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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第139回】株式会社オークファン「特別調査委員会調査報告書(2023年1月13日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第139回】 株式会社オークファン 「特別調査委員会調査報告書(2023年1月13日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社オークファン特別調査委員会の概要】   【株式会社オークファンの概要】 株式会社オークファン(以下「オークファン」と略称する)は、2007(平成19)年6月、株式会社デファクトスタンダードのメディア事業を新設分割して設立。在庫価値ソリューション事業、商品流通プラットフォーム事業などを主たる事業とし、国内連結子会社6社を有している。売上6,256百万円、経常利益312百万円、資本金973百万円、従業員数165名(2022年9月期連結実績)。本店所在地は東京都品川区。東京証券取引所グロース市場上場。会計監査人は監査法人アヴァンティア。 架空取引が発見された株式会社SynaBiz(以下「SynaBiz」と略称する)は、2015(平成27)年7月設立。オークファンが100%出資する連結子会社で、商品流通プラットフォーム事業として「NETSEA」と称するマーケットプレイスを運用している。売上高2,785百万円、経常損失372百万円、資本金25百万円(2022年9月期実績)。代表者は、オークファン代表取締役社長の武永修一氏(以下「武永社長」と略称する)が兼務し、本店所在地はオークファンと同一の住所地である。   【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 オークファンは、外部からの指摘を契機として、SynaBizを当事者とする過年度の商品販売取引において不正又は不適切なものがなかったかどうかにつき、社内調査を進めていたところ、経済的実態を欠く架空の商品取引の存在(以下「本件架空取引」という)を複数確認したことから、2022年10月21日、それらの取引に係る事実関係の調査、類似事象の有無の確認及びその会計処理の適否の検証等を行う必要があると判断し、特別調査委員会を設置することを決定し、その旨を公表した。 調査報告書によれば、本件架空取引を概括すると、インターネットオークション運営会社が運営するオークションにて落札した商品を当該運営会社に買い戻させる取引(売上のかさ増しを目的とした経済実態のない架空取引)である。 2 特別調査委員会が架空取引と認定した取引 特別調査委員会は、調査の結果、オークファングループにおいては、売上目標(予算)達成に向けた強いプレッシャーの中で、見かけ上の売上高を追い求めて(売上至上主義)、次のような不正又は著しく不適切な取引ないし会計処理を行っていたと報告している。 (1) 本件架空取引 特別調査委員会は、SynaBizにおいて、遅くとも2019年11月から2020年1月にかけて、ブランド品等の古物を対象としたインターネットオークションの運営会社であるA社を商流の起点及び終点とする中古商品の卸販売取引において、売上の水増しを目的とした、経済実態を欠く架空取引を繰り返し実行していたことを確認した。 本件架空取引においては、SynaBiz担当者が、A社担当者と相通じ、A社オークションに出品される商品をSynaBizが他の会社に協力を求めて一旦同社名義にて落札させ(A社担当者が落札業務を代行)、これをSynaBizにおいて仕入れた上、A社が買い戻すという一連の取引であり、取引対象となる商品は何ら物理的移動を伴わずA社の倉庫に保管されたままで、関係会社間で代金決済のみが行われていた。 (2) 蓄電池案件 特別調査委員会は、SynaBizにおいて、2019年8月から2021年6月までの間、E社から蓄電池を仕入れ、F社等に販売する取引を行ったが、同取引に係る蓄電池は全く存在しておらず、F社の株主が代表を務める会社の資金繰りのために実施された架空の循環取引であることが判明したものであり、本件は、E社及びF社の経営者が同一人物であり、その間にSynaBizが入ることの不自然さが存在していたものの、社内調査の結果、担当者等において同取引が循環取引であることを認識していた事実は認められないとされたものであったことを確認した。 その上で、この取引は、上記(1)と同様に、2019年9月期の売上予算の不足分を埋めるためのリカバリ策の一環として立案され、実行されていたものであると評価した。 (3) 太陽光案件 特別調査委員会は、SynaBizにおいて、2019年9月から2021年5月まで、太陽光発電所で利用される太陽光パネルや架台等といった資材について、メーカー又は商社から仕入れ、発電所又は商社に販売する取引を実施したが、その一部につき、現実の物流に関与せず、形式的に商流に介在しただけの取引があったことを確認し、上記(1)及び(2)と同様、2019年9月期の売上予算の不足分を埋めるためのリカバリ策の一環として立案され、実行・継続されていたものであると評価している。 (4) B社から仕入れて他社に転売する取引 特別調査委員会は、SynaBizのRevalue事業部(当時)において、2019年7月から9月にかけ、B社を仕入先とする中古PCの販売取引で、極めて低い粗利率(1%未満)による一連の取引を行っており、これらの取引を、売上の作出を目的としてSynaBizを資金決済に介在させたにすぎない取引であり、売上計上の処理としてグロス計上を肯定するに足りる実態を備えていたかどうか疑問があると評価している。 (5) 物流業務委託取引 特別調査委員会は、SynabizのEC事業部において、2019年7月、2020年9月から2021年1月までの間、取引関係にあった物流業者Q社の協力を得て、同社に支払う物流経費を本来の発生月に費用計上せず、同社をしてこれを翌月以降に請求させるという形で、物流費の先送りを行い、先送りの総額は合計1,225万円であったこと、物流経費の先送りは、事業年度の期末や月末が近づいてきた時点で、予算達成が困難と見込まれる場合に、予算の未達幅の縮小を目的として実行されていたものと認められると報告している。 (6) 広告売上の架空・水増し計上と広告宣伝費の先送り 特別調査委員会は、オークファンのソリューション事業部メディアグループにおいて、取引の実態がないにもかかわらず広告売上を架空に計上し、あるいは売上高を水増し計上するとともに、その埋め合わせとして、同一の取引先との間で、同額相当の反対取引(費用計上)が行われていたことを確認した。具体的には、同一の取引先について、バナー広告の掲載や会員向けメールマガジンでの広告掲載の名目で当該取引先に対する広告売上を計上する一方で、同社に対し、オークファンのサービスに関する記事や広告の掲載を架空又は水増し発注をして広告宣伝費を計上するという手口であったとしている。 一方、広告宣伝費の先送りとして、オークファンにおいて、S社を支払先とする広告宣伝費について、2022年3月という本来の発生月に費用計上せず、これを翌月以降に計上していた事案も確認している。 3 特別調査委員会が内部統制の見地から問題があると指摘した取引 特別調査委員会は、オークファングループにおいて、2019年8月頃から2022年7月までの間、自社で仕入れた商品を大阪府に拠点を置くD社に販売委託し、D社においてインターネットオークション等への出品や中古品取扱業者への代行販売を行うという事業についても調査を行い、その結果、取引の実在性を否定すべきような事実関係は確認されず、不正な会計処理も認められなかったものの、売上高(数値)の拡大を殊更に重視する一方、取扱商品のずさんな在庫管理、販売委託先に対するガバナンスの欠如など内部統制上の重大な不備をあえて長期間放置するといった状況がつぶさに見て取れたと評価している。 具体的には、大阪事業は、商品の仕入を除くその後のほぼ全てのプロセス(在庫の管理、販売、販売先への出荷、販売先からの代金回収等)をD社に依存しているにもかかわらず、仕入、在庫管理及び販売の各業務プロセスにおいてこれらの実在性を担保する統制が整備運用されておらず、架空取引その他の不正な会計処理を防ぐための内部統制としては著しく実効性を欠いていたと言わざるを得ないとしている。 