《速報解説》 会計士協会、「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」、「監査報告書の文例」及び「監査報告書に係るQ&A」の改正案を公表 ~「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」等を受け、電子化等を進める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年7月26日、日本公認会計士協会は、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」における公認会計士法の改正を受けて、次の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、2021年5月19日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」における公認会計士法の改正並びに2021年5月20日に金融庁から公表された「公認会計士法施行規則(案)」、「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令(案)」及び「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令(案)」を受けたものである。 これらの法令の改正により、監査報告書等(監査報告書、中間監査報告書又は四半期レビュー報告書)への自署、押印を求めている規定は署名のみに変更され、さらに監査報告書等の交付を署名された書面に代えて、電磁的方法、すなわち電子化された監査報告書等によって行うことができることとなる。 公認会計士法の改正は2021年9月1日から施行される。 適合修正の対象となる監査基準委員会報告書についても示されている。 上記①及び②の意見募集期間は2021年8月9日までである。 また、上記③の意見募集期間は2021年8月26日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査基準委員会報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」 主に次の改正が提案されている。 改正後の監査基準委員会報告書700は、2021年9月1日から適用する予定である。 Ⅲ 「監査報告書の文例」(監査・保証実務委員会実務指針第85号) 主に次の改正が提案されている(項番号は改正案のもの)。 改正後の監査・保証実務委員会実務指針第85号は、2021年9月1日以後に提出する監査報告書から適用する予定である。 文例14の連結計算書類(会社計算規則第120条第1項後段の規定により指定国際会計基準又は同規則第120条の2第3項において準用する同規則第120条第1項後段の規定により修正国際基準で求められる開示項目の一部を省略して連結計算書類が作成されている場合)に対する監査報告書については、2021年12月31日以後終了する連結会計年度に係る監査報告書から適用する予定である。 Ⅳ 「監査報告書に係るQ&A」(監査基準委員会研究報告第6号) 監査報告書について、「自署・押印」から「署名」へ改正する(Q1-1、Q1-4)。 電磁的方法によって監査報告書等を作成することが可能となる予定であることから、「監査報告書の電子化に関するQ&A」として次の事項を記載している。 (了)
《速報解説》 会計士協会、収益認識基準適用に伴う 消費税等の会計処理について注意喚起を行う 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年7月26日、日本公認会計士協会は、「収益認識基準適用に伴う「消費税の会計処理について(中間報告)」の取扱いについて(お知らせ)」を公表した。 消費税の会計処理に関する会計方針の変更の取扱いについて注意喚起するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)が適用されている。 同会計基準等の適用に際して、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の会計処理について、次の注意喚起を行っている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2021年7月21日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.429を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第4回】 「課税要件明確主義と立法者の説明責任」 -ホステス報酬源泉徴収事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 今回は、租税法律主義(形式的租税法律主義)の要請のうち課税要件明確主義に関してホステス報酬源泉徴収事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁(以下「本判決」という)を取り上げる。 