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プロフェッションジャーナル No.478が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年7月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.478を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/07/21

日本の企業税制 【第105回】「ストックオプション税制の見直し」

日本の企業税制 【第105回】 「ストックオプション税制の見直し」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では重点投資に係る4分野として、①人への投資、②科学技術・イノベーションへの投資、③スタートアップへの投資、④GX(グリーントランスフォーメーション)及びDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資、が掲げられている。これら4分野、いずれも今後の税制改正に関連する課題を含むものである。 とりわけ、スタートアップについて、5年で10倍増を視野に、5ヶ年計画を本年末に策定するとともに、司令塔機能を明確化し、重点的に取り組むとされた。また、GPIF等の長期運用資金のベンチャー投資への循環の流れを構築することや、事業化まで時間を要するスタートアップの成長を図るためのストックオプション等の環境整備も盛り込まれており、ストックオプション税制の拡充が期待される。ストックオプションに関しては、具体的には次のように記載されている。   〇ストックオプション税制 ストックオプションとは、法人が個人(その役員又は従業員等)に対し、将来の一定期間内にあらかじめ決められた価格で一定数の株式を取得することができる権利を報酬の一環として付与する制度であり、業績連動型の報酬制度の1つとして広く活用されている。 この制度は、平成9年の商法改正(議員立法)により、役員や従業員に対する新株引受権の付与が規定されたことに始まる。平成13年11月の商法改正において新株予約権制度として再編成され、現在に至っている。 ストックオプション制度に基づき株式を取得した役員及び従業員等に対する所得税課税は、付与される新株予約権や制度が一定の要件を満たす「税制適格ストックオプション」(措法29の2①)に該当する場合、ストックオプションの行使時には所得税課税は行われず(課税を繰り延べ)、取得した株式(特定株式)をその取得の日以後に売却する際に、特定株式の権利行使時の時価ではなく権利行使価格と、特定株式の売却価額との差額が一般株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象となる。   〇税制適格ストックオプションの要件 権利行使時において所得課税が繰り延べられるためには、次の要件をクリアする必要がある。   〇見直しの課題 これらの課税繰延べの要件の中で、特に、今回の政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」との関係で注目されるのは、(1)である。この中で「事業化まで時間を要する」「長期間をかけて大きな成長を目指す」と指摘されていることから、「ストックオプションの行使が付与決議の日後10年を経過する日までの間に行わなければならない」こととの関係が問われることとなる。 次に(2)の要件については、権利行使額の年間合計額1,200万円の上限が妥当かどうかということである。先に引用した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」で「大きな成長を目指すスタートアップ」が特記されていることとの関係で上限の望ましい水準が検討される可能性があろう。 (3)の要件については、「契約締結時における1株当たりの価額」が問題となろう。制度改正課題とは言えないが、スタートアップの株式の評価のあり方について検討の余地があるのではないか。 (6)の要件については、上場前にストックオプションの権利行使をする場合、付与会社は株券発行会社にした上で証券会社にその株券を預託する必要がある点について、実務上の問題が従来指摘されていたところである。 (了)

#No. 478(掲載号)
#小畑 良晴
2022/07/21

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第40回】「いわゆる黄金株を有する役員の『退職の事実』」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第40回】 「いわゆる黄金株を有する役員の『退職の事実』」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 拒否権付種類株式と法人税基本通達9-2-32 いわゆる「黄金株」は会社法上の種類株式の一種であり、拒否権付種類株式といわれている。拒否権付種類株式は、会社法上、株主総会等において決議すべき事項において、当該株主総会等のほか、拒否権付種類株式を有する種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする旨が定められている(会社法108①八)。したがって、黄金株を有する者は、株主総会等の決議内容を事実上拒否できるという絶大な権限が与えられることとなる。 今でこそ会社法を活用したその他の事業承継対策が浸透しているが(※1)、この黄金株を活用した事業承継対策は、後継者に経営を委ねる現経営者が黄金株を保有することで、後継者が誤った経営をしてしまった場合の歯止め役となることが期待できるという点で、選択肢の1つとして以前から活用されてきたように思われる(※2)。 (※1) 例えば、中小企業においていわゆる属人的株式(会社法109②)や株主間契約等を活用することで各立場の差別化や経営リスクの回避等を図り、事業承継対策を行うというものがある。なお、この場合の「事業承継対策」は、節税だけを意図した「相続税対策」とは異なる。 (※2) あくまで筆者の主観に過ぎないが、先代経営者が黄金株を有することで経営リスク等を回避しようとすること自体、減少傾向にあると感じられる。これには、法人版事業承継税制の特例措置において、株式を贈与する先代経営者側が黄金株を有する限り法人版事業承継税制の特例を受けることができないという制限があること等が背景にあるのかもしれない。 ここで、このような絶対的権限を持つ黄金株を有する者が役員を兼ねていた場合において、当該役員が退職したことで役員退職給与を支給することができるのかどうかという疑問が浮かぶ。役員退職給与を支給するためには「退職の事実」が必要であり(※3)、これは完全な退職であっても分掌変更による退職であっても、経営に関与できる権限を引き続き保持することはどんな形であれ想定されていないとも思われるからである。さらに、法人税基本通達9-2-32に示される分掌変更事由として認められる具体的な例示では、「法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者」が除外されていることも判断を難しくしていると思われる。 (※3) 実質的な退職の判断については、【第2回】参照。   (2) 筆頭株主かつ代表取締役への役員退職給与の支給が認められた事例 筆者が調査した限り、「黄金株を有することで法人の経営上主要な地位を占めている」か否かが争われ、役員退職給与の損金算入の是非について判断が示された裁判例は無い。しかし、筆頭株主かつ代表取締役が退任した上で監査役に就任したことで役員退職給与を支給し、損金算入をしたことの是非について課税庁と争った裁判例は存在するため、以下に紹介する(※4)。 (※4) 東京地裁平成20年6月27日判決(判例タイムズ1292号161頁、TAINS:Z258-10977)。 この判決の意義は、株主と役員は、その責任、地位及び権限等が異なるため、株式の保有による会社への関与は実質的な退職の判断には影響しないと示した点にある。このように考えれば、黄金株を有するケースにおいても結論を異にしないと考えられる。役員退職給与の支給を受けた元役員が、退職後も、事実上の役員としての職務を担っていないか、役員としての権限を事実上有していないか等という、役員としての地位や職務内容の変化に注目して判断することとなると思われる。   (了)