その上で、架空取引その他の不正な会計処理を防ぐためには、仕入、在庫管理及び販売の各業務プロセスにおいてこれらの実在性を担保する内部統制手段を組み込んでおくことが不可欠であるにもかかわらず、オークファングループにおいては、仕入、在庫管理及び販売の各業務プロセスにおいて、その実在性を担保するための内部統制措置が適切に講じられていたとは言い難いばかりか、一部の業務プロセスについては内部統制評価の前提となる業務プロセス自体が十分に把握されていなかったと指摘した。 4 原因分析(調査報告書42ページ以下) 特別調査委員会による原因分析は、次のとおり、大きく4項目からなっている。 特別調査委員会が、原因の筆頭に挙げたオークファングループにおける「厳しい予実管理」とそれに伴い策定されてきた「リカバリ策」について、見ておきたい。 過去の成長率や市場の状況を考慮せずにトップダウンで指示された売上高の数値目標を受けて、法人向け卸売事業を所管する事業部門従業員は、数字ありきで示された予算達成のために毎期苦慮し、勢い手段を選ぶことなく結果を重視する姿勢が当たり前になっていた一方、予算達成の進捗管理としては、経営トップや各事業部門の責任者が出席する数値会議(同名称の会議自体は2021年9月をもって廃止)において、各事業部門の達成率が毎週発表されていたおり、売上目標の達成率が芳しくない部署の部門長は、経営トップから予算の達成のための具体的な施策、その実現可能性の程度の提示を厳しく求められていた。 こうした状況で、オークファングループにおいては、上長から指示された売上目標を達成することが何よりも重視され、手段にこだわらず、売上目標さえ達成できれば足りるという意識が蔓延(まんえん)していたことがうかがえ、会計処理上のルールとの適合性を含むリカバリ策の合理性について、数値会議などの経営幹部による会議体において問題とされるところがなければ、事業部門としても、何ら問題意識を持つことなく、十分な吟味・検討もせず、そのまま実行に移すという危うさが顕著に見て取れた。 特別調査委員会は、結論として、当時のオークファングループにおいては、売上目標の達成が優先される余り、リカバリ策の施策内容や新規ビジネスの内容に問題があったとしても、これを見直したり、中止したりする抑制機能が存在していなかったと言わざるを得ないと結んでいる。 5 再発防止策の提言(調査報告書46ページ以下) 特別調査委員会は、次のとおり、大きく5項目の再発防止策を提言している。 ここでは、特別調査委員会が提言する「適正な予算策定及び進捗管理」について、具体的に見ておきたい。 特別調査委員会は、予算の策定に関して、各事業部及び各子会社から報告を受ける案件の進捗状況、今後の事業の見通し等を基に、裏付けとなる数値資料も用いて、経営管理部において、ボトムアップにより積み上げられた数値を取りまとめるというプロセスを経る体制とすることが必要であると一般論を述べた上で、現在は、今後の成長の見込みも合理的に踏まえた実現可能な予算を策定するプロセスを経ていることから、今後、こうしたプロセスが形骸化することのないよう、各部門長が参加する会議体において、オークファングループの実力に即した合理的で実現可能な予算となっているかどうかについて、想定できる事態を複数念頭に置き、幅を持たせた予算を策定するなど、予算策定のプロセスの合理性を担保することが重要であると提言している。 さらに、進捗管理については、予算達成のための手段の内容そのものについて十分理解・共有し、その実現可能性やコンプライアンスないし会計上の問題の有無などを踏まえ、適正な進捗管理を行っていくことが不可欠であり、主として経営管理部においてその役割を十分に果たすことが求められるとしている。   【調査報告書の特徴】 オークファンの公式サイト及び有価証券報告書によれば、武永社長は、京都大学在学中に個人事業としてネットオークション事業をはじめ、2004年、26歳で、オークファンの前身である株式会社デファクトスタンダードを設立、2007年に設立したオークファンを6年足らずで東証マザーズに上場させた。若くてやり手の経営者であると評価できるだろう。 ところが、特別調査委員会の調査報告書には、若くてやり手の経営者である武永社長の名前はほとんど登場しない上に、武永社長に対するヒアリング内容についても、触れられていない。武永社長が、オークファングループ事業部門に対してどのように予算達成のプレッシャーを与えていたのか、繰り返されていた予算達成のための非合理的なリカバリ策をどのように考えていたのか、一切、言及されていないのである。また、常勤社外監査役である梶尚人氏(以下「梶監査役」と略称する)についても同様である。少なくとも、この両氏については、特別調査委員会は「ヒアリング対象者」に氏名を列記しているにもかかわらず、である。 特別調査委員会は、原因分析の筆頭に、「右肩上がりに設定された売上目標(予算)達成へのプレッシャー」を挙げており、その指摘自体は間違ったものではないと思料するが、「誰がプレッシャーをかけていたのか」「なぜ、プレッシャーをかけるのか」といった根本的な問題に踏み込んだ調査ができていないのではないかと考えさせられる調査報告書であると言わざるを得ない。 1 社外取締役・社外監査役・会計監査人に対するヒアリング 調査報告書に添付された「別紙1 ヒアリング対象者一覧」には、上述のとおり、武永社長と梶監査役の名前が記載されているが、それ以外の経営陣の名前は見当たらない。社外取締役2名、社外監査役2名及び会計監査人である監査法人アヴァンティア担当者について、少なくとも、ヒアリング対象者に含めるべきだったのではないかと思料するが、特別調査委員会がヒアリングの対象としていないことから、当然、本件架空取引について、彼らがどのような認識を持っていたのかについても、まったく言及がない(言及できないというべきか)。 特別調査委員会は、「結語」において、次のように述べている。 本来であれば、こうした提言は、ビジネス経験豊かな2人の社外取締役や、元検事である弁護士、元大手監査法人に所属していた公認会計士の社外監査役2人が、折に触れて、武永社長をはじめ経営執行陣に進言したり、アドバイスしたりすることが期待されていたはずである。なぜ、社外取締役・社外監査役は、こうした職責を果たせなかったのか。そもそも、社外取締役と社外監査役にヒアリングをしない理由は何か。特別調査委員会は、明らかにすべきだったのではないだろうか。 2 過年度決算の修正 オークファンは、2023年1月31日、「過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出及び過年度の決算短信等の訂正に関するお知らせ」をリリースして、過年度決算の修正内容を公表した。2019年9月期では売上高△99,944千円、営業利益△20,496千円となっており、2020年9月期では売上高△437,055千円、営業利益△41,356千円とそれぞれ減少する一方、2021年9月期では売上高40,173千円増加し、営業利益が△4,765千円となっている。 3 特別損失の計上 オークファンは、過年度決算の修正を公表したのと同じ2023年1月31日、「特別損失の計上見込みに関するお知らせ」をリリースして、特別調査委員会による調査費用及び過年度決算の訂正に要する費用が発生し、2023年9月期第1四半期の決算において、概算総額は189,453千円となる見込みであり、そのうち153,166千円を特別損失に計上する予定であることを公表した。 概算総額ではなく、153,166千円だけを計上する理由については触れられていない。 4 オークファンによる再発防止策 オークファンは、2023年3月8日、「再発防止策及び関係者の処分に関するお知らせ」をリリースして、取締役会で再発防止策について決議したことを公表した。 再発防止策の骨子は次のとおりで、特別調査委員会による提言をそのまま取り入れたものとなっている。 さらに、関係者の処分として、次のように公表している。 同時に、一連の事案に関与した従業員については、3名を降職・降格処分、2名を出勤停止処分、1名を譴責処分としたことも公表している。 (了)

