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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第67回】「海外勤務役員への給与支給が源泉徴収不要となる判断要素」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第67回】 「海外勤務役員への給与支給が源泉徴収不要となる判断要素」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 海外で勤務する役員に対する源泉徴収 海外で勤務する役員に対して役員給与を支給した場合には、源泉徴収をする必要があるかどうかを確認しなければならない。この点、非居住者の所得にかかる源泉徴収について定めている所得税法212条1項では、同法161条1項4号~16号に定める国内源泉所得に対してのみ源泉徴収を行う旨が規定されている。そして、役員への給与に関しては、法人の経営に関与するという役務提供の性質に鑑みて、同法1項12号イ括弧書きにて「内国法人の役員として国外において行う勤務・・・」であれば国内源泉所得であると示されているため、海外で勤務する役員に役員給与を支給する場合、通常は20.42%の税率にて源泉徴収が必要となる(※1)。 (※1) 非居住者としての税率の方が居住者としての税率より低率であることが、非居住者への役員給与の額が増大するインセンティブが働いた要因であると指摘された事例として、【第59回】参照。 なお、この取扱いには以下のような例外規定も存在している。 〈所得税法施行令285条1項1号〉 〈所得税基本通達161-42(内国法人の使用人として常時勤務を行う場合の意義)〉 これらの条文や通達は、海外勤務役員が海外支店の支店長等として勤務している場合に、内国法人からその役員に対して支給する報酬については国内源泉所得とはならず、つまりは支給に伴う源泉徴収が不要であるということを示しており、これらが【第32回】で簡単に触れている内容の根拠である。また、国税庁タックスアンサーにおいても、役員が海外に出国した後の源泉徴収についての取扱いとして、「その役員が、海外支店の支店長など使用人としての立場で常時海外において勤務している場合には、源泉徴収の必要はありません」との記載がある(※2)。 (※2) 国税庁タックスアンサー「No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収」。 このように、役員が海外に赴任等した場合、支店長等の使用人としての立場で勤務するのであれば源泉徴収も不要となるが、上記通達が示すように、対象となる役員の海外における勤務形態やその実態によっては、これに該当しないような可能性も考えられる。   (2) 海外で勤務する役員に対する源泉徴収義務の是非について争われた事例 実際に、海外で勤務する役員について源泉徴収していなかったケースにおいて課税庁に指摘され、国税不服審判所に持ち込まれた事例として、国税不服審判所平成25年3月22日裁決があるため(※3)、以下に概要を紹介する。 (※3) 裁決事例集等未登載、TAINS:F0-2-534。 本件裁決例は、所得税等の源泉徴収が不要となる場合の判断を国税不服審判所が示したという面で注目したい裁決例である。納税者は、当該役員は納税者の経営に関与していないこと、米国の取引先との交渉等を行っていたこと、納税者と代理業務契約を締結する米国会社が事実上納税者の支店として認識されていたこと、米国会社の代表に就いた当該役員は納税者の米国支店で仕事をしていると認識されていたこと等を主張しているが、すべて退けられている。 国税不服審判所は、所得税法施行令285条1項1号の趣旨について「給与、人的役務の提供に係る報酬等が国内源泉所得に該当するというためには、原則として、その基因となる勤務その他の人的役務の提供が国内において行われることが必要であるが、経営判断による企業経営という役員の職務については、役務提供地との関係が希薄なことなどを踏まえ、内国法人の役員として国外において行う勤務を国内源泉所得の対象としているものの、内国法人の役員であっても国外において内国法人の使用人として常時勤務を行う場合には、経営判断による企業経営といった職務内容とは異なる業務を国外において常時行っていることから、原則どおり、国内源泉所得に該当しないとした趣旨による」として、上記(1)で触れた通達にも合理性があるとしている。   (3) 本件裁決例の意義 本件裁決例において国税不服審判所が注目したのは、支店の有無や対象となった役員の勤務実態に尽きるといえる。支店としての登記等がないこと、納税者と米国会社の間に存在した代理業務契約があるために米国会社が納税者の米国における業務を行っていたとして、納税者の支店は存在しないと認定している。そして、雇用契約書がないことから当該役員の使用人としての職制が不明であること、納税者からのメールは米国会社宛に送信されていたこと、当該役員が米国会社の名刺を使用していたこと、関係者への聴取にて納税者と米国会社の業務を区分することは難しい旨の答述等があったこと等から、当該役員は米国会社の代表者としての業務に従事していたことを認定している。 上記に鑑みると、本件裁決例は、役員が海外で勤務する場合において、(2)で触れた例外に該当するためには、海外支店が存在することを明らかにできるエビデンスの有無に加え、契約書の有無や対象役員の現地での業務上の役割を示すもの、例えば活動実態を示すメールや名刺等が存在しているか否かが検討のポイントとなることを示唆していると考えられる。また、課税庁側は、当該役員が現地で使用人として勤務しているのであれば通常生じるべき各種経費の支出も認められないと主張しているため、この点も注目すべきであると思われる。 なお、この「源泉徴収不要」の取扱いは、法人税法上使用人兼務役員とされない代表取締役等にも適用されるが、代表取締役等が常時使用人として勤務するケースが現実的に少なく、対象となる役員の海外における勤務実態をよく検討する必要がある旨を説く解説もあるため(※4)、この点にも留意したい。 (※4) 柳沢守人編『令和6年版 問答式 源泉所得税の実務』(納税協会連合会、2024)756頁。   (了)

