「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例143(所得税)】
障害者1級となった義母を扶養に入れられないか相談を受けたが同居する義父の年金収入があったため扶養に入れず申告していたが、依頼者自身で税務署に出向いて申告したところこれが認められたことから、過年度分につき損害賠償請求を受けた事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
X1年からX5年分の所得税につき、X1年に障害者1級となった義母を扶養に入れられないか相談を受けたが、同居する義父の年金収入が年間280万円あったことから「義父の年金収入があるため、扶養には入れられない。」として扶養に入れずに申告していた。
ところがX6年に依頼者が税務署に出向いて状況を説明し義母を扶養に入れて申告したところ、これが認められ、「そもそも以前から義母を扶養に入れることができた。」との回答を得た。
これにより、扶養に入れずに申告していた年分につき過大納付が発生したとして損害賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- X0年1月
依頼者が関与先法人の代表者となり個人の確定申告業務に関与開始。 - X1年3月
義母が人工透析を開始し障害者1級となる。 - X2年2月
X1年分の確定申告において義母を扶養に入れられないか相談を受ける。「義父の年金収入があるため、扶養には入れられない。」と回答。以後X5年分まで義母の扶養控除、障害者控除を適用せずに申告。 - X7年2月
X6年分の確定申告において、申告案(義母に同居老親の扶養控除、特別障害者控除を適用)を税理士事務所で作成し、それを基に依頼者自身で税務署に行き申告したいとの申し出があり、その通りに対応。 - X7年3月
上記申告書を税務署が受理。「そもそも以前から義母を扶養に入れることができた。」との回答を受ける。 - X7年3月
X1年からX5年分の所得税についても、義母に同居老親の扶養控除、特別障害者控除が適用できたとして過大納付税額につき損害賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆納税者が2人以上いる場合の扶養控除の所属の変更(所令219①)
2人以上の居住者の扶養親族に該当する者をいずれの居住者の扶養親族とするかは、これらの居住者が提出するその年分の申告書等(予定納税額の減額承認申請書、確定申告書(期限後申告を含む)、給与所得者の扶養控除等申告書、従たる給与についての扶養控除等申告書又は公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)に記載されたところによる。
また、いったんその申告書等により所属が定められた後でも、改めてその所属の異なる記載をした申告書等を提出することによりその所属をさらに変更することはできるが、その場合には、扶養親族を増加させようとする者及び減少させようとする者全員が、その所属の異なる記載をした申告書等を提出しなければならない。
なお、この場合の申告書等には、「修正申告書」及び「更正の請求書」は含まれないため、いずれかの居住者がいったん確定申告書を提出している場合には、扶養親族の所属の変更はできない。
◆扶養親族等の所属の変更(所基通85-2)
扶養親族等の所属を変更しようとする場合には、自己の扶養親族等を増加させようとする者及び減少させようとする者の全員がその所属の変更を記載した申告書等を提出しなければならないことに留意する。
したがって、確定申告書の提出によりその所属を変更しようとする場合には、自己の扶養親族等を減少させようとする者のうちに確定申告書の提出を要しない者がいるときであっても、その者を含めた全員が確定申告書を提出しなければならない。
◆扶養親族(所法2①三十四)
扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる者をいう。
① 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいう)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
② 納税者と生計を一にしていること。
③ 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
◆「生計を一にする」の意義(所基通2-47)
法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
① 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
② 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
《税理士の落とし穴》
義父の年金収入があるため、依頼者の扶養には入れられないと思い込んでいた。
《税理士の責任》
依頼者の義母はX1年3月に人工透析を開始し障害者1級となった。このため、義母の医療費が多くかかることから、依頼者よりX1年分の確定申告において義母を扶養に入れられないか相談を受けたが、同居する義父の年金収入が年間280万円あったことから、「義父の年金収入があるため、扶養には入れられない。」と回答し、X5年分まで義母の扶養控除、障害者控除を適用せずに申告した。
その後、X6年分の確定申告において、義母に同居老親の扶養控除、特別障害者控除を適用した申告書を税理士事務所で作成し、それを基に依頼者自身で税務署に行き申告したいとの申し出があり、その通りに対応したところ、上記申告書が受理されたことから、依頼者よりX1年からX5年分の所得税についても、義母に同居老親の扶養控除、特別障害者控除が適用できたとして過大納付税額につき損害賠償請求を受けた。
確かに義父の年金収入が年間280万円あったことから、義母は義父の扶養親族とすることが妥当であったと思われるが、依頼者が所轄税務署に出向き交渉した際に、「そもそも以前から義母を扶養に入れることができた。」との回答を得ており、実際に、依頼者の扶養に入れて申告をすれば認められた可能性が高いことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
扶養親族等の所属変更の検討
納税者が2人以上いる場合の扶養控除の所属の変更は、いったんその申告書等により所属が定められた後でも、改めてその所属の異なる記載をした申告書等を提出することにより、その所属をさらに変更することは認められる。
したがって、本事例とは異なるが、扶養親族等の状況に変化があった場合には、所属の変更が可能なケースもあることを想定し、依頼者の言い分を聞き取る必要がある。
[ポイント②]
納税者の意思確認
所得税の確定申告においては、税の専門家としての税理士の立場上、受け入れられない処理が、納税者本人が行うと、結果的に通ってしまっているものが散見される。
したがって、税理士は納税者の意思をできる限り尊重して申告を行うが、受け入れられない処理を依頼された場合には、自身で申告を行うように促すことも必要である。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。