#No. 511(掲載号)
#米澤 勝
2023/03/16

給与計算の質問箱 【第39回】「非居住者の給与計算」

給与計算の質問箱 【第39回】 「非居住者の給与計算」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社は4月1日に海外に支店を開設します。現在東京の本社に在籍している取締役A(45歳)と従業員B(30歳)に1年以上にわたり、その海外の支店で勤務してもらう予定です。4月以降の給与は、これまでと同様に東京の本社からそれぞれの銀行口座へ振り込む予定ですが、給与計算において注意点があればご教示ください。 A 1年以上にわたり海外の支店で勤務する予定であることから、日本国内に住所を有しない者と推定されるので、取締役Aと従業員Bは非居住者になる。非居住者に対する課税の範囲は国内源泉所得に限られる。給与の扱いは次のとおりとなる。 * * 解 説 * * 1 雇用保険料 扱いに変更はない。従業員Bの給与から雇用保険料を天引きする。   2 健康保険料、厚生年金保険料 扱いに変更はない。取締役A、従業員Bの給与から健康保険料、厚生年金保険料を天引きする。   3 介護保険料 扱いに変更がある。介護保険は日本国内に住所がある方のみ加入することから、介護保険第2号被保険者(40歳~64歳)の取締役A(45歳)については「介護保険適用除外等該当・非該当届」を日本年金機構に提出して介護保険から外れる。そのため、取締役Aの給料から介護保険料を天引きしない。   4 源泉所得税 下記のそれぞれの場合で扱いに変更がある。   5 住民税 扱いに変更はない。取締役A、従業員Bの給与から住民税を天引きする。ただし、来年1月1日時点では日本国内に住所が無いことから来年以降の住民税は発生しない。 (了)

#No. 511(掲載号)
#上前 剛
2023/03/16

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第39回】「事業用不動産の賃料はどのように求めるか」~相場がつかみにくい施設の場合~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第39回】 「事業用不動産の賃料はどのように求めるか」 ~相場がつかみにくい施設の場合~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 事業用不動産の賃料評価が難しい理由 本連載でも賃料の評価に関連する内容を取り上げたことがありますが、そこでは、マンションやオフィスビル、倉庫等をはじめ、周辺に類似する物件の賃貸事例があり、その地域での相場がひととおり把握できるということを暗黙の前提としていました。 しかし、なかには汎用性の低い建物施設で、それと類似する物件の賃貸事例を探すのが困難なものがあります。 例えば、ホテル等の宿泊施設、ゴルフ場等のレジャー施設、病院・有料老人ホーム等の医療・福祉施設、百貨店や多数の店舗により構成されるショッピングセンター等の商業施設がこれに該当します(※1)。 (※1) 「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」Ⅴ.1.(4)③アによります。 これらの施設は所有者が直営で事業を行っている場合もあれば、不動産の賃借人が事業経営を行っている場合もあります。後者の場合、その賃料を決めるにしても類似物件の賃貸事例がつかめなければ検討の指標そのものが存在しません。 不動産の鑑定評価においては、上記のようなケースにも対応すべく、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産のうち、その収益性が当該事業(賃貸用不動産にあっては賃借人による事業)の経営動向に強く影響を受けるものを特に「事業用不動産」として位置付け、その支払賃料等相当額を、売上高をベースに求める方法が試みられることがあります。しかし、適用に当たってのハードルが高いことも事実です。 今回は、理論的にはきわめて合理性が認められるものの、実務的には適用が難しいことの多い事業用不動産の賃料評価について解説していきます。   2 事業用不動産のイメージ 事業用不動産の一例は既に述べたとおりですが、これを一般の賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産と区分してイメージを表わしたものが〈資料1〉です。 〈資料1〉不動産の区分イメージ (出所) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)。 なお、工場や物流倉庫も、そこで事業が行われていることには相違ありませんが、鑑定評価の上では「一般企業用不動産」として位置付けられており、(少々紛らわしいのですが)ここにいう事業用不動産とは区分されている点に留意が必要です。 さらに、事業用不動産の特性として運営形態の多様性が認められ、(上記1で述べた内容と一部重複しますが)その所有者の直営による場合、外部に運営が委託される場合、当該事業用不動産が賃貸される場合等多様なケースがあり、このような運営形態の相違により純収益の把握の仕方等が異なる場合があることが、賃料評価の難しさに一層の拍車をかけている要因といえます。   3 事業用不動産の賃料を求めるに当たって 事業用不動産については、その利用方法において個別性が高く、賃貸借の市場が相対的に成熟していないため、賃貸借の事例をもとに適正な賃料を把握することが困難な場合が多いといえます。そのため、事業用不動産において、賃貸以外の事業の用に供する不動産及び賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産について不動産の総収益を求める場合は、売上高をベースに算定することとなります。 〈資料2〉は、数ある事業形態のうち、賃貸・運営委託方式(=不動産の賃借人が事業経営を行い、運営をマネジメント会社に委託する方式)を前提とした場合に、賃借人の売上高から推してどれだけの賃料の支払いが可能か(=負担可能賃料はどこまでか)を試算する流れを表わしたものです。 〈資料2〉事業用不動産の賃料を求める手法(考え方) このように、事業用不動産の場合、事務所ビルや共同住宅等の典型的な賃貸用不動産と比較して賃貸借の市場が相対的に成熟していないため、その収益性は当該不動産を利用して行われる事業の採算性をもとに把握する必要があります。 そのため、〈資料2〉の一連の流れの中には販売費・一般管理費だけでなく、経営者利益相当額、運営委託会社に対するマネジメントフィー、不動産以外の資産帰属利益等をはじめ、経営分析に関する様々な指標を反映することが必要となります。また、不動産関連経費控除前営業利益(GOP)を求めるためにも、通常の会計区分とは異なる金額の集計作業が必要となることも考えられます。 したがって、このような方法の適用が可能となるためには、鑑定評価の依頼者等から事業実績や事業計画等の提供を受けることが必須となりますが、実務的に難しい点は、(仮に提供を受けられた場合においても)当該資料のみに依拠するのではなく、当該事業の運営主体として通常想定される事業者の視点から、当該実績・計画等の持続性や実現性について十分に検討しなければならない(※2)とされているところにあります。 (※2) 「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」Ⅴ.1.(4)③イ(イ)によります。 また、事業の属性が同一の事業用不動産であっても、例えば、 により、事業の特性や事業収支の内容が大きく異なること(※3)にも留意しなければなりません。 (※3) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)の解説部分によります。   4 まとめ 今回は、鑑定実務のなかでもデータ収集やその適用が制約される評価手法について取り上げました。今回紹介した手法が適用できるための前提としては、賃貸以外の事業の用に供されている不動産について、売上高、売上原価、販売費・一般管理費等が把握でき、各種経営指標による統計データに基づく平均的な指標が入手可能となることがあげられます。 しかし、汎用性の低い建物施設に関しては賃貸事例の比較に基づく賃料評価が難しいこともあり、不動産鑑定士としては評価の精度を上げ、説得力を高めるためにも事業用不動産の賃料評価手法の向上が図れればと願う次第です。 今回は「評価が難しい」という話題に終始しましたが、容赦ください。 (了)