#No. 478(掲載号)
#中尾 隼大
2022/07/21

基礎から身につく組織再編税制 【第42回】「適格現物出資があった場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限」

基礎から身につく組織再編税制 【第42回】 「適格現物出資があった場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格現物出資があった場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限について解説します。   1 特定資産譲渡等損失の損金算入制限の趣旨 適格現物出資があった場合には、現物出資法人の有する資産は、現物出資法人の帳簿価額で被現物出資法人に引き継がれます。したがって、現物出資法人から移転を受けた資産の含み損を実現させ、被現物出資法人の所得と相殺する、あるいは、現物出資法人から移転を受けた資産の含み益を実現させ、被現物出資法人の含み損と相殺するといった租税回避行為が可能となります。 このような租税回避行為を防止する観点から、一定の適格現物出資があった場合に、その後に含み損を実現したときは、その損失を損金の額に算入しないという規定が設けられています。   2 特定資産譲渡等損失の損金算入制限 (1) 内容 完全支配関係又は支配関係がある適格現物出資があった場合に、次のいずれにも該当しないときは、適用期間((2)参照)に被現物出資法人において生じた一定の特定資産譲渡等損失額((3)参照)が損金不算入となります(法法62の7①、法令123の8①)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令123の8①二)。 (2) 適用期間 「適用期間」とは、次のいずれか早い日までの期間をいいます。 支配関係が生じた時期により、適用期間が下図のように異なることになります。 又は (3) 特定資産譲渡等損失 「特定資産譲渡等損失額」とは、現物出資法人の特定資産(特定引継資産)に係る譲渡等損失額と被現物出資法人の特定資産(特定保有資産)に係る譲渡等損失額の合計額をいいます(法法62の7②)。 ① 特定引継資産 「特定引継資産」とは、適格現物出資により現物出資法人から被現物出資法人へ移転した資産で、支配関係発生日前から現物出資法人が有していた資産(※)をいいます。 (※) 支配関係が生じた事業年度開始の日以後に有する資産が除外されるため(法令123の8③五)、特定保有資産と同様に支配関係が生じた事業年度開始の日前から有していた資産となります。 ② 特定保有資産 「特定保有資産」とは、支配関係が生じた事業年度開始の日前から被現物出資法人が有していた資産をいいます。 ③ 特定資産から除かれるもの 特定資産からは次の資産が除かれています(法令123の8③⑭)。 ④ 1,000万円に満たないかどうかの判定 ③(ハ)における1,000万円の判定は、次のように区分した後の単位で判定することとされています(法規27の15①)。 ⑤ 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するための要件 適格現物出資の日の属する事業年度の確定申告書にその資産の時価及びその帳簿価額に関する明細を記載した書類の添付があり、かつ、時価の算定の基礎となる事項を記載した書類を保存する場合に限ります(法規27の15②)。 ⑥ 特定資産譲渡等損失額の計算方法 特定資産譲渡等損失額は、特定引継資産及び特定保有資産について生じた譲渡、評価換え、貸倒れ、除却等の事由(譲渡等特定事由)による損失額から譲渡又は評価換えによる利益の額を控除して計算します。 (※) 特定引継資産の譲渡等損失額と特定保有資産の譲渡等損失額の損益通算は認められません。 (4) みなし共同事業要件 「みなし共同事業要件」とは、次の①から④又は①と⑤の要件の全てを満たすことをいいます(法令112③⑩)。   3 時価評価した場合の特例 (1) 内容 現物出資法人において含み益が生じている資産を多額に有しているケースでは、実現させた含み益の含み損との相殺は、含み損の自社利用であり、租税回避とはいえないため、特定資産の譲渡等損失について制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 時価純資産超過額がある場合 支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額がある場合には、特定資産譲渡等損失の制限はありません。 (3) 簿価純資産超過額がある場合 支配関係事業年度の前事業年度終了時における簿価純資産超過額がある場合には、簿価純資産超過額から繰越欠損金の制限対象金額についての特例で特定資産譲渡等損失額からなる欠損金額とみなされた金額を控除した金額が制限されます。 時価評価をした場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。   4 事業の移転がない場合の特例 (1) 内容 事業を移転しない適格現物出資の場合には、移転資産の含み益に対応する特定保有資産の譲渡等損失額の損金算入制限をすれば、租税回避行為に十分対応できます。 したがって、事業の移転がない場合には、特定保有資産の譲渡等損失額について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 移転資産に含み損がある場合の特例 移転資産に含み損がある場合には、特定保有資産の譲渡等損失額の制限はありません。 (3) 移転資産に含み益がある場合の特例 移転資産の含み益が欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額に満たない場合には、特定保有資産の譲渡等損失額の制限はありません。 移転資産の含み益が欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額を超える場合には、移転資産の含み益から欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額を控除した金額に達するまでの金額のみ制限されます。 事業の移転がない場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。   ◆適格現物出資があった場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限のポイント◆ 現物出資法人の特定資産(特定引継資産)と被現物出資法人の特定資産(特定保有資産)の両方について損金算入制限の規定が設けられています。 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するためには一定の手続きが必要です。 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。 特定保有資産の譲渡等損失額の制限対象金額の計算については、事業の移転がない場合の特例が設けられています。   (了)