#No. 595(掲載号)
#中尾 隼大
2024/11/21

基礎から身につく組織再編税制 【第70回】「スクイーズアウトの概要」

基礎から身につく組織再編税制 【第70回】 「スクイーズアウトの概要」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、スクイーズアウトの概要について解説します。   1 スクイーズアウトと組織再編税制 「スクイーズアウト」とは、少数株主の株式を強制的に買い取り、少数株主を排除することをいいます。株式交換によりスクイーズアウトを行う際には、適格要件に該当しなければ、完全子法人について時価評価課税がされる一方で、全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトの場合は、時価評価課税がされず、経済的な効果が似ているにもかかわらず、課税上の取扱いが異なるものとなっていました。 平成29年度税制改正により、株式交換と同様の経済効果を生じる3つのスクイーズアウトの手法を組織再編行為として位置づけ、課税上の取扱いを統一することとなりました。 全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウト全てを株式交換と同様に取り扱うのではなく、経済的な効果が類似するものだけを「株式交換等」と定義し、株式交換と同様に取り扱います。   2 全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウト (1) 全部取得条項付種類株式 全部取得条項付種類株式とは、種類株式発行会社が株主総会の特別決議によってその全部を取得することができる株式のことをいいます。少数株主が保有する全部取得条項付種類株式に1株未満の端数しか交付されないようにすることで、少数株主を排除します。 (2) 「株式交換等」に該当する全部取得条項付種類株式の取得 全部取得条項付種類株式に係る取得決議が、次の要件を全て満たす場合には「株式交換等」に該当します。 株式交換等完全親法人と株式交換等完全子法人の定義は、下記5をご参照ください。   3 株式併合によるスクイーズアウト (1) 株式併合 株式併合とは、複数の株式を合わせて1株とする手続きをいい、スクイーズアウトの際には、少数株主の保有株式が1株未満の端数となる割合で株式の併合が行われます。 (2) 「株式交換等」に該当する株式併合 株式併合が、次の要件を全て満たす場合には「株式交換等」に該当します。 株式交換等完全親法人と株式交換等完全子法人の定義は下記5をご参照ください。   4 株式売渡請求によるスクイーズアウト (1) 株式売渡請求 株式売渡請求とは、株式会社の特別支配株主(総株主の議決権の90%を保有する株主)が、少数株主全員に対し株式の全部を特別支配株主に売り渡すよう請求し、少数株主が有する株式を強制的に全て取得することができる制度のことをいいます。 (2) 「株式交換等」に該当する株式売渡請求 株式売渡請求が、次の要件を全て満たす場合には「株式交換等」に該当します。 株式交換等完全親法人と株式交換等完全子法人の定義は、下記5をご参照ください。   5 株式交換等完全親法人と株式交換等完全子法人 (1) 株式交換等完全親法人 「株式交換等完全親法人」とは次の①~④の法人のことをいいます(法法2十二の六の四)。 (2) 株式交換等完全子法人 「株式交換等完全子法人」とは次の①~④の法人のことをいいます(法法2十二の六の二)。   6 全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトが「株式交換等」に該当しないケース 上記のような個人株主が最大株主となるスクイーズアウトは「株式交換等」には該当しないため、組織再編税制の適用を受けません。   7 「株式交換等」に該当する全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトの課税関係 (1) 株式交換等完全子法人の取扱い 「株式交換等」に該当する全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトについて、適格要件を満たさない場合には、非適格株式交換があった場合の時価評価課税の規定が適用されることとなります。 (2) 株式交換等完全親法人と少数株主の取扱い 組織再編税制の適用がない場合の通常のスクイーズアウトと同様の課税関係となります。   ◆スクイーズアウトの概要のポイント◆ 全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトのうち、「株式交換等」に該当するものは組織再編税制の適用を受けます。 「株式交換等」に該当する全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトで、適格要件を満たさない場合には、株式交換等完全子法人の一定の資産を時価評価する必要があります。   (了)

#No. 595(掲載号)
#川瀬 裕太
2024/11/21

相続税の実務問答 【第101回】「遺産を取得しない相続人が受け取った生命保険金の一部を他の相続人に支払った場合」

相続税の実務問答 【第101回】 「遺産を取得しない相続人が受け取った生命保険金の一部を他の相続人に支払った場合」   税理士 梶野 研二   [答] お母様が相続することとなった1億2,000万円の遺産及びあなたが取得した保険金5,000万円のうち非課税金額1,500万を控除した残額3,500万円について相続税が課されます。 また、あなたから妹さんに支払われた1,000万円については、妹さんに贈与税が課されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の課税対象 相続税は相続又は遺贈(以下「相続等」といいます)により取得した財産に課されますが、相続税法では、相続等により取得した財産ではないものの、実質的に相続等により取得したものと同様にみることのできる財産については、個別の規定により、相続等により取得したものとみなして相続税の課税対象とされています。 例えば、相続税法第3条第1項第1号は、被相続人が被保険者となっていた生命保険契約の保険料を被相続人自身が負担していた場合において、被相続人の相続開始により相続人に生命保険金が支払われたときには、当該相続人は被相続人から当該生命保険金を相続により取得したものとみなして相続税が課される旨を規定しています(注)。 (注) 相続人が取得した生命保険金のうち一定金額(相続税法第15条第2項に規定する相続人の数×500万円)までは非課税とされます(相法12①五)。 生命保険金は、保険契約者と保険会社との契約により、保険事故が発生したときに保険金受取人に支払われるものであって、保険金受取人が被相続人から相続等により取得するのではありませんが、相続税法に上記の規定が設けられていることにより、保険金受取人に相続税が課されることとなるわけです。   2 遺産分割 2名以上の相続人又は包括受遺者(以下「相続人等」といいます)がいる場合には、これらの相続人等は遺産分割の協議をすることとなります。遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行われます。相続人等の自由な意思に基づいて行われたものであれば、たとえ民法に定められた法定相続分の割合とは異なる割合で遺産を取得する内容の分割がされたとしても、そのことによって法定相続分の割合よりも多くの割合の財産を取得することとなった相続人等に対して贈与税が課されることはありません。 遺産分割は、通常は、被相続人に帰属していた個々の財産そのものを相続人等のうちの特定の者に分属させる現物分割の方法により行われます。しかしながら、現物分割をすることが困難である場合や、現物分割をすることにより相続財産の価値が低下してしまうような場合には、相続財産の全部又は一部を売却して、その売却代金を各相続人等に分配する換価分割の方法や、相続財産の全部又は一部を相続人等のうちの1人又は数人に相続させるとともに、その者から他の相続人等に対して一定の金銭等の支払いをさせる代償分割の方法により行うこともあります。   3 ご質問の場合 (1) 相続税 お母様が遺産分割協議の結果に従い取得するお父様の遺産の額1億2,000万円(ただし、ご自宅の敷地については、小規模宅地等の特例(措法69の4①)を適用することにより相続税の課税価格に算入される金額は減額されます)と、あなたが取得した生命保険金5,000万円のうち非課税金額1,500万円を控除した残額3,500万円が相続税の課税対象となります(注)。お母様は、法定相続分である2分の1を超えてお父様の遺産を取得することとなりますが、そのことによってお母様に贈与税が課されることはありません。なお、ご質問の場合、お母様については、相続税の申告は必要ですが、お母様の取得される財産の価額の合計額が1億6,000万円を下回ることから、配偶者の税額軽減の規定(相法19の2①)により納付すべき相続税額は算出されないと思われます。 (注) 生命保険金に係る非課税規定(相法12①五)は、「相続を放棄した者」には適用されませんが、この場合の「相続を放棄した者」とは、民法の規定に基づき家庭裁判所に申述をして相続の放棄をした者をいい、正式にこの放棄の手続をとらないで事実上相続により財産を取得しなかったにとどまる者はこれに含まれません(相基通3-1)。あなたは、遺産分割協議の結果、お父様の遺産を取得しませんでしたが、「相続を放棄した者」ではありませんので、生命保険金に係る非課税規定を適用することができます。 (2) 贈与税 あなた方が行った遺産分割協議においては、お父様の遺産の全てをお母様が取得することとのことです。また、あなたは、お父様の死亡により5,000万円の生命保険金を取得しましたが、妹さんはお父様の財産を取得せず、あなたのように生命保険金を取得することもありませんでした。そこで、あなたが受け取った生命保険金の中から1,000万円を妹さんに支払うことで妹さんも納得されて遺産分割協議が成立することとなったと考えられます。 この分割協議は、遺産分割の方法の1つである代償分割の方法によって行われたように見えます。しかしながら、あなたが受け取った生命保険金は、相続税の課税対象とはなりますが、お父様の財産を取得したことにより相続税が課されるのではなく、相続税法の規定により相続税の課税対象とされるものです。あなたはお父様の財産を取得していませんので、遺産分割としての代償分割の前提を欠いていると言えます。あなたから妹さんへの1,000万円の支払いは、遺産分割協議を成立させる過程の中で合意されたことかもしれませんが、遺産分割協議の内容とは別のものと言わざるを得ません。すなわち、あなたから妹さんへの1,000万円の支払いは対価性のあるものではありませんので、その合意はあなたから妹さんへの1,000万円の贈与の合意(贈与契約)と認められます。したがって、妹さんは贈与税の申告が必要になります。 なお、あなたが妹さんに支払うこととなった1,000万円を、あなたの相続税の課税価格から控除することはできません。 (了)

