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《税理士のための》登記情報分析術 【第15回】「登記事項等に関する改正」~外国人の氏名についてのローマ字氏名の登記事項化~

《税理士のための》 登記情報分析術 【第15回】 「登記事項等に関する改正」 ~外国人の氏名についてのローマ字氏名の登記事項化~   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   本連載【第12回】でも解説をしたが、いわゆる所有者不明土地問題や空き家問題に対応するために行われた民法等の一部改正により、不動産登記法等も改正され、令和6年4月1日から新しい登記事項が加わるなどの改正が行われた。今回は改正内容のうち、「外国人の氏名についてのローマ字氏名の登記事項化」について解説を行う。   1 外国人の氏名はカタカナ等で登記されていた 外国人であっても原則として日本の不動産を購入することができる。近年は投資目的でのマンションやリゾート地の購入に留まらず、居住用として住宅を購入する事例も見られるようになってきている。 外国人が日本の不動産を購入する場合でも、所有権の保全のために登記を行うことになる。氏名がアルファベットで表記される人の場合は、カタカナに置き換えて登記され、中国や韓国の人のように氏名に漢字が用いられている場合は、日本で使用できる漢字に置き換えて登記がなされていた。   2 従来の取扱いの問題点 不動産を購入した外国人の氏名をカタカナや日本で使用する漢字に置き換える場合、どのようなカタカナや漢字を使用するかについて、外国人である不動産購入者自身で決めることは難しい。そのため仲介に入っている不動産会社や登記を担当する司法書士が相応しい表記を考えて登記を行うことになる。 このような取扱いであると、外国人が複数の日本の不動産を購入した場合、不動産ごとに異なる表記で氏名が登記され、所有者の特定の妨げになることなどが問題として指摘されていた。   3 外国人の氏名についてはローマ字表記を併記することに こうした問題を解決するため、令和6年4月1日以降に外国人が不動産の所有権を取得する登記や、既に所有している不動産について氏名の変更登記を行う場合には、外国人氏名についてローマ字表記を併記することになった。 【ローマ字氏名が併記された登記記録例】 登記申請にあたっては、登記をしようとする外国人の氏名の正しいローマ字表記を証明するために、住民票の写し(住民基本台帳に記録されている外国人の場合)や、パスポートの写しなどを添付することになる。   4 外国人の不動産取得は司法書士に事前確認を 外国人の不動産取得に関する登記手続については、本稿で解説した以外にも、本連載【第14回】で解説したとおり、当該外国人が海外居住者である場合には、国内連絡先を登記する必要があるなどの変更がされている。筆者も司法書士として外国人の登記に関わることがあるが、準備に思いのほか手間がかかることが少なくない。税理士も外国人投資家の国内不動産の取得に関わることがあるかもしれないが、事前に司法書士にどのような準備が必要か確認をするとよいだろう。 (了)

#No. 582(掲載号)
#北詰 健太郎
2024/08/22

《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第15回】「投資の可能性を広げる「ETF」」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第15回】 「投資の可能性を広げる「ETF」」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇株式市場の混乱 2024年8月は株式市場の乱高下でスタートしました。特にNISAをきっかけに投資を始めたという方の中には、株価の行方が心配で眠れぬ夜を過ごしたという方もいらっしゃるでしょう。何しろ8月5日の日経平均は4,451円安と過去最大の下げ幅を記録し、7月11日の最高値4万2,224円から一気に25%も下落してしまったのですから、不安を感じるのが自然です。 しかし、ここでせっかく始めた投資を投げ出してはいけません。こういうときこそ、「積立」と「分散」の意義を改めて確認することをお勧めします。   〇積立投資の意義 株価が大きく下落すると、「今のうちに売った方がよいのでは?」と思い、株価が持ち直すと「今のうちに買い増しした方がよいのでは?」と悩みます。テレビやインターネットでも、「一時の下げだから心配ない」という人がいれば、「これまでが上がりすぎたのだから、下がって当然だ」という人もおり、何を信じてよいのかわからなくなります。 おそらく真実は、「株価を予想できる人はいない」という一言に尽きるのではないかと考えます。下がると思って待ち構えていても期待した値段で首尾よく買うことはできないし、上がると思って待ち構えていても期待した値段で首尾よく売ることもできないのです。 だからこそ、「積立」で投資をするのが私たちにとっての最善です。例えば、定時定額で投資信託を購入すると、値段が高いときには少ない口数しか購入できず、反対に値段が安いときにはより多くの口数を購入することができます。利益は「値段×数量」で決まりますから、より安く、そしてより多く投資信託を購入することが多くの利益を得ることにつながります。   〇分散投資の意義 8月5日に4,451円下落した株価は、翌6日には3,217円戻しました。これは1営業日の下落額・上昇額としては過去最大なのだそうで、驚いた方も少なくないでしょう。とはいえ、すべての銘柄が同様に値を戻したわけではなく、明暗が分かれました。 例えば、キーエンスは5日に7,310円下落し、翌6日には9,380円上昇しました。値戻し率は128.3%と日経平均構成銘柄内でトップとなりました。他にはHOYA、ニトリ、オムロン、東京ガスが続きました。 一方で、値段が思うように戻っていない企業もあり、やはり個別株への投資は、一般の方にはなかなかハードルが高いと言わざるを得ません。だからこそ、私たちが取り入れるべき手法は、市場に丸ごと投資をする「分散投資」となります。 例えば、日経225やTOPIXに連動するインデックス型の投資信託を購入すれば、日本の株式市場に丸ごと投資をすることができます。そのときパフォーマンスに影響を与えるのが、信託報酬というコストです。 NISAのつみたて投資枠で購入できる日本株のインデックスファンドを見てみると、信託報酬は0.113%が最も安く、その後0.143%と続いています。もちろんこれらの信託報酬も十分安いと考えられますが、もし今後投資の幅を広げていきたいという方は、ETFを検討してもよいでしょう。   〇ETFと投資信託 ETF(上場投資信託)は、証券取引所に上場している投資信託です。指数に連動するので、インデックスファンドの仲間だと思っていただいて結構です。 しかし、投資信託が、証券会社や銀行などの販売会社、運用会社、信託銀行の3つに信託報酬を分配するのに対し、ETFは取引所に上場しているため、販売会社に手数料を支払う必要がなく、その分信託報酬を抑えられる傾向にあります。ETFは、NISAにおいて主に成長投資枠で購入できますが、TOPIXに連動するETFであれば、信託報酬が0.06%程度とかなり低く魅力的なものもあります。 また、投資信託との違いとして、値段の決まり方も挙げられます。投資信託は、購入するタイミングでは値段が決まっていません。その投資信託を通じて投資を行っているすべての銘柄の終値を集計して投資信託の値段が決まります。そのため、投資信託を購入する際には、「1万円分投資信託をください」という約束をし、その後に「基準価格が〇〇円なので××口購入できました」というお知らせがくるのです。一方ETFは証券取引所に上場されているので、株式のように値段が変動します。したがって、NISA口座で購入する際でも、「この値段で買いたい/売りたい」と指定する指し値も可能です。 さらに、ETFの場合、分配金を受け取れるという特徴もあります。NISAのつみたて投資枠の対象となっている投資信託は、一般的には分配金を出さず、再投資により資産を大きくすることが目的ですが、ETFでは、基本的には年に1回分配金を払い出します。そのため、分配金を楽しみにしたいという方であれば、より株式投資に近いETFも魅力的です。 *  *  * 今回の株価乱高下を学びの絶好の機会ととらえ、さらに投資に前向きに取り組み、投資の幅を広げたいという方は、ぜひETFも研究してみてください。 (了)

