
2023/08/17

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2023年7月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年7月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年7月1日から7月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会のホームページに、次のものが掲載されている。 〇 「税制適格ストック・オプションに係る会計上の取扱いについて照会を受けている論点に関する解説」(内容:ストック・オプションに関連する税務上の取扱いの改正を踏まえ、ストック・オプションに係る会計上の取扱いに関する照会についての解説)   Ⅲ 企業内容等開示関係 金融庁は、次のものを公表し、意見募集を行っていた。 ① 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)(内容:上場承認前届出書の記載事項に関する改正案。意見募集期間は2023年7月31日まで) ② 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)(内容:有価証券報告書等における「重要な契約」の開示に関する改正案。意見募集期間は2023年8月10日まで)   Ⅳ 内部統制関係 内部統制関係として、次のものが公布されている。 〇 「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(2023(令和5)年6月30日、内閣府令第57号)(内容:企業会計審議会の意見書を受けて所要の改正を行うもの)   Ⅴ 社外取締役関係 経済産業省は、「社外取締役向け研修・トレーニングの活用の8つのポイント」及び 「社外取締役向けケーススタディ集-想定される場面と対応-」を公表している。 これは、社外取締役の質の向上に向けて、社外取締役向けの研修やトレーニングの活用の後押しを図るためのものである。   Ⅵ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「「監査事務所検査結果事例集(令和5事務年度版)」の公表について」(公認会計士・監査審査会による監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたもの) (了)

#No. 531(掲載号)
#阿部 光成
2023/08/17

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第41回】「トランスジェンダーのトイレ使用に関する最高裁判決(令5.7.11)の概要とポイント」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第41回】 「トランスジェンダーのトイレ使用に関する最高裁判決(令5.7.11)の 概要とポイント」   弁護士 柳田 忍   【Question】 今年の7月にトランスジェンダーのトイレ使用に関する最高裁判所の判決が出たと聞きましたが、概要とポイントを教えてください。 【Answer】 最高裁判決(令5.7.11)は、性的少数者が自認する性別に即して社会生活を送ることは重要な利益であるとの考えのもと、単なる抽象的・感覚的な性的不安や羞恥心を根拠にこれを制約することは妥当ではないと示したものであるといえます。本件最高裁判決は、性的少数者の法的な利益の位置づけ等についての理解を深め、ひいては性的少数者に対するハラスメントを予防するうえで、非常に有益なものであると考えます。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 はじめに 2023年7月11日、最高裁判所が、トランスジェンダーである経済産業省職員に対する女性トイレの使用制限を違法とする判断を示した(以下「本件最高裁判決」という)。 2023年6月23日に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)が施行され、翌月24日にアウティング(本人の同意なく性的指向などを第三者に公表すること)により精神疾患を発症したとして労災認定がなされたケースが公表されるなど、近時、性的少数者の権利保護の促進を示すような出来事が立て続けに起きているが、その一方で、性的少数者に対するハラスメントは後を絶たない。 性的少数者に対するハラスメントの背景には、性的少数者の法的な利益の位置づけ等についての理解が不足していることがあると思われるところ、本件最高裁判決は、この点に関して理解を深めるのに有益であることから、以下、本件最高裁判決について概観する。   2 本件最高裁判決の概要 本件最高裁判決において最高裁判所が認定した事案の概要及び判決の概要は以下のとおりである。 (1) 事案の概要 本事案の背景として、以下の事実が認められる。 関連する時系列は以下のとおりである。 (2) 判決の概要   3 本件最高裁判決の分析 本件において問題とされたのは、本件処遇においてなされた、Xに女性トイレの使用を許可することによるXの利益と女性トイレの利用者の不利益の調整が妥当であるか否かである。 (1) Xの利益 本件最高裁判決の法廷意見(※1)中においては明言されていないが、裁判官の補足意見(※2)において、「自認する性別に即して社会生活を送ることは、誰にとっても重要な利益」(長嶺裁判官補足意見)、「個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることは重要な法益」、「人として生きていく上で不可欠ともいうべき重要な法益」(渡邉裁判官及び林裁判官の補足意見)などと示されていることから、本件最高裁判決においてもこれを法的に重要な利益であることを前提としているものと思われる。 (※1) 多数意見であり、判決の結論となる意見のこと。なお、本件最高裁判決の法廷意見は裁判官全員一致の意見である。 (※2) 法廷意見に賛成する立場から、法廷意見に補足・追加をするもの。 (2) 女性トイレの利用者の不利益 女性トイレの利用者の不利益としては、主に、①女性トイレの利用者に対する性暴力や盗撮等のおそれや、②男性器等を目撃してしまったり女性器等を見られてしまったりするのではないかという性的な不安や羞恥心等が考えられる。 しかし、Xが医師から性衝動に基づく性暴力の可能性が低いとの診断を受けていたこと、当該女性トイレに個室が完備されていたことなどに照らすと、本件においては、①性暴力や盗撮等の被害が発生する可能性は低いと思われる(Xが本件執務階とその上下の階以外の女性トイレの使用を認められていたことに照らすと、経済産業省も①の可能性は低いと考えていたと思われる)。 また、②性的な不安や羞恥心等については、主に女性トイレの利用者が女性トイレを利用する性的少数者の生物学的な性別が男性であることを知っている場合に認められる不利益であって、本件においても、Xが戸籍上は男性であることを知っている職員(Xと同じ部署の職員)の性的な違和感・羞恥心が配慮の対象となっているようである。しかし、Xが本件執務階の女性トイレを使用することについて、担当職員から見て数名の女性職員が違和感を抱いているように見えたにとどまり、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれないとのことであって、単なる担当職員の推測以上のものは見受けられない。 以上を踏まえると、Xの利益が「人として生きていく上で不可欠ともいうべき重要な法益」であるとすると、「Xの生物学的性別は男性なのだから、女性職員はXが女性用トイレを使用することを嫌がるであろう。」といった単なる推測によって制約を受けるべきでないことは当然であるため、本件最高裁判決の結論は妥当であると言える。   4 まとめ 性的少数者の要望(本件のように、生物学的性別と異なる性別用トイレ等の使用の要望や、生物学的性別と異なる性別の服装で勤務したいといった要望等)が他の労働者や顧客・取引先等の感覚や価値観等に抵触するといった事態は少なからず見られるものである。そのような場合、使用者を含む性的少数者以外の者においては、「そのような要望は『異常』であり、周りが不快に思うのは当然であるから、『異常』な者が制約を受けるのは当然である」といった認識を持っていることが多く、このような認識がハラスメントに繋がっているようにも思われる。 かかる状況において、本件最高裁判決は、「自認する性別に即して社会生活を送ることは、誰にとっても重要な利益」であって、性的少数者が自認する性別に即して社会生活を送りたいと望むことは何ら「異常」なことではないと示したものであり、性的少数者の法的利益に関する理解を深め、もって性的少数者に対するハラスメント予防に資する重要な判決であると考える。 (了)

