暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第17回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解⑧」 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 問10 NFT取引に係る源泉所得税の取扱い 【NFT取引と源泉所得税】 居住者に対して、国内において著作権(著作隣接権を含む)の使用料の支払をする者は、その支払の際、所得税を徴収しなければならない(所法204①一)。 FAQの解説は、次のとおり、本事例について著作権の使用料に該当し、原則として、源泉徴収する必要があるとしている。 ただし、FAQの解説は、次のとおり、説明している。 結局、FAQは、「ご質問の場合、当該NFTの購入代価の支払は、給与所得者(日本で事業等の業務を行っておらず、給与の支払もしていない個人)の方が行っておりますので、当該NFTの購入代価の支払の際に、『著作権の使用料』として所得税を源泉徴収する必要はありません」としている。 常時2人以下の家事使用人のみに対し給与等の支払をする者は、その給与等のほか、著作権の使用料を含む一定の報酬等について所得税を徴収して納付することを要しない(所法6、184、204②二、所基通204-5。ただし、非居住者又は外国法人に対して支払う場合は別である)。よって、給与所得者を前提とした上記解説は当然のことを述べたにすぎない。 このように考えると、NFTの取引においても代価の支払者側に源泉徴収義務が発生する「可能性がある」ことを国税庁が認めた点にこそ、このFAQの意味がある。 もっとも、「国内において」支払ったか否かを判定するための基準が示されていないため、ブロックチェーンを利用して支払を行っている場合など実際の事案において源泉徴収義務があるか否かを判断することが難しいケースも想定される。 【源泉所得税の徴収不要の取扱い】 注目すべきことに、解説では、次のとおり、源泉所得税の徴収不要の取扱いを明らかにしている。 次の2つの要件をいずれも満たす場合には、著作権の使用料としては所得税を源泉徴収する必要はないということである。 (このような取扱いが認められる法的根拠は説明されていないものの)これまで公に認めてきたデザイン報酬等(所基通204-8、204-10)以外の著作権の使用料にも対価部分の区分が困難であることと対価部分が少額であることを条件として、徴収不要の取扱いを認めたことになる。 もっとも、例えば、次のような疑問や問題が残されている。 色々検討を重ねてみると、上記のように一定の場合に源泉所得税の不徴収を認めたことは、実行可能性や執行可能性に配慮した国税庁による苦肉の策だったというべきかもしれない。 【非居住者又は外国法人に対する支払】 FAQの解説は、非居住者又は外国法人に対する支払と源泉徴収の関係について、次のとおり説明している。 租税条約の適用関係を検討する必要があるため、非居住者又は外国法人に対する著作権の使用料や著作権の譲渡対価の取扱いを一律に説明することは難しいことから、上記のような一般論としての叙述になっているが、そもそも、NFT取引において、相手方が日本の居住者であるのか、国内に住所等を有しない非居住者又は外国法人であるのかを把握することは難しいという問題がある。 また、(居住者からNFTを購入する場合も同様であるが)NFTのマーケットプレイスやプラットフォーム、スマートコントラクト(※)等を利用するNFT取引の性質上、購入者が購入代金から日本国の源泉所得税を控除して支払うことは難しいという問題がある。 (※) スマートコントラクトとは、一般に、「ある条件で作動するプログラムをブロックチェーンに登録し、条件が満たされた際に自動的に作動させ、その結果をブロックチェーンに自動的に記録する仕組み」であり、いわば「自動化された手段を用いて契約を強制的に執行する仕組み」といわれる(北條真史=鳩貝淳一郎「暗号資産における分散型金融-自律的な金融サービスの登場とガバナンスの模索-」日銀レビューNo.21-J-3、1頁及び8頁の脚注(2)(2021)参照)。ただし、スマートコントラクト外で当事者間の契約が成立していない場合に、契約を執行するという表現が適切ではないケースがあるかもしれない。 このことは、買主の負担で、売主である非居住者又は外国法人の源泉所得税を税務署に納付し、売主には手取額を支払ったものとする、いわゆるグロスアップ計算での対応を余儀なくされる可能性を示唆している。 さらにいえば、租税条約の適用場面も考慮に入れると(明記されてはいないが、上記徴収不要の取扱いが所得税法204条1項1号のみならず同法161条1項11号の場面にも適用されることを前提とすると)、契約の主たる目的を構成する対価部分ないし対価の本質的部分に着目して使用料該当性を判断するアプローチをとるのかという疑問も惹起される。 ただし、例えば、PFP(Profile Picture)といわれるTwitterのプロフィール画像などで使用されるNFTの取引に係る対価の本質的部分は、結局、著作権の使用料の対価であると認定される可能性もある。 このように考えると、また、その文面及び内容からしてもFAQが想定する場面ではない可能性が高いが、ソフトウェアやデジタル製品に関する著作権の使用料に関わる対価の性質決定、複合的契約の取扱い等に関する議論の参考として、OECD, Model Tax Convention on Income and on Capital 2017(Full Version)(2019)のコメンタリーの12条関係パラ14、17~17.4等、水野忠恒監訳『OECDモデル租税条約2017年版』271頁以下(日本租税研究協会2019)、本田光宏「ソフトウェアの対価に関する課税関係について」税務事例54巻6号43頁以下(2022)、川田剛「シュリンク・ラップ型のコンピュータ・ソフトウェアの輸入対価がロイヤリティに該当しないとされた事例(インド)」税務事例55巻3号83頁以下(2023)参照。 (了)
〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第5回】 「「更正の請求」を限定的に解すべき理由」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 「更正の請求」の事由及び期間に係る法令解釈 (1) 大阪国税不服審判所平成27年2月9日裁決 (2) 大阪国税不服審判所平成26年10月29日裁決 2 法令解釈の出所 (1) 期間及び手続が限定されること 仙台高裁昭和59年11月12日判決に以下の説示がある。 (2) 後発的事由による場合は納税者に帰責事由がないこと 東京高裁平成28年5月18日判決に以下の説示がある。 (3) 文言どおりに解釈されるべき(請求事由が限定される)こと 東京地裁平成13年1月26日判決に以下の説示がある。 3 納税者(税理士)として留意すべきこと (1) 更正の請求事由を確認する 常識的に「還付されるべきだから」という主観的な心証で更正の請求に及んだとしても、課税庁は国税通則法及び各実定法に規定する更正の請求事由の該非を慎重に吟味した上で、該当すれば「減額更正処分」を、該当しなければ「更正すべき理由がない旨の通知処分」を行う。 まずは、法令に立ち返って(限定された)更正の請求事由に該当するかどうかを確認する必要があり、事由に該当しなければ、更正の請求以外の救済の手段(例えば、国を相手取った不当利得返還請求訴訟など)を検討すべき場合もあり得る。 (2) 期間が厳格である 国税通則法第23条第1項に規定する更正の請求期間が法定申告期限から「5年以内」に伸長されたが、後発的事由による場合は、「2月以内(国税通則法)」「4月以内(相続税法)」など早期の対応が必要であり、1日でも経過すれば、たとえ事由としては該当しても請求は認められない。 (3) 起算日を確認する 特に、後発的事由による更正の請求の場合には、起算日が法定申告期限ではなく、その類型も事由により多岐にわたることから、自らが関わる事案の「〇月以内」のカウントがスタートする日がいつかについて、法令を基に明確にしておく必要がある。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第86回】 「信託財産と滞納処分事件」 ~最判平成28年3月29日(集民252号109頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年4月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年4月1日から4月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 2023年3月31日、企業会計基準委員会は、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(実務対応報告第44号)を公表している。 これは、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用することについては、実務上困難であるとの意見があることから、必要と考えられる特例的な取扱いを示すものである。 実務対応報告は、公表日(2023年3月31日)以後適用する。 Ⅲ 内部統制関係 内部統制関係として、次のものが公表されている。 ① 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(内容:企業会計審議会。「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」への改訂など) ② 「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等(公開草案)(内容:企業会計審議会の意見書を受けて所要の改正を行うもの。意見募集期間は2023年5月12日まで) ③ 「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」(公開草案)(内容:企業会計審議会の意見書などを受けて所要の改正を行うもの。意見募集期間は2023年6月23日まで) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 倫理規則実務ガイダンス第2号「倫理規則に関するQ&A-監査法人監査における監査人の独立性について-(実務ガイダンス)」(内容:2022年7月25日付けで倫理規則が改正されたことに伴い、監査法人の計算書類を対象とする監査業務における倫理規則の適用上の留意点などを示す) ② 監査基準報告書701周知文書第2号「監査上の主要な検討事項(KAM)の適用3年目に関する周知文書」(内容:KAMの適用3年目の期末監査を迎えるに当たって、ボイラープレート化の防止、KAMの有用性向上という観点からの留意事項などを取りまとめたもの) ③ 「監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」及び監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案)(内容:報酬関連情報の開示の新設に対応。意見募集期間は2023年6月16日まで) ④ 法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」 の改正(内容:報酬関連情報の開示、独立性に関する規定の強化などに対応) (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第38回】 「フリーランス新法とハラスメント」 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社では、フリーランスの方に業務を委託することが増えています。先日、フリーランスの方を対象にした新法が成立し、当該新法においてはフリーランスに対するハラスメントに関する規制が含まれていると聞きましたので、当該規制の概要と当社が気をつけるべき点を教えていただけますでしょうか。 【Answer】 お尋ねの新法は、企業に対して、フリーランスに対するハラスメントの防止措置を講じることを義務づけることなどを内容としています。