#No. 582(掲載号)
#山中 伸枝
2024/08/22

《速報解説》 会計士協会、監査におけるAI利用の研究文書を公表~AIが会計士の業務及び役割にもたらす変化への展望示す~

《速報解説》 会計士協会、監査におけるAI利用の研究文書を公表 ~AIが会計士の業務及び役割にもたらす変化への展望示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年8月13日、日本公認会計士協会は、「監査におけるAIの利用に関する研究文書」(テクノロジー委員会研究文書第11号)を公表した。 監査におけるAIの研究・開発については、大手監査事務所を中心に進められ、実際に監査実務の現場に導入されるようになっている。 そこで、監査において利用されるAIに関する理解を更新し、具体的な活用方法及び課題について改めて整理するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 研究文書の対象とするAI 研究文書はAIに関する技術的な解説を目的とするものではないとのことである。 現時点で「AI」に関して確立された定義はなく、一口にAIと言ってもその形態や用途は様々であるとのことである。 研究文書は、監査人による監査手続等を行うことに特化したAIを対象としている。   Ⅲ 監査におけるAIの利用 監査におけるAIの特徴として、監査に関連する大量のデータを活用した高度な分析や、自動化による監査人の工数を削減することが可能となる点が挙げられている。 生成AIの利用として、生成AIによって文書のドラフトを作成し、その後監査人が監査調書として仕上げるといった利用や、監査や会計に関する基準等を学習させることにより、監査人による監査基準や会計基準に関する質問に対し、生成AIが該当する基準を提示する、という利用が想定され、すでに監査現場での導入が開始又は検討されているとのことである。 ただし、AIの生成する情報には誤りが含まれる可能性があり、生成AIの利用が拡大したとしても、会計及び監査に関する監査人としての専門知識は依然として求められるとのことである。   Ⅳ 被監査会社におけるAIの利用 被監査会社においてもAIの利用が始まっているとして、次のものが紹介されている。   Ⅴ AIの精度・信頼性 監査チームは、AI監査ツールは監査のすべての局面において万能ではないことを踏まえ、AI監査ツールを利用するに当たり、個々の局面で利用することが適切かを判断することが重要である。 AI監査ツールは過去のデータに基づいた結果を出力するため、例えば、新しいビジネスモデル又はスキームができた場合、有効な結果を導き出さない可能性がある。 AIは、時折あたかも正しいかのように誤った回答をすることがあるため、利用者による結果の真偽の評価が重要であるとのことである。 監査人は、AI監査ツールが出力した結果を活用して監査手続を行うため、AI監査ツールの出力結果を鵜呑みにすることは非常に危険とのことである。   Ⅵ AIの説明可能性 AIのうち、特に、ディープラーニングを活用したモデルにおいてはAIによる処理が非常に複雑なため、処理過程が監査人にとって「ブラックボックス化」してしまい、どのような処理がされて、出力結果が得られたかを説明することが難しいという問題がある。 例えば、不正リスクの高い取引として、特定の取引が抽出されたとしても、なぜその取引が抽出されたのか把握できないため、監査人がどのような検証・フォローアップをすべきか分からず、被監査会社に対しても説明できなくなってしまうとのことである。 仮にAIの処理結果の間違いについて、監査人が発見できなかった場合でも、AIに責任能力はなく、AIを利用したことを理由に監査人は免責されるわけではないため、監査人は、AIの処理結果が合理的なものか説明可能性を評価する必要がある。   Ⅶ 今後の会計士に求められるスキル AIの導入により会計士が不要になることはないが、AIの活用を通じて会計士も進化する必要があるとのことである。 AIリテラシーの向上、データの信頼性の評価、被監査会社とのコミュニケーションなどについて記載されている。 (了)

#阿部 光成
2024/08/14

《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」を改正~品質管理レビューの実績等を踏まえ、着眼点及び判断基準を新規追加又は拡充~

《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の 適格性の確認のためのガイドライン」を改正 ~品質管理レビューの実績等を踏まえ、着眼点及び判断基準を新規追加又は拡充~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年8月9日付けで(ホームページ掲載日は2024年8月13日)、日本公認会計士協会は、「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表した。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 このガイドラインは、レビューチームが、適格性の確認のために品質管理レビューを行うに当たり、上場会社等の監査を行う監査事務所が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示すことを目的としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正の内容 主な改正の内容は次のとおりである。 ガイドラインでは、【極めて重要な不備事項】、【重要な不備事項】の判断基準が記載されている。 当該判断基準において示されている不備の程度は、あくまでも1つの目安であり、【重要な不備事項】とされている状況も、監査事務所の状況によりその不備の程度が重大であると捉えられる場合には、【極めて重要な不備事項】として判断されることもあるとのことである。 (了)