本判決は、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」と判示し、税法の解釈に関する厳格解釈の要請ないし文理解釈の原則(拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)【44】参照)を確立したものとして高く評価されているが(差し当たり、佐藤英明「最高裁判例に見る租税法規の解釈手法」山本敬三=中川丈久編『法解釈の方法論-その諸相と展望』(有斐閣・2021年)341頁、347頁参照)、以下では、本判決が立法者の説明責任の問題を浮かび上がらせた点に着目し、本件に即してこの問題を検討することにする。 その前に、課税要件明確主義と立法者の説明責任との関係という観点から、特に不確定法概念の解釈の文脈で租税法規の趣旨・目的の重要性について述べておこう。 Ⅱ 課税要件明確主義と不確定法概念の解釈 租税法令はその規定の中で「正当な理由」(税通65条4項等)、「必要があるとき」(同74条の2第1項等)、「著しく低い価額」(所税40条1項2号等)、「不相当に高額」(法税34条2項等)、「不当に減少させる」(同132条1項等)など多くの不確定法概念を使用している。このことは、税法が私的経済活動の上に建てられた「家」のようなものであること(前掲拙著【2】の図、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第50回】参照)から、その基礎にある私的経済活動の複雑多様化に対応し、そのときどきにおいて税収の確保及び租税負担の公平を図るために、やむを得ない面もある。いわば「税法の宿命」といってもよかろう。 それ故、税法における不確定法概念については、それが一見すると不明確であるようにみえても、それを用いる規定の趣旨・目的に照らして、その意味を明らかにすることができるのであれば、一見不明確の一事をもって直ちに、その使用が課税要件明確主義に違反するとまではいえないというような定式(以下「不確定法概念解釈定式」という)が、下記の判例も示すとおり(③-1は③-2[下線筆者]でそのような判例として参照されている)、一般に承認されているとみてよかろう(前掲拙著【33】参照)。 ただ、不確定法概念解釈定式については、租税法令が不確定法概念を使用する場合において当該規定の趣旨・目的を明らかにすることができることが、その成立の前提となっていることを忘れてはならない。換言すれば、立法者が当該規定の趣旨・目的について説明責任を十分に果たしているといえなければ、不確定法概念解釈定式は「空虚な決まり文句」になってしまうおそれがあると考えられるのである。 そこで、以下では、租税法規の趣旨・目的に関する立法者の説明責任について、本件における本判決と原審・東京高判平成18年10月18日民集64巻2号487頁(以下「原判決」という)に即して検討することにする。 Ⅲ 租税法規の趣旨・目的に関する立法者の説明責任 1 本判決と原判決における基礎控除方式の趣旨・目的の「捉え方」 本件では報酬・料金等に係る源泉徴収(所税204条)の徴収税額(同205条)に関する「当該支払金額の計算期間」(同令322条)の意義が争われたが、まず、その意義に関する本判決(①)と原判決(②)の判示(下線筆者)におけるホステス報酬源泉徴収に係る基礎控除方式(以下では単に「基礎控除方式」という)の趣旨・目的の「捉え方」をみておこう。 上記の②において原判決は「法におけるホステス報酬等の源泉徴収制度の趣旨・目的」に関するその「原判決」(東京地判平成18年3月23日民集64巻2号453頁)の説示を引用しているが、それは次のとおりである(下線筆者)。 2 基礎控除方式の趣旨・目的に関する立法者の説明責任 このように、本判決と原判決とでは、基礎控除方式の趣旨・目的の「捉え方」が異なることは明らかであるが、その原因は、直接的には、その趣旨・目的の把握に関する裁判官の方法論の違いにあるとしても、突き詰めると、立法者がその趣旨・目的に関する説明責任を十分に果たしてはいなかったことにあると考えられる。 まず、法規の趣旨・目的の把握に関する裁判官の方法論について、要件事実論的思考に基づき、次のような興味深い見解(河村浩「要件事実論における法律の制度趣旨把握の方法論-租税特別措置法35条1項の『居住の用に供している家屋』(譲渡所得に関する特別控除)の要件事実の分析を題材として」伊藤滋夫=岩﨑政明編『租税訴訟における要件事実論の展開』(青林書院・2016年)41頁、52-53頁。