講ずべき措置の内容等は追って指針により定められますので、これに従った体制整備等が必要となります。 また、同法施行は公布から1年6ヶ月以内になりますが、同法施行後は、フリーランスを含む業務受託者からの、契約解除がハラスメントに当たるといった主張が増加すると思われますので、今から業務委託契約の解約の正当性を示すエビデンスを集積する体制を構築しておくことが望ましいものと存じます。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 総論 企業は、従業員に対しては、ハラスメント防止措置を講じる義務を負っているが、現時点でフリーランス等の業務委託の受託者はこれらの措置義務の対象とはされておらず、個人事業主等に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮することが望ましいとされているに留まる(パワハラ指針6項等)。 しかし、2023年4月28日、業務受託者をこれらの措置義務の保護対象とすること等を内容とする「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(「フリーランス・事業者間取引適正化法」)が成立した(※1)。同法は公布から1年6ヶ月以内に施行されることになっており、遅くても2024年中に施行される見通しとなっている。 (※1) 同法は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、事業者に対して、フリーランスとの取引の適正化を図るための規制を課し、就業環境の整備を義務づけるものであり、ハラスメント防止措置義務は後者の就業環境の整備を義務づける規定の一部である。 近年、企業において業務委託の利用が増加しつつあり、それに伴いフリーランスとのトラブルに関する相談も増えている。そこで、フリーランス・事業者間取引適正化法の成立を機に、本稿においてフリーランスに対するハラスメントについて整理する。 2 フリーランスに対するハラスメント ハラスメントに関連して企業が負担する義務・責任としては、概要、①ハラスメント防止措置義務と、②ハラスメント被害者に対して不法行為・債務不履行(職場環境配慮義務違反・安全配慮義務違反等)に基づき負担する損害賠償責任がある。 以下、それぞれについて説明する。 (1) ハラスメント防止措置義務 フリーランス・事業者間取引適正化法は、「特定業務委託事業者」(※2)に対して、以下の行為に関する相談対応等必要な体制を整備する等の措置を講じるべき義務を課しており、また、「特定受託業務従事者」(※3)がこれらの相談を行ったこと等を理由とする契約解除その他不利益取扱いを禁止している(法14条)。 (※2) 「特定業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するもの(個人の場合)・2人以上の役員があり、又は従業員を使用するもの(法人の場合)をいう(法2条6項)。 (※3) 「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者(※4)である個人及び特定受託事業者である法人の代表者をいう(法2条2項)。 (※4) 「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの(個人の場合)・1人の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(法人の場合)をいう(法2条1項)。 ハラスメントに当たる内容や、講ずべき措置の具体的な内容等は、今後、指針において定められることになっているが(法15条)、例えば、セクハラについては、「性的な言動により特定受託事業者の就業環境を害する行為や、性的な言動に対する特定受託事業者の対応により、その者に係る業務委託の条件について報酬の減額等の不利益を与える行為」などが想定されている(2023年4月25日実施の参議院の内閣委員会における政府参考人の回答)。 (2) 不法行為・債務不履行に基づく損害賠償責任 フリーランスに対するものであっても、意に反する身体的接触や性交渉を伴う言動や、暴行・脅迫を伴う悪質な嫌がらせがハラスメントに該当し、損害賠償責任の対象となることは言うまでもない。 判断が難しいのは、暴行・脅迫等を伴わない名誉毀損、侮辱、暴言等がなされた場合である。労働者に対する暴行・脅迫等を伴わない言動がパワハラに該当し、損害賠償責任の対象となるか否かは、基本的に、職務上の優位性を利用した、社会通念上許容し得る限度を超える行為であるか否かにより判断されるが、原則として、業務委託者と受託者の間には、指揮命令関係がないため、理論上は、職務上の優位性が利用される場面がなさそうにも思われるためである。 しかし、以下の裁判例が示すとおり、業務委託契約の形式がとられていても、職務上の優越的関係が認められる場合があり、そのような場合にはハラスメントの存在が認定され得る。 【アムール事件判決(東京地判令和4年5月25日・労判1269号15頁)】 【東京地判平成25年6月20日(判時2202号62頁)】 3 留意点 上記のとおり、具体的な措置義務の内容は、今後定められる指針によることになるため、それに従った体制整備を行うことになる。この点、措置義務の内容について、「ハラスメント行為を行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知啓発すること、ハラスメント行為を受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備をすること、ハラスメント行為が発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応」を想定しているとのことであるため(2023年4月25日実施の参議院の内閣委員会における政府参考人の回答)、大枠としては従業員に対するハラスメントに関する措置義務と同様の内容となると思われる。 また、業務委託においては原則として解約が自由であること(民法651条等)が委託者側において雇用契約ではなく業務委託契約を選択する理由の1つであると思われる。 