#No. 478(掲載号)
#川瀬 裕太
2022/07/21

相続税の実務問答 【第73回】「相続時精算課税適用者が養親である特定贈与者と離縁した場合」

相続税の実務問答 【第73回】 「相続時精算課税適用者が養親である 特定贈与者と離縁した場合」   税理士 梶野 研二   [答] 相続時精算課税適用者は、特定贈与者に相続が開始した場合の相続税の計算に当たっては、その特定贈与者から相続又は遺贈による財産の取得の有無にかかわらず、その特定贈与者からの贈与で相続時精算課税の対象となった財産の価額を相続税の課税価格に含めなければなりません。相続税の総額は、相続人等が相続又は遺贈により取得した財産の価額と相続時精算課税に係る贈与財産の価額の合計額を基に計算されますので、この合計額が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納税が必要になります。この場合、相続時精算課税を適用して納付した贈与税額は、いわば相続税の前払いと考えて、相続税額から控除されます。 なお、いったん相続時精算課税の選択が有効に行われた場合には、その選択を撤回することはできませんので、離縁により特定贈与者である養親との親族関係が解消されたとしても、その特定贈与者に相続が開始した場合には、相続税の課税関係から逃れることはできません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税制度の概要 相続時精算課税制度とは、一定の要件を満たす者でこの制度の適用を選択した者が、贈与を受けた時にこの贈与に対する贈与税を負担し、その後、相続時精算課税に係る贈与者(「特定贈与者」といいます)が死亡した際に、相続時精算課税を適用した贈与財産の価額と、相続人及び受遺者が相続及び遺贈により取得した財産の価額の合計額を基に相続税額を計算し、相続時精算課税適用者の相続税額として算出された相続税額から既に支払った贈与税額を控除した額を納付することにより、贈与税と相続税を通じた一体的な課税を行おうとする制度です。 この相続時精算課税の適用を受けることができる受贈者(相続時精算課税適用者)は次の要件を満たす者です(相法21の9①、措法70の2の6①)。 また、相続時精算課税の適用対象となる贈与者(この贈与者を「特定贈与者」といいます)は次の要件を満たす者です(相法21の9①)。 (注) 住宅取得資金等の贈与を受けた場合、非上場株式の納税猶予及び個人事業者の事業用資産に係る贈与税の納税猶予の適用を受ける場合には、受贈者又は贈与者の要件の一部が緩和されています(措法70の3、70の2の7、70の2の8)。   2 相続時精算課税制度における贈与税の課税 (1) 贈与税の課税価格の計算 相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した財産については、特定贈与者ごとのその年中において贈与により取得した財産の価額の合計額をもって贈与税の課税価格とされます(相法21の10)。 すなわち、特定贈与者が2人以上いる場合(例えば、父と母からの贈与について、それぞれ相続時精算課税制度を選択している場合)には、それぞれの特定贈与者ごとに課税価格を計算することとなります。 (2) 特別控除 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に対するその年分の贈与税については、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格から、それぞれ次に掲げる金額のうち低い方の金額を特別控除額として控除します(相法21の12①)。 なお、特別控除は、原則として、贈与税の期限内申告書に控除を受ける金額や既にこの特別控除を適用し控除した金額等の記載がある場合に限り適用することができます(相法21の12②③)。 (3) 税率 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に対するその年分の贈与税の額は、特定贈与者ごとに計算した課税価格から、特定贈与者ごとに計算した特別控除額を控除した金額にそれぞれ20%の税率を乗じて計算した金額となります(相法21の13)。   3 相続時精算課税制度の選択 相続時精算課税制度の適用を受けようとする受贈者は、その贈与に係る贈与税の申告期間内に「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付して、納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません(相法21の9②、相令5、相規11)。 相続時精算課税選択届出書を提出した場合には、特定贈与者からの贈与により取得する財産については、相続時精算課税制度を適用した年分以降、全て相続時精算課税制度の適用を受けることになります(相法21の9③)。 なお、いったん適法に提出された相続時精算課税選択届出書は撤回することができません(相法21の9⑥)。   4 相続時精算課税適用者に係る特定贈与者に相続が開始した場合の相続税の課税 (1) 相続等により財産を取得した相続時精算課税適用者 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した相続時精算課税適用者は、特定贈与者である被相続人から贈与を受けた財産で、相続時精算課税制度の適用を受けたものについては、その贈与の時における価額を相続税の課税価格に加算します(相法21の15①)。 (2) 相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、特定贈与者である被相続人からの贈与財産で、相続時精算課税制度の適用を受けたものについては、相続又は遺贈により取得したものとみなされます(相法21の16①)。相続税の課税価格に算入される財産の価額は、その贈与の時における価額となります(相法21の16③)。 (3) 相続税額の2割加算 相続税の納税義務者が被相続人の配偶者又は一親等の血族ではない場合には、相続税法第18条⦅相続税額の加算⦆の規定が適用されますが、相続時精算課税適用者が贈与により財産を取得した時において、特定贈与者の一親等の血族だった場合には、その特定贈与者から取得したその財産に対応する相続税額については、同条の適用対象とはされません(相法21の15②、21の16②)。 (4) 贈与税の税額に相当する金額の控除及び還付 相続時精算課税制度の適用を受ける財産に係る贈与税の税額(在外財産に対する贈与税額の控除(相法21の8)の規定による控除前の税額とし、延滞税、利子税及び加算税を除きます)に相当する金額を上記により求めた相続税額から控除します(相法21の15③、21の16④)。 さらに、控除しきれなかった金額がある場合には、その控除しきれなかった金額(在外財産に対する贈与税額の控除の適用を受けた場合にあっては、当該金額から在外財産に対する贈与税額を控除した残額とする)に相当する税額の還付を受けるために、相続税の申告書を提出することができます(相法27③、33の2①)。   5 ご質問の場合 あなたが甲からの贈与について相続時精算課税を選択した時には、あなたは甲との間に養親子関係があり、相続時精算課税選択届出書の提出要件を満たしていました。あなたが、甲から受けた贈与の申告について、適法に相続時精算課税制度を選択した以上、その選択を撤回することはできませんので、将来、甲に相続が開始した場合には、相続人や受遺者が相続又は遺贈により取得した財産の価額に、あなたが甲から受けた相続時精算課税に係る贈与財産の価額を加えたところで相続税の申告義務の有無を判定し、相続税の計算をする必要があります。ただし、相続税の計算をする場合、相続税額の2割加算の規定は適用されません。 なお、相続税の計算においては、相続時精算課税制度により申告・納税した贈与税額100万円を控除することになりますが、控除しきれない金額については、その控除しきれない贈与税相当額の還付を受けることができます(課税価格の合計額が相続税の基礎控除額に満たないため、相続税額が算出されない場合には、相続時精算課税に係る贈与税額の全額の還付を受けることができます)。 (了)