下線筆者)が示されている。 この見解に従って基礎控除方式の趣旨・目的について検討すると、本判決は「立法当時の立法者意思」を、原判決は「あるべき制度趣旨」をそれぞれ採用したものと解される。とはいえ、原判決が基礎控除方式の趣旨・目的について、「民主制の原理」すなわち租税法律主義(課税要件法定主義)を尊重しつつも、なぜ「立法当時の立法者意思によったのでは不合理となる例外的な場合」とみて「あるべき制度趣旨」を採用したのかを考えると、内容的な不合理さも問題になり得るとしても、何よりもまず、「立法当時の立法者意思」を明確に示す資料が見出せなかったからではないかと考えられる。本判決も「立法担当者の説明等からうかがわれる」(下線筆者)という控えめな表現でしか「立法当時の立法者意思」を認定していないように思われる(この点については後記3も参照)。 そうすると、結局のところ、本判決と原判決とで基礎控除方式の趣旨・目的の「捉え方」が異なったのは、立法者がその意思を明確に示す説明責任を十分には果たしていなかったためであると考えるところである。この点について、次の指摘(田中治「租税訴訟において法の趣旨目的を確定する意義と手法」伊藤滋夫編『租税法の要件事実〔法科大学院要件事実研究所報第9号〕』(日本評論社・2011年)127頁、129頁)は、本件においても、正鵠を射たものである。 要するに、基礎控除方式の趣旨・目的に関する立法者の説明責任の不十分さが、本判決と原判決によるその趣旨・目的の「把握」の違いに、ひいては結論の違いに帰結したといっても過言ではなかろう。 3 【補論】本判決と原判決における基礎控除方式の趣旨・目的の「使い方」 なお、以上で述べたことに関連して、本判決と原判決における基礎控除方式の趣旨・目的の「使い方」の違いについても、簡単に触れておきたい。 一般に、法規の趣旨・目的の「使い方」には、①文理解釈の「実質的正当化」と②目的論的解釈の「手段」という2通りの「使い方」があると考えられるが、①については、法の解釈に関する下記の「富士山理論」(長尾龍一『法哲学入門』(講談社学術文庫・2007年)171-172頁。下線筆者)の説くところが妥当するであろう。 本判決は、前記1でみたとおり、「当該支払金額の計算期間」にいう「期間」という文言について「一般に、『期間』とは、ある時点から他の時点までの時間的隔たりといった、時的連続性を持った概念である」という解釈を示したが、この文理解釈によって明らかにされた「期間」の意味は、その文言の「中心的意味」であり、特段の「実質的正当化」を必要としないように思われる。本判決が、「立法担当者の説明等からうかがわれる」(下線筆者)という控えめな表現でしか「立法当時の立法者意思」を認定していないのは、そのためではないか(それで事足りると判断したからではないか)とも考えられる。 これに対して、原判決は、基礎控除方式の趣旨・目的を前記②目的論的解釈の「手段」として使用し、もって「期間」という文言の上記の「中心的意味」とは異なる意味でその文言を解釈している。このような「目的論的解釈」は、「文言だけからはある解釈問題のきめ手を導きだせず、文言だけからはいくつかの解釈の可能性が考えられるような場合等においては、当該法条の趣旨・目的を参酌して解釈をしなければならない」(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁)と説かれる場合の目的論的解釈、すなわち、「文理解釈の補完としての目的論的解釈」(前掲拙著【45】)ではなく、租税法律主義の下での厳格解釈の要請ないし文理解釈の原則に反し、許されない。もしそのような「目的論的解釈」が許されなければ「不合理な結果」が生じるとしても、三権分立制の下では、裁判所は解釈論の限界を認めるにとどめ、国会が自ら立法権を行使してその「不合理な結果」を除去すべきである(前掲拙著の目下改訂作業中[初校ゲラ段階]の「第7版」[今秋刊行予定]【44】参照)。 Ⅳ おわりに 以上で、課税要件明確主義と立法者の説明責任との関係という観点から、不確定法概念解釈定式について租税法規の趣旨・目的の重要性を確認した上で、本判決と原判決との比較を通じて、租税法規の趣旨・目的に関する立法者の説明責任の問題を検討してきた。 この問題は本件特有の問題ではなく、広く租税立法を含む立法一般についてみられる問題であると考えられる。租税立法に限ってみても、内閣が国会に提出するのは法律案(毎年度の税制改正法案等)のみであり、これとともに逐条的な立法理由書が提出されることはないし、国会の側からそのような立法理由書の提出を内閣に求めることもない。