この点、上記のとおり、指針において、業務委託の条件に不利益を与える行為もハラスメントに該当すると示される可能性があり、また、フリーランス・事業者間取引適正化法上、ハラスメントの相談を行ったこと等を理由とする契約解除その他の不利益取扱いが禁止されていることに照らすと、フリーランス・事業者間取引適正化法施行により、契約解除はハラスメントに該当して違法であるといった申告が増加することが推測される。 よって、企業においては、受託者の業務遂行上の問題点を示す事情等の解約の正当性を裏付けるエビデンスを蓄積する体制や運用を構築しておくべきであろう。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第53回】 「遺言と養子縁組」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 相談内容 私(75歳)は卸売業を営む会社の社長です。妻子はおらず姉Aと弟の3人兄弟なのですが、弟とは数十年疎遠となっています。 会社はかねてより姉とともに経営し、姉にはとても助けてもらいここまでやってくることができました。一方、昨今のマクロ的な影響による仕入価格の高騰により苦しい経営状態であります。私は75歳になり姉も同世代ですので、そろそろ2人揃って引退をしようという話になっています。 なお、姉夫婦には一人娘Bがいますが専業主婦であり、会社に関与する可能性はありませんので、引退にあたって事業承継は考えておらず、M&Aの買い手を探すか、買い手が見つからなければ廃業とせざるを得ないと思います。 将来、私の相続財産は当然ながらお世話になってきた姉だけに渡し、弟には相続してほしくないのですが、どのような方法がありますでしょうか。 〈親族関係〉 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 遺言による対応 相続が発生すると、被相続人が所有していた財産は原則として法定相続人が取得することになりますが、遺言が残されていた場合はその内容が優先されます。 兄弟姉妹には遺留分がありませんので、民法の定める方式(民法960)に従って適切に遺言を作成することにより、受遺者以外の兄弟姉妹に相続財産が帰属することを防ぐことができます。 ただし、受遺者を同世代の人物に指定すると、遺贈者よりも先に受遺者が死亡する可能性もあり、その場合せっかく書いた遺言が無効となってしまいます。 なお、兄弟姉妹が相続する場合は、相続税額の2割加算の対象になります(相法18)。 [2] 養子縁組による対応 養子縁組をすると、養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します(民法809)。これにより配偶者及び実子・親がいない被相続人の場合、養子は唯一の相続人となり兄弟姉妹に相続財産が帰属することを防ぐことができます。なお、養子は養親よりも年長者とすることはできません。 また、養子は養親の氏を称することが原則ですが(民法810)、婚姻により夫の氏を称している妻が単独で養子になる場合は、養子は養親の氏を称せず夫の氏を名乗ることができます(民法810但書)。これは、民法では夫婦別姓は認められておらず、妻が養親の氏を称すれば夫婦別姓になってしまうためです。 [3] 養子の税務上の取扱い 養子となった者は、養子縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得することになりますが(民法809)、相続税法においては、法定相続人の数に算入する被相続人の養子の数は、下記のように取り扱われます(相法15②)。 「相続税の基礎控除額」及び「生命保険金・死亡退職金の非課税限度額」、「相続税の総額の計算」では、相続税法における法定相続人の数に算入する被相続人の養子の数を加味し算定されます。 [4] 債務の承継 相続は包括承継であり、原則として被相続人の財産上の権利義務の一切が、被相続人の死亡により相続人へと承継されます。当然のことながら、被相続人の債務も承継されますので、仮に被相続人が事業を行っていて大きな借金を抱えている場合には注意が必要です。 債務超過の場合に備え家庭裁判所への申述による相続放棄が可能ですが、その期間は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(これを「熟慮期間」といいます)になります(民法915①)。 なお、遺言には特定遺贈(特定の財産を遺贈する場合)と包括遺贈(相続財産を割合として遺贈する場合)がありますが、包括遺贈の受遺者は、相続人ではありませんが相続人と同一の権利義務を有し(民法990)、債務も当然に承継されます。したがって包括遺贈の場合の放棄は、相続放棄と同様に、家庭裁判所への申述により行う必要があります(民法990、938)。 なお、判例では民法915条がいう「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、単に被相続人の死亡とそのことにより自己が相続人となったことを知った時であるとは限らないと判示しています。つまり判例によると相続人が相続財産(消極財産含む)は存在しないと信じていた場合には、相続財産(消極財産含む)の存在を認識した時から、熟慮期間3ヶ月の起算をすべきことになります。 [5] 結論 ご相談の場合、Aへの包括遺贈もしくはBとの養子縁組が考えられます。 Aへの遺贈をお考えの場合は相談者と同世代であることから、相談者よりもAが先に亡くなるリスクを考慮して遺言を作成すべきです。 養子縁組については、相談者より年長者を養子とすることはできませんので、Aが養子になることはできません。Bを養子にすることが考えられますが、これは税務面でも有利になります。つまり、相談者の財産がAへの包括遺贈を経てBに承継される場合、Aで一度相続税が課税され(兄弟姉妹の場合、相続税は2割加算)、さらにAからBへの相続税も生じます。将来的にBへ相談者の財産が承継されることを前提にするならば、Bを相談者の養子とし、相談者からBへ直に財産が承継されるようにすることは検討の余地があります。 ここで注意が必要なのは、Bは相談者の会社に関与しないため想定外の借入金が存在することを把握できないということです。相談者の会社は原材料の高騰など厳しい経営環境にあるとのことですので、万が一債務超過になった場合は養子になったとしても最後は相続放棄の選択があることをBに伝え、しっかり継続的にコミュニケーションをとる必要があります。 なお、Bは婚姻されているようですので、養子縁組を行っても氏が変わることはありません。また、ご相談の養子縁組は普通養子縁組になりますので、Aとの間の親族関係に変化はありません。 実行についての具体的な判断は、弁護士や税理士等の専門家と相談のうえ、決定されることをお勧めします。 (了)