#No. 478(掲載号)
#梶野 研二
2022/07/21

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第45回】「会社の代表者が親族外である場合の特定同族会社事業用宅地等の特例の適用の可否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第45回】 「会社の代表者が親族外である場合の特定同族会社事業用宅地等の特例の適用の可否」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲(令和4年7月13日相続発生)は金属製品製造業であるA株式会社の代表者で100%の株式を所有していました。甲は、令和3年10月に親族外である役員乙に代表権を移譲し、退職金を受け取り、その後は、非常勤取締役の会長として勤務していました。株式については、生前に承継せずに100%保有したまま相続が発生しています。 また、甲はA社に甲の所有する土地を賃貸し、A社は自社で建物を建築し、本社及び工場で使用していました。甲とA社は、無償返還に関する届出書を賃貸借で所轄税務署に提出しており、地代は固定資産税及び都市計画税の合計の約3倍程度で設定がされています。 甲の相続人は、長男1人のみですが、遺言書を下記のとおり遺していました。 甲の相続に伴い、長男はA社に賃貸している土地及び家屋を相続し、引き続き、相続税の申告期限までA社に賃貸しています。 長男は、将来的には乙の後継者候補となりますが、相続開始の直前においては、A社の関連会社であるB社に勤務をしていました。長男が相続税の申告期限までにA社の役員になった場合には、A社に賃貸していた土地について、小規模宅地等に係る特定同族会社事業用宅地等の特例の適用を受けることは可能でしょうか。 [A] 長男は、他の要件を満たせば、小規模宅地等に係る特定同族会社事業用宅地等の特例(以下、単に「特例」という)を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定同族会社事業⽤宅地等の意義 特定同族会社事業⽤宅地等とは、相続開始の直前に被相続⼈及びその被相続⼈の親族その他その被相続⼈と政令で定める特別の関係がある者が有する株式の総数⼜は出資の総額がその株式⼜は出資に係る法⼈の発⾏済株式の総数⼜は出資の総数の10分の5を超える法⼈の事業(貸付事業を除く、以下同じ)の⽤に供されていた宅地等で、当該宅地等を相続⼜は遺贈により取得した当該被相続⼈の親族(相続税の申告期限においてその法⼈の役員(清算⼈を除く)である者に限る)が相続開始時から申告期限まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続きその法⼈(相続税の申告期限において清算中の法⼈を除く)の事業の⽤に供されているものをいいます(措法69の4③三、措令40の2⑯⑰⑱、措規23の2⑤)。 上記の政令で定める特別の関係がある者は、次に掲げる者をいいます(措令40の2⑯)。   2 特定同族会社事業⽤宅地等の要件整理 特定同族会社事業⽤宅地等について、要件を整理すると下記のとおりとなります。 (1) 相続開始直前における同族過半数要件 相続開始の直前において、被相続⼈及びその被相続⼈の親族その他その被相続⼈と政令で定める特別の関係がある者が有する株式の総数⼜は出資の総額がその株式⼜は出資に係る法⼈の発⾏済株式の総数⼜は出資の総数の10分の5を超えていること。 10分の5を超えるかどうかの判定を行う際は、相続開始の時について議決権のない株式等(※)は含まないで判定します(措令40の2⑰、措規23の2⑥⑦)。 (※) 議決権のない株式等とは、例えば下記のものが該当します。 ・無議決権株式(会法108①三) ・自己株式(会法308②) ・一定の相互保有株式(会法308①) ・単元未満株式(会法308①) (2) 法人の事業の用に供されていた宅地等であること 法人の事業の用に供されていた宅地等とは、次に掲げる宅地等のうち法人の事業(貸付事業を除く)の用に供されていたものをいいます(措通69の4-23)。 法人の事業から、貸付事業が除かれていますが、貸付事業の範囲は、下記のとおりとなります(措令40の2①⑦⑲)。 したがって、法人が不動産賃貸業を営んでいる場合には、特例の適用を受けることができません。もっとも、その場合には、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適用を受けることができる可能性はあります。 (3) 清算中の法人非該当要件 相続税の申告期限において清算中の法⼈ではないこと。 特例の趣旨の1つとして事業の継続の保護がありますので、清算中の会社である場合には、特例は認められません。 (4) 取得者の役員要件 相続税の申告期限においてその法⼈の役員であること。 役員とは、法⼈税法第2条第15号に規定する役員(清算⼈を除く)をいいます(措規23の2⑤)ので、法人税法上のみなし役員も含まれることになります。 法⼈税法2条15号(役員) 法人税法施行令7条(役員の範囲) 役員判定の時点は、相続税の申告期限となりますので、相続開始の直前において役員でない場合においても相続税の申告期限において役員であれば問題ありません。 なお、小規模宅地等の特例対象者は被相続人の親族のみとなりますので、親族以外の者が宅地等を取得しても特例の対象になりません。 (5) 取得者の宅地等の保有要件、事業継続要件 宅地等を相続税の申告期限まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続きその法⼈の事業の⽤に供されていること。   3 本問への当てはめ 本問の場合には、下記のとおり、要件を満たし特例の適用を受けることができます。 (1) 相続開始直前における同族過半数要件 相続開始の直前において判定を行うこととされていますので、被相続人が100%の株式を保有していることから要件を満たすことになります。仮に生前に甲が乙に3分の2の株式を贈与又は譲渡していた場合には、要件を満たさず、特例の適用を受けることはできません。 (2) 法⼈の事業の⽤に供されていた宅地等であること 本問の宅地は、A社の金属製品製造業の本社及び工場で使用していますので、貸付事業の用に供されていた宅地等に該当せず、上記2(2)の「① その法人に貸し付けられていた宅地等(その貸付けが賃貸借に該当する場合に限る)」に該当することになりますので、要件を満たしていることになります。 (3) 清算中の法人非該当要件 A社は清算中の法人に該当しませんので、要件を満たしていることになります。 (4) 取得者の役員要件 長男が相続税の申告期限において役員であれば問題ありませんので、要件を満たすことになります。 (5) 取得者の宅地等の保有要件、事業継続要件 長男が相続税の申告期限まで宅地等を保有し、その法人の事業の用に供していますので、要件を満たすことになります。   ★実務上のポイント★ 親族外承継でも要件を満たせば、特例を適用できる可能性はありますので、1つ1つの要件を確認することが重要となります。   (了)

#No. 478(掲載号)
#柴田 健次
2022/07/21

マスクと管理会計~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第6回】「かさむ固定費、どうすればいい?」

