〈“2025年問題”を前に知っておきたい〉 3つの事業承継方法とそれぞれのメリット・デメリット 【前編】 株式会社M&A総合研究所 企業提携部 主任 JMAA認定M&Aアドバイザー 税理士有資格者 松木 雅彦 国内企業の9割以上を占める中小企業・小規模事業者は、技術や雇用の担い手として日本を支える重要な存在です。 最先端技術や伝統技術を有する企業も多いですが、近年は経営者の高齢化が進み、事業承継が重要な課題とされています。 1 中小企業における事業承継の現状 2020年1月末に日本政策金融公庫が公表したアンケートでは、後継者が決まっていると回答した中小企業はわずか12.5%、後継者が決まっていない「未定企業」が22.0%、廃業予定と答えた企業が52.6%と半数を超えており、非常に厳しい現状が分かる結果となりました。 中小企業庁は「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」の中で、2025年には70歳を超える経営者が245万人に達し、現状のままでは中小企業・小規模事業者廃業の急増で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると試算しています(いわゆる「2025年問題」)。 このような深刻な後継者不在状況を変えるため、国は2011年から事業引継ぎ支援センター(現在は「事業承継・引継ぎ支援センター」)を設置するなど支援策を講じてきました。 2025年が間近に迫る中、国は支援策を拡充し、中小企業・小規模事業者の事業承継を強力に後押ししています。 本稿では、この2025年問題を前に、中小企業・小規模事業者のオーナーに加え、事業承継の相談を受ける立場となる税務顧問の方が知っておくべき3つの事業承継方法とそれぞれのメリット・デメリットを2回にわたって紹介します。 2 親族内承継~事業承継方法①~ 親族内承継は中小企業・小規模事業者の事業承継で最も活用されており、経営者の子など親族を後継者として事業を引き継ぎます。 帝国データバンクの「全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)」では、2021年の事業承継のうち、先代経営者との関係性で親族内承継を選択した企業が38.3%と最も高い割合となりました。一方で、2017年の同割合と比較すると、3.3pt低下し、親族内承継の割合は緩やかな減少傾向となっています。 【メリット】 【デメリット】 3 従業員承継~事業承継方法②~ 自社の従業員や役員を後継者として事業を引き継ぐ方法です。前出の帝国データバンクの調査では、自社の役員などを内部昇格させる従業員承継の割合は 31.7%と、親族内承継に次いで高くなっていますが、これも、前年度と比較すると減少傾向となっています。 【メリット】 【デメリット】 (【後編】に続く)
《速報解説》 倫理規則の改正等に対応した「監査ツール」の改正が確定 ~重要な虚偽表示リスクの識別と評価の区別等をより明確にするため様式を変更・新設~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年6月15日付けで(ホームページ掲載日は2023年6月20日)、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」を公表した。 これにより、2023年3月20日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられたコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、2022年6月の「監査事務所における品質管理」(品質管理基準報告書第1号)などの改正や、2022年7月の倫理規則の改正に対応するものである。多くの様式が見直されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 重要な虚偽表示リスクの識別と評価の区別、固有リスクと統制リスクの評価を、様式上、より明確にするなど、次の様式の見直し又は新設が行われている。 (了)
《速報解説》 JICPA、「倫理規則に関するQ&A」の改正及び「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A」の公開草案を公表 ~報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年6月15日、日本公認会計士協会は、「倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正及び倫理規則研究文書「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 2022年7月25日改正の倫理規則では、監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体である場合、報酬関連情報に関する透明性の確保の観点から、監査役等とのコミュニケーションとともに、依頼人又は会計事務所等による報酬関連情報の開示が求められている。 