#阿部 光成
2024/08/14

《速報解説》 日税連、「国税庁からのお知らせ」として宅地造成費の正誤についてHP上で公表~納税者が不利な影響を受けうる農地等の分類も示す~

 《速報解説》 日税連、「国税庁からのお知らせ」として 宅地造成費の正誤についてHP上で公表 ~納税者が不利な影響を受けうる農地等の分類も示す~   Profession Journal 編集部   8月6日、国税庁は、都市計画上の市街化区域内における市街地農地等の相続税・贈与税の評価額算出に用いる「宅地造成費の金額表」について、金額に一部誤りがあったとして修正を行ったことを公表していたところ、これを受け、日本税理士会連合会は同月9日に「〈国税庁からのお知らせ〉「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」における「宅地造成費の金額表」の正誤について」を公表した。 誤りがあったのは、令和元年分(令和元年7月1日公開分)の高松国税局管内4県及び令和6年分(令和6年7月1日公開分)の関東信越国税局管内6県・大阪国税局管内2府4県における市街地農地等に適用される金額であり、これらが記載されている「宅地造成費の金額表」の正誤表を次のとおり公表している。 また、今回の誤りによって納税者が不利な影響を受けうる農地等の分類を次のとおり示している。 なお、「これらの誤った金額表を利用していると考えられる納税者の方には、今後税務署から個別に連絡の上で所要の対応をとらせていただく方針」としたうえで、「お手元に保管されている相続税・贈与税の申告書の写しなどから誤った金額表を利用されていたと考えられるものを把握された場合には、税務署にお申し出くださるようよろしくお願いいたします。」としている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2024/08/14

《速報解説》 国税庁、インボイスに関して「多く寄せられる質問」を更新~複数年をまたぐ取引に係る適格請求書の交付に関する設問ほか1問を追加~

《速報解説》 国税庁、インボイスに関して「多く寄せられる質問」を更新 ~複数年をまたぐ取引に係る適格請求書の交付に関する設問ほか1問を追加~   税理士 石川 幸恵   令和6年7月26日、国税庁はホームページで、適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」)に関し、「多く寄せられる質問(令和6年4月以降版)」を更新し、設問2問を新設した。 新たに追加された設問は次の2問。 株式会社や個人事業者など一般の事業者の実務には問ⓕの方が影響が大きいと考えられるため、問ⓕから先に解説する。   (1) 複数年をまたぐ取引に係る適格請求書の交付(問ⓕ) 毎月の保守契約のように一定期間継続して役務提供を行う取引は、期間が売手の課税期間をまたぐ場合がある。このような場合の適格請求書の交付について次のように整理された。 ① 課税期間をまたぐ場合の交付方法 ② 簡便な交付方法とする場合の注意点 ③ 課税期間ごとに区分して交付(原則)する方法について 問ⓕにて、課税期間ごとに区分して交付(原則)する場合の端数処理方法の図解が示されたことも実務に有用な情報と思われる。   (2) 地方公営企業法適用の特別会計に移行する際の適格請求書発行事業者の登録(問ⓔ) ① 概要と一般の事業者への影響 地方公共団体の特別会計が地方公営企業法の規定を適用する特別会計に移行する場合、旧特別会計は廃止され、適格請求書発行事業者の登録番号は失効する。移行後の新たな特別会計は改めて適格請求書発行事業者の登録申請を行い、登録番号の付番を受ける必要がある。 このとき、新たな特別会計も法人の新規設立の場合と同様、特別会計の設置日の属する課税期間の初日から登録を受けることが可能である(インボイスQ&A問11)。 株式会社や個人事業者など一般の事業者への影響としては、事務所などで利用する上下水道に関し、このような移行があると、料金の適格請求書の登録番号に変更が生ずることが挙げられる。 ② 背景 総務省は、地方団体が公営企業の経営基盤の強化や財政マネジメントの向上等にさらに的確に取り組むため、民間企業と同様の公営企業会計を適用し、経営・資産等の状況の正確な把握、弾力的な経営等を実現することを推進している。これを受けて近年、地方公共団体の上下水道事業等の多くが公営企業会計に移行している。   (了) ↓お勧め連載記事↓

#石川 幸恵
2024/08/08

プロフェッションジャーナル No.581が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年8月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.581を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/08/08