せいぜい国会審議の過程で法律案に対する質問が出されればそれに対する答弁の中で立法理由が「断片的に」述べられるにとどまっている。 「質問されれば答える」式の審議では、国会が法律案の審議を通じてその内容について国民に対する説明責任を果たしているとはいえない。税制改正法案について財務省がこれを作成する際には「当然のこととして」条文ごとに理由を検討しているはずであるから、国会としては、せめて「税制改正の解説」(財務省Webサイト)や『改正税法のすべて』(大蔵財務協会)の中で述べられている程度の改正理由(改正規定の趣旨・目的)を記載した「逐条的立法理由書」の提出を内閣に求め、法律案とともに審議に供するべきである(酒井克彦「我が国における租税回避否認の議論」フィナンシャル・レビュー126号(2016年)141頁、172頁脚注128も参照)。 そうすることによってこそ、国会が法律規定の制定に当たってその趣旨・目的を踏まえた審議(そのような審議の例として、ドイツの例であるが、拙著『租税回避論』(清文社・2014年)第4章第2節[初出・2008年]参照)を行うことが可能になり(複雑難解な税制改正法案を「逐条的立法理由書」なしに理解し審議することは如何に「国会議員」といえども「至難の業」であろう)、議会制民主主義の「実質化」を図ることができるとともに、国民も行政も裁判所も、制定された法律規定について、文理解釈の補完として、国会の権威に裏打ちされた「有権的趣旨・目的」を基準とする目的論的解釈を行うことが可能になり、税法の解釈適用の「適正化」に資することになると考えるところである。 最後に今回の主題に話を戻すと、立法者が以上のようにして説明責任を十分に果たすならば、不確定法概念解釈定式が「空虚な決まり文句」に堕することなく、不確定法概念を用いる規定についても課税要件明確主義が実現されることになろう。 (了)
これからの国際税務 【第26回】 「国際課税に関するG20大枠合意」 千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二 1 G20財務相・中央銀行総裁会議の模様 7月9日から10日にかけてイタリアベネチアで開催された表記会議のコミュニケは、同会議はOECD/G20の包摂的枠組みが7月1日に公表した2つの柱からなる国際課税に関する新ルールの大枠に関する声明を承認した、と発表した。同会議は、さらに、「多国籍企業の利得の再配分と効果的なグローバルミニマム税」を内容とする同提案につき、包摂的枠組みに対して、10月のG20の本会合までの間に、残された課題に迅速対応するとともに、合意された枠組み内で、当該案の設計要素をその詳細な実行計画込みで最終決定するよう求めている。 本稿は、承認された7月1日公表の上記声明の内容を紹介するとともに、今後の展開の見通しを予測するものである。 2 包摂的枠組みによる7月1日公表の2つの柱案に関する声明 (注) OECDから本件G20会議に提出された報告書では、上記声明案について、139ヶ国からなる包摂的枠組み参加国のうち、7月5日現在で131ヶ国が合意していると注記している。報道によれば、未合意の8ヶ国中には、低税率国のアイルランド(12.5%)やハンガリー(9%)が含まれているとのことである。 (1) 第1の柱(デジタル経済への課税ルールとしての利益Aの創設等) (2) 第2の柱(グローバルミニマム税の創設等) 3 若干の予備的考察 2015年のBEPS最終報告書で宿題として残されたデジタル経済に対応した国際課税ルールの大枠合意が、2つの柱の改革として、6年の協議を経てついに達成された。新ルールは、「PEなければ課税なし」と「比較対象に基づく独立企業原則」という伝統ルールに抜本的な見直しを行うパッケージとなった。なお、合意枠組みは、バイデン政権の協議復帰を契機として、特に第1の柱について100社グループに適用対象を絞るなど昨年10月の青写真構想に比べて適用対象の再編成が行われている。 政府にとっては、法人税率引下げ競争に歯止めをもたらしつつ、コロナ禍での財政需要にも貢献し、企業にとっては、伝統的ルールの下での予測可能性衰退状況を改善し、さらには、生産国・市場国間や先進国・途上国間での税収の不公平配分の懸念にも答えた今回の合意は、歴史的な成果とも評価できるものであり、G20のリーダーシップが称賛されるであろう。 ただし、上記2で見た通り、政治判断や技術的分析を要する主要項目のいくつかは、10月のG20会合まで結論が引き延ばされた。政治的判断では、グローバルミニマム税の最低税率について、低課税国と「15%以上」を強調する米国との間での協議が難航しそうであるし、優遇税制に頼ってきた途上国に対し、セーフハーバーの制度設計如何も課題となる。また、第1の柱についても、本合意により撤廃が予定されている1国限りのデジタルサービス税とのスムーズな交替のための経過措置が、課題として残っている。”So far, So good”として、これから10月までの包摂的枠組み国間での協調の行方から目が離せない。 (了)