#No. 511(掲載号)
#黒沢 泰
2023/03/16

《速報解説》 国税庁、中小企業向け賃上げ促進税制の適用に係る別表6(31)の記載誤り等について注意喚起

《速報解説》 国税庁、中小企業向け賃上げ促進税制の適用に係る 別表6(31)の記載誤り等について注意喚起   Profession Journal編集部   給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(措法42の12の5)、いわゆる賃上げ促進税制は平成30年度税制改正の大幅改組により大企業向け措置・中小企業向け措置に分かれて以降、令和2年度、令和3年度、令和4年度の各税制改正において、それぞれ制度の見直しが続いている。 特に令和3年度税制改正にてコロナ禍を受け新規雇用者給与等支給額の増加率が適用要件とされたことは、各投資促進税制がおおむね2年ごとに制度が見直されている税制改正の流れからするとイレギュラーであったといえよう。このため本制度は2期連続して適用を受ける場合でも、前事業年度で検討した要件がそのまま適用されるとは限らず、注意が必要となっている。 このような中、このほど国税庁は3月決算・申告時期を前に「別表六(三十一)を使用するに当たっての注意点(中小企業向け賃上げ促進税制の適用に当たっての注意点)」を公表、中小企業向けの賃上げ促進税制(措法42の12の5②)の適用に当たって、別表の記載に誤りがあり税額控除額が適正に算出されていない事例が見受けられるとして、注意喚起を行っている。 例えば下図のように、(令和4年4月1日以後終了事業年度分の)法人税申告書の別表6(31)(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)の「5」欄(比較雇用者給与等支給額)には、適用年度と適用年度の前事業年度の月数が異なる場合や組織再編成を行っている場合などに該当しない限り前事業年度における雇用者給与等支給額を記載することになるが、その前事業年度に退職した従業員に対する給与等の支給額を差し引いて記載する等の誤りにより、本来であれば本税制の適用を受けることができないにもかかわらず本税制の適用を受けている事例や、誤って算出された金額に基づいて本税制の適用を受けている事例が見受けられるとしている。 (※) 国税庁ホームページより なお、適用にあたって使用する別表様式も事業年度ごとに異なり、既報のとおり令和4年の様式改正では大企業向け措置・中小企業向け措置で使用する別表が統一されるなどの変更も行われているので合わせて注意が必要だ。 国税庁は「本税制は累次の改正が行われ、制度の適用要件につき順次見直しがなされておりますので、適用年度の適用要件を十分にご確認の上、別表を記載するようにしてください」としており、日本税理士会連合会もホームページ上で注意を呼びかけている。 本制度に係る本誌上の連載記事は下記より参照されたい。 ◆BOOK◆ 『賃上げ促進税制の実務解説-適用要件の判定からデータ集計、申告事例まで』 好評販売中 (了)

#Profession Journal 編集部
2023/03/09

プロフェッションジャーナル No.510が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年3月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.510を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/03/09

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第117回】「節税商品取引を巡る法律問題(その11)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第117回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その11)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦     Ⅸ 節税商品取引に係る情報提供の重要性 1 問題関心~税務当局からの情報提供 課税上の取扱いが必ずしも明確ではないところには、アグレッシブな節税商品の開発者による市場開拓が展開され得る。別の見方をすれば、節税商品が多く広まるのは、課税上の取扱いが不明確であるからという側面もあろう。すなわち、課税上の取扱いのグレーゾーンは、いわば節税商品開発のブルーオーシャンといってもよいかもしれない。 節税商品取引における消費者被害を未然に防止するためには、行政当局による注意喚起も必要であるが、その点についての論述は後に譲るとして、ここでは、そもそも課税上の取扱いのグレーゾーンを少なくする方策を検討してみたい。 別言すれば、課税上の取扱いについての情報が明確にされていることが、いわば節税商品取引を巡る消費者ないし投資者被害の未然防止にもなり得るということができよう。これは、課税上の取扱いに関する不明確性の排除、すなわち、予測可能性の担保という問題である。 そこで、この点について考察を加えることとするが、(1)第一に、行政当局による情報提供の仕方として、アドバンスルーリングの取扱いがこの辺りの問題解決に有用ではなかろうか。具体的にいえば、わが国の国税庁が取り組んでいる文書回答手続がそれに当たる(※1)。(2)次に、行政当局による注意喚起としての情報提供、いわば広報活動についても考えてみたい。 (※1) 文書回答手続に関する拙稿として、酒井克彦「事前照会に対する文書回答手続の在り方」税大論叢44号463頁(2004)、同「ソフトローによる予測可能性の担保-文書回答手続の改正を契機に-」税務事例54巻1号1頁(2022)、同「予測可能性の担保と文書回答手続」税のしるべ令和4年1月17日号4面(2022)、同「事前照会に対する文書回答手続をめぐる考察と提言(上)(中)(下)」税理50巻15号50頁(2007)、同51巻2号52頁、同51巻3号104頁(2008)、同「文書回答手続の改正にみる適用対象の拡大」税理65巻3号190頁(2022)、同=中戸川誠「〔対談〕文書回答手続20年の歩みとこれから」税理65巻2号130頁(2022)など参照。 2 文書回答手続 (1) 予測可能性の確保 金子宏東京大学名誉教授は、租税法律主義の機能を、国民の経済生活に法的安定性と予測可能性を与えることにあると説明され(※2)、次のように述べられる(※3)。 (※2) 金子宏『租税法〔第24版〕』79頁(弘文堂2021)。 (※3) 金子・前掲(※2)、79頁。 これは租税法律主義の要請であるから(※4)、当然ながら、ここでは、「法律」あるいは法律の委任を受けた行政命令などの「法律の定める条件」(施行令、施行規則)をもって、予測可能性が担保されることが念頭に置かれていることはいうまでもない。しかしながら、果たして、予測可能性は「法律」又は「法律の定める条件」のみで十分に担保されているとみるべきであろうか。 (※4) これに対して、法的安定性・予測可能性を保障するという機能を果たすから遡及立法禁止原則が租税法律主義の内容を構成する、と論じることは妥当ではないとする見解として、渕圭吾「租税法律主義と『遡及立法』」フィナンシャル・レビュー129号93頁(2017)。 ここに、佐藤英明教授による興味深い指摘がある。同教授は、租税法律主義の内容の一つである課税要件明確主義の位置付けに関する検討として(※5)、同主義は、課税要件法定主義を補完するものとして位置付けられるとともに、予測可能性の確保という観点からも重視されるべきとされ、「これら2つの観点から求められる内容は必ずしも一致しない」と指摘する(※6)。 (※5) 佐藤英明教授は、租税法律主義が多様な内容を持つものとして発展してきたのは、法による行政の原理とは異なり、罪刑法定主義の類推によるものとの南博行教授の指摘を踏まえた上で(南「租税法と行政法」租税11号1頁(1983))、そこでの中心的な考慮要素は予測可能性の確保であるとされる(佐藤英明「租税法律主義と租税公平主義」金子宏『租税法の基本問題』60頁(有斐閣2007))。 (※6) 佐藤・前掲(※5)、61頁。 前者からは、恣意的な課税を許さない程度に課税要件が明確にされていなければならないという帰結を導出できるのに対して、後者については、「予測可能性の確保の要請から考えれば、課税要件が明確に示されている限りその形式は特に問題となるものではなく」、形式的な意味での法律のほか、政令によっても充足し得るとされるのである(※7)。 (※7) 佐藤・前掲(※5)、61頁。 これは、行政命令による実質的な課税要件の明確性までを許容することを意味するものであるといえよう。さらに進めれば、ソフトローによる情報提供も考えられる。すなわち、全ての予測可能性が法律によって担保できていればよいのであるが、形式を問わず情報入手のチャネルを確保することができれば、実質的な意味で予測可能性が担保され得るであろう。 (2) 文書回答手続 予測可能性の担保のために国税庁は文書回答手続を整備している(※8)。この手続について、国税庁のHPから確認しておこう(※9)。 (※8) 国税庁HPは、「国税庁では、事前照会に対する文書回答手続に関する事務運営指針に基づき、納税者の皆様の予測可能性の一層の向上に役立てていただくため、特定の納税者の個別事情に係る事前照会について、一定の要件に該当しない限り、文書による回答を行っています。」と説明している(国税庁「事前照会に対する文書回答手続」〔令和5年2月27日訪問〕)。 (※9) 国税庁「税務上の取扱いに関する事前照会に対する文書回答について」〔令和5年2月27日訪問〕。 ただし、次に示すような一定のものについては、文書回答手続の対象から除外されている。 このように、一定のものについては文書回答手続の対象とされていないが、文書回答手続によって、課税上の取扱いの不明確性が一定程度排除され、納税者の予測可能性が担保される仕組みとして構築されているのである。 次回は、このような文書回答手続が、具体的に節税商品取引における課税上の取扱いに係るグレーゾーンを排除することに資するかという点について考えてみたい。 (続く)