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第134回】「消費税の性質論(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第134回】 「消費税の性質論(その2)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦     4 検討 (1) 「実質的な過剰転嫁ないし実質的なピンハネ」 本件判決が、「仕入れ税額控除制度等は、運用如何によっては、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないし実質的なピンハネを許す余地を含んだ制度であることは否定できない。しかし、税制改革法はむしろ適正な転嫁を要求しているのであるから、右制度が、事業者に対して、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないしピンハネを法的に保障しているということはできない。したがって、消費税法それ自体が財産権を侵害するものとはいえない。」としている点は注目すべきである。 判決文として、「実質的な過剰転嫁」や「実質的なピンハネ」を許す余地を含んだ制度であるという点を否定できないとしているのは、適正な転嫁がなされないことが事実上あり得るとしているということである。そもそも、消費税制度がそれらを事業者に保障しているものでないという点から、消費税法が財産権保障を侵害するものではないとしても、この説示の意味するところは奈辺にあるのであろうか。 税制改革法11条は次のように規定する。 すなわち、消費税の転嫁について、税制改革法11条1項は「適正に転嫁するものとする」と抽象的に述べているだけである。 どのような具体的な転嫁方法を採用するべきか、あるいはその額をどのように算出すべきであるのかについては税制改革法には規定されておらず、また、消費税法においても一切この点については規定されていないのである。税制改革法11条2項も、「転嫁に寄与するため」に消費税の仕組み等の周知徹底などの措置を講ずるとしているだけである。 いわば、これでは、取引当事者に委ねられているといっても過言ではなく、転嫁をしようがしまいが、あくまでもそれは取引当事者間における契約の内容に包蔵されてしまい、単なる価格決定の問題に収斂しゅうれんされてしまうことになるのではなかろうか。 現に、本件地裁判決も、消費税の転嫁は、「事業者の取引上の意思決定に任されている。」としているのである。そして、その対価の決定は、「同業者との競争といった取引上の事情や商品内容に関する事情、その他諸般の事情を総合的に判断したうえで決定されるものであること」とするのである。 転嫁が予定されているとはいっても、あくまでも、それは「予定」されているだけのことであって、転嫁自体が消費税制度にビルトインされているわけではないともいい得る。 本件判決は、この点を別の意味に展開している。すなわち、「そのこと〔筆者注:消費税の転嫁がなされるかどうかは当事者の価格決定に係る意思に委ねられているということ〕を考慮すると、消費税分の価格への転嫁が、必然的に過剰転嫁を生ぜしめるともいいがたいし、消費税法自体が右過剰転嫁を積極的に予定しているものではないことも明らかである。」とするのである。 すなわち、転嫁が予定されているだけで、実際のところで転嫁がされるかどうかは取引当事者の意思決定に委ねられているのであるから、転嫁を前提とした「過剰転嫁」は積極的に予定されているものではないとするのである。 (2) 「転嫁」を予定する租税 前述の税制改革法が規定するとおり、消費税は転嫁されることが予定されているものであり、租税負担の転嫁が予定されて納税義務者と担税者とが合致しない間接税であると説明されることがある。 果たして、そのような理解は妥当なのであろうか。本件判決は、転嫁を予定している租税として消費税を位置付けた上で、そうはいっても実際の転嫁は取引当事者の価格決定の内部的な問題であるから、転嫁されるかされないかについてまでは保障の限りではないという態度を示しているのであるが、そもそも、転嫁が予定されているというのはどういう意味なのであろうか。 消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(平成25年法律第41号。以下「消費税転嫁対策特別措置法」という。)は、令和3年3月31日限りで、その効力を失っているが(同法附則2①)、「転嫁」について検討する素材として、確認をしておくこととしよう。 この法律は、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的とするものであり、上記に示した税制改革法11条を実行あらしめるための具体的な法令であると理解することができる。 また、消費税転嫁対策特別措置法3条は、特定事業者に対して、消費税の転嫁を拒んだり、転嫁に応じることの引換えに何らかの負担を負わせようとしたりするような行為を禁止している。 これに加えて、消費税の価格転嫁に係る表示についても、次のように規定している。 加えて総額表示についてもこれを義務化して規定しているのである。そして、これは、消費税法の特例と位置付けられていることに鑑みると、広い意味で捉えることが許されるとすれば、消費税法領域・・において総額表示が明定されているといってもよいように思われるのである。 その他、10条も見ておこう。 このように、消費税法自体ではなくとも、その関連法をも概観すると、税制改革法が示すところの「消費税の転嫁」なるものが予定されているということはいえそうである。 本件地裁判決は、「転嫁」はあくまでも事実上の問題に過ぎないかのごとく説示を展開しているように思われるものの、このように見てくると転嫁は関連法も含めたところで担保されているといってもよいのかもしれない。 (3) 「転嫁」が予定されている他の租税 しかしながら、租税負担の転嫁が予定されているのは消費税をはじめとする間接税に限ったことなのであろうか。もし、その他の多くの税制においても何らかの形で転嫁が予定されているのであれば、消費税の性質論を語るときに、「転嫁」が予定されている租税であるという説明にはあまり説得力がないようなことにもなりはしないか。 例えば、直接税である法人税の租税負担の実際は、商品や製品の価格に織り込まれて最終的には取引段階において転嫁が実現しているのではなかろうか。そうであるとすると、消費税が価格に転嫁されることが予定されているというのと、法人税が実質的に価格に転嫁されているということとの間に如何なる径庭があるのであろうか。 この点は、旧来の法人税法の学説では、法人税が転嫁されるものではないとの整理の上で展開されてきたことを想起したい。 (続く)