公開草案は、会計事務所等が改正倫理規則に基づいて報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示すものである。 意見募集期間は2023年7月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)関係 Q410-13-1の補足において、依頼人と会計事務所等のそれぞれが法令等又は倫理規則に基づく開示のために報酬に関する情報を集計し、算定する際、報酬の集計範囲や算定プロセスの相違等により、両者の間に差分が生じることがあると記載している。 これらの情報は、いずれも同一の会計事務所等及びネットワーク・ファームに係る報酬に関する情報であるため、依頼人の監査役等を含む利害関係者に対して会計事務所等の独立性の評価に関連すると合理的に考えられる情報を整合的に提供する観点から、次の(1)及び(2)を満たす場合には、依頼人が算定した報酬に関する情報を、倫理規則R410.31項に基づく報酬関連情報として取り扱うことができるものと考えられるとしている。 Ⅲ 倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)関係 次の事項について、取扱いを示している。 1 金融商品取引法及び会社法に基づく監査の監査報告書における報酬関連情報の開示(Q1) 社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人が、金融商品取引法に基づく監査及び会社法に基づく監査の両方を受け、報酬関連情報の開示を行っている場合には、金融商品取引法又は会社法に基づくいずれかの監査報告書において報酬関連情報を開示することで足りるとされている(倫理規則に関するQ&A Q410-13-4)。 したがって、金融商品取引法に基づく監査の監査報告書において報酬関連情報を開示する場合には、会社法に基づく監査の監査報告書では、その開示を省略することが考えられる。 ただし、依頼人は、会社法施行規則に基づいて、事業報告において会計監査人の報酬を開示することが求められているため(会社法施行規則126条2号及び3号)、会計事務所等は、会社法に基づく監査の監査報告書において開示を省略する場合であっても、会社法に基づく監査の際に、依頼人が開示する報酬に関する情報について検討することが考えられる。 2 比較年度に関する報酬関連情報の開示(Q2) 「過年度の比較情報―対応数値と比較財務諸表」(監査基準報告書710)に基づいて、監査報告書における監査意見が対応数値方式で表明される場合、通常、過年度の比較情報に関連する報酬関連情報の開示は求められないものと考えられる。 3 四半期レビュー及び中間監査における報酬関連情報の開示(Q3) 社会的影響度の高い事業体の年度の財務諸表の監査業務において報酬関連情報を開示する場合には、四半期レビュー及び中間監査において報酬関連情報を別途開示することまでは求められない。 四半期レビュー及び中間監査に対する報酬は、当該年度の監査業務における報酬関連情報に含めて開示すれば足りるものと考えられる。 4 臨時計算書類及び訂正報告書に関する監査における報酬関連情報の開示(Q4) 訂正報告書に関する監査報酬について、過年度の訂正報告書の財務諸表の対象期間にそれぞれ按分計算し、訂正報告書の対象期間に係る報酬に加えて開示することが考えられる。 ただし、訂正報告書に関する監査報酬を、例えば、当該訂正報告書に関する監査業務を実際に実施した会計年度の監査報酬に含めて開示することも考えられる。 このほか、臨時計算書類の監査に関する報酬関連情報の開示についても記載している。 5 報酬関連情報の集計範囲及び算定基準(Q5) 報酬関連情報の集計範囲及び算定基準については、財務諸表の対象期間における契約金額、支払額、発生額又は請求額のいずれか、また、当年度末をまたいで次年度にかけて提供する単独の非監査業務の場合、業務完了時の年度の報酬としてよいのかなどの論点がある。 報酬関連情報の集計範囲及び算定基準は、次のとおりとすることが考えられるが、継続して採用することを前提として、他の合理的と考えられる集計方法によることも認められるものと考えられる。 なお、依頼人のグループ内において一貫した集計範囲及び算定基準を用いることが考えられる。 監査業務及び監査以外の業務のいずれについても、業務報酬単価と業務提供時間に基づいて報酬額が決定される契約の場合には請求額とする等、倫理規則R410.31項の要求事項を踏まえ、業務契約の形態に応じた合理的な報酬金額を集計範囲に含めることが考えられる。 6 非連結子会社の報酬関連情報(Q10) 非連結子会社に関する報酬の開示は、当該報酬が会計事務所等の独立性の評価に関連することを知っている場合又はそのように信じるに足る理由がある場合に開示が求められる(倫理規則R410.31項(3))。 