#No. 595(掲載号)
#梶野 研二
2024/11/21

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第59回】「ファイナイト再保険事件(地判平20.11.27、高判平22.5.27)(その1)」~法人税法22条3項、法の適用に関する通則法7条・42条~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第59回】 「ファイナイト再保険事件 (地判平20.11.27、高判平22.5.27)(その1)」 ~法人税法22条3項、法の適用に関する通則法7条・42条~   公認会計士・税理士 西川 浩史     1 はじめに 本件は、損害保険会社からアイルランドの海外子会社に対して支払った再保険料の損金性について、当該海外子会社が第三者と締結したファイナイト再保険契約との関連性から争われた事案である。地裁・高裁ともに再保険料の損金性が認められ納税者勝訴となり、敗訴した国側が最高裁に上告せずにそのまま確定した。本件訴訟の規模は本税部分で約34億円、最終的に納税者が還付を受けた金額は還付加算金等を含めて総額約67億円という大規模なものであった(※1)。 (※1) 弘中聡浩「ファイナイト再保険租税訴訟の解説-国際的な再保険取引に関する課税処分を争って勝訴した事例」租税研究(2011)249頁。弘中氏は本件の納税者側の弁護人であり、当該論文にておいて詳細な事実関係や裁判内容を記載している。   2 事案の概要及び背景 (1) 事案の概要 〈契約内容〉 損害保険業を営む内国法人X社(原告、被控訴人)は、保険契約者との間で企業向け地震保険契約を締結し、この契約に伴うリスクを社外に移転させるため、100%出資のアイルランド子会社S社並びにX社グループに属しない外国の再保険会社4社(A社・B社・C社・D社)との間で、掛捨て型のELC再保険契約(※2)を締結した。なお、当該契約には準拠法を日本法とする指定がある。 (※2) ELC再保険契約とは、損害額が一定額を超過した場合に、その超過部分(Excess of Loss Cover)について一定の限度額までの部分を再保険金として受領できるというタイプの再保険(石井隆『再保険の基礎とチャレンジ』保険毎日新聞社(2024)30頁)。 S社は、さらにX社グループに属しない第三者である再保険会社2社(A社・E社)との間で、ファイナイト再保険契約(※3)を締結した。なお、当該契約には準拠法をイングランド法(以下「英国法」という)とする指定がある。 (※3) ファイナイト再保険契約とは、移転されるリスクが制限されている(Finite)再保険で、成績勘定方式と呼ばれる保険料の算定方式をとっている(渡辺裕泰 『ファイナンス課税』有斐閣(2006)204-208頁、石井前掲(※2)書174-187頁)。 ファイナイト再保険契約には、成績勘定残高(Experience Account Balance,EAB)に関する取り決めがあり、S社が支払う再保険料のうち一定部分は普通の掛捨てであるが、残り部分は一定の算式に従って成績勘定残高に積み立てられ(積立額を以下「EAB繰入額」という)、再保険契約が終了した時に、保険事故が当初想定されたものより少なかった場合には、一定の額がS社に払い戻されることになっていた。逆に、保険事故が当初想定されたものより多かった場合には、追加の再保険料を支払うことになっていた。 〈X社の税務処理〉 X社は、平成10年3月期から平成13年3月期までの各4事業年度の法人税の申告において、本件ELC再保険契約に基づく再保険料としてS社に支払った額を、損金算入して確定申告を行った。なお、当時、S社は当期利益を計上していたが、アイルランドの法人税等の税率は26%(※4)であったため、タックス・ヘイブン対策税制の対象にならなかった(※5)。 (※4) 日本企業に適用される特別税率(ただし、適用に際して当局の認可取得が必要)。 (※5) 平成4年度改正にてタックス・ヘイブン対策税制の対象となる軽課税国の指定が廃止され、租税負担割合が25%以下である国又は地域が対象になっていた。その後、トリガー税率は平成22年度改正で20%に引き下げられた。また、平成29年度改正で、トリガー税率は廃止され、ぺーバーカンパニー等の「特定外国関係会社」に該当する場合には、会社単位の合算課税が適用されることになった。 〈本件取引後の事実〉 本件ファイナイト再保険契約期間中に大地震が起きなかったので、平成14年7月に当該契約は終了し、A社・E社はS社に対してプロフィット・コミッションを支払っている。その後、S社は、アイルランドの会社法による利益処分の手続きを経て、プロフィット・コミッションその他を原資とする留保利益をX社に配当として支払った。 〈課税庁の処分〉 課税庁Y(被告、控訴人)は、上記再保険料には預け金に当たる部分があるとして当該部分の損金算入を認めず、また、預け金に係る運用収益が益金に計上されていないとして更正処分を行った。合わせて、わざわざS社を介在させた一連の取引が租税回避を目的とするものであるとして重加算税賦課決定及び過少申告加算税賦課決定をした。 〈争点〉 裁判での争点は以下の3点であるが、本稿では主たる争点①に絞って検討を行う。 (2) 事案の背景 当時の事案の背景には、①阪神・淡路大震災を契機とした国からの企業向け地震保険の開発要請、②国内保険市場の自由化や規制緩和の動きの加速化、③ファイナイト再保険料の会計上及び税務上の処理(アイルランドでは保険として認められていたが、日本では取扱いが明確ではなかった)、④香港の中国返還に伴う海外拠点の変更(香港子会社からアイルランド子会社への変更)があった(※6)。 (※6) 弘中前掲(※1)書250-251頁及び高裁判決文から内容を要約している。 [当時の取引関係図(※7)] ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※7) 取引関係図の年間保険料の金額については、望月文夫「最新裁判例の要点・国際課税 ファイナイト再保険事件」国税速報6063号(2009)40頁を参照した。   3 納税者と課税庁の主張   4 高裁の判断(判決文の一部及び筆者要約。下線及び「法の適用に関する通則法」は筆者追加) ((その2)へ続く)

