税理士事務所の労務管理Q&A 【第10回】 「育児休業制度」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 育児休業制度が令和4年4月1日と令和4年10月1日の2段階で改正されています。 今回は、男性の育児休業と育児休業に関する雇用環境整備等の義務化について解説します。 * * 解 説 * * 1 育児休業 育児休業とは、原則として、満1歳未満の子を養育するための休業をいいますが、事業主は、就業規則で規定をしていなくても、本人からの申出があれば、育児・介護休業法に基づき育児休業を与えなければなりません。 (1) 育児休業の対象者 育児休業を希望する労働者(日雇労働者を除く)であって、1歳に満たない子と同居し、養育する者は、男女問わず育児休業を取得することができます。 ただし、有期雇用労働者にあっては、申出時点において、子が1歳6ヶ月(子が2歳に達するまでの間で必要な日数について育児休業する場合の申出にあっては2歳)に達する日までに雇用契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない者に限り育児休業が可能です。 (2) 育児休業期間 育児休業期間は、原則として「子が1歳に達するまでの間で労働者が申し出た期間」ですが、女性の場合は、産後休業(出産後8週間)が優先されるので、産後休業終了後に育児休業が開始されます。 また、保育所に入所できないなど一定の場合は、最長、子が2歳に達するまで休業をすることができます。 育児休業を希望する労働者は、原則として、育児休業を開始しようとする日の1ヶ月前(1歳を超える休業、1歳6ヶ月を超える休業及び後述の産後パパ育休の場合は、2週間前)までに、育児休業申出書を事業所の担当者に提出することにより、希望通りの期間、育児休業を取得することができます。 (3) 男性の育児休業(産後パパ育休の創設) 令和4年10月1日から通常の育児休業とは別に、子の出生後8週間以内に最長4週間(28日間)を1回又は2回に分けて取得できるようになりました。取得できる期間が、女性の産後休業中に当たることから、基本的には、男性の労働者を対象としたもので「産後パパ育休」と呼ばれています(下表参照)。 〈産後パパ育休の取得例〉 (※) 取得可能日数は、合計で4週間(28日)、分割せずに4週間一括で取得することもできます。 また、通常の育児休業では、休業中の就業は、原則不可とされていますが、産後パパ育休では、労使協定を締結している場合に限り、休業中に勤務先での仕事が可能です。 ただし、休業中の就業日数・就業時間は、休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分以下等の一定の限度があります。 (4) 育児休業の分割取得 従来育児休業が取得できるのは、特別な事情がない限り、子が1歳に達するまでに連続した期間で1回のみでしたが、令和4年10月1日から2回に分けて取得できるようになりました。 前述の産後パパ育休と通常の育児休業は別のものですので、男性の場合は、産後パパ育休と組み合わせれば、育時休業を4回に分けて取得することができます(下図参照)。 2 育児休業に関する環境整備等の義務化 令和4年4月1日から「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」及び「妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置」が事業規模を問わず、すべての事業所の事業主に義務付けられました。 (1) 育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務化 雇用環境整備の措置とは、下記の4つをいいます。この4つのうち、いずれかの措置を講じなければなりませんが、複数の措置を講じることが望ましいと言われています。 〈雇用環境整備のための措置〉 (2) 妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置 本人又は配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、事業主は育児休業制度について周知するとともに、休業の取得意向の確認を、「個別に」行うことが義務付けられました。 周知事項及び個別周知・意向確認の方法は、下記のとおりです。 3 育児休業規程の整備 育児休業制度は、事業規模を問わず、すべての事業所に適用されます。 また、改正による育児休業に関する雇用環境整備等も、すべての事業所に対して義務化されましたので、小規模の事業所でもその対応が必要です。 常時使用する労働者が10人未満の事業所は、就業規則の作成・届出義務がありませんが、育児休業に関する規程は、厚生労働省ホームページの規定例等を参考に作成していただき、女性だけでなく、配偶者の出産によって休業する男性労働者への対応にも備えてください。 (了)
〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第11回】 「新設された相続土地国庫帰属制度の概要と手続」 司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行 【Q】 令和3年4月21日の相続土地国庫帰属法の成立により新設された、相続した土地を手放して国庫に帰属させる制度について教えてください。 【A】 相続等により取得した土地のうち一定の要件を満たすものについて、法務大臣の承認を受けて一定の負担金を納付することで当該土地の所有権を国庫に帰属させる制度が創設された。 -《解説》- 1 制度創設の背景 近年、所有者不明土地(所有者が不明又は所有者の所在が不明な土地)の増加が問題になっている。このような所有者不明土地が発生する要因の1つとして、相続等により望まない土地を取得した所有者が、土地の管理を負担に感じ土地を手放したいと考えるケースが増えていることが指摘されている。 そこで、所有者不明土地の発生を予防し、土地の管理不全化を防止するために、相続等によって土地を取得した者が土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度(相続土地国庫帰属制度)が新たに設けられることになった。 2 相続土地国庫帰属制度と他の制度との違い (1) 土地所有権の放棄 土地所有権の放棄は、土地の所有者が一方的意思表示により自己の所有権を消滅させ、土地を所有者のいない状態にするものである。民法第239条第2項は、所有者のいない不動産は国庫に帰属するものとしていることから、土地所有権の放棄が認められるとその土地は国庫に帰属することになり、その点で相続土地国庫帰属制度と類似している。 他方で、土地所有権の放棄は所有者の一方的意思表示により土地を国庫に帰属させるものであるのに対し、相続土地国庫帰属制度では法務大臣による承認を経た土地のみについて国庫への帰属を認めるものである点で異なる。なお、土地所有権の放棄の可否については、現行民法上明文の規定は存在せず、確立した判例も存在していない。 (2) 国への寄付 国が土地の寄付を受けてその所有権を取得することがある。これは法的には、土地所有者と国との間で土地について贈与契約(民法第549条)を締結したものと評価される。国への寄付では、契約当事者の意思表示により土地の所有権が移転するのに対し、相続土地国庫帰属制度では、所定の手続を経ることで法律の規定により国庫に帰属する点で異なる。 (3) 相続の放棄 相続の放棄は、法定相続人が法定の期間内に家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述をすることにより、当初から相続人でなかったものとみなされ、被相続人の権利義務を一切承継しないこととする制度である。 相続の放棄をすると不動産の所有権に限らず一切の権利義務を承継しないことになるのに対し、相続土地国庫帰属制度は相続等により取得した財産のうち特定の土地のみを手放して国庫に帰属させることができる点で異なる。 3 手続の流れ 4 制度を利用するための要件 (1) 承認申請をすることができる者であること (2) 制度を利用できない土地に該当しないこと 国庫への帰属が認められるためには以下の❶及び❷に該当しないことが必要であり、承認申請した土地が以下の❶又は❷に該当する場合には、当該承認申請は却下又は不承認されることとなる。 ❶却下事由に該当する土地(法第2条第3項) ❷不承認事由に該当する土地(法第5条第1項) 5 制度の開始 相続土地国庫帰属法の施行に伴い、令和5年4月27日に相続土地国庫帰属制度は開始される。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例76】 株式会社スノーピーク 「代表取締役社長執行役員山井梨沙の辞任と代表取締役社長執行役員の交代について」 (2022.9.21) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社スノーピーク(以下「スノーピーク」という)が2022年9月21日に開示した「代表取締役社長執行役員山井梨沙の辞任と代表取締役社長執行役員の交代について」である。代表取締役の異動に関する開示であり(通常は「代表取締役の異動に関するお知らせ」というタイトルにされるが)、「異動の理由」には次のように記載されている。 奇妙な開示である。同社は適時開示の目的をよく理解していないのだろう。 2 個人的な理由だが 代表取締役が個人的な理由により辞任する場合、通常、「異動の理由」には「一身上の都合」と記載されるのみである。今回の開示における辞任理由も個人的な理由のはずだが、わざわざ「当社代表取締役社長執行役員である山井梨沙から、既婚男性との交際及び妊娠を理由として、当社及びグループ会社の取締役の職務を辞任したいとの申し出がありました。」と記載されている。 ENEOSホールディングス株式会社(以下「ENEOS」という)が2022年8月12日に開示した「代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」においても、「異動(辞任)の理由」は「一身上の都合による」と記載されているのみである。後にマスコミの報道により、女性に対する不適切な行為があったため、辞任したことが明らかになったが、それも、会社内部の事情によるのではなく、あくまで個人的な理由である。 なお、山井梨沙氏(以下「梨沙氏」という)はスズキ株式会社の社外取締役も辞任し、同社は2022年9月21日に「取締役の辞任に関するお知らせ」を開示しているが、その辞任の理由には、当然だが、「本人から一身上の都合による辞任の申し出があったため。」