このため、例えば、利害関係者が会計事務所等の独立性を評価する上で影響しないと想定され、報酬関連情報の開示が求められないと判断した場合等には、当該非連結子会社に係る報酬を集計範囲に含めないことが考えられる。 一方、監査の過程等で入手可能な情報から、非連結子会社に関連して会計事務所等の独立性の評価に影響を与える可能性がある情報(例えば、非保証業務の事前了解の過程において、会計事務所等やネットワーク・ファームが、依頼人の企業グループの規模に対して重要な契約金額の業務を受嘱する等の情報)を捕捉した場合には、会計事務所等の独立性の評価への影響を慎重に判断し、当該非連結子会社に係る報酬を集計範囲に含めることが考えられる。 7 親事業体及び関連会社の報酬関連情報(Q11) 報酬開示の集計範囲については監査業務の依頼人及びその子事業体(連結又は非連結を問わない)のみであり、親事業体や関連会社は含まれないという理解でよいかについては、報酬開示の集計範囲には、親事業体や関連会社は含まれない(倫理規則R410.31項)とのことである。 8 連結計算書類を作成していない場合の報酬の集計範囲(Q13) 監査業務の依頼人が連結計算書類を作成していない場合(会計事務所等の監査対象が計算書類等のみである場合)であっても、倫理規則に準拠して開示する報酬関連情報の範囲は、子事業体を含む連結ベースの開示となるのか、また、ネットワーク・ファームに係る報酬も含めるのかについては、次のように記載している。 社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人が連結計算書類を作成していない場合、連結子会社は存在しない。 一方、非連結子会社に関する報酬の開示は、当該報酬が会計事務所等の独立性の評価に関連することを知っている場合又はそのように信じるに足る理由がある場合に開示が求められる(倫理規則R410.31項ほか)。 したがって、これに該当する非連結子会社に対する業務が存在する場合には、ネットワーク・ファームが受領している報酬も含めて報酬関連情報の集計範囲に含めることになるものと考えられる。 9 決算期の異なる子事業体の取扱い(Q15) 決算期の異なる子事業体に係る報酬については、Q6のAを踏まえ、次のとおりとすることが考えられるが、継続して採用することを前提として、他の合理的な集計方法によることも認められるものと考えられる。 10 立替経費の取扱い(Q16) インボイス制度導入に伴い立替経費を報酬に含めるようになった場合であっても、開示する報酬金額には、立替経費や消費税等を含めないことが適当と考えられるので、立替経費を報酬金額に含める形式の契約であっても、監査業務の依頼人との間で経費相当額として合意している金額については、開示する報酬金額から控除することが考えられる。 また、立替経費を報酬に含めて請求することが継続して行われている場合には、継続して採用することを前提として、開示する報酬金額から控除しないことも認められるものと考えられる。 11 倫理規則が求める報酬関連情報の監査業務の依頼人による開示(Q17) 依頼人が有価証券報告書において倫理規則で求められている報酬関連情報を開示している場合であっても、法令等に基づいて、監査報告書において報酬関連情報を記載することが金融商品取引法に基づく監査における監査報告書において求められる。 12 報酬関連情報の開示に係る工数(Q25) 会計事務所等による報酬関連情報の集計及び算定又は依頼人による開示情報の検討には一定の工数を要することが想定される。 これらの手続によって発生が予想される関連工数については、倫理規則の要求事項に基づく開示に関連する業務であることから、依頼人の財務諸表に対する監査業務の一環として、倫理規則に基づく報酬関連情報に含めて開示することが考えられる。 (了)
《速報解説》 国税庁、R5改正を反映した給与所得者の 特定支出控除の特例に関する情報を取りまとめ ~給与等の支払者に加え、一定の場合でキャリアコンサルタントによる証明も可能に~ Profession Journal編集部 従業員の自発的な学び直し(リスキリング)を後押しするため、令和5年度税制改正では「給与所得者の特定支出控除の特例」の見直しが行われた。 「給与所得者の特定支出控除の特例」とは、給与所得者が特定支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が、「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度(国税庁タックスアンサー「No.1415 給与所得者の特定支出控除」参照)。 この特例の適用要件として、その対象となる特定支出について、給与等の支払者によるその支出が特定支出に該当する旨の証明書を確定申告書等に添付する必要があるが、令和5年度税制改正では、特定支出のうちの研修費又は資格取得費で、それが教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練に係るものであるときは、給与等の支払者による証明書の代わりにキャリアコンサルタントによるその支出が特定支出に該当する旨の証明書を確定申告書等へ添付することができるようになった(改正後の給与所得者の特定支出の控除の特例は、令和5年分以後の所得税について適用)。 