#No. 595(掲載号)
#西川 浩史
2024/11/21

〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第8回】「炭素を考慮して意思決定するには?」

〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第8回】 「炭素を考慮して意思決定するには?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔PNパッケージ社の登場人物〕 *  *  * カーボンプライシングは、企業などの排出する二酸化炭素に価格を付け、これによって排出者の行動を変化させて、排出量の削減を促す手法です。政府による施策としてのカーボンプライシング(【第7回】参照)のほか、近年は、各企業が、自社の排出する二酸化炭素に社内で独自に価格を付けるカーボンプライシングも急速な広がりを見せています。これが「インターナルカーボンプライシング(ICP:Internal Carbon Pricing)」です。 *  *  * *  *  * たとえば、投資を行うか否かを管理会計の考え方に基づいて判断したい場合、正味現在価値法や内部収益率法、回収期間法などの方法を利用することが考えられます。これらは、計算方法に違いはあるものの、いずれも投資に関連する「金額」に基づいて投資の経済性を考えるものです。 *  *  * *  *  * ごく簡単な例で考えてみましょう。設備を新しいものに更新するにあたって、設備Aと設備Bが候補に挙がっているとします。 【設例】 *  *  * *  *  * 【設例(続き)】 *  *  * *  *  * 【設例(続き)】 *  *  * *  *  * インターナルカーボンプライシングの手法を用いると、二酸化炭素を排出することによるインパクトが金額として表されます。これによって、二酸化炭素排出量も考慮して投資の評価や判断を行うことができ、低炭素な投資の推進につながる効果があると考えられています。 【設例】では、正味現在価値という投資判断の基準に社内炭素価格を組み込む形としましたが、実際には、二酸化炭素排出量を社内炭素価格によって金額換算し、投資の判断をする際の参考値の1つとして利用するような事例も多く見られます(※1)。 (※1) 雪印メグミルク株式会社「雪印メグミルク インターナルカーボンプライシング制度を導入」 また、二酸化炭素排出量を従来よりも大きく削減するような投資の場合、削減量に社内炭素価格を乗じた額を、仮想の収入として上乗せする方法も想定できます(※2)。 (※2) 大和ハウス工業株式会社「日本初 投資用不動産の投資判断基準としてインターナルカーボンプライシング制度を導入」 *  *  * *  *  * インターナルカーボンプライシングの先進的な取組みで知られるのがMicrosoft社です。同社は2012年より内部炭素課金制度を運用しており、各事業部門からその排出量に応じて内部炭素課金を徴収し、徴収した資金を脱炭素投資に活用しています(※3)。 (※3) Microsoft「Microsoft will be carbon negative by 2030」 *  *  * *  *  * インターナルカーボンプライシングを導入する場合、社内炭素価格をどのような水準に設定するかが大きな課題です。 *  *  * *  *  * 社内炭素価格は、各社が独自に設定するものであるため、その水準にはばらつきがあります。複数の社内炭素価格を設定しているケースもあります(※4)。 (※4) 三井金属鉱業株式会社では、Scope1排出量に関する社内炭素価格を、Scope2排出量に関する社内炭素価格よりも高く設定し、削減が困難なScope1排出量の対策を一層促進する旨を開示している。 三井金属鉱業株式会社「インターナルカーボンプライシング制度の導入について」 環境省の公表する「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン(※5)」では、社内炭素価格の種類として、シャドープライス(Shadow price)とインプリシットプライス(Implicit carbon price)の2つが挙げられています。 (※5) 環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン~企業の脱炭素投資の推進に向けて~(2022年度版)」 *  *  * *  *  * シャドープライスは、炭素税や排出量取引における価格(【第7回】参照)といった外部価格をもとにして、社内炭素価格を設定するものです。CDP(※6)が公表する「CDP気候変動レポート 2023:日本版(※7)」によれば、インターナルカーボンプライシングを導入している日本企業では、シャドープライスによる設定が多いことが明らかになっています。 (※6) CDPは、イギリスで設立された国際的な環境非営利団体。2000年の発足当初はCarbon Disclosure Projectの名称で脱炭素を働きかけていたが、現在は森林保全や水質保護にも活動範囲を広げ、略称のCDPが正式名称となっている。CDPは、その活動に賛同する機関投資家や購買企業を代表して、環境課題に関する取組みについての質問書を世界中の企業に送付し、その回答を収集して情報開示を促している。日本企業に関しては、2022年以降プライム市場に上場する全企業を調査対象とする。 CDP「CDPについて」 (※7) CDP「最新レポート」「CDP気候変動レポート 2023:日本版」P23,24 インプリシットプライスは、過去実績等に基づいて社内炭素価格を設定するものです。自社における過去の意思決定において、意思決定に影響を及ぼしたであろう炭素価格の水準を算出し、それをもとに設定する方法や、自社の二酸化炭素排出量の削減目標達成に向けた取組みを列挙したうえで、その対策のための総コストと累積削減量から社内炭素価格を算出する方法などが想定されます。 *  *  * *  *  * 近年、インターナルカーボンプライシングを導入する企業が急速に増えている背景には、情報開示要請の影響もあるように見受けられます。 TCFD提言(※8)のガイダンスでは、開示が推奨される指標の1つとして社内炭素価格が示されており(※9)、同様に、ISSBが2023年に公表したIFRS S2「気候関連開示」でも、社内炭素価格に関する開示が求められています。また、先述のCDPによる質問書には、社内炭素価格に関する質問事項があります。 (※8) TCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures、日本では「気候関連財務情報開示タスクフォース」とも呼ばれる)は、G20からの要請を受け、金融安定理事会(FSB)により設立された組織。2017年に最終報告書を発表し、企業などに対して気候関連財務情報の開示を推奨している。プライム市場の上場企業はTCFDや同等の枠組みに基づく気候変動に関する情報開示を求められる。 TCFDコンソーシアム「TCFDとは」 (※9) TCFD「指標、目標、移行計画に関するガイダンス」 *  *  * *  *  * Q 炭素を考慮して意思決定するには? A 企業が、自社の排出する二酸化炭素に社内で独自に価格を付けることをインターナルカーボンプライシングといいます。インターナルカーボンプライシングによって二酸化炭素排出量を金額換算することで、二酸化炭素排出量を考慮した意思決定を行うことができ、低炭素な投資や活動を推進できます。 (了)