〈知識ゼロからでもわかる〉 NFTとその利活用 【第1回】 「NFTの基礎知識」 東京ハッシュ株式会社 代表取締役 段 璽 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 1 はじめに 去る1月13日、国税庁のホームページにて「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」が公表された。国内でもNFTが身近な概念として定着しつつある中で、税務・会計においても存在感が増していることを表しているといえるだろう。もとい、そもそもNFTとは何であるかを理解しておくことが重要である。 このような観点から、本連載では、3回に分けてNFTの入門知識を概説する。【第1回】では、NFTに関する最も基礎的な要素の理解を目指し、NFTの定義と性質、ブロックチェーンとの関係、長所と短所について述べるとともに、NFTを様々な面で拡張するユーティリティとNFTコレクションについても説明する。 2 NFTの定義と性質 NFTは「Non-Fungible Token」の略であり、「非代替性トークン」とも訳される。まず、ここでいうトークンとは、「所有と移転(譲渡)が可能なデジタルデータ」であると理解していただきたい。イメージとしては、オンラインゲームでプレイヤーがアイテムを収集し、通貨を介して他のプレイヤーと取引をする状況において、アイテムや通貨がトークンに当てはまる。 Fungibilityは「代替性」を意味する。通貨は普通、代替可能である。つまり、Aさんが持つ100円とBさんが持つ100円の間には価値の差がなく、両者が100円を交換することに何の問題もない。したがって、最小単位(1円)までの分割も可能である。一方で、代替不可能なものはこの世に唯一無二である。一点ものの絵画や不動産、あるいは個人的な思い入れが詰まった100円玉も非代替性を持つといえる(※)。非代替性を持つものは互いに識別可能であり、個別のIDが付与されていると考えても差し支えない。 (※) このように代替性の有無は文脈によって変わるが、NFTとして表されているものについては、それが非代替性を持つと主張していると捉えてもよいだろう。 3 ブロックチェーンとメタデータ NFTの多くはブロックチェーン上でやりとりされる。この文脈におけるブロックチェーンの役割は、NFTの所有者の記録を台帳に収め続けることである。つまり、過去と現在において、「特定のNFTを誰が所有しているか」を記録し続けている。 通貨の役割を持つ一般的な暗号資産(俗にいう「トークン」)とNFTとの決定的な違いは、NFTは何かしらの唯一無二な概念に対する権利を表象するということである。その概念は、しばしば「メタデータ」という関連データとしてNFTに紐付けられている。例えば、芸術作品の画像データをメタデータに持つNFTがあれば、「対応する芸術作品の所有権をそのNFTの所有者が持つこと」がブロックチェーン上で示されていることになる。 4 NFTの長所と短所 (1) NFTの長所 ブロックチェーン上で管理されるNFTには、いくつかの長所がある。まず、ブロックチェーンで一度確定した取引は覆すことが非常に困難であり、NFTの所有権を高いレベルで保証することができる。また、ブロックチェーンが安全に存続する限り、利用者に落ち度がなければ、その所有権や存在は永続的である。利用者自身が所有に対して主権と責任を持つ様は「自己主権」とも表現され、特定の企業や政府に管理を委ねる必要がないことから、しばしば好まれる特性である。 そして、ブロックチェーンの規格に沿っていれば、NFTには互換性が保たれる。言い換えれば、特定のゲーム内で獲得したアイテムがNFTであれば、そのゲームの存続にかかわらず、NFTの所有権をブロックチェーンで示すことができる。デジタルデータであるため、証明や移転にかかる手間が実物より少ないことも長所である。 さらには、コンピュータプログラムとして様々なロジックを付与することが可能であり、これを利用すると、例えば著作権者のために、二次流通におけるロイヤリティ収入の機会を与えることができる。 (2) NFTの短所 一方で、NFTには短所もいくつかあり、主にリスクの高さが関連している。まず、ブロックチェーン上のデータであるがゆえに、ブロックチェーンやプログラムの安全性に問題がある場合にはNFTの所有権が危ぶまれる。管理体制の不備等、利用者の過失によってNFTを永遠に失う可能性もある。 さらに、プロジェクトという括りでNFTを新たに発行するビジネス形態が一般的になってきているが、これを模した投資詐欺は後を絶たず、被害に遭うリスクにも注意が必要である。 そして、NFTを資産として保有する場合、その価格変動リスクは暗号資産と関連が強く、比較的大きい。 5 NFTのユーティリティ 以上のように、NFT自体は特定のメタデータと繋がった単なるデータであり、ブロックチェーンにその存在と取引が記録されることに由来して、いくつかの基礎的な特性を持つものである。しかしながら、実態はこれにとどまらず、NFTをツールとして捉えることで、更なる利用価値(ユーティリティ)を取り決め、活用するケースも多い。 代表的なNFTユーティリティは、著作物の(商用)利用権、データへのアクセス権、会員制コミュニティへのアクセス権、イベント参加権などである。さらに、特定のNFT保有者に別のNFTや暗号資産等を配布したり、NFTを売却できないように一時的に預け入れることで、新たな投資機会を与えたりするスキームもある。