この改正を受け、令和5年6月14日、国税庁は改正事項を反映させた次の情報を公表した。 上記情報については、別冊1【表紙・目次】、別冊2【第1 解説編】、別冊3【第2 質疑応答編】、別冊4【第3 様式編】の4分冊にまとめられており、主に別冊2では前述の改正事項を反映、別冊3では、改正に係る内容として、次の問5、問6がおかれている。 5 研修費(キャリアコンサルティング費用) 6 資格取得費(法科大学院の費用) また、同ページではキャリアコンサルタントが特定支出(研修費及び資格取得費に係るものに限る)に関する証明を行う場合の手続の参照先として、次の厚生労働省のページも紹介している。 (了)
2023年6月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.523を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第116回】 「新しい資本主義実行計画改訂版案にみる税制改正の課題」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 6月6日に開かれた政府の新しい資本主義実現会議(第19回)では、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版案」(以下「実行計画2023改訂版案」又は「改訂版案」という)が提示された。 昨年の実行計画2022では、NISAの抜本的見直し等税制改正の重要課題について方向性が打ち出され、それが令和5年度税制改正に直結したことから、今回の実行計画2023改訂版も令和6年度税制改正に大きな影響を及ぼすことが予想される。 本稿では、実行計画2023改訂版案で提示されている税制上の主要な課題を整理したい。 〇国内企業立地促進 改訂版案では、国内企業立地促進の観点から、 とされている。 戦略的な投資促進税制としては、令和3年度税制改正で創設されたDX投資促進税制とカーボンニュートラル投資促進税制が記憶に新しい。 DX投資促進税制は、デジタル技術を活用した企業変革を進める観点から、「つながる」デジタル環境の構築(クラウド化等)による企業変革に向けた投資について、税額控除(5%・3%)又は特別償却(30%)ができる措置(2年間の時限措置)である。令和5年度税制改正では、企業がDXを進めて行く上で不可欠なデジタル人材の育成・確保を促すため、人材育成・確保等に関連する事項を要件化する等の見直しが行われた上で2年間延長された。 一方、カーボンニュートラル投資促進税制は、2050年カーボンニュートラルに向け、脱炭素化効果の高い先進的な投資(化合物パワー半導体等の生産設備への投資、生産プロセスの脱炭素化を進める投資)について、税額控除(10%・5%)又は特別償却(50%)ができる措置(3年間の時限措置)であり、本年度末に適用期限を迎える。 今国会に提出された、「租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書」によれば、令和3年度における両制度(税額控除)の適用件数はそれぞれ8件、6件、減収額はそれぞれ4億円、1億円にとどまっている。適用初年度という影響もあろうが、適用実態は僅少と言わざるをえない。 従来の投資減税は、初期投資に着目し、また、適用期限は2年ないし3年の措置であることが通例であるが、今回の改訂版案のように、初期投資のみならずランニングコストにまで対象を広げ、さらに、適用期限も中長期にわたる息の長い措置が検討されるのであれば、企業の予見可能性が高まることが期待できる。 〇イノベーション環境の整備 改訂版案では、 とされている。 すでに、経済産業省は、「我が国の民間企業によるイノベーション投資の促進に関する研究会」を4月に立ち上げ、わが国のイノベーション拠点としての魅力向上により国際競争力を強化し、民間企業によるイノベーションへの資金循環を促進するために必要な施策の検討を開始している。 この研究会の主たる関心事は、研究開発フェーズを経て、産業化された後に稼得される所得の取扱いである。その所得が次なるイノベーションの原資となるよう、つまり「イノベーションの循環」を確立することにある。諸外国では、パテントボックスあるいはイノベーションボックスと呼ばれる制度の導⼊が進んでいる。イノベーションボックス税制は、特許等の知的財産から⽣じる所得に優遇税率を適⽤する制度であり、研究開発拠点としての⽴地競争⼒の強化やイノベーションを促進することが⽬的とされている。 〇ストックオプション 改訂版案では、ストックオプション税制に関し、次のとおり記載している。 税制適格ストックオプションの主な要件には、①付与の対象、②発行価額、③権利行使期間、④権利行使限度額、⑤権利行使価額、⑥譲渡制限、⑦保管委託、がある。 改訂版案で指摘された課題は、このうち、①付与の対象、④権利行使限度額、⑤権利行使価額、⑦保管委託、の4点である。 