#No. 595(掲載号)
#石王丸 香菜子
2024/11/21

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第59回】「鑑定評価に「雑種地」という概念は存在しない」~相続税の財産評価や固定資産税評価との相違~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第59回】 「鑑定評価に「雑種地」という概念は存在しない」 ~相続税の財産評価や固定資産税評価との相違~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 【第15回】では、相続税の財産評価や固定資産税評価においては現況地目により土地を評価するところ、鑑定評価では地目は直接関係なく、その土地の属する地域(※1)一体としてどのような利用をすれば価値を最大限に発揮し得るかという観点から土地を区分(宅地、農地等)して評価する旨を述べました。 (※1) ここにいう「地域」とは現実に利用状況の類似する一かたまりの地域(=用途的地域)を指し、都市計画法上の「用途地域」(法的規制の観点から定められたもの)とは別の鑑定評価上の概念です。 そのため、現に耕作の用に供されている土地であっても、建物や構築物等の敷地の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域(=宅地地域)内にある場合は、鑑定評価上は農地としてではなく、宅地として取り扱われた上で、価格へのアプローチが行われます。 今回取り上げる内容も、相続税の財産評価や固定資産税評価における地目分類と鑑定評価上の取扱いの相違に関するものですが、【第15回】の解説からさらに1歩進み、鑑定評価に「雑種地」という概念は存在しないことと、鑑定評価では雑種地に該当する土地を評価上どのように区分しているのかについて述べたいと思います。 なお、雑種地の評価は、相続税の財産評価においても固定資産税評価においてもつかみどころがなく、難しい案件とされていることは誰しもが感じるところです。   2 雑種地とは 雑種地とは何か。これを具体的に、かつ的確に定義することはきわめて難しいといえます。それは、以下に述べるように、財産評価基本通達においても固定資産評価基準においても、そこで定義された様々な地目に属さない土地を総称して雑種地と呼んでいるからです。そのため、雑種地のなかには駐車場、資材置場のように宅地に近いものから、農地・山林・原野に近いもの、高圧線下地、鉄塔敷地等に至るものまで様々な土地が存在します。 参考までに、雑種地以外の地目の土地は、具体的な用途に供されているものが多いといえます。例えば、田、畑、宅地、山林等です。これに対し、雑種地の場合は既に掲げたとおり、駐車場、資材置場、鉄塔敷地等の具体的な用途に供されているものもあれば、未利用状態の土地、造成工事中の土地、水路敷地、ため池等のようなものまであります(特殊なものとして、鉄道敷地、ゴルフ場等も含まれます)。   3 鑑定評価に「雑種地」という概念は存在しない 鑑定評価では現況地目の如何よりも価格形成要因に着目して地域の分類が行われ(宅地地域、農地地域、林地地域等)、対象地がどの地域に属するかを不動産鑑定士が判断した上で「土地の種別」が判断され、それに応じた価格へのアプローチが行われています。その点で、税務評価と鑑定評価では価格に対するアプローチの方法が根本的に異なっています。 ちなみに、不動産鑑定評価基準に規定されている「地域の種別」は以下のとおりであり(総論第2章第1節Ⅰ)、これとセットになる形で「土地の種別」(総論第2章第1節Ⅱ)を判定していますが、そのなかには雑種地なるものの概念は一切登場してきません。 (※2) 不動産鑑定評価基準には「見込地地域」という用語は直接登場しませんが、「土地の種別」において、「ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域のうちにある土地」を「見込地」と呼んでいることから、これに対応して「見込地地域」という呼称を使用しています(「見込地」には「宅地見込地」、「農地見込地」等があります)。 (※3) 同様に、不動産鑑定評価基準には「移行地地域」という用語は直接登場しませんが、「土地の種別」において、「細分されたある種別の地域から他の種別の地域へと移行しつつある地域のうちにある土地」を「移行地」と呼んでいることから、これに対応して「移行地地域」という呼称を使用しています(「移行地」には「住宅移行地」、「商業移行地」等があります)。   4 雑種地に該当する土地の鑑定評価上の区分 それでは、現況地目が雑種地に該当する土地について、鑑定評価ではどのように区分して評価を行っているのでしょうか。 これを対比させ整理したものが以下の図です。 〈雑種地と鑑定評価上の「土地の種別」〉 (※4) 「熟成度の高い宅地見込地」とは、宅地への転用可能性が高い土地を意味します。 (※5) 「熟成度の低い宅地見込地」とは、宅地への転用可能性が低い土地を意味します。 財産評価基本通達や固定資産評価基準において「雑種地」に該当する土地が、鑑定評価上、上図のどこに区分されるのかにより、価格水準にも相当の差がみられます。   5 まとめ 以上、相続税の財産評価や固定資産税評価における雑種地の概念と鑑定評価上の土地の種別との関連を対比させながら述べてきました。税務では雑種地という捉え方が常識とされていても、鑑定評価においてはこのような概念はなく、そのためか、不動産鑑定士が地目上雑種地に属する土地につき鑑定評価の依頼を受けた際にも、価格を読むのが難しいと感じることがしばしばあります。 (了)