と記載されているのみである。 3 「誹謗中傷」に対して 今回の開示に対しては様々な反響があったようである。スノーピークは、2022年9月24日、自社のホームページ上に「誹謗中傷等に対する法的措置について」を開示し、最初に次のように記載している。今回の開示が招いた「誹謗中傷」に対して法的措置を講じるという。 今回の開示に対して様々な反響が生じることは容易に想像できたはずである。「誹謗中傷等に対する法的措置について」にも、次のように記載されている。それなのに、なぜ「既婚男性との交際及び妊娠」などと記載したのだろうか。 なお、「誹謗中傷等に対する法的措置について」には次のような記載があるが、「叱咤激励」と「誹謗中傷」の線引きについて、同社はどのように考えているのだろうか。まさか同社の関係者によるものは「叱咤激励」で、それ以外は「誹謗中傷」ではあるまい。 4 適時開示の目的 後でマスコミによって報道されるよりも先に開示した方がいいと考えたのだろうか。あるいは、「一身上の都合」と書くと、様々な憶測を呼ぶので、最初から書いてしまおうと考えたのだろうか。いずれにしても、その判断は誤りだった。今回の開示は、あくまで梨沙氏の個人的な問題をスノーピークの問題にしてしまった。 適時開示の目的は、投資家に対して投資判断に資する情報を提供することである。「既婚男性との交際及び妊娠」という記載が投資判断に資するとは思われない。プラスの印象を与えることもない。奇妙な開示を行う会社というマイナスの印象を与えるだけである。 代表取締役が個人的な理由により辞任する場合、その理由について、マスコミが関心を持つことはあっても、投資家が関心を持つことはない。代表取締役が会社内部の事情により異動するのであれば別だが、個人的な理由による場合、投資家にとって重要なのは、異動の事実のみである。そのため、通常、辞任の理由は「一身上の都合」で問題ないのである。 ENEOSは、マスコミの報道があったため、2022年9月21日、自社のホームページ上に「当社元会長に関する一部報道について」を開示し、代表取締役が「不適切な言動に及んだと判断」したため、彼に辞任を求めたのだとしている。具体的な記載を避けているのも、TDnet上にではなく自社のホームページ上に開示しているのも、それが適時開示の対象ではないことを同社が理解しているからだろう。 今回の開示においても、辞任の理由は「一身上の都合」とすべきだった。そして、あくまで梨沙氏個人が「憶測」の対象となるべきだった。どうしても「既婚男性との交際及び妊娠」を言いたいのならば、スノーピークによる開示においてではなく、梨沙氏個人の立場で公表すべきだった。 5 何を反省? 「誹謗中傷等に対する法的措置について」には、「ご叱責を頂いており、当社は、これを真摯に受け止め、深く反省する所存です」という記載がある。スノーピークは何を反省するのだろうか。奇妙な開示を行ったことだろうか、あるいは、梨沙氏が辞任したことだろうか。奇妙な開示を行ったことを反省するのならば、理解できるが、梨沙氏が辞任したことだとしたら、理解し難い。梨沙氏の辞任は個人的な理由によるもので、同社とは無関係である。同社による反省の対象とはならない。 また、今回の開示には、「本件を重く受け止め、代表取締役会長執行役員山井太から役員報酬3ヶ月分の20%を、代表取締役副社長執行役員高井文寛から役員報酬3ヶ月分の10%を自主返上したいとの申し出があり、当社としてこれらの申し出を受理することを決定いたしました」という記載があるが、これも理解し難い。梨沙氏は個人的な理由により辞任したのに、なぜ山井太氏と高井文寛氏が報酬を自主返上しなければならないのだろうか。 山井太氏は梨沙氏の父親であるため、責任を感じたのだろうか。そうだとしたら、高井文寛氏にとってはいい迷惑であるし、そもそも上場会社における経営にそうした感情を持ち込むこと自体が問題である。 あるいは、個人的な理由により職を途中で投げ出すような人物を代表取締役に選定したことに責任を感じたのだろうか。そうだとしたら、代表取締役の選定は取締役会で行うのだから、取締役全員が報酬を自主返上すべきである。 6 反省すべきは 今回の開示からわかることは、スノーピークが、上場会社でありながら、山井家のファミリー企業としての意識が抜け切れていない会社だということである。山井家としての情報発信とスノーピークとしての情報発信、山井家の責任とスノーピークの責任、それらが峻別されず、混同されている。 反省するならば、その点である。確かに山井家は依然として同社の多くの株式を所有しているようだが(第58期有価証券報告書)、同社の所有者は山井家だけではない。上場した以上、ファミリー企業としての意識は捨て去らなければならない。それが無理ならば、上場すべきではない。 そのことに気付かないと、今後また、同社は今回のような奇妙な開示を行ってしまうだろう。 (了)