なお、②発行価額に関しては、国税庁から5月30日に所基通23~35共-9及び措通29の2-1の通達改正のパブコメが公示され、同日国税庁に「ストックオプションに対する課税(Q&A)」が公表されたところである。 〇事業承継 事業承継税制は、令和4年度税制改正で、特例承継計画の提出期限を令和6年3月末まで1年間延長されたが、その際、与党の令和4年度税制改正大綱で、「日本経済の基盤である中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上が待ったなしの課題であるために事業承継を集中的に進めるための時限措置としていることを踏まえ、令和9年12月末までの適用期限については今後とも延長を行わない」とされている。 しかし、改訂版案では、 とされており、事業承継税制の延長に言及された点が注目される。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第50回】 「取締役に対する自己株式の処分につき、安価であったために税務上の評価額との差額が給与等であるとされた事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 資本等取引と法人税法上の益金及び損金 法人税法上、資本等取引が益金の額や損金の額の算定対象から除かれることはよく知られていると思われる。具体的には、法人税法22条2項において、益金の額となる資産の販売等の取引から資本等取引が除外される旨が示されるとともに、法人税法22条3項では、損金の額となる損失の額から資本等取引が除外される旨が示されている。そして、法人税法22条5項において、「資本等取引」の定義につき、「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配・・・及び残余財産の分配又は引渡しをいう」とされている。すなわち、自己株式の取得や処分に関しても、資本等取引に該当する(法法22⑤、2十六、法令8) このように、資本等取引を法人税法上の所得計算から除外するのは、企業会計原則における資本維持の要請から、資本取引と損益取引とを厳格に区別し、企業の利益と損失は損益取引からのみ生じるという考え方を前提としているからである(※1)。 (※1) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)352頁。 (2) 自己株式を役員に低廉譲渡した場合の課税関係 ここで、自己株式を役員に譲渡したところ、それが廉価でなされたものとして「給与等」であると認定され、納税者が源泉徴収義務を負うことになると示された事例として、東京地裁令和4年2月14日判決がある(※2)。 (※2) 判例集未登載、TAINS:Z888-2419。 (※3) 当該事例の論点は、本稿で取り上げるもの以外に、①代表取締役が納税者に1株当たり1,500円で行った株式の譲渡が所得税法59条1項2号所定の「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当するか否か、②本件における一連の取引に係る意思表示が錯誤無効であるか否か、という点がある。このうち、①に焦点を当てた評釈として、渡辺充「発行会社を介する三者間の株式の譲渡とみなし譲渡課税」税理66巻2号(2023)210頁がある。 本件は、納税者が以下のように主張し、自社の正当性を主張した。 裁判所は、これらの納税者の主張に対し、資本等取引についての概念は「法人税法上のものにとどまるし、ある発行会社が自己株式を処分した場合であっても、それが廉価でされたものであるときには、その相手方である個人に経済的な利益が生ずることは明らかである」とした上で、「ある発行会社が廉価で自己株式を処分した場合であっても、その相手方である個人が何らかの給付と引換えにそれを取得していたときには、当該個人に対して贈与税を課することはでき」ず、長男は納税者の「取締役としての地位にあってその職務を遂行していたからこそ・・・その地位に基づいて納税者から当該株式を取得したものと認められるから、・・・経済的な利益についても、その地位に基づく労務の対価として支給されたものと解するのが相当である」と示している。 (3) 本件裁判例の意義と実務上の対応 この裁判例が示した意義は、資本等取引の概念はあくまで法人税法上のものであると示したことにあるといえる。換言するとすれば、役員に対する自己株式の処分が役員給与税制において問題とならないのは、資本等取引に係る規定が法人税法上存在するがためである反面、自己株式の処分であってもそれが安価でなされたものであれば、所得税法上の「給与等」に該当し得るということだと思われる。 また、所得税基本通達59-6について、現在はタキゲン事件が契機となって整理されているが(※4)、裁判所は、本件のように所得税基本通達36-36の適用を判断する場面においても所得税基本通達59-6を適用すべき旨を言及した。すなわち、長男が財産評価通達188(1)所定の同族株主に当たると認定した上で、自己株式を役員に譲渡した場合の「給与等」とされる経済的利益の評価について所得税基本通達59-6に準じ財産評価基本通達178~189-7までによることに合理性がある旨も示しており、この点も意義があると考えられる。 (※4) 最高裁令和2年3月24日判決(最高裁判所裁判集民事263号63頁、TAINS:Z270-13404)。 本件では、次期経営者としての成長を促すことを目的として取締役である長男に株式を廉価で譲渡としたところ、当該利益部分が「給与等」に該当し得ると示唆されたものであるため、自己株式を有する法人が取締役に自己株式を譲渡する際は、当該自己株式の税務上の適正価値を把握した上で慎重に判断したいところである。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第53回】 「適格株式分配を行った場合の 現物分配法人、現物分配法人の株主の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格株式分配を行った場合の現物分配法人、現物分配法人の株主の取扱いについて解説します。 1 適格株式分配があった場合の現物分配法人の取扱い (1) 資産の譲渡 適格株式分配により現物分配法人の株主に完全子法人株式の移転を行った場合には、完全子法人株式を現物分配法人の株主に帳簿価額で譲渡したものとされ、譲渡損益は生じません(法法62の5③)。 (2) 適格株式分配により減少する資本金等の額 現物分配法人の適格株式分配の直前の完全子法人株式の帳簿価額に相当する金額は、資本金等の額から減算されます(法令8①十六)。 (3) 適格株式分配により減少する利益積立金額 適格株式分配が行われた場合には、利益積立金額は減少しません。 (4) 源泉徴収 適格株式分配が行われた場合には、利益積立金額は減少せず、配当が認識されないため、源泉徴収を行う必要はありません。 (5) 具体例 ① 前提 ② 現物分配法人の税務仕訳 2 適格株式分配を行った場合の現物分配法人の株主の取扱い (1) 完全子法人株式の取得価額 完全子法人株式の取得価額は、完全子法人株式対応帳簿価額((2)参照)となります(法令119①八)。 (2) 完全子法人株式対応帳簿価額 完全子法人株式対応帳簿価額とは、下記算式で計算した金額をいいます。 (3) みなし配当 適格株式分配があった場合には、みなし配当は生じません。 (4) 現物分配法人株式の譲渡損益 適格株式分配を行った場合には、現物分配法人の株主は、現物分配法人株式のうち、完全子法人株式に対応する部分の譲渡を行ったものとみなされます。 金銭等が交付されない(完全子法人株式のみ交付される)場合の譲渡損益の計算については、譲渡対価と譲渡原価が、いずれも完全子法人株式対応帳簿価額となり、譲渡損益は生じません(法法61の2⑧、法令119の8の2①)。 金銭等が交付される場合は、現物分配法人株式を時価で譲渡したものとして、譲渡損益が生じます。 (5) 具体例 ① 前提 ② 現物分配法人の株主の税務仕訳 (※) 完全子法人株式対応帳簿価額 = C社における現物分配直前の現物分配法人株式の帳簿価額(800)× A社における完全子法人株式の帳簿価額(1,000)/ A社の前事業年度終了時の簿価純資産価額(2,000)= 400 適格株式分配があった場合の課税関係をまとめると次のとおりとなります。 ◆適格株式分配を行った場合の 現物分配法人、現物分配法人の株主の取扱いのポイント◆ 適格株式分配があった場合には、現物分配法人は、完全子法人株式を帳簿価額で譲渡したものとされ、譲渡損益は生じません。 適格株式分配があった場合には、現物分配法人において資本金等の額が減少しますが、利益積立金額は減少しません。 適格株式分配があった場合には、現物分配法人の株主に移転する完全子法人株式の取得価額は、完全子法人株式対応帳簿価額となります。 適格株式分配があった場合には、現物分配法人の株主は、現物分配法人株式のうち、完全子法人株式に対応する部分の譲渡を行ったものとみなされますが、金銭等が交付されない場合には譲渡損益が認識されません。 (了)
相続税の実務問答 【第84回】 「売買契約中の土地の課税関係(買主に相続が開始した場合)」 税理士 梶野 研二 [答] あなたが相続により取得した財産は、T土地の引渡請求権であり、その価額は土地等の購入価額である9,000万円となり、一方、残代金8,500万円の支払債務が債務控除の対象となります。ただし、あなたが相続により取得した財産をT土地そのものであるとし、その相続税評価額を基として相続税の申告をすることもできます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 土地の売買契約中に当事者に相続が開始した場合 売買契約中の土地の売主に相続が開始した場合、相続税の課税上、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権(未収入金)として取り扱うこととされています(【第83回】「売買契約中の土地の課税関係(売主に相続が開始した場合)」)。 