#No. 595(掲載号)
#黒沢 泰
2024/11/21

《税理士のための》登記情報分析術 【第18回】「乙区の情報の与信管理への活用」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第18回】 「乙区の情報の与信管理への活用」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   本連載でもすでに紹介したが、不動産に関する登記記録の権利部「乙区」には、不動産に設定された所有権以外の権利について登記される。この乙区に記載された情報を分析してみることで、与信管理の観点から有益な情報を得ることができる。   1 企業間取引における与信管理の重要性 企業間取引では、取引相手の支払能力に問題がないか、信用不安が生じるような情報がないかを確認することが求められる。取引先の信用力を調査、管理することを「与信管理」といい、これは業種を問わず普遍的にビジネスに求められる仕事である。 最近ではコロナ禍に行われた実質的な無担保・無利子融資の返済が始まり、低水準に抑えられていた倒産件数が増加傾向にあるとの報道もなされている。税理士のもとにも顧問先から取引先の信用不安等に関する相談が寄せられることもあると思われるが、登記情報も信頼性の高い情報として与信管理に活用することができる。 今回は「乙区」に記載される抵当権、根抵当権を中心とした担保権の情報を与信管理の観点から分析する方法について解説を行う。   2 分析のポイント (1) 担保権が設定されたタイミング 取引の相手方の所有する不動産に、いつ担保権が設定されたかという情報は、信用力の状況を把握するために参考になる。 仮に、自社と取引を開始する直前に担保権が設定されていた場合、少なくとも担保権が設定されたタイミングでは、金融機関が融資を行ってもよいと考えたとも推測することができる。 (2) どのような金融機関が担保権を設定しているのか 乙区には、担保権を設定した金融機関が登記されることになる。どのような金融機関が担保権を設定しているかも有益な情報であり、一般論としては、いわゆるメガバンクが担保権を設定している場合には、所有者である取引先の企業規模や取引の規模も大きいことが窺われる。担保権者がいわゆるノンバンクであるような場合には、銀行や信用金庫よりも高金利の条件で借りていることが予想されるため、与信管理の観点からは注意が必要といえる。 なお、乙区には担保権者となっている金融機関の取引支店も登記されていることが多い。取引相手の返済が滞り、預金口座の差押えが必要になった場合には、相手方の預金口座がある金融機関名と支店を特定すれば差押えが可能となるため、いざというときに役立つ情報である。   3 注意すべき情報 (1) 短期間に複数の担保権が設定されている 短い期間に複数の担保権が設定されている場合は、信用状況が悪化している可能性がある。また、設定の原因を「債務承認契約」や「準消費貸借契約」とする担保権が設定されている場合も要注意である。これらの登記原因で担保権が設定されている場合には、もともと無担保状態で発生していた債権について、債務者側に信用不安が生じたために、担保権を設定したことが窺われるからである。 (2) 個人の担保権者 担保権者が個人である場合も注意をする必要がある。大正時代や昭和の中期頃までであれば、身内や知り合いからお金を借りて、担保権を設定しているという事例を見ることもあるが、金融制度が発達した現代においては、個人が担保権者として登場することは稀だと思われる。特に氏名等から所有者の身内ではないと思われる者が担保権者として登記されている場合は、どのような事情があったのかを調べるとよいだろう。 ※資金調達の選択肢が無数にあるなかで、個人から借入をしている背景を考える必要がある。   4 おわりに どうやって相手方の信用力を調べればよいのかという点について課題に感じつつも、具体的な行動に移せていない中小企業は多いと思われる。登記記録に記載されている乙区の情報は、安価に取得でき信頼性が高いため、有効な信用力調査の手段の1つとして利用できるであろう。正確な与信管理を行うためには、乙区の情報以外にも複数の情報等を収集、分析することが求められるが、最初の1歩として顧問先等に紹介してみてはいかがだろうか。 (了)