プラス思考の経済効果 【第8回】 「大谷翔平選手の経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 2022年もロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手は大活躍をしています。9月27日現在で、打者として打率2割7分1厘、ホームラン34本、打点93、盗塁11、投手として14勝8敗、防御率2.47、奪取三振203と、二刀流としては伝説のベーブ・ルースを超える活躍をしています。そして、今年も昨年に続きアメリカンリーグの最高殊勲選手(MVP)の有力候補です。しかし、今年はヤンキースのアーロン・ジャッジ選手がベーブ・ルースのホームラン記録を超える61本(9月28日)を打つ大活躍をしていて、大谷選手のMVPの強敵となっています。 今回は、日米でブームを巻き起こしている大谷選手の経済効果を紹介しましょう。なお、今年はシーズン途中ですので、本稿での金額は昨年の数値です。 2 大谷選手の経済効果 大谷選手のアメリカと日本国内における直接効果の項目を次のように仮定します。 3 アメリカ国内の直接効果の推計 (1) 球場における観客増加による消費額 エンゼルス関係者の話では、大谷選手の出場する試合は以前と比較すると平均3,000人の観客が増えているとのことですので、本稿ではエンゼルスのホームゲームでは1試合につき約3,000人、ビジターでは約1,500人の観客が増加すると仮定します。MLBの試合数162試合で、ホームゲームとビジターを半分ずつとすると、ホームゲームでは約24万3,000人、ビジターでは約12万1,500人、合計約36万4,500人の観客が増加することになります。 次に、これらの増加した観客の消費額を計算します。アメリカの「マネーワイズ」が2019年に発表した「ファンにとって最も高額なメジャーリーグの球場」の特集では、全球場の平均消費額は4人家族で234.38ドル(当時の為替レートで約2万5,030円)でした。これには、チケット代、駐車場代、4人分の飲み物とホットドッグ代などが含まれています。この金額を参考にすると、大谷選手のファン増加による消費額は約22億8,086万円となります。 (2) 大谷選手によるMLBの放映権収入 MLBでは全国ネットの放映権は、各球団の収入ではなくMLBの収入になり、それらは全球団に配分されます。 本稿では日本のNHKとMLBの契約を見てみましょう。ウォール・ストリート・ジャーナルによりますと、日本のNHKとMLBとの放送権の契約は2004年~2009年の6年間で総額2億7,500万ドル(年平均約4,600万ドル:当時の為替レートで約49億8,000万円)でした。現在では正確な金額は不明ですが、毎日のように日本選手の活躍がNHKで放映されていることを考えれば、かなりの金額がMLBに支払われていると想定できます。MLBの要求はかなり厳しいので筆者は現在では少なくとも年平均約8,000万ドルがMLBに支払われていると想定しています。そして、そのほとんどが大谷選手の放映であることを考えれば、大谷選手の活躍を放送するためにNHKがMLBに支払う放送料の半分の約4,000万ドル(上記当時の為替レートで約44億円)の価値があると考えてもいいでしょう。 (3) 大谷選手の年俸 大谷選手の年俸はその成績から考えると非常に低いと言われています。一昨年大谷選手が結んだ契約は、2年間総額850万ドル(当時の為替レートで約9億3,500万円)で、2021年の年俸はたった300万ドル(当時の為替レートで約3億3,000万円)でした。アメリカの「Bleacher Report」は、2021年の大谷選手は現在もらっている年俸の10倍の価値(3,000万ドル:当時の為替レートで約33億円)があると述べています。大谷選手の年俸は、彼の生活のための消費に使われ、さらに残額は預金されるでしょう。金融機関に預けられた預金は金融機関により投資に使われます。したがって、大谷選手の年俸は経済効果の直接効果になるのです。 (4) アメリカにおける大谷選手のグッズの売上高 本拠地のエンゼル・スタジアムでの大谷選手のグッズの売れ行きは、驚くほど好調であるとのことです。エンゼルスの商品販売担当のエリック・アースア・ゼネラルマネージャーによると、「選手のグッズの売上げは対前年比で8%であれば「アメ-ジング(素晴らしい)」との評価を受けるが、大谷選手のグッズの売上げは2桁の伸びであった」と述べています。 本稿ではエンゼル・スタジアムに足を運ぶファンの約5%がオオタニグッズを購入すると仮定します。エンゼルスは年平均ホームゲームで約302万人のファンを集めるので、約15万1,000人のファンが何らかのオオタニグッズを購入すると仮定します。そして、オオタニグッズの平均価格を約8,000円とすると、オオタニグッズの売上げは約12億800万円となります。 (5) 大谷選手のスポンサー契約料 昨年、エンゼルスのジョン・カーピーノ球団社長は「オオタニと契約して日本の6企業と新しいスポンサー契約を結んだ」と述べています。日本の場合では、大谷選手のスポンサー契約は1社当たり約1億円ですので、その金額を仮定すると約6億円になります。 (6) アメリカ国内の直接効果の合計 以上の計算からアメリカ国内の直接効果の合計金額は約88億1,886億円となります。 4 日本国内の直接効果の推計 続いて、日本における大谷選手の直接効果を推計しましょう。 その結果、日本における大谷選手の直接効果は約17億円となります。 5 大谷選手の経済効果の計算 これまで計算してきた直接効果に基づいて経済効果を計算します。今回は最新のアメリカの産業連関表を入手することができなかったので、日本の産業連関表を参考にして経済効果を求めます。アメリカと日本では、産業構造は少し異なりますが、先進国としては一番類似した産業構造をしている上に、財政乗数もほぼ同じです。