#No. 581(掲載号)
#酒井 克彦
2024/08/08

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第29回】「国税通則法74条の9・74条の10」-事前通知の意義と例外-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第29回】 「国税通則法74条の9・74条の10」 -事前通知の意義と例外-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等) 国税通則法74条の10(事前通知を要しない場合)   1 はじめに 事前通知制度について、その導入の背景・経緯を含め、次のとおり、簡にして要を得た解説がされている(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1001頁)。 事前通知制度の導入は、行政調査手続一般との関係でも、次のとおり、高く評価されている(曽和俊文「税務調査判例の展開と行政調査論」論究ジュリスト3号(2012年)47頁、55頁)。 平成23年度[11月]税制改正の立法過程に即して事前通知制度をみると、事前通知は基本的には下記のような考慮に基づき制度化されたものである(内閣「平成23年度税制改正大綱」(平成22年12月16日閣議決定)6頁。下線筆者。なお、これに至るまでに税制調査会専門家委員会「納税環境整備に関する論点整理」(平成22年9月14日)及び税制調査会納税環境整備プロジェクトチーム(PT)「納税環境整備PT報告書」(平成22年11月25日)で示された考え方・意見等については、日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編『国税通則法コンメンタール 税務調査手続編』(日本法令・2023年)巻末の「資料1」(712頁以下)、「資料2」(735頁以下)参照。また、その後の「法案をめぐる攻防」も含め立法過程全体については、同書「序文」(2頁以下[三木義一執筆])参照)。 以下では、上記の考慮のうち前段の考慮に即して事前通知の意義を検討し、後段(但書)の考慮に即して事前通知の例外を検討することにする。   2 事前通知の意義 (1) 「納税者の予見可能性」の確保 前記の考慮において前段の考慮にいう「調査手続の透明性」と「納税者の予見可能性」のうち後者の意味するところは明らかである。すなわち、「納税者の予見可能性」の確保は、「質問検査等を行う実地の調査」(税通74条の9第1項柱書1号。内閣・前掲閣議決定31頁では「納税者の事業所、事務所等に臨場してする調査」)も任意調査であることから「調査の強制を拒否し得る権利・利益」(曽和俊文『行政調査の法的統制』(弘文堂・2019年)215頁)を手続的に保障することを意味するものと解される。 この点について、「調査の強制を拒否し得る権利・利益の実体的内容としては、人身の自由、住居の不可侵、営業の自由などの憲法上の諸権利が考えられる。」(曽和・前掲書216頁)ということにも留意しておくべきである。事前通知の問題も含め質問検査の問題を検討する際には、一般に、「調査に伴う自由の制約」(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)243頁)を手続上どのように考慮するかは重要な課題である。 (2) 「調査手続の透明性」の確保(その1) 他方、前者すなわち「調査手続の透明性」の意味するところは一義的ではないが、少なくとも①調査に関する権限ないし責任の所在の透明性と②調査過程の透明性を意味するものと解される。 まず、①調査に関する権限ないし責任の所在の透明性については、「税務署長等」(税通74条の9第1項柱書)が事前通知を行うものとする旨が定められていることが重要である。ここで「税務署長等」は、「国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長」(税通74条の9第1項柱書括弧書)をいい、実地の調査を担当する「国税庁等又は税関の当該職員」(「当該職員」)とは別個に定められているので、文理上は、当該職員が事前通知を行うことはできないものと解される。これに対して、東京高判平成30年4月18日税資268号順号13143は、次のとおり判示し(下線筆者)、当該職員が事前通知を行うことを認める解釈を示した。 この判決は、原審・東京地判平成29年11月2日判タ1454号127頁と同じく当該職員が税務署長等の「補助機関」である旨を(組織法上の根拠規定を明示しつつ)判示し、さらには「国税通則法74条の9の上記制定経緯及び関連法令」をも援用して事前通知を「私人に対する関係では権利義務を形成せず、またその範囲を確定するものでもない事実行為」と性格づけた上で、当該職員が事前通知を行うことを認める解釈を示している。しかし、この解釈は、以下で述べるように、事前通知のその性格づけを一般的に前提にし国税通則法74条の9第1項の規定にいう「税務署長等」の解釈にストレートに結びつけるものであるが故に、妥当でないと考えられる。 まず、「国税通則法74条の9の上記制定経緯」というのは、原審・前掲東京地判が下記のとおり判示した「国税通則法74条の9の制定経緯」を引用した部分を指すものであるが、前掲東京高判はこれを援用することによって、国税通則法74条の9は平成23年度[11月]税制改正前の調査実務で行われていた調査担当職員による事前通知を明確化のために確認的に定めたものであるとの理解を示そうとしたものと解される。 しかし、国税通則法74条の9第1項が明文で「税務署長等」を事前通知の手続の主体として定めたことは、「調査担当職員は、飽くまでも行政庁としての税務署長の補助機関として事前通知をしてきた」(原審における被告の主張)という改正前の調査実務と法的に同等の評価を与えられるべきものではない。このことは、「国税通則法74条の9の・・・・・・関連法令」をみると、明らかである。 国税通則法74条の9第1項柱書括弧書は「税務署長等」及び「当該職員」という文言を、同法74条の11(調査終了の際の手続)までにおいて同じ文言として用いる旨を定めているが、この規定は調査終了の際の手続の主体として、㋐更正決定等をすべきと認められない場合(同条第1項)と㋑更正決定等をすべきと認められる場合とで異なる者を、すなわち、㋐については税務署長等を、㋑については当該職員をそれぞれ定めている。このように、国税通則法74条の9の関連法令の1つである同法74条の11で「税務署長等」と「当該職員」という文言が意識的に使い分けられていることからすると、立法者が事前通知の手続の主体を「税務署長等」と定めたことを改正前の調査実務と法的に同等に評価することは妥当でない。このことは、調査終了の際の手続の主体に関する「税務署長等」と「当該職員」という文言の使い分けの実質的理由を考えると、一層明らかである(なお、「第7章の2 国税の調査」におけるこの文言使い分けの論拠の不明さを指摘するものとして、品川芳宣『国税通則法の理論と実務』(ぎょうせい・2017年)153頁参照)。 この文言使い分けは、立案段階においては法的に特に重要な意味をもつものではなかった。というのも、前記㋑の場合においても、当該職員が納税者に対する説明に当たって交付する書面は「税務署長等名の文書」とされ、そこには「調査結果(非違の内容、金額、理由)」が記載されることとされていた(内閣・前掲閣議決定32頁)ので、その書面は前掲㋐の場合の「税務署長等名の文書」と同じく、信義則の適用上、更正決定等に係る金額や理由に関する「公的見解の表示」(最判昭和62年10月30日訟月34巻4号853頁)として、それと異なる内容の更正決定等を信義則違反とする可能性を開くからである(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【139】(ハ)参照。なお、信義則の適用については、同【82】【83】、谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第27回参照)。 しかし、法案の修正段階で前記㋑の場合における書面交付の部分が削除された(日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編・前掲書37頁[三木義一執筆]参照)。そのため、前記㋐の場合と㋑の場合が信義則の適用上異なる取扱いを受けることになった。つまり、この結果(すなわち、前記㋑の場合における当該職員の説明は「公的見解の表示」に該当しないこと)にこそ、前記の文言使い分けの実質的理由が見出されるのである。 