こうしたNFTのユーティリティはビジネスにおいてインセンティブとして活用される。 注意点として、NFTのユーティリティは、ブロックチェーン上でコンピュータプログラム(スマートコントラクトと呼ばれる)に従って実現が約束されるものと、それ以外、つまり主に人間の裁量によって実現されるものがある。例を挙げると、前者はNFTの預け入れを条件とした投資機会、後者はオフラインイベントの参加権が当てはまる。リスクとして、スマートコントラクトの脆弱性や詐欺の可能性に気を付けなければいけない。 6 NFTコレクション NFT自体は唯一無二であるが、1つの銘柄として「NFTコレクション」を作成し、その銘柄に属しながら互いに識別可能であるNFTを複数個設定することも可能であり、現在はこのパターンがむしろ標準的である。NFTコレクションを実現するための技術的なコントラクト規格があり、イーサリアム・ブロックチェーンのERC-721はその最も標準的な例である。これを初めて活用したNFTコレクション「CryptoKitties」は複数の子猫を表すNFTから構成されており、それぞれが唯一のNFTとして識別されるが、同時にその全てがCryptoKittiesに属している。 7 おわりに 本稿では、NFTの基礎的な観点を概説した。NFTは非代替性のトークンとしてブロックチェーン上でその存在と取引が記録され、確実性の高い形で唯一無二の概念に対する所有権を表す。またNFTにはユーティリティがしばしば付与され、ビジネス媒体としても活用されている。現在は、複数のNFTを1つの銘柄としてまとめたNFTコレクションが主流である。 【第2回】では、NFTの利用形態について、若干の技術的背景とともに解説する。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第68話】 「個人事業者の死亡と従業員退職金」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 浅田調査官は、受話器を握りながら、頷いている。 「・・・そうですねえ・・・それは必要経費にならないと思いますが・・・」 知り合いの税理士からの質問である。 昨年、甲という税理士が死亡したのであるが、その亡甲の令和4年分所得税について、亡甲税理士事務所の従業員のうち10名分の未払退職金1,200万円を、亡甲の事業所得の金額の計算上必要経費に算入して、準確定申告をしても良いかという問いである。 「・・・顧客と税理士の間の契約は、委任契約で、民法によれば、委任契約は、受任者の死亡によって終了する・・・しかし、雇用契約は、使用者の死亡によって終了するとは、法令では特に規定していない・・・」 浅田調査官は、受話器を戻してから、呟く。 「・・・判例も・・・被相続人が死亡した場合の従業員と被相続人との雇用契約は、民法896条により相続人に相続するため終了せず、したがって、従業員退職金は、支払い債務として確定していないと判示している・・・」 広島高裁平成29年1月27日判決のコピーを机の上に広げて、浅田調査官は、判決文を確認する。 「・・・所得税法37条では・・・償却費以外の費用で『その年において債務の確定しないものを除く』として債務確定基準を要求している・・・そして、更に、債務確定基準の判定として、所得税基本通達37-2で、次の3つの要件を規定している・・・」 浅田調査官は、法令と通達を見ながら、図を描く。 浅田調査官が自分で描いた図を見ていると、突然、頭上から、「・・・何の図?」という中尾統括官の声が聞こえる。 「・・・これですか・・・個人事業者の死亡に起因する従業員退職金の必要経費の該当性を表した図なのですが・・・」 浅田調査官は、図を指差しながら説明する。 「なるほど・・・それで・・・浅田君の結論は?」 中尾統括官は尋ねる。 「ええ、所得税基本通達37-2の(1)の債務の成立ですが・・・これって、退職金債務を必要経費として計上するうえで、重要なんですか?」 浅田調査官が逆に尋ねる。 「そりゃあそうだろう・・・債務の成立とは、債権者と債務者の間で、法律上の義務や権利が生じることを指しているのだから、それがなければ・・・債務として計上することはできない・・・」 中尾統括官の声は、大きくなる。 「・・・ということは・・・債務の成立後、事業者が義務を履行しない場合には、債権者である従業員は法的手段を用いて債務の履行を求めることができるということですか?」 浅田調査官の問いに、中尾統括官は、大きく頷く。 「そうだ」 浅田調査官は、思案顔になる。 「・・・この前事業者の退職金債務の額は、計算上、算出することは可能なのですが、それだけでは、必要経費として計上することができないということなのですね・・・しかし、仮に、前事業者と従業員の間で、退職金債務について何らかの合意などがあれば、債務の成立が認められますか?」 浅田調査官は、再び、尋ねる。 「・・・例えば・・・前事業者が・・・生前、遺言書に、従業員の退職金を支払う旨の記載をしていれば・・・必要経費として認められる可能性はあるだろう・・・」 中尾統括官が答える。 「・・・すなわち、債務の成立には、債権者(従業員)と債務者(前事業者)の間に、法的な効力があることが必要だということだ・・・」 浅田調査官は、じっと聞いている。 「一般論として・・・使用者の税理士が死亡して、顧問先の委任契約が終了すれば、税理士法では税理士業務が禁止され、従業員を雇用することができない・・・そうすると、事業を承継した税理士(事業者)は、新たに、従業員と雇用契約を締結したとみるのが妥当であり、退職金債務も雇用契約の期間で按分すべきだと思います・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、パソコンから国税不服審判所の裁決事例を検索する。 画面には「国税不服審判所平成13年10月17日裁決(裁決事例集No.62・76頁)」が表示されている。 「・・・この裁決では・・・関係者の答述及び従業員全員が請求人らに提出した退職所得の受給に関する申告書から、従業員退職金の支払いについて、労使間で事前の協議が整い、従業員にその協議内容を周知し、請求人らは従業員の了解の下に退職所得の受給に関する申告書の提出を受けたものと認められるから、従業員退職金の支払債務は成立していると判断するのが相当である・・・として、必要経費が認められたらしいのですが・・・」 中尾統括官は、パソコンの画面を覗く。 「法人成りによる個人から法人への事業承継の方が、退職金債務は、認められやすいのかもしれない」 中尾統括官は、苦笑いをする。 (つづく)