マスクと管理会計 ~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第6回】 「かさむ固定費、どうすればいい?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔登場人物〕 ●  ●  ● 管理会計では、コストを変動費と固定費とに分解する方法が多く利用されます。売上高や操業度に比例して生じるコストは変動費、常に一定額が生じるコストは固定費です。この分類は、損益分岐分析(ファーストステップ管理会計【第7回】参照)や変動予算、直接原価計算(【第5回】参照)などの基礎になっています。ただし、ここでいう変動・固定の分類はあくまでも短期を想定したもので、長い目で見れば固定費にも増減が生じます。 ●  ●  ● 【長期的には固定費も増加する】 ●  ●  ● 長期的に見ると、売上が拡大する局面ではコストも増加し、売上が縮小する局面ではコストも減少します。ただし、現実には、売上が縮小する局面のコストの減少率は、売上が拡大する局面のコストの増加率よりも小さいという現象が生じることが多いようです。こうした「コストの下方硬直性」については、様々な実証研究が行われています。 売上が縮小する局面で、コストを投じた対象である資源を削減してしまうと、将来再び売上が拡大した場合に、その削減した資源を再度取得したり利用したりするために様々な調整コストがかかることが想定されます。そのため、売上が縮小しても、その資源の保有や利用をひとまず継続しがちです。このような傾向が、コストの下方硬直性の要因の1つと考えられています。 ●  ●  ● ●  ●  ● 全部原価計算では、固定製造原価も製品原価として集計され、売上高と対応する形で示されます。そのため、売上と固定費を切り離して考えにくく、売上の拡大局面では固定費も増加しても構わないようなイメージが生じやすいようです。 一方、【第5回】で取り上げた直接原価計算の考え方では、変動費と固定費を区分して損益計算を行い、固定費は製品原価に含めずに総額をそのまま期間原価として費用処理します。そのため、固定費を売上水準から切り離してコントロールする発想や、固定費総額を発生原因に応じて管理する姿勢につながりやすくなります。 【直接原価計算の構造】 コストの発生原因という視点で考えると、変動費は、生産や販売活動を行うことによって発生する「アクティビティ・コスト」であるのに対して、固定費は、一定の生産・販売能力を維持するために発生する「キャパシティ・コスト」であると言えます。キャパシティ・コストとしての固定費は、コミッテッド・コスト(拘束固定費)とマネジド・コスト(自由裁量固定費)とに大別できます。 コミッテッド・コストは短期的にはコントロールすることが難しく、適切な管理は、当初の意思決定を適切に行えるか否かにかかっています。一方、マネジド・コストは短期的にコントロールすることも可能で、予算管理が有効です。特に、【第2回】で取り上げたゼロ・ベース予算が適している場合があります。いずれにせよ、これらの固定費の管理アプローチは、変動費の管理アプローチとは大きく異なります。 ●  ●  ● ●  ●  ● 直接原価計算の考え方のもとで、固定費総額について各部門に予算を割り当てて管理させる方法をとると、各部門が主体性をもって固定費のコントロールに取り組む下地を作ることができます。また、全部原価計算の考え方では固定製造原価が製品に配賦される結果、固定費の責任の所在が曖昧になりがちですが、こうした責任の所在の曖昧さを減らすこともできます。 ●  ●  ● ●  ●  ● 近年では、顧客ニーズの多様化や製品ライフサイクルの短縮、システム化の進展などに伴い、固定費がかさみ、その内容も多岐にわたる傾向にあります。そのような状況では、固定費を管理するうえでは固定費の製品配賦を行わず、シンプルに総額ベースで示し、その責任を部門別に割り当てるほうが、かえって適していることも多いようです。企業内のメンバーやその働き方が多様化しつつあることも踏まえると、大多数の人にとってのわかりやすさやシンプルな発想も大切にしたいですね。 ●  ●  ● (了)

#No. 478(掲載号)
#石王丸 香菜子
2022/07/21

〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説 【2022年7月】第1四半期決算(2022年6月30日)

〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2022年7月】 第1四半期決算(2022年6月30日)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第1四半期決算(2022年6月30日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 基本的に2022年4月1日から6月30日までに公開した速報解説を対象としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律の公布 令和4年5月18日、「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(法律第41号)が公布された。 これは、会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、もって企業財務書類の信頼性を高めるため、上場会社等の監査に係る登録制度の導入などの措置を講ずるものである。   Ⅲ 有価証券報告書の開示関係 金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループから、「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」が公表されている。 サステナビリティに関する企業の取組みの開示、コーポレートガバナンスに関する開示、四半期開示などについて記載されている。   Ⅳ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から次のものが公表されている。 ① 「企業会計基準等の開発において開示を定める際の当委員会の方針 (開示目的を定めるアプローチ)」(内容:原則として、開示目的を定めた上で、当該開示目的に照らして開示する具体的な項目及びその記載内容を決定する旨を定める方針を採用する) 日本公認会計士協会から次のものが公表されている。 ② 「会計制度委員会研究資料第7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料 ~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」」(内容:DX環境下におけるソフトウェア関連取引に係る会計処理等の課題を抽出し検討したもの。ソフトウェアに関連する会計処理などを詳細に検討)   Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査に関連して、次のものが公表されている。 ① 「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」(内容:ウクライナをめぐる国際情勢に関連して、監査上の留意事項を示す) ② 「監査基準委員会研究報告第1号「監査ツール」の改正について」(内容:監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」及び同540「会計上の見積りの監査」の改正等に対応するもの) ③ 「「2021年度 品質管理レビューの概要」等の公表について」(内容:日本公認会計士協会の品質管理レビューによる指摘事項について記載)   Ⅵ 監査役等の監査関係 日本監査役協会は、「改正公益通報者保護法施行に当たっての監査役等としての留意点-公益通報対応業務従事者制度との関係を中心に-」を公表している。 これは、2022年6月1日に、公益通報者保護法の一部を改正する法律が施行されることから、監査役等としての留意点をまとめたものである。   Ⅶ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2022年4月1日以後に適用されるものとして、次の会計基準等がある。 ① 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(2021年8月12日、実務対応報告第42号)(内容:グループ通算制度の適用に関する会計処理及び開示) ② 「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021年6月17日、改正企業会計基準適用指針第31号)(内容:投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価についての取扱い) (了)