このことを事前通知についてみると、仮に立案段階のように書面による通知が定められ(内閣・前掲閣議決定31頁参照)、しかもその書面が「税務署長等名の文書」とされていたとすれば、事前通知の手続の主体が税務署長等であっても当該職員であっても事前通知が信義則の適用上異なる意味をもつことはなかろうが、しかし、国税通則法74条の9第1項では上記のような書面による通知が要件とされていないことから、当該職員による事前通知が信義則の適用上「公的見解の表示」に該当する余地は認められない。そうすると、事前通知を「私人に対する関係では権利義務を形成せず、またその範囲を確定するものでもない事実行為」と性格づけるとしても、税務署長等による事前通知と当該職員による事前通知とは信義則の適用上異なる取扱いを受ける以上、そのような性格づけを一般的に前提にし国税通則法74条の9第1項の規定にいう「税務署長等」の解釈にストレートに結びつけることは、妥当でないと考えられる。 以上により、税務署長等による事前通知と当該職員による事前通知とは法的に同等に評価されるべきものではない。このことは、事前通知について調査に関する権限ないし責任の所在の透明性を確保する上で、重要な意味をもつと考えられる。要するに、調査に関する権限ないし責任の所在の透明性の確保の観点からは、当該職員が事前通知を行うことを認める解釈は妥当でないと考えられるのである。 (3) 「調査手続の透明性」の確保(その2) 次に、②調査過程の透明性の確保には、一般に、調査対象者の「調査過程の合理性を要求する権利」(曽和・前掲書216頁)が重要な意味をもつと考えられるが、この権利については次のとおり述べられている(同頁。下線筆者)。 「調査の目的」は現行法上事前通知事項とされており(税通74条の9第1項3号)、その内容・範囲については「納税申告書の記載内容の確認又は納税申告書の提出がない場合における納税義務の有無の確認その他これらに類する調査の目的」(同令30条の4第2項)と定められている。もっとも、調査の実務上は、「実地の調査を行う理由については、法令上事前通知すべき事項とはされていませんので、これを説明することはありません。」(国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」(令和5年11月改訂)問18関係)として、「調査の目的」には調査の理由は含まれないものと解されている。この点については、次のような見解が示されている(酒井克彦「国税通則法に規定する事前通知制度を巡る論点(上)」商学論纂(中央大学)62巻3・4号(2020年)231頁、256頁)。 しかし、事前通知が「調査手続の透明性」の確保の観点からも定められたものであることからすると、「調査手続の透明性」のうち調査過程の透明性の確保のためには単に「調査の目的」が示されればよいのではなく、前述のように、「調査の目的」が正当な目的でなければならないと考えられる。そうすると、「調査の目的」は、上記の見解にいう「具体的な調査選定理由」によって正当化されるものでなければならないであろう。これこそが、前述した調査対象者の「調査過程の合理性を要求する権利」を「行政調査過程における比例原則の適用」によって保障するために不可欠な「正当な調査目的」であるといえよう。この意味において、次の見解(日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編・前掲書331頁[浅野卓郎・武田京子執筆])は正当である。 ただ、「具体的な調査選定理由」の開示は、前記1で引用した平成23年度税制改正大綱にいう「課税の公平確保の観点」と両立しないことがあり得る。ここで、事前通知は「壁」に突き当たることになるが、その場合における事前通知の例外については、下記の3でその「壁」の克服(のための次善の策)も含め、検討することにする。   3 事前通知の例外 前記1で引用した平成23年度税制改正大綱で述べられた事前通知の制度化に関する考慮のうち後段の「課税の公平確保」は、「悪質な納税者の課税逃れを助長することのないよう」事前通知義務を解除するための考慮である。既に述べたように、これが事前通知の例外を認める考慮である。 国税通則法74条の10は、「税務署長等が・・・・・・、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合」を要件とし、事前通知を要しない旨を定めている。ここで注意すべきは、税務署長等がこの要件該当性の判断(「おそれ」の認定)を「税務署長等が調査の相手方である同条第3項第1号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み」(上記引用条文中の・・・・・・の部分)行うものと定められている点である。これは、上記の「おそれ」が不確定概念であることから、税務署長等の要件裁量につき裁量基準を示すことによって、恣意的な要件判断を排除しようとしたものと解される(日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編・前掲書357頁[松井淑子執筆]参照)。 立法者が以上のような考慮に基づき事前通知に一定の例外措置を定めることは合理的である。ただ、国税通則法74条の10に規定する「おそれ」が問題にならなくなる調査着手後は、税務署長等は事前通知事項を性質上意味のないもの以外は納税義務者に通知すべきである。事前通知事項の事後通知ともいうべきこのような措置は、事前通知の基礎にある「調査手続の透明性」の確保の観点から、いわば次善の策として要請されるものといえよう。つまり、事前通知事項の事後通知は、「調査手続の透明性」のうち調査過程の透明性ないし合理性を検証し、調査裁量の法的統制(曽和・前掲書325頁以下参照)を図る上で、有効な措置であるといえよう。 このような措置は、平成23年度税制改正の立案段階では、正当にも、「事前通知を行わない例外事由に該当する場合は、調査着手後、終了時までに上記の[事前]通知事項(日時・場所の記載を除きます。)を記載した文書を交付します。」(内閣・前掲閣議決定31頁)という形で、講じられることとされていたが、法案の修正によって実定法化されなかった(日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編・前掲書36頁[三木義一執筆]参照)。しかしながら、このことが「調査手続の透明性」の確保まで不要とする判断に基づくものでないことは言うまでもない。 むしろ、事前通知事項の事後通知の前記の趣旨・目的は、調査終了の際の手続(税通74条の11)において考慮すべきであろう。すなわち、㋐税務署長等が「その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知する」(同条第1項)場合に、その書面に事前通知事項も記載するものとすべきであり、また、㋑当該職員が「その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明する」(同条第2項)場合に、事前通知事項も説明するものとすべきである。いずれの場合においても、とりわけ具体的な調査選定理由を含め「調査の目的」を記載・説明することは、調査裁量の法的統制に資するとともに、調査に対する納税者の納得を得ることにも資することになろう。 この点について、「調査手続の透明性の確保は事後においては妥当しないとする理由もない以上、事後的にでも、事前通知を要しないとされた理由は明らかにされるべきと考える。」(日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編・前掲書368頁[松井淑子執筆])という見解は傾聴に値する。国税通則法74条の10の規定に基づき事前通知を要しないと判断した理由を調査終了の際に開示することにすれば、事前通知事項の事後的通知に期待される前記の裁量統制機能及び説得機能は高められることになろう(税通74条の11の立法趣旨を「理由の提示」(同74の14第1項)とセットにして理解する「セット論」については、日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編・前掲書381-382頁[山本洋一郎執筆]参照。また、理由付記の機能については、塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣・2015年)296頁参照)。 (了)