《速報解説》 ASBJが、IFRS等との整合性を考慮した「リースに関する会計基準(案)」等を公表 ~使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを提案~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年5月2日、企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、国際財務報告基準(IFRS)及び米国財務会計基準におけるリースの会計処理等との整合性を考慮し、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)を改正するものである。 公開草案は、現行の「リース取引」の用語を「リース」の用語へ改正するなど多くの改正を提案しており、また、関連して、企業会計基準公開草案第74号「『固定資産の減損に係る会計基準』の一部改正(案)」、企業会計基準公開草案第78号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」など多くの公開草案が公表されている。 後述するように、日本公認会計士協会の実務指針等についても、多くの公開草案が公表されている。 意見募集期間は2023年8月4日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 1 借手の会計処理 借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(会計基準案BC12項、BC34項)。 2 貸手の会計処理 貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、企業会計基準第13号の定めを維持する(会計基準案BC12項)。 Ⅲ 主な内容 1 範囲 本会計基準案は、契約の名称などにかかわらず、次の①から④に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(会計基準案3項)。 なお、連結財務諸表と個別財務諸表の双方に適用する(会計基準案BC17項)。 2 リースなどの定義 例えば、次の用語の定義が規定されている(会計基準案5項~13項、適用指針案4項)。 IFRS 第16号の定めと整合させており、借手と貸手の両方に適用する(会計基準案BC21項)。 3 リースの識別 リースの識別に関する規定として、主に次のものを定める(会計基準案23項~28項、適用指針案5項~14項)。 次のことに注意する。 4 リース期間 5 借手のリースの会計処理 借手は、IFRS第16号と同様に、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上する(会計基準案31項~33項、適用指針案16項、17項、21項~23項、25項~34項)。 企業会計基準適用指針第16号における貸手の購入価額又は見積現金購入価額と比較を行う方法は踏襲しない。 6 短期リースに関する簡便的な取扱い 借手は、短期リースについて、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認める(企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様)。 「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であるリースをいう(適用指針案4項(2))。 7 少額リース 次の(1)又は(2)について、借手は、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認める。 8 借地権の設定に係る権利金等 借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含め、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行う(適用指針案24項)。 ただし、旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等のうち、一定の権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことを認める。 9 利息相当額の各期への配分 リース開始日における借手のリース料とリース負債の計上額との差額は、利息相当額として取り扱い、当該利息相当額を借手のリース期間中の各期に配分する方法は利息法による(会計基準案34項、適用指針案35項~39項。企業会計基準第13号、企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様)。 ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合についての簡便的な取扱いを規定する。 10 使用権資産の償却 使用権資産の償却について、基本的に企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号におけるリース資産の償却と同様の会計処理を行う。 11 リースの契約条件の変更 「リースの契約条件の変更」とは、リースの当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲又はリースの対価の変更(例えば、1つ以上の原資産を追加もしくは解約することによる原資産を使用する権利の追加もしくは解約、又は、契約期間の延長もしくは短縮)をいう(会計基準案22項)。 リースの契約条件の変更が生じた場合の会計処理等を規定する。 