#No. 510(掲載号)
#酒井 克彦
2023/03/09

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第12回】「国税通則法23条(1)」-総説-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第12回】 「国税通則法23条(1)」 -総説-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法23条(更正の請求)   1 制度と沿革 納税義務の確定は、既に述べたように(第10回4参照)、課税要件の充足により法律上当然に成立した納税義務(抽象的・客観的納税義務)について、納税者がその履行を行い、又は税務官庁がその履行の請求を行うために、納税者又は税務官庁が行う当該納税義務の具体的・主観的確認である。 申告納税制度は、第一次的には、納税者が各税法の規定に従って納税義務の存否又は範囲を法定申告期限内に正しく確定することを、建前としている(前回2参照)。しかし、納税者にその建前どおりの納税申告を常に期待することは、現実には困難である(申告納税制度の建前と現実の乖離)。では、納税義務の確定が各税法の規定に従っておらず誤っていると事後に納税者が判断した場合、納税者はその誤りをどのような手続(過誤是正手続)によって修正することができるであろうか。 そのような過誤について、国税通則法は、課税処分に対する争訟手続(第8章)は別にして、申告納税方式(16条1項1号)による納税義務の確定手続(第2章第2節)においては、先行する納税義務の確定が過少確定(税額の過少、純損失等の金額の過大等を内容とする確定)であると納税者が判断した場合は修正申告(19条)の手続による是正を定め、他方、先行する納税義務の確定が過大確定(税額の過大、純損失等の金額の過少等を内容とする確定)であると納税者が判断した場合は更正の請求(23条)の手続による是正を定めている。換言すれば、先行する納税義務の確定を納税者の「不利に」修正する場合は、納税者自身が修正申告によって修正することを認める一方、納税者の「有利に」修正する場合は、納税者が更正の請求によって税務官庁による減額更正(24条)を請求することを認めるにとどめているのである。 ところで、先行する納税義務の確定に係る過誤是正手続に関する上記の二本立て制度は、わが国の税法が申告納税制度を導入した当初から、採用されてきたものである。このことは、特に更正の請求に関して次のとおり述べられている(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(加除式・第一法規)1424頁)。 更正の請求制度は、このように、当初は個別税法に基づいて定められていたが、その後(所得税法については昭和22年3月、相続税法については昭和25年3月、富裕税法については同年5月、法人税法については昭和34年)、その適用範囲を徐々に拡大していった(武田監修・前掲書1424頁参照)。このような過程を経て、税制調査会は「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)において更正の請求を「申告納税に係るすべての税目について認めるものとする」(9頁)と提言し、この点について次のとおり説明していた(同『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)54頁。下線筆者)。 この答申は現行国税通則法23条の基本的骨格及び内容を創設したものであるが、同条については、その後今日までに、大きな改正が2度行われた。1度目は昭和45年改正であるが、これについて税制調査会「税制簡素化についての第三次答申」(昭和43年7月)53-54頁(下線筆者)は「更正の請求の期限」の延長及び「期限の特例」の拡張を次のとおり提言した。 2度目は平成23年改正である。同改正について「平成23年度税制改正大綱」(平成22年12月16日閣議決定)33頁は、次のとおり「更正の請求期間の延長」を説いている(下線筆者)。 この説示からすると、かつて法人税法が昭和34年に更正の請求を導入する以前の状態について述べられていた、「従来は法人が税務官庁にその事実を申出(一般には歎願書又は陳情書によって申出がされる)て、それが相当である場合には、税務官庁は進んで減額の更正・・・・・を行うことによって問題を解決していたのである。」(武田昌輔『会社税務精説』(森山書店・1962年)905頁。傍点原文)という実務慣行は、更正の請求の導入後も、更正の請求期間と減額更正期間との(前者が後者より短いという)ズレの故に解消されていなかったのである。 以上のように更正の請求制度の沿革を概観してくると、更正の請求は、手続的保障原則及び租税法律主義の実現に資する手続として、形成されてきたといえよう。手続的保障原則は、納税者と税務官庁との手続法上の関係を対等・対称的な権利義務の関係(法律関係)として構成することを要請する、租税法律主義における適正手続保障の原則であるが(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【27】参照)、とりわけ、更正の請求に係る請求可能期間を減額更正に係る通常の除斥期間(税通70条1項)と一致させたことは、手続的保障原則すなわち納税者・税務官庁間の関係の対等性・対称性の観点からみて、また、申告納税制度における納税者と税務官庁との相互チェック構造(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)855-856頁[初出・1995年]参照)に照らしても、高く評価すべきであろう。   2 意義と趣旨 更正の請求は、前述のとおり、先行する納税義務の確定が過大確定であると納税者が判断した場合に、当該確定について減額更正を請求する手続である(税通23条1項柱書・2項柱書参照)。国税通則法23条は、「更正の請求」という見出しの下で第1項と第2項という2つの条文を定めているので、一見すると、「更正の請求」には2種類のものがあるかのように思われるかもしれないが、しかし、同条2項は「同項[=同条1項]の規定による更正の請求」を定めているので、同条が定める「更正の請求」に異なる種類のものがあるのではない。この点については、次回、国税通則法23条1項と2項との関係を検討する際に、改めて確認することにする。 更正の請求の趣旨については、前記1の冒頭で述べた「申告納税制度の建前と現実の乖離」(これも間接的には更正の請求の趣旨であるが)を踏まえて理解する必要があるが、その場合、まず、先行する納税義務の確定に係る過誤是正手続に関する前記の二本立て制度を国税通則法が定めている理由、換言すれば、国税通則法が申告納税制度において納税義務の確定につき納税者に第一次的確定権及び第一次的確定義務を定めている(前回2参照)にもかかわらず、先行する納税義務の過少確定・過大確定を問わず過誤是正手続を修正申告に一本化しないのはなぜか、を明らかにしておく必要がある。 現行国税通則法上の前記の二本立て制度に対しては、「減額修正は財政収入減となるから、納税者の任意には委ねられないが、増額修正は財政収入増となるものであるから、納税者の任意に委ねてよい、という不当な徴税政策的配慮」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])E365頁[新井隆一・中川一郎執筆])による国庫主義的な制度であるという批判もある(同E161-162頁[新井隆一・波多野弘執筆]、同E266-268頁[同]も参照)。 しかし、「減額修正申告」を認めると、それが納税者にとって有利な修正であるだけに、いきおいそのような修正がしばしば行われ、租税法律関係が著しく不安定になるおそれがあること、そうすると実質的には申告期限を延長したのと同様の結果を生ずるおそれがあること、いったん正しい納税申告をした納税者でも、後に資金繰りの都合等によって、これを減額修正する場合などのように、納税者が自己の主観的利益のために、納税義務の確定を修正し、納税申告義務の適正な履行が確保できなくなるおそれがあること等を考慮すると、過大確定については更正の請求により、税務官庁による審査を経て、その請求に理由があるときに減額更正による是正を行うものとすることには、合理性があると考えられる(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解(令和4年改訂・17版)』(大蔵財務協会・2022年)355-356頁、武田監修・前掲書1429-1430頁、前掲拙著『税法基本講義』【133】参照)。更正の請求の趣旨は直接的にはこの点に認められよう。   3 機能 更正の請求は、申告納税方式による納税義務の確定手続において、先行する納税義務の確定について納税者のイニシアティブに基づき行われる過誤是正の手続であることから、その本来的機能は納税義務の確定の適法性を保障することにあると考えるのが相当である(更正の請求の適法性保障機能。前掲拙著『税法基本講義』【132】参照。以下の叙述については同【131】も参照)。 また、更正の請求は、自己賦課制度(self-assessment system)と呼ばれる申告納税制度における納税者のいわば「自己賦課による権利侵害」(勿論、行訴9条にいう「法律上の利益」の侵害の問題ではない)に対する権利救済手続としての機能(更正の請求の権利救済機能)をも有している。この機能は、更正の請求による納税義務の確定の適法性保障のいわば反射的効果として観念することができる機能であることから、更正の請求の派生的機能ということができよう。その意味でも、更正の請求は争訟手続とは異なり正式の権利救済手続ではなく、せいぜい、国税通則法が税務官庁による「更正をすべき理由がない旨」の通知(23条4項)の通知を「国税に関する法律に基づく処分」である拒否処分として取消争訟の対象とすること(75条1項1号、115条1項本文参照)によって、正式の権利救済手続に接続することを予定している手続にすぎない。納税義務の確定に係る手続的違法が更正の請求の理由とされていない点でも争訟手続とは異なる。 そのほか、更正の請求の権利救済機能を正しく理解するには、後述するように、更正の請求の原則的排他性の正確な理解が不可欠である。ここで更正の請求の原則的排他性とは、過大申告の是正は、錯誤無効の場合を除き、原則として更正の請求の手続によらなければならないという判例法の考え方(最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁の次の判示参照)をいう。 更正の請求の原則的排他性は、取消訴訟の原則的排他性(差し当たり芝池義一『行政救済法』(有斐閣・2022年)16頁等参照)に準えて用いられてきた観念であるが、更正の請求について観念される「排他性」は、これとは異なり、訴訟手続のレベルでの排他性(訴訟法的排他性)ではなく、納税義務の確定手続のレベルでの排他性(確定手続法的排他性)である。したがって、更正の請求の排他性は、これを理由に正式の権利救済手続を排除することをも、その射程内に取り込むべきものではないのである。 例えば、更正の請求の排他性を理由に義務付け訴訟(行訴3条6項、特に37条の2)の許容性を一般的に否定することは許されず(反対の立場に立つと解される裁判例として広島高判平成20年6月20日訟月55巻7号2642頁参照)、また、更正の請求の排他性を前提にして、納税者が更正の請求をしなかったという一事をもって、更正処分のうち申告額を超えない部分の取消しを求める訴えの利益を否定する見解(条件付却下説)は許容されない(反対の立場に立つと解される裁判例として東京高判平成18年12月27日訟月54巻3号760頁、大阪地判平成21年1月30日訟月57巻2号344頁、名古屋地判平成26年9月4日訟月62巻11号1968頁等参照。条件付却下説については前掲拙著『税法創造論』1022頁以下[初出・2016年]参照)。 (了)