#No. 581(掲載号)
#谷口 勢津夫
2024/08/08

国際課税レポート 【第5回】「利益A・DSTと国内税制改革」

国際課税レポート 【第5回】 「利益A・DSTと国内税制改革」   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員   ここ1、2ヶ月の間、注目したいいくつかの展開があった。①OECDは、デジタル企業課税の核心である利益Aの多国間条約の署名について今後のスケジュールを示すことができないでいる。一方、②多国間条約の発効を条件に廃止されるデジタルサービス税について、インドは条約とは無関係に廃止することを決めた。また、③OECD加盟国でないブラジルのイニシアチブで、国際租税協力に関してこれからも長く参照されるであろう「閣僚宣言」が採択され、富裕層課税に焦点が当てられた。 これらの意味について考えてみよう。   市場国での課税に多国間条約は必須か? 合意が遅れている「利益A」のための多国間条約が仮に頓挫した場合、一般に次のようなリスクが警戒されている。 これは十分起こりそうなことだ。しかし、そのことで失うものは何か。一歩引いて考えてみる。 「利益A」は、グローバル売上200億ユーロ(約3兆円)超、利益率10%超の世界100社程度の多国籍企業の利益を市場国に再配分するためのものだ。しかし、DSTを導入した国々は、既に年間4~5百万ユーロの税収をすでに手にしている。デジタル経済の発展を背景に右肩上がりだ。イギリスでは、法人税を納税していないデジタル企業からもDSTは徴収できていることが報告されている。DSTが効率的な税であることは実績から証明されている。 【図1】 各国のデジタルサービス税収(実績) (出所) EU Tax Observatory(2023)「Digital Service Taxes」Figure 4 一方、利益Aを運用するためには、OECDが用意したA4用紙200頁に及ぶ多国間条約本体と、800頁ものコメンタリを読み込む必要があり、果たしてこのような制度(企業関係者からは“モンスター”と評する声も聞かれる)がスムーズに運用できるか保証はない。 また、各国バラバラのデジタル課税はデジタル市場の健全な発展を阻害するという指摘がある。しかし、各国でDSTの納税者は18社(英)~約50社(伊)程度であり(前掲「Digital Service Taxes」Figure 9)、DSTの対象となるのは少数の(独占・寡占)企業だ。しかも、DSTは法律的にも経済的にも消費者に転嫁される取引税(Excise tax)で、企業は実際転嫁している(The Guardian,November 23,2022)。 そう考えると、「利益A」のための多国間条約の表向きの姿は、市場国の課税権確保のためだが、本当の役割は米国が追加関税等に訴えることを封じこめるためのものということになる。しかし、現時点では米国議会の批准(上院出席議員の2/3が必要)は望みが薄い。米国の封じ込めに多国間条約は役に立たないことは明らかだ。もちろん、市場国の課税権を達成したとしても、各国バラバラの独自の措置によるか、国際協調に基づく多国間条約により行うかは別物である。しかし、1000頁に及ぶ制度を持ち出さなくても、例えば各国独自のDSTの在り方を一定の「べからず集」により制約する方法だって工夫できたはずだ(有害な税競争プロジェクトではこうした手法が採用されている)。   DSTは政治的に魅力的 そもそも、DSTはこれを導入する市場国にとっても、そして米国にとっても、政治的に魅力的な税と言えそうだ。市場国の政治家にとっては、「DSTにより税逃れをしている多国籍企業に応分の税負担を求めた」と国民に説明することができる。DSTは経済的にも法的にも市場国の消費者に転嫁されるので、大衆迎合的な、政治的レトリックであるとしてもだ。 一方、米国(テクノロジー企業の母国)にとっては、利益Aであれば外国税額控除を認める必要が生じるが、DSTであれば外国税額控除を認める必要はないので、自国の課税ベースが損なわれることはない。必要に応じて、通商上の報復をチラつかせれば国民受けも狙えるかもしれない(ただし、貿易相手国に本当に発動すべきでないし、トランプ政権時代を含め、これまでも実際には発動されていない)。 企業にとっては事務負担の問題はあるが、納税者は独占・寡占企業であるので、税負担の転嫁ができないことで苦しむこともない。 仮にこのような見立てが成立すれば、利益A多国間条約の署名・批准に時間がかかったとしても、直ちに困ることはない。膠着していることを奇貨として、じっくり取り組めばよい。   ブラジル(非OECD加盟国)が主導したG20閣僚宣言 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議においてG20閣僚宣言が採択された。こうした宣言の採択は初めてのことである。 鈴木財務大臣は7月26日の会見で、「国際租税協力に関するG20として初めての文書であり、日本も評価しています」と述べ、宣言を歓迎している。 G20閣僚宣言から読み取るべき重要なメッセージとしては、次の3点をあげることができるだろう。 閣僚宣言の最大の眼目は、富裕層に焦点を当てた国内法の改正にG20の財務大臣が連名でコミットしたことである。ホスト国ブラジルのアダジ財務大臣のほか、フランス、ドイツ、スペイン、南アフリカは、このテーマを「2つの柱による解決策」に加え、3本目の柱とすることを主張していた(The Guardian,April 25,2024)。 一方、共同声明に明記されたものの、米国も含めた富裕層課税の実現には壁があるという指摘もある。イエレン米財務長官は、記者会見で「世界的な合意を交渉する必要性はないし、望ましいことでもない」と発言したと伝えられる(2024年7月28日付日本経済新聞朝刊)。 しかし、この発言については補足説明が必要だ。米国憲法は、「直接税は人口に応じて各州に配分されなければならない」(第1条第2節3)と規定している。ブラジル等がグローバルミニマム富裕税として構想したタイプの税は、米国憲法でいう直接税に該当し、違憲になる恐れがある。イエレン氏が留保したのはこうした事情があるからだ。実際、バイデン政権は富裕層の株式含み益への課税や、追加税率など、富裕層課税強化に前向きな政策を主張してきている(ただし法律になったものはない)。 