#No. 478(掲載号)
#阿部 光成
2022/07/21

給与計算の質問箱 【第31回】「給与計算で生じる端数の扱い」

給与計算の質問箱 【第31回】 「給与計算で生じる端数の扱い」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 給与計算で端数が生じた場合、端数の切り上げや切り捨てについてはどのように判断すればよいでしょうか。ご教示ください。 A 給与計算で生じる端数の扱いについては、以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 給料に係る端数処理 割増賃金(時間外、休日、深夜)は、「1時間あたりの賃金 × 時間数 × 割増率」で計算する。1円未満の端数の扱いは、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上は切り上げとなる。 就業規則に定めることで、1ヶ月の賃金額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した残額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を切り上げて支払うことができる。 また、就業規則に定めることで、1ヶ月の賃金額に1,000円未満の端数がある場合、1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことができる。   2 雇用保険料に係る端数処理 雇用保険料は、「総支給額 × 雇用保険料率(下記〈表1〉参照)」で計算する。1円未満の端数の扱いは、次のとおりである。 ただし、慣習的な取扱い等の特約がある場合には、この限りではない。例えば、これまで1円未満切り捨てで計算していた場合、引き続き1円未満切り捨てで計算してもかまわない。 〈表1〉 令和4年度の雇用保険料率 (※) 厚生労働省「令和4年度雇用保険料率のご案内」より   3 健康保険料、厚生年金保険料に係る端数処理 被保険者負担分(下記〈表2〉の中の折半額)の1円未満の端数の扱いは、雇用保険料と同様で次のとおりである。 ただし、慣習的な取扱い等の特約がある場合には、この限りではない。例えば、これまで1円未満切り捨てで計算していた場合、引き続き1円未満切り捨てで計算してもかまわない。 〈表2〉令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都) (※) 協会けんぽホームページより また、賞与にかかる社会保険料は、「賞与から1,000円未満の端数を切り捨てた額(標準賞与額)× 保険料率」で計算する。例えば、賞与が123,456円の場合、「123,000円 × 保険料率 = 賞与にかかる社会保険料」となる。   4 源泉所得税に係る端数処理 その月の社会保険料等控除後の給与等の金額が740,000円を超える場合や乙欄でその月の社会保険料等控除後の給与等の金額が88,000円未満の場合や賞与の場合は、源泉所得税に1円未満の端数が生じることがある。1円未満の端数の扱いは、1円未満切り捨てである。 (了)