#No. 510(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/03/09

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第24回】「インボイス制度の導入に伴う「特定収入に係る課税仕入れ等の税額の計算」の改正」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第24回】 「インボイス制度の導入に伴う「特定収入に係る課税仕入れ等の税額の計算」の改正」   税理士 石川 幸恵   【Q】 インボイス制度の導入に伴って、国や地方公共団体の特別会計等の消費税額の計算に新たな調整計算が加わると聞きました。計算式の概要を教えてください。 〔ポイント〕 (1) 国や地方公共団体の特別会計等には仕入控除税額の計算に特例があります。 (2) インボイス制度の導入に伴い、特例計算に新たな計算が加わります。 *  *  * 【A】 (1) 国や地方公共団体の特別会計等には仕入控除税額の計算に特例がある 国、地方公共団体、公共・公益法人等は、租税、補助金、会費、寄附金等の対価性のない収入を恒常的な財源としています。 このような対価性のない収入により賄われる課税仕入れ等に係る税額まで仕入控除税額に含めるのは合理的ではないので、国や地方公共団体の特別会計等の一定の事業者については、仕入控除税額の計算に特例が設けられています。 この特例の対象には、一般社団法人や社会福祉法人、宗教法人や学校法人、人格のない社団等も含まれます(消法60④、消法別表3)。   (2) 特例計算の概要 ① 特例計算が必要となる条件 収入を次のように区分し、特定収入が一定割合以上となる場合(※)に、特例計算が必要となります(消法60④、消令75①、③)。 ② 仕入控除税額の計算方法の概要 (※) ここでは簡素な解説とするため、仕入控除税額の計算方法は全額控除、標準税率対象の課税仕入れのみであることを前提とします。 特例計算では、通常の方法により計算した仕入控除税額から、特定収入により賄われた課税仕入れ等の税額(調整税額)を差し引きます。調整税額は次のAとBの合計です(消令75④一)。 調整割合は、下記算式により計算されるものです。 計算式の意味するところは、Aにより課税仕入れ等にのみ使途が特定されている特定収入で賄われた課税仕入れ等に係る税額を算出、Bにより使途不特定の特定収入で賄われた課税仕入れ等に係る税額を算出しているということです。 特定収入の内容や特例計算の詳細については、国税庁資料「国、地方公共団体や公共・公益法人等と消費税」等をご参照ください。   (3) インボイス発行事業者以外の者からの仕入れに係る調整 ① 調整税額が過大となる理由 調整税額の計算の基礎となるのは、「特定収入のうち課税仕入れ等にのみ使途が特定されているもの」であり、「特定収入のうち『インボイス発行事業者からの』課税仕入れ等にのみ使途が特定されているもの」とはされていません。このため、インボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れは、通常の方法により計算した仕入控除税額に含まれていないにもかかわらず、調整税額には含まれてしまうこととなり、調整税額が過大となります。 そこで、令和4年度税制改正において、控除し過ぎた調整税額を足し戻す計算規定が新たに設けられました(令和4年改正消令75⑧)。 ② 計算方法(令和4年改正消令75⑧一) 次の算式で計算した金額を課税仕入れ等の税額に加算します。 上記の計算は、課税仕入れ等に使途が特定された特定収入のうち、5%超をインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れに充てた場合に適用されます(令和4年改正消令75⑨)。 (了)