12 リース期間に含まれない再リース 企業会計基準適用指針第16号は、再リース期間をリース資産の耐用年数に含めない場合の再リース料は、原則として、発生時の費用として処理する取扱いを規定している。 当該規定は、IFRS第16号にはないが、本会計基準案等では、対象となる再リースを特定したうえで、当該取扱いを踏襲する。 借手は、リース開始日及び直近のリースの契約条件の変更の発効日において再リース期間を借手のリース期間に含めないことを決定した場合、再リースを当初のリースとは独立したリースとして会計処理を行うことを認める。 13 セール・アンド・リースバック取引 「セール・アンド・リースバック取引」とは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(以下「リースバック」という)する取引をいう(適用指針案4項(11))。 次のことが規定されている。 14 貸手のリースの会計処理 ファイナンス・リースの会計処理について、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったこととの整合性から、企業会計基準適用指針第16号で規定されていた「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法」を廃止する。 15 オペレーティング・リース 企業会計基準第13号では、オペレーティング・リース取引は、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うことのみを定めている。 本会計基準案等では、フリーレント(契約開始当初数ヶ月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)に関する会計処理を明確にして収益認識会計基準との整合性を図るため、貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することとする(会計基準案46項、適用指針案78項、BC104項)。 16 サブリース取引 「サブリース取引」とは、原資産が借手から第三者にさらにリース(以下「サブリース」という)され、当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効である取引をいう(適用指針案4項(12))。 当初の貸手と借手の間のリースを「ヘッドリース」、ヘッドリースにおける借手を「中間的な貸手」という(適用指針案4項(12))。 サブリース取引は、IFRS第16 号と同様に、ヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行う(適用指針案85項~89項)。 17 転リース取引 サブリース取引のうち、原資産の所有者から当該原資産のリースを受け、さらに同一資産を概ね同一の条件で第三者にリースする取引を転リース取引という(適用指針案89項)。 転リース取引の会計処理について、本会計基準案等では、当該取扱いをサブリース取引の例外的な取扱いとして、企業会計基準適用指針第16号の定めを変更せずに認める。 18 借手の開示(表示及び注記) 使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示する(会計基準案47項)。 リース負債について、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案48項)。 貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとする。 リース負債に係る利息費用について、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案49項)。 借手の注記として、次のものを注記する(会計基準案53項)。 19 貸手の開示(表示及び注記) 貸手の会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除いて、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲しており、貸手の表示についても、企業会計基準第13号を踏襲する。 リース債権及びリース投資資産のそれぞれについて、貸借対照表において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案50項。重要性が乏しい場合の規定あり)。 リース債権及びリース投資資産について、当該企業の主目的たる営業取引により発生したものである場合には流動資産に表示する。 当該企業の主目的たる営業取引以外の取引により発生したものである場合には、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金の期限が到来するものは流動資産に表示し、入金の期限が1年を超えて到来するものは固定資産に表示する。 次の事項について、損益計算書において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案51項)。 貸手の注記として、次のものを注記する(会計基準案53項)。 Ⅳ 適用時期等 本会計基準は、20XX年4月1日[公表から2年程度経過した日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準を適用することができる。 経過措置に注意する(本会計基準案等においては、企業会計基準第13号を定めた時の経過措置について継続して適用できることなど)。 Ⅴ 日本公認会計士協会の実務指針等の改正案 例えば、次の実務指針等の改正に関する公開草案が公表されている。 意見募集期間は2023年8月4日までである。 また、「連結財務諸表におけるリース取引の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第5号)は廃止する予定である。 (了)
2023年4月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.517を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。