内閣府作成の日本の最新の全国産業連関表を用いても誤差は少ないと考えられますので、2015年の内閣府作成の「全国産業連関表」を用いて、これまで計算してきた直接効果約105億1,886万円(約88億1,886万円+約17億円)の経済効果を計算すると、次のように約227億2,074万円となりました(詳しい計算式については割愛します)。 〈大谷選手の経済効果〉 6 まとめ 本稿では、大活躍しているロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手の経済効果を分析して約227億2,074万円の経済効果があることがわかりました。これは驚くべき金額です。 例えば、2011年の中日ドラゴンズ優勝の経済効果は約219億円(共立経済研究所試算)、2013年の東北楽天ゴールデンイーグルス優勝の経済効果は約230億円(宮本研究室試算)であったことから考えれば、大谷選手1人で約227億円の経済効果をもたらすことになれば、いかに大谷選手が偉大な選手であるかということがわかるでしょう。 2022年~23年には、年俸のアップ、アメリカのインフレ、為替の円安などでさらに大きな経済効果が期待されるでしょう。 (了)
《速報解説》 金融庁、令和4年公認会計法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表 ~合わせて会計士協会からは協会制度変更要綱案が示される~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022(令和4)年10月21日、金融庁は、令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022(令和4)年5月11日に成立した「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(令和4年法律第41号)の施行に伴い、関係政令・内閣府令等の規定の整備を行うものである。 意見募集期間は2022年11月21日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等 1 上場会社等監査人登録制度に係る規定の整備 2 監査法人の社員の配偶関係に基づく業務制限に係る規定の整備 監査法人の社員が被監査会社等の役員等と配偶関係を有する場合に、監査法人の業務が制限されることとなる社員の範囲等を定める。 3 その他 4 施行期日等 パブリックコメント終了後、所要の手続を経て公布、施行(2023(令和5)年4月1日)の予定である。 経過措置が規定される予定である。 Ⅲ 日本公認会計士協会の「公認会計士法改正に関連する協会制度変更要綱案」(公開草案) 1 主な内容 2022年10月21日、日本公認会計士協会は、「公認会計士法改正に関連する協会制度変更要綱案」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、前述の公認会計士法の改正による改正項目のうち、日本公認会計士協会の会則等を変更する必要のあるものに関して、その制度変更の方向性について取りまとめたものである。 なお、公開草案は、上述の令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等を踏まえたものである。 公開草案は次の項目を取り上げている。 意見募集期間は2022年11月4日までである。 2 適用時期等 2022年改正公認会計士法は、公布の日(2022年5月18日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。変更規定は、経過措置を含め法令の施行に従う。 (了)
《速報解説》 会計士協会が監基報600「グループ監査における特別な考慮事項」の改正案を公表 ~コミュニケーション・職業的懐疑心の重要性を強調、品質管理への取組み等見直す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年10月18日、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022年4月に国際監査・保証基準審議会(IAASB)から公表された、International Standard on Auditing 600 (Revised), Special Considerations- Audits of Group Financial Statements (Including the Work of Component Auditors)に対応するためのものである。 意見募集期間は2022年11月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 適用範囲 本報告書は、構成単位の監査人が関与する状況を含む、グループ財務諸表の監査(以下「グループ監査」という)に関して、特に考慮すべき事項を中心に実務上の指針を提供するものである(1項)。 グループ財務諸表は、連結プロセスを通じて作成された複数の企業又は事業単位の財務情報を含む財務諸表である(14項(11))。 このように「グループ財務諸表」の定義を具体化し、個別財務諸表監査であっても複数の事業単位(例えば、支店又は部門)が存在する場合、グループ監査の対象になり得ることを明確化している(14項(11))。 