令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】 「研究開発税制の拡充(その2)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 2 中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制) 3 特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型) 連結納税制度において、上記の見直し以外にも、単体納税制度と同様に、試験研究費のうち研究開発費として損金経理をした金額で非試験研究用資産の取得価額に含まれるものを税額控除の対象に加えるなど試験研究費の範囲の見直しが行われている(新措法68の9⑧一)。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例100(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税(消法8①) 輸出物品販売場を経営する事業者が非居住者に対し、免税対象物品の譲渡を行った場合には、当該物品の譲渡については、消費税を免除する。なお、当該物品の譲渡を免税とするためには、次のすべての要件を満たす必要がある。 ◆輸出物品販売場の種類 輸出物品販売場には、販売場を経営する事業者自身がその販売場においてのみ免税販売手続を行う「一般型輸出物品販売場」と、その販売場が所在する商店街やショッピングセンター等の特定商業施設内に免税販売手続を代理するための設備(免税手続カウンター)を設置する事業者が、免税販売手続を代理する「手続委託型輸出物品販売場」の2種類がある。 ◆一般型輸出物品販売場の許可に関する手続き等(消令18の2、消規10) 輸出物品販売場を経営する事業者は、「輸出物品販売場許可申請書(一般型用)」に以下の書類を添付して、その納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。 税務署長は、上記申請書の提出があった場合には、遅滞なくこれを審査し、許可又は却下する。 ◆一般型輸出物品販売場の許可要件 一般型輸出物品販売場としての許可を受けるためには、次の要件のすべてを満たす必要がある。 ◆営業譲渡があった場合 輸出物品販売場とは、一定の要件を満たす課税事業者が経営する販売場で、事業者の納税地の所轄税務署長の許可を受けた販売場をいう。このため、輸出物品販売場を経営する事業者が異なることとなる場合には、改めて納税地の所轄税務署長の許可を受ける必要がある。 したがって、輸出物品販売場の営業譲渡を受ける法人が、「輸出物品販売場許可申請書」を、営業譲渡を受ける法人の納税地の所轄税務署長に提出し、改めて輸出物品販売場としての許可を受ける必要がある。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第7回】 「地目の認定について異議のある納税者が固定資産評価審査委員会を経ずに直接異議申立てを行った判例」 税理士 菅野 真美 ▷固定資産税の登録価格に不服がある場合の納税義務者のとれる救済方法 固定資産税は、毎年3月31日までに価格等が決定されて固定資産課税台帳に登録され、その後、固定資産の所有者の元に納税通知書が送られてくる。この納税通知書には、固定資産税評価額、課税標準額、税率、税額、納期、各納期における納付額等が記載されている。 これらの事項について疑問がある場合、納税者のとれる救済方法については、その不服の内容によって2つあり、納税者は、納得できない場合は期限までに決められた対応をしないと不服が受け入れられないことになる。 この2つとは、固定資産課税台帳に記載された登録価格(以下「固定資産の価格」という)と、固定資産の価格以外の記載事項や賦課処分である。 固定資産の価格に不服がある場合は、原則的には、公示の日から納税通知書の交付を受けた日後3ヶ月を経過する日までの間に固定資産評価審査委員会への審査の申出ができる(地方税法第432条第1項)。申出を受けた日から30日以内に審査決定し(地方税法第433条第1項)、決定のあった日から10日以内に通知しなければならない(地方税法第433条第12項)。そしてこの決定に不服がある場合は、取消しの訴えを提起することができる(地方税法第434条第1項)。 