#No. 531(掲載号)
#柳田 忍
2023/08/17

《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の評価明細書の記載方法に係る通達改正案を公表~計算結果が0円となる場合の端数処理に注意~

《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の評価明細書の 記載方法に係る通達改正案を公表 ~計算結果が0円となる場合の端数処理に注意~   税理士 柴田 健次   令和5年8月1日、「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」の一部改正(案)が公表され、意見公募(パブリックコメント)が開始されました。受付締切は、8月31日までとなります。   1 改正案の概要 取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等について、表示単位未満の金額に係る端数処理の取扱いが改正されます。例えば、類似業種比準価額の計算における1株当たりの資本金等の額が0円となる場合には、現状においては類似業種比準価額が0円となり、株式価額が適切に反映されないため、端数処理の見直しが行われることになりました。   2 改正の時期 令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用されます。   3 改正前の端数処理で計算した場合 例えば、下記の前提事項及び第4表、第5表の記載がある場合において、乙の相続により丙が株式を相続した場合には、第3表において原則的評価方式による価額が0円、配当還元方式による価額も0円となり、株式の価額が0円となるため、丙が取得した株式評価は0円となります。 ◆前提事項 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第3表(一部抜粋)〕   4 改正案の内容 (1) 計算結果により0円となった場合に分数又は課税時期における発行済株式数の桁数で端数を処理 第5表における1株当たりの純資産価額や1株当たりの純資産価額の80%相当額の算定、第3表における中会社又は小会社の1株当たりの価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の課税時期における発行済株式数(第1表の1①)の桁数に1を加えた数に相当する数の位以下の端数を切り捨てたものを記載します。 第5表の⑪欄、⑫欄の金額及び第3表の⑥欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 課税時期の発行済株式数は35,000,000株であるため、9桁(8桁+1桁)以下の端数を切り捨て (※2) 分数表示 28,150,000/35,000,000 × 8/10 = 225,200,000/350,000,000 小数点表示 0.80428571 × 8/10 = 0.64342856 (※3) 分数表示 426/1,750(第4表の㉖下記(2)参照)× 0.5 + 225,200,000/350,000,000 × 0.5 = 426/3,500 + 225,200,000/700,000,000 = 310,400,000/700,000,000 小数点表示 0.24342856(第4表の㉖下記(2)参照)× 0.5 + 0.64342856 × 0.5 = 0.44342856 (2) 計算結果により0円となった場合に分数又は直前期末における発行済株式数の桁数で端数を処理 第4表における類似業種比準価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や1株当たりの比準価額の算定、第3表における配当還元価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や配当還元価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の直前期末における発行済株式数(第4表の②)の桁数に1を加えた数に相当する数の位以下の端数を切り捨てたものを記載します。 第4表の④欄、第4表の㉖欄の金額、第3表の⑬欄の金額及び第3表の⑲欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 直前期末の発行済株式数は35,000,000株であるため、9桁(8桁+1桁)以下の端数を切り捨て (※2) 分数表示 14.2 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 426,000,000/1,750,000,000 = 426/1,750 小数点表示 14.2 × 0.85714285/50 = 0.24342856 (※3) 分数表示 2.5/0.1 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 750,000,000/1,750,000,000 = 75/175 小数点表示 2.5/0.1 × 0.85714285/50 = 0.42857142 上記により原則的評価方式による価額は310,400,000/700,000,000(0.44342856)円(第3表の⑥)となり、配当還元価額方式による価額は75/175(0.42857142)円となり、丙が取得した株式の評価金額は、2,142,857円(5,000,000株 × 75/175(0.42857142)円)となります。   5 別表ごとの改正案の端数処理 今回の改正案で端数処理に影響がある部分を評価明細書ごとに表示すると、下記の通りとなります。課税時期における発行済株式数と直前期末における発行済株式数で、使い分けがされていますので、課税時期と直前期末において発行済株式数が異なる時には注意が必要となります。 〔第3表〕 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第6表〕 〔第7表〕 〔第8表〕 (了)