#No. 478(掲載号)
#上前 剛
2022/07/21

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第31回】「評価の難しい「心理的瑕疵」のある不動産」~ガイドラインと減価の必要性~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第31回】 「評価の難しい「心理的瑕疵」のある不動産」 ~ガイドラインと減価の必要性~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 心理的瑕疵とは、「対象物件自体や周辺環境にも問題ないが、その目的物を使用するにあたって心理的嫌悪感のある瑕疵」をいうとされ(※1)、具体的には過去の自殺、殺人、遺体発見までに時間を要した孤独死、事故死等がその対象とされています。いわゆる「事故物件」に該当する場合に問題となります。 (※1) 国土交通省「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」第1回検討会(2020年2月5日)の資料5(公社)全国宅地建物取引業協会連合会「心理的瑕疵に係る現状と課題について」によります。 このような心理的瑕疵のある物件の評価に関しては、まだ評価手法が確立されておらず、不動産鑑定に当たっても判断に迷う点が多いといえます。加えて、物件の特性(集合住宅、戸建住宅、事務所等が入居するビル、ホテル、その他の施設)によっても心理的な影響度は異なるでしょうし、同じ集合住宅の場合でも自殺のあった場所が専有部分なのか、共用部分なのかによっても異なると思われます。さらに、取引の形態(売買か賃貸借か等)、事故発生からの経過期間の長短も影響すると考えられます。今回はこのような物件の評価について取り上げます。   2 不動産鑑定評価基準では 不動産鑑定評価基準には、不動産の価格に影響を与える地域要因の1つに「汚水処理場等の嫌悪施設の有無」があり、個別的要因としてもこれらの施設等との接近の程度があげられています。不動産鑑定士が対象地を評価する場合、このような要因も当然のことながら考慮しますが、これらは心理的瑕疵とは異なる環境要因として扱われています。しかも、不動産鑑定評価基準には心理的瑕疵を有する物件の評価方法は直接規定されていないことから、現時点では明確な物差しが存在しないのが実情です。   3 鑑定実務の拠り所 上記事情を踏まえた場合、心理的瑕疵のある物件の評価に当たり、減価の有無やその程度のいかんは個々の不動産鑑定士の判断によらざるを得ませんが、その場合でも単なる感覚だけでなく説得力のある査定が求められます。 その拠り所として、不動産鑑定士がこのような物件の鑑定評価を求められた場合には、売買物件及び賃貸物件別に、建物の用途や事故の状況が類似する過去の裁判例における不動産価格の減価の程度を参考に、心理的瑕疵による減価率を査定しているケースが多いと考えられます。 ただし、個々の裁判例もそれぞれの事情(事実関係や発生場所、事故後の経過期間等は異なります)を反映したものですし、これらに加えて不動産市場における実態調査(宅地建物取引業者(以下、宅建業者といいます)へのヒアリング等)の結果も踏まえる必要があります。すなわち、一般市場における事故物件の減価(賃貸不動産の場合には賃料の減額)の程度を把握する等の情報収集も必要となります。さらに、競売における減価率も1つの目安として考慮されています(自殺等の事故物件の場合、通常は△30%~△50%として扱われているようです)。 不動産取引を例に過去の裁判例に照らした場合、売主や貸主は、把握している事実について、取引目的、事案の内容、事案発生からの時間の経過、近隣住民の周知の程度等を考慮して、信義則上、これを取引の相手方に告知する義務があるか判断されています。しかし、今まで、心理的瑕疵が認められるケースや告知が必要な期間について明確な基準が存在しなかったため、取引(媒介等)に携わる宅建業者においても個々の宅建業者が自主的に判断していたというのが実情かと思われます。 鑑定評価においても事情は共通しており、売買物件であれ賃貸物件であれ、事件後の経過期間を考慮した場合、減価が必要な物件であるか、その程度はどれくらいかについての客観的な判断基準は存在していませんでした。 