#No. 595(掲載号)
#北詰 健太郎
2024/11/21

《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第18回】「まだ間に合う? 60歳から確定拠出年金で資産をつくる方法」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第18回】 「まだ間に合う? 60歳から確定拠出年金で資産をつくる方法」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇老後資金の不足 多くの方が老後に不安を抱えています。最近では、不足する老後資金を定年後からつくるためのノウハウ本などが話題になったりしています。かく言う筆者も先日「初心者でも貯蓄0でも大丈夫! 60歳から得する新NISA&iDeCo」という書籍を監修出版しました。 タイトルを見ると、60歳の時点で貯蓄が全くなくても大丈夫なのかと思ってしまうかもしれませんが、そんなことはありません。書籍を出版しておいて無責任だと思われるかもしれませんが、計算上はなんとかなるとしても、実行しなければ意味がないからです。 60歳で定年を迎え、「退職金もそこそこあるだろう。今後は再雇用で無理せず働き徐々に年金生活になればいいか」「ここまで会社勤めを頑張ったんだ、年金だって贅沢はできないかもしれないが、なんとかなるだろう」と、ざっくり考えている人が少なくありません。しかし、貯蓄が少ない方がこの考えでいると、老後資金が不足してしまう可能性があります。やはりお金を貯めるには、今すぐの行動変容が必要です。   〇老後の生活費 総務省のデータでは、夫婦2人の老後の生活費は月25万円程度と言われたりしますが、暮らし方は人それぞれであり、また年代によって必要な生活費はかなり異なります。ちなみに、東京都に住む定年前の夫婦の生活費は月約47万円だそうです。定年後すぐには「老後の暮らし」とはならないでしょうし、定年後は旅行に行きたい、趣味も楽しみたいと思っているのであれば、それなりに経済的な裏付けが必要です。   〇退職金と再雇用時の収入 多くの方は退職金の額を定年直前まで知りません。「退職金」といっても、一時金の場合もありますし、確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)で一括・分割など受取り方を選べる場合もあります。厚生労働省の「賃金事情等総合調査」によると、大卒者(男性)の定年退職金の平均額は、2011年では2,531万円だったのが、2021年では2,230万円となり、この10年間で約300万円も減少しているそうですから、金額の把握は1日でも早い方がよいでしょう。 定年後は当たり前のように再雇用とおっしゃる方も多いですが、その際収入がどのくらいになるのかも確認しましょう。国税庁の「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、再雇用後の年収は、60代前半で445万円、後半は354万円、70歳以上が293万円とされていますが、自分の数字を把握する必要があります。   〇年金の支給額 「贅沢はできないかもしれないけど、まあまああるだろう」という年金についても、個人差があります。厚生年金の額は現役時代の年収に比例しますが、上限があるので、収入が多かった方ほど受け取れる年金額は相対的に少なくなります。また、1961年4月2日以降生まれの方(男性の場合)からは特別支給の老齢厚生年金がありませんので、年金の支給開始年齢は65歳となります。 特別支給の老齢厚生年金は生まれ年によって支給開始年齢が異なりますが、今年60歳を迎えようとしている方の10年ほど先輩は60歳から受け取っていました。老齢厚生年金の額は月10万円程度が平均値と言われていますから、年間120万円の特別支給の老齢厚生年金を5年分多く受け取っていた先輩方と比べると、600万円ほど年金額が少ないことになります。   〇確定拠出年金の活用 では、「60歳から始める老後資産づくり」とはどうしたらよいのでしょうか。 やはり、今すぐコツコツと積立てを開始するのが王道です。そして徹底的に利用したいのが、「確定拠出年金」です。会社に企業型確定拠出年金(DC)があればそれを、なければ個人型確定拠出年金(iDeCo)を利用します。 なぜ確定拠出年金なのかというと、掛金が全額所得控除になり、運用で得た利益には税金がかからず、さらに受取り時にも税金の優遇措置が受けられるという大きなメリットがあるからです。また、確定拠出年金では投資信託を選択することで、経済成長からの利益を狙います。   〇DCとiDeCoの掛金 DCの場合は、マッチング拠出やiDeCoの併用により、できる限りの掛金を拠出します。2024年12月より、企業年金のある会社に勤務している方のiDeCoの月の掛金上限が拡大され、5万5,000円から会社の掛金を引いた額(ただし2万円が上限)となりました。 例えばDCの会社掛金が1万5,000円であれば、マッチング拠出を利用すると個人が上乗せできる掛金は会社掛金と同額の1万5,000円ですが、iDeCoを利用すれば2万円まで拠出できます。 しかし、DCについては、会社の規約により多くの方が60歳で加入資格を喪失すると思いますので、その場合はiDeCoを活用します。60歳からでもiDeCoに新規加入ができ、厚生年金に加入して働いていれば65歳まで掛金を拠出できます。 企業年金のない会社に勤務する方がiDeCoで積立できる金額は、月2万3,000円が上限です。上限いっぱいまで掛金を拠出しましょう。 よく「投資は無理のない範囲で始めましょう」と金融機関等では言いますが、60歳から資産づくりを行う場合、ある程度は無理が必要になります。   〇運用時のシミュレーション 仮に月々2万3,000円を年利5%で運用できたとすると、5年後の残高は約156万円になります。積立元本は138万円ですから、18万円程度の利益が見込まれます。また、138万円の元本は全額が所得控除になっているので、年収が400万円くらいであれば20万円程度は節税されますから、かなりのメリットといえます。 しかし、この156万円を65歳で引き出して使ってしまうのはもったいないので、75歳まで運用のみを継続します。65歳時点での資金156万円を年利5%でさらに10年運用すれば、およそ250万円まで資金を増やすことができます。この10年での運用益は94万円になりますし、この間得た利益について税金はかかりませんから、20.315%分得をしたことになります。   〇受取時のシミュレーション 75歳になったら、iDeCoの資金を引き出します。一括で受け取ることもできますし、年金のように分割で受け取ることもできます。ただし、75歳からとなると公的年金の受取りもあるので、同時にiDeCoを分割で受け取ってしまうと、税金の負担が増えてしまう可能性が高いです。また、高齢期に課税所得が増えると医療費や介護費の自己負担も増えてしまうので、できるだけ一括受取りを選んだ方がよいかもしれません。 一括受取りの場合、この250万円は退職金として扱われます。60歳からの積立期間5年を勤続年数と読み替えて退職所得控除を計算するので、200万円(40万円×5年分)を差し引くことができます。 250万円から200万円を引くと50万円が残りますが、退職金扱いとなる確定拠出年金の額は課税される前にさらに半分になります。したがって25万円が課税所得です。 この25万円はその他の所得、例えば年金所得とは分離して税金を計算するので、所得税が1万2,500円、住民税が2万5,000円の合計3万7,500円となり、手取りは246万2,500円になります。さらに、この金額は社会保険料の支払対象外ですし、この金額を受け取ったからといって医療費や介護費の自己負担額が上がったりもしません。 確定拠出年金でつくる250万円は、老後資金としては十分ではないでしょう。しかし、行動を起こさなければこれも0円です。 *  *  * 読者の皆様におかれましては、貯蓄が0ということはないでしょう。しかし、もし今まで意識して資産形成に取り組んでこなかった場合は、60歳が行動を変えるラストチャンスなのではないかと思います。参考にしていただけましたら幸いです。 (了)

#No. 595(掲載号)
#山中 伸枝
2024/11/21

《速報解説》 会計士協会が「財務報告に係る内部統制の監査」の改正案を公表~「グループ監査における特別な考慮事項」の要求事項を内部統制監査に導入~

《速報解説》 会計士協会が「財務報告に係る内部統制の監査」の改正案を公表 ~「グループ監査における特別な考慮事項」の要求事項を内部統制監査に導入~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年11月15日、日本公認会計士協会は、「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」に基づく要求事項と適用指針の明確化を行うものである。 意見募集期間は2024年12月16日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 主に次の改正を行うとともに、重複箇所を整理するなど記載内容を整理している。   Ⅲ 適用時期等 2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。 ただし、他の監査人の作業の利用に関する要求事項(90項)及びこれに関連する改正(付録5)は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。また、公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。なお、それ以前の決算に係る連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用することを妨げない。 (了)