#No. 510(掲載号)
#石川 幸恵
2023/03/09

〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第6回】「適格分社型分割による損失の二重計上」

〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第6回】 「適格分社型分割による損失の二重計上」   公認会計士 佐藤 信祐     8 適格分社型分割による損失の二重計上 (1) 基本的な取扱い 実務上、後継者に事業の一部を先行的に移管することが考えられる。そのための手法として、事業譲渡や現金交付型分割(分社型分割)が採用されることがあるが、分割法人に分割承継法人株式のみを交付し、当該分割承継法人株式を後継者に譲渡するという手法が選択されることがある。このような場合には、オーナーと親族である後継者を合算すると完全支配関係が継続していることから、完全支配関係内の適格分社型分割として取り扱われる(法法2十二の十一、法令4の3⑥二、4の2②、4)。 適格分社型分割を行った場合には、分割法人が保有する資産又は負債を分割承継法人に簿価で譲渡したものとして取り扱われる(法法62条の3①)。すなわち、分割承継法人が資産又は負債を簿価で取得したものとみなされ(法令123の4)、分割承継法人に移転した資産又は負債に係る簿価純資産価額により分割法人が取得する分割承継法人株式の取得価額の計算を行うことになる(法令119①七)。その結果、分割法人における移転資産の含み損益は分割承継法人株式の含み損益に振り替えられる。すなわち、移転資産に含み損がある場合には、分割法人では分割承継法人株式の含み損に振り替えられ、分割承継法人では移転資産の含み損として認識することから、含み損が二重に生じる結果になる。 【適格分社型分割】 〈ステップ1:新設分社型分割〉 〈ステップ2:分割承継法人株式の譲渡〉 上記のケースでは、分割法人から後継者に分割承継法人株式を譲渡しているが、内国法人から内国法人への譲渡ではないことから、譲渡損益の繰延べに係る規定は適用されない(法法61の11①)。すなわち、分割承継法人株式の譲渡により株式譲渡損益が計上されることになる。 さらに、適格分社型分割は、簿価で資産又は負債を譲渡したものとみなすと規定しているだけで、分割承継法人株式の時価が簿価純資産価額であることまでは規定していない。すなわち、このような適格分社型分割により取得した分割承継法人株式であっても、後継者に対して時価で譲渡する必要がある。そのため、分割承継法人に移転した資産に含み損がある場合には、分割法人が分割承継法人株式を後継者に譲渡した段階で分割承継法人株式に係る譲渡損失が生じることになる。 その結果、分割法人において分割承継法人株式の譲渡損益が実現し、移転資産を譲渡した時点で、分割承継法人において資産の譲渡損益が実現することから、二重の譲渡損益が生じてしまうことも考えられる。具体的には、帳簿価額1,000百万円、時価100百万円の資産を適格分社型分割により分割承継法人に移転させた場合には、分割法人における分割承継法人株式の帳簿価額が1,000百万円、分割承継法人における資産の帳簿価額が1,000百万円になり、両社において含み損を抱えることになることから、将来における株式の譲渡や移転資産の譲渡により、両社において900百万円の譲渡損が生じることになる。 【分割法人の仕訳】(単位:百万円) 〈分社型分割〉 〈株式の譲渡(グループ内)〉 【分割承継法人の仕訳】(単位:百万円) 〈分社型分割〉 〈資産の含み損の処理〉 (2) 否認され得るケース このように、通常であれば、二重に損金が生じるという問題があるにせよ、経済合理性のある取引であると認められるケースも多いと考えられる。しかしながら、適格組織再編成を繰り返すことにより、繰越欠損金を有する法人を数珠並びにすることができるという問題がある。具体的には、以下の事例を参照されたい。 【適格分社型分割】 〈ステップ1:新設分社型分割〉 〈ステップ2:分割承継法人株式を現物出資対象資産とする新設現物出資〉 〈ステップ3:分割承継法人株式の譲渡〉 〈ステップ4:X社株式の譲渡〉 上記のストラクチャーでは、分割承継法人に含み損のある資産を移転させるだけでなく、当該分割承継法人株式を現物出資対象資産としてX社に移転することにより、含み損が三重になっている。上記のストラクチャーにおける分割法人、X社及び分割承継法人の仕訳は、以下の通りである。 【分割法人の仕訳】(単位:百万円) 〈分社型分割〉 〈現物出資〉 〈株式の譲渡(グループ内)〉 【X社の仕訳】(単位:百万円) 〈現物出資〉 〈株式の譲渡(グループ内)〉 【分割承継法人の仕訳】(単位:百万円) 〈分社型分割〉 〈資産の含み損の処理〉 上記では、適格現物出資による手法を前提としたが、分割承継法人株式を分割対象資産とする適格分社型分割による手法であっても同様の効果が生じる(※14)。さらに、後継者にそれぞれの法人の株式を譲渡する前に、X社株式を現物出資対象資産としてY社を設立、Y社株式を現物出資対象資産としてZ社を設立といったことを繰り返せば、繰越欠損金を無限に増殖させることができてしまう。 (※14) 分割承継法人を株式移転完全子法人とする単独株式移転を行った場合には、株式移転後に株式移転完全親法人と株式移転完全子法人との間に当該株式移転完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれないことから、非適格株式移転に該当してしまうため、株式移転による手法は利用できない(法令4の3㉒)。 しかしながら、このようなストラクチャーは、最初の分社型分割はともかくとして、その後の現物出資については何ら経済合理性がなく、繰越欠損金を有する法人を作り出すためだけに行われたストラクチャーであることから包括的租税回避防止規定が適用されるべきであり、同様の事例として、パチンコ店チェーン約40の企業グループに対する否認事例が公表されている(※15)。 (※15) 平成24年2月12日読売新聞朝刊。 (3) 否認されるかどうかにつき意見が分かれる事例 前述のように、分割承継法人株式を現物出資するなどの行為により、三重、四重と繰越欠損金を増殖させることについては、包括的租税回避防止規定が適用されるという点に争いはないと思われる。 これに対し、適格分社型分割を行うだけであれば、分割承継法人株式の譲渡により損失が計上され、かつ、分割承継法人が保有する資産の含み損を実現することにより損失が計上されるものの、事業目的がないとはいい難いことから、包括的租税回避防止規定が適用されるかどうかについては、税務専門家の間でも意見が分かれている。 この点については、分割承継法人が適格分社型分割により資産及び負債を取得したことについては、移転資産に対する支配が継続していると認められる限り、制度趣旨に反することが明らかであるということはできない。そのため、分割法人が分割承継法人株式を簿価で取得しながらも、グループ内の株式譲渡により譲渡損を実現させたことが制度趣旨に反するかどうかが問題となる。 まず、税制適格要件における支配関係継続要件が、損失の二重計上を防ぐための規定であるという見解があるが(※16)、「組織再編税制の適格要件は、移転資産に対する支配の継続を要件化したものであり、損失の2回控除の防止が目的ではありませんが、事業の継続見込みを適格要件とすることによって、結果的に損失の2回控除が起きる蓋然性が低くなっていると考えられます。」(※17)とされていることから、そのような解釈は成り立たない。支配関係継続要件が課されていることにより損失の二重計上が生じる事案を減らす効果はあるものの、損失の二重計上を防ぐことを目的にはしていないのである(※18)。 (※16) 白井一馬・関根稔『組織再編税制をあらためて読み解く』78-79頁(中央経済社、平成29年)。 (※17) 藤田泰弘ほか「連結納税制度の見直しに関する法人税法等の改正」『令和2年度税制改正の解説』939頁(令和2年、財務省HP参照)。 (※18) 例えば、減価償却費の計上により自己金融効果が生じると説明されることがあるが、減価償却の目的は費用収益対応の原則により利益を適正に計算するためである。このように、「効果」と「目的」は異なるものであり、混合してはならないのである。 もちろん、損失の二重計上を積極的に認めるような制度を想定しているはずがないことから、損失の二重計上を目的とした組織再編成に対しては包括的租税回避防止規定を適用すべきである。ただし、分社型分割のタイミングで分割承継法人株式を譲渡することは想定していたものの、分割承継法人が資産の譲渡損を計上することを想定しておらず、2~3年後に結果的に資産の譲渡損が生じたような場合には、分割承継法人株式に係る譲渡損の計上を積極的に否定する規定がない以上は、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる(※19)。 (※19) もちろん、【第4回】で解説したように、完全支配関係を外したうえで、完全支配関係のあった内国法人に分割承継法人株式を譲渡することについては、包括的租税回避防止規定が適用される余地がある。 なお、結果的に損失の二重計上が生じているのであれば、制度趣旨に反するものとして積極的に包括的租税回避防止規定を適用すべきとする考え方もあり得る。この点については、グループ通算制度の離脱又は終了に伴う時価評価が損失の二重計上を防ぐために設けられた規定であり、「その行う主要な事業について継続の見込みがない場合」「資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれている場合」にのみ時価評価が行われることとされている(法法64の13①)。すなわち、適格分社型分割による損失の二重計上に対して包括的租税回避防止規定を適用するにしても、上記のいずれかに該当するものに限定すべきである。そして、「その行う主要な事業について継続の見込みがない場合」に該当することは稀であるため、「資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれている場合」に該当する場合にのみ包括的租税回避防止規定を適用すべきであると考えられる。 すなわち、結果的に損失の二重計上が生じているのであれば、制度趣旨に反するものとして積極的に包括的租税回避防止規定を適用すべきとする考え方を採用したとしても、分社型分割のタイミングで分割承継法人株式を譲渡することは想定していたものの、分割承継法人が資産の譲渡損を計上することを想定しておらず、2~3年後に結果的に資産の譲渡損が生じたような場合には、「資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれている場合」には該当しないことから、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 (了)