2 グループ監査人 現行監基報600の「グループ監査チーム」を廃止し、「グループ監査人」を新設している。 グループ監査人とは、グループ監査責任者及び構成単位の監査人以外の監査チームのメンバーをいう(14項(8))。 3 構成単位の監査人 構成単位の監査人とは、グループ監査の目的で構成単位に関連する監査の作業を実施する監査人をいう(14項(3))。 4 品質管理への積極的な取組み グループ監査人が、グループ財務諸表に対する重要な虚偽表示リスクを識別及び評価し、評価したグループ財務諸表に対する重要な虚偽表示リスクに基づいて、リスク対応手続を決定することがより強調されている(13項(2))。 重要な構成単位の概念は廃止されている。 監査の作業を実施する構成単位の決定の柔軟性の確保とともに(5項及び22項(1))、適用指針において、決定に影響する要素の例示として、事業単位における資産、負債及び取引の規模並びに内容が含まれている(A51項)。 5 重要性 現行の「構成単位の重要性の基準値」に代えて、構成単位の財務情報の監査手続を立案及び実施する際に適切な「構成単位の手続実施上の重要性」の決定を要求している(35項)。 6 コミュニケーションの強調 グループ監査人と構成単位の監査人の双方向のコミュニケーションの重要性を強調している(8項)。 7 職業的懐疑心の重要性の強調 グループ監査人の職業的専門家としての懐疑心を行使することの重要性を強調している(9項)。 8 構成単位の監査人の作業の妥当性の評価 グループ監査人は、構成単位の監査人の作業がグループ監査人の目的に照らして十分ではないと結論付けた場合、どのような追加的な監査手続を実施すべきか、及びその追加的な監査手続を構成単位の監査人又はグループ監査人のいずれが実施すべきかを決定しなければならないとしている(48項)。 9 適用の柔軟性 本報告書は、規模や複雑さを問わず、すべてのグループ監査を対象としている(10項)。 ただし、本報告書の要求事項は、各グループ監査の性質又は状況に照らして適用されることを意図している。 Ⅲ 適用時期等 原則として、2024年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する予定である(12項)。 適用時期等が詳細に規定されているので、注意が必要である。 (了)
2022年10月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.491を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第108回】 「新しい資本主義実現会議が総合経済対策の重点事項を取りまとめ」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 10月4日、政府の「新しい資本主義実現会議」は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の実施についての総合経済対策の重点事項を取りまとめた。 本年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、人への投資、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX・DXへの重点投資を官民連携の下で推進するとともに、資産所得の倍増、経済社会の多極集中化、社会的課題を解決する経済社会システムの構築等に取り組むこととしていた。 政府では、10月中に総合経済対策を取りまとめる方向となっており、この「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の決定事項のうち、早期に実施する必要がある重点事項を総合経済対策に反映するため、今回の取りまとめに至ったものである。 今回の取りまとめには、税制改正に関連する事項が多数含まれている。 〇スタートアップ まず、スタートアップに関しては、「スタートアップに関わる税優遇措置を検討するとともに、公共調達によるスタートアップの支援の拡大や、創業時の経営者のリスクを軽減するために個人保証を不要とする制度を措置する」とされている。 10月3日の第210回国会における岸田総理の所信表明演説でも、「第2、第3のトヨタ、ホンダ、ソニーは、彼ら挑戦者の中から生まれる。その強い思いから、本年をスタートアップ元年とし、スタートアップ5年10倍増を視野に、5か年計画の策定に取り組んでいます。公共調達における優遇制度の抜本拡充、税制上の優遇措置や資金面の支援に加え、若く優れたIT分野の才能の発掘・育成、日本と海外のスタートアップ・エコシステムの接続など、スタートアップ人材への投資も進めます」と触れられていた。さらに具体的には、税制上の措置として次の5点が挙げられている。 政府では、スタートアップ育成5か年計画を本年末に策定するため、新しい資本主義実現会議のもとに検討の場としてスタートアップ育成分科会を設け、10月14日に第1回を開催した。 〇資産所得倍増 資産所得倍増プランに関連して、NISAについて、個人金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるべく、その抜本的拡充や恒久化について検討し、本年末の来年度税制改正において結論を得るとされている。また、iDeCoの加入可能年齢の引上げなど、iDeCo制度の改革について検討し、本年末の来年度税制改正において結論を得るとされている。 