#阿部 光成
2024/11/18

《速報解説》 会計検査院、取引相場のない株式等の評価制度の在り方について検討~類似業種比準価額、配当還元価額の評価見直しの可能性~

 《速報解説》 会計検査院、取引相場のない株式等の評価制度の在り方について検討 ~類似業種比準価額、配当還元価額の評価見直しの可能性~   税理士 柴田 健次   会計検査院は令和5年度決算検査報告を作成し、令和6年11月6日これを内閣に送付した。その中で令和5年度決算検査報告の特徴的な案件として「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価」について検査の状況と所見等が公表された。   1 会計検査院の所見 会計検査院は所見として、取引相場の株式等の評価制度について次のとおり示している。   2 会計検査院が今回問題視しているポイント (1) 類似業種比準価額の評価 会計検査院の指摘によれば、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%となっており、類似業種比準価額は、純資産価額に比べて相当程度低い水準になっており、会社の規模区分が大きくなればなるほど評価額が低く算定される傾向にあることが指摘された。 類似業種比準価額は、評価通達制定当時(昭和39年)から数次の改正を経て、純資産価額との乖離が拡大していると思料される。下記のとおり、類似業種比準価額の計算式等の現行制度と評価通達制定当時を比較すると、しんしゃく割合の有無、類似業種の業種目及び類似業種株価の対象期間の選択、利益金額の選択等によって、現行制度の方が低く算定されることになる(【図表1】参照)。 【図表1】類似業種比準価額の計算式等に係る評価通達の主な改正状況 (※) 会計検査院「令和5年度決算検査報告の概要」589頁より抜粋 また、類似業種比準方式及び併用方式が選択されていた延べ590社における配当金額の比準割合(Ⓑ/B)の状況の調査結果によれば、配当金額の比準割合が0であった評価会社の割合は79.4%となっていることが指摘されている(【図表2】参照)。 【図表2】類似業種比準方式及び併用方式が選択されていた延べ590社における配当金額の比準割合の状況 (※) 会計検査院「令和5年度決算検査報告の概要」590頁より抜粋 そして、配当金額を計上していた121社における配当金額の比準割合をみたところ、【図表3】のとおり、配当金額の比準割合が1.0未満であり、類似業種と比べると配当金額の水準が低い会社が75社と全体の61.9%を占めていた。 【図表3】配当金額を計上していた121社における配当金額の比準割合の状況 (※) 会計検査院「令和5年度決算検査報告の概要」591頁より抜粋 さらに、平成30年から令和3年までの配当金額の平均額の推移を確認すると、類似業種の配当金額は増加傾向にあるのに対して、評価会社の配当金額はほぼ横ばいとなっており、配当金額の比準割合は減少している状況となっている(【図表4】参照)。 【図表4】類似業種及び評価会社の配当金額の平均額並びに配当金額の比準割合の平均値の推移 (※) 会計検査院「令和5年度決算検査報告の概要」592頁より抜粋 以上のとおり、類似業種比準価額の計算式については評価額が下がる方向で評価通達の数次の改正が行われてきたこと、その計算式が評価会社の業績等の実態を踏まえて株式を評価する方法として適切に機能していないおそれがあることなどが問題になっている。 また、評価会社の規模が大きい区分ほど純資産価額に比べて申告評価額が低くなる状況について、国税庁は、当該乖離を考慮して、会社の規模区分を変えるための操作や、特定の評価会社の要件に該当しないようにするための操作をするなどして、税負担の軽減を図る納税義務者が現に存在するとしている。 (2) 配当還元価額の評価 配当還元方式では、評価会社の株式を保有することによって受ける利益である年配当金額を還元率で割り戻すことなどにより、その元本である株式の評価額が決定される。例えば、年配当金額が100円で還元率が10%の場合の評価額は1,000円となるのに対して、年配当金額が100円 で還元率が5%の場合の評価額は2,000円となる。このため、年配当金額が同額の場合、還元率が高くなるほど株式の評価額は低くなる仕組みとなっており、還元率の値はその評価額に大きな影響を与えることになる。 還元率を10%に設定していることについて、国税庁は、昭和39年の評価通達制定当時の金利等を参考とし、評価の安全性を図ることも考慮して設定したものであるとしている。そこで、金利等の状況について、評価通達が制定された39年以降の長期国債の流通利回り及び応募者利回りの推移をみたところ、【図表5】のとおり、40年代及び50年代は約6%から約10%までの間で推移し、その後、長期的に低下して、平成10年以降はほぼ2%以下で推移していた。 しかし、我が国の金利の水準が長期的に低下してきている中、還元率は、評価通達の制定以降、見直されていない。 【図表5】長期国債の流通利回り及び応募者利回りの推移 (※) 会計検査院「令和5年度決算検査報告の概要」593頁より抜粋 配当還元方式の還元率は、評価通達の制定当時の金利等を参考にしたものであること、長期国債の流通利回りなどの金利の水準が長期的に低下してきている状況等を踏まえると、10%の還元率は、社会経済の変化に応じたものとはなっておらず、評価の安全性を考慮しているものであるとしても、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれがある。このため、これに基づいて算定される配当還元方式による評価額は評価通達の制定当時と比べて相対的に低くなっているおそれがあると思料される。   3 評価通達の改正の必要性について 非上場株式の最近の裁判例や裁決においては、評価通達による評価額と時価との著しい乖離が問題視されており、特に類似業種比準価額による評価額が時価に対して低すぎることが問題になっている。 例えば、東京地裁令和6年1月18日判決(TAINSコード:Z888-2556)は、相続人が相続により取得したО社株式(21,400株)の評価について、納税者が評価通達に基づく類似業種比準価額として1株当たり8,186円で評価したのに対して、課税庁は、評価通達により評価することが著しく不適当として、評価通達6項(以下「総則6項」という)に基づく株価として1株当たり80,373円(大手アドバイザリー会社作成の株式価値算定報告書に基づき算定)と評価し、更正処分等を行ったことに対して、請求人が、原処分の取り消しを求めた事件である。 本件においては、被相続人が相続開始の直前においてV社との間でО社株式を1株当たり105,068円で譲渡する基本合意の締結が行われており、その直後に相続があり、相続人が上記の基本合意価額105,068円で譲渡したことが問題になっている。 東京地裁では総則6項の適用はないものとして納税者が勝訴しており、東京高裁においても令和6年8月28日の判決で納税者が勝訴しているが、類似業種比準価額と相続税法22条における時価との著しい乖離があるとされた事件として非上場株式の評価のあり方が検討されるべき事案として捉えることもできる。 また、配当還元価額もその評価が低すぎることから配当還元価額の適否を巡って争われる事件が少なくない。例えば、東京地裁平成16年3月2日判決(TAINSコード: Z254-9583)は、配当還元価額の趣旨について、「通達の趣旨は、通常、いわゆる同族会社においては、会社経営等について同族株主以外の株主の意向はほとんど反映されずに事業への影響力を持たないことから、その株式を保有する株主の持つ経済的実質が、当面は配当を受領するという期待以外に存しないということを考慮するものということができる。」とし、支配力がある株式に対しては原則的な評価方式が採用されるべきであるとして、配当還元価額の適用を否認した事件である。 総則6項の適用の在り方と評価通達の適正化については別の問題であるにせよ、総則6項が著しい乖離を要因として適用されることから評価通達の適正化は、著しい乖離を抑止するものとして必要不可欠になるといえる。 一方で、評価通達の改正により非上場株式の評価の見直しがされることにより円滑な事業承継が阻害されると危惧されるが、評価の問題はあくまでも相続税法22条における時価の問題となるため、評価会社の業績等の実態を踏まえて非上場株式の評価を適切に反映する必要があるといえる。非上場株式の評価自体は、相続税法22条における時価として適切な評価となるように通達改正を行い、事業承継の問題については、租税特別措置法として税制優遇で対応する必要がある。現行の法人版事業承継制度については、株価が相当高い中小企業者のみにしか利用されていない実情も踏まえると、評価通達の改正とともに法人版事業承継税制の見直しも必要なものと思料される。 (了)

#柴田 健次
2024/11/18
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