それでは、売買契約中の土地の買主に相続が開始した場合には、相続税の課税対象となる財産についてどのように考えればよいのでしょうか。 この点について、昭和61年12月5日最高裁判決は、次のように判示しました。 昭和61年12月5日最高裁第二小法廷判決(最高裁判所裁判集民事149号263頁、TAINSコード:Z154-5841) 国税庁では、この判決や前回の説明で言及した最高裁判決を受け、土地等の売買契約中に売買契約の当事者が亡くなった場合の相続税の課税財産等についての取扱いを定めました。その中で、土地等の売買契約中に土地等の買主に相続が開始した場合の相続税の課税については、次のとおり取り扱うこととされました。 (注) この取扱いは、国税当局の部内資料で示されていたもので、国税当局の職員の執筆した書籍には掲載されていたものの正式には公表されていませんでしたが、令和4年に国税庁ホームページにおいて明らかにされました(「相続開始時点で売買契約中であった不動産に係る相続税の課税」参照)。 国税庁の取扱いにおいて注目すべき点は、相続又は遺贈により取得した財産は、当該売買契約に係る土地等の引渡請求権等であるとしながら、納税者の選択により、相続又は遺贈により取得した財産を当該売買契約に係る土地等とする申告をしても差し支えないとし、その場合における当該土地等の価額は、財産評価基本通達により評価した価額によるとしている点です。上記最高裁判決では、納税者の主張したこのような課税は認められなかったところですが、相続開始後、買主の地位を承継した相続人等は、残代金を支払って売買契約に係る土地等の引渡しを受けることとなることが約束されており、(契約解除等の特段の事情が生じた場合を除き、)土地等以外の他の財産に変わり得るものではないことから、土地等の引渡請求権等とはいえ、その実態は土地等そのものとみることもできるのではないかと考えられるためです。 相続財産を土地等の引渡請求権等ではなく、土地等とすることにより、相続税の課税価格を圧縮することができるとともに(注)、稀なケースであるとは思われますが、小規模宅地等の特例(措法69の4①)を適用することが可能となることや、延納において有利に作用すること(相法38①、措法70の10①②)が想定されます。また、取引相場のない株式の評価においても、この取扱いの例によるとすれば、純資産価額方式における1株当たりの純資産価額の計算や土地保有特定会社に該当するかどうかの判定等に影響が及ぶと考えられます。 (注) 土地等の取得が租税回避又は過度の節税対策であると認められる場合には、原則どおりに土地等の引渡請求権等が相続財産であるとして、その売買契約に基づく取得価額の金額で相続税の課税価格を計算すべきであるとの指摘がされることがあり得ます。 2 質問の場合 お父様は、生前にT土地を9,000万円で購入する契約を締結し、手付金500万円を支払った後、引渡しを受ける前にお亡くなりになられ、あなたが買主であるお父様の地位を承継したとのことです。そうしますと、あなたの相続税の課税価格の計算上、あなたが相続により取得した財産は、T土地の引渡請求権であり、その価額は購入価額である9,000万円となり、一方、8,500万円の残代金支払債務が債務控除の対象となります。ただし、あなたが相続により取得した財産をT土地そのものであるとし、T土地の相続税評価額(路線価方式又は倍率方式により評価した価額)により課税価格を計算することもできます。 (了)
法人税、住民税及び事業税等に関する 会計基準を学ぶ 【第3回】 「法人税等の会計処理(適用する税率など)」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号。以下「法人税等会計基準」という)における法人税等の会計処理(適用する税率など)について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 法人税等の会計処理 本シリーズ【第2回】において、法人税等の会計処理について解説した。 【第3回】では、当該会計処理において適用する税率などについて解説する。 1 適用する税率 法人税等会計基準5-2項に従って計上する法人税、住民税及び事業税等については、課税の対象となった取引や事象(以下「取引等」という)について、株主資本、評価・換算差額等又はその他の包括利益に計上した額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定する(法人税等会計基準5-4項、29-8項)。 この場合、法人税等会計基準5項に従って損益に計上する法人税、住民税及び事業税等の額は、法令に従い算定した額から、法定実効税率に基づいて算定した株主資本、評価・換算差額等又はその他の包括利益に計上する法人税、住民税及び事業税等の額を控除した額となる。 ただし、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に法人税等会計基準5-2項に従って計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができる。 