わが国は、令和5年度税制改正で、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」を導入した。おおむね30億円(財務省の説明による)を超える所得のある富裕層に対する22.5%のミニマム税で、2025年から適用になる。富裕層に焦点を当てた制度改正において他国の1歩先を行っているといえる。今後その強化を検討する上で今回の閣僚宣言は後押しとなることは間違いない(【第2回】参照)。   国際協調主義推進のために第1の柱と第2の柱が揃わなくても悲観する必要はない 利益Aのための多国間条約は、米国議会(上院)の賛成を得ることはできず、発効には至らないだろうというのが通説になっていた。しかし、議会承認どころか、課税権配分のための利益Aの多国間条約と、移転価格税制簡素化のための利益Bの強制適用のパッケージを米財務省が強く主張し、多国間条約の署名を阻んでいる(【第3回】参照)。 しかし、上述したように、第1の柱である利益Aの多国間条約がなくても、課税することを選択した市場国はDSTにより歳入を確保している。各国独自の制度であることでDSTに決定的な問題が見つかったとも言えない。むしろ、税収的にみて、英国やフランスでは利益Aの方がDSTより重い課税となることが分かってきた(前掲「Digital Service Taxes」Figure 10)。 一方、15%のグローバルミニマム税の導入により、法人税率引下げ競争に歯止めをかけ、課税ベースの浸食を防ぐための第2の柱については、すでに具体的な成果を上げているといえる。 下記【図2】にあるように、BEPS(15%のグローバルミニマム税)の議論がはじまると、そのアナウンス効果だけで多国籍企業の軽課税国への利益移転が抑制されたことが見てとれる。引き続き高止まりしていると指摘する論者がいないわけではないが、横ばいに転じていることは第2の柱の大きな成果というべきだ。 【図2】 タックスヘイブンへの利益移転により失われた法人税収(推計)~BEPSプロジェクトの開始により頭打ち? (出所) EU Tax Observatory「Global Tax Evasion Report 2024」Figure 2   インドが2%平衡税廃止-歓迎すべき責任ある決定 インドは、①非居住者に支払われるオンライン広告の収入に対する6%の課税(2016年に導入)と、②インドの消費者に対して電子商取引により商品又はサービス等を供給する者が受領する収入に対する2%の課税(2020年に導入)の2つのDST(インドでは平衡税と呼ばれる)を持つ。 インドはこれらのうち適用対象の広い2%DSTを廃止する(オンライン広告に対する6%DSTは残る)。廃止の理由について、2024年財政法のメモランダム(覚書)によれば、対象の範囲が曖昧で、コンプライアンスコストがかかっているというステークホルダーからの指摘があったことが紹介されている。 日本企業の中には、インドの現地法人とメールでやりとりをしただけで対象になるのではないかという心配を抱えているケースもある。今回のインド政府の方針は、インドで事業を展開する多くの日本企業にとって吉報だ。 また、インドと米国の間で結ばれた「政治的妥協」(※)の期限が6月末に切れてしまい、7月以降の取扱いは不透明になっていたが、今回のインドの決定によりインドと米国の間では通商上の問題が生じることは回避されるだろう。 (※) 利益Aの多国間条約発効までの間、インドは2%DSTの拡大等を凍結し、米国は追加関税など通商上の措置をとらないとする約束。 【図1】にあるように、インドのDST税収は伸びており、インド政府にとって今回の決定は簡単ではなかったはずだ。進出企業の声に応え、また、グローバルな貿易戦争の引き金を引く事態を回避したインド政府の判断は高く評価されるべきものだろう。   OECDの威信(威厳と信望)に陰り? G20閣僚宣言は、OECD加盟国でないブラジルから発信された。自らの公約どおりに重要な事項を決められないOECDのリーダーシップの相対的地位の低下についての指摘があってもおかしくない。これまでも、1990年代の移転価格ガイドラインの改定など、米国や日本、欧州のポリシーがぶつかり合い、合意に至るまで難航した事案はいくつもあった。今回の違いは、2021年10月の「大枠合意」を歴史的な合意と呼ぶなど、社会の期待や注目を集めていた点だろう。国際課税を一部の専門家のものでなく、格差問題など社会問題に対応し得るものであることを示したことは大きな功績だが、同時にスムーズに実施できなかった場合の困難も浮き彫りにした。 OECDからの発信についても、字面からだけでは何が起きているかつかみにくい。OECDは、「交渉が完了に近づいていることを報告することができる」という包摂的枠組み共同議長声明を5月末に出したにもかかわらず、7月末のG20コミュニケや閣僚宣言では具体的な日程を示すことができないなど不透明だ。合意達成の遅れとあわせて、こうした情報の分かりづらさも、歴史的な合意と盛り上げた後だけに、OECDの威信(情報の分かりやすさ)を損なうものという指摘があってもおかしくない。   国連の枠組みへの注目 国連総会は2023年12月22日、決議78/230「国連における包括的かつ効果的な国際租税協力の促進」を採択している。今回の閣僚宣言は、総会決議を受けて現在作業が進められている、国連における新たな国際租税協力枠組のための条約締結に向けた議論への各国のポジティブな関与を期待する、と述べた。 ロイター通信(2024年7月28日)によると、イエレン米財務長官は国際課税をめぐる議論を過去3年間進めてきたOECDでこの問題を取り上げる方がよいと指摘したと伝えられる。これまで国際課税のルール作りをほぼ独占してきたOECDが、その地位を失うことは主要OECD国にとって痛手だ。しかし、これを回避するためには、主要国による協調的なリーダーシップが必要だった。その機会がありながら、理由はさておき、利益Bの強制適用にこだわり、多国間条約の署名を膠着させた米財務省等のスタンスには疑問がないとはいえない。 今回のデジタル国際課税改革が行き詰まった場合の真のリスクは、グローバルサウスの発言力が高まる中、OECD主導の国際課税秩序形成の後退だ。そのことにより、日本、そして米国や欧州が失うものは大きいと知っておく必要があるだろう。 (了)

#No. 581(掲載号)
#岡 直樹
2024/08/08
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