このような状況下において、不動産の鑑定評価を直接的に取り上げたものではないものの、取引実務の指針となる「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下、当該ガイドラインといいます)(※2)が国土交通省によって策定され、2021年10月8日付けで公表されています。 (※2) 「ガイドラインの概要」もご参照ください。 当該ガイドラインは宅建業者の説明義務や告知義務に関わる指針ですが、これを策定した背景には、不動産取引に当たっても、対象不動産において過去に生じた人の死に関する事案について宅建業者による適切な調査や告知に係る判断基準がないことが挙げられています。その結果、取引現場の判断が難しく、円滑な流通や安心できる取引が阻害されているという指摘もなされていたようです。 なお、当該ガイドラインでは、宅建業者が人の死に関する事案について取引の相手方(買主や借主)に告知しなくてもよい場合につき以下の3つのケースを掲げています。 上記②のとおり、賃貸借については、対象不動産において自然死等以外の死が発生又は特殊清掃等が行われることとなった自然死等が発覚して、その後概ね3年が経過した場合を掲げて、告知期間を明確にしています。ただし、「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」とされている点に留意が必要です。 また、上記③のとおり、賃貸借取引及び売買取引の対象不動産の隣接住戸又は借主もしくは買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分について自然死等以外の死が発生した場合、又は自然死等が発生して特殊清掃等が行われた場合も、原則として告知しなくてもよいとされました。 このような捉え方は、鑑定評価に当たっても、心理的瑕疵の判断や減価の必要性の有無とその程度を検討する際の1つの拠り所を提供するものといえます。   4 裁判例による事故物件の減価率の検討~1棟全体のマンションの1室で自殺があったことによる価値の下落を扱ったケース 以下、1棟全体のマンションの1室で自殺があったことが、対象不動産全体の価値にどのような影響を与えるかについて争われた平成25年7月3日東京地裁判決(※3)を一例として考えてみます。なお、この判決は当該ガイドライン策定前のものであり、対象物件は首都圏の近郊に位置する全29室の賃貸用マンション(地上5階建(地下1階付))です。 (※3) 1棟のマンションの売買に関し、売買の目的物であるマンションの1室で自殺があったことが「瑕疵」に該当するとして、建物価値の低下の程度や収益性の低下の程度等を考慮して、損害額を算定した事例(判例タイムズ1416号198頁)。 本件に関し、裁判所は次の視点から、自殺による影響が対象不動産全体(賃貸マンション全室で敷地部分も含む)に及ぶとした鑑定評価書を受け容れませんでした(裁判所の考え方は、自殺のあった部屋とその真下の部屋のみが価値下落の対象であり、価格に与える影響度もそれぞれ異なるというものです。また、土地については対象外としています)。 なお、自殺のあった部屋(308号室)はエレベーター等により同じ階の他の居室から隔てられた構造になっています。また、共用階段からその部屋の前に続く廊下の間には扉があるため、共用階段からその部屋の玄関扉を直接見ることはできない状態となっています。さらに、(5階建とはいっても)308号室の上階は屋上であり、居室はありません。 今般、当該ガイドラインにおいて賃貸借についての告知期間が概ね3年と明確にされたことから、今後の鑑定実務においても事故物件の価値下落の程度を推し測るに当たり、将来にわたる賃料減額の対象期間を査定する際にこの点も視野に入れることが必要になると思われます。ただし、当該ガイドラインでは、「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」としていることから、減価率の査定に当たっては事件の経過後の年数だけで画一的に割り切れない点に難しさが潜んでいます。   5 まとめ 心理的瑕疵のある物件の評価に当たっては、事件性の有無(自殺か殺人か孤独死か)、事件後売買契約等までの期間、建物の用途(戸建住宅かマンションかビル等か)、建物の有無との関係をはじめ、様々な視点から検討する必要があり、不動産鑑定士にとっても今後の課題となっています。 (了)

#No. 478(掲載号)
#黒沢 泰
2022/07/21
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