2 リサイクリング 法人税等会計基準5-2項(2)に従って計上した法人税、住民税及び事業税等については、過年度に計上された資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等を損益に計上した時点で、これに対応する税額を損益に計上する(法人税等会計基準5-5項、29-9項)。 税率の変更に係る差額をリサイクリングする処理は採用せず、過年度に計上された資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等を損益に計上した時点のみにおいて、リサイクリングすることになる(法人税等会計基準29-10項)。 具体的な会計処理については、法人税等会計基準の「[設例1] 評価・換算差額等に対して課税される場合」が参考になる。 Ⅲ 更正等による追徴の会計処理 1 定義 「更正」とは、法人税、住民税及び事業税等について、提出した納税申告書に記載された課税標準又は税額の計算が法令に従っていなかった場合やその他当該課税標準又は税額が税務署長又は地方公共団体の長の調査したところと異なる場合に、その調査により、当該納税申告書に係る課税標準又は税額を変更することをいう(法人税等会計基準4項(8))。 法人税等会計基準では、「更正」と「修正申告」をあわせて「更生等」としている(法人税等会計基準4項(9))。 2 会計処理 過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により追加で徴収される可能性が高く、当該追徴税額を合理的に見積ることができる場合、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)4項(8)に定める誤謬に該当するときを除いて、原則として、当該追徴税額を損益に計上する(法人税等会計基準6項)。 「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう(過年度遡及会計基準4項(8))。 更正等による追徴に伴う延滞税、加算税、延滞金及び加算金については、当該追徴税額に含めて処理する。 Ⅳ 還付の会計処理 過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により還付されることが確実に見込まれ、当該還付税額を合理的に見積ることができる場合、過年度遡及会計基準4項(8)に定める誤謬に該当するときを除いて、当該還付税額を損益に計上する(法人税等会計基準7項)。 Ⅴ 追徴の会計処理と還付の会計処理に関する閾値の相違 追徴の会計処理は、「更正等により追加で徴収される可能性が高く、当該追徴税額を合理的に見積ることができる場合」に行うことに注意する(法人税等会計基準32項)。 一方、還付の会計処理については、「還付されることが確実に見込まれ、当該還付税額を合理的に見積ることができる場合」に行うことに注意する(法人税等会計基準32項)。 このように、法人税等会計基準では、追徴税額に関する負債の認識の閾値と還付税額に関する資産の認識の閾値を異なるものとしている。これは、我が国のこれまでの会計慣行に照らした取扱いを重視し、追徴税額に関する負債の認識の閾値と還付税額に関する資産の認識の閾値を異なるものとしていることによる(法人税等会計基準33項)。 Ⅵ 追徴の内容を不服として法的手段を取る場合の会計処理 過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により追徴税額を納付したが、当該追徴の内容を不服として法的手段を取る場合において、還付されることが確実に見込まれ、当該還付税額を合理的に見積ることができる場合、法人税等会計基準7項と同様に、過年度遡及会計基準4項(8)に定める誤謬に該当するときを除いて、当該還付税額を損益に計上する(法人税等会計基準8項)。 「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第63号)では、追徴税額について法的手段を取る場合の取扱いについて、次のように規定していた。 当該規定に関して、法人税等会計基準は次のように説明している。 「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第63号)では、会社の主張だけでなく、課税当局(国外を含む)の主張も考慮し、総合的に判断することが規定されていたことは、実務における追徴税額の還付可能性を判断する際のポイントになるものと解される。 Ⅶ 株主資本などの区分に計上する項目に関する更生などの会計処理 法人税等会計基準6項から8項の定めに従って計上する過年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等のうち、法人税等会計基準5項に従って損益に計上されない法人税、住民税及び事業税等については、過年度遡及会計基準4項(8)に定める誤謬に該当する場合を除いて、法人税等会計基準5-2項から5-5項に準じて処理する(法人税等会計基準8-2項)。 (了)