特にNISAについては、岸田総理が9月22日のニューヨーク証券取引所での講演で、「日本には、2,000兆円の個人金融資産がある。現状、その1割しか株式投資に回っていない。資産所得を倍増し、老後のための長期的な資産形成を可能にするためには、個人向け少額投資非課税制度の恒久化が必須だ」と述べており、その恒久化の期待が高まっている。 政府では、資産所得倍増プランを本年末に策定するため、検討の場として資産所得倍増分科会を設け、10月17日に第1回を開催した。 〇暗号資産の期末評価 この他、Web3.0に関する税制上の措置として、暗号資産事業を行う法人が自ら発行して保有する暗号資産について、事業運営のために継続的に保有する場合は、法人税の期末時価評価課税の対象として課税されないように措置することについて検討し、本年末の来年度税制改正において結論を得ることとされている。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第3回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 3 暗号資産の私法上の性質・位置付け (1) 総論 暗号資産が所有権の客体となり得るならば、そのことから演繹的に暗号資産の法律関係を導く途が拓かれるが、有体物ではない、姿かたちのない暗号資産は所有権の客体にならないと考えられている(以下の記述については、金融法委員会「仮想通貨の私法上の位置付けに関する論点整理」のほか、泉絢也「暗号資産(仮想通貨)取引と課税」日本租税理論学会編『租税上の先端課題への挑戦』95頁以下(財経詳報社2020)及びそこで引用されている文献参照。後述の(2)の「《更なる考察》 『占有=所有』構成」、「《更なる考察》 私法の議論から得られる示唆」において同じ)。 暗号資産の私法上の性質ないし位置付けについては、上記のほか、知的財産権構成、財産構成、財産権構成、合意構成などによって説明を試みる見解が存在する。 結論を述べると、BTCに代表されるような暗号資産の私法上の性質は現時点では見解の一致をみないが、“消極的な形”での性質決定という点では局地的な共通理解を観察し得る。 すなわち、所有権の客体ではない、債権ではない、知的財産権ではないという点はおおむね見解が一致している。他方、“積極的な形”での性質決定、いい換えれば、暗号資産は所有権や債権などではないとしても、どのように説明すべきであるかという局面においては、見解が対立している。 (2) 各論 (1)のとおり、暗号資産の私法上の性質は現時点では見解の一致をみないが、個別の法的論点において、総論的な議論に関する、すなわち暗号資産の私法上の性質ないし位置付けに関する立場の違いによって結論が異なるかといえば、必ずしもそうとはいい切れない(もちろん、両者は無関係でもない)。 暗号資産の私法上の法律関係に係る個別の法的論点については、無権限者による移転、預託及び信託、ネットワーク参加者以外の者に対する効力(強制執行、相続等)など様々なものを想定し得るが、上記の総論的な議論との関係も含めて、個別の論点に関する私法上の議論はいまだ発展途上の段階にある。 以下では、各論レベルの議論のうち、税法の観点から注目すべき点を簡単に確認する。 ➤《更なる考察》 「占有=所有」構成 無権限者による処分の論点に関して、元の保有者が、無権限者に対し、物権に対する支配が妨げられたときに物権の内容を実現する物権的請求権(又はこれに類似する権利)として、BTCの返還を請求する権利を有するかという問題がある。 BTCについて、金銭における「占有=所有」と同じような規律を働かせる考え方があり得る。 金銭は、硬貨や紙幣といった動産によりその価値が表されているため、動産における事実上の支配すなわち占有の在りかによって、その権利(所有権)の帰属が定まることになり、占有を移転させることで、権利自体を移転させることができる。 BTCのような暗号資産についての事実上の支配は、秘密鍵(パスワード)とこれに対応するアドレスにより、ブロックチェーン上で電子的に記録されている残高を排他的に管理するという状態により実現される。 上記のようなブロックチェーン上の記録のみによって権利の帰属者が決せられるという考え方がある。これによれば、元の保有者に物権的返還請求権(又はこれに類似する権利)は認められない。 この考え方は、そのブロックチェーン上の記録の移転によりBTC自体も移転するとの関係を常に認めることにより、あたかも金銭における「占有=所有」と同じような規律を働かせるものである。 もっとも、BTCが、不特定の者との間で決済・売買等に用いることのできる支払手段として法的に通貨やこれに準じるものと評価できるものであるならば、ブロックチェーン上の記録のみによって権利の帰属が決せられると解し、金銭の「占有=所有」と同じような議論が可能になると考えられるが、BTC(あるいは他の暗号資産)がそのような意味での通貨やこれに準じるものといえるかについては、今後、暗号資産が社会にどのように受け入れられるか不透明であるということもあって、様々な見方があり得ることも指摘されている。 いずれにせよ、ここでは、暗号資産の性質を金銭に寄せることで、暗号資産の法律関係についても「占有=所有」理論を働かせる見解があり得ることに注目しておきたい。 ➤《更なる考察》 私法の議論から得られる示唆 暗号資産の私法上の議論は、暗号資産のあるべき課税関係を検討する際の参考になる。 以下、暗号資産の私法上の性質や法律関係などの議論から得られる示唆を検討する。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第43回】 「役員への保証料の支払いについて適正額が示された事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 経営者保証の実態 中小企業が資金調達を検討する際、金融機関から融資を受けるという方法が第一の選択肢にあることは疑いがないと思われる。その場合、その法人の財務内容等によっては、金融機関から信用保証協会による保証や、経営者保証として役員個人による保証等を求められることがある。 法人側として、一般的に、信用保証協会による保証を受ける対価として保証料を負担するよりは、役員個人による保証を行うことで、資金調達コストを少なくできる。役員個人が保証することで、信用保証協会への保証料がコストカットできるからである。 この場合において、経営者保証を行った役員に法人が保証料を支払うケースもわずかながら存在する。役員に保証料を支払う方法は、節税や社会保険料削減を実現する手段の1つとして紹介されているものも散見されるところである。 しかし、平成26年2月1日以降、全国銀行協会及び日本商工会議所による「経営者保証に関するガイドライン」が運用開始となったことを受け、金融機関が役員個人にも保証を求めるケース自体が減少傾向にあると感じられるが、本稿では役員個人に保証料を支払うケースを取り上げてみたい。 (2) 役員への保証料の支払いについて適正額が示された事例 役員に支払った保証料の適正額について言及した事例に、宮崎地裁平成12年11月27日判決がある(※1)。以下にその概要について触れる。 (※1) 税務訴訟資料249号731頁、TAINS:Z249-8779。 役員に対して支払った保証料が過大とされた場合、一般的には各損金算入要件に当たらないため損金不算入とされるところ、本件は、役員に支払う保証料率につき税務上相当とされる上限の判断が示された事例であるという点で注目される。 本件においては、納税者は年利率2%の保証料が適正額であると主張し、その根拠として信用保証協会は中小企業育成の見地から保証料率を低く設定していること、民間におけるカードローン等の保証料率は高利率であること等を示したが、このような主張は採用されなかった。 (3) 当該事例が示唆すること 当該裁判例で上記の結論が導かれた理由を要約して示す。 ① 当該役員個人は保証の受託を業としていないため、保証の危険負担に見合う収入のために大量の保証を受託することはあり得ず、債務保証に対して保証料を支払う合理性について他の保証事例を参考とせざるを得ないこと。 ② 納税者の財務内容は健全で経済的信用があるにも拘わらず金融機関が役員個人に債務保証を求めたのは、専ら役員たる地位に着目して債務保証を求めたためである。すなわち、当該役員に対して債務保証という厳格な法的責任を負わせることによって、当該役員に自覚と責任をもって経営に当たらせることを目的としていたこと。 ③ 納税者の本店所在地を管轄する熊本国税局管内の同業類似法人のうち、役員あるいはその親族が債務保証をしている場合において、保証料を支払っているケースは納税者以外に皆無であったこと。 ④ 民間の保証会社は営利行為であり、保証事故発生等に備えて利益を確保するのに対し、役員による保証については保証によって利益を上げるべき要請がないため、民間の保証会社の保証料を参考にすることは相当ではないこと。 ⑤ 信用保証協会は営利目的ではないという点で役員による保証と共通していること。 上記示された内容によれば、法人がその役員に対して保証料を支払うこと自体が異例であること、そして民間の保証会社の情報を参考とすることは適切ではないということが示されており、いわば消去法にて信用保証協会による利率が採用されたといえる。 他方で、裁判所は、「会社の役員が当該会社の債務を保証するについては、諸々の個別的な事情が存在し得るものであり、・・・個々の保証の個別的事情を考慮してその適用の可否及び修正が検討されるべき場合もあり得る」とも判示し、個別的事情が認められることで一定以上の保証料の支払いが認められ得ることを示唆した。 (4) 役員に保証料を支払う場合の実務上の対応 上記事例では、年利1%の保証料率が適正である旨が示されたが、これを根拠に「役員に対する保証料率は1%までなら損金算入可能」と表面上だけで判断することは危険だと考える。実務上において、役員個人に保証料を支給することを検討する場合、少なくとも、その時点で対象会社に適用される信用保証協会による保証料率を確認すべきだといえる(※2)。 (※2) 保証料率については、例えば東京信用保証協会HP「信用保証料率の体系」参照。 その上で、それ以上の保証料率にて保証料を支払うことを検討する場合、役員個人が他社等から保証を引き受けているか、他社における保証料の支払事例等を確認することで、その妥当性と個別的事情の有無を検証することは必要だろう。 また、保証料として支払うという選択肢の他に、実務上、経営者保証の実施の有無を加味して定期同額給与として支給する役員報酬額を判断することも考えられよう。この場合には当然ながら定期同額給与の諸条件を充足することが必要となる。 (了)