#柴田 健次
2023/08/14

《速報解説》 「インボイス制度において事業者が注意すべき事例集」を国税庁が公表~登録日前の登録とりやめに関し取下手続等を明示~

《速報解説》 「インボイス制度において事業者が注意すべき事例集」を国税庁が公表 ~登録日前の登録とりやめに関し取下手続等を明示~   税理士 石川 幸恵   国税庁は、令和5年7月31日、ホームページにて「インボイス制度において事業者が注意すべき事例集」を公表した。 国税庁は、インボイスコールセンターに寄せられたインボイス制度に関する質問などのうち、問合せの多い事項について「お問合せの多いご質問」として集約し、随時更新している。この事例集は、その「お問合せの多いご質問」の参考として掲載されている。   ◆注目すべき点は登録手続等の期限 事例集の内容は主に登録手続、取消手続、登録の取下げ、2割特例関係である。経過措置により通常の届出と期限が異なるもの、郵送の場合の通信日付印の取扱い、日数の数え方など、効力発生時期に影響のある点について情報提供されている。それぞれの注意すべき点をまとめる。 (1) 登録手続 免税事業者が登録を受ける場合の経過措置(28年改正法附則44④)のある令和5年10月1日~令和11年9月30日までの日の属する課税期間と経過措置終了後の手続きの違いを次のように比較している。 ※国税庁「インボイス制度において事業者が注意すべき事例集」2、4頁を基に筆者作成 15日の数え方については下記の取消しのケースも含めて詳しく図解されているので、事例集を参照されたい。 (2) 取消手続 取消手続については「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下「取消届出書」)の提出期限について注意喚起を行っている。翌課税期間の初日から登録を取り消そうとするときは、「取消届出書」を翌課税期間の初日から起算して15日前の日までに提出する必要があり、同日の翌日以後の提出の場合、翌々課税期間の初日からの取消しとなる。 郵便等による場合は通信日付印により表示された日に提出されたものとみなされる。期限が土日祝日の場合、その翌日に期限が延長されないことは特に注意が必要である。 登録日から2年経過日の属する課税期間の末日までは納税義務があることも気をつけられたい(令和5年10月1日を含む課税期間に登録した事業者を除く)。 (3) 取下げ 「取下げ」の手続きについては、インボイスQ&Aで触れられておらず、今回の資料で初めて明示された。 インボイス制度開始前に適格請求書発行事業者の登録を取り下げたい場合の手続きは取消届出書ではなく「取下書」を制度開始の前日(9月30日(土))までに提出する。ただし、「取下書」を郵送で提出する場合は9月29日(金)必着であることが明記されており、登録取消届出書の提出と異なるので注意されたい。 インボイス制度開始後、登録申請書を提出してから登録日までに登録を取り下げたい場合も同様に「取下書」対応となる。 なお、登録日以降の取下げは不可である。 (4) 2割特例 2割特例は、適格請求書発行事業者の登録により課税事業者となった免税事業者の負担軽減を図るための経過措置であるが、インボイス制度開始日の属する課税期間において課税事業者であったとしても、その後の課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下の課税期間については、原則として2割特例の適用を受けることができること、申告後に2割特例の適用を受けられたことに気付いても、更正の請求ができないことが明記されている。   (了) ↓お勧め連載記事↓

#石川 幸恵
2023/08/08
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