#No. 510(掲載号)
#佐藤 信祐
2023/03/09

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第51回】「一般社団法人を活用した株式の買い集め」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第51回】 「一般社団法人を活用した株式の買い集め」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子   相談内容 私は電子部品製造業を営む非上場会社X社の社長です。X社は私の曾祖父が創業し、祖父、父と社長を引き継ぎ、私で4代目です。X社の株式は、曾祖父の相続からそれぞれの子供たちに引き継がれ、今では遠縁の親族である株主が多数存在しています。このままでは親族の相続に伴い株主が増えていくことになり、会社経営に支障が出る可能性があるため、私の代で株式の集約を図りたいと考えています。 私個人が株式を買い取ることも考えましたが、できるだけ低い価額で買い取りたいと顧問税理士に相談したところ、従業員の福利厚生活動を目的とした一般社団法人を設立して、株式を買い取ることを提案されました。この場合に注意する点などがあれば教えてください。 なお、弊社はこれまで第三者との株式の売買実績はありませんし、株主のうち役員に就任しているのは私だけです。 〈X社の株主構成〉 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 株式の売買価格 親族から自社株を買い取る際には、税務上の時価を考慮して価額を決定する必要があります。税務上の時価は売主・買主の議決権の状況により異なります。下図をご参照ください。 X社の場合には、社長と社長の姉妹は原則的評価方式、その他の親族と新たに設立する一般社団法人は配当還元方式による評価額を時価とみなします。一般的には原則的評価方式による評価額の方が配当還元方式による評価額よりも高くなる傾向にあります。 (※1) 評価会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者(法令4)の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%(50%超のグループがある場合は50%)以上である場合におけるその株主及びその同族関係者。 (※2) 同族株主とその配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び一親等の姻族(一定の法人を含む)の議決権割合の合計が25%以上である場合のその株主。   [2] 売買価額が時価と異なる場合の課税関係 (1) 個人売主から個人買主への譲渡 「売買価額<時価」の場合、その差額について、個人売主から個人買主への贈与があったものとみなされます。 社長が親族から原則的評価方式よりも低い価額で買取りを行った場合には、その差額について社長に贈与税が課税される可能性があります(相法7)。 (2) 個人売主から法人買主への譲渡 個人が法人に対して時価の1/2未満で譲渡を行った場合には、時価により譲渡があったものとみなされ、譲渡所得税が課税されます(所法59①二、所令169)。 法人サイドでは、時価と譲渡価額の差額は受贈益として法人税の課税対象になります。 ご相談の場合、一般社団法人は同族株主以外の株主のため、配当還元方式が適用されますので、社長の姉妹以外の親族から配当還元方式による低い価額で株式を買い取ったとしても、みなし譲渡所得や受贈益の課税は発生しません。 一方、社長の姉妹は中心的な同族株主に該当するため、原則的評価方式が適用されます。このため、原則的評価方式による株価の1/2以上の価額で譲渡を行わなければ、課税問題が発生します。   [3] 一般社団法人による買取り (1) 一般社団法人の設立 一般社団法人は、主たる事務所所在地において登記を行うことにより設立できます。 定款において社員の資格をX社の従業員及び役員とし、法人の主たる事業目的を社員のための福利厚生活動やその他の公益活動として、非営利型法人の要件を満たす設計にしておきます。 従業員の福利厚生活動を目的とした非営利事業として、具体的に、例えば、表彰金の支給や従業員を対象とした奨学金支給、従業員の部活動の支援、レクリエーション活動の補助、などが考えられます。 また、理事にはX社の役員が就任し、運営実務はX社が担う設計にしておけば、永続的に安定した運営を行うことができます。 一般社団法人の独立性の観点から、社団の役員(理事)に社長又は社長の親族が就任することは避けたほうが良いでしょう。 (2) 非営利型法人の要件 ① 非営利性が徹底された法人(法法2九の二イ、法令3①) 一般社団法人のうち、その行う事業により利益を得ること又は得た利益を分配することを目的としない法人で、次の要件を満たす法人をいいます。 ② 共益的活動を目的とする法人(法法2九の二ロ、法令3②) 一般社団法人のうち、会員からの会費により、会員に共通する利益を図るための事業を行う法人で、次の要件を満たす法人をいいます。 一般社団法人の運営をX社の配当金で賄う場合には①の「非営利性が徹底された法人」の要件を、会費を徴収して行う場合には②の「共益的活動を目的とする法人」の要件を満たすように設計することが考えられます。 ③ 非営利型法人の課税範囲 非営利型一般社団法人に対しては、販売業、製造業その他34種の収益事業についてのみ法人税が課税されます(法法2十三、6、法令5)。 設立する法人を非営利型の一般社団法人にしておくことによって、仮に時価よりも低い価額で株式を買い取った場合でも、受贈益に対して法人税は課税されないことになります。 また、買い受けた株式の配当収入については、20.42%の源泉所得税が課税されますが、法人税法上の収益事業には該当しないため、法人税は課税されません。 ④ 株式の購入資金 一般社団法人での株式購入資金や事業に必要な資金は、当初はX社からの寄附とし、X社からの配当が相当程度の水準に達した後は、配当金を株式の買取りや事業資金に充てるのがよいでしょう。 寄附を行う場合に、X社においては限度額の範囲内で法人税の計算上損金に算入できますが、社長が寄附をした場合には、個人の所得税の計算上、寄附金控除の適用はありません。   [3] 結論 親族に分散された株式をそのままにしておくと、相続を繰り返す度に益々分散してしまいます。縁が薄くなれば交渉も難しくなるため、早いうちに株式を集約することが肝要です。 X社の場合、社長個人やX社が低い価格で株式を買い取る場合には、社長個人や株主間での贈与税の課税問題が発生する可能性がありますが、非営利型一般社団法人で買取りを行う場合には、課税問題は回避できると考えられます。 福利厚生を目的とした非営利活動を行う法人が買い受けるということで、買取交渉の際に説明がしやすくなることも期待できます。 ただし、一般社団法人の運営については、株式を買い取ったら終わりではなく、継続的に運営していく必要がありますので、会社や一部従業員の負担は増えます。社団の目的に沿って、X社や社長に対する特別な利益供与をしないように注意しながら運営していかなければなりません。 実際の具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 510(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2023/03/09
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