ただし、固定資産の価格について訴えることができるのは、固定資産評価審査委員会への審査の申出を行い、その決定の取消しの訴えによることに限定されている(地方税法第434条第2項)。 ▷固定資産税評価額が決まるまでのプロセス 固定資産税の評価額の算定については固定資産評価基準に基づく。固定資産評価基準第1章第1節によると土地の評価の基本は次のようになる。 つまり、まず、地目が何かを認定して、地目ごとに定められた評価方法により算定していくことになる。 それでは、地目の認定について異議のある納税者が固定資産評価審査委員会を経ずに直接異議申し立てた事案について検討する。 ▷どのような事案か この事案の経緯は以下のようになる。 ▷原告(X)の主張と争点 原告(X)は、次のように主張した。 ▷裁判所の判断 裁判所は、被告(岡山市)の主張にほぼ沿った次のような理由から納税者の請求を棄却した。 また裁判所は、以下のように言及している。 このように、課税地目の認定は固定資産の価格と密接に結びついたものであるから、不服がある場合は、納税通知書の交付を受けた日後3ヶ月を経過する日までの間に固定資産評価審査委員会への審査の申出をしなければ、納税者の請求は認められない。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第39回】 「従前の土地の隣地を取得している場合」 -敷地のうちに所有期間の異なる部分がある場合- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、10年前に土地(200㎡)を購入し、同年中に家屋を建築しました。 4年前に、隣地(80㎡)を購入して、従前の土地と共に居住の用に供していましたが、本年になってこれらの土地及び家屋を売却しました。 譲渡物件に係る所有期間5年超以外の他の適用要件が具備されている場合に、Xは、その譲渡の全部について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 10年前に取得した土地(200㎡)及び家屋が、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用対象となり、4年前に取得した隣地(80㎡)は適用対象となりません。 ●○●○解説○●○● 居住の用に供していた家屋と共にその家屋の敷地の用に供されている土地等の譲渡があった場合において、その土地等のうちに、その年の1月1日における所有期間が5年を超える部分のみが、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用対象となります(措法41の5⑦一)。 したがって、本事例の場合、4年前に取得した隣地は、当該特例の適用対象となりません。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡資産の所有期間に係る5年超要件が同様に定められています(措法41の5の2⑦一)。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第58回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (2) 法人税基本通達2-2-16(前期損益修正) 法人税法施行令18条の2の条文を確認する前に、法人税基本通達2-2-16(前期損益修正)と国税庁の解説に目を通しておく。 同通達は次のとおり定める。 資産の販売等に係る収益の額を益金の額に算入した後の事業年度において、契約の解除又は取消し、返品等の事実により、事後的に、対価の額に変動が生じた場合でも、この通達によれば、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、遡及せずに、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入することになる。 一度、売り上げたのに、後で契約解除となった、返品されたというような事実が発生した場合に、遡及せずにその事実が生じた事業年度で損失処理するということである。平成30年度改正に伴う改正前の通達では、これらの事実の中に「値引き」も含まれていたが改正後の通達では削除されている。 では、改正後の通達ではなぜ「値引き」が削除されたのか。 それは、「値引き」に関する取扱いが別途、法令や他の通達で明らかにされたからである。 上記通達の趣旨について、国税庁は、次のように説明している(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」98~99頁参照)。 上記説明によれば、法人税法施行令18条の2について、国税庁は、次のように整理していることがうかがわれる。 【国税庁による法人税法施行令18条の2の整理】 (了)